第3話 少し異常な『いつもの光景』
「情熱の赤と冷静の青。
二つを持ちて、正義をなす為の紫と成る!
魔法多少少女・ヴァレット!
市内平和と正義探求の為に、ただいま参上!」
赤い空の下、最早馴染みとなった口上と共にヴァレットが舞い降りた。
んで、そのヴァレットの眼前には例によって例の如くの馬鹿の代名詞、
自称・紅の狂魔術師ことシャッフェン。
二人はそれぞれ『筆』と巨大ガラクタに乗って、街の上にプカプカ浮かんでいた。
ちなみに俺こと艮野灰路は、連休最後の夜を楽しもうと、
コンビニに夜食を買いに出掛けた途中で騒動に遭遇した所だ。
そんな俺の周囲には上空の様子を観戦するものばかり。
その約三分の一はヴァレットに向かって声援を送っている。
『フッフッフ、待っていたぞ愛しのヴァレット!』
「うぅ、愛しのとか言われるとちょっと……」
声援の中、マイク(?)を通したシャッフェンの言葉にヴァレットは頬を染めた。
……ぬぅ。いつものこととは言え、なんか腹立つな、ちくしょう。
『うんうん、その初々しさも素敵だぞ』
「その、えと、褒めていただいた事については御礼申し上げます」
照れ照れながらも律儀に頭を下げるヴァレット。
すぐさま上げたその顔には苦笑が張り付いていた。
「でも、それと騒動を起こすのは関係ないですから。
おとなしくお縄についてもらえませんか?」
『ふっ、そういう訳にはいかんな』
言いながら偉そうに腕を組んだシャッフェンは、これまた偉そうな口調でのたまった。
「うーんと、じゃあとりあえず事情を聞かせてくれませんか?
今回は一体どういう理由で騒動を?」
『うむ、説明しよう』
ヴァレットに問われたシャッフェンは、ゴホンゴホンと咳払いで喉を整えてから朗々と語り出す。
『ゴールデンウィーク。
実にいい響きだと思わないか?
黄金週間。日本語にしても素晴らしい』
そう。
今はゴールデンウィーク。
というか、今日はそれが終わる最後の日だったりする。
ああ、それでシャッフェンが乗る鯉のぼり型のガラクタ、金色なのか。
正直趣味悪いと思ってたが、意味はあったのな。
『現代社会に病む多くの人々が羽根を休める期間。
諸君はそれがもっと長ければいいと思ったことはないかっ?!』
「う、ソレは確かに」
「ああ。また明日会社かと思うとうんざりだなぁ」
「満員電車……臭うしキツイわよね」
「学校面倒臭いからなー。
明日は一時間目から数学だし」
「あ、やば、あたし宿題忘れてたっ!?」
「あっはっは、俺ニートだからそんなの関係ねぇ」
「はっはっは、僕もだ」
シャッフェンの言葉にそれぞれボヤキなんかを零す近隣住民の方々。
中には非常に共感できるものが……って、あれクラスメートの植野と下北じゃん。
ほほぅ、あの様子から察するにアイツら付き合ってたのか。
……いや、まぁ今何の関係もない話なんだけどな。
『うむうむ。
やはり皆も休みは長い方がいいか』
まぁ、なんにせよ休みが長いに越した方がいいのは否定し難いな、確かに。
「あの、一部関係ないとおっしゃっている方もいますけど」
『そんなわけなのでっ!
今回の俺はせめてこの街だけでも有効な”休日”を創造しようと思い立ち上がったのだっ!!』
「えと、人の話を聞かないのはどうかと思いますが……それはそれとして、具体的には?」
『簡単だ。
今日が終われば明日が来る。なら明日を来させなければいい』
「ふむふむ」
『つまり、時刻や日付を示すモノを全て根絶すればいいのだっ!』
『……はい?』
理解出来ず首を傾げるヴァレットや近隣住民(俺含む)。
その様子には構わずにシャッフェンは解説テンションをヒートアップさせる。
『時報が聞ける電話、時刻表示が付いた携帯、時計やカレンダーなどなどっ!
ネットやテレビなどのメディア受信を妨害した上でそれら全てを一掃すれば、
朝が来たとて明日が明日だと誰が証明出来ようっ!
いいや、出来まい!!
後は皆がそれぞれ主張すればいいのだ!!
”今日はまだ休みっスよー”となっ!!!
どうだ! 完璧だろうっ!!?』
『穴だらけだアホォっ!!!』
自分の発言の穴にも気付かず自己陶酔するシャッフェンに街住人の総突っ込みが決まる。
いやぁ、見事な唱和だ。
というか、皆慣れたもんだよな、ホント。
「んなの物理的に不可能に決まってるだろうがっ!!」
「時刻表示してるモノがこの街だけでどれ位あると思ってんだ!?」
『いや、それは諸君らに協力してもらってだな』
「そもそも根絶って壊す気か?!」
「修理費とか払ってくれるんだろうなぁ!?」
『あー、休日の創造という偉業の為には多少の犠牲も已むを得ないと思うんだが』
「已むを得るでしょ、この大馬鹿っ!!」
『ぬぅ……已むを得るって日本語的にどうだろうな』
『突っ込んでんのはこっちだっ!!』
『うーむ……』
さっきまで賛同を得ていたと思っていた皆様方からの思わぬ(?)反撃にたじろぐシャッフェン。
そこにヴァレットも少し呆れ気味な表情で加わる。
「それに、あの、流石にその論理展開は強引と言うか屁理屈過ぎると思うんですけど……」
『NOOOOOOOOOッ!!
やめてぇっ! そんな馬鹿を見るような目で見ないでぇっ!!?』
あ、大ダメージ受けてる。
そうして、がっくり肩を落とす姿が気の毒だったのか、
スススーッと移動したヴァレットは、励ますようにポンポンとシャッフェンの肩を叩いた。
「うーん……
発想は個人的に面白かったですし、
皆さんに休みをあげたいって気持ちは素敵だと思いますけどね」
『フフフ、そうだろうっ?!』
復活早っ。
『いやぁ、お前なら分かってくれると思って……』
「でも」
嬉しそうにうんうん頷くシャッフェンの言葉を、ヴァレットが遮る。
……皆様お気付きになられましたでしょうか?
はい、その通り。
いつの間にか。
さり気無く。
ヴァレットは、しっかりきっちりシャッフェンのガラクタとの距離を詰めていたんですねー、これが。
シャッフェンへの励ましっぽい言葉に偽りはないんだろうが、
それと同時に『自分の仕事』をこなしているのは流石に『正義の味方』だな。
「たくさんの人に迷惑を掛けるお休みは、お休みじゃないと思いますよ?
あと、普通の日があるからお休みが楽しいんだと私は思います。
そんなわけなので、行かせていただきます」
前置きと共に大上段に掲げた筆先が白く染まる。
ソレはヴァレットの『必殺技』の体勢に他ならない。
『ちょ……ッ!!?』
「イレイズ・ブレイクッ!!」
ヴァレットが空を駆け抜けた後。
シャッフェンのガラクタには白の一筆が記されていた。
鯉のぼりの腹に書かれたせいか、
微妙に横に広い感じの白い�垢了�が、『筆』が離れた瞬間に光を放つ。
その白い光は連鎖的に広がり、あっという間にガラクタを光の粉へと変換・分解、霧散させた。
となると例によって例の如く、ガラクタに乗っていたシャッフェンは落下する。
うんうん、重力って素敵だ。
『NOOOOっ!?
しかし、ヒトは学習するっ!!』
ところがシャッフェンはこの事態を見越していたらしく。
いつのまにやら手に握っていた棒状の機械に力を込めた。
……多分、あれは何かのリモコンで、この状況を打開する何かしらのボタンを押したんだろう。
それに応えてか、シャッフェンのブーツから、ボボボ、とロケットっぽい炎が吐き出され、奴は落下途中で空中に停止した……のだが。
『ぬ……っ! っとぉっ、火力調整が…!!?』
どうやらブーツのジェットは未完成品だったらしく、
シャッフェンはヴァレットが飛ぶ少し下付近を不安定に漂った。
……なんか、今にも爆発しそうな感じがするんだが。
『おのれ、これで、どう、だぁぁぁぁっ!!?』
「だ、大丈夫ですか……って、え?」
出力調整をミスったらしいシャッフェンは、筆にぶら下がるヴァレットへとフラフラしつつ突っ込んでいく。
ガラクタを消した事で事態収拾したと安心したのか、
あるいは純粋にシャッフェンの身を心配していたからか、予想外の展開にヴァレットは対応出来なかった。
まぁ、どうなったのかというと。
シャッフェンはヴァレットに衝突した。
その顔面をスカートの中に突っ込む形で……って、なにいいいいいいっ!?
『おおおおっ!!?』
「きゃあああああっ!?
シャ、シャッフェンさんっ!!?」
体勢としては肩車を互いに向き合った状態でやっていると言えば伝わるだろうか。
不可抗力なんだろうが、スカートの中に顔を突っ込んでいるという状況は、
本人の意図はどうあれど、変質者が痴漢行為を行っているようにしか見えなかった。
「というか、痴漢行為以外の何者でもないだろ、こらぁっ!!」
思わず声を上げる俺。
しかし、その大声は混乱しまくった当事者達の耳には聞こえていなかった。
『いやこれは非常事態というか俺の意図じゃないというかしかし幸運であることは疑いようも無く真っ白い光景が素敵だと思ったりっ!?』
「きゃぅっ……離、れて、というか、ちょ、んっ、喋らないでぇっ!
喋らないで、く、くださ、ぃ、んっ!」
全く持って予想外であろう展開に、ヴァレットが艶っぽい声を零す。
どうにかしようとバタバタ足を振ってもがくものの、一向に事態は解決の方向を見せなかった。
というか、オーバーニーソックスに包まれた長い足が大きく動く様は、なんつーか色っぽい。
不思議なのは、ミニスカであれだけ動いても中が一欠片程度も見えないという点だが……ソレは魔法少女、もとい、魔法多少少女の成せる業、深く考えてはいけないのかもしれない。
『と言われても……がふっ、鼻血が、というか幸せで死にそう……ああ、これが俺のゴールか……』
「ちょ、やああっ!!?
勝手にヒトをゴールにしないで下さいぃっ!!」
な、なんと羨ましい、いやけしから、というか羨ま、けしからん。
ちなみにその光景を見上げる男性陣は揃いも揃って間抜け面。
……いや、俺もなんだけど。
近場ならシャッフェンを引き剥がす事も出来るが、残念ながら空では手が出ない。
いや、ホントに残念に思ってるからな?
そりゃあ、この光景が極めて普通に健康的な一般男子としては見逃せないのは事実だが、
女の子が嫌がってる以上助けるのが男だしな。
しかし何度も言うが、この状況が展開されているのは手が届かない上空だ。
あの馬鹿に投げるような石とか空き缶とかも辺りにないし。
そんな訳で、そのなんとも言えない上に手出し出来ない(一部手出ししたくない)光景は、暫し続いてはいたが、長くは続かなかった。
『これについては申し訳ないとしか、でも俺の方じゃどうしようもなかったり……!?』
「ふぁっ?! い、いい加減に」
堪忍袋的に限界に達したらしいヴァレットは『筆』を掴んでいた手を離し、両腕でシャッフェンの頭を掴んだ。
そのままギリギリギリ……と音が出てそうな感じの力技で強引に顔を押し返し、その場でグルグル回転し始める。
どうやら『筆』が無くても空に浮かぶくらいは出来るみたいだな。
って、今はそんな事はどうでもいいが。
「して、くだ、さぁぁぁぁぁぁぁいっ!!」
『今度こそNOOOOOOOOOッ!!?』
回転の速度が頂点に達した時。
ヴァレットはジャイアントスイングの要領でシャッフェンを投擲した。
哀れシャッフェンはハンマー投げのハンマーのようにカッ飛んで……あ、途中で爆発した。
……いかにも爆発しそうだったもんな、あのブーツ。
まぁ、いつもの事だから死にはしないだろう。
つーか、死ねとは言わんが、もう少し痛い目を見るべきだと思うぞ、俺は。
いや、マジで。
「はぁ、はぁ、はぁ……あっ!」
羞恥やら何やらからか、真っ赤な顔のまま肩で息する状態なヴァレットは、ふと我に返ったように叫んだ。
「シャッフェンさんっ!?
ごめんなさいっ!! 遠くに投げ過ぎましたっ!!
というか、爆発しましたっ!? 私のせいですかっ!!?」
わたわた慌てながら『筆』に飛び乗ったヴァレットは、
シャッフェンが消えた方向に飛翔した。
……なんというか、御人好しだな。ほっときゃいいのに。
「まぁ、その辺りがヴァレットらしさって奴なのかね」
と、なんとなく俺が呟いた時だった。
「お、遅れてごめんなさい
魔法少女オーナ、魔法騒動収める為に隣町からお邪魔させていただきますっ!……って、あれ?」
この平赤羽市に存在するもう一人の『魔法少女』、オーナが夕焼け空に現れた。
まぁ、ぶっちゃけ大遅刻なわけだが。
「あの、えっと……なにがあったのかな?」
既に当事者達が現場から消えている今、彼女にやる事がある訳も無く。
魔法少女オーナは、辺りに漂うなんとも言えない空気や、すっ飛んでいくヴァレットの背中を交互に眺めて、呆ける事しか出来なかった。
そんなこんながありまして。
ゴールデンウィーク最後の日に起こった騒動は、
ヴァレットの活躍と犠牲(?)を経て、無事終わりを迎えた。
そうなると皆普通に日常に戻るわけで、俺もソレは例外じゃない。
そんなわけで、俺はこの時間がいつもそうであるように、やたら騒がしい昼休みの教室で馴染みの面子と昼飯を食べていた。
他愛のない、世間話に耳を傾けながら。
「そう言えば、昨日も彼女……ヴァレットが活躍してたって?」
「らしいわね。
いつも大変よねー、あんな馬鹿の相手ばっかりで」
世間話の中の、いつも、という言葉でなんとなく考える。
(そう言えば、ヴァレットが現れてから結構経ったよな)
俺がヴァレットと”出会って”から約三ヶ月が経っていた。
ソレは同時に、ヴァレットが世間的に有名になって三ヶ月が経ったという事で。
「いやー、凄いよなぁヴァレットたんは」
こんな事を言う馬鹿というか、ファンを量産するのに十分な期間だったわけである。
「最終的に逃げられたとは言え、昨日もしっかり事件を解決。見事なもんだよ」
うんうん、と頷くコイツは久遠。自他共に認めるオタクだ。
コイツの部屋に遊びに行った事があるが、そりゃあもう凄まじかった。
ロボット、美少女のフィギュアやポスターが所狭しと並べられたあの部屋は圧巻で、それだけコイツのディープさが窺い知れた。
「たん付けはやめて。キモイから」
「まぁなぁ……」
気持ち悪そうに久遠を見る女子生徒は高崎清子。
んでその隣に座って頷いてるのが、高崎の幼馴染の直谷。
漫画か何かの王道を突っ走るような友達以上恋人未満のコンビにしてカップルだ。
「というかさ、久遠君、オーナちゃんのファンじゃなかったっけ?」
パクパクと重箱弁当を平らげ中の草薙が言う。
「馬鹿だな、草薙。
オーナたんはオーナたんでいいんだよ。
二人とも素敵なんだから何の問題も無いさ。
なぁ艮野」
「……三次元より二次元に傾いてるお前に同意を求められるのは微妙だが、意見には否定しないぞ。
素敵なのは確かだ」
「……ふーん。そういう、ものかな」
「草薙君、喋りながらそうパクついてると喉詰まらせるわよ」
「はむはむ……高崎さん、……ンッ、ありがとう。気をつけるよ」
「って、喋ってるじゃない! しかし、まぁよく食べるわね」
「昔からコイツこうだよ。
食べる量は最近ますます増えてるけどな」
「成長期だし。皆こんなもんじゃない?」
『いや、お前だけだ』
草薙の天然というか、常識知らずの言葉にその他の野郎どもの突っ込みが入る。
そんな突っ込みに草薙は不思議そうに首を傾げるのだった。
俺、草薙、久遠、直谷、高崎。
俺達五人は二年進級後のクラスで席が近くだったり、
互いに微妙に話が合ったり、誰かさんが誰かさんの側にいたい必然性とかで、結構良くつるんでいた。
割と面白いし、退屈しないから俺的には悪い気はしてない。
「しっかし、変な世の中になったもんよねー」
校内の自販機で購入した紙コップコーヒーを啜りながら、高崎が言う。
「幽霊に魔法に魔術に錬金術、超科学。
十年前まで、魔法の魔の字もファンタジーや空想で片付けられてたって言うじゃない。
それが今や偉い学者先生とか教授とか言われてる人たちが必死な顔で過去のオカルトの本漁ってるんだからね」
「あんな出鱈目な魔法や機械とか毎日みたいにボカボカ出て来るんだぜ?
皆必死になるさ」
高崎の言葉をフォローするように直谷の言葉。
ソレに対し、草薙が口を開いた。
「でも、別に魔法とか魔術とかって、十年前までなかったわけじゃないよ。
幽霊の目撃とかだって降って沸いたわけじゃなくて、ずっと昔からあるわけだしね」
「そりゃあ、お前んチが昔からそういうのに縁深い家だから言えるんだろ。
俺達一般ピープルにしてみりゃあ……」
「久遠、お前一般と違う」
「オタクに対する偏見だぞ、それ」
「いや、オタクはそうかもしれんが、お前は絶対一般じゃない。
まぁ、その辺は良いとして、魔法とか昔からあるってのは俺も思うぞ。
うちの姉貴、よく言ってるし」
一学年上でオカルト研究会所属の我が姉曰く、
『魔』はこの世界に元々存在するもの、との事。
その主張を証明するかのように、
奴が文献から研究して生み出したと主張する占いやおまじないは妙に当たるし、妙に効く。
「それに幽霊なんかは、草薙のお陰で昔から何回か見てるしな」
世間一般の人達がはっきり視認し出す前からそうなので、
幽霊なんかも十年前から発生したわけじゃないのはなんとなく納得出来る。
ちなみに、草薙の家は昔からそういう関連のトラブルを片付けるエキスパートらしい。
草薙もその為の教育を受けていて、
その一端として幽霊なんかを簡単に見つけたり出来るし、外見に寄らず半端じゃない格闘能力も持っている。
昔からその腕力でカツアゲやいじめなんかをよく叩き潰していたな、コイツ。
左右のワンツーなんか、ボクサー並みかそれ以上だし。
もっとも、今は違う方面のトラブルが目立ってる所為でこの平赤羽市の気が乱れたとか何とかで、草薙家式ではあまり成り立たなくなったらしいが。
正義フリークのコイツ的には今トラブルだらけの町を傍観するしかないのは不満らしい。
……だが、だからって全力で正義のヒロインを応援するのはどうかと思うぞ、俺。
「へぇー……」
「高崎さん、幽霊とか見たいなら僕が今度そういう場所に連れてこうか?
場所を選べば安全に見れるし」
感心したような声を漏らす高崎に、草薙はそう言って穏やかに笑い掛けた。
ちなみに悪意はない。あくまで純粋な好意によるものだ。
……まぁ、だからタチが悪い時もあるんだけどな。
「え、遠慮するわ。
流石に積極的に見たいと思わないし……」
「ソレが賢明だな。
何せコイツ昔から怖い話が好きな癖に怖がりでな、おもらし……グハッ」
「わー! わわぁーっ! 明ってば何を言ってるのかしらぁーっ!?」
「聞きましたか、奥さん。お漏らしですってよ?
というかグーで殴りましたよ?」
「ふふふ、美少女のお漏らし、そしてツンデレ。
オタクとしてはそそりますなぁ……」
ニヤニヤする久遠と俺。
高崎には悪いが、俺はこういう時は楽しむタチなんでな。
「こ、この変態征っ! ツンデレってなによー!?」
「く、久遠君、あんまりそういう事は言わない方がいいよ……。
それはそれとして……今のはデレてたのかなぁ」
「お、草薙、良い着眼点だな」
「確かに今のは微妙な気がするぞ。
つーか俺ツンデレの概念よく分からんのだが。
その辺、高崎を例に講義してくれんか?」
「ううう、人を肴に盛り上がるなぁぁっ!」
「というか、殴られた俺は放置かよ……」
まぁ、そんな感じでいつもの昼休みは過ぎていくのだった。
「あ、忘れてた。艮野、コレ」
放課後。
ホームルームも終わり、帰ろうと立ち上がった間際。
目の前に突き出されたディスクを俺は凝視した。
視線をずらすと、ディスクを持っているのは久遠だった。
「お前、ヴァレットたんのデータ欲しがってただろ?
一通り纏めたからとりあえず渡しとく。
オマケも幾つか付けといたぞ」
「お、悪いな」
「ったく、人の事オタクオタクって事あるごとに言うくせに……
まぁ、同類のよしみでこれ以上追及はしないが。
……っとと、『えぼらぶ』が始まっちまう。じゃあな」
毎週視聴しているアニメの放送時間が迫ったらしく(録画も完璧だが生で見たいらしい)、
久遠は渡すものを渡すとさっさと教室を出て行った。
「……同類じゃないっての」
「どうかした? ……そのディスクは?」
俺の呟きに応える様に、草薙がひょこっと顔を出した。
「ああ、これか?
久遠が纏めたヴァレットやシャッフェンの三ヶ月間の出現場所とか。
法則性か何かあるかも知れんから、頼んどいたんだよ」
久遠自身、魔法少女達の見物に必要になるかもしれないので、一も二もなく引き受けてくれたのである。
「へぇ……そんなにヴァレットのファンになってたんだ。
というかヴァレットの正体が知りたいの?」
「んー、いや、そういうわけじゃない。
興味がないわけでもないけどな。
そこまで積極的に探りたいとも思ってない。
ま、活躍を生で見たいっつーのはあるかな」
ヴァレットを近くで見れれば、あの既視感の手応えをもっと感じる事が出来、確信も出て来る。
俺の直感通り、あの女の子がヴァレットの正体なら、現場近くにいれば遭遇する可能性も高くなるだろうし。
あと、美少女の活躍を見たいのは変わらんし。
「ま、なんにせよ、じっくり話してみたくはあるな」
「そうなんだ。
……あ、もし何かしら法則が分かったら僕にも教えてくれよ。
僕も見物したいし」
「そうだったなヒーローマニア。
まぁ気が向いたら教えてやるよ」
「うん、是非頼むよ。
そりゃあもう、是非に」
「……眼を輝かせるな、鬱陶しい」
コイツ、優男だからなのか笑顔見ると時々妙に苛つくんだよな。
まぁ、それはさておき、そうして草薙と別れた俺は帰路に着いた。
いつものなら草薙を始めとする他の面子と帰ったり、何処かに寄ったりする事もあるが、
今日はそれぞれ都合があるらしく、俺は久方ぶりに最初から一人の帰り道を進んでいく。
「……そうだな、折角だから、あそこに寄っていくか」
思いついたままに少しだけ行き先を変える。
その先に、思いも寄らない事が待ち受けている事も知らずに。
………続く。