華音ライダー龍騎 第二話 赤き闘士、誕生
「だあああああっ!!?」
「うおおっ!!?」
鏡の向こうの世界・・・ミラーワールドの中。
赤き龍が空を舞っていた。
それだけなら看過していいのかもしれない。
・・・それだけではないから、看過できないのだが。
龍は敵意そのものを吹きかけるように赤い炎を撒き散らした。
その火炎の弾丸はいとも容易く辺りに破壊をもたらした。
しかし、その的になっている二人は直撃を避けるのが手一杯でどうしようもなかった。
「くっそ、調子に乗りやがって・・・」
北川は毒づきつつも先程と同じように、今はベルトに収まっているカードデッキからカードを抜こうとした。
そんな北川を華音ライダーナイト・・・往人は蹴り飛ばした。
「いって!!てめ、なにしやが・・・!!」
食って掛かろうとした北川の眼前を炎の塊が通り抜けた。
ドゴオオンッ!!
少し遠くで爆発が巻き起こる。
「・・・・・・・」
北川は騎士さながらの鎧の”存在”を眺めるように見た。
(・・・こいつ・・・助けてくれたのか・・・・?)
一方の往人は北川のことなど眼中にないのか、ただ龍を見ていた。
・・・そんな時だった。
その往人の身体の表面が、霧のようにぼやけた。
その現象はおさまったり、活発化したりを繰り返している。
・・・その間隔を少しずつ狭めながら。
「・・・・ち、ここまでだな」
そう呟くと往人は龍に背を向けて、走り去った。
「あ、ちょ・・・待てよ!」
心細さからか、北川は慌ててその後を追った・・・
北川が往人に追いついたとき、往人はビルのガラス張りの前に立っていた。
・・・かと思うと、まるでそれが当然のようにガラス張りに一歩踏み出した。
衝突する・・・と北川は思ったのだが、そうはならなかった。
往人の身体はまるで溶け込むようにそのガラスの中に消えていったのである。
「・・・・・げ・・・?って、おい!一人で逃げんな!!」
北川は鏡の向こうに向かって叫んだ。
すると、意外な事に、律儀に返事が返ってきた。
『・・・別に逃げたわけじゃない。その世界にいる時間は限られてるんだよ。
お前も死にたくなかったら、さっさともと来た道を帰ることだ。じゃあな』
その声を最後に、往人の気配は遠ざかっていった。
「って、どうやってきたかも分からんのだっつうのおおおおっ!!」
一人残された北川は思わずパニックに陥った。
虚空に向かって突っ込みを入れたり、頭を抱えてその辺りをうろうろしたり、意味なく辺りを見回したりした。
そんな北川に火炎弾が再び襲い掛かる・・・!!
「げっ!!」
それにギリギリで気付いた北川は一寸程の差でそれをかわした。
やや爆風に飛ばされ気味な、その勢いを維持したまま、北川はとりあえず走り出した。
その攻撃のおかげか、とりあえずパニック状態から回復した北川は龍に追われながらも、その頭をフル回転させていた。
(元来た場所元来た場所元来た場所・・・・・・・・って、あそこか!!)
必死の逃亡の中どうにかそれに思い当たった北川は、その場所に向かった。
その場所・・・七瀬を呼び止めようとした北川自身が、見知らぬ女の子に呼び止められた車の所へと。
「うおおおおっ!!」
命に関わることなので流石にマジになって北川はその場に到達した。
しかし、龍は悠々とそのスピードに追いついて・・・その車もろとも北川を吹き飛ばそうと火炎の息を吹きかける予備動作に入る・・・・・!!
北川は車に飛び込むという行為に疑問を持ちはしたが、はっきり言って今は迷っている場合ではなかった。
「とおおおおおおりゃああああああっ!!」
ホームベースに飛び込む野球選手の心意気で、北川は車のボディにダイブした。
車は往人の時と同様に、北川の身体を溶け込むように受け入れた。
・・・それはまさに間一髪のタイミングだった。
北川が消えた瞬間、龍の炎は車ごと北川のいた場所を容易く吹き飛ばしてしまったのだから・・・
「・・・あああああっ!!」
飛び込んだ際の勢いのままで、北川は車のボディから・・・いや、ミラーワールドから現実の世界へと帰還した。
勢い余って地面を何回転か転がった後、仰向けになった状態でやっと北川の身体は止まった。
その瞬間、鎧の姿が地面に叩き付けた鏡のように飛び散って、北川の姿はいつもの、普通の人間の姿に戻った。
その目に映ったのは、赤く染まる空、流れる雲、そして・・・自分に駆け寄ってきた、あの見知らぬ女の子。
「大丈夫ですか・・・?しっかりして下さい・・・・・!!」
(ああ、大丈夫だよ)
そう強がろうとした口はただ空回り、それを伝えることなく北川の意識は闇に落ちた。
・・・ミラーワールドの中。
往人・・・のナイトの攻撃によってバラバラになったモンスターの破片。
その一つが大きく震えたかと思うと、その断面から靄のようなものが蠢き、少しずつ少しずつ何かを増殖させていった・・・・・・・
そして、それに気付くものは、その場にいるはずもなかった・・・・・
・・・夢。
その正体は、断片化した人の記憶の最適化・・・そういうことらしい。
そうではない場合もあると主張する人もいるが、今現在においては基本的にはそれが主流になりつつあるようだ。
それを証明するかのように、北川は夢を見ていた。
強烈な印象をもった、その出来事を。
『華音ライダー、なのかな』
そう問い掛ける女の子。
鏡の中の世界。
そこに存在していたモンスター。
それを倒した、存在。
まるで、その記憶の整理が終わった時を狙ったように。
「・・・・・・・・・ん・・・・?」
北川の意識は覚醒した。
「・・・・・おい、観鈴、こいつ起きたみたいだぞ」
ぶっきらぼうな男の声が、北川の頭上を行き、過ぎた。
その声のした方とはおおよそ反対の方向から、北川の視界に少女の顔が入ってきた。
「よかった・・・無事で何より・・・・にはは」
そのポニーテールの少女は北川の顔を覗き込むとにっこりと笑った。
少女の笑顔に戸惑いつつも、べットに横になっていた北川はゆっくりと身を起こした。
さりげなく辺りを見回してみるが、この場所・・・部屋は北川の見知ったどの場所にも該当しなかった。
部屋自体はこざっぱりとした感じがあり、棚や机の上には、この部屋の主が女の子であることを示すようにぬいぐるみが結構な数置かれていた。
部屋の片隅にはダンボールの箱がいくつかつまれている。
そして、その部屋の壁際に置かれたベットの上に北川はいた。
少女はその横に椅子を出して腰掛けていた。
「・・・・・え・・・と、ここは・・・・・」
「あ、えーとですね。ここは私の部屋なんです。引っ越してきたばかりで片付けてなくてごめんなさい。
・・・あの後、あなたは気を失ってしまったから、往人さんと一緒にここまで運んできたんですよ」
(・・・・・あの後?ユキトサン?)
北川は何のことか理解できずにいた。
そんな彼に、少女はポケットから何かを取り出して、追い討ちをかけるように尋ねた。
その手に握られているのは・・・北川が持っていたカードデッキ。
「あの・・・起きたばっかりで悪いんだけど、これをどこで手に入れたのかな?」
「え・・・と・・・それは、最近行方不明になった人の住んでたアパートの部屋の中に落ちてたんだけど・・・」
質問されて、北川は半ば反射的かつ素直にそう答えていた。
「じゃあ、その・・・橘敬介って名前、知りませんか?
私のお父さんなんだけど、今は違ってるみたいなそういう感じの人なんですけど・・・」
「・・・・・いや、その、悪いけど、聞いたことない・・・」
「・・・そうですか・・・・」
その返事を聞いて彼女・・・観鈴は少し顔を俯かせた。
その表情は今出会ったばかりの北川でさえも分かる、悲しげな表情だった。
だが、北川としてはその表情が晴れるまで待っている余裕はあまりなかった。
・・・あまりにも、聞きたいことがありすぎた。
「・・・悪いけど、質問させてもらっていいかな?」
北川のその言葉に、観鈴はパッと顔を上げた。
その顔に先程の悲しみは見当たらない。
・・・とりあえず、北川は客観的な事実としてそう思うことにした。
「はい、なんですか?」
すごくにこやかにそう問う彼女に内心で苦笑しつつ、北川は思いついたままのことを口にした。
「え・・・と、まず、そのカードデッキってなんなんだ?
それ持ったとたん、なんかがいるのがわかるようになったみたいなんだけど・・・
しかも、鏡の中に」
「えーとですね・・・私も聞いただけだから詳しくは知らないんだけど・・・
このカードデッキを持っていると、鏡の向こうの世界・・・ミラーワールドにいるモンスターの存在を感じ取れるようになるの。
ミラーワールドのモンスターは・・・人を襲って・・・・その命を自分の中に取り込もうとしてる・・・・・
カードデッキはそのモンスターを倒すために姿を変えたりすることをできるようにしてくれるの。
あ、でも、そのためにはモンスターと契約を交わして力を借りなくちゃいけないんだけどね」
その言葉で、北川の脳裏にモンスターに切りつけた剣がいともあっさり折れたことが思い浮かんだ。
「あ、それでか・・・とすると、あいつはあの鴉っぽい奴と契約してたのかな・・・」
「そうそう。あの鴉はシャドウクロウっていって、往人さんの契約してるモンスター。
私は可愛くて好きだけど。
あれで人を襲おうとか思ってなければねー」
「・・・さっきから言ってる、そのユキトサンって誰のことだ?」
「その人」
問われて観鈴が指差した先には、黒っぽい服装の目つきの悪い男が立っていた。
男・・・往人は頭をぽりぽりと掻いてから、呆れ気味に口を開いた。
「・・・観鈴、どうでもいいがしゃべりすぎじゃないのか?」
「そうかなー?」
観鈴が小首を傾げる横で、北川は思わず「ああーっ!!」と声を上げていた。
「あんた、その声は・・・あの時の奴か!」
ミラーワールドにいた、もう一人の存在。
「そうだよ。あれ、往人さん。変身してる時は華音ライダーナイトって言うの」
「やっと気付いたのか。鈍いな」
「う、うるさいな。いきなりあんな状況になったら誰だって冷静な判断できないだろうが」
「ふん、どうだかな。
・・・・・もういいだろ、観鈴。・・・・・こいつは何も知らない。
これ以上ここに居させる理由もない。
おらおら、ささっと出てけ。
デッキは俺たちが預かってやるから」
往人はそう言って北川をベットから無理やり追い出すと、部屋の出口付近まで押し出していく。
観鈴は、その腕を慌てて掴んだ。
「待って、往人さん・・・!この人、モンスターに・・・あの龍に狙われてるんだよ・・・!」
「げ?マジ?」
「うん、マジ。・・・モンスターはね、一度狙った人を狙い続けるんだよ。そのモンスターが死ぬか、狙った人が死ぬかしない限り・・・」
「・・・俺が倒せばいいだろう」
「そうかもしれないけど・・・万が一の場合ってあると思う。封印のカードくらい渡しておかないと」
そう言って観鈴は往人の目を真っ直ぐ見詰めた。
しばし、それに視線を返していた往人だったが、やがて諦めたように溜息を吐いた。
「・・・好きにしろ」
そう言うと、北川から離れて、ベットの上に腰掛けた。
それを確認するかのように見届けてから、観鈴はスカートのポケットからカードデッキを取り出し、さらにその中のカードを一枚引き抜いて、北川に渡した。
「・・・これは・・・・」
そのSEALと書かれたカードに北川は見覚えがあった。
はじめてあの龍と遭遇した時に、龍から身を守ってくれた、あのカードだった。
「このカードはね、モンスターを封印できるの。これさえあれば、モンスターがいつきても平気」
「・・・そっか。わかった、ありがと」
そう言って、北川はカードをやんわりと受け取った。
そして、そのカードをまじまじと見詰めてから、こう言った。
「・・・あんたたちって・・・・これからも、モンスターと戦うのか?
・・・人を助けるために」
その問いに、観鈴は僅かに考える素振りを見せてから答えた。
「うん、そうなっていくんじゃないかな。
まあ、それだけでもないんだけどね、にはは」
「・・・そっか・・・・」
「・・・?どうか、した?」
微かに顔を俯かせる北川に、観鈴は問い掛けた。
北川はそれに対し、横に首を振って「なんでもない」とだけ答えた。
「・・・んじゃ、俺帰るわ。いろいろありがとさん。・・・ところで、今何時?」
「えっと・・・夜の9時くらい。
・・・せっかくだから、コーヒー一杯でも飲んでいきませんか?
この家、一階は喫茶店になってるの。
開店したばっかりだけどね。
お母さんが店長さん」
「・・・ふーん。ならご馳走になろうかな」
「どうぞー」
・・・北川は知らなかった。
この何気無い選択がこの夜、地獄を招くことを。
・・・喫茶店”鳥の詩”。
店長は、観鈴の母である、神尾晴子。
彼女は決して悪い人間ではない。
むしろ、好感の持てる人柄だろう。
・・・彼女が持つ最大の欠点さえなければ。
階下に降りてきた三人を、一人の女性が迎えた。
髪を無造作に束ね、エプロンを着たその女性は、カウンターの奥でにかっと笑うと北川に向かって言った。
「おっ、目ぇ覚めたみたいやな。観鈴に感謝しいや。今時おらんでー。
道端で倒れた奴を家までつれてきて看病してくれる奴なんて」
そう言われた北川は観鈴に視線を向けた。
すると観鈴はうんうんと頷いた。・・・どうやらそういうことにしておけ、ということらしい。
「うん、お礼言ってもらっちゃった。にはは」
「・・・いいことした方が御礼言われて喜んでどないすんのや。
まあ、あんたらしいか。
・・・ところで、あんた・・・・この辺に住んでるんか?」
再び北川に視線を向けて女性は言った。
「え・・・とはい。近くに高校ありますよね。そこの学生なんすよ」
「そっか。そういうことなら自己紹介しとこか。
お得意さんになってくれると嬉しいからな。
うちは神尾晴子。一応この喫茶店の店長さんや」
「北川潤っていいます」
簡単に名乗って北川は頭を下げた。
「あ、そう言えば私もまだ名前言ってなかった。私は観鈴。神尾観鈴。
観鈴って呼んでくれると嬉しい。
それで、そっちの人は国崎往人さん」
「・・・勝手に紹介するな。長い付き合いにするつもりはない」
そっぽを向きつつ、壁にもたれかかって往人は言った。
「なーに言ってるんや、居候。お客様候補は大事せなあかんで。
これは命令やからな。
あんたはうちの部下なんやから命令は絶対やで」
「・・・断固拒否する」
「断固却下や」
「・・・・・」
「・・・・・」
二人の視線の間に火花が飛び散った。
その中に慌てて観鈴が割り込んで言った。
「喧嘩はだめ。みんななかよくしなきゃ」
観鈴の言葉に毒気を抜かれたのか、二人は不精不精な雰囲気を漂わせながらもとりあえず引き下がった。
その様子にご満悦の観鈴はかけてあったエプロンを手に取った。
「あ、お母さん。北川さんにコーヒーをご馳走したいんだけど、いいかな」
「・・・ちょい待ち。ごちそうはええけど、コーヒーじゃ味気ないやん。
これにしよ」
晴子は喫茶店のマスターにあるまじき言葉を吐くと、どこからともなく一升瓶を持ち出した。
その表情は実にご機嫌だった・・・・・
・・・神尾晴子最大の欠点。
それは酒癖が悪いことだった。
しかも、その勢いは留まるところを知らない。
未成年だからと断ろうとした観鈴・北川を無理やり巻き込み(往人にはそもそも拒否権がなし)開かれた宴は、当初こそ大人しめだったが、中盤辺りから晴子トークショーと化し、結局深夜にまで及んだ。
北川はどうにか途中退場し、ほうほうの体で自宅に逃げ帰った・・・
・・・その手に、封印のカードを持って。
翌日。
その日は土曜日だった。
その日も、ただ日常が在った。
・・・その裏に潜む何かに気付いた者達以外は。
「・・・・・・・はー」
窓際の席で北川はなんとなく息を吐いた。
授業も終わり、このHRさえ終わってしまえば、後は休日が待つばかりだというのに北川の表情は暗かった。
(暗くなりたくはねーんだけどな・・・でもなあ・・・・)
今、こうしている間にも、何処かの鏡の向こう側で何かが人を襲おうとしている。
いや、どこか、なんてモノではなく、実は今、この場所で人を襲おうとさえしているのかもしれない。
・・・ひゅう・・・・と風が吹いた。
立て付けが悪いのか、その風で窓ガラスが微かに揺れた。
「っ!!」
がたっ!
ただ、それだけで。
思わず、北川はその身を震わせた。
「・・・・・・・・はあ・・・」
・・・その後も特に何かが起こる様子もなかったので北川は安堵の息を吐いた。
すると、先程の椅子が擦れる音が気になったのか、前の席に座る祐一が振り向いて言った。
「どうした?居眠りでもこいてたのか?」
「・・・まあ、そんなところだ」
説明しようもなく、北川は無難に答えた。
「ったく、そのぐらいで冷や汗をかくなよ。もっと堂々と眠れよな」
「・・・冷や汗?」
祐一の言葉で額をぬぐうと、そこには汗の後があった。
・・・無論、この一瞬でできるはずはない。
今日半日中、無意識の内に緊張していたようだった。
「・・・・・・」
「・・・お前も香里も変だぞ。こっちの調子が狂うじゃねーか。もっとしゃんとしてろ」
「・・・・・ああ、そうだな」
(ホントにそうだ・・・・・俺らしくもない・・・)
真剣な顔の祐一の言葉で、北川は心底そう思った・・・
ほぼ全てのクラスがHRを終え、迎えた放課後。
新聞部の部室に美汐と北川が居た。
本当なら今日部活はないはずだったのだが、七瀬が急遽招集をかけたのでお昼をお預けにされた状態で集まっているのである。
「・・・腹減った・・・・」
「・・・お腹空きましたね・・・・・」
二人揃って呟いた。
時計の針はすでに二時を回っている。
それから見れば二人の発言は実に当然のものと言えた。
「・・・くそ、何やってんだあいつは・・・・」
「部長と呼びなさいって言ってるでしょーがっ!!」
北川の言葉に答えるような・・・いや、実際答えているのだが・・・いいタイミングでドアがガターンと開いた。
そのドアから現れたのは言わずと知れた、七瀬留美である。
「・・・部長、それは・・・・?」
天野の指摘に北川が目を向けた。
七瀬の手には何かの書類らしきものが握られていた。
「ああ、これ?”知り合い”に報道関係の人がいてね。その人に分けてもらった事件の資料」
「・・・事件って、行方不明事件の、ですか?」
「・・・!!」
天野の言葉に、北川が息を飲んだ。
七瀬はそれに気付かないままにその資料を机の上に広げていく。
「・・・・・・・こんなに・・・・・・・」
それを見て、北川は思わずそう呟いていた。
これだけの人間が、消えてしまっている・・・その事実を改めて知って北川はショックを受けた。
愕然・・・・・というほどではない。
だが、揺り動かされる何かがあった。
それは他の二人も同じだったようで、暫しその場を沈黙が支配した。
・・・・・それを破ったのは、七瀬だった。
「・・・私、正直に言って、昨日までお遊び気分だったと思う。
部費をもらうだとか、部員を増やすとか・・・
お遊びでやってるつもりなんかなかったけど・・・やっぱりお遊びでしかなかったのかもしれない。
でも、今日これ見せられて思った。
こんなの、納得できない」
そう言って、ぐっと拳を握り締めた。
「・・・そうですね。
もし、訳もなく消えたのが家族や友達なら・・・それはとても酷なことです」
美汐もまた、行方不明になった人のリストを見て、表情を暗くした。
その眼の奥に微かな怒りが見えているのは、北川の気のせいではないだろう。
「・・・そういうことだから、ね。本当に本気でやろうと思うのよ。
・・・私たちにできることは限られてるかもしれないけど、何もしないのは・・・なんか嫌だしね」
七瀬はそう言って笑った。
昨日と同じような言葉と同じような笑顔なのに・・・北川にはそれが眩しく、そして真剣な言葉だと素直に思えた。
そして、だからこそ、言わねばならないのではないかと思った。
・・・この行方不明事件の真実。
真剣だからこそ。
友達だからこそ。
この事件の後ろにある危険を知ってもらい、その上で選択させるべきなのではないか、と。
・・・いや、正直に言えば。
北川はこの二人に危険な目になどあってほしくはなかったから、自ら危険に近づくような事はやめさせたかった。
「・・・七瀬、天野」
意を決して、北川は呼びかけた。
その声に、資料を読んでいた二人は振り返った。
「・・・なんです?」
「何よ、人がせっかくかっこよく決めたって言うのに」
「え、とだな・・・」
その時、風が吹いた。
風は締め切っていた窓を揺らした。
それに、北川は先程と同じようにビクッと身を震わせて、窓の方を振り返った。
・・・なにもなかった。
なのに。
「・・・どうしたんですか、北川さん。汗が、出てますけど・・・」
緊張から・・・いや、恐怖から。
また北川は汗を額ににじませていた。
そこで、彼は気付いた。
・・・彼女たちに真実を伝えて、もし彼女たちがそれを真実だと認識したら。
彼女たちは、今の自分と同じ思いをずっとしなければならないのだということを。
・・・ずっと。
そう、見当もつかないその時間を恐怖に染めなければならなくなってしまう。
鏡の向こうに存在する、人を喰らう化け物の襲撃に怯えて。
それは恐ろしいことではないだろうか?
それは、想像もつかないほどに辛いことなのではないだろうか?
気付いていなかったとはいえ、そんなことを、自分は彼女たちに押し付けるつもりだったのか?
「・・・・・冗談、じゃない・・・・・・・!」
知らず知らずのうちに北川は奥歯を噛み潰していた。
「・・・は?あんた何いってんの?・・・風邪でも引いた?」
「へ?あ、いや、その・・・悪い、なんでもない」
北川は心配げに顔を覗き込もうとしてきた七瀬に慌てて取り繕った。
「・・・それで、さっきはなにをいいかけてたの?」
その七瀬の問いかけに。
・・・頭の中を整理し、北川は、一つの結論を出した。
「・・・・・え、と、その、あのさ。俺さっそく調べてくるよ。七瀬の言葉正しいと思うし」
「気が早いのね。まだ方針とかも決まってないじゃないの」
「ま、まあ、固いこというなって。んじゃ、また今度な!」
北川はそれだけを一方的に伝えると、二人に何かを言う隙も与えないままに部室を後にした。
「・・・変なの」
「・・・・・」
後にはただあっけに取られた二人が残るだけだった・・・
「はあ、はあ、はあ、はあ・・・!」
学校を飛び出した北川は、息を切らしながら、ただ走った。
・・・行き先はただ一つ。
迷う必要はもはやなかった。
全速力で走る北川・・・その後ろを追う、一台のバイクがあった。
北川が曲がり角を曲がる・・・すると、当然のようにそのバイクも曲がり角を曲がっていく・・・
「!!」
黒いバイクのライダーが息を飲んだ。
黒いバイクが曲がり角を出たそこには。
腕を組んで、偉そうに立つ北川が居た。
「・・・ったく、この忙しいのに後つけやがって・・・・何の用だよ、国崎・・・だったか?」
・・・黒いバイクのライダーがメットを取った。
そこにいたのは、北川の指摘どおりの男・・・国崎往人だった。
「・・・別にお前に用があるわけじゃない。お前を狙っている龍・・・あれは俺の獲物だからな」
「はん、そりゃご苦労なこって。このストーカーが」
「・・・・・なんとでも言え」
その時だった。
その会話が途切れるタイミングを見計らっていたかのように、着メロが流れた。
(・・・俺のじゃない・・・ということはこいつのか・・・ってこいつ携帯持ってるのか?携帯持ってなさそうなくらい貧乏そうに見えるんだけど・・・・)
北川は内心でそう呟いていた。
往人にはそんな呟きなど無論聞こえるはずもなく、往人は携帯を取り出すと、相手と話し始めた。
「はい・・・観鈴か。・・・・・ああ、モンスターか。
場所は・・・昨日と同じ駅前だな・・・分かった、すぐいく。ちゃんと待ってろよ。
近いから一分もかからないって。じゃあな」
往人は携帯(かなり古い型)を切るとポケットの中にねじ込み、北川に一瞥を向けた。
「・・・俺は行くが・・・・あの龍は封印するなよ。じゃあな」
それだけ告げると、往人はメットを被り直し、排気音とともにその場を去っていった。
残された北川もまた、往人の捨て台詞に憤慨しつつも再び走り出した。
・・・その行く先は変更されてしまったが、目的は変わることはなかった。
街を行く、人々の群れ。
そこから少し外れた場所を歩く男がいた。
・・・その男の、近くの窓ガラス。
その表面が石を投げ入れた水面のようにゆらめいた・・・と思った瞬間!
そこから一筋の糸が伸びて、男の身体を一瞬にして絡めとり、恐るべき力で鏡の向こうの世界へと引きずり込もうとする・・・!
「うわああああああっ!!?」
そのあまりの膂力に男の体が宙に浮かび上がった・・・その時。
「ちぃっ!!」
一つの影が男を掴んだかと思うと、飛び込んだ勢いを使って糸を千切り、男を呪縛から救い出した。
影・・・往人はガラスをきっと睨み付けてから、男に呼びかけた。
「おい!しっかりしろ!」
男は一瞬目を開きかけたが、かくんと力を失い気を失った。
「・・・息はあるか・・・・観鈴、こいつを頼む!」
「うん!!」
往人の後ろを付いて来ていた観鈴は、男の側にしゃがみこんでその身体に怪我はないかなどを確認し始めた。
それを確認して、往人はそのガラスの前に立ち、カードデッキを突き出した。
そのデッキには鳥が羽を広げたような紋章が描かれている。
「変身!!」
デッキを、鏡の中から生み出されたベルトに装填した瞬間、往人の姿が変わる。
華音ライダーナイト・・・その姿に。
ナイトは短い息を吐くとともにそのガラスの中に突入した・・・!!
「はあ、はあ、はあ・・・・・あれは・・・・・!」
駅前、という往人が残した言葉だけを頼りにその場所に辿り着いた北川は目的・・・神尾観鈴の姿を見つけて駆け寄った。
「・・・はあ・・・観鈴ちゃん・・・・はあ・・・・だったよな・・・」
息も絶え絶えに北川は言った。
その言葉に鏡の世界の攻防を見守っていた観鈴は振り返った。
「・・・北川さん・・・・?どうして、ここに?」
息を整え、意を決して・・・北川はその問いに答えた。
「・・・・・君に、会うためだよ」
「・・・・・え・・・・・?」
「あいつ・・・国崎は、戦ってるんだよな」
「あ、うん、そうだけど・・・・・」
北川は、じっとガラスを・・・それに映る自分の姿を見た。
・・・しかし、何も見えない。
デッキを持たない北川に”向こう側”を見ることは叶わなかった。
それを改めて確認し、北川は観鈴に向き直った。
「・・・・・華音ライダー・・・それになれば、俺も・・・戦えるのか?」
真っ直ぐ見詰めてそう言った。
その視線を観鈴はしっかりと受け止める。
「・・・・・それを選んでしまったら、もう戻れなくなるよ」
「・・・・・」
「・・・私、普通の子じゃないし、頭もあんまりよくないけど・・・これだけは分かる。
普通に生きていけるんなら、それに越したことはないよ。
・・・それ以上の幸せは、ないよ」
「・・・・・そうだな。それは・・・分かるよ。
でもさ、俺、もう知っちゃったわけじゃん。
ここまで来て俺知らねーなんて、俺は言えない。
それにさ、俺はもう知っちゃったけどさ、まだこのことを知らない人たちがたくさんいてさ、その中には俺の家族や友達だっているんだ。
だからせめて、そいつらには普通のままでいてほしいんだ。
・・・・・何も分からないまま死ぬのは誰だって嫌だろ?」
「でも・・・・・」
言いよどむ観鈴に北川は微かに笑いかけた。
「・・・それに、君に助けてもらった借り、返してないから。
君のお父さん・・・行方不明なんだろ?それだって手伝いたいんだ」
「・・・・ありがとう。気持ちは、すごく嬉しい。でも・・・」
「あのさ、今あのデッキ持ってる?」
北川の問いが、何か言いかけた観鈴の言葉を遮った。
それに戸惑いながらも、観鈴はポケットから黒く四角い”それ”を取り出した。
「・・・ここに、あるけど・・・・」
首を傾げながら言う観鈴に笑いかけたままで北川は頷くとポケットから一枚のカードを取り出した。
それは昨日観鈴から受け取った封印のカードだった。
今日一日、肌身離さず持っていたもの。
北川はそれを目の高さまで持ち上げて・・・一拍の間を置いて、それを破り捨てた。
破り捨てられたカードは地面に落ちるとはじめからそこには何もなかったかのように消滅した。
「あ!!」
思わず声を上げる観鈴。
そんな彼女に北川は余裕の表情で言った。
「・・・これで、もう契約するしかなくなったわけだな・・・・そうしなくちゃ、俺は喰われちまうし」
「・・・・・が、がお・・・どうして・・・・?」
「俺の我侭だよ。誰かのために戦うっていう事をどこまでやれるのか、知りたいんだ」
・・・それは誰かのために”戦って”いる者たちがいたことを知ったから。
・・・それはいつか見た、誰もが想う憧れだから。
「だから、お願いだ。
契約のやり方を教えてくれ・・・!
頼む・・・・・!」
観鈴はほんの一瞬だけ考える素振りを見せ・・・決意した。
観鈴は、カードデッキを、その中から取り出した一枚のカードと共に北川に手渡した。
「・・・そのカードで、モンスターと契約できるの」
手渡されたカードには”CONTRACT”と書かれ、絵が描かれているであろう場所には何もなく、いずれ何かがそこに埋まるようにただ空白だった。
「あの龍で、いいのかな?」
「選択の余地ないだろ?」
「それもそうだね」
二人はなんだかおかしくてかすかに笑いあった。
「じゃあ、やるよ」
「うん、頑張って・・・!」
その瞬間。
その時を狙っていたかのように。
何処かの鏡面から、北川をずっと狙っていた紅き龍が飛び出した。
北川は持っていたカードをゆっくりと龍が向かってくる方向へと突き出した。
・・・そして。
北川と龍が”接触”した、その瞬間。
目を覆わんばかりの光が、溢れ出た・・・・・
そこが何処なのか・・・北川には分からなかった。
何もない闇の中。
そこに存在していたのは、自分とあの紅い龍だけ。
(・・・なんでかな・・・・)
人を喰うモンスター。
それと一対一の状況にあるのに、恐怖心は不思議と涌いてこなかった。
ルオオオオオオンッ!!
一声咆えた龍は、北川の眼前で静止すると値踏みするように彼を眺めたあと、その周りを、護るように飛翔した。
その体が発光していくと同時に北川の身体もまた薄い光に覆われていった。
それが最高点まで高まった時、北川の姿が変わる。
最初、それははじめて変わった時の、青の鎧の姿だった。
だが、その腹部のベルト・・・その中に装填されたデッキに龍の形を模した紋章が浮かび上がると、それはさらなる変化をしていった。
左腕に装着したガントレットが龍の形を模したものに変貌していく。
額にはデッキと同じ紋章が浮かび上がり、最後に全身が赤く染め上げられていった・・・
光が収まり、観鈴は鏡の向こうを凝視した。
そこにそれは立っていた。
その手に持つのは”DRAGCRIMSON”という文字と共に描かれた、紅き龍”ドラグクリムゾン”のカード。
至高龍”ドラグクリムゾン”と契約を交わした、新たな華音ライダーが、今ここに誕生した・・・!!
「・・・ちっ!!」
往人は撃ち出された針のような攻撃を避け、時に剣で迎撃し、モンスターの攻撃をどうにか捌いていた。
往人の前に立つモンスター・・・それは、昨日彼自身の手で葬ったはずの蜘蛛のモンスターだった。
しかも、再生した際に強化したらしく、頭部分から人の上半身が新たに形成され、その攻撃は重さと速さを増していた。
シュババババババッ!!
その、新しくできた人体状の胸の部分から、さらにペースを上げて針が撃ち出された。
「くそっ!」
往人は召喚機であるシャドウバイザーで針を斬りおとしつつ、移動しながらそれをかわしていく。
「・・・・・地上じゃ、不利か」
そう判断した往人は攻防の隙を見いだし、その刹那にデッキからカードを引き抜き、シャドウバイザーにカードを装填した。
『Advent』
その人工的な音声がそう告げたと思った次の瞬間には、ナイト契約モンスター・シャドウクロウが現れ、ナイトの背中に張り付いていた。
「はっ!!」
地を蹴って、空に舞い上がったナイトはモンスターとの距離をとった。
・・・だが。
「・・・・・?!!」
そのナイトの身体にいきなり何かが幾重にもなって巻きついた。
それがなんなのかを確認した往人は思わず声を上げていた。
「・・・糸、だと・・・・!?」
モンスターの口から吐き出された、もはや鎖と呼んでいいほどの強固さの糸がナイトをその翼ごとからめとった。
羽ばたく事を封じられたナイトは、成す術なく地面に叩きつけられた。
・・・かなりの高度から落ちても身体には大したダメージがないのは幸いだったが、身体に巻きついた糸を解くことができない以上危機には違いなかった。
腕も動かないのでカードを装填することさえできない。
「ちぃ・・・・・っ!!」
地面に倒れたまま、糸から逃れようと悪戦苦闘するナイト。
それを嘲笑うかのように接近したモンスターがナイトに針を撃ち出した、まさにその時・・・!!
キィ・・・キキキキィン!!!!
その針の全てを、突如現れた赤い影が全て迎撃した・・・!
「・・・・な・・・・・・?あいつは、まさか・・・・・・」
ナイトの眼前に立つその姿。
烈火の如き紅き身体。
そして、その周りを飛翔する紅き龍。
その戦士の名は・・・!
華音ライダー・・・・・龍騎!!
「・・・・・行くぜ!!」
龍騎・・・北川はデッキからカードを一枚引き抜き、左腕のドラグバイザーに装填した。
『Sword Vent』
その声と共に、天空から一振りの剣が落ちて来た。
その剣は昨日のものとは形状を変え、その内から力強さを溢れ出しているようだった。
それを一瞥さえせずにキャッチして、龍騎はモンスターに向かっていった。
モンスターはそれを針で迎撃、動きを止めようとする・・・が、しかし!
「はああっ!」
その一つ一つを斬りおとし、拳で払い、勢いを停めることなく龍騎は突き進んでいく・・・!
「てりゃっ!!」
その針の弾幕が止んだ瞬間、龍騎は地面を蹴って、モンスターの身体に飛び乗った。
モンスターがそれに対応する瞬間の”間”・・・その間をぬって、龍騎は手にした片刃の剣で斬りつける・・・!!
「はっ!」
一撃。
「とっ!」
二撃。
「せりゃっ!!」
三撃・・・!!
その一撃一撃は確実にモンスターにダメージを与えていた。
そのダメージを堪え切り、ようやっとモンスターが龍騎を払い落とそうとしたその時には、すでに龍騎はモンスターから飛び下がり、離脱していた。
「・・・ちまちまやってたんじゃだめか。なら・・・・・!!」
北川は、最強の一撃をイメージした。
そのイメージと共に引き抜かれたカードには、デッキと同じ紋章が浮かんでいた。
そのカードを、装填する。
その瞬間、北川の脳裏に、最強の技のカタチが伝わった。
『Final Vent』
「はあああああ・・・・・・」
太極拳の気を練る様な・・・流れるようなその動きの後、龍騎は力強く、跳躍した。
あの後を、ドラグクリムゾンが追って飛ぶ・・・!!
龍騎は空中で身を捻り、体勢を整えた。
それは、右足を突き出した、蹴撃の構え・・・!
その狙いは、無論モンスター・・・!
「ライダー・・・・・!」
狙いを定めた龍騎の背に紅き竜の息吹が吹きかけられる・・・!
その息吹は龍騎に圧倒的な加速力を与え、その身をモンスター目掛けて撃ち出した・・・・・!!
「キィィィック!!!」
炎を纏った蹴撃は凄まじい衝撃となり、着弾した瞬間、モンスターを弾き飛ばしながら、その身を完全爆砕させた・・・!!!
文字通りの意味で、今度こそ、跡形もなく・・・!
「よっしゃああっ!!」
それを見届けた龍騎はガッツポーズを決めた。
その横をドラグクリムゾンが飛んでいく・・・
「・・・・・?」
ドラグクリムゾンは爆砕されたモンスターの周りを飛んでいたかと思うと、その爆発の炎の中から飛び去ろうとした光の玉のようなものをその身に取り込んで、何処かへと飛び去っていった。
「・・・なんだったんだ、今の・・・・?」
「・・・・・モンスターはな、他のモンスターの力を捕食、吸収することでより強くなるんだよ」
北川が振り返ると、そこにはナイト・・・往人が立っていた。
その身に付いていた糸は、龍騎がモンスターを倒した影響から自然消滅したようだった。
「・・・そうなのか?」
「ああ。吸収するモンスターが強ければ強いほど、取り込む力も当然強くなる」
「あ、それで、あの龍を狙っていたんだな?」
「まあな。・・・・・龍を乗りこなすように操るライダー・・・龍騎、か」
「・・・龍騎・・・・かっこいいじゃねーか・・・・」
その名前に、北川はうっとりとした。
その様子に、往人はふう、と呆れるように息を吐いた。
「・・・今のうちに潰しておいた方が良さそうだが・・・・」
「・・・・・何・・・?!」
往人が洩らした、その聞き流せない言葉に、北川は思わず往人を凝視した。
しかし往人は何処吹く風で肩をすくめて、言った。
「まあ、今は止めておいてやる。・・・観鈴がいるからやりにくいことこの上ないしな。
それで、貸し借り無しだ」
一方的に告げて、往人は背を向けて去って行った。
その背を眺めていた北川だったが・・・
「まあ、いいか。
今はとりあえず人、守れたしな」
色々な事がこれからも山積みでやってくるような予感はあったが、今はそれでいいと思えた。
そんな、心から湧き上がる満足感と共に。
北川は自分の世界へと帰っていった・・・・・・・・・・・
・・・北川と往人の二人がミラーワールドから帰還した、ちょうどその頃。
ある場所で。
ある二人が静かに対峙していた。
その手に持つのは・・・カードデッキ・・・・・!!
「・・・・・まさか、こんな身近にライダーがいるとは思わなかったよ」
「・・・それはこっちのセリフね。・・・まあ、手間が省けるからいいけど」
「では、やるとしようか」
「・・・異存はないわ」
緑色のカードデッキを持ったその少女のウェーブのかかった髪がふぁさ・・・とかき上げられた。
鏡に映ったその顔は・・・北川のクラスメート、美坂香里その人だった・・・!
『・・・・・変身!』
二人の声が唱和し、その姿が変わったと思った瞬間には、二人の姿は鏡の向こうに消えていった・・・・・・・
・・・続く。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
閑話休題。
北川「やっと契約したし、これからはばしばし活躍できそうだな」
国崎「まあ、それはどうでもいいが龍の名前、本編と大して変わってないな。しかもセンスないし」
七瀬「そうねー。それでもまんまにしない辺りは作者の小さなプライドなのかしら」
天野「本当はクリムゾンドラグーンとするつもりだったみたいですが長ったらしく読みが良くないので泣く泣くドラグクリムゾンにしたらしいですよ・・・悪あがきですね」
観鈴「にはは。それはそうかも。それでも大して変わってないしね」
北川「・・・そう言えば、本編と微妙に変わってきてるな」
晴子「うちも早い登場やでー。ぶい!」
国崎「早いといえばもう第3第4のライダーが出てきてるしな・・・
どう収拾つけるつもりなんだか・・・」
香里「・・・まあ、作者の無能ぶりが露呈されないことを祈るばかりね。
・・・・それじゃあ、また」
・・・続く。
第三話へ
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