第二十七話 意志の行方











「往人、さん?」

張り詰めた沈黙の中、地面に倒れたままの観鈴は改めてその名前を呼んだ。
自分が知っている者から、姿、形が変わってしまったモノの名前を。

そんな観鈴の声を切っ掛けにして。

「huiuhihihhiygii!!!」

弾かれるように、オウルパーゼストがソレに襲い掛かるべく、飛翔する。
そのまま、瞬く間に距離を詰めたパーゼストは……。

「フンっ!!」

往人……虚空の拳で地面にあっさり叩き落された。
その様を睨み付けながら、虚空は口を開く。

「観鈴」
「は、はい」
「……悪いが、そのままで少し待ってろ。
 すぐに終わらせる」

そう言って、虚空は観鈴に背を向けてパーゼストに立ち向かう。



……ゆえに。
彼は気付かなかった。

一瞬。
ほんの僅かの間、観鈴の表情が『変化』した事に。



「しかし……思うように身体が動かん」

立ち上がろうとするオウルパーゼストを視界に入れながら、虚空は手を握り締めたり開いたりした。
自分の意志では初めて動かす、『変わった身体』の感触を確かめるように。

とりあえず、負傷した足は『応急処置』をしてくれたようだが……それでも『違和感』は拭えない。

『仕方があるまい。
 汝と我では身体の使い方や能力にズレがある。
 法術の出力も含め、変化するたびに調整してはいるが完全同調には時間が……』
「その辺の御託はいい。
 今は、コイツを倒す方法を教えろ」

『刀鍵』の声を遮りつつ、往人は指をパキポキと鳴らした。
ずっと旅をしている経験上、荒事には慣れているが……流石に怪物退治は別問題だ。

『ふむ。
 なれば、手に力を集めよ』
「ちから?」
『いつも人形を操る力を、束ねて重ねよ。
 汝が不向きな分は我が補助する』
「……!」

言われるままに、往人は意識を集中した。
ソレに応える様に虚空の右手が、五本の爪が青い輝きを灯し始める……!!

「huuhuhuuuhu!!!」

自らを滅ぼす力の脈動に気付いたのか。
オウルパーゼストはそうはさせじと羽を数枚投げ放った後、低空の空を翔る。

虚空は、それらの接近を気付いていながら……気付いていたからこそ、構えた。
憑依体必殺……その形の一つを。

「う、おおおおおおっ!!」
『転化の法・改式……蒼爪』

高速で駆けた二つの影が交差し、離れる。
その直後……影の一つが倒れた。

……残ったのは。

「つぅ……死ぬかと思ったぞ」

ゆっくりと警戒と構えを解く……虚空。
左手の、その指と指の間にはオウルパーゼストが放った羽が挟まれていた。

であれば。
反対の手は何を為したのか。

「kjkhuhhuikhuihhoioihrdrydyduj!!!!!!」

疑問の結論を示すように。
青い光の粉となって、パーゼストが消滅していく。
それに同調してか、虚空の手にあった羽もまた光となって散っていった……。

「……ったく、手間かけさせやがって。っとと?」

ぼやく虚空の姿が、往人へと戻った。
その際、『刀鍵』が腹部から抜け、空に浮かび上がっていく。
それは、まるで往人を避けるような動きだった。

「……」

そんな『刀鍵』に往人は自然に手を伸ばし、掴み取った。
それが当然であるかのように。

『我を……捨てなくていいのか?』

そんな往人の行動に『彼』は疑問を形にした。

(……少し考えを改めた。捨てるのはいつでも出来るしな)

その問い掛けに、往人は頭の中で答える。
それで伝わる事は今までのやり取りで承知していたからだ。
そして、そのまま往人は自分の意志を伝えた。

(ただし、これからは俺が、お前を、使う。
 お前に使われるのは真っ平御免だ。いいな?)
『汝が我を使いこなし、我の望みを叶えてくれるのなら、それで構わんが……
 どういう風の吹き回しだ?』
(……ふん。
 とりあえず、借り一つだからだ)

「往人さんっ!」

『会話』を交わしていた往人は借りの『理由』……観鈴の声で我に返る。
視線を送ると、ようやく身体を起き上がらせている所だった。 
 
その体勢のまま、観鈴は懸命に叫んだ。

「往人さん、大丈夫?! 怪我とかない!?」

そんな観鈴の姿を見た往人は、多少落ち着かない様子で視線をあらぬ方向に送りつつ、答えた。

「ああ。見ての通り大丈夫だ。
 待たせて悪かったな」
「いいよ。二人とも無事でいられたから。
 えと、それは良かったんだけど……」
「どうかしたか?」
「えと、その、車椅子に乗せてほしい」
「……」

その言葉にキョトキョトと周囲を見渡す往人。
そうして人がいない事を改めて確かめて、往人は観鈴を抱きかかえた。

……他に方法が無いのは明白だった為仕方がないのだが。

「にはは、お姫様抱っこ」
「やかましい」

さっきは緊急事態だった事もあり意識する暇は無かったが、改めて指摘されると恥ずかしい。
両手が塞がっている以上叩く事も出来ない往人はうんざり顔で歩き出す。
そんな往人に観鈴は言った。

「すごいね、往人さん」
「……何がだ」

何の事か分かっていながら、素直に認めたくない事もあって、あえてそう聞き返す往人。
それに対し、観鈴は薄い笑みを浮かべながら言葉を紡いだ。

「往人さん、仮面ライダーだったんだ。
 ちょっとびっくり」

観鈴は知っていた。
テレビや病院内で流れているパーゼストを打ち倒す存在の噂を。
それが『仮面ライダー』に良く似た姿をしている事を。
だから、正体が往人である事はともかく、ライダーの存在そのものは簡単に受け入れられたのだ。

「だから、すごいねって」
「……違う」

その観鈴の言葉に、往人は否定の意を示した。
自分はそんなかっこいいものでも、大層なものでもない。

(ただ……自分がしたいようにしただけだ)

そんな思ったままの言葉を口にするかどうか、往人が悩んでいた……その時。

「違うのなら、教えて欲しい。貴方が何者なのかを」
「……!?」

突然の第三者の声が響いた事に驚き、往人は振り向く。
そこには……薄紫色に彩られた『仮面』を纏う戦士が居た。
戦士・仮面ライダーイレイズは、ベルトの鍵を廻し、変身を解除する。

「女の、人の、仮面ライダーさん?」
「……一応、そう」

観鈴の言葉に律儀に答えた彼女……川澄舞は、静かな視線と表情を往人に向けた。

「……アンタ、見てたのか?」
「最後だけ。
 急いできたけど、遅刻した。
 パーゼストを倒してくれて感謝する」

その言葉に、往人は内心で頭を抱えた。
 
(つまりは正体バレバレって事か……)

「話がしたい。貴方の事、そして『鍵』の事で」
「……ち」

単刀直入な言葉で感じ取る。
これはどうにも避けて通れる道ではないらしい事を。

「なんか……逃げても追ってきそうだしな」
「追う」
「ハァ……分かったよ。
 じゃあ、少し待ってろ。
 せめてコイツを病室まで送ってからだ」

往人の言葉に、舞は首を縦に振る事で了解の意を返した。










「どうやら、失敗したみたいだね。
 なんか妙な気配があってノイズが入ったけど」

そこは、レクイエムの『パーゼストプラント』。
優先的に繋げていたチャンネルが切れるのを感じ取り、獅子の少年は肩を竦ませる。
そんな少年に対し、壁に寄り掛かっていた銀髪の男は頷いてみせた。

「ああ。やはりフェイズ3では無理があったようだ。
 あの様子では、おそらく同様の事を幾らやっても無駄だろう」
「となると……僕らの中の誰かが向かうべきだろうね。
 放置しておいても面白そうだけど、ようやく全てが軌道に乗り始めたんだし。
 無駄に大きくなりそうな不確定要素は潰しとこうか。
 少なくとも、現状で有害か無害かぐらいは判断したいし」
「それならば……今度は、俺が行こう」

そう呟いたのは、黒いスーツを着込んだ背の高い男。

「お前達ばかり戦うのは、不公平と言うものだ。
 俺も強者と戦いたい。
 折角連中用に調整した事だしな」
「そう言えば、君は未だに『仮面ライダー』とは対面してなかったね」
「ならば、仕方あるまい。今回は譲るべきだろう」
「だね。じゃあ、適当に頼むよ」   
「分かった」

答えた男は、二人に背を向け、歩き去っていく。
その背中を見送りながら、銀髪の男は言った。

「……アレは大丈夫なのか?」
「彼は力量的に不足はないけど、あれで僕達の中で一番遊び心があるからねぇ。
 まぁ、期待せずに待とうよ。
 君もそう思ってるんでしょ?」
「……」
「ははは、無言肯定大変結構。
 ……しかし、こうなると僕達は暇だね」
「そうだな」
「ふむ。
 でも、折角の機会を無駄にする事もないか」
「……どういう意味だ?」
「気付いているだろう? 今『東京』には彼等が居ない」
「……」

彼等……自分達に幾度と無く噛み付いている『反因子の仮面ライダー』。
その姿を……特にカノンの姿をイメージして銀髪の……鮫の姿を持つ高位パーゼストは軽く拳を握り締めた。
そんな男を一瞥しつつ、少年は言葉を続けていく。

「それを踏まえると、現状を見極めるには今は最適な時期だって事さ。
 レクイエム、そしてファントムの思惑。
 それらを確かめるために、一つやってみたい事があるんだ」

そう言って、少年はニヤリと笑った。
外見通りの純粋さと、それに見合わない悪意を込めて。










そうしてハイ・パーゼスト達が動き始めた頃。

「今から約六千五百万年前……この地球上で何があったか、君達は知っているか?」

ファントムの『施設』では、祐一の疑問……『パーゼストとは何か』に答えるべく、命が語り始めていた。
ことみが作業するのを横目で見つつの命の言葉に、人数分注がれたコーヒーの一つを傾けつつ祐一は首を捻った。

「……六千五百万年前ねぇ……」
「あれだろ。
 恐竜絶滅の時期じゃなかったか?」

砂糖を必要以上に入れて掻き混ぜながら呟く浩平の言葉。
命はそんな浩平の答に対し、うんうんと頷いてみせた。

「うむ、その通りだ折原君」
「むむ……よく知ってたね」
「ふっ、恐竜は男のロマンだからな」

素直に感心する紫雲の呟きに、浩平は自慢げに笑う。

「でも、それがパーゼストと何か関係あるんですか?」
「大アリなんだな、これが。
 恐竜絶滅と言えば定説になっているのが巨大隕石衝突説だが……その隕石こそがパーゼストの起源なのさ」
「……な!?」
「うむ。いい驚きぶりだ。
 ソレでこそ語る価値がある」

驚きの声を上げる祐一を満足げに見ながら、命は言葉を続けていく。

「六千五百万年前……白亜紀末期頃か。
 地球に落ちた隕石は大量の塵と埃を巻き上げ、それにより地上は太陽の光を失った。
 結果、地球は寒冷化し、途中経過は省くが恐竜は絶滅……まぁ、そのお陰で今日人類が地球上にのさばっている訳だが。
 その要因となった隕石には、ある仕掛けが施してあったのさ。
 地球を覆った塵や微粒子……それらに、隕石に乗せて来た『因子』を付随させ、広げさせる、な」

言いながら、命はヒラヒラと手を振ってみせた。
どうやら『因子』が広がっていく様子のジェスチャーらしい。

「『因子』……」

思わず祐一が呟いた言葉は祐一達にとって良く知るモノ。
だが、その本質的な部分を知らないがゆえに、その呟きは半ば意味を手探るようなものになっていた。

「分かりやすく言えば」

その疑問に気付いたらしく、命は話の方向を少しだけズラす。

「『因子』は、人類とは異なる起源の生命体が、自分達以外の生態系を自分達寄りにした上で都合良く扱う為の『強化生体コントロールプログラム』だ。
 生命体を『強化』させる代わりに自分達に従わせる……ある意味ウィルスのようなものかもな。
 因子そのものがソレなのか、他星系の存在が送り込んだものなのかの判断は難しいがね。
 推論は出ているが、その辺の資料が少ないから確定は出来ないしな」
「……」
「話を元に戻すが……後は大体想像付くだろう。
 世界中に広まった『因子』は、ありとあらゆる生物に『憑依』した。
 そして、そのまま多様な進化や成長を遂げ、現在に至る……詰まる所、この地球上の生物は皆『因子』を持ってるんだ。
 まぁ、それでも基本的に『因子』は無害だった。
 そう……約8ヶ月前がある一つの隕石が落ちて来るまではな。
 割と有名なニュースだったから、君達も知っていると思うが?」
「有名って事は……アレか。
 日本の近くの海に落ちたっていう……」

当時高校三年生だった祐一は、そのニュースをネットで読んだ事を覚えていた。

「そうそう。
 そして、その隕石は……君達が良く知る、反因子結晶体の塊だった」
「……!!」
「知っての通り、反因子結晶体は『因子を否定するモノ』。
 それゆえに『因子を持つモノ』に対する……そうだな、目覚まし時計みたいな役割を果たした。
 どうやって隕石を落としたのかまでは知らないが……そうしてパーゼストの覚醒が始まった。
 もっとも、それ以前に色々な理由から覚醒した例も結構あったがね」
「ちょ……待ってください」
 
言いながら、祐一は思い出していた。
かつて戦った高位パーゼスト……ホークパーゼストが『カノン』に変身した時の言葉を。

『元を正せば、この反因子結晶体は俺らの為に落ちてきたものなんだぜ?』

そう。
確かに『彼』はそう言っていた。

つまり。

「って事は、その隕石さえ……反因子結晶体さえ、連中の予定通りに落ちてきたものでしかないって事ですか?」

現在人類が持ち得るパーゼストへの対抗手段の中で最も有効とされる反因子結晶体が、『敵』の思惑内のものでしかないのなら……そう考えると祐一の中には不安が生まれていた。
そんな祐一に対し、命は鷹揚に頷いた。

「ああ。その通りだ。
 どうやったのかまでは分からないが。
 だが、それは人類側にしてもそうだ」
「え?」
「いずれ反因子結晶体が落ちてくる事は分かっていたのさ。
 だからこそ、反因子結晶体を嵌め込む為のベルトが既に準備されていた。
 もっとも、間に合わなかった時の為の擬似的なものの計画もありはしたがね。
 ……まぁ、結果的に擬似的なものの方が後になってしまったが」

苦笑を零す命。
そんな命に同様の苦笑を浮かべながら、浩平が言った。

「おいおい。
 アンタ、結局相沢の疑問に答えてないぞ」
「そうだったな。前フリが長くなってすまないね。
 実際に連中に聞いた訳じゃないし、資料も足りないから多少推論になるが……
 これらの事を総合した上での人類の結論は、だ。
 パーゼストとは、一つのルールを基盤にして星々を廻る存在だ」
「一つの、ルール?」
「”強者による支配”だよ。
 そして現在のココにいる連中の目的は、そのルールに則って、この星を強い者の……『パーゼストの世界』にする事だ。
 その為の過程として、現状の人類や生態系が滅ぶのは確実だろう。
 奴らの生物は皆パーゼストに変換されるからな。
 そして、そこに人類の意志は欠片も残らない」
「……欠片も……?」
「相沢、思い出してみろ。
 今まで俺等が戦ったパーゼスト達を。
 アイツらに、アイツらの……人間の意志はあったか?
 人殺しをしたくないとか、普通に生きたいとか、思っていたと思うか?」
「……」
「残念ながら、答は否だろうね。
 パーゼストプログラムに完全に支配された人間に最早人間としての意志は無い。
 高位パーゼストの言いなりで親しい誰かさえ殺してしまう……哀しい操り人形でしかない」
  
一度はそのプログラムに支配されかかった紫雲が、心底不愉快そうな表情を浮かべる。
その気持ちは……祐一も同じだった。 

「人間であれば、皆不愉快だろうさ。
 誰だって自分の意志を自分以外の意志で消されたくはない。
 向こうも必死に生きようとしているだけなのかもしれんが……
 それがこちらの意思を無視して行われる事であれば、看過するつもりは毛頭ない」

紫雲と『同じ』表情で、命が言う。
彼女に珍しい、剥き出しの感情が其処にはあった。

浩平は……そんな中で一人普通の顔をしている。
だが、その眼だけは妙に鋭かった。

そんな眼をしたままで、浩平は言った。

「ま、当然だ。
 しかし、改めて聞くと本当に厄介事だよな」
「その為にプログラムKEYが……ライダーシステムがあるのさ」

浩平の呟きに対し、命はさっきまでとは打って変わった不敵な笑みを浮かべた。
そして、その笑みのままで、こんな事を問い掛けた。

「さて。
 君達は疑問に思った事はないか?
 何故”プログラムKEY”は『ライダーシステム』なのか、と」
「……??? どういう意味です?」
「ベルト。バイク。デザイン。そして『ライダーシステム』という名称。
 偶然にそうなった……わけじゃないこと位薄々気付いているはずだ」
「つまり……なるべくして『仮面ライダー』になったって事ですか?」
「そういう事だ。
 元々はな、強化外骨格ではあっても、もっと違う形状になる予定だったんだ。
 変身の為の道具もベルトではなかったらしい。
 だが……この計画を進める内に開発者達が『そうする』事を望み、結果今の形となった」

命はチラリ、とベルト一式を一瞥する。
ことみが調整している『仮面ライダー』のベルトを。

「君達の知る、仮面ライダーの本質の一つに……『同属殺し』がある」
『!』

命の言葉に祐一と紫雲は息を呑んだ。
浩平もまた、息を呑みはしなかったものの、表情を硬くしている。
それは……命が話そうとしている事を察したが故の反応だった。
それに気付きながら、命は言葉を紡いでいく。

「同じ組織に改造された人間を、自分と同じ存在だと……何かが変わっていたなら自分もそうなっていたであろう存在だと知りながら、戦う。
 もしかしかしたらという『自らの鏡像』を、同じ流れたる忌むべき力を持って倒す……それが仮面ライダー。
 開発者達は、パーゼストと自分達が作ろうとしているものの関連性が極めてそのカタチに近い事に気付いていた。
 だからこそ、願いを込めて『ライダーシステム』を形作ったんだ。
 自分達の作るものが、自分達が託す力が。
 『仮面ライダー』のような、ヒトを護り切る存在であるように」
「……そう、だったんですか……」
「……」
「ふん。道理でそういうカタチをしてるわけだ」
「そういう事だ。
 だから、忘れるなよ。
 システムに、いや、君達に『仮面ライダー』の名前が託されている意味と重さを。
 ……ふぅ。
 ようやく、この話が出来たな。
 いずれライダー全員が揃って機会があれば、と思っていたが……それがこんなにも遅れるとはな。
 やれやれ。ままならないものだ」
 
肩を竦める命。
と、其処で今までずっと作業を続けていたことみが口を開いた。 

「お待たせなの。準備オーケーなの」
「そうか。お疲れ様」

そう言って命はことみの頭をグリグリ撫でた。
その様子を見て、浩平が口を開く。

「どうでもいいが……アンタ、実の弟より可愛がってねーか?」
「はっはっは。当たり前だ。
 可愛がりがいのある方を可愛がって何が悪い」
「……僕もそれには同意見だ。
 僕としても、可愛い姉に可愛がって欲しいものだしね」
「はっはっは」
「ふっふっふ」
「……なんというか、仲悪いのな、この姉弟」
「んー? いや、そんな事はないだろ」

祐一は知っている。
紫雲がパーゼストになった時に見せた命の苦悩を。
そして、基本的に人に礼儀を尽くす紫雲が粗を見せているのは命ぐらいだと。
……まぁ、最近では美凪には違う方向での粗を見せているようだが。

「割と仲のいい姉弟だよ、この二人は」
「……ふーん。まぁ、逆だし比較は出来ないか」
「逆? 何の事だ?」
「あー独り言。気にすんな」
「さて。準備も整った事だし。
 それでは今回のメインイベントたる『プログラムKEY』のテスト……そのテストをやるとしよう」

そう。
『プログラムKEY』の簡単なテストと、その為に必要なベルトの調整(他微妙なベルトの改造など)……今回ライダー達がここに集まった理由はソレにあった。

「じゃあ、僕は少し席を外すよ」
「草薙?」
「実験内容なら知ってるし、僕にはやる事もあるから。
 終わったら呼んでくれ、姉貴」
「……ああ」

少し姉の表情が曇る事に気付きながら、紫雲は研究室を後にした。
そうして、暫し施設内を歩いていく……そんな中。

「……………………ぐっ」

身体に響いてきた『ソレ』に、紫雲は顔を顰めた。

「……やっぱ、強力だな。
 試験で範囲は最小のはずなのに……影響が出るとは」

『プログラムKEY』……アンチパーゼストプログラム。
『肉体がパーゼスト』である紫雲にとってそれは何を意味するのか……語るまでも無い。
そして、それは予想されうる最終局面での結末でも同じ事だ。

「……どうやら、お役御免もそう遠くはなさそうだな。
 悔しいけど」

泣き笑いのような顔で、紫雲が壁に寄り掛かった……その時。

「……?」

足音が響いてくる。
この区画は、ある一定以上の権限を持った人間しか入れない為に、人の出入りが少ない。
そんな場所での鉢合わせも珍しい……紫雲がそんな事を考えている内に足音はすぐ側まで近づき……足音の主が姿を現した。

「こんにちは、紫雲君」
「! 相沢君の……」

通路の角から現れた人物に紫雲が戸惑っていると、彼女は静かに深く頭を下げた。

「……ごめんなさいね」
「え?」
「私達は、貴方に対して償いきれない罪を犯してしまったわ。
 ベルトの不完全、それによるパーゼスト覚醒、そして貴方の身体を人間ではないものに変えてしまった。
 ……そして、その可能性を完全に除去できず、さらには万が一そうなった時の貴方の重要性さえ計算していた。
 人類の為に戦ってきた貴方を、人類の為に犠牲にしようとしている……最悪よね、ホント」
「いえ……どうか、気になさらないで下さい。
 僕は、これで良かったと思ってるんですから」

そう言って、紫雲は笑いかけた。
一点の曇りも迷いも無い、そんな顔で。
 
「好きだった女の子を憑依されたからと言ってこの手で殺したこんな僕でさえ、必要としてくれた。
 そして、まだ必要としてくれる人達がたくさんいて。
 僕は、僕の意志でそれを護りたいと思っている。
 その為の力が、ココにある。
 その為に必要なものが、ここにある。
 僕は、それでいいんです」
「紫雲君……」
「それでも足りないものがあれば、時間を掛けて自分で探していきますよ。
 人間の身体も、必要なら自分の手で取り戻して見せます。
 だから、気にしないで下さい」
「……息子に、貴方の爪の垢を飲ませたいわ」
「いいえ、それは……多分、逆ですよ。
 なんというか少し腹立たしいんですが……って。あ、いや、その、すみません。
 ご子息を馬鹿にするつもりは毛頭、全く、これっぽっちも無いんですけど」
「ええ、分かってるわ。……貴方の買い被りだと思うけどね」
「ははは」
「……本当にありがとう。
 じゃあ、私は行くわ。ようやく色々取っ掛かりも見えてきたし。
 紫雲君の為のプログラムも間に合わせてみせるから」
「……お願いします」
「じゃあ……っと、そうそう。
 連絡事項があるのを忘れてたわ。
 預かってた、舞ちゃんと仲良しのあのコ……すっかり元気になったから。
 元気過ぎるくらいにね。
 今日辺り、こっちに来ると思うわ」
「佐祐理さんが……そうですか、それは良かったです。
 でも元気過ぎるって……って、あれ」

紫雲が頭を上げたそこには……もう既に彼女の姿はなかった。



 






「とまぁ、そういうわけだ。
 言っとくが、俺はそれ以上の事は何も知らん」
「……そう」

そこは、観鈴が入院している病院のすぐ近くの広場。
往人と舞は並んでベンチに座り、情報交換をしていた。

舞は自分の所属、目的を。
往人はこれまでの経緯と状況を。
それぞれある程度語り、今に至っていた。

(……って、良かったのか?)

往人は頭の中だけで『刀鍵』に問いかける。

『ああ。別に良い。
 今汝が知っている情報程度なら、な。
 あの程度で色々知れたのだから僥倖だ』
(意外だな。もっと出し渋ると思ってたが)
『別に我は悪事を働いているわけではないからな。
 成すべき事を成しているだけ……。
 そしてそれは……少なくとも現状においてはファントムとやらや仮面ライダー達と一致している。
 ならば情報を交換するのは損にはならないし、彼らにとっても意味があるものになるだろう。
 ……我としては、そうする事での今後の汝の立ち位置が心配だがな』
(それは俺が何とかする。
 他人に振り回されるのは真っ平御免だからな)

「……事情は分かった。
 でも、私だけだと貴方についての判断が難しくて独断じゃ決められない。
 出来れば、上役に会って欲しい」
「上役、か。
 ソイツは信用できるのか?」

信用の問題で言えば、目の前の女性も往人としては微妙なのだが、その辺はあえて言わない。

「……信頼出来る人。
 凄く頭がよくて、優しくて、強い人だから。
 貴方の事も、貴方の意思も踏まえて考えてくれると思う」
「そうか」
「だから……出来れば近い内に会ってほしい」
『残念だが、それは無理だ。お前は誰にも会えない』
『!!?』

突如割って入った”声”に、二人は立ち上がり、声の主を探す。
その二人の眼前に『何か』が落ちて来た。
落ちて来た……いや、病院の屋上から飛び降り、現れたのは……『黒いスーツの男』だった。

男は、悠然と立ち上がりながら告げた。

「何故なら、お前は今ココで消えるからだ。
 ……まさか、まだ近くにいたとはな。
 手間を掛けずに済んだのは助かるが、呆気なくて味気がないのは少し不満だ」
「……!! お前……」
「人間じゃ、ないな……っ」

ただ其処に立つだけで、男は圧倒的な存在感と圧迫感を生み出していた。
そして、その感覚は、舞も往人……厳密に言えば虚空……も知るモノだった。

「まさか、高位の……?!」
「ご名答」

応えた男の姿が変化する。
人の姿から……飛蝗が憑依した人の姿へと。
そして、その姿は『ライダーシステムの仮面ライダー』に酷似していた。

「貴様の命と翼人の遺産……俺が貰い受ける」

ハイ・パーゼストが一角、ホッパーパーゼストはそう宣言した。

「……ったく、物真似野郎が偉そうに」

心底うんざりした顔で、往人は『刀鍵』を取り出した。
隣に立つ舞も、ベルトをバッグから取り出し装着する。

「………させるか。変身」
「変身」

蒼の閃光と紫の光が溢れた後、其処に立つのは二人の戦士。
紫の剣士たる、仮面ライダーイレイズ。
蒼の武士たる、仮面ライダー虚空。

『ほう。
 擬似反因子結晶体の戦士もいるとはな。
 面白くなりそうだ』
「言ってろ……!! 速攻片付けてやる……!」

叫んだ虚空の爪に青い光が灯る。
覚えたばかりの必殺の一撃を叩き付けるべく、虚空は大きく跳躍した。
そして、そのまま大上段から爪を振り下ろす……!!
だが。

「喰らえっ!!」
『フッ!』

必殺の筈の一撃は、ホッパーパーゼスト腕の一振りでいとも容易く迎撃された。

「なに!?」
『ハァッ!!』

驚く虚空の隙を突くカタチで、ホッパーパーゼストは軽くジャンプ、そして無防備な虚空に回し蹴りを叩き込んだ。
反射的に防御するものの、虚空はその体勢のまま大きく空を舞い、地面に叩き付けられた。

『愚か者め。
 如何に強力な反因子を纏いし一撃と言えど、纏わない場所を払えばどうという事はない。
 物理的な力も俺の外骨格ならば……』 
「はぁっ!!」

だが、迎撃の為の行動は、一方では隙となる。
其処を目掛けて、イレイズがスカーレッドエッジを斬り付ける……が。

『それも、無駄だ。
 そのようなひ弱な生体エネルギーでは、反因子が込められていようと物理的に俺を切る事は出来ん』
「……っ!」

斬撃が効かないと判断したイレイズは即座に距離を取ろうとする。
しかし、それよりも速くホッパーパーゼストがイレイズに肉薄する……!!

『まずは貴様から沈め、雑魚が!!』
「沈むのはお前だっ!!」

パーゼストが攻撃を形にする瞬間、虚空が体当たりを敢行する。
そのかいあってか、イレイズへの攻撃は方向がぶれ、大きく地面を抉り取るもののイレイズには当たらなかった。

『……無粋な攻撃だな』
(うるさいっ! んな事を言っていられる相手か!)

頭に響く声に応える往人。
だが、その問答に意識を向けている隙にホッパーパーゼストは標的を切り替えていた。

『ふんっ!!』
「ちぃっ!!」

ホッパーパーゼストの拳が空を切る。
虚空は持ち前の敏捷さでどうにか回避、握った拳を腹部に放つ。

「くっ!! 硬い!!」

しかし、恐ろしいまでに強固な外骨格は虚空の拳を完全に防いでいた。

『……単純な強度で言えば、あの獅子を凌ぐな』
(感心してる場合か!)

『フン……動きだけは大したものだな!』
「ちっ!!」

不利を感じた虚空は大きく跳躍し、思考する為の時間と距離を稼ぐ事にした。
虚空の全力跳躍力は50メートル……ある程度の大きさのビルなら簡単に越える跳躍だ。

だが。

『……ふん、愚かな』

呟いて、跳躍するホッパーパーゼスト。
そのジャンプは虚空よりも速く……高かった。
あっという間に虚空を追い抜き、高みに立つ……!

『「なにっ!?」』

往人と『刀鍵』の声が重なる。
その声に対し、ホッパーパーゼストはせせら笑うように言った。

『俺は飛蝗の憑依体だぞ?
 こと跳躍に関して、俺に勝るものなどいない……!!
 そして!』

そう叫んだ後、身体を回転させたホッパーポーゼストの足に緑色の光が灯る!!

「!!!」
『反因子こそ含まれないが、生体エネルギー操作はお前達だけの得意分野ではない!』

落下する虚空に向けて、加速するベクトルを持った閃光が迫っていく…!

「っく……!?」

避け様が無い状況に、往人が仮面の下の表情を歪めさせた……その時。

「肩を借りる」
「な?!」

背後から声が聞こえてきたと思う否や、虚空の肩に荷重が掛る。
その『正体』は、視界に入った状況ですぐに理解できた。

「お前……!」

そう。
二人の後を追って跳躍したイレイズが、虚空の肩を使う事でさらなる跳躍をしたのである。
そして、その手に握るは、最大限の輝きを放つスカーレットエッジ……!

『はああっ!!』
「ざ……せいっ!!」

二つの閃光が交差、激突する……!

「ちっ!! どうなった!?」

手の打ちようも無く、着地した虚空は即座に空を見上げた。
その瞬間、彼の真横に何かが落下し、地面に叩き付けられる。

否。ソレは正確ではない。
叩き付けられるようになりながらも、彼女は見事に着地してのけたのだから。

「!! ……アンタ、大丈夫かっ!?」
「ぽんぽこたぬきさん」
「……な、なんだそりゃ?」
「っ……あんまり大丈夫じゃない、という事」

彼女……イレイズは弱弱しく跪きながらも、自分と同じく着地した『敵』を睨み付けた。

『大したものだ、女』

ゆっくり立ち上がりつつ、ホッパーパーゼストは自身の脚部に僅かに付いた傷を一瞥した。

『その程度の出力で俺に傷を付けるとは……正直驚いた。
 さっき雑魚と言った事は訂正させてもらおう。
 ソレに比べ……』

其処で虚空に視線を向け、パーゼストは言った。

『そっちの遺産は予想外に弱い。
 他のカメンライダー達に比べて、お前は弱過ぎる。
 ……とても前回獅子に傷を負わせたとは、到底思えん』

その理由は、至極シンプルなもの。
『中身』が違うゆえに、能力を引き出せていないのだ。

『お前には、失望した。
 とりあえず貴様をさっさと倒して、その後にそっちの女と楽しむ事にしよう……!』

その言葉と共に、凄まじい物理的ではない圧力が往人に襲い掛かる。
それは紛れも無い、圧倒的な殺意だった。

『!! ……我に代われ。
 今の汝はろくに力を使えん。
 このままでは殺されてしまう……!』
(……うるさい。黙ってろ)
『状況が分かっているのか……?!
 本当に殺されて……』
「黙れっ!!!」
「!!」
『!?』

虚空が……いや、往人が咆哮する。
その気迫の鋭さに、『声』が聞こえない筈のパーゼストや舞も刹那だけ怯む。

「……ドイツも、コイツも……勝手ばかり抜かしやがって」

正直な話。
往人は腹が立っていたのだ。

自分の身体を道具のように使う奴にも。
自分をあわよくば利用しようとしているような連中にも。
自分の命を勝手な理由で奪おうとする存在にも。

国崎往人という個人を、関係の無いものがどうにかしようとしている。

それが往人には我慢ならなかった。
自身を縛るものが少ない旅人であるがゆえに、許せなかった。

「特にお前らが一番気に喰わん……」

そして。
往人はそんな怒りの篭った視線をホッパーパーゼストに……パーゼストそのものに向けていた。

「お前らがうろちょろしてるせいで、俺は余計な厄介事に巻き込まれたし……なにより」

ふと、頭の中に浮かぶイメージ。
それは……自分がいた事で、戦いに巻き込んでしまった『彼女』の姿。
危険に晒してしまった……観鈴の姿。

「……昼飯を、食い損なった」
『何?』
「大事な、飯の種を亡くす所だった。
 全く持って……冗談じゃない」

ヒトに死を押し付ける存在……パーゼスト。

ソレと相対する事で、ココに来て、往人は明確に意識した。

「お前らは、俺の敵だ。だから……」

定まった敵意を込めて。
刀を、『刀鍵』を引き抜く。
そして『刀鍵』は往人の意志に呼応して”本来”の大きさに、あるべき刀の姿へと変化する。

「さっさと倒すのは、俺だ。
 俺が、お前を、お前らを倒す」

宣言と共に、青い閃光が『刀鍵』の刃に宿る。
それは、スカーレットエッジよりも強い輝き。
迷いがないがゆえに、全てを注げる全力のカタチ。
その輝きに、ホッパーパーゼストは思わず顔を顰めた。

『……フン。
 どうやら、失望には早かったようだな。
 ならば、倒してもらおうか……!!』
「やって、やるさ……!!」

拳に宿った緑色の閃光と、刃に宿った青い閃光。
ソレを掲げた一人とヒトツは、まるで申し合わせたかのように同時に地面を蹴った……!!

「うおおおおおおおおおおおッ!」
『があああああああああっ!!』

その激突は、一瞬だった。
両者共に渾身の力を込めた一撃は、性質が相反しながらも全くの互角。

それゆえに、か。
まるで反発しあうように一人とヒトツは弾き飛ばされた。

「……っくぅ!!!」

轟音を生んだ激突の後。
地面を転がった後、先に立ち上がったのは虚空だった。

「痛ぅ……くっそ、痛い事この上ないぞ……」

『刀』を持った腕は、まるで雷にでも打たれたかのような痛みに苛まれていた。
自分の全力と向こうの全力を真っ向から受け止めるカタチになったので、当然の事なのだが。

『……お前についても、前言を撤回しよう』

虚空の真正面方向に吹き飛ばされたホッパーパーゼストもまた立ち上がる。
ホッパーパーゼストの右拳は、完全に砕け散っていた。

ソレに対し、虚空の『刀』は健在。

「……勝負ありだな」

これなら、勝てる。
確信した往人は仮面の下でニヤリと笑った……が。

『それは、考えが早いというものだぞ』

ホッパーパーゼストが哂い返した瞬間。
破壊したはずの右腕が、瞬時に再生された。

「げ。……これじゃキリがないかもな」
『……キリはある。
 同じ事を繰り返せば、汝の方が先に力尽きるだろう。
 我も汝も今の激突でかなり消耗しているが……おそらく向こうは余力を残している』

以前戦ったライオンパーゼストがキマイラパーゼストに強化変身した事が脳裏を過ぎる。
目の前の存在が、アレと同じく高位パーゼストであるのなら同様の事が出来る可能性は極めて高い。

そうであるのなら、敗北は必至だ。

「だから、逃げろとでも言うのか?」

戦いに没入している往人は、普通にその言葉を返す。
……思うだけで返せるはずの言葉を口にしていた。

ソレを指摘する事無く、『刀鍵』は応えた。

『否。汝の意思は見せてもらった。
 最早、ココで退くつもりは我にも無い』
「……じゃあ、どうする?」
「全ては戦い方次第。
 そして、それを為すのは虎穴に進むような、強い意志」

応えたのは……イレイズ。
彼女は、少しふら付きながらもスカーレッドエッジを杖代わりにして立ち上がり、虚空の側に歩み寄っていた。

「貴方に、それはある?」
「あのな。
 そんなもん、あったら苦労はしない。
 話しただろうが。
 そもそもなりゆきなんだよ、俺は」
「……」
「だがな。
 腹が立つ事この上ないが……もう、進むしかないだろうが」

ここまで来た以上、退く事は出来ない。
退けば虎に食い殺されると言うのなら、進んで逆に打ち倒すしか道は無い。

「だから、意志が有ろうが無かろうが、やれるだけの事はやるさ」
「……了解した」

そうして、二人の仮面ライダーは『剣』を構えた。
僅かな勝機を拾う、その為に。

『お前達……理解しているようだな。
 今のままで俺に向かえば、死はほぼ確実。
 だが、退けばその可能性が本当に確定する。
 だからこそ、戦って勝つという僅かな可能性に掛ける……
 くくく……そうこなくてはな』

そう呟いたハイ・パーゼストは……人間の姿へと変化した。

「お前、どういうつもりだ?」

目の前の存在の意図が読めず、虚空が呟く。

「現状において、貴様達はまだ我らにとって脅威ではない。
 今回の戦闘でその事は把握させてもらった。
 ならば、今殺す必要性は無い」

黒いスーツの男は、そう言うとニヤリと笑って見せた。

「その事実が悔しければ、俺達にとっての脅威になってみせるがいい。
 俺達はその脅威を糧にさらに強くなってみせよう。
 翼人が何か企んでいたのなら、それさえも利用してやろう。
 俺は、その時が来るのを楽しみに待っている」
「……その為に、今俺達を見逃すのか?
 分からんな、その思考」
「人間には理解出来ないだろうな。
 だが、それこそが俺達が俺達である所以。 
 精々ソレを利用する事だ」

そう言って男は背を向け、去っていく……が、途中で振り返り、最後にこう告げた。

「善戦の褒美に一つ教えておいてやる。
 俺の仲間が、他のカメンライダーに何かを仕掛けるつもりだぞ。
 そっちも精々なんとかしてみせるがいい」 










「……なんだ?」
「んー。聞き覚えあるな、これ」

それは、プログラムKEYの簡易テストが終了しようとしていた時に起こった。

突如、けたたましい警報が鳴り響き始めたのだ。
どう聞いてもソレは、異常事態を知らせるものに他ならなかった。

「……どうした?
 ふむ。それは、厄介だな」

その警報に反応するように即座に鳴った、近くの内線電話。
命は、ソレを取ってニ三言会話を交わした後、祐一達に向き直った。

「命さん、一体……何が?」
「ふむ。
 平たく言えば、この施設を約百体のパーゼストが包囲しつつあるそうだ」
『…………………………………………………………………………。
 なっ!!??』

余りにも自然に、事も無げに告げられた事実に、祐一と浩平は思わず叫ぶ事しか出来なかった……。










……続く。










次回予告

ファントムの施設を襲うパーゼストの群れ。
かつてない危機的状況に、亡霊達は立ち向かう……!!

「どうやら、ここが死に場所か」

乞うご期待、はご自由に!





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