第三話 サクラ、舞う
・・・ロンドベル隊が黒い翼を持つヒュッケバインとの遭遇戦を行う1週間前。
こんな記事が、新聞の一面を飾っていた。
『東京上空に、謎の超巨大飛行物体現る!!
都民大パニック!
東京湾へと飛び去ったその戦艦らしきものの正体は?!
連邦軍日本支部、調査、追跡を失敗?!』
・・・などなど。
それに関する話題は、祐一たちがロンドベル隊に入隊した日まで各メディアを騒がせていた・・・・
「・・・今回集まってもらったのは他でもない」
ロンドベル隊旗艦・アーガマ艦長、ブライト・ノアはブリッジに集まったメンツを見渡しながら、言葉の続きを紡いだ。
「次の行き先が決定した。我々はこれより、東京湾上の都市、Gアイランドシティに向かう」
「はい、艦長質問です」
そう言って挙手したのは、まだ何処か幼さの残る少女、美坂栞。
「なにかな、栞君」
「え〜と、私たちは戦力増強のために、日本各地のスーパ−ロボットを所有する方々に協力を仰ごうとしているのですよね?・・・Gアイランドシティは宇宙開発公団こそありますが、ロボットを研究しているという話は聞いたことがないのですが・・・」
Gアイランドシティ。
それは、東京湾上に作られた人工島。
その中央に位置している高層タワーを所有する団体。
それが、宇宙開発公団である。
宇宙開発公団は、日本のスペーステクノロジーの総本山にして、宇宙開発事業の中枢である。
スペースシャトルの打ち上げや、日本が開発した、及び開発しようとしているスペースコロニーの管理などを行っている。
といっても、スペースコロニー自体に自治権があるので(少なくとも日本においてはそれを認めている)管理といっても、あくまで書類上のことに過ぎないから、日本における宇宙と地球の行き来についてのことが主な業務とされている。
「・・・表向きはそうなってるってことだろ?」
「祐一君の言うとおりだよ、栞君」
ブライトがそれに付いて説明する前に茶々を入れた祐一・・・それに対し即座にそれを肯定したのはクワトロ・バジーナ大尉だった。
「・・・つまりどう言う事なのかな?」
名雪が首ををかしげるのを見て香里は微かに溜息を漏らした。
「・・・名雪。貴女が聞かなくてもちゃんと答えてくれるわよ。・・・ですよね、艦長」
「・・・うむ。・・・これは、地球連邦政府では周知のことなのだが、Gアイランドシティでは異星人に対する備えのため、様々な研究が行われているらしい」
「異星人って言うと、あれか?前大戦でうざったいことしてやがったゼ・バルマリィ帝国とかか?」
いかにもめんどくさそうだなと頭を掻きながらそう言ったのは、兜甲児。
「・・・いや、我々ロンドベル隊が遭遇したことのないまったく新しいタイプの異星人・・・いや、違うな・・・未知の生命体ということらしい。
ともかく、我々もそれに遭遇する可能性がある以上、その専門家とコンタクトを取っておく必要があるだろう」
「今回は、戦力増強は二の次ってわけっすね」
「そう言うな北川君。俺たちは今のところ火消し部隊に過ぎないが、先のことを考えないわけにはいかないんだ。今やれることをやらないとな」
「一年戦争の英雄にそう言われたら反論できないよな、北川」
「うるせー」
「というわけで、本艦は東京湾へと向かう。各パイロットは休息を取っておくように」
というブライトの言葉が、とりあえずの締めとなった。
「しかし、あれだな。ロンドベル隊」
「うん、思った以上にハードだね〜」
ミーティングが終わった後、機体テストを終えた祐一と名雪は、食堂で昼食をとっていた。
ちなみに祐一はカレー、名雪はAランチ(デザートつき)である。
「過去の戦歴を少し覗いたら、常識じゃ考えられない作戦の目白押しだもんな」
「・・・大丈夫かな、私たち」
唐揚げをころころと転がして名雪が言った。
その表情は微かな不安に満ちていた。
祐一はそんな名雪の額に、でこピンをかました。
「いったーい・・・祐一〜」
「お前が辛気臭い顔をしてるから悪いんだろ。そんな顔をしてる暇があったら、飯をきっちり食えよ。まずはそれからだ」
「・・・・・ありがと」
「礼なんか言うなよ。俺たちにはそんなの必要ないだろ?」
「・・・祐一がそう言うからこそ、ありがとって言いたいんだよ。祐一ひねてるから」
「そんなことを言うのはこの口か?」
「ひっはははひへ〜」
「・・・仲がいいんだな君たちは」
「こんにちは」
そう言って二人に話し掛けてきたのは、カミーユ・ビダンと、ファ・ユイリィだった。
「・・・あんたは、Zガンダムのパイロットの・・・」
「カミーユ・ビダンだ。カミーユでいい。こっちはファ・ユイリィ」
カミーユの紹介にあわせて、ファが軽く会釈する。
「・・・席、いいかしら?」
「別に構わないけど?」
「どうぞ〜」
「ありがとう」
祐一の隣にカミーユが、名雪の隣にファが座る。
「・・・何か用か?」
「同じ艦で暮らすことになるんだ。少しくらい親しくなっておくのも悪くないだろ?」
「・・・違いないな」
「・・・祐一〜口が悪いよ?」
「カミーユも」
「・・・別にいいだろ、このぐらい」
「相沢の意見に賛成だな」
「祐一でいいぜ、カミーユ」
にやっと笑って、祐一は言った。
それに対し、カミーユもふっと笑った。
お互い妙な共感が生まれたらしい。
「ところで、祐一君たちはどうしてパイロットになったの?・・・答えたくなかったらいいんだけど」
「・・・まあ、そのなんだ」
名雪がいるので、その視線を気にしつつ、祐一は慎重に言葉を選んだ。
「・・・三年前の大戦で俺らの街は壊滅状態になってな。
もうそういう思いをするのが癪だったもんで。
ただ黙っているよりはと思って、こうなっただけさ・・・あ、一応いっとくけど、気にしなくていいからな」
ファが俯いたのを見て、祐一は即座にフォローを入れた。
「三年前に壊滅って・・・もしかして、あそこのことか?」
「・・・多分そうだ」
・・・三年前の大戦。
その詳細はいずれ語ることになるので今は割愛する。
・・・その大戦の中でも、日本の北の街が一つ壊滅しかけた事件は有名だった。
なにせ、一体何処の誰が・・・いや何処の組織が、かも知れないが・・・何の目的で、そんなことをしたのか、いまだに明らかになっていないのだ。
その崩壊の最中、黒いマシン、翼を持ったマシンなどが目撃されているが、どれも正式な記録として残っているものはなかった。
(・・・だが、俺は確かに見た。翼を持った黒い機体。・・・昨日遭遇したあれに違いない・・・)
コーヒーの入ったカップを握る力が自然と強くなる。
それを視界の端に入れたカミーユはちらりと祐一の表情を伺ってから、呟くように言った。
「・・・どういう事情かは知らないが・・・憎しみにとらわれないよう、気をつけたほうがいい。憎しみにとらわれた人の行動ほど、虚しいものはない」
「・・・わかってるさ・・・」
「・・・祐一・・・?」
「ん。どうした変な顔して?」
「え?でも、だって・・」
「それはそうと、あんたらはこのニュースは知ってるか?」
先程までの雰囲気をがらりと変えて、祐一は何処からともなく新聞を取り出した。
ばっと突き出されたそれ(日付は一日前)を、カミーユたちはしげしげと眺めるように読んだ。
(ちなみにこの時代の新聞は共通語で書かれていることが多い)
「『謎の超巨大飛行物体』?」
「・・・しかもここってこれから行くところじゃない」
「ああ。・・・ブライト艦長はその辺りも考えて、行く事にしたんじゃないかって俺は思うんだが・・・」
「・・・ありえるかもな」
・・・祐一たちの予想は決して外れていなかった。
東京湾上に浮かぶ、Gアイランドシティ・・・その港の一角にアーガマを入港させ、ブライト・ノア、アムロ・レイ、クワトロ・バジーナは宇宙開発公団へと向かった。
(その間パイロットは待機状態)
その目的は、祐一たちに言ったとおりであったが、それだけではなかった。
・・・宇宙開発公団、総裁室。
「本日は急な訪問に応じていただきありがとうございます。
私は、連邦軍第13独立部隊ロンド・ベル・戦隊長ブライト・ノアです。
そして、彼らはアムロレイ中尉、クワトロ・バジーナ大尉です」
「宇宙開発公団総裁、大河幸太郎です」
そう言ったのは、中年・・・だががっしりとした体とそれに見合う意志の通った眼を持つ男だった。
お互いに挨拶をかわしながら、しっかと握手を交わした。
ただ会うだけなら通信で済ませれば、という意見もあるが、いつの時代もこういうときはじかに会うのが礼儀なのである。
情報・通信技術が発達した今だからこそ、尚更そうなのだ。
「今回訪問させていただいたのは・・・」
「・・・治安維持のご協力について、EI(エクストラ・インテリジェンス・・・転じて地球外知性体のこと)について、・・・・・そして最近姿を見せた超巨大戦艦について、ですね?」
渋さに合う、丁寧な物腰で大河は言った。
「察しがお早く、助かります」
そもそも、この事件について報告を受けたときから、ブライトは奇妙だと感じていた。
事件が起こってまだ一週間ほどしかたっていないにもかかわらず、新聞などのメディアで早々と調査失敗やらの記事が出ている・・・
普通なら依然調査中、もしくはそれなりの処置が取られたと(嘘でも)なっているはずである。
それがそうなっていないということは、連邦軍日本支部でも”それ”についての処遇を決めかねているのだろう。
・・・下手な発表をすれば、後々に響く以上うかつなことは言えない・・・おそらくそれほどに規格外の出来事だと推測された。
「・・・治安維持協力については、まだお返事ができかねます。
無論私も地球に生きるものとして、貴方たちに協力は惜しまないつもりです・・・!
ですが、今はまだ不安材料もあります。
その状況が整い次第協力するということでよろしいでしょうか・・・?!」
その苦渋の表情を見れば、それが本気の発言だということは誰の目にも明らかだった。
(・・・ふむ、大河幸太郎・・・中々の人物のようだな・・・)
心中で一人頷いたのは、言わずもがなのクワトロ・バジーナだった。
「EIについては・・・2年前以来現れてはいませんが・・・いずれその姿を現すのは明白です」
「・・・その理由は?」
「彼らの狙いが我々人類にあるからです・・・!
人類が生きている限り、彼らは必ずやって来るでしょう・・・!
・・・だからこそ、人類同士で争っている場合ではないのです!・・・いやすみません。つい熱くなってしまいました」
「いえ。今の地球には貴方のような方が必要なのです。
・・・今の連邦には、特に。・・・失礼、貴方がたは連邦に所属しているわけではないのでしたね」
「いえ、構いませんアムロ中尉。この星を、命を守るものに所属など関係ありませんからね。
・・・話が逸れてしまいました。
最後の、超巨大戦艦について、ですが・・・」
大河がそう言いかけた時だった。
大河とブライトたちを挟む形で通信ウィンドウがいきなり開いたのである。
それに映ったのは、赤い髪をした青年・・・だがその耳の部分・・・いやよく見ると顔を除く体全体が機械化していた。
「・・・ガイか!どうしたんだ?!」
ガイと呼ばれたサイボーグの青年は、その強い意志の宿った表情でその事態を知らせた。
『長官!街に妙な奴らが現れた!』
「なに・・・?!EI−01か?!」
『いや違う・・・!鎧武者のような格好をしている・・・!そいつらが無作為に街を破壊してるんだ!!・・・捨て置くわけには行かない!出動する!!』
「よし!GGG機動部隊隊長、獅子王凱!出撃、承認!!」
『了解!!』
「・・・すりーじー・・・・?」
「艦長、今は詮索しているときではないはずだ」
「クワトロ大尉の言うとおりだ。俺たちも出撃しよう」
二人のニュータイプの呼びかけに、ブライトは強く頷いた・・・!
「ま、そういうことなら」
「しかたないわね」
北川と香里が口々に言った。
「早く行きましょう!町の人に被害が出る前に!」
「栞ちゃんの言うとおりだよ。はやくしないと」
ブライトの指示を受け、それぞれがすでに各機体に搭乗していた。
「・・・ああ、そうだな」
(あの時の二の舞はごめんだからな・・・)
それは、ひょっとしたら恐怖に怯えそうになるのをこらえる呪文なのかもしれない、と祐一は思った。
今はそれでいいと思う。
迷う事無く立ち向かっていけるのなら、それで。
それでも乗り越えられないときが来たら・・・
「・・・その時は、その時さ。ゲシュペンストα、相沢祐一、出る!!」
そして、彼らは戦場へと飛び出す。
ガシュ・・・!!
街中に降り立つ、祐一、名雪、北川の機体。
MS隊は、前回の先頭のダメージが修理できず、出撃できずにいた。
クワトロ機は出撃できたが、クワトロたちはいまだ帰ってこれない状況だった。
「香里・・・やっぱ無理そうか?」
祐一の呼びかけに、香里の通信ウィンドウが表示された。
「そうね、グルンガストには少し狭すぎるみたい・・・空から少しの援護しかできないからそのつもりで」
「了解・・・」
受け答えしながら、ブライト艦長が今回マジンガーなどのスーパーロボットの出撃を禁じた理由を、祐一は理解した。
今回襲撃した街・・・そこは前回の場所と違い、あまりにも発展しすぎていた。
要するに、建築物が密集しすぎて、うまく身動きが取れないのである。
おまけに、今回の敵は・・・
「くそっ!!」
ロシュセイバーを切りつける祐一。
しかし、その一撃は後一寸のところで避けられてしまった。
鎧武者さながらの姿をした、その敵はさっさと祐一たちとの距離を取った。
そして、祐一のその一撃は勢いあまって、ビルを斬りつけてしまう。
「ちぃっ!!敵が小さすぎる・・・!!」
敵の動き自体は決してそこまで速いものではない。
しかし、敵が自分よりも遥かに小さい・・・人よりも一回り大きい程度・・・ためにその動きを補足できないのだ。
目の前を動き回るハエを眼では追えても、捕まえたりするのは難しかったりするのと理屈は同じである。
ましてや、その作業を自分の手足ではなく、自身が操縦する機体で行わなければならないのである。
さしもの彼らも困難を極めて当然と言えた。
・・・せめてここが何もないところなら、距離を取って、銃器で仕留めることができるのだが・・・
「くそっ・・・」
フォトンリボリバーを構える北川のSR−1。
「バカッよせっ!!こんなとこでそんなものぶっぱなすなっ!!」
・・・祐一たちの乗るパーソナルトルーパーの武器の強力さは、ここでは足手まといにしか過ぎなかった。
「・・・くっ!!」
その祐一の言葉に動きを止める北川機。
その隙を付かれ、後ろから銃弾をまともに受けてしまう・・・!
脚部から煙を上げるSR−1。
「北川ッ!!」
「ゆういちっ!後ろ!」
名雪の声に反応して、索敵を瞬時に済ますと、祐一は振り向きざまに、その敵を一斬した。
(手応えありだ・・・!)
だが、祐一のその確信とは裏腹に、敵は何事もなかったように起き上がると、刀を握りなおし、再び、祐一に襲い掛かった・・・!
「ちいいいいっ!」
図体の違いゆえにその動きについていけない祐一・・・!
「うおおおおおりゃあああああっ!!」
祐一に向かっていったその敵はいきなりの横からの攻撃・・・体当たりに弾き飛ばされた。
それをしたのは・・・人・・・いや・・・
「サイボーグ・・・?」
祐一の呟きに答えてなのか、その人影は親指をびしっと立てて、言った。
「よう。無事かい?」
彼こそ、大河と話していた青年、今は謎の部隊、GGG機動部隊隊長・獅子王凱その人だった。
赤い鬣(たてがみ)に、金の腕を持ったサイボーグ。
そして、その金の腕には、緑色に輝く石があった。
「・・あ、ああ・・・」
「俺も協力する!だからさっさと片付けちまおうぜ!」
祐一は何がなんだかわけがわからなかったが、共感できる部分があったことで気を取り直した。
それは・・・
「・・・ああ、面倒事はさっさと片付けるに限る・・・!!」
という至極単純な部分だった。
しかし、そうは簡単にはいかなかった。
祐一たちの攻撃は当てるのが困難、当たり所が良ければ倒せる程度。
凱の攻撃はよく当たりはしたし、何故かそれなりに効いてはいたが所詮は局部・・・針の一撃に過ぎなかった。
そして何処からともなく現れる敵は増える一方。
いつしか、祐一たちは後退せざるをえない状況にまで、追い込まれていた・・・!!
その頃・・・宇宙開発公団総裁室では。
大河幸太郎が、この街で行われている戦闘の情報をモニターで確認し、悔しさと憤りで拳を握っていた。
・・・ブライトたちは戦闘が始まる前に、アーガマへと帰還するためにここを出ていた。
「くう・・・まさかこれほどとは・・・EI−01とは違う、まったく別の脅威・・・!!
せめて、せめて機動部隊が完全なら・・・!」
歯噛みする、大河。
もはやどうすることもできないのかと思われた時だった。
通信回線が、開いた。
『・・・よう、大河さん。何をそんなに焦ってるんだい?』
年経た、だが威厳ある男の声が響いた。
「・・・米田中将・・・」
この事態について、どう言うべきか迷う大河。
そんな大河に、米田と呼ばれた男はべらんめえ口調で言った。
『隠さなくてもいいって。外の状況はこっちも掴んだ。・・・魔操機兵が暴れてるみてぇだな』
その言葉に、大河の表情が変わった。
「・・・貴方方は、あの敵をご存知、なのですか?」
『・・・まあな。俺たちが俺たちの世界で戦っていた奴と同じだ。
あいつらは魔力で動いてる。普通の兵器じゃあ、奴らにはかなわねえ。
・・・対抗できるとすりゃ、霊力を持った人間だけだ。
そして、ここにはそんな奴らがいる。
あんたと同じ、正義に燃えてる奴らだ』
「・・・よろしいのですか?」
大河としては、”彼ら”をこの世界のごたごたには巻き込みたくはなかった。
それゆえの発言だった。
それに、米田は応じた。
『いきなりこの世界に投げ出された俺たちをかばってくれたのは、あんただ。
その恩返しをさせてくれよ。
それに、この星を、命を守るものに、所属は関係ない、だろ?』
「・・・・・・」
長いも短い逡巡の末、大河は言葉を、紡いだ。
「・・・出撃を、承認します」
『・・・ありがとうよ。その気持ち、ありがたく思うぜ。
・・・おめえら、聞いてたな!』
『はい!!』
米田の呼びかけに、応える声たち。
『ようし、それなら・・・正義を示して来い!!』
『・・・了解!!』
「く・・・打つ手無しか・・・?」
北川がポツリともらす。
にじりにじりと寄ってくる敵の群れ。
祐一たちの機体はところどころ傷ついていた。
エネルギーもここでの戦闘に慣れるまでにかなり消耗していた。
グルンガストの空中からの援護も功を奏していない。
まさに危機と呼べる状況だった。
しかし。
「諦めるな!!」
凱が叫ぶ。
その鋼鉄の体は祐一たちの機体よりもボロボロだった。
それでも、その場の誰よりも勇壮かつ勇敢に叫んだ。
「諦めてしまったら、何もかもそこで終わる!・・・勇気を、信じるんだ!」
それに、祐一が応える。
「・・・確かにな。勇気云々はともかく、諦めたら何にもならないよな。・・・守るものも守れない・・・!!」
自分の後ろで出力を最小に抑えたライフルを構えるゲシュペンストβ。
その中で必死に戦う名雪。
「もう、二度と失うわけにはいかない・・・!あゆのようには絶対にさせない・・・・・!」
操縦桿を強く握る祐一。
・・・それは覚悟の形であった。
そして、敵が祐一達に一斉に襲い掛からんとしたまさにその時!!
「・・・・・そこまでだ!!」
祐一たちと、鎧武者たちを挟んだ、中間地点。
そこに、虹のように鮮やかな煙幕が巻き上がり・・・その中から、姿を見せる者たち・・・!!
『帝国華撃団、参上!!』
色取り取りの鎧の戦士たちが、そこに立っていた・・・!!
「・・・新しい敵か・・?」
その搭乗に暫し呆然としていた祐一がぽそりともらすと、紫色の機体が振り向いて言った。
『そこの貴方。この神崎すみれをあのような下賎な三下と同じに取るなんて失礼にもほどがありますわ』
それをピンク色・・・いや桜色をした機体がなだめに入る。
『す、すみれさん、仕方ないですよ。私たちはこの世界の人間じゃないんですから、怪しく思われても・・・』
『そうだぜ、このサボテン女。少しぐらい大目に見てやることができねえのか?』
『カンナさんに言われたくはありませんわね・・・』
『ああ、もう二人とも喧嘩したら駄目だよ・・・』
『アイリスの方がよっぽど大人やないか』
『止めることないでーす。止めるだけ無駄ってものでーす』
『・・・織姫の意見は正しいと思う』
『あなたたち、いいかげんにしなさい!!隊長、早く、指示を!』
『すまない、マリア。・・・そこの人たち。俺たちは味方だ。あとは、俺たちに、帝国華撃団に任せてくれ!!・・・行くぞ、皆!!』
その男の一声でさっきまでおちゃらけ気味だった彼女らの雰囲気ががらりと変わる・・・!
それはまさしく百戦錬磨のそれだった・・・!
『・・・了解!!』
桜色の機体が、一振りの刀を抜き放ち、裂帛の気合ともに振り下ろす!
『破邪剣征、極意・・・!!桜花爛漫!!』
振り下ろした刀から溢れ出た衝撃波のようなものは、その機体の前に群がっていた敵を一掃した。
『神崎風塵流、奥義・・・!不死鳥の舞!』
薙刀から生み出された炎の奔流は、紫色の機体に一斉に飛び掛った敵を一瞬にして焼き払った。
『踊れ、死に至る・・・ダンス!シェルクーンチク!!』
黒い機体の放った銃弾が敵に着弾した瞬間・・・氷の柱が敵を覆い・・・そして砕いた。
「あ、あの人たちすごいよ、祐一・・・」
「・・・ああ・・・あいつらとの戦いに・・・手馴れてる・・?いや、あいつらみたいなのに対抗するための・・・?」
などと祐一たちが話していると、金色の機体が近くに寄ってきた。
「・・・なんだい?」
凱が警戒を解いた顔で言った。
彼は全面的にこの機体の操縦者たちを信じているようだった。
『うん、お兄ちゃんたちが傷だらけだから治してあげようとおもって・・・』
それは幼い子供のような声だった。
「・・・子供?」
と北川が言うと、その機体の操縦者は膨れっ面が見えるような感じで怒って言った。
『アイリス子供じゃないもん!!』
「・・・悪かったな、アイツ頭がちっと足らないんだ。許してやってくれ」
「・・・頭が足らなくて悪かったな・・・」
すると、その機体に乗っている女の子はあっさりと機嫌を直した。
『うん、いいよ、許してあげる!それじゃ、治すよ』
「・・・治すって・・・」
名雪が言いかけるまえに、金色の機体が動いた。
『ピンチだ、パーンチ、チャンスだキーック・・・おいで・・・
イリス、グラン・ジャンポール!!』
女の子がそう言ったかと思うと、いきなり何処からか巨大なナース姿のくまのぬいぐるみが現れた。
「うわ〜くまさんだよ、祐一〜」
こういう状況でも喜んでいられるのは流石だなと祐一は呆れ気味に思った。
そのくまが光をばら撒くと・・・その光に触れた機体の傷が一瞬にして消えていった・・・エネルギー値も回復していく・・・!
「・・・すごい・・・これって、魔法、なのかな?」
「ちがうよ、霊力、だよ」
「・・・れい、りょく・・・・?」
そんなやり取りの間でも、戦闘は続けられていた。
『これが科学の力やで!発明は・・・爆発!!聖獣ロボ・改っ!!』
緑色の機体の回りに、4つの小型ロボットが現れたかと思うと、それらは耐久力が高そうな機体に群がり・・・一斉に攻撃を仕掛けた!・・・その一撃の前にその敵はあえなく破壊された。
『最後によく見ろ、あたいの本当の力を!伝説の・・・三十六掌!!』
赤い色の機体が放ったその一撃はその機体に群がっていた周囲の敵を一撃で弾き飛ばし、葬り去った。
『厳しい寒さの中にも・・・強く美しく・・・咲き誇れ!ヴィアッジョ・ローズ!!』
赤紫色の機体が放ったビットのようなものから放たれた光線が、広範囲の敵をことごとく蹴散らした。
『ドリッター・・・ジークフリード・・・!』
青い色の機体が突き出したランスの一撃・・・その機体の前方にいた敵をいっぺんに刺し貫き、破壊した。
「ち・・・黙ってみていられるかよ・・・」
「祐一・・・?」
祐一のゲシュペンストはゆっくりと立ち上がると再び戦闘に復帰した。
『下がってくださいっ!・・・この敵は普通の兵器じゃ・・・!』
桜色の機体の女性の忠告を無視して、祐一はロシュセイバーを構えた。
(・・・忠告はありがたいさ・・・でもな・・・こんなことでつまづいてたんじゃ、あいつは倒せないんだよッ!)
声無き叫びと共に、祐一が光の剣を振り下ろした。
その一撃は、先程までとは異なり、いともたやすく鎧武者を破壊した!
『!?』
それには、周りの人々も驚いたが、何より祐一自身が戸惑った。
・・・祐一は気付かなかった。
ゲシュペンストコクピットの全方位モニターの隅で、ウラヌスシステム発動と表示されていたことを。
この時はまだ、知らなかった。
・・・この時点で、かなりの敵を駆逐していたのだが、敵は何処からとも無く溢れ続けた。
「くそっ!!いくら倒してもきりがないぜ」
『どこかに、魔操機兵を生み出しているものがあるはずよ。それさえ破壊すれば・・・』
黒い機体の女性が呟いた。
そこで、全機に通信が入った。
空から援護を続けていたグルンガスト・・・香里たちからだった。
「それらしきものを発見しました!」
「そこの灰色の一際でかいビルの陰に、鏡があるわ。原理はどうなってるか知らないけど・・・そこから何機かいっぺんに這い出ようとしている・・・!」
『・・・ありがとう!!後は俺がなんとかする!!』
白い機体のパイロットがそう叫んだかと思うと、その機体は一目散にその場所へと駆けた。
まさにその速さ疾風迅雷・・・!
『・・・はあああああっ!たあっ!!』
その鏡を視界に捕らえたと見るや、迷う事無く地面を蹴って、二刀を構える!
その鏡からは今にも新しい鎧武者が生まれ出でようとしていた・・・!
そこに、雷のような一撃が入る・・・!!
『狼虎滅却・・・おうっ!・・・天狼転化!!』
その一撃は鏡はおろか、そこから生まれ出でようとしていた鎧武者たちさえ一撃で屠った・・・!
その後は残存戦力を掃討してしまうだけだった・・・
祐一たち、そして謎の戦士たちの苦闘の甲斐あって、被害を最小限に留める事ができた街の一角で、彼らは一同に会していた。
「肝を冷やしたが・・・あんたたちのおかげで何とかなったよ。サンキュな」
祐一が頭を下げた先には変わったデザインのパイロットスーツを着た女性八人と男が一人立っていた。
色取り取りの、それを着た彼女たちはさながら舞台女優のように華やかだった。
「いや、大したことはしてないよ。それに俺たちが守っていた街と、同じな前の街が危機に瀕しているのを放っては置けなかったからね」
男は爽やかに笑って、手を差し出した。
祐一はその手をしっかと握った。
「相沢祐一だ。この場限りの短い付き合いかもしれないが、名乗らないのは礼儀に反するだろ?」
・・・ブライトからの通信によると、彼らは異世界の人々らしい。
そう聞いていた上での言葉だった。
「大神一郎だ。君たちとの協力のおかげでこの町を救うことができた・・・
それが何より嬉しいよ」
「そうですね」
桜色のスーツを着た女性・・・真宮寺さくらがそれに同意して、言った。
「何処の世界も、街を、人を守りたいという正義・・・そのことに変わりはなかったわけですから」
正義。
普段は胡散臭く思えるその言葉が、彼女らの口から出ると、すごく綺麗で真実味を帯びた言葉に祐一には聞こえた。
「・・・貴方たち、これからどうするの?」
香里がクールに尋ねた。
それに答えたのは赤い色のスーツを着た女性・・桐島カンナ。
「さあてねえ。帰るあてがちっとも無いからなあ。まあ、それまでは適当に暮らすさ」
「幸い、大河長官という方が手助けをしてくださるそうだから」
その句を繋いだのは黒いスーツの女性、マリア・タチバナ。
「魔操機兵も出てきたことやし、ただ帰るわけには、いかなそうやけどな」
と言ったのは、李紅蘭。
「・・・しばらくはここにいて、様子を見ることになるんじゃないかな」
「レニは頭は固いでーす。でも、そういうことになるみたいですねー」
「うん、しょうがないよね」
「まあ、この神崎すみれがいる限りあんな三下に遅れをとることなどありませんからご心配なく」
レニ・ミルヒシュトラーセ、ソレッタ・織姫、アイリス、神埼すみれが口々に言った。
「・・・そうか」
「おい、相沢。そろそろ戻らないと・・・」
「ああ、そうだな。・・・それじゃ、また会えたら・・・」
と、祐一が手をあげて、背を向けようとした時だった。
「あの・・・大神さん。せっかくですから皆さんと一緒にいつものアレ、しませんか?」
さくらがおずおずと言った。
「・・・いつもの」
「アレ?」
「なんだい、それは?」
栞、北川、凱が首を傾げた。
その疑問に、さくらが笑顔で答えた。
「私たち、帝国華撃団・花組は敵に勝った後、勝利のポーズを決めるんです」
その表情には、悪意や恥ずかしさは微塵も無かった。
・・・・・・・
「・・・あたし、帰投するわ」
「俺も」
げっそりした顔で香里と祐一は背を向けたが、それぞれ栞と名雪に捕まえられて動けなかった。
「お姉ちゃん、楽しそうだからやろうよ」
「祐一も、せっかくの申し出なんだから」
「お前はただ単にやりたいだけだろっ!!」
「いいじゃないか、相沢。栞ちゃんの言うとおり楽しそうだし」
「まあ、そういうのもいいんじゃないか?」
「あんたらは恥ずかしさというを知らんのか?!」
「これで結構癖になるでーす」
「そんな癖はいらんっ!!」
必死の抵抗を試みる祐一たちだったが、数分後にはきっちりと皆の中に入れられてしまっていた。
「それじゃ、いくぞ・・・勝利のポーズ・・・」
『決めっ!』
総勢15人がそれぞれのポーズをとって、その戦いの幕は閉じたのだった。
(・・・ぬう・・・確かにこれは・・・)
(恥ずかしいのを通り越したら癖になるかも・・・)
などと誰かが思ったらしいが。
真実は闇の中だった。
しかし。
彼らが新たな出会いを重ねている間に、新たな危機がこの街に迫ろうとしていることを、今は誰も知らなかった・・・・・
次回予告。
しばし、Gアイランドシティで休息を楽しむ祐一たち。
しかし、Gアイランドシティに新たな敵が強襲!
あらゆる攻撃を無効化する謎の敵、EI−02。
ロンドベル隊の攻撃も通用しない敵に、ついに勇者王が立ち上がる!!
次回、勇者王、誕生!
乞うご期待はご自由に。
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