第六話 『敵』
そこは、少し薄暗い部屋だった。
作りとしては、病院の診察室に似ているだろうか。
だからなのか、そこに座る女性はかつての自分との違いに煩悶する事も少なくない。
だが、割り切らなければならない事も十分に承知していた。
だからこそ、目の前の仕事に集中する。
そんな集中の狭間の中、声が響いた。
「よ、聖先生」
女性・・・霧島聖は向き合っていた書類を置いて、いつの間にかそこに立っていた男の方に椅子を廻し、彼に向き直った。
男と言っても、まだ成人しているかしていないかぐらいの青年だ。
「折原君か。何の用だ?」
「何の用かはないだろ。上に言われて結果を聞きに来ただけだよ」
彼・・・折原浩平は言いながら、すぐ近くの椅子を引っ張り出して、座り込んだ。
「そうだったな」
答えながら机の上に置かれた資料の一つを取って、ざっと読みしながら、聖は言った。
「・・・君が実験に加わって一ヶ月が経っているが、君の身体に異常は見られない。
これからも診察は続けるが、おそらく適応者である事に間違いはないだろう」
「そっか」
「・・・嬉しそうだな」
「ああ、嬉しいさ。これで当面、あれは俺が所有する事になるからな」
そう呟く彼の表情は、自嘲めいてはいたが、彼が言う様な嬉しさも混じっていた。
「訳が分からない連中がうろついてるんだ。
条件付でも自衛の為の手段を持てるのが嬉しくないわけないだろ?」
「自衛か。彼女を守るのも自衛かな?」
「・・・ほっといてくれ」
その言葉に、浩平は顔を赤くさせた。
歳相応らしいその表情。
それゆえに辛い時もある。
「これからどうするようになってるんだ?」
「いつもどおりに生活しながら『連中』に遭遇した時にサンプルを取れだと。
流石に捕獲は現段階じゃ難しいからな。
んで診察のつど、あんたにそのデータを渡すように言われてる」
「そうか。大変じゃないか?」
「こんな穴倉に閉じ篭ってる方が余程大変だよ。
単なるデータ取りでも、いつもどおりの生活ができる分ありがたいさ。
大学にもいけるし・・・瑞佳に余計な心配をかけなくて済む」
「そうか。それから、君に伝えておく事がもう一つある」
「なんだ?」
「君にとっての敵はパーゼストだけじゃないことを忘れるなよ」
「・・・ああ、そうだったな。覚えておくさ」
そう言って、浩平は『診察室』を後にした。
残された聖は浩平を見送って、ふう、と息を吐いた。
そんな溜息にも慣れてしまっているので、再び作業に戻った。
それが自分がここにいられる条件である事を、彼女は知っていた。
「う・・・・・」
紫雲が目を開くとそこは、何処かの室内だった。
ベッドの上に毛布をかけられた上で寝かされていた。
部屋の作りには見覚えがある。
何回か訪れた祐一や名雪の部屋と同じ構造・・・恐らく寮内の部屋なのだろう。
駐輪場で倒れた事からその推測に間違いはないはずだ。
だが、見覚えはない。
少なくとも二人の部屋ではなかった。
そこから見える窓の外は暗いことから、倒れてそれなりに時間が経過しているらしかった。
おまけに、どうやら見知らぬ他人に迷惑をかけてしまったようだ。
「くそ・・・」
ゆっくりと身体を起こして呟く。
思うようにならない自分の身体が忌々しかった。
自分の中には適性因子が備わっている。
にもかかわらず、拒絶反応が起こるという矛盾。
・・・侵食型ベルト。
今はそう呼ばれている自分のベルト。
本来は祐一の持つベルト同様着脱式だった。
ベルト内のプログラムに欠損があったらしく、肉体との微細な繋がりを断てず、逆に肉体に取り込んでしまうこととなった。
そして、変身するたびに、紫雲の肉体構造を変化させていく。
痛みという名の拒絶反応は肉体構造の変化によるものか。
それとも、自分自身の欠陥なのか。
そんな思いを込めて腹部に手を伸ばす。
「・・・お腹が痛みますか?」
響いた声に顔を向ける。
そこに立っていたのは、思っていたような見知らぬ誰かではなかった。
「・・・遠野・・・さんだったかな」
「はい」
紫雲の言葉に彼女、遠野美凪は頷いた。
「・・・そこで倒れているのを見掛けましたので。
もう少し様子を見て、救急車を呼ぼうと思ってました」
「・・・そうか・・・・それは、必要ないよ。迷惑をかけて申し訳ない」
紫雲は深く頭を下げた。
「お体が弱いのですか?」
「う」
二度も倒れているところを見られていてはそう思われるのも当然だろう。
「いや、その・・・そういうわけじゃないんだけど・・・・たまに発作が出る時があって」
「・・・それは、お体が弱いというのでは?」
「ぐ。いや、まあ、そうともいうのかな」
指摘はごもっともだった。
見ようによっては重度の症例かもしれない。
自分の身体の事を客観的に見ると、どうにも情けないことに紫雲は内心で頭を抱えた。
ふと見ると、美凪が心配そうな表情でこちらを眺めていることに気付いたので、慌てて取り繕う。
「まあ、でも大丈夫だよ。ちゃんと病院には定期的に行ってるし」
データの定期的なチェックのついでだが。
「・・・ともかく、ありがとう。この借りは、前の分も含めて必ず返すから」
そう言いながら立ち上がる。
どう返すかは考えていないのだが、それはそれ。
紫雲がドアに向かって踏み出しかけた、その時だった。
「お邪魔しまーす」
そのドアが開いたそこには、今度こそ紫雲にとっては見知らぬ女性が立っていた。
長い茶色の髪をした女性は紫雲の姿を見て言った。
「あ、目を覚ましたんですね」
「・・・えっと・・・・?」
事態が計りかねて、紫雲が困惑気味に美凪の方を向いた。
「一人では部屋に運べないので、通りかかった彼女に手伝ってもらいました」
「あ、そうなんだ」
多少細身だが、一応成人男子である紫雲をこの部屋まで運ぶのは女性にとって容易ではないだろう。
誰かに手伝った事は想像に難くない・・・紫雲は今更ながら気付いた。
「はじめまして。遠野さんの隣に住んでいる長森瑞佳といいます」
彼女・・・長森瑞佳はそう言って、紫雲に笑いかけた。
『いつか、お前以上にそれを使えて、その資質とかがある奴が現れたら・・・・・ベルトは、そいつに譲れよ。
・・・・・今、俺がそうしたように』
数日前の北川の言葉。
それが祐一の頭に残っていて、彼は今聞いているはずの講義の内容を馬の耳に念仏状態で聞き流していた。
そうなった時。
自分はどうするのか。
「はあ・・・」
それを思うと溜息がこぼれてしまう。
「何、溜息ついてんのよ、あんたは」
そう話し掛けた七瀬に視線を向けずに祐一は言った。
「・・・講義中に話掛けんなよ」
「何言ってんのよ。講義はさっき終わったわよ」
「なに?」
気付いて顔を上げると、席を立っている人間が大多数だった。
「・・・いつのまに」
「だからさっきだって言ってるでしょうが。
どしたの、ぼーっとして」
「・・・なんでもない」
終わったなら終わったで、行くべきところがある。
この時間帯・・・昼時ならなおさらだ。
「んじゃ、学食に行くか・・・」
「あれ?あんた水瀬さんに弁当作ってもらってるんじゃなかったっけ?」
「今日は、ちょっとな」
名雪は、先日パーゼストに襲われた香里の見舞いに行っている。
見舞いといっても、入院しているわけではなく、自宅で自主休講しているだけだが。
それでも、精神的に参っているのは想像に難くない。
(・・・できれば行きたかったんだが)
そこには恐らく北川がいる。
そこで険悪・・・にはならなくてもそれなりの雰囲気になってしまったら、却って香里に悪い。
だから、祐一はあえて見舞いに行かなかったのである。
「ふーん・・・じゃ、一緒に行きましょうか」
「ああ」
(・・・少しは気がまぎれるかもしれないしな)
そう思いながら祐一は席を立ち、七瀬とともに学食に向かった。
大学内にある学食は、昼食時の学校が何処でもそうあるように、混雑し、盛況していた。
「やっぱり学食は混むわね」
「混まない学食はないだろ・・・っとあそこ開いてる」
お互いに昼食を買った二人は、辛うじて二つ分開いている席に向かった。
「すみません。ここ、いいですか?・・・って、草薙?」
「え?僕は構いませんけど・・・・・・・って、相沢君」
そこには、ここにいる筈のない草薙紫雲がいた。
その隣に美凪が、さらにその隣には瑞佳が座っていた。
・・・それからややあって、顔見知りということもあり、結局一同は同席する事になった。
「お前ここで何やってんだよ」
「・・・まあ、いろいろあるんだよ」
お互いの食事を進めながら、真正面にいる者同士で言葉を交わす。
双方共に何処かうんざりとした表情だった。
紫雲は数日前、長森瑞佳とも挨拶を交わした後、借りを返したい旨を二人に告げた。
プライドが高いわけではなく、ただ単純に申し訳なかったからだ。
一人ならまだしも二人の人間、しかも女性に迷惑をかけたというのも、それに拍車をかけていた。
二人は全然気にしていなかったのだが、そんな二人だからこそ、紫雲は申し訳なく思えて、どうしても何かがしたいと主張した。
・・・そういう融通の利かない部分が紫雲の長所でもあり短所でもある。
結局、その方法として瑞佳が提案し、美凪も了承したのが、昼食を奢るという事だったのである。
・・・まあ、瑞佳が紫雲を部外者・・・学生じゃない事を知らなかったからこその提案だったのだが。
そんな会話の横で、高校時代からの知り合いである長森瑞佳と七瀬留美は話していた。
「瑞佳・・・この人と知り合いだったの?」
「え?昨日知り合ったばかりだけど?」
この人・・・紫雲を指しての言葉に瑞佳は答えた。
「どうして知り合ったの?」
紫雲が『ライダー』である事を知っている七瀬としては、気になる事だった。
自分の友人が危ない目にあったのではないか・・・そんな危惧があったからだ。
「この人が寮の駐輪場で倒れてたから、顔見知りだって言う遠野さんの部屋に運んだだけだよ」
「・・・そういうことか。情けないな」
「・・・・・」
その言葉で大体の事情を悟った祐一の言葉に紫雲は肩をすぼめた。
反論できない以上、肩身が狭い事この上なかった。
それを見て、美凪が口を開いた。
「・・・お身体が弱いのは仕方がないのではないでしょうか」
「身体が弱い?そんなわけないじゃないの。だってこの人、怪人と戦ってるのよ」
ブボッ。
予想外な七瀬の言葉に、紫雲は口に含みかけていた水を噴き出してしまった。
「そんな人が身体弱くてどうするのよ。ねえ?」
「・・・・・いや、その・・・・・・」
禁句を言われて、紫雲はしばらくしどろもどろだった。
その紫雲を見て、首を傾げながら瑞佳は言った。
「怪人って・・・最近ワイドショーとかでよく言ってる?」
紫雲たちがパーゼストと呼ぶ『怪人』。
そして『それら』が起こしている事件。
それについての公式見解はまだ出ていない。
だが、推測はできた。
インターネットの個人サイトから、瑞佳が挙げたワイドショー番組まで。
皆こぞって、それらの事件について推測していた。
精神的に壊れてしまった者の猟奇殺人だとか。
大型の野犬の類が人を襲っているだとか。
その中でもっとも、噂になっているにもかかわらず、信憑性に欠けているのが化物・怪人説だった。
噂になるのは、多くの目撃者がいるから。
信憑性に欠けているのは、あまりに非現実的だから。
だが、瑞佳以外の、この場にいる者は知っていた。
それは信じがたいが、現実に存在しているということを。
「・・・怪人・・・・・あれは、なんなんでしょうか?」
「怪人は怪人だろ」
ポツリと呟いた美凪の言葉に、祐一は答えた。
それに七瀬が口を挟む。
「あのね、それじゃ身も蓋もないでしょうが」
一度『怪人』と遭遇した七瀬はその事がずっと気にかかっていた。
あれだけなら、いずれ風化していったかもしれない。
だが、ここ最近、似たような事件がじわじわと増えていた。
人間技とは思えない殺人事件。
その周辺での化物、怪人の目撃例。
バイクに乗った怪人たち。
それらの事件をメディアで触れる度に、あの時の事が思い出されてしまうのだ。
これでは忘れようとしても忘れる事はできない。
むしろ、少しは知っておかなければならないような、そんな気がしていた。
「あの時だけなら、ただの突然変異で無理に納得もできるわよ。
でもここの所、ずっと似た事が起こってる。どう考えても異常よ」
「・・・・・」
「相沢?」
「・・・・・・いや・・・・・・確かに、そうだな」
七瀬の言葉で祐一は気付かされた。
ベルトの事ばかり考えていて失念していたが・・・そもそも、パーゼストとはなんなのか、それを自分は知らなかった。
人間に憑依する存在・・・草薙命はそう語っていたが。
そもそもにして、何故憑依するのか。
どうして人間を殺すのか。
・・・それを知っていそうな人間が、この場にいた。
「ねえ、あんたは知らないの?」
七瀬が向けた紫雲への問い。
それは祐一の思っていた事そのままだった。
それを向けられた紫雲が、口を開きかけた時だった。
「何の話してんだよ?」
そんな声が彼らの少し上から降ってきた。
その声の主に視線が集中する。
その主を知る人間達・・・七瀬と瑞佳は、言った。
「折原っ」
「浩平っ」
彼、折原浩平は自分の名を呼んだ・・・その表情は対照的だったが・・・二人に軽く手を上げた。
「よ。おひさ」
「あんたね・・・・・人にバイト焚き付けておいて、何処に消えてたのよ!?」
彼の登場で、七瀬は今までの事が全て吹っ飛んでいた。
浩平が焚きつけたせいで、七瀬は恥ずかしい(と思っているのは七瀬だけ)格好のバイトをさせられ、そのせいでパーゼストに遭遇したのだ。
・・・もっとも、パーゼストのことは忘れ去っていたが。
その言葉に浩平は苦笑した。
「何処に消えてたって・・・一週間くらい旅行に行ってただけだって。
そんな事大学生にはよくあることだろうが」
「あんたね・・・」
「でも、出掛ける時は言ってくれればいいのに・・・」
「まあ、そう言うなよ。一人旅がしたい時だってあるんだ」
そう言って浩平は瑞佳の頭にポンポン、と手を置いた。
その時の瑞佳の表情で、その場にいる全員が二人の関係を悟った。
「で、こいつらは?」
その辺りにいる見慣れない人間を眺めて、浩平は言った。
「あたしの講義仲間の相沢。と、その知り合いたち」
「・・・・・・・知り合いたちで済まされちゃいましたとさ」
「う。いや、その・・・悪気はないのよ」
「うわー七瀬悪い奴だなー」
「浩平・・・」
「あんたって奴は・・・・・・・」
その騒ぎを、紫雲は苦笑交じりに眺めていた。
騒ぎにまぎれて、祐一は言った。
「・・・草薙」
「ん?」
「報告も兼ねて、食事の後でちょっと話がある」
「ベルトの問題については・・・まあ、解決した。ベルトは今俺の手元にある」
食事の後、祐一はそう言いながら背負っていたバッグを叩いた。
紫雲は祐一の様子からその事については解決しているのだろうと推測していたので、さして驚かなかった。
「そっか。それで話というのは?」
「パーゼストについてだ」
「・・・・・」
そう尋ねる祐一に紫雲は微かに表情を歪めた。
「俺が知ってるのは・・・
人間に憑依して身体を怪人に変貌させる事。
そうなると二度と戻れない事。
それぐらいしかない」
「・・・姉貴か」
その紫雲の言葉に祐一は頷いた。
「お前言ったよな。
俺達の『拳の重さ』の事を。
だったら、それを向ける相手の事だって知ってないといけないんじゃないのか?」
「・・・・・・・」
祐一の言葉は正しい。
数日前からの事を思うと、多少癪に障りはするが。
「だから聞く。いいな?」
「・・・ああ」
「これは一番最初に聞いておきたい。どうしてパーゼストは人間を殺して回るんだ?」
「・・・・・・・パーゼストが人間を殺すのは・・・彼らにとって、人間が敵対種だからだ」
「敵対種?」
「彼らにとって、因子を持たない知性体は敵でしかない。
だから、殺している」
「・・・・・・・因子、だと?」
因子。
それは聞き覚えのある言葉。
それは、変身するのに必要な・・・
「これ以上詳しく話す前に、この際だから君に言っておくことがある」
その混乱を遮るように、紫雲は再び口を開いた。
「僕らが拳を向けなければならない存在が・・・人間の敵がパーゼストだけだと思わない事だ」
「なに?」
「多分、状況を考慮すると、そろそろ・・・」
紫雲がそう言いかけた時だった。
情報の流れ。
悪意。敵意。
紫雲の言う、敵対種。
それが二人の脳裏を走った。
「・・・っ」
息を飲んで走り出そうとする紫雲。
その肩を祐一が掴んだ。
「何を・・・?」
「俺が行く。欠陥があるお前は補欠だ」
一瞬。
紫雲は思考し、決断した。
(・・・二度と見誤らない。ここは、彼に任せるべきだ)
「分かった。よろしく頼む」
「素直で助かるっ・・・!」
返事を半ば感じ取った祐一は、走り出した。
その背を見ながら紫雲は、ふう、と息を吐いた。
「欠陥か。・・・違いない」
その顔には自嘲めいた笑みが浮かんでいた。
同じ講義ということもあって、七瀬たちは揃って移動していた。
美凪は所属している同好会の用事があると言って、途中で別れていたが。
そして、そんな事に関係なく、食事の時の会話の延長で七瀬と浩平はいまだに言い合っていた。
もはや、当初の原因は忘れ去って、口論が口論を呼んでいる状況だったが。
「あんたの馬鹿は死ななきゃ治らないようね・・・」
「死んでも治らない自信があるな。・・・っ」
浩平の動きが止まる。
「浩平?」
「・・・・・・・・なるほど。この感覚か」
そう呟いて、浩平はニヤリと笑い、駆け出した。
「折原っ!あんた何処に行くのよ!!」
「トイレだ!」
振り向きもせず、大声で言って、浩平は走り去っていった。
大学の裏通り。
閑散としたその場所にそのパーゼスト・・・ワームパーゼストはいた。
『憑依』したばかりの『彼』は、明確な目標を求め、行動を起こそうと一歩踏み出した。
その背中に、響く声があった。
「・・・変身っ!!」
声の主・・・祐一は走りながら、すでに装着していたベルトに鍵を差し込み、廻した。
カチリ、と何かが噛み合った瞬間、黒と赤の閃光が祐一の身体を覆い、仮面ライダーカノンに変わる・・・・・!
カノンは軽く・・・それでも人間には不可能な高さ・・・・跳躍する。
パーゼストの背後を取って、反応する前の隙を突く。
それが祐一の考えだった。
「HYJUJUIIIJHGGYY・・・!」
ワームパーゼストは声と呼べない声を上げ、両手を空に掲げた。
次の瞬間、その「手」という機関がない両腕を通常の数倍以上に伸ばし、跳躍したカノンの身体に巻き付かせる。
そのため、一瞬、カノンの動きが空中で静止した。
「なに?!」
ワームパーゼストは、カノンを捉えたままで、コンクリートの地面に叩きつけた。
単純な落下の衝撃+パーゼストの腕力。
カノンの強化皮膚はこれに耐えることができたが、その内部への衝撃は十分にダメージとなる。
「ぐあああっ!」
「Hyujjnuuiikm・・・・・・・」
ワームパーゼストは、カノンを捉えたまま、自身の腕を振り上げる。
当然、カノンも空中に持ち上げられる。
そして、そのまま再び叩きつけられる・・・!
「って、そうは行くかって!」
カノンは空中で体勢を立て直し、今度は両足で着地した。
一回目は不意を突かれたが、同じ攻撃が来ると分かれば、対抗策はいくらでもある。
それは前回も学んでいた事だった。
「juuuuuuuuhnh?!」
「ぐ・・・・・はあっ!!」
いつも拳や脚部のみに集中させるエネルギーを両腕に分散、再集中し、カノンは自らに巻き付いたワームパーゼストの腕を断ち切った。
緑色の体液が辺りに散らばる。
「hujujuhvtyyuuuuu・・・・・・・・・・!」
その様を見てか、単純にその痛みからか、ワームパーゼストはカノンに背を向け、駆け出した。
「ち・・・逃げるか・・・?!」
カノンは慌ててそれを追いかける。
それを察知したワームパーゼストは傷ついた両腕を躊躇うことなく、再び伸ばした。
しかし、それはカノンにではない。
自分が走る前方方向に長く伸ばし、その地点の地面に固定させた上で一気に収縮、距離を稼いだのである。
「・・・くそ、意外に頭が回る・・・・!!」
それが本能か、知能かは判断がつかないが、ともかくワームパーゼストはカノンから遠く離れて、路地裏に消えていった。
「・・・・・・・」
ワームパーゼストはひたすら逃亡した。
それが刷り込まれたプログラムだからということは、パーゼスト自身理解していない。
・・・・・そんなワームパーゼストに。
「よう、そんなに急いで何処に行くんだ?」
一人の男が立ち塞がった。
その腰には、祐一がしているものと同じ・・・ベルトがあった。
「・・・ん?もうダメージを受けてるのか。
ふむ・・・・・・・捕獲できそうではあるが・・・・・・」
「hujnttfdhiikjmk!」
ワームパーゼストは立ち止まらない。
それが彼のプログラムの判断だった。
男を殺して、この現場を離れるべく、さらに加速した。
「やっぱ、めんどくさいな」
言いながら、男・・・浩平は鍵を取り出した。
透明な色の宝玉がはまっている、その鍵を。
「・・・変身」
カチリ。
その音が、パーゼストの耳に聞こえた。
そして知る。
プログラムの判断がミスであった事を。
白と黒。
二つのコントラストが虚空に走りながら浩平の身体を包み込む。
刹那の後。
そこに仮面の戦士が立っていた。
浩平は、その姿の事をイメージのままこう名付けていた。
仮面ライダーアームズ、と。
「・・・というわけで。お前は消えろ」
呟いて、右手を突き出した。
次の瞬間、右腕の肘から下の部分が、手はそのままに『変形』した。
それは、リボルバーの弾倉の形の様に。
あるいは、ガトリングガンの射出口の様に。
そして、そのイメージどおりに『そこ』から白いエネルギー弾が連続射出された。
それらは全て的確に頭部と腹部、その周辺を抉り取った。
「!!!!!」
あまりにも一方的なその攻撃の前に、ワームパーゼストは叫ぶ間も無く絶命し・・・爆発した。
赤い炎が辺りに撒き散らされる。
「いけね。近距離戦で仕留めろって言われてたっけ。・・・ま、やっちまったから仕方ないか。
・・・・・ん?」
炎の向こう。
人の気配を感じて、『眼』をこらす。
そこには、自分によく似た感じの・・・仮面の存在が爆発を見て立ち尽くしていた。
(いや、違うな・・・)
爆発ではない。
『それ』は自分を見ている・・・浩平はそう感じた。
『それ』が『仮面ライダーカノン』と名乗っている事を。
浩平は、『仮面ライダーアームズ』は知らない。
これが。
二人の『ライダー』、初めての交錯だった・・・・・
・・・続く。
次回予告。
現れた仮面ライダーアームズ。
彼の存在により波紋が広がる中。
ベルトの力、その一端が発動する・・・!
「対パーゼストアンチプログラム。
それが『ライダー』なんだ」
乞うご期待は、ご自由に!
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