Kanon another1”snowdrop”第20話



Free〜沢渡真琴〜

「あなただけは許さないんだからっ!」

それが、祐一との出会いだった。
でも、そうじゃないような気もする。
どうでもいいか。

ともかく、私は祐一が憎い。
理由はわからない。
きっと昔の私と祐一が知り合いで、すごくやなことをされたんだと思うの。
そうとしか思えない。
祐一が意地悪じゃなかった時なんかあんまりないし。
だから、復讐しなきゃ。
そうすれば、きっと、記憶だって戻る。
でも、そうなったら・・・どうなるんだろう?

「あう〜・・・・」

難しいことを考えてると頭が痛くなってくる。
難しいこと・・・それはもちろん、祐一への復讐の方法。
でもいつも気付かれちゃうのよね。
今日はどうしようかな・・・

「どうしたの?真琴」

秋子さんが話しかけてきた。
祐一に復讐しようとした時は怒られちゃうけど、秋子さんは嫌いになれない。
祐一と違っていつもは優しいから。

「え・・・と、その、ちょっと考え事してたの」
「そう。・・・程々に、ね」

にっこりと微笑んで秋子さんは言ったの。
あう〜まるで全部わかってるみたい。
あ、それなら、祐一の弱点も知ってるかも。

「ねえ、秋子さん」
「なあに?」
「祐一の苦手なモノって知ってる?」
「どうしてそんなこと聞くのかしら?」
「えと、その、こ、今度、祐一に何かあげようかな〜って。
嫌いなものを知ってたら、それを買わなきゃいいかな〜なんて」

我ながら、いい言い訳。
でも秋子さんに嘘はつきたくないな。
それもこれも祐一のせいよっ。
この分もきっちり復讐しなきゃ。
そんな風に私が色々考えてると秋子さんは言ったの。

「真琴は祐一さんのこと、好きなのね」
「そ、そんなこと絶対にない〜!」
「あら、そうなの?てっきり仲良しだとばかり」

秋子さんは頬に手を当てて、首を傾げたの。
やっぱり、本当は何も分かってないのかな?

「そうよ〜。大体、祐一が真琴のこと嫌いなんだから仲良しにはなれないのっ!」
「祐一さんは真琴のこと、嫌ってなんかいないわ。本当に嫌いなら、祐一さんは相手にもしないんじゃないかしら」

・・・よくわからない。
嫌いだから、意地悪するんじゃないのかな。

『あなたなんかだいっきらいよ!!』
『ああ、俺もお前なんかいない方が気楽でいいよっ!』

ぺらぺらとページをめくっていく。
自分の部屋で肉まんを食べながら、漫画を読む時が一番幸せなの。
ちょっと肌寒い気もするけど、気になんかならない。

『私・・・やっぱり、あなたのこと好き。どんなに意地悪でも、好きなものは好きなのよっ悪いっ!?』
『お、おれだってそうだよっ悪いかっ』

・・・変なの。
好きだから、意地悪してたの?
少しでも構って欲しいから?
好きなら好きって最初から言えばいいのに。

「変なの」

もう一度、確認するように言ってみた。

「なにがだ?」

いきなり声がして、私はびっくり。
慌てて、横を見ると祐一がいたの。
しかも私の肉まん食べてるし。

「祐一っ、いつの間に入ってきたのよぅっ!!」
「ずっといたぞ。その集中力をもっといいことに使えよな」

いつもの、意地悪な祐一だ。
ああ、むかむかする〜。
でも、その時真琴はさっきの漫画を思い出したの。
”好きだから、意地悪する”
私はなんとなく祐一の顔を眺めた。
顔を見てるとむかむかする。
そう思っていた。
でも、むかむかするっていうより本当は・・・
ううん、そんなことないっ。
私はなんだか悔しいような気がして、何か言い返そうとしたの。

「あのねっちゅんっ」

そしたら、言葉と一緒にくしゃみがでちゃった。
案の定、祐一はにやりと笑ったの。

「マコピー語か?」
「なによ、それっちゅん!!」
「おお、またしても」
「あうーっっちゅんっ」

風邪ひいたのかな・・・少し寒かったような気もするし。
鼻水も出てきたし。
う〜最悪〜。

「ったくなにやってんだか。・・・もう、今日は寝てろ」
「え、な、なによ。なんかたくらんでるでしょ」
「ばーか。お前ほど、俺はガキじゃないんだよ。病人相手に変なことできるかよ」

そう言って立ち上がったかと思うと、祐一は毛布を持ってきて、私の肩にかけたの。
ふんわりと、優しく、私を包む。

「あ・・・」
「まだ寝たくないなら、せめてこうしてろ」

それだけ言うと、祐一は私の部屋から出ていこうとした。
その背中を見て、私は声をかけていた。
こういうのを反射的にって言うんだったと思う。

「ゆ、祐一はっ」
「ん?」

少しだけ振り返る祐一。

「私のこと、嫌いじゃないのっ」

そしたら祐一はさもくだらなそうに頭を掻いて言った。

「あのな。誰がいつ、そんなこと言ったよ」
「え」
「じゃあな」

それだけ言うと、祐一は部屋から出ていった。
後には何が何だか分からないでいる私だけが残った。


「あう〜」

結局昨日は復讐できなかった。
風邪だったのもあるけど、祐一の言葉が気になって・・・
って、ちがーう!
私はブンブンと頭を横に振った。

「どうしたの?」

美汐が心配そうな顔で私を見ていた。
あ、美汐はさっき知り合ったばかりの人。
紫雲って奴のいる病院にいま秋子さんときてるんだけど、秋子さんはお話してるから退屈してたの。
その時、遊ぼうって言ってくれたのが美汐なの。
いま会ったばかりだけど、優しそうだから、好き。

「ううんなんでもない」
「そう?・・・その・・・私で良ければ・・・」
「なに?」
「・・・ごめんなさい。なんでも・・・でも・・・その、困ったことがあったらいって・・みて」

美汐はそう言うと、すごく恥ずかしそうにうつむいた。
すごく頑張っていたみたいだ。
そ・・・それなら、何か言った方がいいかな・・・
そんな気がしてきたので、私は話してみることにした。
・・・祐一のことを。

「そう・・・それが、あなたの・・・」
「・・・・・私、分からなくなっちゃった。祐一、ひょっとしたら私のこと嫌いじゃないのかなって、、、
そう思ったら、なんだか私の気持ちも分からなくて・・・
でも、あの時、憎いって思ったのは嘘じゃないと思うし・・・」

こういう難しいことを考えるのは得意じゃない。
漫画みたいに頭から煙が出る位に悩んでると美汐がこんなことを言ってきたの。

「・・・真琴?」
「なに?」
「その・・・祐一さんに出会った時からいままでのこと、思い出してみて」
「え、どうして?」
「何か、分かる。そんな気がするの」
「う、うん。え〜と」

祐一といると、何故かいつもむかむかした。
いつも意地悪で、何考えてるのか分からなくて、変な奴。
でも・・・・・気になっていた・・・?
気になって、むかむかしてた・・・
ううん、ただむかむかしてたんじゃなくて・・・

ひょっとしたら、私・・・

「・・・どう?」
「え?うん・・・わかんないけどわかったような気がする・・・ありがとう」
「そう・・?それならいいのだけど・・・ある人の受け売りだったから、うまくいくかなって思って」

そう言って美汐はほんの少しだけど微笑んだ。
それは秋子さんによく似ていたような気がした。

私はどうしたらいいんだろう。
美汐と別れた私は、秋子さんのいる紫雲の病室に向かいながら考え込んでいた。
私は昔あった何かで、祐一を憎んでいる・・・
でも、今の私は・・・たぶん、祐一のことがそんなに嫌いじゃない。
美汐のお蔭でそれはわかった。
でも、復讐はしなきゃいけないと思う。
過去と、祐一への道標のような気がする。
でも、それでいいのかな。
そうこうしているうちに、私は目的地に着いた。
まだお話してるのかな・・・そうは思ったけど結局待ち切れなくて、ドアを開けてみた。
そこにいたのは、夕日に照らされて真っ赤になった、紫雲だけだった。

「あれ、秋子さんは?」
「ちょっと用事があるからここで待っててだってよ。まあ、ゆっくり待ってなよ」

紫雲は穏やかに微笑んだ。
その微笑みが秋子さんや美汐によく似ていたから、なのか。
気づいたら私は彼にも話していた。
こんなことはいつもなら絶対にないのに。

「・・・・・どうしたらいいのかな、私」

すると紫雲は可笑しそうに笑った。
それが祐一の笑い方に似ていて、私はむかっとした。

「なんで笑うのよぅ」
「いやごめんごめん。可愛くて、つい、ね。
・・・僕は・・・君のやりたいようにやればいいと思うよ」
「え?」
「君が相沢君のことをどう思っているにしても、それが強い想いなのは確かな事だと僕は思う」
「・・・・・」
「だったら、君はその気持ちを自分なりに形にすればいい。
その方法がどんなに馬鹿らしいことでもいいじゃないか。
それをどう表すかなんて事は君の自由なんだから」

私の、自由。
なら。
なら、わたしは・・・


「くすくす・・・」

今日はちゃんと準備してきたのだ。
これが決まれば、祐一は・・・

「こら」
「あうーっ!?」
「ったく、性懲りもないな、お前。いい加減無駄だって気づけよ」
「ふふ、甘いわね。無駄なんかじゃないのよ。ちゃーんと目的があるんだから」
「なんだよ」
「教えなーいっ」
「ほほう、そんなこというのはこの口かっ」
「あうーーーーっ?!」

祐一の顔をみるとむかむかする。

でも、それだけじゃない、と思う。

それが皆が言うような好きだって気持ちなのか、どうかは知らない。

だから、それがわかるまで祐一の側にいようと思う。

苦しい時だってあるだろうし、私はそんなのはいやだけど。

でも。

「痛い痛い〜やめなさいよ〜っ}
「おらおら吐け吐け〜」
「吐かない、吐けない、吐けるかっ」

私が何をやろうと、

私が何処にいようと、

何が幸せなのかを決めるのは私なの。

それだけは。 どんなにいい漫画のいい台詞が幸せの形についてどう言おうと譲れない。

いまここにある、確かなモノだけは。

「ゆずってたまるかーっ」


BGM Free SONG BY MY LITTLE LOVER


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