華音ライダー龍騎 第四話 それぞれの決意
『Final Vent』
・・・無慈悲にもその声が響く。
龍騎・・・北川は地面に伏したままだった。
「く・・・・あ・・・・・・」
何とか必死で身体を動かそうとはしていたのだが、ダメージで体が麻痺して動けなかった。
それを騎士の兜のような仮面の奥から見下ろしている往人・・・ナイトの背中にシャドウクロウが張り付いた。
その翼のはためきと共に、ナイトは宙高く舞い上がっていく。
そして、それが頂点に達した時。
「・・・・・っ!!」
突き下ろした槍を先端にしたナイトの身体をシャドウクロウの翼が覆い、一つの巨大な”槍”へとその身を変貌させた。
・・・その狙いは・・・・・・・!!
「往人さん、だめえっ!!」
その時、元の世界からの観鈴の声がミラーワールドに響いた。
その声が届くか否かの刹那に。
その一撃は、炸裂した。
・・・・・龍騎のすぐ側にあった車に。
その一撃を受けたその車は爆発、炎上した。
「・・・・・」
その炎の中からゆっくりと歩み出た往人は、無言のまま北川の腕を掴んで歩き出した。
北川は倒れたままなので地面に身体を擦りつけながらの移動だった。
北川にはそれを振り払う体力も、起き上がる気力もまだ戻っていなかった。
「・・・おま、え・・・・一体・・・」
「・・・・・これが、闘いなんだよ。
ライダー同士のな。
お前なんかがしゃしゃり出て来れるほど、甘いもんじゃない」
その後は何も言うことなく、北川を引きずったまま、往人はミラーワールドを後にした・・・
「・・・北川さんっ!」
ミラーワールドから帰ってきた二人に観鈴が駆け寄った。
観鈴は壁にもたれかかり、立てない状態の北川の側に座り込むと、傷の様子を見始めた。
「う・・・観鈴ちゃん・・・・どうして、ここが・・・?」
今になって北川は気付いた。
デッキを持たないはずの観鈴がミラーワールドの存在を”見る”ことできていることに。
「・・・観鈴はな、デッキ無しでミラーワールドの事が分かるんだよ。
昔からそれがずっと続いてるらしい。
・・・・・いい勉強になったな」
「・・・往人さん・・・・・・」
少し涙目で、観鈴は往人を見詰めた。
「どうして、こんなこと・・・・・」
「ライダーは共存できない。それは前も話したはずだぞ、観鈴。
・・・じゃあな。
これに懲りたんならもうライダーの戦いに関わろうとするなよ」
最後の言葉は北川に向けて、往人は”鳥の詩”の方へと去って行った。
「く・・・待て・・・・・!」
「駄目・・・・・!北川さん怪我してる・・・・・」
必死に起き上がろうとする北川だったが観鈴の表情を見て動きを止めた。
あまりにも、それが悲しげで。
辛そうだったから。
「どうして・・・どうしてこんなことになるのかなあ・・・・・」
俯いてそう呟く観鈴の声を、北川はただ聞く事しかできなかった・・・・・
「ただいま・・・・・」
そう呟きながら、名雪は自分の家である水瀬家のドアを開いた。
・・・その表情は暗い。
「あらお帰りなさい、名雪」
そう言って出迎えたのは、名雪の母親であり、この水瀬家の家主である水瀬秋子。
・・・秋子は帰ってきた娘の様子を見て、微かに眉をひそめた。
「・・・どうしたの、名雪。元気ないみたいだけど」
「え・・・?ううん、なんでもないよ」
名雪はハッと顔を上げて笑った・・・が、それは明らかに誰が見ても無理をしていた。
秋子は名雪がそうするのを見て、あえて何も言わない事にした。
無理をしてでもそれを隠そうとする、ということはあまり聞かれたくない内容の話だと判断したからだ。
「・・・そう。でも、なにかあったら相談に乗るから」
優しげにそれだけ言って、秋子は家の中へと戻っていった。
名雪は、その母の気遣いに感謝しつつ、自分も家の中へと入っていった。
「よ、名雪遅かったな」
自分の部屋へと行くべく階段を上がると、そこには祐一が立っていた。
・・・帰宅部の祐一は特に用事がない限りは名雪よりも帰ってくるのが遅くなる事はない。
この日もその例にもれることなく、祐一はとうの昔に帰宅していたようだ。
「あ、うん。部活あったし・・・」
言いながら名雪は思い出していた。
部活が終わった後、帰ろうとしていた自分。
その自分の前に、突如鏡の中から現れた仮面の戦士。
その正体が香里だった事。
そして、何故そんな事をしていたのかという自分の問いに対する香里の答え。
「・・・どうした名雪?」
突然黙り込んでしまった名雪に、少し心配そうに祐一は言った。
「え?あ、うん・・・あのね、祐一」
「なんだ?」
名雪は聞くか聞かざるか迷ったが、結局聞いてみることにした。
「もし・・・もしだよ。
自分が誰かを殺す事で自分の大切な人を救えるとしたら・・・祐一は、どうする?」
それは、秋子にはできない問いかけだった。
・・・何か決定的な答えを出してしまいそうで。
だから、香里や自分と同い年の祐一にしか聞けない事だった。
「・・・変な事を聞くなあ、お前。
まあ、いいか。
うーん、どうだろうな・・・正直、そうなってみないと分からない所もあるけど・・・・俺だったら・・・・・殺すかもしれないな」
「・・・・・・・・そう、なの?」
「うーん、難しい所だけどな。
そういう、お前はどうなんだ?」
「え・・・・・?」
その祐一の問いかけに、名雪はただ呆然と立ち尽くした・・・
「・・・・・なあ、観鈴ちゃん」
ようやっと調子を取り戻した北川は、観鈴を”鳥の詩”に送る道すがら尋ねていた。
「なにかな」
「・・・・・あいつ・・・国崎だけどさ。
君と一緒にいちゃいけない気がする・・・・・」
「・・・・・・・どうして?」
その北川の言葉に観鈴は立ち止まった。
北川も同じように立ち止まり、観鈴に向き合って言った。
「だって、あいつは・・・俺を、殺そうとしてた。
君と一緒にいるのだって・・・・・自分の闘いを有利にするためなのかもしれない」
・・・こんな事を言いたくはなかった。
だが、もし自分の考えているとおりだとすれば、国崎往人はいつかこの女の子を危険に晒す。
そんなことをさせたくない一心で、北川はそう言った。
だが・・・
「・・・どうして、そんな事を言うの?」
それに対する観鈴の声音には・・・怒りはなかったが、悲しみを帯びていた。
「・・・わかってる。こんな事を言うべきじゃないって。でも、でもさ・・・」
「・・・・・北川さん、ごめんね」
そう言うと、観鈴はぺこりと頭を上げた。
「北川さん、私を心配して言ってくれてるの、分かる。
でも、私は往人さんを信じてる」
「・・・・・どうして?」
「・・・私、往人さんに出会ってから、何度も往人さんが華音ライダーナイトとして戦ってるのを見てる。
どんなに傷ついても、往人さんは痛いとか苦しいとか言わないで必死に戦ってた。
多分それは普通じゃできない事だと思う。
何か、大切なものがあるから戦ってるのが、すごくよく分かる。
往人さんは、確かに意地悪だし、時々何考えてるのかよく分からない事するし、目付き悪いけど・・・いい人か悪い人かどうかは、ちゃんと見てれば分かるよ。
・・・それは、北川さんも一緒」
「・・・俺?」
「うん。北川さんもすごくいい人。
だから、信じてあげて欲しい。
往人さんの、ことを」
その真っ直ぐな言葉は、静かに、だが確かに北川の心に響いて行った・・・
それから二日後の月曜日。
「ふああ・・・」
休み時間の喧騒の中、自分の机で北川は大欠伸をかましていた。
・・・休みの間、色々考えて睡眠不足ぎみだったりする。
「ふああ〜」
同じように、北川の机の斜め後ろに位置している名雪も大欠伸をした。
その二人を見ていた、香里と祐一は思わず笑った。
「欠伸が移るっていうのは本当ね」
「まったくだな」
「好きで欠伸してるんじゃないっての。そうだよな、水瀬さん」
「そうだよ〜。ひどいよね、北川君」
「・・・・・北川はともかくとして、寝汚い名雪が言っても説得力はないぞ」
「祐一〜」
「まあでも、後一時間の辛抱だって」
・・・その時だった。
キィィィ・・・・ィィン。
「・・・・・!」
「・・・・・・」
北川と、香里の表情が変わる。
「・・・どうした?」
「・・・いや、俺ちょっとトイレ」
祐一の問いにそう答えつつ北川は席を立った。
「・・・下品よ、女の子の前でそういうこと言うのは」
そう言いながら香里も席を立った。
「ああ、気をつける。んじゃな」
そう言い残して、超特急なスピードで北川は教室を飛び出した。
「・・・あいつ、そんなに行きたかったんなら早く行けばよかったのに。
なあ、かお・・・って、あれ」
祐一が振り向いた先に、話し掛けた人物である美坂香里の姿はなかった。
「・・・ああ、もうすぐ授業だってのに・・・・・」
まあ、そうも言ってられないかと内心で呟きながら、北川はトイレに入った。
・・・本当はその音の発生源はここではなかったのだが、そこまで走っていると間に合わないので、トイレからミラーワールドに入り、そこからロードシューターで現場に向かったほうが早いと北川は考えたのである。
北川はまだ続く音を確認しながら、トイレに入り、さらにその中の一番奥に入って鍵をかけた。
「よし・・・」
ここで変身するのは少々・・・いや、かなり間抜けだがこの際そんな事は言っていられない。
北川がズボンの中からカードデッキを取り出し、銀色の光沢を放つ手すりに突きつけかけた・・・・・その時。
イイイイィィィィ・・・・・・ィィ・・・・・・ィ・・・・・・・
ミラーワールドからのその音は徐々に弱まり、最後には途切れてしまった。
「・・・ありゃ?・・・・・」
首を傾げる北川の耳に、その音はもう響いては来なかった。
「・・・・・まあ、いいか・・・」
すっきりはしなかったが、北川はズボンにカードデッキを入れてトイレから出た。
そこで何気無く見た窓の外に・・・学校の裏庭に自分の知った顔がいたので、思わず”あ”と声を洩らした。
「・・・あいつ・・・・」
それを見てしばし考え込んでいた北川だったが、やがて意を決したのか、再び走り出した・・・
「・・・・・取り越し苦労だったみたいね」
そう言いながら香里はトイレから廊下に出てきた。
彼女は北川と同じように判断し、ここに来ていたのだ。
(・・・北川君も、変な顔してたけど)
自分と同じ反応をしていた北川もまたライダーなのかも、と思ったがどうやら違ったらしい。
トイレに慌てて駆け込む北川を確認していた香里はそう判断した。
・・・香里は気付かなかった。
北川が自分と全く同じ判断の元でそうしていた、ということに。
・・・否。
それは正確ではないのかもしれない。
気付きたくないという無意識がそうさせていたのかもしれないのだから・・・
ふう、と息を吐きながら教室に向かおうとした香里・・・その目の前に、人影が立っていた。
「・・・名雪」
彼女の親友である、水瀬名雪がそこには立っていた。
名雪は、真っ直ぐに香里を見詰めていた。
「・・・香里・・・・」
「なに?」
「今さっき走ってったのって・・・この間話してた・・・・?」
そこで、事実を認めたくないのか言いよどむ名雪に香里は答えた。
「ええ、そうよ。
でも、相手は人じゃないから、安心して」
そう言って、香里が名雪の横を通り過ぎていこうとした、その時。
名雪が香里の腕を掴んだ。
「・・・名雪?」
「香里・・・
私、昨日、一昨日の間ずっと考えたんだ。
あんまり、頭はよくないけど、一生懸命考えてみたんだ。
香里のやってる事が正しいのか・・・・・」
・・・休み時間の喧騒の中、その会話は他の生徒には関わりなく埋没していったが、二人の間ではその逆だった。
「・・・でも、結局、答えなんか出なかった」
「・・・そう・・・・」
「・・・でも、でもね。
もし祐一やお母さん、香里たちが、死ぬ運命にあって、それを・・・香里みたいに戦う事で何とかできるなら・・・私は・・・・香里と同じようにやるのかもしれない・・・そう、思うの」
「・・・・・」
「だから、私は香里を責められない。
香里の事、何も言えないし、言わない。
応援は・・・できないけど・・・・・香里が、私の親友である事は、変わらないから。
だから・・・その・・・・」
それ以上は、何を言っていいのか、名雪には分からなかった。
だが、香里にとってはそれで十分だった。
「いいのよ、名雪・・・・・
・・・ありがとう・・・・・・・・」
そう言って、香里は微笑んだ。
それは、親友である名雪が見てきた笑顔の中でも、最高の笑顔だった。
「さ、授業が始まるから、帰りましょう」
そう言って香里は名雪に背を向けて歩き出した。
(今のあたしの顔、恥ずかしくて見せられないわね・・・)
その呟きを、胸に響かせて。
「うん・・・!」
名雪はそう言って、香里の後を追いかけていく。
そうやって二人は、今までそうしてきたように、仲良く連れ立って、教室へと帰っていった・・・
「おい!」
その呼び声に、国崎往人は振り返った。
そこには、一昨日、自身が散々ボコボコにした男・・・北川潤がいた。
「・・・・・何か用か?」
「それはこっちの台詞だって・・・って言ってもその”用事”は分かるけどな。
お前も、モンスターの気配を感じたんだろ?」
「・・・お前、まだ戦う気でいるのか?」
呆れ果てた様子で、往人は言った。
・・・というよりも信じ難かった。
あれだけ痛い目をみて、まだ自分に付きまとうこの男の事が。
その鋭い視線をしっかりと受け止めて、北川は言った。
「ああ、もちろんだ。
俺は、人を護るためにライダーになったんだからな」
「・・・お前・・・・・!」
苛々した口調を隠そうともせず、往人は北川の胸倉に掴み掛かった。
「何度言ったら分かる・・・!
お前なんかが、しゃしゃり出て来れる世界じゃないんだよ・・・!!」
「知るか、んなこと!
やりもしないでどうしてそんな事が言えるんだよ!」
「なら、お前にどれほどの覚悟があるってんだ!
俺は最後に生き残るためなら、どんなことだってできる!!
この前やったように、お前を殺すことだってな!!
・・・お前にそれができるのか?
・・・お前にそれだけの覚悟があるのか?」
往人の叩き付ける様なその問いかけに、北川は少しの間を置いて口を開いた。
「・・・俺に人は殺せない。
そんな覚悟はしたくないし、するつもりもない。
でも・・・・・人を護り抜くっていう覚悟だけはしてる。
だから、俺は死なないよ。
ライダー同士が争ってるって言うんなら、俺一人だけでも、それを貫く。
そのために、ちゃんと生き抜いて見せるさ。
・・・それに」
「・・・それに、なんだ?」
「あんたへの借りも返さないといけないからな。
あんたが何を考えてるかは知らないけど・・・あんたは殺せるはずの俺を殺さなかった。
それは事実だからな」
休みの間、北川はあの時・・・往人が自分に止めを刺そうとした時の事を思い返した。
何度も何度も。
あの時、観鈴の声を聞いてから攻撃の方向を変えるのはタイミング的に見て無理だったはずだ。
どう考えてもその結果しか出なかった。
そして、結局ナイトの一撃は龍騎に突き刺さる事はなかった。
つまりそれは最初から当てる気がなかったということ・・・北川はそう思い当たったのである。
それは、観鈴に往人を信じて欲しいと言われたからこそ、辿り着いた答えだった。
「だから、俺はあんたに借りをきっちり返すまでは死なないさ。
もう誰がどう見てもわかるくらいの、かつあんたが反論できないほどの大ピンチの時にきっちりと助け返すまで、な」
不敵に、というか何処か楽しげな顔で北川は笑って、そう言った。
「・・・・・・お前、相当にバカだな」
そう言って、往人は先程よりも呆れた表情で胸倉を掴んでいた手を放した。
そんな往人に北川がへへっと笑いかけた・・・その時。
ィィイィィイイイイイイイイイイン・・・
再び、何かが共鳴するような音が響いた。
それは、二人のすぐ近くからだった。
一瞬、顔を見合わせる二人。
それは、刹那の間。
その後、二人は申し合わせたかのように同時に走り出し、裏庭に止められた一台の車の前に並び立った。
そして、全く同時にカードデッキを突き出した。
・・・鏡から生まれ出たベルトが二人の腰に巻きつく。
往人は握った右手を身体を防御するような形に構えた。
北川は、右手を左方向の空にビッと突き出した。
・・・それは、かつて北川がビデオで観て憧れた、ヒーローの変身ポーズだった。
『変身!!』
二人の声が唱和した次の瞬間、二人の姿が変わった。
蒼き騎士、華音ライダーナイト。
赤き闘士、華音ライダー龍騎。
「ふっ・・・!」
「よっしゃ!!」
二人はそれぞれの掛け声で気合を入れて、ミラーワールドに渡っていった・・・
「・・・・・また・・・?」
すでに授業が始まった教室で、香里はぼやいた。
ミラーワールドからの音が聞こえてきた・・・かと思うとまた途切れてしまったのである。
(来るなら来るではっきりしてほしい所ね・・・)
嘆息しつつ、香里は再び授業に集中する事にした・・・
「って、いないじゃねーか・・・・・」
龍騎・・・北川は誰もいない裏庭をきょろきょろしながら、言った。
「・・・おそらく、高速移動するタイプのモンスターだな。
だから、さっきも”こっち”に来る前に逃げられた」
「あ、なるほどな・・・でも、それだとこっちに来てもまた逃げられるんじゃないのか?」
「かもしれない。
だが、今のところ奴らはこの学校の誰かに目をつけている。
そしてモンスターは一度狙った標的を変えない。
だから、仕留められる可能性は・・・・・」
ナイト・・・往人がそう言い掛けたその時だった。
ヒャウッ!!
風切り音なのか、”それ”の鳴き声なのか判別しがたい音と共に、それが飛来した。
「ぐあっ!!」
「いてっ!!」
恐ろしく身軽な動きで二人に攻撃を加えた、それはバッと地面に降り立った。
「・・・鹿か?」
「違うって!お前常識知らないな。あれはレイヨウだろ」
往人の言葉に北川は突っ込みを入れた。
そこには、二股の槍を持ったレイヨウによく似た金色のモンスターが一匹いた。
・・・ちなみにレイヨウとは偶蹄目ウシ科の哺乳類の中で、鹿に似た形態をもつ動物である。
「まあ、似たようなもんだから間違えるのも仕方ないけどな。
もう少し勉強した方がいいぞ」
「分かるお前がおかしいんだよ!・・・そんな事を言ってる場合じゃない、来るぞ!」
そのモンスターは軽快な跳躍で再び二人に襲い掛かった。
先程と同じようにスピードに翻弄され、二人は弾き飛ばされた。
「く・・・調子に乗るなっての」
二人は殆ど同時にカードを引き抜き、装填した。
『Sword Vent』
『Trick Vent』
龍騎の手に空から降ってきた剣が握られる。
その間に、三人に分身したナイトがモンスターを追う。
いかにこのモンスターの移動能力が高くとも、人数があれば逃走を封じ、移動を制限する事はできる。
現にナイトの実体を持った分身たちは、モンスターの動きを完全に”閉じ込めて”いた。
「うお、すご・・・って、感心してる場合じゃないか」
モンスターがその分身の間を縫ってその”結界”から飛びけ出そうとした所に、龍騎は斬りかかった。
その一撃にモンスターはあっさりと弾き飛ばされた。
そのままの勢いで龍騎は斬りかかって行く。
「はっ!!」
だが、敵もさるもので、その一撃を槍で受け止めたかと思うと、龍騎の剣を絡めとリ、空中に上げ捨てた。
(・・・・・そう言えば・・・)
昨日、ナイトとの戦いでよく似たシチュエーションがあった事を北川は思い出した。
「とすれば、こうだっ!」
北川は剣を失った隙を突いて攻撃しようとしたモンスターの先を取って、モンスターを踏み台にして空に飛び上がり、さっき弾き飛ばされた剣をキャッチし・・・!
「てりゃああああっ!!」
落下の勢いを利用して、モンスターを一斬する・・・!!
さっき踏み台にされたモンスターは体制を整える事ができず、槍ごと身体を切り裂かれた!
モンスターの叫びが響く・・・その隙さえ見逃さず、地面に着地した龍騎はモンスターに蹴りをかました。
モンスターは身動きが取れないまま、地面を転がった・・・
「今だ、国崎!」
その北川の叫びを聞き入れてか、ナイトは素早くカードを引き抜き、装填した。
『Final Vent』
「うおおおおおおっ!!」
ナイトの身体をマントが包み込むことで完成するその弾丸はモンスターに逃げる隙を与えない、疾風の速さを持ってその身体を貫いた・・・・・・!!!
カランカラン・・・
その音と共に喫茶店”鳥の詩”のドアが開いた。
「いらっしゃい。・・・って、あんたらか。二人一緒に来たんか?」
愛想よく晴子が笑いかけかけた先には往人と北川の二人がいた。
二人はカウンター席に並んで座って、答えた。
「違います」
「・・・俺の行き先にこいつがいただけだ」
「それは俺の台詞だっての」
「・・・・・授業サボったくせに偉そうに言うな」
「仕方ないだろうが。あの時間の先生は遅れてきた奴に厳しいんだ。
だったら早退したという事にしておいた方が被害は少ないんだよ」
「は、汚い裏工作しやがって」
「ただ、そう伝えるように携帯で連絡しただけだろうが」
「それを裏工作って言うんだよ」
二人は、晴子が呆れる様子にも気付かず、子供レベルの口喧嘩を展開し続けた。
それを見ていた観鈴は笑って言った。
「にはは、二人は仲良し」
『誰がっ!!』
観鈴の言葉を証明するように、その突っ込みは見事に唱和した・・・・・
・・・同時刻。
北川たちの学校の屋上。
そこに”彼”はいた。
その彼の前には、いかにも柄が悪そうな生徒が数人並んでいた。
「よく、来てくれたね。ご苦労様」
その”彼”の声音は明らかに人を小馬鹿にしていた。
「んだと、こら。てめーが呼び出しといて何だその態度は・・・」
「金持ちだからっていい気になってんのか、おい?」
その言葉を聞いて”彼”の表情はますます目の前の彼らを見下すものに変化した。
「・・・噂通りの低脳ぶりで助かるよ。
君たちのような社会のクズだと、躊躇いすらいらないからね」
”彼”がそう言った次の瞬間には。
目の前にいたはずの生徒たちの姿は消えてなくなっていた。
「・・・・・駄目だな・・・こんなものじゃ足りない。
次はもう少し集めてみるかな・・・・・」
ぶつぶつと呟きながら”彼”は屋上を後にした。
その顔には終始、歪な笑みが浮かんでいた・・・・・・・
・・・・・続く。
次回予告。
生徒の行方不明事件。
それは新聞部を動かすには十分の理由だった。
七瀬や天野を護るべく、行動を共にする北川は、三人目、四人目のライダーと遭遇する。
話し合いでの解決を望む北川の思いは果たして叶うのか?
夜の校舎での邂逅は、新たな舞台へとライダーたちを誘う。
「・・・・・貴方、何者?」
乞うご期待、はご自由に。
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閑話休題。
北川「今回はわりと戦闘シーンが短かったな」
国崎「まあ、今回はマジ話がメインだからな。
・・・・・って、俺はまたボケ役か・・・」
香里「仕方ないんじゃない?
あなた義務教育受けてるかどうかも定かじゃないし。
そういう知識面で北川君に遅れをとるのは仕方ないじゃない」
北川「おおいっ!なんでこいつを庇うんだよ〜」
香里「庇ってないわよ。あたしはただ事実を言っただけだし」
国崎「でも、こいつに突っ込まれるのは痛いぞ」
香里「大丈夫よ、あなたはボケキャラかもしれないけど、北川君はバカキャラだから」
北川「美坂・・・・・(号泣)」
国崎「・・・それもそうだな」
北川「お前も納得すんな!!」
香里「ではお後がよろしいようなので今回はこれにて」
北川「よくないだろ!!」
国崎「じゃあ、またな」
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