第七話 クロス・オーバー





閃光が爆ぜる。
俺の抜き放ったロシュセイバーと、目の前の黒いヒュッケバインの”ロシュセイバー”。
まったく同じ輝きの刃がぶつかり合い、均衡を生む。

『また、お前か』

その言葉には、うんざりとした感覚が込められていた。

「それはこっちの台詞だっ……!何処からでも沸いてきやがって……!!」
『我が主の意向ならばやむなしだ』

言葉のやり取りを交わしている間に、コックピットのレッドランプが点灯し、機体状況が知らされる。

『限界突破により、出力10%低下。なおも低下中』

「……ちっ!!」

まったく同種の攻撃だが、出力の桁違い加減は相変わらず埋めきれない。
このまま均衡が続けば、こちらが不利になるのは明らかだ。

だが、この状況は経験済みだ。
だから、対策は考えてある。

「ならっ……!!」
『!?』

ロシュセイバーの出力を一旦切る。
閃光の刀身が消滅する……その瞬間。
当然、今まで向いていた力の方向が変わらない以上。
黒いヒュッケバインの機体バランスが崩れる。

即座に姿勢制御スラスターで体勢を立て直すが……

「遅ぇっ!」

その一瞬があれば十分だった。

再び生み出した刃で『ヒュッケバイン』を薙ぐ。
だが。

『無駄だ』

振りぬいた刃はあっさりとフィールド……グラビティテリトリーによって弾かれた。

「くっそ……反則だろっ!?」

反動で、今度はこっちが体勢を崩す。
その隙を奴が見逃すはずもなく、奴が赤いメインカメラが凶悪な意志を映す……!!

「させるか!」
「させないっ!」

北川のSR−1、名雪のゲシュR・βのライフルから放たれた二筋の光の弾丸。
こちらへの攻撃に集中していた『ヒュッケバイン』はその攻撃を避けられず、直撃を受けた。

それはグラビティテリトリーを破りはしなかったが『ヒュッケバイン』の動作を封じるには十分な攻撃だった。
衝撃が奴の機体を揺らし、弾き飛ばす。

その瞬間、その隙を皮切りに、ロンドベル隊が一斉に動き出す。

(く……!)

操縦桿を握る手が汗ばむ。
上げようとした声を、必死に留める。

正直、一対一で戦いたいと思った。
だが、現状では一対一で勝つことはできない。
勝てないということは、あの戦艦を、皆を危険に晒すという事だ。

今は、復讐よりも優先させるべき事がある。

ぎっ……と歯が鳴るのを聞き取っていたし、自覚していたが、俺はそれを堪えて戦場を見据えた。
再び隙が生まれる、その瞬間を狙って。

ロンドベル隊の攻撃の嵐。
さしもの『ヒュッケバイン』も完全に避ける事はできない。

ナデシコから降り立ったMS隊の援護攻撃で動きが止まる。
そこに。

「破邪剣征、極意・・・!!桜花爛漫!!」
「ゲッタービームッ!!」

さくらの光武・改、竜馬さんのゲッター1の必殺武器……その二つの光が解き放たれる……!

『ムッ!!』

奴はそれをグラビティテリトリーを展開する事で防ごうとするが……!

「ブレストファイヤー!!」
「落ちろっ!」

反対方向からマジンガ−Zのブレストファイヤー、Zガンダムのハイメガランチャーが浴びせ掛けられ……!

「ドリル!」
「ブースト!」
『ナックル!!』

さらには、栞と香里のグルンガスト弐式・改のドリルブーストナックルが上方から突き刺さる……!!

『……さすがに数は馬鹿にならないな……!』

男のその言葉が響いた瞬間。
出力の限界か、防御力の限界か、グラビティテリトリーが砕け散る……!!!

「ここだっ!!!!!!」

奴は突き破った攻撃を捌くので手一杯。
それでも、攻撃を避けるのは恐ろしい限りだが、それは隙以外の何物でもない。

そして、その勝機を見逃すほど、俺はボケてはいない。
腰のラックからブラスターキャノンを抜き放つ!!

『!!』

『……グラビコンシステム接続完了。モード切替。重力砲モードへ移行完了』

「くらえっ!!!」

最大出力で空に放った一撃。
それはグラビコンシステムとの連動により放たれる超高密度重力の塊……それすなわち!

「ブラックホールキャノンっ!!!」
『チ……!!』

黒の一撃が『ヒュッケバイン』を飲み込み、黒い閃光が広がっていく。
男の微かな焦燥の声で、それは回避不可能な一撃だった事を確信する。

だが、その代償は大きい。

『……出力135%。機体臨界点突破。一時冷却開始。機動一時停止』

このブラックホールキャノンは試作型で、こうなることはテスト段階でも分かっていた。
そもそも、機体設計として『ゲシュペンスト』ではグラビコンシステムに合わないのだ。
それが使えるだけでも大したものなのに、ブラックホールキャノンという禁じ手を使えば……どうなるか。
分からないはずはなかった。
とはいえ……

(それもやむなしだろ……)

あの隙に最大の攻撃を行わないのは、判断としては間違っているだろう。
だが、最低限のシステム以外が停止した今、もし、奴がまだ動く事ができたら……

唾を飲み込みながら、虚空を見上げる。
それは俺だけではなく、ロンドベル隊の全員そうだったはずだ。

黒い光が収まった後、そこには。

『……驚いたな』

一部パーツを破損させながらも。

『……いかにロンドベル、いかにEOTの一撃とは言え、完全防御モードのグラビティテリトリーを破り、この機体にダメージを与えるとはな』

火花を散らす部分がありながら、いまだ原形を留める『ヒュッケバイン』の姿があった。

「……なんて機体だ……」
「冗談じゃないぜ……」

大神と俺の掠れた声が零れ落ちる。
はっきり言って、今の連携は現状のロンドベル隊最高のものだったはずだ。
これで、このざまでは……

さらに言えば同じ事はできないし、通用しないだろう。
そんなに甘い奴じゃない事だけは嫌と言うほどに分かる。

だが……!

「へっ上等だ!こうなりゃありったけの力を叩き込むだけだぜ!!」

甲児さんの言葉。
それは俺の考えていた事と同じだった。

目の前にいるのは倒すべき敵。
そして、死なない限り負けはない。

「よし……!!」

俺は全システムを一秒でも速く起動できるように、動作系の処理を速めようとコンソールに手を伸ばした。
だが、そこに予想外の言葉が響いた。

『……こちらとしてはそれに応えたい所だが、これ以上の戦闘は危険と判断する』
「なに?!逃げるのかよっ!?」

その言葉が意味する所を理解して、俺は叫んだ。
暫しの沈黙がそこに生まれる。
何も答えない……そう思っていたのだが……

『そう吠えるな、相沢祐一。お前がその機体に乗る限り、何度でも戦う事になる』
「……お前……?」

意外にも、男はそう返した。

『EOT兵器がこの世界にある限り、この世界の動乱が終る事はない。ゆえに、破壊しなければならないのだから』
「どういうことなんだよ、おい!!」

俺の問いにそれ以上答える事無く、黒いヒュッケバインは転移の闇の中に消えていった。

「…………逃がした、か」
「違うわね、相沢君。命拾いしたのよ」

香里の声が通信スピーカーから流れ落ちる。

悔しいが……紛れもない、現実だ。
勿論、全力は尽くすつもりでいた。
だが、冷静に、客観的に現実を見れば……良くて相打ち、悪ければこちらの敗北だっただろう。

「違う。……逃がしたんだよ」

でも、それに同意したくなかった。
同意すれば、それは負けになる。
子供じみた考え方であると分かっていても、あの男に負けるという事実を認めたくなかった。

「ともかく、この場はどうしようもあるまい」
「ですね」

クワトロ大尉の言葉に、栞が同意した。
……そしてまた、それも事実だ。

「ふうぅぅ……」

限りなく溜息に近い息を吐いて、気を落ち着かせる。
とりあえず、ここで駄々をこねても仕方がない。
次に遭遇した時、必ず倒す……そう思う事で納得する事にした。
……少なくとも、この場は。

「さて、それじゃあ」

とりあえずの目標だったナデシコに注意を向けた。

「…………………って、おい」

気がつけば。
戦闘のどさくさに紛れてか、ナデシコは海上の彼方……少なくとも戦闘圏内から姿を消していた。

……弘法も筆の誤りと言うべきか。
黒いヒュッケバインに気を取られていて、皆気付かなかったらしい。
と、そこに通信回線が開き、あの女艦長の顔が浮かび上がった。

「みなさーん。私たちは火星に行ってきますんで、後の事はよろしくお願いしますね」
『な…!』

全回線を開いた上でのその発言に、皆は呆気に取られた。
それを全然気にする様子もなく、彼女は尚も言った。

「申し訳ありませんが、これは軍艦じゃないんで一緒に行動するのはご遠慮させていただきますね。
また縁が会ったらお会いしましょう。それではっ」

見事なまでに鮮やかに回線が切られ。

その頃には、ナデシコはレーダーの索敵範囲外……この辺りはミノフスキー粒子が薄く、辛うじて使用可能だった……にまで到達していた。

それはまさに電光石火で、その行動の速さについていけるものはいなかった。

「なかなかのものだなー、あの子」
「北川、感心してる場合か」

言いながらも。
俺達には、彼女達が去っていく姿を見送る事しかできなかった。







時と所が変わって、熊本。

「というわけで、先日の戦闘ですでに顔を合わせた方もいるとは思いますが、紹介しましょう」

そう言って眼鏡を上げる善行の横にはパイロットスーツを着た舞と佐祐理が立っていた。
自分達のPTの整備をしていたのか、所々少し汚れていた。

第5121独立駆逐戦車小隊のプレハブ校舎の教室。
少年少女たちがそれぞれの面持ちで二人を眺めていた。

「倉田佐祐理百翼長、川澄舞百翼長です。
優秀なPTのパイロットですから、士魂号に乗る方は話を聞いておくと参考になるでしょう」
「倉田佐祐理です。よろしくお願いしますね」
「川澄舞。よろしく」

二人が頭を下げた後、それを見計らってか、何人かの人間が挙手した。

「どうぞ壬生屋さん」

そう言われ、胴着を着た少女……壬生屋未央は立ち上がった。

その一風変わった少女を見た佐祐理は、彼女が先日の戦闘でこの隊所有の士魂号の一番機に乗っていた事を思い出した。
接近戦での戦闘に並ならない強さを発揮していた事が印象に強い。

彼女は意志の強い眼差しを真っ直ぐに向けて、言った。

「何故そのような方々をお呼びしたのですか?」
「おやおや、早速難癖か?」

からかう様に言う瀬戸口を睨みつける。
瀬戸口は「おお、こわ」と肩を竦めて見せた。
その様子を無視するように前に向き直った後、再び壬生屋は口を開いた。

「その方たちの実力は拝見させていただきました。実力に不満があるわけではありません。
ですが、わたくしたちはそんなにも頼りないのですか?」

問われた善行は眼鏡を持ち上げて、その奥の眼を微かに細めた。

「頼りないですね。
あなたがたは幻獣戦に特化した戦闘が行えますが……人間同士の戦いについては素人ですから」
「……」
「今後は我々も幻獣だけを相手するかどうか分かりません。
皆さんも知っての通り、この地球には幻獣以外の様々な問題が溢れているのですから。
……その時、何もできませんでは軍人として失格でしょう。
その時のための備えが必要なのです」
「備え、ですか?」

なんとなく気になったのか、厚志は問い掛けるように呟いていた。
善行はそれに深く頷き返した。

「ええ。彼女達にはPT戦、MS戦の際の留意点を基本として、今後様々な事を……」

その時だった。

善行の言葉を遮るように、サイレン……多目的結晶を持たない一般兵士に向けての幻獣出現の合図……が鳴り響いた。

同時に多目的結晶にも情報が行き渡る。

それは幻獣の群れの侵攻を知らせていた……







「……ふう」

ゲシュペンストのコクピット周りをチェックして、祐一は安堵の息を吐いた。
その理由としてはブラックホールキャノンの影響が殆どない事だった。
最悪、二度と使えなくなる事を覚悟していただけにその安堵は深い。

祐一はコクピットの外に出て、ワイヤーで格納庫の床に降り立った。
汗を拭いながら、自分の機体を見上げる。

『EOT兵器がこの世界にある限り、この世界の動乱が終る事はない。ゆえに、破壊しなければならないのだから』

祐一の脳裏には『ヒュッケバイン』のパイロットの言葉が浮かんでいた。

所詮言い訳か、その場しのぎの誤魔化しに過ぎない。
そう思っているはずなのに。

「……どういう事なんだ……?」
「あの黒バインさんのこと?」
「って、うおわっ!??」

後ろを向くと、そこにはいつの間にやら名雪が立っていた。

「祐一気付いてなかったの?」
「……悪かったな。考え事に集中してたんだよ」

そう言うと、名雪はその顔に苦笑を浮かべた。

「名雪?どうかしたか?」
「あ、うん……まるで真琴みたいだなって思ったから」

真琴。沢渡真琴。
かつて祐一や名雪と同じ屋根の下で家族として暮らしていた少女。
その名の少女もまた、三年前のあの日から行方不明だった。

「……どうしてそう思うんだ?」
「あの子、漫画読んでるときは何をやっても気付かなかったよね。
祐一、その時を見計らって肉まん取っては食べしてたから、あの子とよく喧嘩してた。
それをなんとなく思い出しちゃって……」

言いながら、その声はだんだん小さくなっていった。
思い出した名雪自身辛くなったのだろうと祐一は思った。
……自分も、それに近い気持ちになっていたから、よく理解できた。

「あー……そんな事もあったな……」
「……ごめん。思い出させちゃって……」
「気にする事じゃないだろ」

そう言う祐一は笑みを浮かべていたが、何処か寂しげなものだった。

……祐一がかつて共にいた少女の事を思い出していた頃。
アーガマブリッジには一つの出来事が起こっていた。

「艦長。連邦軍極東支部から援軍要請が来ていますが……」

ファ・ユイリィは受けた通信の内容を率直にブライトに伝えていた。
正確に言えば、ブライトを始めとする、ブリッジにいた者達に、だが。

「ブライト、どうする?」

アムロ・レイの問い掛けに、ブライトは一瞬だけ考える仕草を見せた。
だが、その一瞬後には思考をまとめていた。
戦場にいる者には瞬間的な判断力が求められる。
一年戦争から、最前線で戦う事が多い彼の部隊が生き残る事ができたのは、彼の指揮能力の高さも大いに関係しているのは言うまでもない。

……現在、ロンドベル隊は戦力を整える段階である。
その方法論として各地を転々としているのであり、現在急を要する作戦に参加しているわけではない。
となると…………

「……援軍を欲しがっているものを見殺しにもできないだろう。
最大戦速で向かうぞ。場所は?」
「ここから南下した熊本です」
「よし、総員に連絡。アーガマはこれより熊本に向かう!」

かくて、アーガマは向かう。
そこで起こる事を知る由もなく。







「ミサイルを撃つ!速水!!」
「分かった!!」

舞のプログラムと厚志の操縦技術が一体となった瞬間。
士魂号複座型の後部が展開し、ミサイルの雨が広がっていく。
それは周囲十数メートルの幻獣をことごとく貫き、滅ぼした。

その中には幸運にも当たり所が良く、生き残ったものもいた。
だが。

「行きますっ!」
「へへっようやっと出番だぜ」

それを二体の士魂号が掃討していく。
壬生屋未央の駆る一番機は両手に構えた超硬度大太刀で。
もう一人の士魂号パイロットである滝川陽平の駆る二番機は519式突撃小銃で。
その手付きはまだ完全ではないが、手馴れたものだった。
第5121独立駆逐戦車小隊は少しずつ、だが確実に育ちつつある。

(佐祐理たちが教えるような事があるとは思えませんが……)

佐祐理は掃討作戦の合い間にそんな事を考えていた。

(……裏がある……?でも、そんな感じは見受けられませんし……)

それは余裕でも油断でもなく、あらかたの敵を掃討したからこそのものだったが、オペレーター担当の瀬戸口の言葉が事態を一変させた。

『な……!?敵、増援部隊、出現!』

その言葉に、それぞれに索敵した。
すると、部隊を取り囲むような形で潜んでいた幻獣が現れているのがよく分かった。
しかも厄介な事に、この地区に現れるものでは最大級であるスキュラが混じっていた。

スキュラに対し、「今の」士魂号は脆弱だった。
さらに言えば、先程の戦闘で弾薬は尽き掛けている。
この状況はありていに言えば危機的状況だった。

「ここはわたくしが参ります……!!!」

通常時ならば、味方の援護をあてにできるが、今それは不完全だ。
壬生屋の判断はこの状況では自殺行為だった。
だが、彼女に止まるつもりはなかった。

「待って壬生屋!」
「たわけっ!!」

壬生屋の一番機が厚志と舞の制止も聞かずに駆け出す。
その瞬間。

「え?」

一番機のバランスが崩れていた事に壬生屋が気付いたのは、赤い影に足を払われて地面に前倒れになった後だった。
その隙に、一番機の横をすり抜けて行く二つの影があった。

「させない……!!!」
「させません……!!」

そこには白と赤の影。

アルトアイゼンとヴァイスリッター。
二機は申し合わせたように、同時に地面を蹴った。

「佐祐理たちがスキュラを落としますっ!」

二人の心は同じだった。
これ以上、自分達の目の前で誰かを失わせないという唯一つにして絶対の決意。
そして、敵の主力であるスキュラを落とせば隙ができるだろうという判断。

「佐祐理!」
「舞!」

舞の呼び掛けに、佐祐理はオクスタンランチャーを引き抜いた。
状況に応じて実弾とエネルギー弾を使い分ける事を可能とする銃器。

「あまり、飛びませんが……威力はありますっ!!」

的確な狙いの下で解き放たれた実弾三発。
それを追って、舞のアルトアイゼンが駈ける。

アルトアイゼンには飛行能力はない。
だが、全機動力をフルに使いさえすれば短時間の空中疾走は可能になる……!!

「せいっ……!!!」

オクスタンランチャーの弾丸が突き刺さり、そことまったく同一の場所にアルトアイゼンの右腕に装備されたステークが打ち込まれる!!
二つの的確な衝撃は一瞬にしてスキュラの活動を停止させた。

「……やったね、舞っ」

落ちていくスキュラを確認しながら、佐祐理が言う。
舞がそれに意識を向けた瞬間。

その隙を狙っていたのか、遠距離戦型幻獣ナーガのレーザーがアルトアイゼンに突き刺さった。

「くっ!!!」
「舞っ!」

油断ではない。
この状況下では反応はできても、回避は不可能だった。

それでも、咄嗟の反応で主機関を護りきったのは不幸中の幸いだった。
だが。

「スラスターが……!!」

動作系の異常か、アルトアイゼン脚部のスラスターが動作せず、舞は減速半ばで舞は地面に叩きつけられた。
その衝撃で、脚部に更なる異常が引き起こされる。

「動かない……」

完全に動作しなくなった脚部。
そこに幻獣の一匹が飛び掛った。

舞は冷静にそれを頭部のヒートホーンで切り払う。
さらに近付く敵を左腕の三連マシンキャノンで撃ち払う。

だが、いつまでもこの状況が続くはずはない。
佐祐理たちもまた、自分に向かってくる敵の応戦に手一杯だ。
弾薬とエネルギーが尽きた時。
あるいは対応できないほどの敵が押し寄せた時は……

「……っ」

舞の思考に微かな絶望がよぎった時だった。

…………一閃。

アルトアイゼンに押し寄せていた幻獣の一匹が二つに分かれて地面に落ちた。
そこには、光の刃を構える黒いPTが立っていた。
形状は、舞が訓練生時代に使っていた量産型のゲシュペンストによく似ている。

「何処の誰かは知らないが、待たせたな。援軍到着だ」
「その声は……!」
「祐一……」

通信ウィンドウを開いたそこにいたのは。
三年前から行方がわからなくなっていた……少なくとも二人はそう思っていた……相沢祐一だった……!!







そこは、何時か何処かにある闇の中。

「世界は、繋がり始めている」

男はそこにカプセルらしきものの中で眠る月宮あゆを見詰めながら呟いていた。

「あの時の流れ、そのままに……なあ、君は、どう思う?
そして、君はどう動く……?」

その問い掛けに。
あゆは、ゆっくりとその眼を開いていった…………







……………………続く。



次回予告。

過酷なる運命。
それは祐一たちに戦いの宿命を突きつけるだけに収まらなかった。
新たなる戦いは、運命か、誰かの悪意なのか。

そこに、その地に悪夢が顕在化する。

次回「悪夢の始まり」

乞うご期待はご自由に!





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