第十三話 〜CROSS ROAD Last Chapter〜交差点を過ぎる時(前編)







「……ぅ」

眼が覚めた陸は、半ば反射か無意識で上半身を起こし、窓の外と時刻を確認する。
晴れた空と時刻を認識して、いつの間にか眠っていた自分と、もう学校に行く時間だという事に驚いた。

「え……と、昨日は……って……」

昨日の事を思い出して、陸は全身が重くなるのを感じた。
いや、正直、それどころの騒ぎじゃない。
本当に身体が動かせないような……そんな錯覚に捉われるほど、精神的に疲れ果てていた。

そのせいで、自分がいつ眠ったのかも定かではなかった。
あの後、一日の残りをどう過ごしたのかさえ、曖昧だ。

「……」
「兄さん?」

そうしてぼんやりしていると、閉じた襖の向こうから妹である芽衣の声が聞こえてきた。

「起きてますか? もう随分遅いですよ?」
「あ、ああ……起きてる、起きてるよ」
「……本当に、昨日は何も無かったんですか?」

その言葉で、曖昧な記憶ながら妹を初め、家族に随分心配をかけてしまった事を思い出す。
あまり自覚は無かったが、かなり情けない姿を晒してしまったようだ。

今、襖を開けて部屋に入ってこないのも、気を遣っての事なのかもしれない。
そう思うと情けない限りだった。

「……昨日も言ったろ。何も無い。あったとしても話すような事じゃないさ」

だからなのか、そもそも話す気になれなかったのか、それとも心配をかけたくなかったのか……陸は自分でもどれが一番大きい理由なのか分からないままにそう言った。

「そう、ですか。
 兄さんがそう言うのなら……今はそういう事にしておきます」

何処か不服そうな芽衣の言葉が響いた。
本当は問い質したい……そう微かに滲み出てくるような声音だった。

それでも深く問い質さないのは……自分の言葉を尊重しての事だと、陸は思った。

「時間が無いので、今日は先に出ますね。
 朝ご飯は目玉焼きは焼いておきましたから。後、昨日のお味噌汁も暖めてあります」
「おー、さんきゅ」
「では、行ってきます」
「行ってらっしゃい……ありがとな。んで、気をつけてな」
「……言われるまでもなく」

そんな返事を最期に気配と足音が遠ざかっていく。
それを最期まで聞き届けた後に、陸は肩を落とした。

「はぁ……」

重い重い息を零す。

学校に行くような気分じゃない。
だが、行って謝らなければならない。確かめなければならない。

鼓動が響く。
焦燥で速くなっているような。
いや、重い気持ちから遅くなっているような気もする。

いずれにせよ、その鼓動は陸の中で大きくなっていた。

それを収める為に……

(いや、違う……)

それを収める……詰まる所、薫に謝罪するというのは、勿論だ。
でも、それ以上に薫の顔をただ見たかった。

薫の顔を、もう二度と見れないんじゃないか……陸はそんな不安感に駆られていた。

その不安感で、動けない錯覚を断ち切って――陸はようやく立ち上がった。







急いで準備を済ませ、陸は家を出た。

朝食は取らなかった。
悩まなかったわけじゃない。
妹が準備した朝食を食べない事に罪悪感を覚えもしたが……その罪悪感を上回る気持ちが、結局陸に朝食抜きを選択させた。

そして、走った。
少しでも早く待ち合わせ場所に行く為に。

そうして、流れる風景の先にその場所……学校近くの信号前が見え始めると。

「……」

薫はいつもの場所に立っていた。
陸が来る方向をずっと見詰めていた。

その視線を受け取りながら、陸は徐々にスピードを落とし、意気を整えながら……薫の前で立ち尽くした。

「……」
「……」

何も語る事なく、そこに立つ二人。

周囲は始業時間もかなり近いからか、人通りが無い。
ゆえに話すにはちょうどいい……二人ともそう思っていたのだが、話せずにいた。
話す言葉はあっても、口にできずにいた。

そんな暫しの、当人達にとっては恐ろしいまでに長い沈黙を破ったのは……

「……昨日は、ごめんね」

薫の、謝罪だった。

「あ、え?」

戸惑う陸に対し、薫は続けた。

「その……突き飛ばしたり、なんかしちゃって……」
「え、と……」

実際は突き飛ばしたりしているわけではないのだが、薫の中ではそういうイメージが作られていた。
拒絶したという、強いイメージがそうさせていた。

「で、でもね……心の準備ができてなかっただけで、
 ああいう、ことが、できなかっただけで……
 その……陸君の事が嫌いになったわけじゃないから。
 ホ、ホントだからね」
「―――あ、そ、そうなんだ」

陸がその言葉を理解するのには、かなりの時間を擁した。
薫から本当の拒絶を言い渡されるのではないか……そんな最悪の想像が念頭にあったので、逆に謝罪されるとは思ってもみなかったのだ。

(いや、よくよく思い出したら、昨日も謝られたような……)

それにしても、拒絶されたという事実がショックすぎて忘れ去っていた陸だったりする。
なんにせよ、陸にしてみれば、薫に嫌われていないだけで十分だった。

「って、そうじゃなくて……俺の方こそ……ごめん!」

力の限り頭を下げて、陸は言った。
嫌われていないとは言え、謝らずにはいられなかった。
先走ったのは、自分なのだから。

「薫さんの気持ち考えずに、一方的に……」
「いや、その……そういう時って、わざわざ確認したりしないんじゃ、えと……とにかく!」

しどろもどろになりそうになる薫だったが、ん、とわざとらしくも表情を引き締める事で、それを押し潰す。

「陸君は悪くないんだって。
 私達、カレカノなんだし……ね?」
「…………薫さん、本当に」
「怒ってないって。むしろ私としては陸君が怒ってるんじゃないかって……」
「そ、そんなわけあるわけないじゃない!
 怒ってない! ちっとも怒ってない!」

身振り手振り交えて全力否定する陸に、薫は苦笑と微笑みと……いろんなモノが交じり合った笑顔で言った。

「よかった。なら、元通りだよね。……いつもの、私達だよね」
「う、うん。……いつもの俺達だ」
「じゃあ、行こう? そろそろ行かないと」

笑顔のままで告げる薫。
そんな……自身が浮かべた笑顔とは裏腹に、薫の気持ちは沈んでいた。

嘘をついている自分に、気付いていたからだ。

心の準備は……できていた。
起こる事は、分かっていた。
にもかかわらず、受け入れられなかった。

そして、そんな自分を隠すような真似をしている。

薫は、かつてないほどに自分に嫌悪していた。
昨日から……陸を押し返した時からずっと。

だからこそ、自分から口を開いた。
多少の気まずさなんか気にしてはいられなかった。
そのぐらいしなければ、陸に申し訳が無かった。

昨日あんなに楽しい時間をくれた、こんな自分を好きになってくれた……平良陸に。

「薫さん?」

その声にハッとして、呆けていた薫は顔を上げる。
そして、心配げに少し顔を近づけていた陸に気付き……慌てて距離を取った。

「あー……やっぱり……怒ってる?」
「そそ、そんな事無くて、その」

なんというか、落ち着かなかった。
気のせいか、顔が熱いような……

「よっ! お二人さん!!」

そこに、唐突な……陽気な声が響いた。
聞いた覚えのある声、聞いた事のない声の調子に二人がその方向に顔を向けると、自分達のクラスメートである幾田道雄が立っていた。

「あ、お、おはよ! 幾田君!」
「や、やぁ幾田!」

どぎまぎと挨拶をする二人。
そんな二人を見て、いつもならば怪訝に思うはずの彼なのだが……

「おー、おはようさんっ」

今の彼は上機嫌で、二人の異変にまったく気付いていなかった。
……これでは、二人の異変というより、彼に異変が起きていると言う方が正しい。

「なんか、機嫌いいけど何かあったの?」

道雄の登場は渡りに船だった薫はここぞとばかりに話題を転換させる。
無論、興味も大きかったのだが。

「んー! 聞きたいか、霧里。なら教えてやろう。
 ついに、名前を教えてもらったんだよ」
「あー、声を掛けてたコにか?」

渡りに船なのは、陸も同じ。
当然のように、あっさりとその流れに乗った。
まあ薫同様の興味も大いにあったが。

そんな二人に大満足な笑みを返して、道雄は答えた。

「ああ、念の為にとか何とか言って、苗字は教えてくれなかったけど、名前はしっかりとな。
 いやー粘ったかいがあったってゆーか、顔を赤らめながらが実に可愛かったなぁ」
「幾田君、なんか文章変だよー」

普段は落ち着いた感のある道雄が大いにはしゃぎしている様に、二人はさっきまでの事を少し忘れ、思わず笑っていた。

「それで、名前は?」
「あのコに相応しい名前だったなぁ。め……」

道雄が口を開き掛けた所で、薫が大声を上げた。

「あーっ!!」
「ど、どうしたの?」
「忘れてた、時間!」
「……あ、ホント」

携帯を取り出して、時刻を確認した陸は納得口調で呟いた。
話に意識が行き過ぎて、すっかり忘れていたが……時刻は予鈴直前。
今の学校までの距離を考えると、あまり歓迎できない時刻だった。

「そろそろ予鈴が鳴るな。急がないと」
「聞いといてソレかよっ!」

憤りのままに、というかハイテンションのままに突っ込みを入れる道雄だったが、その突っ込みは既に二人が駆け出していてたので、空を切るのみとなった。

「うわ、間に合うか……?」
「間に合わせるのよ、陸君っ」
「……うん、そうだね」

そうして、二人は走っていった。
そうして、二人は元通り……二人はそう思い込んでいた。

そうでは、なかったのに。







それから、時間は暫し流れて昼食時の教室。
いつのまにやらの、いつもの面子で、陸達は食事を進めていた。

「でだ、俺はついにその子の名前を知る事ができたわけだ」
「おおーそれはよかったね。犯罪に手を染めないかと冷や冷やしたけど」
「まあ、名前を聞くぐらいなら、女性としての立場的にも問題ないから喜んでおきましょうか」

道雄の言葉に、明悟と由里奈が口々に言った。
この場での話題の一つとして、彼らも道雄の一方的な話を聞かされていて知っていたがゆえの発言である。

「人が喜んでる時に……お前ら鬼だろ」

二人の発言は本気で本音だった。
フフンと笑っている明悟、眼鏡をクィッと上げている由里奈を見て、道雄は顔を引きつらせた。

すると、フム、と顎に手を当てて薫は言った。

「私的にはその表現について鬼よりも悪魔の方を推奨するかな」
「なんでだ霧里」
「いや、鬼っていうと某音撃仮面戦士が頭をよぎるから。具体的に言うと響く鬼?
 だから今は悪い意味で使ってほしくないかなーと」
「……そこまで言うと名を伏せている意味ないぞ……」
「っていうか、薫さん、言いたかっただけでしょ」
「あ、分かるー? 流石陸君。いやー最近ハマっちゃっ……」

すぐ隣に座る陸に振り向きながら、言葉を形に仕掛けた薫が一瞬停止する。
陸は思わず怪訝な表情を浮かべた。

「……? どうかした?」
「いや、その……」

そう言って、ズリズリと椅子を動かす薫。

「ちょっと近すぎたかなー。ごめんね陸君、動きづらかったんじゃない?」

照れ笑う薫の言葉に、その場の全員がキョトンとした。

「いや……そんな事はないけど……いつも、こんなものだし」
「え?」

今度は薫がキョトンとする番だった。
不安げに他の面子を見やると、道雄と由里奈はコクコクと首を縦に振った。

「さっきぐらいが定位置だろ?」
「ええ。私の記憶もそう語っているわ」
「ぇ、えー? そんなこと、ないわよー」

薫はパタパタ手を振って否定の意を示しながら、箸を進めた。
そんな薫を四人は各々の視線で眺めたが、その事についてそれ以上触れる事は誰もしなかった。

そして、その昼食の間、薫が椅子の位置を戻す事はなかった。







「空は青いなぁ……」

その日、最後の授業である六時限目の美術の時間。
やるべき事も忘れ、陸はグラウンドの隅の木陰でぼんやりと空を見上げていた。

天気がいい事もあって、陸達のクラスは写生の為に外に出ていた。
勿論、外と言っても校内ではあるが。

クラス全体の完成度にもよるらしいが、この時間中にある程度の下書きを済ませて、色塗りを後日行う予定らしい。
下書きと色塗り、双方の完成度を見て評価を付ける……美術教諭がそう語っていた事も、今の陸には上の空だった。
画板の上の画用紙も、書く予定である所の校舎を写さずに意味の無い線がヤケクソ気味に引かれているだけ。

どうにも、よろしくない。

それが、陸の頭の殆どを占めていた。
実際の所、なんとなく呟いた空の青さなど、頭の一割程度でしかなかった。

「あー……」

薫が自分と距離を取っている、取ろうとしている……その事に陸は気付いていた。

昼食の時もそうだったし、この時間も一緒に絵を描こうと思っていたのに、薫はいつの間にかいなくなっていて、姿を見つけられなかった。
近くにクラスメートをちらほら見掛けるが、その中に薫はいない。

それが無意識なのか、意識的なのかは分からない。
ただ、距離を取られている事が重要なのだから。

探す事もできたが、課題を放るわけにもいかない。
いや、陸としては放ってもいいと思うのだが……それまでの薫の様子がそれを遮っていた。

怒っているとか、悲しんでいるとか、そういった放って置けない状況なら、陸は即座に動く。

だが、今の薫はそういうわけではない。
怒ってもいなければ、悲しんでもいないし、不機嫌なわけでもない。

ただ、距離を置いているだけ。

そうである以上、陸としては何も言えないし、動けない。
余計な事をすると、状況を悪化させるだけのような……そんな予感があった。
元はと言えば自分が動いたが為の状況だというのも、その予感に拍車を掛けていた。
……そこに、負の感情が見えないゆえの楽観もあるのも事実だが。

それらの総合から、陸は暫しの様子見を余儀なくされていた。
勿論、この状況が長く続くのなら動くつもりではいるのだが……判断が難しい。

「……隣、いいかい?」

そうして悩んで空を見上げている途中、響いたその声に陸は振り向く。
顔を向けたその先に立っていたのは……陸にしてみれば意外な人物だった。

「久能君」

少し前から自分に妙に突っかかるクラスメート……久能明悟。

「いいかな?」
「いいけど」

再度尋ねる明悟に陸がそう答えると、彼は、フ、と笑いなんだか息なんだか微妙なモノを吐いて、陸の側に腰を下ろした。

「……おやおや。全然絵が進んでないじゃないか」

その矢先、画板の中……というか画用紙の中を見て、呟く。

「そういう君は?」

やや不快げに返すと、明悟は画板を掲げて見せた。
そこには、恐ろしいまでに緻密かつ綺麗に描かれた人、校舎、その近くに植えられた木々、花壇の花々があった。

「……上手いな」

素直な感想しか出てこない。
それだけ明悟の絵は上手かった。
静止した風景のみならず、人まで書いているのは蛇足というべきか、嫌味と言うべきか悩む所だが。

「君からとは言え、素直な賛辞は嬉しいね。
 まあ、出来としては今一つなんだけど……速めに切り上げたよ」
「?」
「どうやら君と話す機会が、来たようだから」
「……なんについて?」
「分かってるんじゃないか?
 いや、鈍い君だから分かっていないのかもね」
「……」
「霧里さんの事だよ」

その名前を聞いて、陸の表情が強張るのを、明悟は見逃さなかった……







「空って青いわねぇ」
「そうね」

時をほぼ同じくして。
校舎の裏手にある駐輪場……教員、特別に許可された生徒の為の……で、ポツポツ並ぶ自転車や木々を描いていた薫と由里奈は、そんな事を呟いていた。

「でも、空を描いてるわけじゃないでしょ、私達は」

そう言って覗いた薫の画用紙には、大雑把な風景と由里奈の知らない何かのキャラクターが描かれていた。

両方とも何気に上手い辺り侮れないが……その両方とも何処か気が抜けた感じがあった。
なんというか、身が入っていない絵だった。

「んー……分かってる」

霧里薫らしからぬ苦い……自嘲めいた表情。
それは彼女が自分の感情や思考を整理できず、持て余しているという事だろう……由里奈はそう思考した。

正直な所、由里奈は薫のそんな表情を望んではいない。

『……ところでさ。霧里さんって言うの堅苦しくない? 友達なのに』

自然にそう言ってくれた霧里薫だからこそ、彼女の彼女らしからぬ表情は見ていて辛い。
そこに関しては、紛れもない由里奈の真実だった。

「薫、休みの間に平良君と何があったの?」

だからこそ、由里奈はそう言った。

彼女にとっての幾つかの真実の為に。

そんな由里奈の思考に気付ける筈もなく、薫は驚きからただ単純に目を見開いた。

「え? どうして……」
「貴方たちをちゃんと見てれば分かるわ」

実際、由里奈と明悟は二人が特に何の問題もなく……むしろ理想的なデートをしていた所までしか見ていない。
だが、そこまでしか見ていないからこそ、今日の二人の様子がおかしい事が際立って見えた。

「そ、そんなに分かりやすいかな……」
「まあ、それなりの付き合いだしね。それよりも……」
「いや、その……ちょっと、ね。意見の相違というか、なんというか……」

視線を向けられた薫は、動揺からそんな事を零した。
零すと言っても、薫なりに真実を隠そうとしていたのだが……今まで二人を見ていた、否、観察していた由里奈にしてみれば、それは簡単に真実に繋がる材料に過ぎない。

「平良君にキスを迫られて逃げちゃったとか?」
「うっ?!」

薫にせよ、陸にせよ、つくづく嘘がつけない……というか、他人への嘘という発想が欠落しているとしか思えない。

無理についた所で通用するのは同じレベルの人間……薫であれば陸……ぐらいだろう。

「……それじゃ、答言ってるようなものよ、薫」
「ううぅ、そだね」

確信めいた推測に、薫がお約束な反応をしてくれた事で、由里奈は推測が事実だと確かな手応えを感じた。
自分の考えていた事が、カタチになった事への手応えを。

真っ赤になった薫は、諦めたかのように項垂れて呟いた。

「この際だから……相談していいかな」

そう呟いた表情は、見えない。
そして、その声音は……いつになく沈んだ調子だった。

由里奈としては、それを拒絶するつもりは毛頭無い。

ただ、その前に……

「その前に、一つ聞きたいんだけど」
「え?」

思わぬ言葉に、薫は目を瞬かせた。
そんな薫に、由里奈は『その言葉』を解き放った……







「なんで、君と薫さんの事で話さないといけないんだ」

当然と言えば当然の言葉。
ソレに対し、明悟はあっさりと答えた。

「簡単だよ。
 僕が、霧里薫さんの事を異性として好きだと思っているからだ。
 君と同じく、ね」

あまりにも自然に。
あまりにも当たり前であるかのように。
それは告げられた。

ゆえに、瞬間……陸は明悟が何を言っているのか把握も理解もできなかった。

「な……?……!」
「霧里さんはすでに知ってるよ、僕の気持ちを」
「……!」

その言葉で、陸は理解していった。
明悟の言葉の意味、薄々感じていた薫の明悟に対する妙な遠慮や、自分と仲良くさせようとしていた心情を、かなり漠然とだが理解していった。

「……正直、まだ伏せておこうかとも思ったけど……
 どうやら、ここが勝負所みたいだから、宣戦布告代わりという事で」
「勝負所……?」

明悟のその言い様に、なんとなく苛立ちを覚える陸。
そんな陸を見据えて、明悟は言った。

「……平良君。なんで霧里さんが君を避けているのかは僕には分からない。
 ソレを利用しようとは言わないが、この機会を逃すつもりも無い。
 僕は……負けたくはないからね」
「……」
「その為の本格的な行動の前に、いや、その一環かな……とにかく、君に一つ聞きたい事がある」
「……なに?」

浮かび上がってくる言葉を上手くまとめきれず、単純にそうとしか返せない陸に、明悟は『その言葉』をカタチにした……







「霧里さんは、本当に君の事が好きなのか?」







「本当の所……薫は平良君の事、どう思ってるの? 本当に好きなの?」







同じ時、違う場所での、確信めいた同じ問い掛け。

それはただ。
残酷なまでに薫と陸を刺し貫いた……







…………続く。



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