プロローグ







「お、俺・・・霧里さんの事が好きだ」

青年・・・いや、少年の声が夕陽で赤くなった教室に響いた。
その言葉を向けられた少女は呆然とした。

「え・・・・・・・?」

その少女の顔を見て、少年・・・平良陸(たいらりく)は言わなければよかったか、と唇を僅かに噛んだ。
だが、それと同時に”でも”とも陸は思っていた。

放課後。
とある高校の教室。
そこには自分と少女だけだ。
今日掃除当番だった他の生徒達は連れ立ってサボっていた。
別に彼らは掃除を押し付けられたわけではない。
その他の生徒達も、陸たちも帰ろうと誘ったのだが、この二人はそれを拒否したのだ。

陸は掃除をサボるという事に罪悪感を覚え・・・というわけではなく、バレた時に怒られるのが御免だからという理由から残った。
もう一人の少女の思惑は、陸には分からなかったが。



少女・霧里薫(きりさとかおる)。

肩に少しかかるぐらいの髪。
天然だという茶色の髪は左側だけテールになっていた。
背は陸より少し低いぐらい。
これは薫の背がすこし高いというのもあるが、陸が男子では背の低い方だからというのが理由としては大きいだろう。
・・・その双眸は見開かれ、ただ陸を見ていた。



陸が薫を好きになったのは、ほんの少しの積み重ねだった。

他の女子よりほんの少し親しくて、
他の女子よりほんの少し好みの顔立ちで、
ほんの少し、優しくて・・・少なくとも陸はそう感じていた・・・
それがほんの少し、陸の気持ちを揺り動かして。

同じクラスになって一ヵ月半で、陸はそんな自分の気持ちをいわゆる好意だと理解した。
そして、それから三日後、このチャンスが訪れたのである。

急だったかもしれない。
相手も自分も用意ができていなかった。
でも、今この時二人だけになった事を理解した瞬間、陸はここが勝負所だと判断したのである。

「その、えと、だから俺と・・・・・・つつ、つ、付き合ってくれないかな」

薫はキョトキョト落ち着かない様子で辺りを見回して、目を逸らしたままで告げた。
その顔は赤い。


「えと、私で・・・いいの?」
「う、うん」
「こんな私でいいの?」
「もちろん、だよ」

傍から見てるともげ落ちそうなくらいに陸は首をカクカク縦に振った。
そんな陸を見詰めて、躊躇いがちに、彼女は言った。

「・・・・・・・私が、オタク、でも?」

その言葉に、陸は迷い無く答えた。

「うん」

それを聞いて彼女は。










さてさて。
これがこの物語のはじまり。

明るいオタク、霧里薫。
一般人、平良陸。

この二人の少年少女とその周りの人間たちが織り成す、古く、そして何処か新しい物語。

笑うも自由、
泣くも自由、
ノリが合えば、せせら笑ってもオッケー。

惚れた弱みか、たんなる弱気か、それとも優しさという奴なのか?

男、平良よ彼女と共に何処へ行く?

そんな物語のはじまりはじまり。





そして、そんな物語のタイトルは。





『evolve⇒発展する』+『love⇒恋、愛』



・・・・・イコール=『evol”O”ve』(造語)。


すなわち。








えぼらぶ〜The LAND Is Balmy〜


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