Kanon another1”snowdrop”第2話
〜少女と、少年と、たいやきと〜
僕は、なんとなくその女の子を見つめていた。
そして、なんとなく目が離せなかった。
その感覚をなんと呼べばいいのか、僕は理解することも思い出すこともできず、ただぼうっとしていた。
すると、女の子は少し顔を赤くしていった。
「う、うぐぅ、そんなに見られると恥ずかしいよー」
「へ?あ・・・ご、ごめん」
慌てて顔をたいやきののった鉄板の方に向ける。
きつね色にほどよく焼けた鯛焼きがなんとも美味そうで、頭の方が三大欲求の一つに向かう。
そのお陰か、僕はどうにか落ち着きを取り戻すことができた。
(どうしたんだ、僕は・・・女の子は苦手なはずなんだけど・・・)
女の子は苦手だが嫌いではない、嫌いではないが接するのは苦手・・・それが僕の当たり前だった。
正直に言えば顔を見ることすら、僕には難儀な事だった。
それなのになんとなくでも・・・見とれてしまっていた。なぜだろう・・・
・・・・・・まあ、いい。深く考える必要はない。どうせこの場限りの出会いなのだから。
僕は気を取り直してメニューを見るべく、目を細めた。
黒あん、白あん、カスタードクリーム、お好み焼きなんてのもある。
それらが湯気をたててならんでいるのを見ていると自然とよだれが出てくるというものだ。
だが、メニューを見たのは建て前のようなものだ。買うものは最初から決まっている。
『黒あん五つください』
二人の声がぴたりと重なった。
思わず僕らは顔を見合わせた。再び、女の子の顔をまじまじと見てしまう。
だけど、今度はさっきのような思いに捕らわれることはなかった。
彼女も僕も思わず笑ってしまっていたからだ。女の子は満面に笑みを浮かべて、言った。
「やっぱりたいやきは黒あんだよね」
「うん、僕もそう思うよ」
僕も少し、慣れない笑顔を浮かべてみる。
・・・にわか仕込みの笑顔ではこの子の笑顔には勝てない・・・なんとなく、そんな恥ずかしいことを考えたりしてしまった。
「はい、お嬢ちゃんの。兄ちゃんはちょっと待ってな。”れでぃふぁーすと”って奴だ」
鯛焼き屋のおじさんが、鯛焼きの入った袋を女の子に手渡した。
「わーっ、ありがとう!!ごめんね、先にもらっちゃって・・・」
「れでぃふぁーすと、だからね」
「うんっありがとう!・・・祐一君に爪の垢でも飲ませたいくらいだよー」
「ゆういち?」
・・・その名前は何処かで聞いたような気が・・・・・・・
と僕が思いだそうとしていたその時、おじさんの声が横から聞こえてきた。
「えーと、全部で400円だな」
ぴしっ。
さっきまで嬉しさで飛び上がらんばかりだった女の子の動きが止まる。
(・・・まさか・・・とは、思うけど・・・・・・)
思考を一時停止し、隣の様子を見やる。
女の子はじりじりと後ずさりながら、僕とおじさんの顔を交互に見て、
「・・・ごめんなさいっ」
と頭を下げてから、僕らに背を向け・・・・・走って逃げた。
・・・・・・・って、に、逃げたっ?!
これはもしや食い逃げという犯罪では?
その現場を目の当たりにして僕は愕然となった。
「おおい!兄ちゃん、追いかけてくれよっ!!」
「へ?ぼく・・・?は、はい?!」
完全に傍観者となっていた僕はその声で半分我に返り、慌てて、その後を追った・・・・・・・
続く。
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