華音ライダー龍騎 第八話 誰がための戦い〜国崎往人〜






鏡の向こうに存在する世界、ミラーワールド。
そこには人が存在しない。

いや、正確に言えば存在しないという事はない。
ただ、存在しえたとしても数秒・・・長くもって数分でしかない。

それは何故か。
一つ、ミラーワールドという空間において生身の人間はその存在を維持できない。
そして、もう一つ、そこに存在するモンスターが、引きずり込んだ人間を捕食するからだ。

そのもう一つの理由が今なされていた。

そこ・・・病院の駐車場にうずくまるのは、馬・・・正確に言えば縞馬の形によく似たモンスター。

”彼”は今しがた自分が引きずり込んだ人間を食べ終わると、ゆっくりと立ち上がった。
”彼”が何を考えているのかなんて、人間には理解し得ないものだ。
いやそもそもにして、思考ができるのかどうかさえ定かではない。
それがモンスターというものだから。

だが、忘れてはならないことがある。

それはすなわち。
モンスターという存在は、人によって滅ぼされるものだという事。

「はっ!!」

青い影が空から降りてくる・・・と同時に振るわれる槍の先端が、モンスターの背中を深々と切り裂く。
モンスターが嘶き声に似た叫びを上げる。
それに構う事無く、青い影・・・華音ライダーナイトは自身のもつ槍を横に一閃した。
だが、それはモンスターの異常な動き・・・身体を自身に走る縞模様に合わせてスプリングのように広がる・・・によって回避された。

「・・・っ!」

ナイト・・・国崎往人がその動きに一瞬戸惑いを見せる。
その隙に身体を通常時に戻したモンスターはその両腕から伸びた刃をふるおうとする。
しかし、それは叶わない。

モンスターの後ろ頭に、幾重の弾丸が撃ち込まれる。

慌ててモンスターが振り向いた先には、緑色の戦士・・・華音ライダーゾルダが立っていた。

・・・その大きな隙をナイトは見逃さない。

その背に槍を突き立てる。
どんな能力があろうと、意識が他に向いてしまえば、攻撃をかわすことなどできはしない。
まともに身体を貫かれて、モンスターはその身を震わせて叫んだ。

『Shoot Vent』

ゾルダ・・・美坂香里が銃型の召喚機にカードを装填すると、虚空からゾルダの倍はあろうかという巨大な大砲が現れ、ゾルダの腕の中に収まった。

「くっ!!」

それを見たナイトは慌てて槍を引き抜くと、その場から退避した。
元からそれを待つ気などないのか、ゾルダは何の迷いも無くその一撃を解き放った。
ナイトから受けたダメージから動けないモンスターはその特殊能力を使う事もできず、まともにそのエネルギー弾を受け、爆散した。

その爆炎の横で。

二人は静かに対峙した。

「今はなし、じゃなかったのか?」
「こうして向き合っている以上、無意味じゃない?」
「それもそうだな」

ナイトは槍・・・ブラックランサーを。
ゾルダは大砲・・・エクスランチャーを。

それぞれ構えて、動く・・・・・!

「ふっ!」

ゾルダの吐く短い息に合わせて、エネルギー弾が射出される。
ナイトはその砲口からその着弾位置を予測して避けながら進んでいく。
構わず乱射するゾルダだったが、それが無駄らしいと悟ると、砲身を投げ捨てて自らの召喚機である銃を構えて連射する。
エクスランチャーと比べ、その狙いは小さく、予測しにくい。
今度はそれをまともに受けて、ナイトは後退を余儀なくされる。

「ち・・・火力馬鹿が」

ぼやきつつデッキからカードを引き抜き、車を盾にしながらそれを装填する。

『Trick Vent』

すると、カードを装填したナイトを中心に、5人のナイトが現れた。
このTrick Vent・・・ミスリード・シャドウズは実体を持つ分身を生み出すカードなのである。

いきなり現れた複数のナイトにゾルダ・・・香里は一瞬当惑したもののすぐに気を取り直した。

「何人もいるのなら、その全てを撃ち倒せばいい話よ」

そう呟くと、冷静に自分に迫る一人一人のナイトを狙撃していく。
攻撃を当てられたナイトは鏡が割れたような音を立てて崩れ去る。
その的確な一撃は確実にナイトの数を減じ・・・

「これで、ラスト」

最後の一人。
それも的確に決まる。
・・・だが。

「・・・?!」

最後に残ったそれが本体だと確信していた香里は動揺した。
本体と思われたそれも、分身だったからだ。

「く・・・」

直感から、慌てて背後を振り返る香里・・・ゾルダ。
その直感は正しかった。
そこには気配を断って近付いていたナイト・・・往人がいたのだから。

「ち・・」
「遅い」

ナイトのブラックランサーがゾルダを弾き飛ばす・・・はずだった。

「・・・やるな」
「あなたもね。見直したわ」

ナイトのブラックランサーは、そこに立つ、巨大なモンスターによって遮られていた。
それは人の形でありながら、そうでない部分を併せ持っていた。
その最たるものは頂に掲げる巨大な角。

「・・・それがお前の契約モンスターか」
「そうよ。ミノタウロス型モンスター・・・エクサアームズ。初めて遭遇したモンスターが彼であたしは運が良かったわ」

そうゾルダが呟いた、その時だった。
ナイトの体が粒子化を始める。
それとほぼ同時に香里の身体にもそれが起こった。

「・・・お互い限界ね。今日はここまでにしましょうか」
「そうだな」

二人はお互いに肩をすくめながら、ミラーワールドを後にした。





「・・・解せないわね」
「何がだ」

ミラーワールドから帰還した往人は同じように帰還した香里にばったりと遭遇した。
彼女は冷めた視線を静かに往人に向けた。

「あなたの戦いぶりを見る限り、あなたはライダーである事を受け入れている。
そのあなたがライダーとしては五流以下の北川君と行動を共にしている。
それが分からないのよ」
「別に行動を共にしているわけじゃない。お節介で、興味本位のあいつが勝手に寄ってくるだけだ。
アイツの知り合いのお前なら、分かりそうなもんだがな」
「そうかしらね。あなたはそれを何処かで認めているんじゃないの?」
「・・・なんだと?」

往人の目が細くなる。
それを真っ向から受けても、動じる事無く香里は言った。

「本当に拒絶しているのなら、あなたは彼を倒せているはずよ。その機会がいくらでもあったのは目に見えているのに」
「・・・・・」

香里の言葉に、往人は反論することができなかった。

『おねえちゃーんっ?!何処行ったのー?』

そこに響く、そんな声に香里は顔を微かにしかめた。
近付こうとしているそれは往人には知られたくないものだったから。

「・・・あたしの言葉を嘘だと思うのなら、証明すればいいんじゃない?
あなたが北川君を倒せばその証明にはなる。あたしとしては楽で助かるし。
まあ、どうするかはあなたの自由だけど。それじゃ、またね」

言うだけ言うと、香里はあっさりとその場を後にした。
後に残された往人はその姿を目で追う事もせず、ただ、考え込んでいた・・・



「お姉ちゃん!何処に行ってたの?探したよー」
「ごめんごめん、ちょっとね」

香里は近付いてきた栞に笑いかけた。
しかし、その顔を向けられた栞は微かに眉を寄せた。

「・・・栞?」
「お姉ちゃん、どうかしたの?なんか、悲しそうな顔をしてる」
「・・・・・。そんな事は無いわよ。気のせいよ」
「でも・・・」
「そんなことより、百花屋に行くんでしょ?奢ったげるから、早く行きましょう」
「・・・うん。沢山食べるからねー」
「はいはい、できもしないこと言わないの」

そう言って香里は妹を先導するように歩き始めた。

「あ、待ってよー」

そう言って自分を追いかける妹に顔では苦笑しながら、その内では別のことを香里は考えていた。

(・・・証明すればいいんじゃない、か)

自分の言った事に思わず笑いがこぼれてしまう。
・・・苦い、笑いが。

その苦笑いとともに、香里は病院を後にした。





「それでは、今日はこれまで」
「起立、礼」

副委員長の声が響き、皆頭を下げると、放課後の始まりである。

「うーむ」
「どうしたの北川君?」
「何よ、変な声出して」

担任の教師が立ち去った後、北川は怪訝な顔をした。
それが妙に真剣だったので、七瀬と草薙は声をかけたのだが・・・

「いや、俺的に締めは美坂の声じゃないとな」
「馬鹿じゃないの?」
「・・・」
「・・・いや、七瀬さん、それは言い過ぎなんじゃ・・・」

七瀬の呆れ顔での突っ込みに北川が何も言い返せず、草薙が慌ててフォローに回ろうとしたその時、そこに一人の女生徒が近付いてきた。
今日転入してきた広瀬真希だった。
彼女は笑いかけつつ、言った。

「あなたはこっちでも相変わらずそうね」
「・・・」
「久しぶりね、七瀬さん」
「朝も聞いたわよ」
「改めて挨拶するぐらいいいじゃないの」
「なんか用なの?用が無いなら、話し掛けないで欲しいんだけど」
「・・・七瀬・・・・?」

七瀬の表情は何処となく不機嫌だった。
何かに苛立ちを感じている様なそれは、北川が初めて見る表情だった。
それを見て、広瀬は逆に笑みを深めた。

「まあまあ、せっかく再会したんだから、そう険悪にならないで。
ここには仲立ちしてくれる”彼”はいないけど、せいぜい仲良くやりましょ。
まあ、それももう、昔の話だけどね・・・」
「・・・!あん・・・・」

ばん!と机を叩いた七瀬の手がそのまま広瀬の顔に向かおうとした・・・その時。

「あれ北川君今日は新聞部の打ち合わせじゃなかったっけ?!」
「ああ、そうだった!新聞部の打ち合わせしないとな!行くぞ七瀬!」
「ええ!?ちょ!北・・・!草・・・!」

草薙と北川はこれ以上はないというほどの棒読みでそう言うと、息のあった動きで、勢いに任せて七瀬を教室の外へと引っ張り出していった。
後に残された広瀬は暫し呆気にとられていたが、ふん、とさっきまでとはうって変わった笑みを浮かべた。

「こっちでも庇ってくれる男は確保してるわけね。・・・やっぱ気に入らないわ、あいつ」

そう呟いた広瀬は七瀬が去った方向を見やって、その冷たい笑みを深めた・・・



「あ・ん・た・た・ち・ど・う・い・う・つ・も・り・・・・!」
「たちとか言いながら何故に俺一人だけ首締めますかあああ?!」

教室からかなり離れた廊下の一角で北川の首を締めつつ七瀬は咆えた。
その剣幕に少し顔を引きつらせて草薙は言った。

「あそこで怒ったら、七瀬さん完全に悪役じゃないかな。
怒ろうとした理由はあるんだろうけど・・・放っておけなかったんだ。
・・・・・余計なお世話だったらごめん」
「・・・むー、いや、その・・・そういうわけじゃないんだけど・・・」
「あーまーともかくだ」

首をコキコキ鳴らして調子を戻しつつ、北川は口を開いた。

「何があったのか知らないけど、七瀬らしくないんじゃないか?」
「・・・」
「七瀬はさ、乙女の皮を被った獣だけどさ、こう、あれだ・・・こんなことで一方的に手を上げたりはしない・・・そういう奴だって、俺は思ってんだけど、違うのか?」
「北川君の言うとおりだと思うよ。それとも、それは買い被りなのか?」
「・・・北川・・・草薙・・・・」

七瀬は暫し言いよどんだ後、呟くように言った。

「ったく、あんたたちは・・・・私を怒らせたいんだか、なんなのかはっきりしなさいよね」
「ごめん」
「俺は両方だから謝らないぞー」
「はいはい、あんたはそうでしょうとも・・・・・まあ、一応、ありがと」
「いやいや」
「それはさておき!言ったからには新聞部の打ち合わせ、ちゃんとやるわよ!草薙も付き合いなさい!」
『え〜』
「男がごちゃごちゃ細かい事言わないの!さあ、行くわよ!』

不満の声を上げる二人を引きずり倒しながら、七瀬は歩き出した。
その顔は、何処か満足げだった。





「・・・俺には、甘えが残っているのか?」

往人は呟いた。

否。
そんなはずはない。
そんな甘えなど、とうの昔に消した。
そのはずだ・・・いや、そうでなければならない。

「・・・俺は生き残り、願いを叶える。
そのためだけに、ライダーになったのだから」

国崎往人は思い出していた。
思い出そうとしていた。・・・その必要があったから。

そう、ライダーになったときの事を。



国崎往人は元々旅人だった。
その旅には目的があった。

かつて自分の前からいなくなった母。
その母が残した言葉。

翼持つ少女。

それを探すために、彼は旅をしていた。
その道中に出会ったのが、観鈴であり、晴子だった。

お節介な観鈴に引き止められる形で、往人は彼女達が住む町に暫し留まった。
その中で暮らしているうちに、往人は彼女たちとの生活を悪くないと感じるようになっていった。

そんなある日の事だった。

神尾家にひとつの出来事が起こった。
観鈴の父親であるという男が行方不明になったという知らせが入ったのだ。

無論、その時はその男の素性など、往人にとっては知る由も無かった。
知る由もなく、関係も無かったが、最早無関係とは言えなくなっていた観鈴や晴子がそのことで揺れ動くのをただ眺めているわけにも行かなかった。
これを機に様々な問題を片付けようと晴子が男の実家へと向かうのに合わせ、その承諾のために観鈴も それに付き添い、自然に往人もそれについていく事となった。

その中で、観鈴に異変が起こった。
それは晴子や往人にとっては知っていた”異変”だった。
その異変は歓迎などできないが二人にとっては見慣れたものだった。

だが、それをはじめて目の当たりにした観鈴の親族達は、目にした事の異常さから観鈴を病院に入院、もしくは通院させる事を勧めた。

晴子は、あの田舎町の病院よりも進んだ施設を持っているはずの”こちら”の病院ならもしかしたら観鈴が抱えているモノを治せるかもしれないという希望と、親族達が見守っている中いつもの事だと流すわけにはいかなかったという、二つの理由から観鈴を通院させる事を決意した。

・・・全ては、偶然だった。

往人が観鈴と出会った事も。
観鈴の実家が勧めた病院が、今いる北の街にあった事も。

そして、そこに。

ずっと行方知れずだと思っていた、往人の母親が、植物状態で入院していた事も。

初めて、それを知った時。

それは同姓同名の別人だと往人は思った。
そう思い込もうとした。
だが、そこに眠る母親の顔は、まぎれもなく記憶に残る母親の顔だった。

遥かな記憶の向こうで、決定的な別れをしたはずの母親。
それが何故、今、こんな場所で眠っているのか、往人には分からなかった。

だが、分からなくとも現実にここにいる。
そして、ここにいる以上、話がしたかった。

何を話せばいいのかも分からなかった。
恨み言が言いたいのかもしれないし、今まで何をしていたのかを問いただしたかったのかもしれない。
しかし、彼女は眠っていた。
ただ、眠る事と息をする事しかしていなかった。

その時だった。

”その”声が聞こえてきたのは。

・・・鏡の、中から。

『母親の目を覚ましてあげたいとは思わないかい?』

・・・誰だ?

『そんなことはどうでもいいんじゃないか?
それよりもさっきの問いに答えて欲しいんだが』

ふん。
こんなでかい病院の医者にできない事があんたみたいな怪しげな男にできるとは思わないが?

『それに関しては君に言われたくないが・・・できる、と言ったら?』

条件次第だ。

『手厳しいな。まあ、それぐらいが丁度いい。僕の条件を越えていくには、ね』

・・・さっさと言え。

『条件。それは至極簡単な事だよ』



・・・目の前の男が語った事を、往人は怪訝な顔で返した。



・・・そんな絵空事を信じて、人殺しをやれって言うのか?

『それは君の自由だよ』

断る。
ほっとけば目を覚ますかもしれないんだ。

『だが、このまま放っておけば一年以内に死ぬだろうな、彼女は』

・・・いい加減な事を・・・

『嘘だと思うのなら、主治医にでも聞いてみるといい。確かな事だよ』

・・・・・・・

『もう一度言う。どうするかは、君の自由だ』



もう死んでしまったものとばかり思っていた母親。
もう死んだものと思っていたのなら、死んだものと思ったまま、このまま過ごしていけばいい。
・・・そうも思った。
だが、やはり、そう思う事などできなかった。

自分が旅を始めたのは、母親が残した言葉からだ。
これまで生きてきた目標は、母親が作ってくれたものだ。
生きていると知ってしまった以上、放っておく事などできない。

在りし日の母親の想いを、母自身の口から聞くために。
自分が、自分であるために。



・・・いいだろう。やってやる。
その華音ライダーとやらになってやるよ。
それ以外に道が無いのなら、いくらだってやってやるさ。
俺は聖人君子ってわけでもないしな。

『カードデッキは全部で13。君が倒すべきライダーは12人。
君は、生き残る事ができるかな・・・?』

言われずとも、俺は死なない。
必ず、勝つ。

二人は手を伸ばした。

一人は、渡すために。
一人は、受け取るために。

そう、華音ライダーの運命を。





(・・・それから、いろいろあったな)

あれから一年。

モンスターが現れた時、即座に動けるよう免許を取った。
・・・実際には、そう思っていた矢先に、晴子に仕事する時不便だからという理由で半ば強制的に取らされたのだが。

観鈴がミラーワールドの事を感知できる事、その観鈴の父親がカードデッキを自分に手渡した男である事を知った。

今まで知ることが無かった、旅ではない日常。

モンスターとの戦い。

そして、ライダーとの・・・



「んで、よりにもよって、初めて出会ったライダーが、何でコイツなんだろうな」
「・・・何ブツブツ言ってんだよ、さっきから」
「別に」

床をモップがけする北川をつまらなさそうに眺めつつ、往人はぼやいた。
その北川の横では観鈴が実に楽しそうにテーブルを拭いている。

「居候、あんたもぼやっとせんとちゃっちゃっとやりや」
「・・・・・ああ」

カウンター席では晴子がカップにコーヒーを注いで、その横で往人は使い終わったカップを洗っては、すぐ使える様に拭いていた。

それはここ数日の日常風景だった。

(・・・なるほど、あの美坂とかいう女が言ってたのは正しいな)

どんな理由にせよ、この風景を日常だと認めている自分。
”敵”を日常だと受け入れている自分。

それは確かに、甘さ、なのだろう。

「・・・・・・」

その事実をしっかと受け入れて、往人はただ黙々と手を動かした。





「・・・・・なんだよ、あいつ」

北川は”鳥の詩”からの帰り道、一人ぼやいた。
もう、辺りは暗く、そのためか足が自然に速くなる。

「俺が何したって言うんだっての」

その日の”鳥の詩”でのバイト中、ずっと睨み付けられていた事を思い返し、北川は苦虫を噛み潰したような表情を浮かべた。

あいつ、そう、国崎往人。

(そりゃ、あいつにもいろいろあるんだろうけどさ・・・)

戦って生き残れば、どんな願いも叶える。

生まれて十数年の北川でも、それが意味する所は理解できた。
それが事実なら、これほど魅力的な言葉はない。

(つまるところ、あいつにしても美坂にしても叶えたい願いがある。
そして、それは自分や相手の命を天秤にかけても大事だと思える何か、なんだよな)

わからない。
想像なんかつかない。
ただ一人、その理由を明確に語っていた奴がいたが、そいつの願いは北川にとって大仰過ぎて理解以前の問題だった。

でも、いずれにしても、それは。

「・・・他人なんか、どうでもいいってのかよ、お前ら・・・・」

自分の欲望のためなら、他人を殺してもいいのか?
違うだろ?
そうじゃないだろ?
お前ら、本当は分かってるだろ?

そう問い掛けたくて、北川はそれができなかった。

もし、それを否定されてしまったら。
自分にできる事は・・・・・

ィィィィィィィ・・・・・・ッィイイイイイイイイインン・・・・・・・・・・!

北川の思考は、突如響いたその音に遮られた。

「・・・ちっ、まずはこっちからだな」

舌打ちして、北川は走り出した。
それが、自分がライダーになった理由なのだから。





「・・・いやがった!」

ロードシューターから降り立つと、すぐ側にモンスターの姿があった。
そのモンスターはゾルダとナイトが遭遇したものと同じ縞馬型のモンスターだったが、北川・・・龍騎 はそんな事を知るはずもない。

「おりゃっ!」

・・・知るはずも無いので、同じように苦戦する事となった。
跳び蹴りを繰り出した龍騎だったが、それは伸縮自在のバネ、その隙間に入り込んで無効となる。
逆に元に戻った時に足を挟まれ、身動きが取れなくなってしまった。

「んなっ!このやろ、離しやが・・・ってウワッ!」

モンスターのちょっとした動きに振り回され、まともに攻撃すらできない。
それどころか、バランスを崩した際に殴られ、ダメージを受ける。

「つつ、っ、てめ・・・なめんのもいい加減にしとけよ・・・!」

『Sword Vent』

ボコボコにされながらも装填したカードで呼び出した剣を突き出した。
モンスターは先程と同様に身体を伸ばして、それをかわす。

その際に龍騎の脚も解放される。
行き当たりばったりだったが、これが功を奏し、龍騎はそこからどうにか脱出した。

自由を取り戻した龍騎は、即座に距離を取って、カードを装填する。

『Final Vent』

「はああああ・・・・・・っ!」

自身が従える龍とともに空に飛び上がり、龍の吐く爆炎とともにキックを繰り出す!

「ライダーキィィィィィィック!」

モンスターは嘶き声を上げて、再び身体を伸縮・分離させるが・・・!

「遅えよっ!!」

龍騎の一撃は分離しかかっていたモンスターの、”分離することのできない”顔面に叩き込まれた。
・・・北川の狙い、そのままに。

爆炎プラス、キックの衝撃に耐え切れず、モンスターは爆発、四散した・・・・・!!

「よっしゃ!」

ドラグクリムゾンがモンスターのエネルギーを吸収するのを見届けて、北川はガッツポーズを決めた。
・・・しかし、それは早過ぎた。

銃撃の音が響く。

「ぐあっ!!」

それは完全に無防備だった北川の背に叩き込まれた。
そして、それを放ったのは・・・・・緑色の射手、華音ライダーゾルダ・美坂香里。
地面に倒れながら、北川はうめいた。

「・・・み、美坂・・・・・・!」
「今日は時間たっぷりあるから、存分に相手してあげるわ。・・・やっぱり、こんな事で他人をあてにしたくないから」
「な、何言ってる・・・?」

狼狽する北川に、香里は静かに告げた。

「何を言ってるかなんて理解しないでいいわ。理解するだけ無駄になるんだから」





「・・・・・」

その様子を、往人はただ見ていた。
龍騎がモンスターと戦っている時から、彼はそこに立っていた。
その手には、カードデッキが握られている。
そして、その表情は・・・・・

「・・・・・・俺が、知るか」

そう呟くと、往人は踵を返し、来た道を戻り出した・・・・・

その背に、声が掛かる。

「助けないんですか?」
「・・・!」

その声に、往人は動きを止めた。
それは、聞き覚えのある声。いつか何処かで聞いた声。
ゆえに、なのか・・・往人は振り向けなかった。

「・・・変わってしまわれたんですね」
「・・・」
「ですが、心配は無用です。私が、助けます」

一瞬の静寂。
その後に、それは響いた。

「・・・変身」
「・・・・・・・っ!」

その声に、振り向く。
そこに立つのは、自分の知らない仮面の戦士。
赤紫色の鎧を纏った、”彼”・・・華音ライダーライアは往人の方を少しだけ見やってから、鏡の向こうに飛び込んでいった・・・・・!





・・・続く。





次回予告。

ゾルダと龍騎の前に現れた新たなライダー・ライア。
”彼”の登場により、ライダー同士の戦いは新たな局面を迎える。
そんな中で、観鈴は一つの決意をする。
その決意がさらなる事態を引き起こしていく・・・!

「ライダー同士の戦い・・・私が止めるといったらどうしますか?」

乞うご期待、はご自由に!





ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
閑話休題

北川「じゃかじゃか新キャラ登場で近辺が騒がしくなってきたな」

祐一「そのせいで俺とか名雪は出番なしだがな」

香里「別にいいじゃないの。あたしの扱いに比べれば・・・」

広瀬「それを言うなら、私だって・・・ONE本編じゃもう少しまともなのにー」

七瀬「私の立場からすればそれはどうかと思うけどね。ともかく、伏線も結構でてきたわね。”あいつ”のこととか」

往人「それもあるけど、要注目としては俺の母親辺りらしいが・・・」

観鈴「AIR本編をちゃんとやっている人ならなおの事そう思うはずって作者さん言ってた」

草薙「それ以前に突っ込みどころ満載なのが気にかかるけど。
まあ、それもあるからしばらくは良くも悪くも落ち着きのない展開になる・・・かな」

北川「作者も見捨てられないように精進しないとな。んじゃ、またなー」





第九話へ

戻ります