第二話 戦う男
人通りの少ない、路地の一角にその工場はあった。
いや、それは正確ではない。
工場だった建物だ。
不況の煽りを食って、倒産した工場。
人に打ち捨てられたその場所は、暗く、物悲しかった。
轟音が響く。
それと共に、一台のバイクがその工場の中に入っていく。
黒い、バイク。
それから一人の男が降り立つ。
男はバイクにポン、と手を置いて呟いた。
「ご苦労さん、相棒。・・・・・・・ぐぅうううっ!」
男は腹から全身に派生した痛みに苦悶の表情を浮かべた。
その痛みは代償だった。
人が人を超えるための。
それがわかっているから、男はこの苦痛を苦痛とは思わないようにしていた。
これ以上の苦痛を、これからもきっとこの身体は刻んでいく。
だから、こんな”必ず来る痛み”になんか負けられなかった。
錆付いた機械に寄りかかって、男は座り込んだ。
そうやって眠りにつこうとしたが・・・できなかった。
「・・・姉貴。いつまでもそこで眺めてないで何か言ったらどうだ?用事があるんだろ?」
工場に入ったときから感じていた気配に向けて、男・・・草薙紫雲は呟いた。
その声に誘われて、影の向こうから一人の女性が姿を現した。
長くも短くもない髪を掻き毟りながら、その白衣の女性・・・草薙命は言った。
「用事はお前が睡眠をとった後にしてやろうという、姉の心遣いを無駄にするのか?」
「なら、さっさと帰って出直せばいいだろうが・・・その気もないくせにそういう事を言うなよ」
「ああ、そうだな。悪い」
その言葉を受けて、紫雲は呆れと笑いを入り混じった表情を浮かべた。
ずっと続く痛みを堪えながら。
「で、用事って?」
「”ベルト”の所在がわかった。一つだけだがな」
「・・・分かった。んで、それは何処に?」
「・・・」
姉の口から語られたその”場所”に紫雲は目を瞬かせ、その表情に驚きを表現させた。
「・・・」
「・・・」
帰り道、祐一と名雪は無言だった。
辺りの夕闇が直結しているかのような重さと暗さがそこにあった。
それは当たり前だろう。
彼らは数時間前、命の危険に晒された。
しかも、それは彼らの常識の外で展開されたものだった。
フィクションの様な怪物。
それはまさに怪物だった。
人の力など物ともしない、堅牢な皮膚。
圧倒的な力。
そして。
それすら凌駕する”仮面ライダー”。
しかも、それは自分たちの顔見知りで。
「あ!あんたら大丈夫やったか?!・・・大丈夫・・・みたいやな」
寮の敷地内に入った瞬間、そんな声が二人にかかった。
振り向くと、そこには管理人の神尾晴子が立っていた。
晴子は心配げに二人の全身を見やっていたが、怪我などがないのを見て取ると安堵の息を吐いた。
「え?」
「何が、ですか?」
二人はそれぞれに疑問符が浮かび上がっていそうな表情になった。
晴子はそんな二人を見比べてから言った。
「なんか大事故だとかでTVで大騒ぎしとったから・・・なんか、怪物が出たとかそんなデマも飛んでるみたいやし・・・」
「・・・・・」
「・・・デマ、じゃないですよ」
「え?」
聞き返す晴子をおいて、二人はその場を去っていく。
「え?なんかあったんか・・・?」
「すみません、今あんまり話す気になれなくて・・・」
「失礼、します」
沈んだ様子の二人にこれ以上声を翔けることもできず、晴子はその場にただ立ち尽くすしかできなかった。
「・・・大丈夫か?」
名雪の部屋の前、祐一は少し躊躇いがちに言った。
名雪は少し俯いていたが、割とはっきりとした声で答えた。
「うん。もう・・・落ち着いたから」
「そっか・・・」
「・・・・・」
「・・・・・」
「ねえ、祐一。・・・私、草薙君に悪いことしたのかな・・・」
「わからねーよ。俺だって・・・」
人を殺した怪人。
その怪人を情け容赦なく、あっさりと殺した、かつてのクラスメート。
その、姿は。
「俺だって、怖かった・・・」
「・・・・・・・・・私・・・」
微かに呟いて名雪はぎゅっと手を握り締めた。
その様子を見て、祐一は両腕でその手を包み込んだ。
「祐一・・・?」
「・・・忘れろ、もう。あれは違う世界の事だ。忘れたって草薙も怒りはしないさ。
忘れた分は俺が背負ってやるから」
「でも・・・」
「それでも駄目なら、また会ったときにでも草薙に謝ればいだろ?」
会う事はおそらくないだろう、そう思いながらも祐一は言った。
少なくともそう思えば心の負担は減る、そう思ったから言っただけだった。
その祐一の思惑通りと言うべきか、名雪は微かに顔をあげて、静かに頷いた。
「・・・うん。そうだよね・・・今度、会ったら謝るよ・・・」
「ああ、そうしろ」
「ありがと、祐一。それじゃ・・・おやすみ」
「ああ」
名雪が部屋に入るのを見届けて、祐一もまた部屋に戻った。
「・・・ふ、う・・・・」
座り込んで靴を脱ぎ、部屋に上がる。
その瞬間、目に”それ”が入った。
「・・・・・」
一旦はそれを無視して中に入る。
だが結局できず”それ”を抱えて、中に入りなおした。
”それ”を部屋の真ん中に置いて、もう一度中のものを取り出した。
「なんなんだよ、これ・・・これで何しろって言うんだよ・・・・」
”仮面ライダー”・・・いや、仮面ライダーエグザイルになった草薙の腹部に収まっていたベルト。
おそらくはそれと同じモノが、そこにはあった。
何故母はこんなものを送って来たのか。
どうして、どうやって手に入れたのか。
言い様のない感情、感覚が湧き上がる。
・・・その時だった。
「ん?」
丸めた紙やら何やらに埋もれたその奥に茶色の封筒があった。
取り出すと、その表にボールペンでこう書かれていた。
『祐一へ。両親・・・主に母より』
極めて簡潔に書かれたその中身を探ると、一枚の手紙が入っていた。
それを広げて流し読みしてみる。
『祐一、元気にしてる?
名雪ちゃんとは仲良くしてる?
まあ、それはともかく、今回の荷物について。
それについて信じるか信じられないかは問題じゃない。
私が言っているのは事実でしかないから。
それが手に入った経緯なんかは今話せないけど、多分それが送られて来る頃、何かが起きてるんじゃないかなと思う。
今回の荷物は、その何かに対応できるもの。
それは平たく言えば、あんたの中にあるモノを目覚めさせるもの。
使えばあんたは人間を超えた力を得られるはず。
でも、それはあんたの運命を捻じ曲げる。
その力を知れば、あんたの周りの人間たちはその力をきっと放っておかない。
あんたを担ぎ上げるか、その力を奪おうとすると思う。
でも、この力を上手く使うなら、それはあんたを、あんたの大切な人たちを守る力になる。
そうできないのなら、処分するなり何処かの研究所に持ち込むなりしてもいい。
その箱に入れておけばそれに近寄る奴はいないはずだから。
ある意味、そうする事が一番いいのかもしれない。
何でそんなモノを送り付けたのかって?
まあ、それは親馬鹿な気持ち。
あんたなら、これを上手く使えるんじゃないかって思ったからよ。
でも、これをどうするかはあんたの自由。
あんたが一番いいと思える道を選びなさい。
んじゃ、また。
親よりも先に死ぬような親不孝だけはしないように。
母より。
強く生きろ、馬鹿息子。
父より』
「・・・なんだよ、そりゃ」
祐一は呟いて、寝転がった。
そんな風に書かれてしまっては、両親のせいにはできない。
これからのことは自分自身で決めていかなくてはならない。
・・・冷静に考えてみた。
このベルトは”力”を与えると言う。
それは多分”変身”の力。
人が人を超える力。
化物・・・”怪人”と戦える力。
でも、その力は・・・多分、後戻りができない。
同じベルトをつけた草薙紫雲の姿を思い出す。
彼のベルトは彼の中から”生み出されて”いた。
そのベルトを装着した時から、それは使い手を”侵食”するのかもしれない。
そう思った瞬間、祐一の背中を冷たいものが通り抜けた。
自分に巣食う”異物”。
それは後々どんな影響をつけたものに及ぼすのか、全く予想できない。
もしかしたら、最後には本当の怪物になってしまうのではないだろうか。
自分の親がそんなモノを送りつけてくるとは思わない。
だが、いかに彼らでも、そのベルトの全てを知っているはずはない。
こんな技術が世界中に広まっているとは思えないからだ。
これは明らかに、今の人類の文明とはベクトルを別にするものだ。
だから、これをつけてどうなってしまうかなんて予想できるはずがない。
いくら”力”が手に入るとは言え、そんなものをつける事ができる人間が一体どれほどいるだろうか?
怪人だって、もしかしたらあの一体だけなのかもしれない。
それに対し、一生を背負うにはあまりにもハイリスクだ。
「・・・でも、あいつは」
草薙紫雲はベルトをつけて戦っていた。
偶然”そう”なってしまったのなら、戦わずに逃げればいい。
でも、紫雲は戦った。
迷う事無く変身して、迷う事無く怪人を倒した。
なら自分はどうするべきなのだろう。
紫雲が戦うのなら、自分は必要ないのかもしれない。
でも、それは逃げではないだろうか・・・
そんな風に色々と考え込んでいるうちに。
疲れからか、睡魔に襲われた祐一は、自分でも気付かないうちに眠りに落ちていった・・・
一夜明けると。
新聞の一面に”その”記事が載っていた。
朝からTVの内容も”それ”一色だった。
その事に、彼女・・・七瀬留美は自宅で微かに顔をしかめながら、コーヒーを啜った。
『都内で原因不明の爆発事故』
『各地に不可思議な死者』
『怪物現る?』
新聞にしてもTVにしても、伝えるのは概ねそれらのことだった。
七瀬はそれらの真実を少しは知っていた。
少なくとも、TVの中で自慢げに推測を語る自称研究家たちよりも。
本来なら、警察にでも出頭して事実を全て話すべきなのだろう。
だが、それをする気にはなれなかった。
警察はあんな突拍子もない”真実”なんか信じないだろう。
それに、あの”カメンライダー”が相沢祐一たちの知り合いなら、そうすることは密告のようで気分が乗らなかった。
『いまだ事実確認は取れていませんが、怪物の姿を見たという証言もあるとの事です』
『くだらない。単なる見間違いでしょう』
TVの中の人間たちは、その後も自分達の意見を並べ立てていたが、七瀬はそれ以上興味を持てなかった。
「・・・ふん・・・」
それを見て、自分達を助けてくれた存在に恐れを感じた事をなんとなく思い出した七瀬は不機嫌そうな息を洩らし、読んでいた新聞をその辺に放り投げた。
つくづく自分は乙女には遠い・・・そんな事を思いながら。
七瀬が読んでいたその新聞を同じ様に読む者がいた。
彼女はそれを読み終わると、下駄箱の上にそれを置いて、外に出た。
「お。おはようさん」
外に出た瞬間、その挨拶が耳に入ったので、彼女・・・遠野美凪はゆっくりと振り返った。
そこには、この学生寮の管理人である神尾晴子が立っていた。
「おはようございます」
美凪はそう言って深々と頭を下げた。
かつて神尾という名字のクラスメートがいた事を思い出しながら。
「今日は昼から出るんじゃなかったん?」
「そうですが・・・今日は掃除当番の日なので」
「あ、そうやったな」
この学生寮は周辺の掃除を当番制にしている。
本来なら管理人の仕事か、業者に頼むものなのだが、数年前から学生達の精神育成のためと言う名目から、そうなっていた。
そんなもので精神育成はできないだろう、というのがここに住む大半の学生の意見だが、それをやらないものは寮を追い出されるので、皆不精不精それに従っていた。
そんな中で、美凪は不平の顔一つせずに掃除を行う稀有な存在だった。
「では失礼します」
「頑張りや」
何処となく優雅な物腰でそう告げて、美凪は去っていった。
階下に降りた美凪は、物置から竹箒を出そうと、静々とした足取りで塀に囲まれた寮の庭を歩いていった。
と、そこに。
「あ、すみません」
「・・・?」
今日は呼び掛けられる事が多い日だ、と思いながら美凪は声のした方を見た。
そこには眼鏡を掛けた穏やかそうな顔付きの青年が立っていた。
美凪は物置に向かっていた足を青年の方に向き直し、問うた。
「はい、なんでしょうか?」
「この寮に相沢祐一という人が住んでいると聞いたんですけど、ご存知ですか?」
「・・・?」
美凪が不思議そうな表情を浮かべるのを見て、青年は慌てて言った。
「あ、僕は相沢君の友人で、彼に用事があってきたのであって、決して怪しい人物ではないですよ」
顔を紅潮させて必死にそう言う姿を見て、美凪は微かに微笑んだ。
この青年は悪い人間ではない。
そのぐらい、見れば分かる。
「・・・相沢さんなら知っています」
同じ日にこの寮に入った、いつも隣の部屋の女性と一緒にいる青年の事は印象に残っていた。
美凪は祐一の事を思い返しながら、祐一の部屋の場所を告げた。
「一応、管理人の方にお話を通してからお入りになったほうがいいと思われます」
「そうですか。ご親切にありがとうございました。それでは」
深々と頭を下げたその青年は、なんというか真っ直ぐな足取りでその場を去っていった。
美凪はそれを見届けてから、目的の物置へと再び足を向けた。
・・・この先、自分がその青年と何度も遭遇する事を、知る由もなく。
「む・・・」
祐一は辺りに漂う香ばしい匂いで目を覚ました。
どうやら昨日あのまま寝てしまったらしいと気付く。
そんな自分の上に毛布が被せられていた。
誰がやったのかはすぐに見当がついた。
「あ、祐一、起きたー?」
「・・・おはよう、名雪」
エプロンをつけた名雪は、祐一が起きた事に気付くとその顔に微笑を浮かべた。
名雪はこの部屋の合鍵を持っている。
祐一もまた名雪の部屋の合鍵を持っている。
入居して数日後にお互いに交換したのだ。
それを使って名雪は時々だが朝飯や夕飯を作りにやってきたりしていた。
祐一はボーッとした頭で辺りを見回した。
昨日出しっ放しにしておいた”ベルト”も、やや適当ではあるが箱の中に片付けられていた。
その事に礼を言おうと、祐一が口を開き掛けた時だった。
ピンポーン、とスタンダートなチャイムの音が鳴り響いた。
「ん・・・」
祐一はバッと立ち上がって玄関先に向かった。
名雪が調理中だからというのもあるが、こんな所を見ず知らずの誰かに見られるのが嫌だったからでもある。
それにしても、朝と言うには少し遅めの時刻だが・・・何かの勧誘だろうか?
いや、そう言う類の人間は晴子が通さないだろう。
そんなことを思いながら、祐一はドアを開きながら言った。
「どちらさま・・・って、お前・・・・・」
「おはよう。少し、話したい事があってきたんだけど・・・時間は空いてるかな?」
そこに立っていたのは。
もう、会う事はないと思っていた人物で。
ある意味、昨日からの悩みの種だった。
「・・・ああ。とりあえず、入れよ」
「すまない」
そう言って頭を下げてから、彼・・・草薙紫雲は部屋の中に入っていった。
「♪〜」
鯛焼きを手に鼻歌を歌いながら歩く少女がいた。
彼女の名は月宮あゆ。
相沢祐一の幼馴染である。
彼女はある事情から7年間の昏睡状態にあり、一年前、その状況から解放された。
その後色々あって、現在は北の町を離れ、親元でリハビリの後、都内の高校に通っていた。
今日は学校行事の影響から三時限目で授業が終わり、おまけにこの時期も続けている鯛焼き屋を発見したこともあって、ご機嫌だった。
だから、なのか。
彼女は気付かなかった。
自分の後をつける、虚ろな目の男の存在に。
そして、その肩に乗る蟷螂の存在に。
「・・・あの、コーヒー、飲む、かな?」
名雪はおずおずと紫雲に尋ねた。
紫雲はそれに笑顔を向けて言った。
「ありがとう、水瀬さん。それじゃ遠慮なくいただくよ」
「あ、うん」
「昨日は怖い思いをさせてごめん」
「う、ううん・・・あの、私こそ・・・・」
名雪がそう言い淀むと、紫雲はそれだけで何を言おうとしているのかを察したようだった。
「気にしないでいいよ。怖いのは、当たり前だから」
「・・・ごめん、なさい」
お盆を抱え、申し訳無さそうにする名雪に、祐一は言った。
「草薙が気にするなっていってるんだから気にするなよ。そうだろ?」
「ああ、相沢君の言う通りだから」
二人にそう言われると名雪もようやく納得できたらしく、微かに笑顔を浮かばせた。
「・・・ありがと。それじゃ私コーヒーを注いでくるから」
「ああ、頼む」
名雪は頷いて、軽い足取りで台所に向かった。
その様子を二人はそれぞれの笑顔で眺めていた。
「水瀬さんは相変わらずいい人だね」
「ああ、そうだな」
普通、謝ると決めても、あれだけのことがあったら素直に謝る事は難しいだろう。
それができる名雪に、二人はそれぞれ淡い感銘を覚えた。
「君もね」
「俺は違うさ。単に名雪が困ってたから助け舟を出しただけだ。・・・それで、用事って?」
祐一の言葉に、笑顔だった紫雲の表情が引き締まる。
「わかった。本題に入らせてもらう。君たちの朝食タイムを邪魔するのは忍びないし」
「・・・いいからさっさと話せ」
「うん。じゃあ、その前に一つ尋ねよう。
君の所に奇妙な形をしたベルトが届いていなかったか?」
祐一の表情が微かに驚きに彩られた。
「それ関連の事じゃないかとは思ったけど・・・まさか知っていたとはな」
「・・・やはり、あるのか」
そう呟いた紫雲は浮かない表情になった。
「今日、ここに来たのはそのベルトについての事だ」
「・・・」
「相沢君、できればそのベルトを僕に渡してくれないか?」
その紫雲の言葉に、祐一は驚かなかった。
そう言われるか、あるいは・・・
「俺はまたてっきり、そのベルトで戦えとか言われるのかと思ったよ」
「・・・そんな事を言うつもりはない」
その瞬間、紫雲の表情が厳しいものに変化した。
祐一はその変化に気圧された。
自分が知る草薙紫雲という男はお人好しで、こんな表情など一度たりとてしたことはなかった。
「”俺”がいる限り、他の誰にも戦わせるつもりなんかない」
「・・・それじゃ、ベルトはどうするんだ・・・?!」
「誰も使えないように封印するか、破壊する」
そう呟いた紫雲の拳は、力強く握り締められていた。
「・・・あんな力は本当は要らない。
だが、今は必要だから”俺”が使う。
そして、他の誰も必要とさせない・・・」
「・・・」
そこに草薙紫雲はいても、かつてのクラスメートはいなかった。
そこには、何かの決意を内に秘めた、戦う男がいるだけだった。
「約束するよ、相沢君。
ベルトを悪用するつもりもなければ、させるつもりもない。
ベルトの役割は僕が果たしてみせる。
必ずだ。
だから、ベルトを、僕に委ねてはくれないか・・・・・?」
紫雲の声が、静かに部屋を通り抜けた。
その時だった。
「・・・っ!」
ガタッと音を立てて、いきなり紫雲が立ち上がった。
「草薙・・・?」
「ごめん、返事を聞くのはまた今度だ。行かなくちゃならない。
水瀬さん、コーヒー飲めずにごめん。それじゃ」
紫雲は台所に立つ名雪にそう言うと、祐一に背を向けて刹那の間に部屋から出て行った。
誰にも、何も言う事を許さない、疾風の速さで。
「おい!!」
すぐさま祐一はその後を追って外に飛び出した。
だが、そこには誰もいなかった。
ただ、寮の駐車場から轟音が響き、黒いバイクが何処かへと走り去っていく姿が見えただけだった。
「・・・・・・・・くそっ!」
何故かは分からない。
それでも、祐一はそう叫ばずにはいられなかった。
「ゆ、祐一!」
その名雪の声は普段の穏やかな口調を感じさせないものだった。
それを不安に思った祐一は、一回バイクが去っていった方角を見やってから、部屋に戻った。
「どうした・・・?」
「こ、これ・・・」
名雪が指したものを、祐一は凝視した。
ベルトが入った箱。
その頂に無造作に置かれた、赤い宝玉が埋め込まれた鍵。
その、宝玉が。
淡い光を放っていた。
黒いヘルメットの中で、紫雲はただ前を見据えていた。
自分の脳裏に流れ込んでくるビジョン。
”怪人”が人を襲う際に流れ出る、特殊な脳波。
それが自分を導く。
だが、これでは人を護れない。
もっと速く。
もっと速く。
もっと速く!
その念が最高点まで高まった瞬間、彼の腹部に浮かび上がる。
それは、紫色の宝玉のついた鍵・・・”KEY OF JUSTICE”。
そして、それが刺さったベルト。
紫雲は右手を一瞬ハンドルから離し、”鍵”をベルトに埋め込んだ。
そして、呟く。
自分の支えとなる言葉。呪文を。
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・変身!」
ベルトから紫と黒の、光る帯が広がる。
それは紫雲とバイクを包み込むと、その姿を変貌させた。
仮面ライダーエグザイル。
そして、その乗機、シュバルツアイゼン。
”追放者”を乗せた鉄機は、常軌を逸したスピードであらゆるものを潜り抜けていった。
そして”そこ”に到達する。
緑色の異形の体。
その腕には、腕と呼べるものはなく、代わりに巨大な鎌が備え付けられていた。
蟷螂。
紫雲・・・エグザイルは素直にそう思った。
その蟷螂の怪人は、その腕を所在なげにぶら下げていた。
そして、その標的は、その前に座り込む少女。
赤いカチューシャをした、女の子。
(・・・・・・・・・させるか!!)
心で吼えて、エグザイルはシュバルツアイゼンのスピードを全開にする。
怪人はその事に気付いたが、既に遅い。
気付いた時には、シュバルツアイゼンの前面部が接触し、怪人の胴体を跳ね飛ばしていた。
鈍い音と、体液を撒き散らして、怪人は宙に弾き飛ばされ、地面に叩きつけられた。
エグザイルはその事などどうでもよかった。
すぐ横下に座り込んでいる少女の安否が気がかりだった。
バイクから降り立ち、少女に呼びかける。
「大丈夫?怪我はない?」
「え、あ、うん・・・ボクは平気・・・」
「よかった」
そう呟いてエグザイルは”笑った”。
彼の仮面は表情を浮かべる事はできない。
できたとしても、それは異形の笑みだろう。
だが、少女は・・・月宮あゆは、目の前の存在が自分の無事を喜んでいる事を感じ取った。
だから素直に礼を呟いた。
「ありがとうっ」
「・・・嬉しいけど・・・礼を言われるにはまだ早いかな」
怪人が起き上がる気配を感じ取って、エグザイルは言った。
あゆが息を飲む。
その視線の向こうには、緑色の体液を流しながら立ち上がる、不気味な怪人の姿があった。
「hyjjyujhgyjikiuhgfytffgg!!!!!」
その叫びに怒りと混乱を乗せて、怪人が”動く”。
だが、すでに全てが決していた。
「・・・・・・・・・はあああああっ!!」
目の前の存在を”断ち切る”べく、エグザイルは大地を蹴って空へと舞い上がった・・・!!
「・・・消えた」
鍵の宝玉の光が消失したのを見て、祐一は呟いた。
いきなりいなくなった紫雲。
それとほぼ同時に光り出した宝玉。
それらを複合して考えると、答は一つしか出なかった。
この”鍵”は敵の存在を感知する事ができるのだ。
それを体内に持つと思われる紫雲もそれは同様なのだろう。
不思議な感慨とともに、祐一がその鍵を拾い上げた・・・その時。
「・・・っ!?」
「あっ!?」
先ほどの淡い光とはうって変わった、強い光が宝玉から溢れた。
鍵を持った祐一の脳裏に”情報”が流れ込む。
それは何かが人を襲う害意。
いや、厳密に言えば、それは持つモノと持たないモノの。
「・・・」
今の祐一には”それ”が分かった。
怪人・・・が、近くにいる。
そして、誰かを襲おうとしている。
(・・・草薙がいるじゃないか)
その事がすぐに頭に浮かんだ。
だが、紫雲が向かったのは、おそらくここから離れた場所。
いくらバイクがあり、いくら急いでとしても、間に合う可能性は。
「・・・・・・・っ」
誰かが、死ぬ。
そう思った瞬間。
甦る記憶があった。
七年前、一人の少女が木から落ちて、生死の境を彷徨った事。
一年前、自分の良く知る者たちが命の危機にあった事。
そして、昨日。
理不尽な力の前に殺されかけた知人、自分、そして。
「・・・・・・・・・・・・・名雪」
祐一は、確認するように呟いて。
ゆっくりと立ち上がった。
その手には、赤く輝く鍵が握られていた。
「・・・・・?」
遠野美凪は何かが流れてくるのを感じ取っていた。
それは声。
何かの・・・叫びが聞こえてきた。
普通なら、気のせいだと、あるいは自分には関係のない事だと流してしまうもの。
しかし、遠野美凪は普通ではなかった。
普通よりも優しい、そんな少女だった。
箒を壁に立て掛けて、美凪はその声がしたとおぼしき所に走っていった。
寮を出て、裏通りをしばらく走っていく。
そこからさらに裏の角を曲がろうとした時だった。
その角から、いきなり人が飛び出した。
美凪はその突然の事に反応できず、その男とぶつかってしまった。
だが、その男は何の声も上げず、美凪に寄りかかった。
「あの・・・どうかなされ・・・?」
そう呟いた時、手に何かの感触を感じた。
不審に思いながらも自分の手を見て、美凪は息を飲んだ。
それは男の血。
「・・・っ・・・?!すぐに、病院に・・・」
「・・・・・・・・・・・・逃げ・・・・・・・」
男はそう言って完全に力を失った。
美凪はそれを支えきれず、男と一緒に地面にうずくまってしまった。
あまりにも突然の出来事に、美凪は一瞬混乱して、何もできずにいた。
だが、ぶんぶんと首を横に振って、なんとかこの男を助けようと最近買ったばかりの携帯電話を取り出そうとした。
その、美凪に。
影が覆い被さった。
何の考えもなく反射的に、美凪はその影の主を見上げた。
そこに立っていたものは彼女の想像を超えたものだった。
大きな黒い翼。
まず最初に目に入ったのはそれだった。
その翼には、腕が同化していた。
頭部には大きな耳を生やし、鋭い牙を口内から伸ばしていた。
それを見て、美凪は一言、洩らした。
「・・・蝙蝠、人間?」
そう呼ぶに相応しい”怪人”は翼を・・・否、腕を振り上げた。
血が付いたその腕を見て、美凪は男が言おうとした言葉に思い当たった。
”逃げろ”
だが、それはもう間に合わない。
美凪は諦めて、目を瞑った。
だが、美凪が思ったような結末にはならなかった。
「うおおおおおおおお!!!」
その声に美凪が目を開くと、そこには怪人に向かって金属バットをスイングする青年がいた。
その肩に何かをぶら下げているが・・・その顔には見覚えがある。
今日、あの青年が尋ねてきた・・・相沢祐一だ。
「喰らえええええっ!!」
しかし、渾身の力を込めて降り抜かれたであろうバットはその蝙蝠怪人の羽によっていとも簡単に防がれた。
逆に、その翼の一振りで祐一は地面に転がる。
だが、そうなる事が分かっていたのか、祐一は受身とは呼べないが上手い体勢で転がり、素早く起き上がった。
「ち・・・。おい!早く逃げろ!その男は俺がなんとかするから!」
祐一の言葉に、美凪はハッとして、男の様子を診た。
その表情が、絶望に変わる。
「・・・この方は、もう・・・」
その男は、もう息をしていなかった。
もう心臓も止まっていた。
蘇生する見込みは、限りなくゼロだった。
「・・・そうか・・・って、ち!」
怪人は祐一の方に狙いを定めたのか、力任せに襲い掛かっていく。
祐一はそれをバッドで牽制にならない牽制を行いながら、その攻撃から上手く逃れていた。
攻撃を避けながら、祐一は叫んだ。
「なら、あんただけでも逃げてくれ!」
「ですが、あなたは・・・?!」
「あんたが逃げたらすぐに逃げるさ。でも、あんたが逃げないと俺は逃げない。意味は分かるな?」
多分言った通りの事しか、この青年はやらない。
直感的に美凪はそう感じ取っていた。
なら戸惑うのは誰にとっても損でしかない。
「・・・分かりました。あなたもすぐに逃げてくださいね」
「ああ」
祐一が頷くのを見て、美凪は自分に寄りかかる男に心の内で謝罪してから、男を地面に倒して駆け出した。
走り去っていく背中を見て、祐一は安堵した。
確か、同じ寮に住んでいる女の子だったはずだ。
丁寧に掃除をしているのを、いつか見たことがある。
祐一は油断なく蝙蝠の怪人を見据えながら、その向こうに倒れている男を見た。
死んでいる。
もう少し遅かったら、あれにもう一人重なっていたのかもしれない。
しかも、自分の知っている人間が。
そして、それだけではきっと終わらないだろう。
次は何処へ行く?
この近くの住宅街か?
人がいる繁華街か?
それとも、自分達が住んでいる、寮か?
(それで晴子さんを、さっきの子を、俺を、名雪を殺すのか?)
あの怪人が、怪人たちが何を思っているのかなんて分からない。
ただ、怪人は人を、人間を殺していると言う事実があるだけだ。
それを目の当たりにして、自分は何も思わないのか?思えないのか?
・・・そんなこと、あるはずがないじゃないか。
(そうだよな、草薙)
肩に掛けたベルトを、グッと握る手に汗が滲んだ。
(今なら、分かるよ。
お前昔と変わってなかった。
お人好しのままだよ、お前。
お前は誰かが傷つくのを見たくなかったんだろ?誰かが苦しむのを見たくなかったんだろ?
それよりも自分が苦しむ方がマシだって)
「・・・そう思ったんだろ、草薙っ」
祐一はバットをかなぐり捨てて、肩に引っ掛けていたベルトを腰に巻きつけた。
誰かを護れない自分。
名雪を護れなかった自分。
消えていく命。
戻らない命。
それを直視できるほどに、自分は強くない。
だから強くなる。
”仮面”をつけて強くなる。
直視できる強さではなく、誰かにそれを直視させない強さを得るために。
祐一はポケットから”鍵”を取り出し、それを怪人にビシッと突きつけた。
その鍵は太陽の光を受けて輝く。
「変身ッ!!!」
鍵を差し込み、廻す。
カチリ。
そんな音が確かに祐一の中に響いた。
何かの歯車が動き始めるような感覚。
宝玉がベルトの中心に収まった。
その宝玉から、赤と黒の光の帯が溢れ出る。
それは一瞬で祐一の身体を包み込み、それを変容させていった。
光の奔流に、怪人はよろめいた。
その光の向こうに、立っていた。
黒い身体を走る、紅のライン。
右肩の突起物からは一枚の赤いマフラーがたなびいている。
炎を宿したような赤い複眼。
天を指す、二本のアンテナ。
そんな、仮面の戦士が立っていた。
「Jghjyjhgyjjhgyjjhg!!Khuijkj!?」
「・・・俺が何者か、だって?」
怪人が何事かを洩らした。
”彼”にはその意味は分からない。
だが、なんとなく”そう”言っているように思えた。
だから、彼は名乗った。
光とともに流れ込んできた”イメージ”のままに。
「俺は・・・仮面ライダー。仮面ライダーカノンだ!!」
はっきりとそう名乗って、祐一は・・・いや、仮面ライダーカノンは拳を構えた・・・!
「・・・祐一は、馬鹿だよ」
誰もいなくなった部屋で名雪は呟いた。
・・・名雪は知っていた。
祐一の両親から送られた手紙を、悪いと思いながらも読んでいた。
紫雲との会話も聞いていた。
そして、祐一が最後にどういう結論を下すのかもわかっていた。
わかっていたのに、止められなかった。
あんな眼を。
自分の好きな人の、真剣で、真っ直ぐな、真摯な眼差しを見てしまっては止める事なんかできなかった。
「・・・でも、祐一。絶対絶対帰ってきてよ・・・どんな姿になってもいい、どんなにボロボロになってもいい。だから、必ず帰ってきて・・・・!」
あの時、祐一にも言った言葉を名雪はもう一度呟いた。
そして、そのとき祐一が浮かべた笑顔を強く信じた。
「jhyijhyy!!」
蝙蝠の怪人が殴りかかってくる。
祐一には、仮面ライダーカノンには、その動きが”見えた”。
パッと下がる。
その背後にあったコンクリートの壁は、その一撃を受けて、いとも容易く破壊された。
人間には脅威の力。
そのはずだった。
なのに。
(・・・その程度、に思える・・・・!)
妙な確信があった。
弾かれるように地面を蹴って、カノンは攻撃を仕掛ける。
それに対し、翼を叩きつける。
だが。
「はっ!」
カノンはしっかと、それこそ余裕でその攻撃を受け切った。
「だあああっ!!」
怪人が動揺する隙を見逃さず、カノンは拳を叩きつけた。
怪人は翼を重なり合わせてそれを防ごうとする。
しかし、祐一の拳はそれすらを突き破って、怪人の顔面に拳を埋め込ませた。
その一瞬後、まるで時間が一瞬だけ止まったように、怪人が宙を舞って壁に叩きつけられ・・・いや、その壁すら突き破っていった。
これが、力。
祐一はそれを為した自分の右腕をじっと見詰めた。
・・・この力があれば。
「hjkujbgyyhyyyy!!!」
その思考に囚われた一瞬、その隙間を突いて、怪人は翼を広げて空高く舞い上がった。
破れた翼でも、飛べないことはないようだった。
「ち・・・!!逃がすかよっ!!」
一声吼えて、カノンは地面を蹴った。
それは大きな跳躍。
人間の常識を逸脱する跳躍だった。
カノンはあっという間に怪人が飛んでいる高度に追いつき、追い越した。
怪人の意識がカノンに向けられる、刹那。
「落ちろっ!」
カノンのかかと落としが怪人の片翼を破壊した。
翼を完全に抉り取られてはどうしようもなく、怪人は地面に叩きつけられた。
カノンは不器用、不恰好ながらも体勢を崩す事無く着地した。
最早、怪人に退路はなかった。
カノンが駆け出す。
その頭に浮かぶのは、昨日の紫雲の、仮面ライダーエグザイルの一撃。
ベルトの宝玉が輝き、祐一の右足に赤い光の帯が巻き付く・・・!
「くらええええええええええええっ!!!!」
逃げ出そうと背中を見せた怪人の背に、低い弾道からの蹴撃が突き刺さる!!
赤い光の帯は祐一の脚から怪人に”寄生”すると、その帯を亀裂のように怪人の全身に広めさせた。
怪人の身体に赤い光が広がり、爆発を起こす。
その爆発は収束すると、まるで光の柱のように立ち昇り、光の粉となって消えていった。
「・・・・・・勝った」
そう呟いて、カノンはその光の粒の中に立ち尽くした。
色々な感情がない交ぜになった、虚脱感が彼を包んだ。
その瞬間、変身が解け、カノンは相沢祐一の姿に戻った。
「・・・あれ?」
変身が解けた祐一の体にはまだベルトが巻かれていた。
肉体に組み込んだとばかり思っていた祐一は素直に驚いた。
(いや、もう外せないのかもしれない・・・って、あれ?)
試しに、祐一は軽い気持ちでベルトを外しにかかり、その気持ち同様、ベルトはあっさりと祐一を解放した。
不思議に思う祐一の前に。
轟音とともに一台の黒いバイクが現れ、止まった。
それに乗るのは。
仮面ライダーエグザイル。
エグザイルは降り立って、空を見上げた。
その眼は、散った光の粒を捉えていた。
その顔を祐一に向けて、エグザイルは言った。
「・・・相沢君。ここに怪人がいたはずだが」
「それは・・・俺が、倒した」
「変身、したのか?」
「ああ」
「・・・なんて、ことを・・・!」
その声には紛れもなく怒りがあった。
だが、祐一はそれに怯む事はなかった。
「でも俺のベルトはすぐ外れたぞ。お前のと、違うみたいだ」
躊躇いがちにそう告げる祐一の手にあるベルトをエグザイルは凝視した。
「・・・そうか。
君のベルトは侵食型ではなく、装着型か。
不幸中の幸いだ。まだ間に合う」
ほっ、と安堵の口調で呟いて、エグザイルは手を出した。
「戦わせておいてすまない・・・でも、これ以上、君が戦う必要はない。
勝手なのはわかっているけど・・・
そのベルト、渡して、くれないか・・・・・?」
その言葉が、祐一の身を案じている事は祐一自身よく理解していた。
だが、それだけに決意を込めて変身した自分を否定されているようで、心の内に怒りが湧き上がった。
そして、なにより、これを他の誰かに委ねる気などなかった。
その思いは、今の紫雲と全く同じモノだった。
「断る」
「・・・なんだって?」
「草薙。お前には悪いけど、これを渡すわけにはいかない。
できる何かから逃げるのは、嫌だ。だから、俺は戦いたい。お前と同じに」
永い。
本当に永い沈黙が流れ。
その空間を支配した。
二人の視線が、交錯する。
「・・・そうか」
その沈黙を破って、紫雲の言葉が発せられると同時に。
凄まじいまでの気迫が、紫雲から、仮面ライダーエグザイルから流れ出た。
「・・・くっ!?」
「君がそれほどまでに言うのなら、仕方がない。
・・・実力行使で奪わせてもらう。戦うのは、俺一人でいいのだから」
その言葉は紛れもなく本気だった。
祐一にそう思わせるほどに、その言葉には重さがあった。
だが、最早祐一に退く事はできなかった。
それが、決意なのだから。
「・・・はっ!自惚れるなよ草薙。お前がそのつもりなら俺も容赦なんかしない・・・!」
祐一は再びベルトを装着し、鍵を廻した・・・!
「変身!!」
祐一の姿が変わる。
仮面ライダーの姿に。
赤と紫。
人を護るための力が、今、己の決意の下に激突する・・・!
「ふっ!!」
「はあああっ!!」
・・・次回に続く。
次回予告。
仮面ライダー同士の戦い。
無意味でありながら無意味ではない戦い。
そんな戦いの果てにあったのは二人の差、だった。
同じでありながら違う二人。
そんな中の新たな怪人の襲撃が二人の運命を交錯させる!
「僕は仮面ライダーになんかなれない。それでも仮面ライダーにならなきゃいけないんだ!」
次回、『仮面の意味』
乞うご期待はご自由に!
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