華音ライダー龍騎 第十一話 騒乱の日
「ぐあっ!!」
サイ型モンスター……スティルライノスの腕の一振りに弾き飛ばされた北川……龍騎は道端に停まっていた車に叩きつけられ、地面に転がった。
「……く、そ……」
「あらら。痛そうね。でもま、これもライダーの宿命という事で」
言いながらガイはしゃがみ込むと、痛みから動けずにいる龍騎のデッキからカードを一枚引き抜いた。
次の瞬間。
龍騎のボディカラーが真紅から青黒いものに変化……いや『戻った』。
それは、モンスターとの契約以前の『龍騎と呼べない龍騎』の姿だった。
そこにナイト……往人と、ライア……美凪が駆けつけた。
「……北川さんっ……?」
「おい、何がどうなってる……?」
ナイトは近くに立っていたゾルダ……香里に問い掛けた。
彼女は、ふう、と息を漏らした。
「どうしたもこうしたも、見ての通りよ」
そう言って顎で指した向こうには、カードをピラピラと見せびらかすガイが立っていた。
……その時だった。
「あれ?」
ガイはカードを持つ自分の手に起こっている粒子化に気付いた。
「時間切れか。それじゃ、今日はこれまでね」
一方的に言い放つと、ガイはその場に背を向けた。
鏡の世界からライダー達が飛び出す。
まずガイが、その後に続いてゾルダ、ナイト、ライア、龍騎が各々の『入口』から降り立った。
それぞれの姿が砕け散り、変身前の姿に変わる。
……ガイの姿が砕け散り、そこに立っていたのは。
「……あなた、広瀬さん」
そこに立つ少女……広瀬真希の姿を認めて、香里は呟いた。
「あなたが、あのライダーだったのね」
静かな香里の言葉に、彼女は笑みを浮かべた。
「そういう事。
あなた達が同じクラスで助かったわ。お陰でこっちは最小限の動きで状況を把握できた。
いいものも手に入ったしね」
そう言って手にしたのは。
龍騎のデッキから抜き取った、ドラグクリムゾンとの契約カードだった。
「か、返せ……!」
思いの他ダメージが大きく、ミラーワールドから美凪の肩を借りっぱなしの北川が言った。
「何言ってるのよ。こんないいものが手に入ったのに手放したりするわけ無いじゃない。
というか、北川君、自分の立場分かってる?」
「どういう事だよ……?!」
「このカードがないあんたは、ライダーの力を発揮できない。
さらに言えば、あたしの気まぐれでこれを破いたりなんかしたら……契約破棄のあんたはあの龍に食べられるという状況なのよ」
自分の置かれている状況を知らされて、北川は息を飲んだ。
もしそうなれば……自分に打つ手はない。
「く……」
「とまあ、そうは言っても、この場にいるライダー全員に攻撃されたら一溜りも無いけどね。
そういった事を踏まえて、あなたたちはどうする?」
「……好きにしたら?私には関係ないことだから」
「俺の知った事か」
広瀬の問いに、香里と往人は同じ様な表情で答えた。
……少し前、二人の意志を聞いた北川としては、二人がそう答えるのは分かっていたのだが、それでも辛かった。
……自分で精一杯の北川は気付かない。
彼らの表情の中に潜む、僅かな翳りに。
そんな二人の様子を知ってか知らずか、広瀬は二人の言葉を聞いて満足げに頷いた。
「ま、そうよね。なんだかんだ言ってもライダー同士なんだから。そこの貴女は?」
「……私が返して欲しいと言って、あなたはこの場で返してくれますか?」
「返さないわね。とはいえ、ここで貴女を相手にするのも面倒か……」
考え込んだ広瀬だったが、何気なく北川の顔を見ると、ポン、と手を打った。
まるで何かを思いついたように。
「そうね。まあ、それもいいか」
「……?」
訳が分からないと語る北川の視線を受け、広瀬は言った。
「せっかくだから、暫くこのカードは預からせてもらうわね」
「なにっ!?」
「まあ、今すぐにどうにかするつもりはないから安心しなさい。それじゃね」
「させるか……」
背を向けた広瀬に向かって北川は走り出そうとした。
だが、その北川の足を香里が払ったがために、北川は思いっきり前のめりに転んだ。
「っつ……美坂……っ?!」
倒れたまま非難の声を上げる北川に対し、香里は冷ややかに告げた。
「馬鹿ね。今行ったら、あの子カードを破きかねないわよ。
別にあたしはどうでもいいけど……ここは静観した方がいいんじゃない?」
「でもな……」
「俺もその女の言う通りだと思うぞ」
不機嫌そうな声で往人は言った。
「……俺があの女と同じ立場なら、俺は速攻でカードを破り捨てる。
だが、あいつはそうしてない。……何故だと思う?」
「……どういうことだよ?」
「彼女は北川さんに何かをさせようとしている……そう考えるのが自然だと思います。
彼女の思惑は分かりませんが、今はまだ、様子を見るべきだと思います」
美凪の言葉を受けた北川は、そこに居並ぶ人間の顔を見た後、広瀬の背中を見据えた。
「……く……」
そして、ただその背中を見送る事しかできなかった。
翌日。
日常通りのざわつきが支配する教室の扉が開いて、勢いよく駆け込んでくる人影があった。
「あ、北川君、おはよ……」
そう声をかける紫雲を無視……しているわけではないが……する形で、北川は目標に向かって歩いていった。
「広瀬!!カード返せ!今すぐ返せ!!」
「元気ね。というか、単刀直入ね」
教室に入ってくるなり詰め寄る北川に、席に座ったままの広瀬は苦笑を返す。
そこには相手の切り札を握っているという余裕が滲み出ていた。
そんな余裕のままに、彼女は口を開いた。
「あのね。返せって言われて返すんなら、昨日返してると思わない?」
「そんな事知るかっ!」
「まあまあ。落ち着いて。
そんな北川君に一つ頼み事があるんだけど」
「頼み事……?」
「それに協力してくれたらカードを返してあげない事もないわよ」
「お前なあ、何様だと……」
「これがどうなってもいいのかな〜?」
北川の言葉を遮った広瀬の手にはカードが握られていた。
彼女はカードを破り捨てるような仕草を見せつけつつ、ニコニコと悪意のなさそうな笑みを浮かべた。
「だああああああっ!?分かった!分かりました!」
「ありがと。とりあえず放課後まで待ってて。話はそれからね」
「ぐ……待てばいいんだろ、待てば!」
鼻息荒く、北川は自分の席に戻った。
「あなた、何を考えてるの?」
その一部始終を見ていた香里は、微かに視線を細めつつ問い掛けた。
広瀬はそんな香里に向き直りながら言った。
「あら?美坂さんは、どうでもいいんじゃなかったの?」
「……どうでもいいわよ。だから、ただの興味よ」
「どうかしらね。その顔はそう思ってるようには見えないけど?」
「…………」
そんな香里に彼女は肩をすくめた。
「ま、いいけどね。
それから、別に大したことを考えてるわけじゃないわ。
ただ、ほんの少し楽しいことをしようかなと思ってるだけよ」
そう言って、広瀬真希という名の転校生は楽しそうに笑った。
「というわけで、新聞部を見学させてもらうわね」
放課後。
新聞部の部室には、四人の人間が集まっていた。
その構成としては、部長である所の七瀬留美、部員である北川潤、天野美汐。
そして、何故かこの場にいる広瀬真希。
「何が『というわけで』なのよ……」
果てしなくうんざりと言わんばかりの顔で、七瀬は呟いた。
そんな彼女をせせら笑うように、広瀬は答えた。
「北川君の推薦があってね。ぜひ新聞部にどうぞ〜って。あたしとしてはまあ断われなくて」
「……そうなんですか?」
「ぬ、いやまあ、そういう事になってる……」
美汐の問いに、北川は不満交じりの言葉を零したのだが……
「……しかし暑いわねー」
わざとらしくそう呟く広瀬の方に視線を向けると、カードで自分を扇いでいる広瀬の姿が目に入った。
「ぬぐ……俺が勧めたんだよ……」
歯噛みしつつ、北川は言った。
……北川とて、ただ言うがままにされたくはない。
隙を見て奪い取ろうと窺っているのだが、下手に動いてカードに何かあればと考えてしまい、動こうにも動けない状況が続いていたのだ。
ただ分からないのは、彼女が要求した事について。
それは、彼女自身が言うように『七瀬が所属しているという新聞部に連れて行け。後はその場の状況に応じて言う事を聞け』というものだった。
訳が分からないのは確かだが、もっと過酷な事を要求されるとばかり思っていたので、これには少し安堵していた……
「……北川……?あんたどういうつもり……?」
「あ、いや、その……」
もとい。
状況としては良くなかった。
「……?……」
そんな三人の様子を、美汐は静かに観察していた。
深く、冷静に。
……結局、見学なら仕方がないと新聞部の面子が折れたのは、この数分後の事だった。
そんなやり取りが交わされている学校の前に一台の黒いバイクがあった。
そして、その車上には一人の男が跨っていた。
男……国崎往人は、極めて不機嫌そうに学校を眺めていた。
「国崎さん」
「……遠野か」
突然の声に振り向くと、角から遠野美凪が姿を現した。
その姿は、始めて出会った頃に着ていた制服のままだった。
彼女の服装について問いかけようかと往人が思案しているうちに、美凪の方が先に口を開いた。
「こうして、学校を見ていると、初めて出会った頃の事を思い出しませんか?」
「……そう言えば、そんな頃もあったな」
「あの頃の国崎さんと、今の国崎さんは違うのですか?」
「ああ、違う」
旅ではない目的ができた事。
そのためにあらゆるものを犠牲にする覚悟をした事。
それらを含めた様々なものが変わり、自分もまた変わらずにはいられなかった。
そう思えるからこそ迷いなく答えた往人の言葉。
それを美凪はあっさりと否定した。
「……そうでしょうか?私は、そんな気がしません」
「なに?」
「国崎さんは……北川さんのことが心配でここにいるのではないのですか?」
「…………そんなわけないだろう。
俺はただ、ライダーを倒す為にここにいる。
今一番ライダーが集まっているのはここだからな。
その状況を見るためにここにいてもおかしくはないだろう?」
往人は気付かなかった。
いつになく多弁になっている事。
それ自体、動揺している事の証明に成り得る事に。
「……そうですか」
そんな往人の様子に気付いているのかいないのか。
遠野美凪は、往人と同じ様に、静かに学校を眺めた。
「ふーん……これが今月の新聞の草案?」
美汐の後ろからノートパソコン上に構成されている今月の新聞のレイアウトを見た広瀬は、フン、と笑った。
……ちなみにこのノートパソコンは美汐自身の持ち物だったりする。
「こんな硬っ苦しい記事ばっかりじゃ読んでもらえないんじゃない?」
「何ですって……?!」
その言葉に七瀬のこめかみ付近に筋が走り、彼女は叫び未満の声を上げた。
先程から、やれ『部室が狭い』だの、やれ『やってる事が古臭い』だのと、いちゃもんをつける自称見学者と何故かそれを庇う部員その一に、元々そんなに長くはない七瀬の気は限界に近付いていたのだ。
そんな様子を気にする事無く、広瀬は言葉を続けた。
「校内新聞は校内新聞なんだろうけど、もっと書き様はあるんじゃないの?」
「じゃあ、あんたはどんな記事がいいって言うわけ?」
売り言葉に買い言葉でそう言った七瀬に、彼女はあっさりと答えた。
「例えば、転校生であるこのあたし、広瀬真希のインタビューとかはどう?」
「は?」
「そういう柔らかーい記事を端の方にでも入れた方があたしら普通の生徒は読むんじゃない?」
「……あんたね……」
多少の無茶はあるが、確かにそれには一理ある。
ただそれは、この二人の『事情』を抜きにすればの話である。
……以前二人がいた学校で、七瀬の容姿や人気を妬んでいた広瀬は、イジメまがいの事を彼女にしていた。
それについては”いろいろあって”解決したものの、彼女達の関係性はクラスメート以下のまま。
ゆえに、七瀬が以前の延長でそう言っていると思うのも無理からぬ事だろう。
だからこそ、七瀬としてはこう言うのが当然の事だった。
「却下に決まってるでしょうがそんなもの……」
「じゃ多数決で決めましょうか?」
「いいわよ。じゃあ、その馬鹿げた企画に賛成する人間手を上げて」
どうせ誰もいない……そう思いながらの投げやりな言葉。
だが、そこに予想外の事が起こった。
……自分以外の全員が手を上げていたのである。
「北川……あんた……」
「……あのな、七瀬。これには訳が…………」
挙手の前にカードをちらつかされては、手も足も出なかった。
だが、そんな事情など七瀬は知る由もない。
そして、ここで堪忍袋の尾は切れた。
「訳も糸瓜もあるわけないでしょ、この裏切り者ぉぉぉ!」
「がああああっ!!殺されるぅぅっ!!というか天野は無視かああああっ!?」
毎度の調子で首を締められ、北川は叫んだ。
その様子を満足そうに見て、広瀬は言った。
「ともかく。これで決まりね」
「そんな事がまかり通るとでも……」
七瀬があくまで反対しようと声を荒げかけた時。
それを意外な人間が制止した。
「部長、そういう試みもたまにはよろしいのではないでしょうか?」
彼女……天野美汐に視線が集まる。
「あんたまで何を……」
そこで。
七瀬は美汐が二人に思わせぶりな視線を交互に向けている事に気付いた。
美汐の斜め後ろに立つ広瀬も、自分の事で手一杯な北川も気付いていない。
それにより七瀬は、今日の北川の様子のおかしさに改めて気付いた。
考えてみれば、北川がそこまで彼女を庇い立てする理由があるようには思えない。
あったとしても、北川自身思い悩むような深い事情ならもっと神妙な顔をしているだろう。
となると『彼女』の方に何か含むところがあるという事に他ならない。
「…………」
「それを実際に印刷するわけでもなし、試しに作ってみても良いのではないでしょうか?」
「…………」
それから。
一時間ほどの時が流れただろうか。
「……できました」
「へえ……」
ノートパソコン上に新たに作られたレイアウトには、先程簡単な質疑応答を済ませた広瀬のインタビューが盛り込まれていた。
転校生から見たこの学校というテーマで作られたそれは、思いの他見栄えも中身も悪くはなかった。
「しかし、こんな短い時間でよくできるものね」
「過去に使ったデータの置換を行えば、それ相応に速くもなります。
それはさておき、もっと近くでご覧になってはどうですか」
そう言って席を立った美汐と擦れ違いざまに広瀬はその席について、画面に見入った。
それを見る、彼女の眼は……実に楽しげだった。
……そんな広瀬を眺めていた北川だったが。
「……北川さん、ちょっと」
「ん?」
「お話があります」
「???」
疑問に思いながらも美汐に引っ張られたその先は、部室から少し離れた廊下の端だった。
「……なんだよ、一体……」
文字通り自分の命を握られている状況にある北川としては、部室にいる広瀬が気掛かりだった。
そんな北川に、美汐はなんでもないように『それ』を差し出した。
「気になっているのは、これですか?」
「っ……これ……?!」
美汐の手の中には、ドラグクリムゾンの契約カードがあった。
予想外の事に、北川は一瞬言葉を失ったが、すぐに気を取り直し、口を開いた。
「……い、いつのまに?」
「広瀬さんと席を替わる時に抜き取りました。
……これは元々北川さんのものなんですね?」
「それは、そうだけど…………あの瞬間によくそんなことできたな」
呆れよりも幾分感心の方が強い口調で北川は言った。
それに対し、美汐は表情を崩さないままにあっさりと言ってのけた。
「他に気を取られていると、人間は思いの他気を抜いて油断するものです。
そこを突くのは、誰でも知っている手品や奇術の基本ですから」
彼女にそう言われてしまうと、簡単な事……かどうかはともかく、当たり前の事の様に思えてくるから不思議だった。
「でも、よく分かったな。これで脅されてるって」
「……ああも何度もこれみよがしに見せられれば誰にでも分かりますよ」
広瀬が”そうした”のも無理はない。
カードはライダーが持っていて意味を為すもの。
そんなライダーの常識に則った彼女は、ライダー以外の人間がカードの意味を理解できるとは思っていなかったし、カードに気を払うとは考えなかったのである。
それゆえに、何気無く北川の動きには気を払っていた広瀬も、美汐の動きはノーマークだったのだ。
美汐が意図していなかったとはいえ、それもまた彼女の油断だった。
「……サンキュ、天野。お陰で助かった」
「いえ。部長にも感謝した方がよろしいかと」
何も言わず、広瀬の意見を聞いた七瀬。
美汐の言葉で彼女の顔を思い浮かべて、北川は頷いた。
(詳しい事情は知らないけど……あいつ、我慢してくれてたもんな……)
「……そうだな。そうするよ」
「それでは、お返しします」
「サンキュ」
満足げに受け取ったカードを眺める北川を見て、美汐は呟いた。
「しかし、北川さんがそんなにもカードゲームにはまっているとは驚きです」
「へ?」
「それは、カードゲームのカードではないんですか?」
その言葉に、北川は苦笑した。
「ま、そうだけど……はまってるわけじゃなくて、巻き込まれたんだけどな」
「え?」
「なんでもない」
そこに。
「……なるほど。してやられたわね」
広瀬の声が響いた。
「……ったく……面倒かけさせて」
一人残った七瀬は呟いた。
結局、美汐の読み通りだったらしい。
何かを探す様な素振りを見せた後、席を立った広瀬を見て七瀬はそれを確信した。
美汐に任せてとりあえず我慢しておいたが、このツケは大きい。
(……まあ、まずは北川の首をもう一回締めとこう……
って、もっと乙女らしいやり方はないのかしら……)
そんな事を考えていた時、唐突に携帯の着信音が鳴り響いた。
携帯を開くと、そこにあったのは見慣れた名前で、彼女は迷う事無く携帯を耳に当てた。
「あ、瑞佳?何の……」
次の瞬間。
七瀬の表情が変わった。
「折原がいなくなった……?!」
慌てて立ち上がった拍子に、座っていた椅子が倒れた。
それが立てた大きな音にさえ、七瀬は気にも留めなかった……
「あの……どうして……」
「天野、悪い。ここから先はコイツとサシで話をさせてくれ」
躊躇いがちに問い掛けようとした美汐の言葉を遮って、北川は言った。
その言葉に何かを感じ取ったのか、美汐は首を縦に振って、もと来た方向に去って行った。
……それを二人して見届けた後。
「そういう訳で返してもらったからな」
「そうみたいね」
嬉しそうにカードを掲げる北川に、どうでもいいように広瀬は答えた。
それが逆に、北川には不思議だった。
「……悔しくないのか?」
「ま、どうせお遊びだったし。
いいカッコしいの七瀬をおちょくれたのは……面白かったし。
それなりに楽しめたから、返してあげるわよ」
「あのなあ……」
心底呆れた言葉で北川は呻いた。
「大体、何でこんな事をやったんだよ。意味ないだろうが」
「さっきも言ったでしょ。
『楽しむ』ためよ。ライダー同士の戦いにしたって同じ事。
……今がつまらないなら、面白くするしかないんだから」
何故か。
そう呟く広瀬の顔は、何処か自嘲めいているように北川には見えた。
その瞬間。
キィィィィィ……………ィィィィンン………!!
ミラーワールドからの『音』が二人の耳に響いた。
「……っ」
「来たわね、カモが。どうする?」
「どうするもこうするも……」
取り戻したカードをデッキに入れて、北川は言った。
「モンスターは倒すに決まってるだろ!」
「まあねえ。じゃ、今は休戦ね」
そのモンスターは放課後の、人がいなくなった廊下の窓に映っていた。
その窓に向けて、二人は揃ってデッキを突き出す。
鏡から生まれ出たベルトが、二人の腰に巻き付いた。
北川は右手の先を反対側の空に伸ばし。
広瀬は握り締めた右手の甲を見せ付けるように構えて。
デッキを、ベルトの中に装填した。
『変身!』
意図せずに重なり合った言葉と共に、二人の姿は華音ライダーに変身した……!!
鏡の向こう側の世界。
学校の廊下に、一台のバイクらしきもの……ロードシューターが飛び出した。
物理的に考えて収まるはずはないのだが、それは物理を越えて廊下に停止した。
車体の一部は壁を突き破っているように見えたが、そうではなく『通り抜けて』そこにあった。
そんな原理がわからない現象に驚きながらも、北川……龍騎はロードシューターから廊下に降りた。
そこに、カミキリ虫を模したような姿をしたモンスターが、手に持っていたブーメラン状の物を投げ放った。
「…って、ぐあっ!?」
ロードシューターから降り立ったばかりの龍騎はそれに気付いたものの、対応できずに攻撃をまともに喰らい、弾き飛ばされた。
「痛ぅ……」
すぐさま起き上がる龍騎だが、万全ではなかった。
モンスターはまだ隙が消えない龍騎に再び投げようとしたが……
『Strike Vent』
「はあっ!」
横合い……教室の窓ガラスから飛び出したガイの攻撃がモンスターに突き刺さり、それを不可能にした。
攻撃を受けたモンスターは、その身体で窓ガラスを割りながら二階ほどの高さから校庭に落ちていく。
「情けないわねー。カード返した意味ないんじゃないの?」
ようやく立ち上がった龍騎を見て、広瀬……ガイは言った。
その右腕には、現実世界とミラーワールドの狭間にある異次元空間で装備を済ませていた、自身の契約モンスターであるスティルライノスの頭部を模した打撃武器……スティルホーンがあった。
「く……これからだっての!」
『Strike Vent』
ガイのものと同じく、ドラグクリムゾンの頭部を模した打撃武器ドラグブローを装備した龍騎は、ガラスが割れた所から飛び降りた。
「喰らえっ!」
着地したと同時の龍騎の動きと共に、舞い降りた龍の炎弾が解き放たれる。
先程の龍騎とは逆の状況で、ダメージから立ち直れていないモンスターは攻撃を避ける余裕もなく、再び宙を舞った。
その余波で地面が抉れるのを見て、龍騎同様校庭に降り立ったガイは「へー」と感嘆の声を上げた。
「流石にパワーはあるわね。んじゃ、トドメと行きますか」
そう呟くと、彼女は肩のカードホルダーにカードを装填した。
『Final Vent』
その音声と共に、何処からともなくスティルライノスが現れる。
ガイはその肩に足を乗せ、スティルライノスはそれを支え、突進した……!
「はああああっ!!」
スティルホーンを突き出し、掲げた姿は、達人に解き放たれた投げ槍の如く。
その一撃はいとも容易くモンスターを貫き、爆発を巻き起こした……!
「……っと。こんなところね」
軽くグラウンドに降り立って、倒したモンスターのエネルギーを吸収するスティルライノスを眺めながら、彼女は呟いた。
「さて」
モンスターが倒れれば、そこにはただライダー同士が立つのみ。
夕焼けの中、二人は静かに対峙した。
だが、それは一瞬の事だった。
やれやれと言わんばかりに、彼女が肩を竦めて、言った。
「今日は面倒臭いからここまでね。
また、面白い事考えとくから。次も付き合いなさいよ」
「……誰が付き合うか!」
それが面白かったのか、楽しげに笑い声を漏らしながら、ガイは背を向けた。
その背中を見て、龍騎……北川は。
「……………ライダーに、まともな奴はいないのかよ…………」
溜息混じりにそう呟かずにはいられなかった。
……その戦いを眺めている影がいた。
ミラーワールドに存在できる存在。
何度も言うようだが、それは例外を除いて二通りしか存在しない。
そして、モンスターは戦いを眺めたりはしない。
そんな、紫色のライダーは、何も語る事無く。
ただ全てをぼんやりと眺めていた……………
…………続く。
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閑話休題
広瀬「……」
七瀬「どうしたのよ、不満そうな顔して」
広瀬「あたし、女の子よね」
香里「……見ればわかるわ」
広瀬「なのに!なのになんで『ガイ』なのよ!作者出て来い!!」
北川「そう言ってやるなよ。作者としてもかなり悩んだらしいぞ」
往人「ここまで原作のライダーの名前を使ってるのにオリジナルでもないのに一人だけ変えたら興醒めだしな」
美汐「ですが、もっとやりようがあったのは事実ですね」
紫雲「その点におきましては、作者に代わって深くお詫び申し上げます。特に広瀬ファンの方、誠に申し訳ありませんでした。
今後はそういう所も気を使うよう、きつく言っときますので、ご容赦いただければ幸いです」
北川「こういう事はちゃんとしないとな。それじゃ、また」
第十二話はしばしお待ちください