華音ライダー龍騎 第九話 重ならない思い





爆発音が響き渡る。
それが収まった後には、エネルギーによって抉られた傷痕が残るのみだ。

「くっそ・・・やりたいようにやりやがって・・・」

北川・・・華音ライダー龍騎は舌打ち気味に洩らした。

戦場は民家が集まった所から人が多く集まる駅前へと移っていた。
その際に刻まれた跡を見て、龍騎はここがミラーワールドでよかったと心から思った。

戦いは龍騎の防戦一方だった。

それは龍騎とゾルダ・・・香里のライダーの性質の違いによるものだった。
龍騎は格闘戦主体、ゾルダは遠距離中距離戦主体のライダー。

最初から近距離にいれば常に距離を詰めることで問題は解決できる。
普通の人間ならともかく、ライダーであるならある程度のダメージに耐えうる強化皮膚を持っているから、ゾルダが通常使っている召喚銃ぐらいならばなんとかなる。

だが、今回ゾルダは最初から一定の距離を保って、それを崩そうとしない。
龍騎が間合いを詰めようとすると、恐るべき精度の砲撃を放ってくる。
しかも馬鹿みたいに大きな砲身から吐き出されるその攻撃は、防御なんてしようものなら良くて弾き飛ばされる、最悪死に至るであろう威力のモノの連射。
龍騎は回避するのが手一杯で近付く事すらままならなかった。

これがナイトなら、分身のカード”ミスリード・シャドウズ”で撹乱したり、空から強襲できたりするのだが、龍騎は特殊カードの類は持っていなかったし、空も飛べない。

逃げようにも生半可なものでは遮蔽物にすらならないし、ゾルダの狙い済ませた射撃により至近距離で砕け散った何かの破片や爆風も十分な隙を生んでしまう。

はっきりいってジリ貧の状況だった。

それだけではない。

北川には相手が香里であるということで心理的なブレーキがかけられていた。
香里自身の意図から植え付けられたそれは、北川の心を確かに縛り付けていた。

そして、それはこの戦場において迷いという名のマイナスファクターでしかない。

「どうする・・・?」

はっきり言って、この状況を打開するには”逃げ”の姿勢では無理だ。
逃げに回ることは、完全に読まれてしまっている。


(なら・・・)


無意識の内にカードデッキに手が伸びる。

なら、戦うのか?
戦う事でしか、状況を打開できないのか?


(俺が、美坂を相手に?)


冗談では・・・

「・・・考え事なんて余裕なのね」

そのゾルダの声に龍騎がはっと顔を上げた。
そこには完全に狙いを定めたゾルダの姿があった。

「く・・・っ!?」

逃げられない。
それを感じ取った龍騎は伸ばした手でカードを引き抜き装填する。

『Guard Vent』

刹那の間に龍騎の左腕にドラグクリムゾンの腹部を模した盾が現れた。
その瞬間に、ゾルダの砲身から放たれたエネルギー弾が盾に命中した。

「ぐ・・・あああっ?!」

その衝撃に弾き飛ばされた龍騎は近くの車に激突し、ずるずると地面に倒れた。

「へえ、たいした硬度ね。あの一撃で何の損傷もないなんて。
でも、いかに盾が強固でも、それを支えるあなたに衝撃を受けきる力がないのなら、この場合無意味よね」
「・・・く、そ・・・・」

龍騎は必死に立ち上がろうとする。
だが、もはやその猶予はない。
・・・それを他人事のように眺めながらも、ゾルダはゆっくりと砲身を向けて、告げた。

「北川君。あなたがライダーでなければよかったのに」

言葉が響くか否かの刹那。

「・・・そう思うのなら、戦いをするべきではないのではないですか?」

そこに、香里も北川も知らない声が通り過ぎた。

『え?』

図らずも二人の声が唱和する。

ゾルダがその方向を見た瞬間、彼女は胸に受けた衝撃とともに弾き飛ばされ、地面を転がった。
エクスランチャーもその拍子に手から離れ、地面に落ちる。

「くっ!?・・・あなた・・・・」
「・・・新しい、華音ライダー・・・・?」

二人が視線を向けたその先には赤紫色の鎧を纏った仮面の戦士が立っていた。
その手には奇妙な形の鞭が握られていた。
香里はそれでを自分を弾き飛ばしたのだろうと改めて把握した。

「・・・華音ライダーライア・・・遠野美凪と申します。以後お見知りおきを」
「何をふざけた事を・・・!」

この場にそぐわない穏やかな声が癇に障ったのか、香里は冷静な彼女には珍しく激昂した。

「なんのつもり?ライダーがライダーを倒す邪魔をするなんて・・・!」

その言葉を受けて、ライアは真っ直ぐにゾルダを見詰めた。

「・・・虚しくはありませんか?自分の望みのために、他人を殺す。
それは、あなた自身にも傷を残す事なのですよ」
「あなたにそれを言われる筋合いはないわ!」

言い放って、ゾルダは腰から召喚銃を抜き、放った。
ライアはそれを自身の召喚機である盾で防ぎながら龍騎の元に向かって行った。

「・・・大丈夫ですか?」
「あんた、何で、俺を・・・?」

混乱する頭で必死にそう言うと、ライアは静かに答えた。

「人が死ぬのは見たくありませんから」
「・・・あんたは・・・・」
「世迷言を・・・なら、何故あなたはライダーなの?」

地面に転がっていたエクサランチャーを拾い上げるゾルダ。
そして、再びそれを構える。

「ライダーはライダーと戦う事で願いを叶える。それだけが唯一のルール。
それを知らないわけはないでしょう?」
「・・・・・そんなライダー同士の戦い・・・私が止めるといったらどうしますか?」

そう言いながら、ライアはカードを引き抜いて装填した。

『Copy Vent』

「・・・そう言うあなたを倒して、戦いを続けるだけよ」

ゾルダは冷静に狙いを定め、エネルギー弾を解き放った。
その瞬間、彼女はそれを見た。

「・・・な?!」

その向こう。
自分の標的の一つが、自分が構えているものと全く同じエクスランチャーを構えて撃つその姿を。
そして、その一撃の狙いは。

「・・・・!!」

全く同じエネルギー弾同士が衝突する。
激しい爆音と衝撃が生まれ出て、空間が爆ぜ割れた。

「く・・・」

爆風が晴れた後には。
二人のライダーの姿は忽然と消えていた・・・





「・・・・・ふうっー助かった・・・・・・」

呟きながら、龍騎は現実世界に帰還した。
その姿が鏡のように割れて、北川の姿に戻る。

その隣の車の車体から、同じ様に一つの影が飛び出した。
香里かと一瞬身構えた北川だったが、その姿を見て警戒を解いた。
自分を助けてくれたライダーの姿だったからだ。

その姿も北川と同じ様に砕け散り、中から姿を見せたのは・・・

「女の子・・・?」

そこに立つのは見掛けない制服姿の少女だった。
ミラーワールドでのやり取りで気付いていたはずなのだが、改めて驚かされてしまった。

少女、と言ってもその容貌や雰囲気は大人びている。
その長い髪を揺らしながら、彼女・・・遠野美凪は北川に視線を向けた。

「お身体は大丈夫ですか?」
「え、ああ、うん。その・・・おかげで助かった。ありがとう」

北川がそう言うと、彼女は不思議そうな顔をして首を微かに傾げた。

「・・・どうかした?」
「私は変わっていると思っていましたが・・・あなたも変わっていますね」
「・・・なにが?」
「私はそう思っていませんが、ライダーはお互いに敵同士ということですから。
ですから、お礼を言われるなんて思ってもみませんでした」
「敵同士だなんて・・・俺は・・・ただ、モンスターから人を護りたいだけで・・・本当にただそれだけなんだよ・・・・・」

言いながら、北川はさっきの事を思い返して拳を堅く握った。

美坂香里。
自分のクラスメート。
それなりに親しいと思っていた。

それなのに。

彼女は、とどめの一撃を撃とうとしていた。
躊躇いは、あったのかもしれない。
でも、撃つ意志は確実にそこにあった・・・


「・・・そうですか」

その北川の胸中を悟ったのか、美凪は俯き加減に呟いた。
そんな美凪を改めて見据えながら、北川は言った。

「・・・なあ、あんた・・・ライダー同士の戦いを止めるって言ってたけど・・・・」
「はい。止めます」
「できるのか?」
「・・・できるできないは関係ありません。
止めなくてはならないから止める。それだけです」


はっきりと美凪は言った。
その眼には何の迷いもない。
北川にも、それが分かるほどに。

そして、北川はその事に、遠野美凪という少女に打ちのめされた。

自分は今まで何をしていたのだろうか、と。

自分は確かに人を護るためにライダーになった。
なのに、同じ人間であるはずのライダー同士の戦いを否定はしてもはっきりと止めようとしていなかった。

そう、ライダーも護るべき”人間”なのに。


「ですが、それは私がやるべき事です。
あなたが人を護るためだけに戦う、というのであればあなたはそれだけを貫いていてください。
それでは、これで」
「・・・あ、あのさ・・・」

背を向けた美凪に、北川は声をかけた。
ゆっくりと美凪は振り返り、その北川の顔を見詰めた。

「・・・ライダー同士の戦い・・・俺も止めたい。止めたいんだ」
「・・・・・」
「さっきのライダーは、俺のクラスメートなんだ。
いいコなんだよ。優しい奴なんだよ。
それなのに、ライダーになっただけであんな風になっちまって・・・
あいつだけじゃない・・・そんな戦いのせいで誰かが誰かを殺すのなんか、俺は見たくないんだ」
「・・・・・」
「だから、俺にも手伝わせてくれ・・・!
ライダー同士の戦いを止める方法、考えてみるから・・・!
馬鹿だけど、できる限り考えるから・・・!
だから、頼む・・・俺にそれを手伝わせてくれ・・・・・!!」

言い切って、北川は深々と頭を下げた。
そんな北川にゆっくりと歩み寄って、美凪は優しく言った。

「顔を、上げてください」

その言葉に、北川がゆっくりと顔を上げると、表情を引き締めた美凪の姿があった。

「あなたは私の事を知らないのに信用できるのですか?」
「・・・あんたが言った事、嘘じゃないと思う。俺にはそう思えた。
それに、あんたは俺を助けてくれた。言葉だけじゃなく、本当に」

二人の視線が交錯する。
やがて。
美凪は微かな、それでいて穏やかな微笑を浮かべて、告げた。

「・・・手伝ってくれますか?」
「ああ、もちろん!・・・って言うか、手伝わせてもらうのはこっちだって」
「・・・あ、そうでした」
「おいおい」

そうやって二人は穏やかに笑いあった。



・・・二人は知らなかった。

そんな自分達の様子を眺めていた存在がいた事を。

「・・・・・・・・っ」

彼は、声にできない不機嫌さをその辺りの壁に叩きつけた。
・・・そんなモノでは晴れない、そう分かっていてもそうするしかなかった。
彼はもう一度、二人のほうを見てから足早にその場を去っていった。







「〜♪」
「・・・どうしたの?今日、なんかすごくご機嫌だったけど」

翌日の放課後、鼻歌交じりに帰り支度をする北川に紫雲が話し掛けていた。
それは最近北川の浮き沈みがあまりにも激しいことを心配しての事でもあった。
・・・そんな紫雲の心配など何処吹く風の北川は笑って答えた。

「まあ、な。いい事があったんだよ。というか希望が見えてきた感じなのさ」

それは大袈裟ではなかった。
なかったが、事情を知る由もない紫雲にはさっぱりの事だった。
そのはずだった。
だが、紫雲はそんな北川の笑顔が本当の嬉しさからきているものを感じ取り、笑い返した。

「そっか。事情は知らないけど・・・それはよかった」
「おう。ありがとよ。んじゃまたなっ」

そう言って、北川は教室から走り去っていった。

「北川君、元気だったね〜」
「ああ、無意味にな。草薙はよくあのテンションに付き合えるよな」

一部始終を否が応でも見てしまっていた名雪と祐一が口々に言った。
草薙は苦笑する。

「はは。まあ、それはそれとして・・・何でそんなに不機嫌そうにしてるの?」
「気のせいよ」

無表情に香里が呟いた。
ずっとコツコツと指先で机を叩いているその姿には説得力皆無だった。

「・・・あの北川の姿見てるだけで腹が立つ気持ちも分からなくはないな」
「いや、それはあんまりだろ」

祐一の言葉にペしっ、と紫雲が突っ込みを入れる。

「でも、北川今日は珍しく香里に話し掛けなかったな」
「え、そうなの?それは本当に珍しいな」

二人が話すその横で、名雪が真剣な面持ちで言った。

「香里・・・何か、あったの?」

その”何か”の部分に力を込める。
香里はその言い方で、名雪がライダー絡みの事で何かあったのかと問うているのだろうと思った。

「まあ、少しね。でも、問題ないわ。すぐに片をつけるから」

そんな根拠はなかった。
それでも、そう言う事で自分を納得させようと香里はそう呟いていた・・・






「おおっす、お二人さん!」

北川はそう叫ぶ勢いで扉を開き、新聞部の部室に入った。
だが、そこにいたのは美汐一人だった。

「・・・あれ?七瀬はどした?」
「部長なら、今日は用事があるからとお帰りになられましたが」
「・・・あの女・・・同じクラスなんだから俺にも言ってから行けばいいものを・・・
しかし、用事ってなんだろな」
「・・・それを詮索されたくなかったらから、北川さんに何も言わなかったのではないでしょうか?」
「あいつはそんな事を気にするような奴か?」
「私は、そんな気がしました」
「・・・ま、そんなもんかもな。じゃあ、今日はどうする?」
「今日は特に仕事も残ってませんし、私たちだけで取材は難しいでしょうから、今日は解散しましょう」
「そうだな。そうするか。それはそうと天野」
「はい、なんでしょうか?」
「・・・相変わらず、言葉遣いがなんと言うかおばさんくさいな」
「・・・物腰が上品だと言ってください」

結局、そんな非難めいた言葉が、今日の新聞部の締めくくりとなった。





「さて、帰るかね・・・って、あれ?」

新聞部を出た北川が一人で歩いていくと、職員室から出てくる二つの人影がその視界に入った。
それだけなら見慣れた光景なのだが、その人影自体がそこにいるとは思えない人物たちだったので、北川は驚いたのだ。

「晴子さん、観鈴ちゃん、二人ともここで何やってるの?」

その言葉に気付いた二人・・・観鈴と晴子よく似た動作で振り返った。

「あ、北川さん」
「おう、潤ちゃん」
「・・・だから潤ちゃんは止めてくださいって・・・って、そうじゃなくて。なんでここに?」

晴子は二パッと笑った。

「こないだ話したやろ?観鈴、ここに編入する事にしたんよ」
「え?編入試験は?」
「まだや。だから正式に決まったわけやないけど、観鈴がそう決めたからには、うちがきっちり勉強見てちゃんと合格させる。な?」
「うん、頑張る、私」
「そっかー。そうなるといい・・・」

そう言い掛けた瞬間だった。


キィ・・・・ィィィィィィィイィィィィン・・・・


その音が響き渡る。
二人の表情が瞬間、硬化する。
その表情のまま、二人は視線を交わした。

「どした?変な顔して」
「・・・あ、その、なんでもないよ」
「ああっ俺急用思い出した!それだけ、二人ともまた後で!」

しゅばっ!と手を上げて、北川はその場から走り去った。

「どしたんやろ?」
「さ、さあ・・・」

汗を一筋たらしながらも観鈴はそう答えた。





北川は全速力で廊下を駆け降りた。

(この方向だと体育館の辺りか・・・まずいな・・・人がたくさんいなけりゃいいけど・・・)

考えながら、北川は”音”を頼りに校内を走る。
やがて辿り着いた場所は、体育館近くの、人気のない校舎裏だった。
そこは主に物理などの専門教科の棟なので、体育館や普通の棟よりも人は少ない。
それは不幸中の幸いだった。

「きゃあああああああっ!」

そこに、その悲鳴が上がった。
北川の眼には、モンスターとそれに襲われそうになっている女生徒の姿が入っていた。
しかし、距離はまだ遠い。
このままでは・・・!

「・・・畜生っ!」

加速するが、間に合わない・・・!
諦めかけたその時だった。

「・・・・・ざ・・・・・・・・・・・せいっ!!」

黒い一閃が煌く。
不意をつかれたその一撃に、そのモンスターは無様な姿で地面に倒れた。

「川澄先輩!」

北川はそれを為した、先日知り合ったばかりの先輩の名を呼んだ。
彼女・・・川澄舞は、北川に視線を向けつつ、黒い鞘に仕舞ったままの剣でモンスターを牽制した。
モンスターは起き上がり、状況を把握するとミラーワールドに消えた。

モンスターは人間の力を遥かに超えているが、現実世界では限られた時間しか活動できない。
ミラーワールドにおけるライダーがそうであるように。

ミラーワールドに逃げたモンスターを睨みつけた後、舞は再び北川に向き直った。
北川はそんな舞に礼を告げた。

「先輩、サンキューっス!」
「・・・音が聞こえたから、来ただけ。そして私は魔物を討つものだから」
「それでも、ありがとう、ですよ。・・・その子を頼みます」
「任せて」

舞がその女生徒を連れて、その場を後にするのを確認してから、北川はデッキを掲げた。
鏡から生まれ出たベルトが、北川の腹部に巻き付く。

「変身!」

デッキをベルトに装填し、華音ライダー龍騎となった北川は、鏡の世界へと飛び込んでいった・・・




「あ、あの・・・さっきのは、なんなんですか・・・?」

舞に連れられた少女は恐る恐る言った。
それに対し、舞は少し考えてから答えた。

「・・・鏡に住む魔物。そういうものらしい」
「魔物、ですか・・・?」

信じがたかったが、見たものは現実だ。
あまりにも現実離れしすぎて、今となってはすっかり恐怖も失せてしまっていたが。

「栞?!」

唐突に自分の名を呼ぶ声が聞こえて、少女・・・美坂栞は振り返った。
そこには自分の姉・・・美坂香里の姿があった。

「お姉ちゃん・・・」

その言葉を聞いて、舞は近付いてくる香里と栞を見比べてから、二人に背を向けた。

「え?あ、あの・・・」
「もう、大丈夫だと思う。・・・それじゃ」

そう言い放って、舞は栞から離れていった。
栞には礼を言う暇もなかった。
その栞に駆け寄って、香里は言った。

「栞、何かあったの?!」

香里もまたミラーワールドからの音に反応してこちらに来たのだが、その近くに栞がいたのでそちらを優先させたのである。
だからなのか、心配からの香里の声音は荒いものだった。
栞は普段は物静かな姉の姿に戸惑ったのか、リアリストの姉が信じるはずもない事実を口にしていた。

「あ、その・・・信じれないかもしれないけど、魔物、が鏡から出てきて・・・」
「それで!?何処にも怪我とかはない?!」

栞は香里にとっての戦う理由だった。
だからこそ、それを失う事は香里にとっては恐怖だった。

「あ、うん。大丈夫。
さっきの人と、髪の毛が触覚みたいになってる男の人に助けてもらったから」

その妹の言葉に、香里の表情が微かに強張った・・・





「はっ!」

北川・・・龍騎の繰り出した斬撃で、その豚・・・いや猪の頭のような身体を持つモンスターはその身を弾かれる・・・かに見えたが。
そのモンスターはダメージはあるようだが動じる事無く、さらなる勢いで襲い掛かってきた。

「ち・・・!頑丈な奴だな・・・!!って、うおおおおおおお?!」

予想外のスピードから放たれた体当たりに、逆に龍騎が吹き飛ばされてしまった。
ゴロゴロと地面を転がった龍騎は木にぶつかってようやっと止まった。
さらにそこへモンスターが追撃をかける。

だが、そうはならなかった。

モンスターの身体に衝撃と火花が走る。
・・・銃弾による攻撃。
その攻撃は昨日龍騎自身がその身で受けたものだ。

「・・・美坂!」

そう。
そこには美坂香里、華音ライダーゾルダが立っていた。

今日は二人ともお互いの理由でお互いを遠ざけていた。
その延長線上で、二人の間に沈黙が生まれる。

だが、それを香里が破った。

「・・・今は、モンスターがあたしの敵よ」
「・・・・・・・了解!」

その言葉だけで、今は十分だった。

「ガアアアアアアッ!!」

叫びを上げて再び体当たりを敢行するモンスター。
だが。

「そう何度も同じ手が通じるかっての!!」

今度は、ひょいっとその攻撃を軽く避けて、龍騎は自分を通り過ぎたモンスターの背に蹴りを入れた。
勢いを加えられたモンスターはいとも簡単に転んでしまった。
そして、それは決定的な隙だ。

「美坂、やれっ!」
「・・・言われずともやるわ」

ゾルダが召喚銃にカードを装填する。

『Final Vent』

地面が水面のように波打つ。
そして、その中から巨大な牛人型のモンスター・・・エクサアームズが現れた。
その背中に召喚銃を差し込むと、その全身が展開された。
その内部には恐るべき数のミサイルやら銃弾、それを埋め込んだ兵器の数々が詰め込まれていた・・・・・!!

「っげ!!!」
「死にたくなければ逃げる事ね」
「言われんでも逃げるわあああああああっ!!!」


叫んで、龍騎が空高く跳躍した瞬間、それは解き放たれた。

ミサイル、銃弾、エネルギー弾。
この世において飛び道具と称される物であろう全てが吐き出された。
それらは豪雨のような暴悪を持って、その空間全てを蹂躙した・・・・・・!!!



「くっそ、冗談じゃねえよ・・・やりすぎだろ、おい」

ゾルダのすぐ近くに着地した龍騎がぼやいた。
そして、その惨状を眺める。

全てが終わった後。
そこに校舎と呼べるものは存在しなかった。
そこにはただ、瓦礫の山と廃墟が存在するのみだった。

モンスターはその中心にいた。

ならばその末路は火を見るよりも明らかだった・・・・・

「・・・栞に牙を向けた報いよ。できればもっと苦しめたかったけどね・・・」

その呟きは龍騎の耳に届く事はなく、ただ風に撒かれて消えていった・・・





「・・・・・ふう」
「ふう、じゃないだろ、ふうじゃ!一歩間違えれば俺は死んでたぞ!」

現実世界に帰還した二人は帰還するなり、険悪だった。
いきり立つ北川に対し、香里は肩をすくめて言った。

「それは残念ね」
「っだああああ!少しは何とかなるかもとか思った俺が馬鹿だったよ」
「そうよ。馬鹿なのよ、あなたは」

その言葉を語る香里の表情。
それはウェーブのかかった髪に遮られて、北川にはよく見えなかった。
だから、それをただの悪口だと思った。

「どうせ俺は馬鹿だよ!ああ、畜生」
「はいはい。・・・・・まあ、今だけは礼を言っておくわ」
「何のことだよ」
「さあ?・・・それじゃまたね、北川君。次は倒してあげるから」

香里はそう言って背を向けた。
その背に向かって、北川は叫んだ。

「その前に絶対ライダー同士の戦いを止めてやるよ!絶対にな!!」

その言葉にさえ肩をすくませて、香里は去っていった。
その香里と入れ違いのタイミングで、観鈴が駆けて来た。

「・・・大丈夫?怪我とかない?」
「観鈴ちゃん。まだいたんだ」
「北川さんが心配だったからお母さんだけ先に帰ってもらったの。でも、無事でよかった。にはは」

無防備に笑われて、北川は照れた。

「ああ、その、心配してくれてありがとう」
「ううん。・・・元はといえば、私のお父さんがデッキを作ったからだし・・・」

その言葉を紡いだ瞬間だけ、観鈴の表情が暗くなる。
北川はそれを慌ててフォローした。

「だああっ、観鈴ちゃんが気にすることじゃないって。
それに親父さんがデッキを作ってくれたから、こんな俺でも戦えて、人を護れてるんだから・・・」
「北川さん・・・」
「ほら、行くよ。そろそろ店も混む頃だしな」
「・・・うんっ!」

そんな風に会話を交わしながら二人もその場を去っていった。



「・・・・・へえ。あの子、橘敬介の娘なんだ」

全てを見届けていた存在がそこにいた事に気付く事無く・・・・・







その頃。

七瀬留美はある場所に訪れていた。
”そこ”は、精神を病んだもののための施設であり病院。
その場所にいる人間に会うために、彼女はそこに訪れたのだ。

「面会、できますか?」
「・・・ええ」

受付で簡単な手続きをしてから、七瀬は施設の奥へと入っていった。

「・・・」

入り口で躊躇う。
だが、やがて意を決して、彼女はその扉を開け、中に入っていった。
・・・そのドアの前にはこんなプレートがかけられていた。

『4195室 折原浩平』


「・・・久しぶりね、折原」
「ああ・・・久しぶりだなぁ・・・・・」


折原と呼ばれた男はそう言うと、笑った。
それはかつてクラスメートだった七瀬も見たことがない、歪な笑みだった・・・・・





・・・・・続く。





次回予告。
華音ライダーライア・遠野美凪。
北川は彼女とともに戦いを止める術を模索しようとしていた。
だが、それを往人、香里は絶対否定する。
そんな中、また新たなライダーが姿を現す・・・!

「ライダー同士の戦いなんて所詮ゲームに過ぎないのよ」

乞うご期待、はご自由に!



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閑話休題。

香里「久々の更新よね。仮面ライダーKEYの方に気合を入れすぎてるから更新が滞るのよ」

北川「確かになー。しかも俺らそっちではまだ出番ないしな」

相沢「なんでも作者によると、ライダーもので主人公・・・もしくは”全編において目立つキャラ”をダブらせるつもりはないとのことだ」

観鈴「つまりどういうことかな?」

美凪「まあ、良く言うのであれば個々の作品の味をより生かし、出す為でしょう」

草薙「”龍騎”の主人公が北川君、”アギト”は秋子さんなのも、そのためにキャラのイメージ優先で決めたらしいけど、間違っているのかいないのか微妙な所だね」

七瀬「まあ、それはそれとして、アイツが出てきたけどいいのかしらね、こういう扱いで」

美汐「まあ、仕方がないのでは。この面子で凶悪犯罪者というのは中々に無理がありますし」

往人「そうだな。というかそれでも無理はあるけどな」

北川「そこは突っ込んでやるなよ」

美凪「では、また次回お会いしましょう」





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