第十六話 狭間に立つモノ







遠野美凪。

御伽話のような現実を垣間見た相沢祐一や、
幼馴染を救う為に殺す事で、ライダーとしての人生を進んでいる紫雲と同様に、
彼女もまた数奇な人生を歩む者だった。

彼女は、かつて夢の中にいた。
生まれてこなかったはずの妹と出会う事で。

だが、それはすでに醒めていた。
いや、醒めさせられた、というべきだろう。

存在しなかったはずの妹を、失う事によって。

原因は彼女にも分からない。
ただいなくなった。
それだけだ。

何も分からない中途半端な状態で、夢は終わったのだ、と彼女はぼんやりと悟った。

そうして、夢から完全に覚めないまま、彼女は上京し、大学に通うようになった。
存在しない妹を想い、現実から目を背け続ける母親から逃げる様に。

そうして、彼女は出会った。

パーゼストと呼ばれる怪人達。
そして、仮面ライダーを名乗る青年達……相沢祐一と草薙紫雲に。

祐一とは同じ寮であるがゆえに、ある程度会話を交わした事はあるが、彼の過去を知っているわけではない。

それに対し、紫雲の事については知っていた。
弟を案じていた命が零した言葉から、拾い上げていた。

草薙紫雲という男の断片……それを知って、美凪は思った。

彼は、自分に似ていると。

かつて『失われた妹』としてしか見てもらえず、その妹を演じる事で、自分を見失った美凪。

守るべき者を殺す事でしか救えず、今までの信念を見失い、仮面ライダーを『演じる』事であがいている紫雲。

そうして失ったもの……
過去を、自分を取り戻す為に……あるいは、何かで補う為に生きている。

現在と過去との違いこそあるが、そういう部分が似ている……少なくとも美凪自身はそう感じていた。

だから、美凪もまた紫雲の身を案じていた。
友人としての心配、似た者としての共感がそうさせていた。

だからこそ、美凪は紫雲の力になりたいと思っていた。

そう思っていたのに。







「……っ!」

美凪は息を呑んだ。
草薙紫雲が変貌した、存在に。

その存在は、大きく跳躍した。
人の領域を越えた跳躍を為したのは、人狼……ウルフパーゼスト。

その方向が自分達である事に気付いて、二人は身構える……というよりも、身体を震わせた。
……だが、その必要はなかった。

『彼』の到達点は、二人ではなかったのだから。

「っ!!」

その跳躍の最中、ウルフパーゼストは動いた。
自分が立っていた場所と美凪達の立っている位置。
その中間近くに立っていたフェイクに、鋭い爪先で引っ掻く形での一撃を浴びせたのだ。

「くっ!?」

予想外の行動だったためか、予測以上の速さだったからか……
いずれにせよ、フェイクは対応らしい対応ができないままにその一撃を肩に受けた。

「……!」

ウルフパーゼストはその攻撃の際にフェイクの肩を足場にし、空中で一回転すると、体勢を整えた上で着地。
そうして、美凪たちを庇うようにフェイクと対峙した。

状況の流れについていけない二人は、狼の白銀色の背中を見つめることしかできない。
だが、フェイク……シュンはそんな二人とは対照的な、冷静な声音で呟いた。

「……予想していたが、やっぱり少し驚きだね。
 まだ、人としての意識を残しているとは」
「え?!」
「!」

フェイクの言葉に、二人はウルフパーゼストの背中ではなく、その少し上の後頭部を見詰めた。
もしも人の意識が残っているのなら、振り向いてくれないか、そう思って。

「……」

だが、狼は答えない。

狼は振り向かない。

ただ、動く。
彼にとっての敵に向かって。

「ッ……!!」

鋭い息が牙の間から零れ落ちる。

その鋭さを乗せた、風の様な俊敏さで、ウルフパーゼストはフェイクを翻弄する。

前後左右。上下前後。
まるで踊っているかのように、空間を行き来する。
さっきまでのエグザイルの不調が嘘であるかのような、鮮やかな獣の動きだった。

だが、それはいつまでも続かなかった。

「ふん……ッ!!」

乱戦の中放たれたウルフパーゼストの拳を、フェイクが防御する。
それは反射的なものではない。
予測に基づく、完全ではないが、それに近い防御の形だった。

「……!」
「……やるじゃないか……
 だが、動きに躊躇いがある……
 倒すべき存在であるパーゼストになってしまった自分に嫌悪しているのかもしれないが……」

ウルフパーゼストの拳を払い除けたフェイクは、その動作と殆ど同時に、体当たりのような身体ごと放つ裏拳をウルフパーゼストに叩き込んだ。

「それじゃ、僕は倒せないんだよ……っ!」
「ぐ……jyujあっ!!」

その一撃に被さるような二つの叫びとともに、ウルフパーゼストは地面を転がった。

「フン……これで、終わりだ……!」

熱を帯びた、荒々しい言葉と共に、フェイクの脚部に灰色の閃光が収束していく……が。

その輝きは、不完全なままに薄くなり、やがて霧散した。

「……?!」

それを不審に思いながらも、ウルフパーゼストはこの機を逃すまいと起き上がった。
フェイクはそれに注意を払う事さえせず、微かに呟いた。

「フン……時間、切れか。仕方がない……」

そう言って戦闘体勢を解いたフェイクは、先程までとはうって変わった、穏やかな口調でウルフパーゼストに向き直った。

「……草薙紫雲君、君はいい実験材料になれるよ。
 ベルトを内包した、高レベルのパーゼストとして。
 だから、君の身柄は、そこの彼女が持つ鍵も含めて、僕達レクイエムがいずれ預からせてもらう。
 ……それに『そう』なった以上、君は人間からは追われる立場だ。
 仲間であるはずのファントムも君に牙を向くかもしれない。
 それなら、人として傷つく前に、大人しく僕らの技術の礎になった方がマシじゃないかな?」
「……!」

その言葉に反応してか、ウルフパーゼストがコンクリートを蹴った。
だが、それは予測済みだったらしく、フェイクは近くのビルの屋上に跳躍し、回避した。

「努々忘れない事だね。
 もっとも、いつまで君が覚えていられるか……人間を保ってられるかどうかは知らないけどね」
「……!」

パーゼストとなったが故の聴覚は、その言葉を捉えていた。
その言葉にウルフパーゼストが動揺しているうちに、フェイクの姿は夕闇の中に消えていた。

そして、そんな夕闇の中に、沈黙が訪れた。

その場の誰もが、何を話すべきなのか、話していいのかさえ、分からないでいた。

「草薙……」
「紫雲、さん」

それでも、二人は口を開いた。
沈黙よりも耐え切れない何かに後押しされて。

そうして、それをきっかけに二人はウルフパーゼスト……紫雲に向かって、歩き出した。
だが。

「……近付く、な」

その重い声に、おそるおそるながらも歩み寄ろうとしていた二人の足が止まる。
そんな二人に向かって紫雲は言葉を続けた。

「僕は……jujhnhnn……もうパーゼストなんだ。
 今はベルトのプログラムのお陰か、かろうじて、意識を保ってるけど……
 これから先は……kujjujubn……わからない」
「……」
「……」

否定したい。
だが、人ではない紫雲の姿が、時折混じる人ではない声がそれをさせなかった。

「だから、鍵を姉貴か、相沢君に……jyuhghn……渡してくれ。
 遠野さんは、姉貴と連絡が取れるjuhnyuuuんだろう?」
「それは、そうですが……ですが……」
「ごめん……後は、頼む、よ」

そう言うと、ウルフパーゼストは跳躍した。

「ちょ、待ちなさいよ!
 アンタは……アンタは、どうするのよ……!」

留美の言葉は、遠ざかる狼に届く事無く、路地裏に消えていった。

「あたし達は、……どう、すれば、いいのよ……」

手の中にある、紫雲から渡された鍵を、きゅ、と握り締め、留美は呆然と呟いた。

「……鍵は」

ぽつり、と美凪が口を開く。
ウルフパーゼスト……紫雲が消えた方向を見据えたままで。

「鍵は私がお預かりします。
 そして、紫雲さんのお姉さまに届けた上で今起こった事を伝えます。
 紫雲さんを元に戻す方法を、調べてもらう為に。
 七瀬さんは……寮に戻って、相沢さんにこの事を知らせてください」
「……あんた。何でそんなに冷静なの?」

美凪とは親しいわけではないので、元々から物静かな美凪の雰囲気は、留美には冷静を保っているように見えた。

そして、そんな彼女に留美は微かに怒りを覚えた。

だが、それは勿論そう見えるだけに過ぎない。
遠野美凪の感情は、遠野美凪にしか分からないのだから。

彼女は、留美に向き直り、その顔を真っ直ぐに見据えた。

「私が他の誰かにどう見えるかは、私自身には分かりません。
 ですが、今それは些細な事です]
「些細……?」
「はい。今は……やるべき事をやりましょう。
 それが一番大事な事のはずです。
 私達を護ろうとした紫雲さんの為に」
「……!」

その言葉、そして微かに唇を噛む表情で留美は気付いた。

彼女は、思っている。
紫雲がああなったのは、少なからず自分達の責任だと。

でも、それは違う。
……少なくとも、留美はそう思っていた。

あの時、紫雲を放っておく事ができずに戻る事を提案したのは留美だった。
自分が考えなしに戻ってこなければ、紫雲は少なくとも人のままでいられたかもしれない。
無理に戦おうとはせず、逃げる事もできたのかもしれない。

そもそも、事情を知らなかったとは言え、変身を焚き付けてしまったのは自分なのだ。

それなのに、目の前の女性はそんな自分と同じ責任を負おうとしている……

「……ごめん。あたしとした事が……」

乙女失格だわ、と留美は零した。
情けない自分自身に、肩を落とす。
美凪はそんな彼女に穏やかな声を掛けた。

「そんな事はないかと。
 本当に失格なら、そう考える事さえしないと思います」
「…………そう言ってくれると、助かるわ」

美凪の言葉を受けて、そう呟いた留美は、パンッ、と自分の頬に平手を入れた。

「……これで、よしっ」

悔やむ事は後でもできる。
今は、一刻を争う時だ。

さっきの男の動きも気になるが、他にも理由がある。

事情は知らないが、祐一もまた戦う者だという。
今回の顛末を知らない彼が『紫雲』に出会ってしまったら……取り返しがつかない事になるかもしれない。

紫雲を元に戻せるかなんて、分からない。
だが、このまま手をこまねいている訳にはいかない。
少なくとも、化物のままに死なせるわけにはいかない。

だから留美は決意を込めて、言った。

「さあ、やる事やりましょっ!」
「……はい」 
「じゃあ、さっき言った通り、あたしは相沢にこの事を伝える為に寮へ行くわ。
 あなたは草薙の姉さんとかに連絡して、その上であいつを元に戻す方法を調べてもらう。
 ……それでいいのね?」
「はい」

二人とも祐一の電話番号が分からないのが悔やまれる。
聞いておけばよかったと思うが、そんな事を愚痴っている暇はない。

「でも……一人で大丈夫?
 二人で相沢と合流してからの方がいいんじゃない?」
「パーゼストさん相手では、一人いても二人いてもあまり意味はないと思われます。
 それに紫雲さんの身体の事を思うと、あまり時間を無駄にはできないと思います。
 すぐに合流できるかは分かりませんし」
「あー……違いないわね。りょーかい。じゃ………気をつけてね」

そうとしか言いようがないのが悔しいが、それにも構っていられない。

二人にしてみれば推測でしかないが、時間を無駄にできないのは事実だった。

美凪はその言葉に頷くと、こう付け加えた。

「……七瀬さんも、です」
「留美でいいわよ。
 ……心配ありがと。じゃあ、任せたわよ」
「お任せ」

擦れ違い様に、鍵を美凪に渡した留美は走り出し。
美凪は命に連絡を取るべく携帯電話を取り出した。

そうして、二人はそれぞれの目的へとそれぞれの全速をもって駆け出した。







「変身!!」

ビル街の路地裏に、祐一の声が響く。

バイクから降り立つと同時に、祐一の姿が赤い閃光に包まれて変わった。
仮面ライダーカノンの姿に。

その眼前に立つのは、右腕に巨大な鋏を持つクラブパーゼスト。
……そして、それに襲われたとおぼしき、倒れた人々。

流れた血の量が、彼らの生死を物語っていた。

祐一の……カノンの握り締めた拳が震える。

「……おおおっ!」

救えなかった悔しさと憤りを込めて、カノンが拳を振るう。
それに対し、クラブパーゼストは微動だにしない。

……次の瞬間、祐一はその理由を身を持って知った。

放った拳はクラブパーゼストに直撃したが、その甲殻の前にダメージはなく、逆に拳に痛みが走る。

「う、おおおおおっ!!」

それに構わず、連続して拳を叩き込む。
だが、一様に通用しなかった。

「ち……堅い……!!」

その事に気を取られていた、次の瞬間、カノンの身体は巨大な鋏の一振りで宙に舞った。
地面に転がるカノンだったが、すぐさま起き上がる。

「なら……これでどうだ……!!」

舞が持ってきていた『その武器』は、カノンのベルトに装備されたままだった。
カノンは迷う事無くベルトサイドにぶら下がっていた武器……剣の柄を抜き放ち、鍵を差し込んだ。
そうすることで、赤い光の刃が形成される。

「はあっ!!」

一閃。
赤い閃光が夕闇を走った。

次の瞬間。
クラブパーゼストの鋏が、あっさりと斬り落とされた。
緑色の体液が、辺りに零れ落ちる。

「jyujn!!」
「いくら殻が頑丈でも、隙間がある……
 それがあれば斬るには十分なんだよ……!」

そう。
如何に堅い『鎧』でも、動く為の部分までは覆う事はできない。

それは拳が入る程の隙間ではない。
だが、拳は隙間に入らなくても、刃なら通る。

「これで……!」

トドメを刺すべく、カノンは握る剣の柄に力を込めた。
だが。

「hyujhghu!!!」

何事かを叫ぶパーゼストの口から、白い泡が放出される。
それは、まるで霧の様に周囲に広がり、カノンの視界を奪った。

「く……!」

その霧を振り払うように、クラブパーゼストの立っていた位置に剣を振り下ろす。
だが、そこには何の感触も生まれない。

そうこうしているうちに泡が消え、クラブパーゼストは完全にその姿を消していた。

「ち……!!」

パーゼストの気配……それを感じる事ができない。
……紫雲が言う所の害意がない状態ではどうしようもなかった。

だが……

「くそ……!!」

改めて、その場の惨状を目の当たりにしてカノンは再び拳を震わせた。

そう。
放っておくわけにはいかない。

武器であるだろう鋏こそ破壊したが、普通の人間にとってパーゼストが脅威である事に変わりはないのだから。

「近くには、いる筈だ……」

仮面の奥で怒りを噛み殺しながら、カノンはバイクに跨り、発進させた。







その頃、大学の校門の前では、舞と北川が所在なさげに立ち尽くしていた。
……祐一がいつまで経っても戻ってこない為である。

「しかし、いくらなんでも遅すぎるよな……」
「……」
「もしかして、何かあったのか……って」

そこで、二人は顔を見合わせた。
その何かに対する明確な心当たりが二人にはあったからだ。

「パーゼスト……?」

その北川の言葉に答えるように頷いた舞は、弾かれる様に自分のバイクに向かって駆け出した。

校門前の来客用の駐輪場に停車されたコバルトハウンド……その起動したままになっているディスプレイを覗き込む。
現在の所、反応はない……が、少し前にパーゼストが現れた履歴が確かに残っていた。

「……」
「川澄先輩!どうでした?!」

慌てて駆け寄る北川を視界に留め置きながら、舞はコバルトハウンドに跨った。

「……今日のトレーニングは終わりだ。明日以降は祐一に連絡をよこす。
 北川は祐一に連絡を確認するといい」
「え?ちょ……」

それだけを一方的に告げて、舞はバイクを急発進させた。
後には呆然とした北川だけが残された。







「はぁ……」

神尾晴子は、今の自分の職場兼住所である所の学生寮の敷居をまたぐと同時に溜息を付いた。

「なんでやろな……」

彼女は、娘である所の神尾観鈴の病院に足を運んでいた。
だが、娘に会う事はできなかった……いや、しなかった。

それは、彼女自身がそうする事に躊躇いを覚えていたからに他ならない。
……今に至るまでの様々な出来事がそうさせていた。

「はぁ……情けないなぁ」

ぼやいてみるが、いつまでもそうしている訳にはいかない。

この寮には、お人好しの『子供』が何人もいるからだ。

彼らが今の晴子を見れば、励ますという意識はあまりないだろうが、一声掛けようとするだろう。
彼女としてはそうされたくない時もあるし、そういう連中だからこそ余計な心配を掛けたくなかった。

「はぁぁぁ……」

だから、これで最後とばかりに溜息を付いた。
そうして背筋を伸ばし、管理人としての……いつもの神尾晴子の顔に戻る。

「よっしゃ。さあ、まずは……」

そうして、管理人としての仕事に取り掛かろうとした時だった。

「あのっすみません!!」

唐突なその声に、晴子は訝しげに振り返った。
そこには長い髪をツインテールにした、まだ少女と呼べる女性が膝に手を付けた状態で立っていた。

その顔に晴子は覚えがあった。
何度もここに訪れている……この寮の持ち主たる大学の生徒だったはずだ。

彼女……七瀬留美は乱れた息を整えつつ、晴子に言った。

「管理人さん、ですよね。あの、相沢帰ってませんか?」
「ん。うちも今野暮用から帰って来たところなんや。
 だからちょっとわからへん……って、あ、ちょっと待ってな」

そう言うと、晴子はポリポリと頭を掻きながら寮の中に入っていった。
……それから十秒と経たない内に晴子は戻ってきた。

「おらんみたいやな。
 郵便受けに手紙やらが挟まったままやし、それに……ほら、電気もついてないみたいや」

晴子の指した方向を見上げる。
おそらく、そこが祐一の部屋なのだろう。
もう辺りは暗くなっているというのに、その部屋には灯が点いていなかった。
……その隣の部屋も電気が点いていなかったが。

「なんか用か?伝言やったら伝えとくで」

普通の伝言ならば、留美は頼んでいただろう。
だが、内容が内容だけに、それは自分で伝えなければならない……そう判断した。

「いえ、しばらくここで待たせていただきます。
 あの、よろしいでしょうか?」
「……あんたがそうしたいんやったら構わんけど……ホントにいいんか?」
「はい。……その、お気遣いありがとうございます」
「気にせんでええよ。ほな、気ぃつけてな」

そう言葉を残して、晴子は寮の中に入っていった。

後に残された留美は、かろうじて抑えていた苛立たしさをぶつけるように周囲を見回して、呟いた。

「何で帰ってきてないのよ……!」

状況が分からない以上、下手に動けばすれ違いになる可能性もある。
そういった考えから留美は寮から動けずにいた。

そんな焦りに縛られた彼女は知らなかった。

……頭上からそんな自分を見下ろしている、一つの視線に。







「……やれやれ。やっぱり、まだまだ研究の余地が有るね」

氷上シュンは公園のベンチに腰を下ろして、一人呟いた。

彼は身体に軽い疲労感を覚えていた。
もっとも、さっきまでは重い疲労感だったのだが。

「彼ほどの苦しみじゃないにしても……もう少し楽になれないと、戦力としては望み薄だしね」

言いながら携帯電話……に似せた、特殊な通信機を彼は取り出した。
現状の報告をして、戦力を寄越して貰う為に。

本音を言えば、あそこで無理をした方が『紫雲』と『鍵』を手に入れられる公算は高かった。
だが、彼はここで無理をするつもりはなかった。

彼には、氷上シュンには目的がある。
無理をして、失敗するような事は、彼には許されない。

さらに言えば、『紫雲』の戦闘能力は侮れない。
彼がもっと積極的にパーゼストの能力を使うのであれば、おそらくあれ以上の苦戦は避けられないだろう。
そうして戦闘が長引けば、カノンこと相沢祐一が戻ってくる可能性もあり、厄介な事になりかねなかった。

次に挑む時は万全の体制で、確実に両方を奪う必要がある。
その為にもある程度の戦力が必要なのだ。

『在庫』はあまりない。
だが、この好機を逃すわけにもいかない。

そう考えながら、シュンは通信機の反応を待っていたのだが……

「……なんで連絡が取れないんだ……?」

彼が手にした通信機は、何の音も、誰の声も聞こえなかった。
訝しげに思いながらも、彼はしばし待つことにした。
機材の調子が悪い事もあるのだろう、ぐらいの考えで。

シュンは、この時点でレクイエムの『領地』で起こっている事態を知らなかった。
そして、その事態がある意味で自分が招いた事だという事実も、知る由がなかった。







紫雲のバイクに乗った祐一は、さっき戦った場所の近隣をただ走っていた。
あまりにも目立つので変身こそ解いていたが、すぐに戦えるようにベルトを腰につけたままにしていた。

そんな祐一の真横に一台のバイクが現れ、並走する。

その見覚えのあるバイクに気付いた祐一は、すぐさまバイクを道路の端に寄せて、ガードレールの向こうの歩道に降りた。
並走していたバイクの持ち主も同様に降り立つ。

その持ち主は勿論……

「舞……」
「状況は?」

彼女、川澄舞はフルフェイスのメットを脱ぎながら、言った。

「パーゼストと戦って、追い詰めたんだが……」

ぐ、と拳を握り締める。
その様子で、舞は事態をある程度悟った。
戻ってこなかった事も踏まえ、予測していた事態だ。

「逃がしたのか」
「……ああ。……くそ……」

ガードレールに軽く拳をぶつけるその姿が、祐一の怒りを如実に語っていた。
そんな祐一に静かな視線を向けて、舞は言った。

「過ぎた事をどうこう言っていても始まらない。
 そして、これから起こる事ならばすぐに対処すればいい。
 この近くにいるのか?」
「ああ、手傷を負わせたから……そこまで遠くには行ってないはずだ」
「なら、私は秋子さんに連絡を入れる」
「……秋子さんに?どうしてだ?」

その舞の言葉に、祐一は訝しげに眉間に皺を寄せた。
そんな祐一の疑問に舞はすぐさま答えた。

「秋子さんから話は聞いていないのか?
 警察もパーゼスト関連の事件に正式な形で関わろうとしている事を」
「あ……」

ほんの数日前、警察の人間と名乗る男を交えた会話で、秋子がそれらしき事を言っていた事を祐一は思い出した。

「今、秋子さんはその為に警察に出向している。
 パーゼストの探索機材も搬入されるらしい。
 この際だし、警察にも捜索に力を貸してもらうといい」
「……」

祐一としては、正直あまり気は進まなかった。
如何に警察といっても、パーゼスト相手には通用しない……そう祐一は認識していたからだ。

警察の誰かがパーゼストに相対する事で、その誰かが犠牲になる……祐一にとって気が進まない理由がそこにあった。

とはいえ。
パーゼストとの戦いがこれからどうなっていくのかは予測もつかない。

今後、パーゼストとの戦いが激化し、警察がパーゼスト関連の事件に本格的に関わる事が必要になっていくのであれば、それは止むを得ない部分なのかもしれない。

それに、東京は……否、守るべき世界はあまりに広い。
今はまだ何人かの仮面ライダーでカバーできているが、いずれそうできなくなるかもしれないのだ。

本当の意味で何も知らない人を護るのなら……警察の協力は必要ではないのか。

そうして思考を巡らせた上で、祐一は言った。

「……了解。頼む」

その決断に深く頷いて、舞は秋子に連絡を取るべく携帯電話を取り出した。







警察署内に用意された『そこ』は広い部屋だった。
ある目的の為に用意された、その部屋の中の人間達は、慌しく書類を纏めたり機材を搬入したりの作業を進めている。

そんな扉の前に、一人の女性が足を止めた。
そこには『憑依体特別対策班本部』と流麗な文字で書かれた紙が張られていた。

中の慌しい様子から視線を逸らし、扉をくぐった彼女は、近くにいた人間に声を掛けた。

「失礼します。橘さんはこちらにいらっしゃいますか?」
「あ、はい、そちらの奥におられます」
「ありがとうございます」

出入り口に立っていた婦人警官にお礼を述べて、彼女……水瀬秋子は奥に向かって歩いていった。

「橘さん、手筈はどうでしょうか?」
「……水瀬さん、か」

自身に掛けられた声に顔を上げた敬介は、そこに立つ女性の顔を見て、作業を中断した。

「ああ、問題ないよ。
 こうして皆準備してくれている」

作業の流れを眺めながら、敬介は言った。



パーゼスト。
人間に憑依し、人間を殺す化物。

だが、人間もそれに手をこまねいていたわけではない。
……それらに対抗する為の集まりの準備は着々と進行していた。

『それ』は何もここ数日中に動き出したものではない。
ずっと前から準備されていたものが、はっきりとした形で表に姿を現したというだけだ。
……もっとも、その事を知っているのはごく一部の人間に過ぎないのだが。


そうしてできたのが、この憑依体特別対策班だった。

この対策班には敬介同様パーゼストを目撃したり、遭遇した事のある警察官、ファントムから派遣された人間達が集められていた。

化物という信じ難い存在と向き合うには、その存在を知るものでなければ無理……その考えの元に集められたメンバー。

いずれ、パーゼストの動きが活発になった時は増員されていく……それさえも予定に織り込まれた状態で、対策班はいよいよ本格的に動き出そうとしていた。

「支給された特別製の弾丸も、ここにいる皆には行き渡ってるよ。
 僕も今、装填してる所だ」

表面に、何かの文字が刻まれた弾丸が机の上に転がっている。
それを見せびらかすように拾い上げて、敬介は拳銃に装填した。

「……で、何の用だい?
 『仮面ライダー』についての報告なら聞いたけど……」
「その事ではありません。
 早速で申し訳ないのですが、ここにいる皆さんに動いていただく事になりそうです」
「それは……」

どういう事なのか、と敬介が口を開き掛けた時だった。

「た、橘さん!」

見慣れない機材を相手に奮闘していた女性警官が叫んだ。

「どうかしたのかい?」
「レーダーに、反応が……!」

その言葉に、その部屋にいた全員の視線が『そこ』に集まる。

この部屋にはハウンドシリーズに取り付けられたものと同じ……いや、それ以上の性能を誇るシステムが備え付けられ、起動している。
その映像がプロジェクターにより、部屋の奥に大きく映し出された。

そして、そこには緑の光点が確かに点滅を繰り返し、その存在を主張していた。

「……水瀬さん、これは」
「機材の故障ではありません。パーゼストです」

その言葉に、憑依体特別対策班に軽い動揺が走っていく。
驚き。恐れ。意気。
そんな感情の波が動いていった。

それを感じ取りながら、秋子は自分の手に握り締めたものを確認した。

その手にあるのは、紫雲の為に作られた『プログラム』……それを伝える為の媒体。
『これ』を紫雲に届ければ、彼の『問題』を解決できるという。

他ならない『彼女』の言う事だけに間違いはないだろう。
だから、さっきから紫雲に連絡を取ろうとしているのだが、まるで応答がない。

そこに舞からの……厳密に言えば祐一からの……連絡があったのである。
紫雲の事も気掛かりだが、そちらを放っておくわけにもいかず、秋子はここを訪れたのである。

だが、紫雲の事を放っておくつもりもない。
パーゼストのある所に『ライダー』は現れる。
詰まる所、ここでの活動で紫雲に会える公算も高いという事に他ならない……

「……水瀬さん」

敬介の言葉に、自身の思考に埋没していた秋子は顔を上げた。
そして、手の中にあるものを握り締めて、彼女は告げた。

「憑依体特別対策班・顧問、水瀬秋子として……対策班の行動を了承します……!!」







完全な夜の闇の中。
『紫雲』は七瀬留美の頭上……寮の屋上に潜んでいた。

あの場を去ったように見せかけて、二人が別れた後、留美にずっとついていたのである。
鍵を持つ彼女の方が、襲われる可能性が高い……そう判断したからだ。

「……ごめん、jyujnbnhu……七瀬さん」

本当ならば今すぐ鍵を回収して、家に返してあげたい。
だが、いつ意識を……人としての意識を失うかも分からない以上、それはできない。

「ぐ……huunhuuu!!」

『プログラム』が自分の中にある。

苦痛で軋む頭が……その軋みさえ通常だと認識しようとしている事態がそれをより強く意識させていた。

それは力無き者を滅ぼす為の、プログラム。
パーゼストという存在の根幹たるプログラム。

反因子結晶体こそ欠いていたが、そのプログラムを抑制・制御するベルトの力もあって、今はかろうじて紫雲の意識は保たれていた。

だが、それも長くはもたないだろうと紫雲は考えていた。

そのプログラムは反因子結晶体があってのもの。
どちらが欠けても、意味は無い。
この状態で長続きしない事ぐらい、姉と違って専門……スペシャリストではない……紫雲にも理解できていた。

そうして、いずれそのプログラムに支配された時、鍵を持っていたのなら最悪破壊してしまう危険性もある。

反因子結晶体はパーゼストにとって天敵。
それを破壊せずにいられるか……おそらく無理だろう。
よしんば破壊ができなくても、何らかの方法で使用不可能にしてしまうかもしれない。

だから、今はこうして留美を見守る事しか、紫雲にはできなかった。

自分の理性の限界まで。

厳密に言えば、命か祐一が現れるか、自分の理性が消滅するか、レクイエムが現れるか、ファントムから抹消指令が下るまでか。

……ただ、紫雲は気付いていなかった。

鍵を持っているのは、自分が鍵を手渡した七瀬留美ではなく、遠野美凪だという事に。
彼らしからぬ、見過ごし……それほどに、紫雲は追い詰められているとも言えた。

「……」

いっそ死のうかとも紫雲は考えていた。

その方がいいのかもしれない。

だが、この身体では人間の時は容易かった自殺もままならない。

この身体は刃物も通さない。
高所から落ちた程度では死ねない。
自分の爪では、自分を貫くには力が足りない。

それに、よくよく考えてみれば、まだ死ぬわけにはいかない。

人としての、仮面ライダ―の端くれとしての責任として、鍵が姉か祐一に渡されるのを見届けなければならない。

死ぬ事を考えるのは、それからでいい。

「……パーゼストとして、死ぬ、か」

言葉にして、改めて気付く。
それは自分が殺してしまった幼馴染と同じ死に様だという事に。

「……yuhbb」

結局。
草薙紫雲という人間の人生はなんだったのだろうか。

あの子の命を奪ってまで生き延びて、何が為せただろうか。

いっそ、あの時に彼女に殺されているべきだったのかもしれないとさえ、思ってしまう。

それは思うべきではない事だというのは分かっているのに。

「……ごめん……」

そんな誰にでもない謝罪の言葉を口にした時。

「……!!」

『仲間』の気配を感じた。

「違う……jyuh敵だ」

そう。
パーゼストの気配。

この近くだ。
敵意が、戦闘レベルに達しようとしている。
人を、襲おうとしている。

「……」

祐一を待つべきだろうか。
いやそうしている暇は無い。
命の危機を、放っておくわけにはいかない。

勿論、留美にも意識を払わなければならない。
その上で、出来うる限りの事をしなければならないだろう。

「……やるしかない……!!」

そう決意して。
ウルフパーゼストは屋上の床を蹴った。

……侵食されつつある、軋む頭蓋を抱えたままに。







「じゃあ草薙君、無事なんだ」
「うん。少なくとも、会った時は怪我とかしてなかったよ」

今の自分の帰る場所である寮への帰り道。
あゆの言葉に名雪は頷いた。

「そっかぁ……よかった」

数日前、鯛焼きを食べに行った時の戦闘以来、紫雲に会っていなかったあゆは安堵の表情を浮かべた。

事後、ファントムの施設で教え合った連絡先に電話を掛けて無事は確認したものの、声に元気が無く、怪我したりしているのを隠しているのではないかと思っていただけに、その安堵もひとしおだった。



この日、二人はそれぞれの帰り道の途中でバッタリ出会った。

名雪は暇を持て余していた。
さらに言えば、いつもなら祐一と一緒に夕食のメニューを考えながら買い物をするので、一人でいる事に多少の寂しさを覚えていたのだ。

あゆはあゆで、紫雲の事が少し気になっていたので元気が無かった。

そこで、名雪はあゆをファミレスでの食事に誘った。
自分もあゆも、それで少しは気を晴らす事ができるように、と。

二人はそうして食事を楽しんだ後、ついさっきその店から出てきたばかりだった。

名雪の考えは半分と少し成功した。
そして、残り半分は紫雲の無事を確認した事で埋まり、今に至る。



「あゆちゃん、草薙君の事が気になるの?」

あゆの様子からなんとなく思った事を名雪は口にした。
そんな名雪の問い掛けに、あゆは少しだけ顔を赤らめてから、答えた。

「え、と、その……うーん……気にはなるよ。
 やっぱり、命の恩人だし。
 でも、それだけじゃなくて、何か引っ掛かるんだ」
「どういう事?」
「ボクもよく分からないんだけど……」

そう言い掛けたあゆの足が止まった。
その視線は、路地の先に注がれている。

「あゆちゃん?」

言いながら、名雪もその視線を追った。
そこには……異形の怪人が佇んでいた。

「……っ!」

二人は殆ど同時に息を飲んだ。

その怪人には片腕がなかった。
……そう。その怪人は祐一と戦闘したクラブパーゼストだった。

勿論、二人はそんな事知る由もない。
ただ、やるべき事は分かっていた。

「あゆちゃん!」
「うん!!」

二人は即座に駆け出した。
自分達のよく知る存在が現れるまで、逃げるしか出来ない事を知っていたからだ。

だが。

「!?」
「なに、これ!?」

急に周囲が霧のようなものに包まれた。
その事に動揺して、思わず二人の足が止まる。

その瞬間。
もう薄くなりつつある『霧』……クラブパーゼストの泡……を突き破って、クラブパーゼストが二人の眼前に現れた。

悲鳴を上げる暇もない。
二人が、自分達の死から目を背けるように目を瞑った瞬間。

衝撃音が辺りに響いた。

その音に眼を開く。
そこには、クラブパーゼストが宙を舞っている姿が映った。

最初、それを見た二人は紫雲か祐一が来たのだと思った。
だが、それは違う事にすぐに気付かされた。

影が降り立つ。
自分達を守るようにクラブパーゼストに飛び掛かっていくその影は、見覚えの無いものだった。

少なくともライダーではない。
むしろ……

「パ、パーゼスト……!?」

祐一から聞いていた名前を、名雪は口にした。

そう。
そこにいたのは狼に良く似た、白銀色のパーゼストだった。

そのパーゼストは、クラブパーゼストの両肩を自身の両腕で掴む事で固定し、その胸部に蹴りを叩き込んだ。
そうすると同時に、空中で翻り、地面に着地……獣のような戦闘体勢を取った。

その一撃をまともに受けたクラブパーゼストは、大きく弾き飛ばされ、アスファルトを勢いよく転がっていく。

「なんで、パーゼストが……パーゼストを……?!」

その疑問に答えるものはいない……半ば確信しながらも、名雪は思わず混乱の声を上げた。
だが、その疑問に答える言葉が、あゆの口から零れ落ちた。

「…………………草薙、君?」
「え……?」

何をどう見たらそう見えるのか。
名雪にはまったく分からなかった。

だが、その言葉が真実である事は、そのパーゼスト……ウルフパーゼストの動きが、あゆの言葉により一瞬止まる事で確かなものとなった。

「……やっぱり、そうなんだね……?どうして?どうして、そんな……?」
「……説明jyuhbは、後でする。だから、早くjuuhgyygffrdf逃げてくれ……!!」
「そんなこと……できないよ……!」
「そうだよ、できるわけないよ!そんなになった草薙君を放っておくなんて……!!」

名雪とあゆが口々に言う。
そんな二人の言葉に、紫雲は、ギリ、と牙を鳴らした。

(どうして……どうして、誰も彼も僕の事を……)

内心で呟く紫雲の脳裏に、同様の事を言っていた遠野美凪と七瀬留美の二人が頭をよぎる。

苛立っているわけじゃない。
むしろ、その逆だった。

そして。
だからこそ、巻き込むわけにはいかなかった。

「……うおおhyhbhおおおjyugbbbっ!!」

人と化物の入り混じった叫びをあげたウルフパーゼストは、立ち上がったクラブパーゼストの肩をを再び掴み、高く大きくジャンプした。
……戦場を変える、その為に。

空中高く舞い上がったウルフパーゼストは、周辺に人がいない事を確認した上でさっきと同じ要領で、さっきよりも強く、クラブパーゼストを蹴り出した。

弾丸のように撃ち出されたクラブパーゼストは、名雪達から離れた場所に落下、強く叩き付けられた。
そこに、近くのマンションの壁を蹴って、自身も弾丸と化したウルフパーゼストが着地する。

(……いける……!)

尚も立ち上がるが、最早体の安定さえままならないクラブパーゼストを見て、紫雲は勝利を確信した。
後はパーゼストを倒した際の『名残』の問題だが、それは倒した上で何処かに運べば問題ない。

そう判断し、ウルフパーゼストは爪を構えた。
その意志に応える様に、その爪が鋭さを増していく。

だが。

そこで……彼にとってまったく予想だにしていない事態が起こった。

辺りに、サイレンの音が鳴り響いた。

その音は近い……否、明らかにこちらに近付いている。

紫雲がそう認識し、振り向いた先に数台のパトカーが停車した。
そして、そこから警官達が飛び出してくる。

「パーゼスト、発見!!」
「これより、攻撃を開始します。発砲許可を!」
「発砲を許可!撃てっ!」
「?!!」

それは、紫雲の叫びか動揺か。

それさえ飲み込むような銃声が響き。

銃弾という名の槍が、二体のパーゼストに突き刺さった……!!







……続く。





次回予告。

憑依体特別対策班の銃弾。
その中に消えた紫雲。
そして、そんな状況の中、
全てを潰しかねない大きな歯車が確かに動き始めていた。

「……取引をしましょうか」



乞うご期待はご自由に……!





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