第7話 季節外れの少年少女(前編)
「イレイズ・ブレイクッ!!」
『ぬおおおおっ!!?』
魔法多少少女ヴァレットの一撃……もとい一筆が、いつもどおりに紅の狂魔術師・シャッフェンのガラクタに�垢了�を描く。
直後、シャッフェンのガラクタは光と化し、消え去った。
最早日常となったその様子を、現在絶賛下校中の俺・艮野灰路は野次馬達と一緒に眺めていた。
「リューゲちゃんを連れてこなかったのが敗因でしたね。
どうして連れて来なかったんです?」
ふわふわと、巨大な筆を片手にぶらさげるように持ったまま浮遊しつつヴァレットは尋ねる。
言われてみれば確かに、あの新しい魔法少女はこの場にはいない。
そんなヴァレットの疑問に、背中のロケットで飛行しているシャッフェンは、唸るような声(例によってマイク使用中)を零した後答えた。
『ぬぅ、最近人遣い荒いから休ませろとか言って……どっか行きやがりましたよ、あの子』
「一昨日オーナちゃんが最初に相手した時も来てませんでしたよね」
『……もしかして、俺嫌われてる?』
「あ、いや、そんな事はないと思いますよ?
きっと何かで忙しかっただけ……ですよ、多分、いえ、絶対」
落ち込む気配を見せたからか、慌ててフォローを入れるヴァレット。
『ふっふっふ、優しいなヴァレット……。
だがしかし、それは本当は優しさではない。
真に人を慰められず、癒せない言葉など、自己満足に過ぎないのだよ』
「……かもしれませんね。
ですが、だからと言って何もしないというのは性格上出来ません。
その辺りは、私なりに『決めて』やっているつもりいるです」
『……なんだ。
もうその辺りについては腹を括っているわけか。
思っていたよりは単純な正義馬鹿ではないんだな。
動揺した隙を突こうと思ったんだが』
「ご期待に沿えずすみません」
困り顔で、だが何処か楽しげに苦笑するヴァレットに対し、くっくっく、と悪役っぽい笑いを返すシャッフェン。
……何処となくある程度の理解者同士の反応っぽくて、なんとなくムカつくな、おい。
『まぁ確かに残念だ。
しかし、それはそれで改めてその心情を圧し折った時が楽しみだよ。
圧し折れなくてもソレはソレで悪くない』
「前にも近い事はお聞きしましたが、そう簡単に圧し折られるつもりはありませんよ。
さて、それはそれとして、そろそろお縄についてもらいますね」
ヴァレットは迷いの無い綺麗な笑顔でキッパリ告げる。
こういう軸が全く軸がぶれない辺り流石『正義の味方』だと思う。
それが彼女の言う『決めた』ということなのだろう。
『くっ、流石だな。
だがしかしっ!!
破壊と再生の使徒たる俺がそう簡単に捕まると思ったら大間違いだっ!!』
「何をするつもりです?」
何をするのか分からない以上、油断は出来ないとヴァレットは筆を再び構えた。
そんなヴァレットに対しシャッフェンは不敵な笑みを浮かべてみせ、そして。
『ふっ……
あーっ!! あんな所にアトラクション中の王電仮面ダブル�垢�っ!!』
現在絶賛放映中らしいヒーローモノの名前を叫びつつ、やたら大袈裟なリアクションで地面を指した。
いやいや、そんな古典的な手段に誰が引っ掛かるかって……。
「えええええっ!? 何処ですっ!? って、ハッ!?」
『引っ掛かるなぁぁッ!!』
普段の様子からは思いもよらないほどにあっさりと引っ掛かったヴァレットに、野次馬中の市民(俺含む)の突込みが響き渡った。
「くううっ、わ、私としたことがっ!!?」
遠めでも顔が真っ赤になっているのが良く分かる。
……いや、なんというか、よっぽど好きなんだなヒーローモノ。
そう言えば。
『あの女の子』も王電仮面が好きだったような……。
『普段の正義マニアぶりからして引っ掛かると思ったぞっ!』
そんな俺の思考はさておき。
ヴァレットの隙を突き、シャッフェンは何処からとも無く棒状のリモコンスイッチを取り出す。
それを見たヴァレットは、一瞬「?」という顔をしたが、直後慌てて声を上げた。
「あっ!? シャッフェンさん、ちょっと待……!!」
『遅いわぁぁっ! 我が秘密兵器カムヒヤー!!』
ヴァレットの制止を気にも留めず、シャッフェンは自信満々にボタンを押した。
次の瞬間。
『って、おおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおッ!!?』
シャッフェンの背中のロケットから凄まじい轟音その他エネルギーが吐き出され、彼は急上昇……あっという間に星になった。
「……それロケットのボタンじゃないんですかって言おうと思ったんだけどなぁ……」
流石に何回も逃亡の瞬間を見てる為、ヴァレットにはそれが分かったのだろう。
というか開発者の方が間違えるとは……アホだ。紛れもなくアホだアイツ。
そして、何回星(あるいは花火)になれば気が済むんだ、あのアホ。
「って、そんな事を言ってる場合じゃなかった!!
シャッフェンさーんっ!!」
奴を心配してか、慌ててシャッフェンの後を追うヴァレット。
ある意味毎度の事だからいい加減放置でいいと思うのだが……まぁ、その辺りが彼女の良い所だしな。
こうして、その日の『いつもどおり』は幕を下ろしたのであった。
「お疲れさん」
「ありがとうございます」
あれから数十分後。
騒動のあった場所からそう遠くない公園のベンチに俺とヴァレットは腰掛けていた。
あの空中散歩以来ごくたまにだが、俺はこんな感じでヴァレットの話を聞いたりしている。
俺的には『あの女の子』との繋がりを探る意味プラス色々あるだろう彼女の愚痴でも聞いてやれれば……と思っているのだが。
実際には、ヴァレットが話す事は愚痴というにはちょっと弱いので、殆どただのお喋りでしかない。
まぁ、それでも彼女的には満更でもないのか、こうしてちょくちょく話してくれている。
色々な事を抜きにしても、こうして間近で話が出来るというのは正直悪い気はしないと言うか、超嬉しいです。
そういった思考は露程も見せないよう留意しつつ、俺は話を続けた。
「結局シャッフェンには逃げられたのか?」
「はい。無事だったから良かったんですけど……」
「なんつーか、もう少しアレは雑に扱ってもいいと思うぞ?」
「そう、ですか? うーん……」
「しっかし、今回もよく分からない騒動理由だったなぁ。
なんだよ『幽霊は夏のものであるというイメージを破壊する企画第一弾』って」
今回シャッフェンが持ち出してきたのは和風な墓の形をしたマシンだった。
それにより幽霊を集め、街で一大肝試しを行うとかなんとかほざいてたな、確か。
実際『何かしら』を集めようとしてはいたが、その最中にヴァレットが現れておじゃんになった。
「大体機械で幽霊集めなんてどうだよ。
何処の妖怪退治の映画なんだよって言いたくなるんだが」
「あはは、確かにそうですね。
でも、常識を壊すような発想は私結構好きですよ。
昔からある既成概念のお陰で苦労してたり、誤解されたりする人も世の中にはいますから。
まぁ、シャッフェンさんの場合は、着眼点と色んな意味でやり過ぎだったりするのが問題なんですけどね」
「ふーん、そんなもんかねぇ……って、んん??」
そうして会話を続けていた、その時。
俺はヴァレットの背後に一瞬何かが見えたような気がして、思わず眼を細めた。
「? どうかしました?」
「いや……気のせい……」
気のせいだと呟こうとした矢先、さっきと同じ場所にひょこっと、何かが現れた。
その現れた『モノ』を見て、俺は驚きに眼を丸くした。
「えっと、それ……」
「どうしたんですか……って、あれ?? この気配……と、それは……」
思わず俺はヴァレットの背後を指差し、同様になのか、俺に釣られてなのか、ヴァレットはヴァレットで俺の背後を指差していた。
そこにある、『ありえないもの』を。
っていうか、俺の後ろにも……?
そう思いながら振り返ると、そこにいた。
全体的に『青い』、薄暗い表情をした小学生位の女の子。
それだけならまだ普通の域なのだが、そうでないのは明らかだった。
何故なら彼女の身体は半透明で、その身体がプカプカ宙に浮いていたからだ。
コレをなんというのかは……まぁ、明らかなわけで。
「いや、なんというか……久しぶりに見たなぁ幽霊」
そう、誰がどう見ても断言できるほどの完璧な幽霊がそこにはいた。
「…………えっと、その、あー……驚かないんですか?」
自分に憑いている女の子と同い年ぐらいの幽霊少年の頭を撫でながらヴァレットは言った。
「俺は結構この手の奴は慣れてるからな。
むしろヴァレットが慣れてる方が驚きというか」
「え? あ、その、ほら、私魔法少……魔法多少少女ですし。
私もこういう事にも慣れたものですよ、ええ」
「そういうものかねぇ」
魔法少女が幽霊にも強いなんて話は聞かない気もする。
ここにオタクの久遠がいれば、その辺について突っ込んでくれるかもしれないが生憎というか幸いにというべきかここにはいない。
いや、突っ込むというかむしろ何か別の意味でボケそうな気もするな、アイツ。
やはりいなくて良かったと言ったところだな、うん。
「しかし、こんなにハッキリ見えるのも珍しいというかなんというか。
でもまたなんで俺達に憑いたんだ?」
俺の問いに、女の子はパクパクと何かを語りかける。
だが、その声は全く聞こえなかった。
「あーやっぱ話すのは無理か。見慣れてても霊感はあんまりないからな俺。
ヴァレットは話せるか?」
「……やってみます。どうしたんですか?」
ヴァレットの問いに、少年と少女が口を開く。
俺には何も聞こえないが……。
「あー……そういう事だったんですか?」
どうやらヴァレットは話せたらしい。流石魔法多少少女。
「で、なんだって?」
「いや、なんと言いますか」
ヴァレットは、んー、と若干困り顔で言葉を続けた。
「この子達は今日辺りに成仏する予定だったらしいんですが、シャッフェンさんの機械のせいなのか、なんだかそれができそうになくなったそうなんです」
「ふーん。それでヴァレットを見込んで取り憑いたってところか」
「……ええ、まぁ、そんなところらしいです。しかし困りましたね……」
ふーむ、と考え込むヴァレット。
「あれ? ささっと成仏してやれるんじゃないのか?」
「そうしたいのはやまやまなんですが……
というか、そうしようと思ったんですが、どうも難しいみたいです。
シャッフェンさんの因子の影響を受けたみたいで」
「いつものあれ、イレイズ・ブレイクって奴は使っちゃ駄目なのか?」
そう言うと、ヴァレットは、ブンブンブンッと、全力で首を横に振った。
「と、とんでもないです。
駄目です。アレは扱いが難しいですから。
下手にあれを使ったらこの子達自体を消滅させかねない……ああ、ごめんね。心配しないで。
大丈夫だから泣きそうな顔しないで、ね?」
子供達の表情を察してか、ヴァレットは慌てて笑顔を浮かべ、子供達の頭を撫でたりして宥めた。
その際、女の子、ひいては俺に近付いた為バイザーの中の顔がいつもより見えたりもした……のだが、
実はこれで彼女の正体や素顔が分かったりする事はないらしい。
このバイザーには魔法的な仕掛けが施されており、
コレを通している以上、肉眼にせよ、カメラなど等の機器にせよ、彼女の顔そのものをしっかりと記憶・記録する事は出来ないらしい。
もっともヴァレット曰くこの処置は『使えている』レベルではないらしい。
コレを『使えている』レベルというのは、オーナのように顔が出ていても全然正体露見に繋がらないレベルらしい。
オーナの場合、自ら正体を明らかにしようと思わない限り『どうやっても』正体がバレないとの事。
ともあれ、彼女の優しげな笑顔を見たお陰か、子供達は落ち着きを取り戻したようだ。
その様子を見て安堵したらしいヴァレットだったが、問題が解決していない以上完全には安堵できるはずもなく、すぐに渋いものを食べたかのような顔に戻っていた。
「うーん、どうしたものか……」
「あ、俺なんとか出来るかもしれないぜ」
と、そこで。
俺はある事を思い出した。
「と言いますと?」
「俺の知り合い……というか幼馴染に、その手の専門家がいるのさ」
幼馴染である草薙は霊関係の専門家でもある。
ヴァレットには分からない事、出来ない事もアイツ、もしくはアイツの家族ならなんとか出来るかもしれない。
あの家の人達は御人好しだから、この位の事なら笑顔ですぐさま対応してくれるだろう。
「………ああ、なるほど。草薙家ですか」
「知ってるのか?」
「ええ、その手の家系としてはそこそこ有名ですからね。
……この際仕方ありませんね。
じゃあ、その、そちらに案内してもらえますか」
「オーケイ。
よーしガキどももしっかり憑いてこいよー」
俺の言葉に、子供二人は俺達の肩の上で『おー』と言わんばかりに拳を空に向かって上げた。
元気で大変結構だ……幽霊なのにな。
こうして俺達は草薙家へと向かった。
これから先に待っている事を知る由もなく。
……続く。