第四話 勇者王、誕生!


・・・祐一たちが、魔操機兵を屠っていた、その地下に。
巨大な闇が蠢いていた・・・

『心弱きものどもよ・・・我が力を授けようぞ・・・』

それは、いつからか始まっていた戦いがこの星に住まうものたちにとって確かに形になった瞬間であった。



・・・相沢祐一は、星を見ていた。
今日の戦いを切り抜けて、整備を終えて、訓練を終えて・・・
こうやって、いつもは機体に乗って駆け抜けるカタパルトに寝転んでいると、せわしなかったさっきまでが嘘のようだった。
このまま何もかも忘れてここにいられたらどんなにいいだろう・・・
そうは思う祐一だったが、そういうわけにはいかないことを彼はよく知っていた。
その脳裏に浮かぶのは黒い”ヒュッケバイン”・・・

(あいつ・・・あいつに報いを受けさせるまでは・・・!)

湧き上がる激情を冷ますように、風が吹いた。
海の上ということで冷たい風だったが、逆にそれが心地よかった。

「祐一。こんなところにいたんだ」

祐一の顔を覆い被さるように現れたのは、名雪だった。
その髪は、お団子状態から開放され、かつて雪の街で再会したときのものに戻っていた。

「・・・どうしたの?元気ないけど」
「んなことはないさ。・・・・・逆にやっと、目標が定まったなって感じで昂揚してる」
「・・・あの黒バインさんのこと?」

名雪が祐一の隣に腰掛け、同じように視線を空に向ける。

「・・・黒バインってなんだよ」
「甲児さんがそう呼んでた」
「・・・あの人らしいっちゃらしいな」
「・・・祐一は、黒バインさんが気になるの?」
「当たり前だろうが」

その口調は、かなりきついものだった。
あの冬からずっと祐一のそばにいる名雪でさえ怯ませるほどに。

「・・・俺は、忘れない。
あいつの所為で親しい奴らはいなくなった。生きてるのか死んでるのかさえ分からない。
・・・名雪、お前はそれを許せるのか?」
「・・・・・でも、香里は生きてたよ?栞ちゃんも、北川君も。
お母さんだって、今は離れているけど元気みたいだし・・・
・・・自分の知り合いが生きてればいいっていうのはエゴかもしれないけど・・・
私は、まだあの人を憎んでいいのか、分からないよ。
何か、理由があるのかもしれないし・・・」
「理由があれば何をしてもいいってわけか?違うだろーが。
あいつがあの町を崩壊させたのは事実だ。
誰かが奴を・・・」

そこまで言いかけて、祐一は言葉を止めた。
このままでは名雪に今からやろうとしていることを全てぶちまけてしまうということもあったが、ふと見た名雪の顔が、哀れみに、悲しみに彩られていたからだった。

「・・・・・悪い。言い過ぎた。
名雪の言う事ももっともだ。
まだ決めつけるのは、良くないよな。皆のことも含めてな」

祐一は半分の嘘を混めて、そう言った。
自分がやろうとしていることを、復讐という名の”人殺し”という事実を隠すように。

「・・・・・そうだよ~」

少し、無理をした笑顔で答える名雪。
・・・無論祐一の言葉全てを信じきれたわけではない。

(でも、今は信じるよ。好きな人の言葉を信じられないなんて悲しいから)

だから、今は笑う。
そして、その笑顔に応え、祐一も微かに笑みを浮かべて言った。

「・・・しかし、そうだとすると、みんな何やってんだろーな」

そうして二人はまた空を見上げた。
空には、ただ幾万、幾億の星が瞬いていた。

・・・それが青空に変わる頃。

祐一たちのいる東京、Gアイランドシティより南下した場所、熊本。
そこを、祐一たちの友人が、訪れていた・・・


「倉田佐祐理、川澄舞、午前8時現在をもって、第5121独立駆逐戦車小隊に配属、着任します」

そう言って敬礼したのは、いかにもお嬢様ぜんとした女性・・・パーソナルトルーパー用のパイロットスーツを着こなしていた・・・倉田佐祐理。
そして、その横に佇むのはその親友、川澄舞。

彼女らは、相沢祐一の高校時代の先輩にあたる。

彼女らは紆余曲折を経て、軍属となり、ここに配置された。

そんな彼女らを迎え入れたのは、無精髭を生やし、眼鏡をかけ、年相応ではない学生服を着込んだ男だった。

その名を、善行忠孝という、この小隊の隊長を務める人物である。

「・・・ご苦労様です。私は、この隊の司令を務めている、善行忠孝と言います」
「・・・善行少佐。ここでの佐祐理・・・いえ自分たちの・・・」
「あ、今の私は中尉です。ここでは、千翼長と言うのですが」
「・・・了解しました。それでは千翼長、改めてお聞きしますね。
ここでの自分たちの任務は、どのようになっているのでしょうか?
いきなり配置されたので、詳しい説明を聞いていないのですよ」

ニコニコと笑って問う、その女性を善行は無表情に眺めてから、答えた。

「貴女たちには、この小隊が小隊として成り立つまでの間の補佐をしていただきたいのです。
・・・この小隊は寄せ集め、しかもまともな戦闘すら経験していない。
そして、その戦闘すらある特殊な対象を前提としたものです」

特殊な対象。

それは幻獣と呼ばれる人類の天敵。

空に浮かぶ”黒い月”とともにそれが現れてからこの数十年間、僅かな数しか活動していなかったのだが、この現在にいたって急激にその数、規模を伸ばし、まさに人類の天敵を冠するだけの動きをみせ始めていたことは、最早、一般人ですら知る事実である。

世界中に展開されつつあるそれは、現在日本において、九州南部を陥落、ここ熊本を本州防衛の最後の砦とするに至っていた。

しかも、それは本州防衛のための時間稼ぎに過ぎなかった。
それを守るのが、14歳から17歳までの徴集年齢に達していない子供ということからもそれは明らかだった。

その上、異星人の襲来やら、地下勢力のことまで軍は考えなければならなかった。

にもかかわらず、人同士の争いが続いている・・・

状況は極めて不利・・・いや絶望的だった。


「倉田少尉、川澄少尉・・・ここでは、少尉のことを百翼長というので以後はそう呼ばせていただきますが・・・貴女方はとても優秀なパイロットです。
そう、あらゆる事態を想定しうる能力を持った、極めて優秀な」
「・・・・・」
「そんなことはありませんよ。舞は、川澄百翼長はともかく、自分は頭が悪いパイロットですから」
「ははは。謙遜しなくてもいいですよ。・・・そうでなければ策略でとは言え、ここには送られてこないでしょうから」

くいっと眼鏡を上げて、善行は言った。

「・・・やはり、芝村が絡んでいるのですか」

佐祐理はやや声のトーンを抑えて言った。

「・・・・・それはさておいて」

善行はそれを肯定も否定もせずに流し、言葉を続けた。

「貴方たちの機体は、テントのすぐ裏においてあります。
見ての通りの貧乏部隊で、ちゃんとした整備場所さえ準備できず、心苦しいのですが・・・」

「構いませんよ。私たちのパーソナルトル―パーは最低限の整備でも十分に扱えるようになっていますから」

その佐祐理の言葉が嘘かどうかは分かりかねたが、心配は無用だと言うことは確からしいと善行は悟った。

「・・・そうですか・・・・それでは、教室に向かうとしましょう。
皆さんに貴女方を紹介します」

そう言って、善行は席を立った。


「芝村に挨拶はない」

そう言って目の前に立つ少女に、少年・・・速水厚志は苦笑した。
それこそが少女・・・芝村舞にとっての挨拶なのだと知るのには時間がかかったが。

二人は、二人のすぐ横に建つ脆そうな・・・いや事実脆いのだが・・・・プレハブ校舎の生徒・・・正確に言うなら、そこで戦いの技術を学ぶ、第5121独立駆逐戦車小隊に所属する学兵だった。

「おはよう芝村。あいかわらずだね」

厚志は、その人の良さそうな顔に笑顔をのせて言った。
それに対し芝村はいつも淡白な(少なくとも人にはそう見える)表情をのせた顔をわずかに不機嫌にさせて答えた。

「・・・私はその言葉に悪意を感じるのだが気のせいか?」
「気のせいだよ。僕が君に悪意を持つなんてことはないよ」
「・・・そうか、そうだな。
我らはパートナーだ。
パートナー同士がいがみ合うことには何の得もない。
少なくとも、今はそう思うことにしよう」
「ずっとそう思ってくれると嬉しいんだけど」
「・・・そなたは意地が悪い。
すぐ私をからかう・・・だから、この場限りだ」
「そんな、誤解だよ」

情けない表情で厚志が許しを乞おうとした時だった。

「おや、速水くんに芝村さん。おはようございます」

小隊長室から善行が舞と佐祐理を連れて出てきたのである。

「あ、おはようございます」

ぽややんな表情で厚志は頭を下げた。
それに対するかのように、芝村はいつもの表情で問い掛けた。

「・・・千翼長。一つ尋ねるがいいか?」
「はい、なんでしょう」
「そっちの二人は何者だ?」

芝村らしい、実に簡潔な質問だった。
それに心の内だけで苦笑しつつ、善行は答えた。

「HRで紹介しようと思っていたのですが・・・まあ、尋ねられた以上答えるべきですかね。
こちらは倉田佐祐理百翼長、そして川澄舞百翼長です。
私達の補佐として連邦軍より派遣された・・・パーソナルトル―パーのパイロットです」

「パーソナルトル―パー?」
「そなたは知らないのか?対異星人用に開発された人型兵器の総称だ」
「その通りですよ。・・・はじめまして、倉田佐祐理といいます」
「・・・川澄舞」
「速水厚志です」
「舞という。芝村をやっている」

芝村、という言葉を聞いたとき、佐祐理の表情が微妙に変わった・・・がそれは一瞬のことだった。
すぐにいつもの笑顔を浮かべていた。

「舞さんですかー。同じ名前だね、舞」
「・・・はちみつくまさん」
「・・・・・なんだ、それは」
「あ、これはですねー、昔、ちょっとだけ無愛想な舞に可愛いことを言わせて見たいと思ったある人が”はい”ならはちみつくまさん、”いいえ”ならぽんぽこたぬきさんと言うようにといったのがすっかり染み付いてしまったんですよー」
「そうなんですか。・・・この際だから芝村もやってみたら?」

ニコニコ笑って厚志は言った。
その笑顔に邪気や悪意はない。
・・・少なくとも、そう見える。

「・・・そなたは私を馬鹿にしているだろう」
「そんなことないって。・・・心配なんだよ。
芝村は、人から悪く言われてばかりだから」
「・・・前も言ったぞ。気にするな。言いたい者には言わせておけばいい」
「そうですよ」

それに佐祐理が同意した。
・・・自分の傍らに立つ親友も、そうだったから。

「それにいざとなったら、佐祐理たちも舞さんの味方をさせていただきますから。
ねー舞?」
「はちみつくまさん」
「・・・・・・・感謝する」

芝村は二人を交互に見やってから、いつもの表情で答えた。
・・・だが、厚志にはその表情が少し緩んでいるような気がした。
それが嬉しくて、厚志は笑った。

「・・・どうしました、速水くん」

善行は答えがわかっていながらもそう尋ねていた。

「いえ、なんでもありません。・・・倉田さん、川澄さんありがとうございます」
「何故そなたが礼を言うのだ?」
「なんとなくだよ」

その光景に、今度は佐祐理が笑顔を浮かべた。

「あははーっ佐祐理でいいですよ。速水さん。
なんだか、似たもの同士のようですし」

その言葉を聞いた厚志は芝村を見た後、川澄舞と佐祐理を交互に見た。
すると、納得した様子で佐祐理に笑いかけた。

「そうですね」

・・・その時だった。

芝村、厚志、善行の表情が曇った。
その理由を佐祐理は尋ねようとしたが、その必要はなかった。

その辺り一帯にサイレンが鳴り響き始めたのである。
・・・それは一般兵士に向けての幻獣出現の合図だった。

この、第5121独立駆逐戦車小隊の人間の左手には、多目的結晶という情報媒体が埋め込まれていて厚志たちはそれにより、いち早く幻獣の出現を知ったのだ。

・・・佐祐理たちがその事実を知るのはもう少し先の話である。

「・・・各自、至急持ち場に」
「分かっている。行くぞ速水」
「うん。それじゃ、また後で」

厚志が舞たちにそう言うのを皮切りに、5人はそれぞれの戦場へと走り去った・・・!





所変わって、新宿・・・さらに言えば、東京湾。
そこに浮かぶゴミで形成された島の上に子供たちがいた。

・・・彼らは社会科見学のために、普段なら近づくこともないであろうそこにやってきていた。

その中に、彼はいた。
天海護・・・小学三年生。
彼こそ、これから始まる”戦い”の鍵を握る者だとはこの時点では誰も知らなかった。
・・・本人でさえも。

護は、その辺に落ちていたロボットのおもちゃを無造作に拾った。

「・・・もったいないなぁ、まだ遊べるのに」

・・・その時だった。

護は言い知れぬ悪い予感を感じ取った。
その瞬間だけ、茶色だった彼の髪が緑色に変化した。

「なんだろう・・・すごく悪い予感がする・・・・」

その次の瞬間だった。

地面が揺れる。
それに慌てふためく、少年たち・・・
しかし、さらに驚嘆すべき出来事が彼らを襲った。
ゴミで形成された地面・・・それを融合させながら、一つの巨大な影がそこに出来上がっていったのだ・・・・・!



同じ頃、宇宙開発公団では・・・


『グルオオオオオオオオンッ!!』

宇宙開発公団・・・その中の何処かにある格納庫で、一体の”存在”が自分を縛る鎖を引きちぎり、その姿・・・ライオンの姿を模したロボット・・・・に相応しい叫びをあげた。

その異常はすぐさま、宇宙開発公団のスタッフに伝えられた。
・・・ごく一部の、スタッフに。

そのスタッフの一人に彼はいた。
・・・先日、ブライトたちと話していた、大河幸太郎その人。

彼は自身が常に持ち歩いている、時代遅れのポケベルの放つ異常に気付いた。

「・・・どうなされました、総裁」

大河は自分の”表の顔”・・・宇宙開発公団・総裁の秘書をしている彼女、磯貝桜に問われて、こう答えた。

「いや、ちょっとね。すまないが急用ができたので失礼するよ」
「・・・はい」

大河は彼女を置き去りに、自身の持ち部屋たる総裁執務室に入るとそこに隠された装置を作動させた。
すると、彼の机の周辺だけがエレベーターのように下降を始めた。
・・・その行き先は地下・・・海底に隠された”施設”の中核を担う場所。

「モーニング、諸君!」

そこに到達した大河は、そこに居並ぶ優秀なスタッフたちに呼びかけた。

彼らは、宇宙開発公団の地下に作られた基地・・・その持ち主たる地球規模の防衛組織の一員であった。

その組織の名は・・・”ガッツィー・ジオイド・ガード”・・・GGG(スリージー)・・・!

「映像、メインモニターに移します!」

GGGオペレーター・卯都木命(うつぎみこと)がそう言ってパネルを操作すると、メインモニターに、その映像が映し出された。

機械仕掛けのライオン・・・そう形容するしかない、その存在が格納庫の中で暴れていた・・・

「・・・ギャレオンが・・・・」
「二年間、まったく動こうともしなかったのになあ・・・」

そう呟いたのは白髪と白髭が印象的な獅子王麗雄(ししおうれお)博士。
先日、祐一たちと共に戦った、サイボーグ獅子王凱の父親でもあり、このGGGの中心人物の一人でもある。

「一体、何故・・・?」

大河がそう言ったときだった。
・・・外部からの通信がいきなり入ってきた。

「おい!緊急事態だ!」

その通信の主は、GGG参謀、火麻激(ひゅうまげき)その人だった。
その容姿はモヒカン頭のおじさんといった感じだ。

彼は、東京湾上空をヘリで飛んでいた。
そして、彼の見たままのものがGGGのスクリーンに映し出された。

それは、東京湾を突き進む、家電製品のゴミで形成された馬型の頭部をもった巨大ロボットだった・・・・!




その姿は、東京湾上に停泊していたアーガマからもはっきりと確認できた。

「なんだ、あれは・・・!?」

格納庫でゲシュペンストの整備をしようとしていた祐一が声を上げた。

「・・・機械獣か?」
「いえ、今までにあんなタイプの機械獣は存在していないわ」

北川の呟きに香里が答えた。
彼らも、それぞれの機体の調整をしようと格納庫にやってきていたのである。

「・・・とするとあれが宇宙開発公団の方がいっていたまったく新しい脅威なんでしょうか?・・・って、祐一さん!何処に行くんですか?!」

アイス片手の栞の視線の先には、この場から走り去る祐一の姿が映った。
その行き先は・・・彼の愛機たるゲシュペンスト・R・α。
祐一がゲシュペンストの足元のパネルを操作すると、ゲシュペンストの胸部からワイヤーが射出された。
コックピットに上がるためのそれに足を引っ掛けると、その重量に反応してワイヤーが一気に巻き取られ、コックピットの位置で止まる。
祐一は手早くハッチを開けると、コックピットに滑り込んだ。

『・・・何処に行くかって、決まってるじゃないか。あいつを叩きのめしにだよ』

わざわざ外部スピーカーで告げて、祐一は動作確認を開始した。
その祐一の前方に通信ウィンドウが展開される。

『相沢!まだ命令は出ていないぞ!』

祐一は動作確認のため、画面は見ていなかったが、それがブライトである事は声ですぐにわかった。
「・・・すみません。じゃ、今命令を出してください」

いけしゃあしゃあと祐一は言った。

『相沢!』
「・・・お怒りはごもっともですが、ぐずぐずはしてられないことは明白でしょう。
だから、行かせてください」
『俺も賛成だぜ』
『相沢の判断は正しいですよ、艦長』

その声とともに新たなウィンドウが展開された。
声の主は兜甲児とカミ―ユ・ビダンだった。
すでに彼らは出撃準備を終えている。

『命令が軍で大事だってのは分かる。
でもなあ、それだと守るものも守れやしない。
ブライトさんだってそれは分かるだろ?』
『俺たちが”そういう”部隊だってのは艦長が一番分かっているはずです』

その二人の言葉にブライトは表情をしかめたが、いらいらしげに頭を掻いて告げた。

『・・・勝手にしろ!』

プツン・・・とウィンドウが閉じた。
それが、合図だった。

「よし・・・!ゲシュペンスト・α出るぞ!
皆退いてろっ!」

ゲシュペンストのメインカメラが紅く点灯し、ゲシュペンストがゆっくりと動き出した。
それにあわせるように、マジンガ―Z、Zガンダムが同様に動き出す。

ガシュン・・・

「うわっ!相沢、気をつけろ!!」

足元の北川の叫びは無視しておく。

「・・・相沢祐一、行くぜ・・・!」
『マジーン、GO!』
『Zガンダム、出る!』

それぞれの言葉とともに三機は出撃して行った。
・・・格納庫に惨状を残して。

「・・・・・あいつら、後でぶちのめす・・・・!!」

ロンドベル隊のメカニック、アストナージが拳を震わせて呟いた。
彼の眼前には発進の際に散らばり、散乱した整備道具やMSのパーツが広がっていた。
・・・これでは少しの間発進はできそうになかった。

「・・・その時はあたしも混ぜてもらうわ、アストナージさん」
「・・・俺も参加させろ」
「・・・アイスが・・・私のアイスが・・・許せないです・・・・・!」

同じく発進のとばっちりを受けて、髪をぐしゃぐしゃにさせた香里と北川も拳を握り締めていた。
その横で埃まみれになったアイスを見て涙ぐむ栞の拳も怒りに燃えていた。

「・・・・・皆なに怒っているのかな?」

三人が発進した後で格納庫に降りて来た名雪にはわけがわからず、ただ首を傾げるばかりだった。





三人は現場に到達すると、それぞれの機体で”それ”を取り囲み、行く手を遮った。

「しっかし、きもちわりぃ奴だぜ・・・機械なのは間違いねえが・・・」
「それでいて、有機体の様な動きをしている・・・確かに未知の敵だな。
三年前の大戦で戦った”使徒”に似た印象はあるが・・・」
「そういやそうだな。あれは嫌な敵だったよな、カミ―ユ」
「・・・んなことを言ってる場合じゃないぞ、二人とも」
「ああ、分かってるって、相沢。さっさと攻撃しろってんだろ?」
「・・・・・いや、そういう場合でもないんだ。
あのデカぶつの尻の辺りを見てみてくれ。
見えないんなら映像も回す」

それに気付いて、二人は愕然となった。

”それ”が融合したモノはゴミの島の電化製品だけではなかった。
どうやら近くの船を取り込んでいるようで、しかもそれには数人の子供が乗っているようだった・・・

「ち・・・どうする?」
「誰かが囮になって、その隙に子供を助けるしかないな」
「それじゃ、俺が囮になるぜ」

そう進言したのは、甲児だった。

「俺とマジンガ―はそういう細かい作業には向いてないしな。囮の方が楽そうだ」

本当は楽ではない仕事だと承知した上での言葉だと、二人は理解していた。
だが、ここで”危険”について論議をしている時間もなかった。

「・・・了解した。なら俺が子供たちを助ける」
「俺は?」
「祐一は甲児さんの手伝いを頼む。・・・行くぞ!」
「おう!」

一声咆えた祐一は、ゲシュペンストの操縦に意識を向ける。
ゲシュペンストは、フルスピードで”それ”に向かって突っ込んでいく。
その腕にはロシュセイバーが構えられていた。

(これでまず、腕を両断してやる!)

しかし、祐一の思惑通りにはいかなかった。

”それ”は祐一が狙っていた腕を上げて、祐一に向かって突き出した。
その先には・・・・・何百台もの電子レンジ・・・・・!

「・・・・なに・・・・・・?」

そう呟く隙に、それは解き放たれた。
電子レンジで構成された”手”から一筋の光が打ち出されたのである・・・!

「くっ!!」

ギリギリでそれ・・・電子レンジを集積させた荷電粒子砲・・・・をかわす祐一。
だが、ゲシュペンストの後方にいたマジンガ―は反応が遅れてかわせない・・・!!

「兜さん!」
「んなろっ!ブレストファイヤー!!」

マジンガ―の胸部から凄まじい熱量の熱線が吐き出される。
光と熱のぶつかり合い・・・それに勝者はなく、お互いの攻撃を無力化させるに留まった。

そのぶつかり合いの衝撃は、”それ”に巻き込まれた子供たちに余波を与えた。

「うわっ!!・・・華ちゃん大丈夫?!」

護は近くにいた少女に呼びかけた。
少女・・・護の幼馴染である初野華は護の声も聞こえない様子で「怖くない、怖くない・・・」と自分に言い聞かせることで、この異常な事態に耐えていた。


その頃、GGGでは。
格納庫に封じられているライオン・・・ギャレオンが何かに反応して激しく暴れ始めた。
その衝撃は、その格納庫を壊すのも時間の問題に思わせるほどで、実際、それほどの衝撃だと計測していた。

「・・・長官、ギャレオンを出そう・・・・」

獅子王博士は何処か諦めた表情でそれを告げた。
長官・・・大河もまた苦渋の表情だったが、表情を引き締めると、命令を告げた。

「三段飛行甲板空母浮上!第三ゲート開け!」



「ロケット、パーンチ!!」

その叫びとともに、鉄の拳がマジンガ―Zから撃ち出された。
その狙いは祐一同様、本体への影響が少なそうな腕だった。

しかし、その一撃は”それ”の皮膚(?)に触れたかと思うと、一瞬にしてその一部として取り込まれてしまった・・・

「なに・・・?!」
「物理攻撃が駄目なら!!」

ゲシュペンストは左手に装備していた、ライフルを解き放った。
だが、それは”それ”が展開したバリアによってあっさり阻まれる。

「くそ、打つ手無しか・・・・・?」

防戦一方の祐一たちは徐々に後退していき、すでに”それ”に上陸を許してしまっていた。
その焦りが祐一を歯噛みさせていたその時。

『・・・そうでもないぜ』

突然入ってきたその通信音声に祐一は顔を上げた。

「誰だ!」
『おいおい、昨日一緒に戦ったじゃないか。もう忘れたのか?』

苦笑しているその声の主に、祐一はようやっと思い当たった。

「昨日の・・・サイボーグか!」



東京湾の一部を繋ぐ橋の上・・・そこに彼はいた。

GGG機動部隊隊長・・・獅子王凱・・・・・!

「その通りだ、相沢君」

凱は都心で行われている戦いを見守りながら言った。
その凱の機械で構成された耳に通信が入る。

オペレーター、卯都木命からのものだった。

『凱、分かってるわね・・・?』

その声は、彼にとって馴染みのある声だった。

「ああ、子供たちの救助・・・任せておけって!」
『・・・気をつけてね』
「ああ、ありがとう。じゃ、行くぜ!・・・・・・・ドリルガオー!!」

凱がそう叫ぶと、地面からドリルを先端に持った戦車のような機体が飛び出した!
あまりに唐突だったので、”それ”にはバリアを展開する暇もなかった。
衝撃にぐらつき、隙ができた瞬間、凱は”それ”に張り付くと、子供たちがいる場所に颯爽と降り立った。

「うわっはー!おじさんかっこいい!!」

その姿に、護は思わず声を上げた。

「おいおい、おじさんはないだろう。これでもまだ二十歳なんだぜ。
まあ、そんなことは今はいい。早く脱出しよう!!」

凱は護や華を始めとする子供たちを抱え上げ、その場から離脱し、近くに待機していたZガンダムの手に飛び乗った。

「すまないが、子供たちを安全な場所に運んでくれないか?」
「了解しました。後は任せてください。・・・皆しっかりつかまっていろよ」

カミ―ユはそう告げると、子供たちを落とさないようZの手で包むと、即座に戦線を離脱した。
本来ならコックピットに乗せるべきだったが、この戦場においてそんな暇はなかった。
その手の中で、護はそれを見た。


ガオオオオオオオンッ!!


何処からともなく飛来してきた、ライオン型のロボットの姿を。

「なんだろう、はじめてじゃない・・・あの、ライオンどこかで・・・・・?」

護は何故か湧き上がる、その感覚に動揺するしかなかった。
今は、まだ。



そのライオンは一目散に”それ”に突っ込んでいった。
その勇猛なるタックルはバリアによって阻まれた。

弾き飛ばされながらも、ライオン・・・ギャレオンは体勢を整え”それ”に向き合った。

「また、変なのが・・・あれは味方なのか・・・?」

ゲシュペンストとマジンガ―Zもその間に体勢を整え、それぞれの武器を構えていた。
二体とも、それなりに傷を追っていたが、戦闘不能と言うほどではなかった。

「味方だろ?あいつに向かっていったじゃねーか」
「・・・・・・兜さん・・・」

甲児の発言に祐一が呆れていると、その答は凱から返ってきた。

「あれは、味方さ。その証拠を見せる・・・!ギャレオ―ン!!!」

凱がそう叫ぶとギャレオンがその声に応え、凱のもとへと接近した。

「フュージョン!」

ギャレオン・・・その口の中に凱は迷うことなく飛び込んだ。
すると、ギャレオンの形状が、ライオンから人型へと変化した!!

「・・・ガイッガ―!!」

サイボーグ・獅子王凱はギャレオンと融合・・・フュージョンすることにより、メカノイド・ガイガーに変形するのだ・・・・・!!

「・・・おお、すげー・・・・!」
「よっし、こっちも負けてられねー行くぞ相沢!!」
「おう!!」

ゲシュペンスト、マジンガ―Z,ガイガーの三体が三方向からの同時攻撃を仕掛けた。

しかし敵もさるもの。
その攻撃をバリアを展開することにより防ぐ。
攻撃を弾いた際の瞬間の隙を見いだし”それ”は電磁ムチを自身の身体を変形させて生み出し、繰り出した。
その標的は、この中では一番スピードに劣る、マジンガ―Z。
その攻撃は予想できなかったのか、マジンガ―はそれにあっさりと捉えられてしまう。
”それ”はムチを巻き付かせたマジンガ―に電気ショックを与えながら、振り回し、そのままそれをゲシュペンストに叩きつけた!
祐一は避ける事もできたのだが、あえてそうせずマジンガ―を受け止めた・・・が勢い余って、2体揃ってビルに叩きつけられた。

「・・・すまねえ、相沢!」
「気にしなくてもいいですよ。・・・ただ・・・・しばらくは動けそうにないですけどね」

電気ショックと高度からの落下による衝撃でゲシュペンストは動作不良を起こしていた。

「・・・・・アーガマの方の援軍はまだみたいだし・・・あとはあいつに任せるしかない・・・・・!!」

祐一は悔しさからコンソールに拳を叩きつけた。
すると。
コンソールはその怒りに応えたのか、いきなりその動作を復活させた・・・



ガイガーもまた苦戦していた。
その素早さをもってしても、放たれる荷電粒子砲や電磁ムチをかわすのが手一杯で、攻撃に移れなかった。
そして、それにも限度があった。

一瞬の油断・・・それは戦いの中では避けがたい事象だ。
その一瞬を敵は見逃さないこともまたそうだ。

電磁ムチがガイガーの首に巻きつき、凄まじい電気の波がガイガーを襲った・・・!

「ぐああああっ!!くそ・・・こうなったら・・・・・!」

意を決して、凱はそのシグナルを解き放った・・・・・!



GGG基地・・・そこに、そのシグナルは届いた。

「・・・ガイガーからファイナルフュージョン要請シグナルが出ています!」

命の叫びがGGGの中心たるメインオーダールームに響いた。

「EI-02・・・まさかこれほどとは・・・・
・・・・・博士、ファイナルフュージョンの成功確率は・・・?!」

大河の問いに博士は首を振った。

「・・・限りなくゼロに近い・・・・」

しかし、このままでは打つ手がないのも事実だった。
大河は意思を込めて、叫んだ。

「・・・成功率とは、ただの目安だ。
    後は勇気で補えばいい!!
ファイナルフュージョン承認!!!」

強引・・・そう言ってしまえばそうなのかもしれない。
だが、その言葉を形にするのにどれほどの勇気が、信頼が必要とされるか・・・・・

そのことを、この場のメンバーは理解した。

だからこそ、信じて、実行する・・・!

「ファイナルフュージョン・・・!
プログラム・ドライブ!!!」

命はそう叫ぶと、手元のファイナルフュージョンを起動させるボタンをそれを守るガラスごと、叩き押し、起動させた・・・!!



ドオンッ!!

その一撃・・・ゲシュペンストの最強兵器であるところのブラスターキャノンが火を吹いた。
完全復旧していないために不安定なその狙いをマジンガ―Zが固定し、放ったその一撃はガイガーを捕まえていた電磁ムチを貫き、破壊した。

「サンキュー!相沢君、兜君!
行くぜ・・・・・ファイナル!フュージョオオオオオオオオン!!」

”それ”・・・EI-02から逃れたガイガーの腰部から何かの霧のようなものが吐き出され、巨大な竜巻を作り上げる・・・!

それはEI-02を押し戻し、その竜巻の外へ追いやった。

その中に、三つのメカが飛び込んでいく。

一つは先程のドリルメカ・・・ドリルガオー。
一つは新幹線の形をしたもの・・・ライナーガオー。
一つはステルス戦闘機の形をしたもの・・・ステルスガオー。

それらがガイガーの周りを旋回する間に、ガイガーの形状が変化していく。

腕の部分は後部へとスライドし、腰から下の部分は一回転していく・・・

そのガイガーの足にドリルガオーが装着され、より強い足を構成する。
腕の部分がスライドされた後にできた空洞・・・そこにライナーガオーが滑り込み、肩の部分を構成する。
ステルスガオーは、ガイガーの背面に装着され、そのエンジン部が前方に出されていく。

エンジン部は、肩部となったライナーガオーからのパーツと繋がることにより、新たな腕を創り出した。
そのエンジン部から、拳が回転しながらせり出し、固定される。

そして。

ガイガーの頭部にステルスガオーからのパーツ・・・頭部装甲が装着される。
頭部装甲内部からガイガーの顔面を守るフェイスガードが現れ、ガイガーの顔面を覆った。
紅いセンサーアイがきらりと意思を示すように輝く。
その上部の空洞に、ガイガーの頭部にも輝いていた緑色の物体・・・Gストーンがせり出し、一際強く”G”の文字を示して輝いた・・・!

「ガオッ!!」

両拳を激しくぶつけると、そこから有り余る力を示すようにエネルギーがスパークした・・・!

「ガイッ!」

その拳を離し、両腕を左右に広げ、雄雄しく立つ・・・!

「ガアアア!!」

今ここに。
最強の勇者王が誕生した。

その名は。

勇者王、ガオガイガー・・・・・!!

竜巻が晴れた後に見せたその姿に人々は目を見開いた。

黒を主体とした、 威風堂々としたその姿はまさに勇者王の名に相応しいものだった。


「・・・あれが、あのライオンの本当の姿か・・・・・」
「かっこいいじゃねーか・・・・・」

その姿に、思わず祐一や甲児は見惚れてしまっていた。


ガオガイガーとEI-02。
2体は静かに対峙していた。

・・・先に動いたのは、EI-02の方だった。

腕に仕込んだ荷電粒子砲を撃ち出す・・・が、しかし。

「プロテクト・シェエエエエエドッ!!」

ガオガイガーが左腕を突き出した先に不可視のシールドが展開される。
そのシールドに阻まれたエネルギーはその場に五紡星を描き・・・

「フンッ!!」

その形のまま弾き返された・・・!!

そのエネルギーはEI-02自身を弾き飛ばした。
が、大したダメージはないようだった。

「これならどうだ!」

ガオガイガーが右手を掲げる・・・すると、右手の肘から下の部分が高速回転を始めた。
その回転が、拳を回転させているとすら判別できないほどに高まると・・・!

「ブロウクン・・・マグナムッ!!」

その叫びとともに、ガオガイガーはその拳を撃ち出した・・・・・!!

EI-02は慌ててバリアを展開するが、拳・・・ブロウクン・マグナムは徐々にそのバリアを押し返し、ついには破壊した。



「まずいっ!」

甲児が声を上げた。
マジンガ―Zのロケットパンチはこの状況でEI-02の中に取り込まれてしまったのである。
しかし、兜甲児のそれは杞憂に過ぎなかった。
動力系に特殊なエネルギーを組み込んでいるガオガイガーの攻撃は、EI-02に取り込まれることなく、その頭部を貫き、破砕した!

だが、それも一瞬のことだった。

EI-02が瞬時に頭部を再生させたのだ・・・!



「・・・よし・・・・・それなら・・・・・・!!」

ガオガイガーはそう言うと、両腕をバッと左右に開いた。

「・・・ヘル!アンド、ヘブン!!」

左右の腕それぞれにエネルギーが高まっていく!

攻撃のための力と、
防御のための力。

それぞれを限界まで高め・・・・・

「・・・ゲム、ギルガン、ゴーグフォー・・・・・フン!」

それを突き出すように組む・・・!!

その際に生み出されたエネルギーの渦がEI-02を固定する!

そこに向かい、ガオガイガーが自身の推進力を全開にして突っ込んでいく・・・!

「うおおおおおおおっ!!」
ガオオオオオオッ!!

二つの咆哮が一つになった時。

一つとなった拳が、EI-02を貫いた!

「ふんっ・・・てりゃあああっ!!」

貫いた拳を引き抜くと、その中には紅く発光する球体・・・EI-02の核(コア)が握られていた。
それを高々と空に掲げた瞬間、EI-02は爆発、四散した・・・!

その爆発の中。
ガオガイガーは自身が握ったコアを握り潰そうとした。

それは、彼らにとっては当然のことだった。
地球を混乱に陥れる存在の核を破壊するというその行為は。

その一部始終を見ていた祐一達もそう思っていた。

だが。



「それを壊しちゃだめええええっ!!」

その声とともに。
ガオガイガーの眼前にそれは飛来した。

緑色に発光し、妖精の様な翼を広げた、額にGの文字を浮かべた少年・・・護。

「・・・なんだ、あれは・・・・・?」

ゲシュペンストのメインカメラが写す光景を、祐一はただ呆然と眺めていることしかできなかった・・・・・





ちょうど、その頃、熊本では。

「・・・・・・・射撃はあまり得意じゃないんだけど」

そう呟いた舞が乗る機体、アルトアイゼンの腕に装備された三連ガトリングが火を噴いた。
それは目の前の敵を破壊し、その肉片を撒き散らした。
その隙に背後に寄った敵もいたが、振り向きざまの頭部のヒートホーンであっさりと斬り捨てられた。
敵・・・すなわち、幻獣。
その生体が如何なるもので、何処から現れるのかなど不可解な点は多々あったが、今はどうでもいいことだった。

舞にとっては、自分の目の前に立つものを断つ・・・ただそれだけのことだから。

「・・・邪魔です」

冷淡な表情で佐祐理の機体・・・ヴァイスリッターが敵陣の上空を飛翔しながら、構えた銃・・・オクスタンランチャーから弾丸を解き放つ。

その一発一発は恐ろしく正確無比だった。

いつも笑顔の佐祐理だが、命のやり取りをしているときに笑ったりはしなかった。
自分の命、仲間の命、敵の命・・・そういった事を思えば、人として当たり前のことだった。


・・・だが。


中には、例外も存在する。
舞達と同じ戦場・・・幻獣の群れが徘徊するその中で、彼は笑っていた。

「・・・速水、二時の方向、300メートル先でミサイルを発射する。
そこまでの敵の排除、回避運動を頼む」
「任せて、芝村」

人型戦車、士魂号・複座型・・・騎魂号。
二人乗りのそれに乗るのは、速水厚志と芝村舞。
厚志は機体の動作担当、芝村舞は砲手担当だった。

芝村舞の指示に従い、その方向へと向かう騎魂号を遮る幻獣の攻撃を、厚志は時に攻撃し、時に只かわしながら掻い潜って行った。

その顔は、笑っていた。

当人が意識してのものか、はたまた無意識のものか・・・それを知るのは彼自身のみだが、どちらにしても常軌を逸していると普通の人間なら思うだろう。

・・・彼がその問題点に気付かされるのは暫し先の話である。

それはともかくとして、彼らの操る騎魂号は確実にそのポイント・・・ミサイル発射の絶好のポイントへと進んでいった。

「・・・はえ・・・・大したものですねー」

その動きを見て、佐祐理は思わず感嘆の声を上げた。
人型の士魂号系列の機体は、人に限りなく近い動きをする点においては他の追随を許さない存在だとは聞いていたが、それをここまで活かす事ができるものなのか・・・

「・・・さすがに、芝村が利用しようとする機体ではあります・・・・キャっ?!」

そう呟いた佐祐理の機体に振動が走った。
反射的に回避運動を取っていたからいいようなものの、下手をすれば直撃だった。

その様子を指揮者から見ていた善行が口を開いた。

「・・・おかしいですね・・・パーソナルトル―パーのレーダー圏外から距離から攻撃できる幻獣はいなかったはずですが・・・・・・・まさか!?」

・・・その善行の予感は当たっていた・・・・

長距離射程の攻撃を可能とする、熊本に出現する幻獣の中では最大の大きさを誇るスキュラ・・・それが増援として現れたのである。

・・・しかも、よりによって、騎魂号の進行方向上に。

「速水!緊急回避だ!スキュラの射程に入った!!」
「そんな・・・?!もうプログラム入力完了してるよ!」
「だったらそれを組みなおせ!死にたくないのなら!!」
「くっ・・・・・・!!」

速水は騎魂号に打ち込んだプログラムを白紙に戻し、再度組みなおそうとする・・・
だが、それよりも早く、スキュラの攻撃のエネルギーが再充填された・・・!!

舞たち友軍もフォローに回ろうとはしていたが、自身の戦闘や距離的な問題でそれができる状況ではなかった。

万事休す・・・!

誰もがそう思ったその時。


ドゥウンッ!!


凄まじい砲撃音が響いたかと思うと、その一撃はスキュラを貫通し、その一撃のみで葬り去ってしまった。

援軍かと、誰もが思った。


だが、そこにいたのは誰の予想もつかない存在だった。

佐祐理のヴァイスリッターの遥か後方・・・そこにその存在は飛行していた。

黒い翼を広げたそれは、祐一たちを襲い、かつて彼らの町を滅ぼしたとされている”黒いヒュッケバイン”だった・・・・・



・・・・・続く。



次回予告。

厚志たちを救った”ヒュッケバイン”は謎の言葉を残して去り、
ガオガイガーの前に現れた少年もまた姿を消した。

目の前に積み重なる謎。

それを解決させまいとするかのように新たな脅威が祐一たちを襲う・・・!

初めてのニンゲンとの戦いに祐一たちは何を思うのだろうか・・・?


次回、”ホントウ”の戦場。

乞うご期待はご自由に。





第五話へ

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