第五話 ホントウの戦場



・・・圧倒的な、一撃。
その戦場に立っていた者は、一瞬その力、その姿に目を奪われた。

黒い翼を広げ、自身よりも大きな砲身を構える、黒い一体のマシンに。

「・・・・・あれはっ・・・・・!?」
「・・・あの、時の黒いやつ・・・・?」

その機体を確認した佐祐理、舞はその事実に気付いた。
・・・その機体が、三年前自分たちの町を滅ぼしたモノと酷似しているということに。

・・・ブゥン・・・・・

そんな、多くの者の動揺など意に介さず。
黒い機体は紅き瞳に光を灯らせ、踊り始めた。

死を呼ぶ、舞踏を。



・・・それから僅か10分程度。
その間に、その戦場にいた幻獣の全ては滅ぼされた。

川澄舞や倉田佐祐理、5121隊の活躍も大きくはあったが、今回最も敵を”破壊”したのは・・・黒い”ヒュッケバイン”だった。

たった一人で敵の半数以上を倒し、殆ど無傷・・・

その圧倒的なまでの戦闘力に同じ戦場に立つものは戦慄した。
もし、その力が自分たちに向けられれば・・・おそらく、歯すら立たない。

そんな、恐怖と、ある種の畏敬の視線で人々が見上げる先に、黒い鬼神はいた。



「・・・・・きこえる?あのね、所属と部隊名を・・・・・」

その機体に呼びかけるのは、十歳にも満たないと思われる少女。
彼女、東原ののみもまた、5121小隊に所属する人間の一人だった。
彼女はオペレーターの任務の一つとして、空に在るその機体に必死に呼びかけていたのだが・・・

「・・・だめみたい・・・・」
「そっか・・・大丈夫、気にするな、ののみのせいじゃない」

しょんぼり、という形容がぴったりの落ち込みを見せるののみを慰めたのは、同じくオペレーターの瀬戸口隆之。
整った容姿の、自他共に認める色男である。

「・・・しかし、アレは何者だ?あの戦いぶり・・・絢爛舞踏に匹敵するやもしれん」

そう呟いたのは、騎魂号に乗る芝村舞だ。
その言葉に、厚志は反応した。

「・・・絢爛舞踏って?」
「息を吸うように幻獣を殺す化け物のことさ」

それに答えたのは、舞ではなく、その会話を通信から聞いていたらしい瀬戸口だった。
その声には嫌悪らしきものが混じっていて、厚志は少し戸惑った。

(・・・息を吸うように、殺す・・・それは僕ら、いや僕の延長なのかもしれない・・・)

なんとなく、そんなことを考えていた厚志だったが、”その”会話に顔を上げた。



「・・・答えて下さい・・・・貴方は、あの時、あの街を壊した人なのですか・・・・?!
何故、今、私たちを助けてくれたのですか・・・?!」

黒い機体に対峙しているのは、それと対になるような純白の機体。
佐祐理の搭乗する、ヴァイスリッターだった。
同じ高度、一つ間違えれば闘いの始まる間合いの中で、佐祐理は問い掛けた。
・・・しばしの沈黙の後に、”それ”は答えた。

「・・・・・最初の質問は・・・・・今は、答えられない。
二つ目に関しては、君たちの乗る機体がEOT兵器ではなかったから、そして、幻獣は僕にとっても滅ぼすべき存在だからだ」
「・・・貴方は、敵なのですか・・・・・?」

その質問に対し、その存在はまたしても暫し沈黙してから、こう答えた。

「・・・・・・それは、君たち次第だ」

そう言った次の瞬間、黒い機体は突如現れた闇の中に飲み込まれ、その場から消えた。







「・・・では、現状を整理しよう」

アーガマのブリッジ・・・そこに集まった面子を見渡して、ブライト艦長は言った。

「昨日東京湾上に現れた敵・・・EI−02。
それはGGGの誇るスーパーメカノイド・ガオガイガーによって倒すことができた。
だが、その後・・・謎の少年が現れ、ガオガイガーがえぐりとった敵のコアに何らかの作用をもたらし・・・人間に戻してしまった」

その言葉を聞いて俺・・・相沢祐一は昨日の事を思い出した。
ガオガイガーが必殺のヘル・アンド・ヘブンで敵のコアをえぐりとり、それを破壊しようとした時だった。
突如、何処からともなく現れた、緑色に発光する少年がガオガイガーの手の中のコアに何かの波動を浴びせると、そのコアは球体から人型に変貌し、異形の人型は普通の人間の男へと変貌・・・いや、元に戻った。
・・・その後のGGGの調査でその男が、元々は都内の業者で事業に失敗してからゴミの島に住むようになった事が明らかになっている。
様々な調査を経ても、彼がただの人間なのは間違いないらしかった。
・・・話を元に戻す。
その少年は、コアを人に戻すと、現れたときと同様に何処かへと消えてしまった。
ガオガイガーもそれを追おうとしていたが、ファイナルフュージョンのダメージから、凱が意識を失ってしまい、それは不可能だった。
そもそも、ガオガイガーの合体ソフトもまだ完全ではなかったらしい。
それを精神でカバーし、合体した凱は見事というべきなのだろう。

「・・・あの少年のことや、EIたちのこともとりあえず後はGGGの方々に任せることになった。
正直気にはかかるが、我々にはゆっくりしている暇はない」
「そうだな、俺たちは俺たちの仕事がある」

ブライト艦長の言葉をアムロ大尉が引き継いだ。
・・・確かにそうだ。
異星人のことも気にかかりはするが、今は自分たちのことをどうにかしなければならない。
つまりは、人間同士のことを。



『三年前の大戦』。
それは、大きな戦争だった。
事の発端がなんであるかは分からない。

強いて言えば様々な要因が重なってしまったこと、なのだろうか?
不幸な、ことに。

ただ少なくとも言える事が一つ。
人類は分かり合えることはできなかったということだ。
・・・いや、一時的には、できていたのかもしれない。
そうでなければ、今までの仮初めとはいえの平和はなかったであろうから。

話を元に戻そう。

・・・三年前の大戦の顛末はこうだ。

ゼ・バルマリィ帝国・・・地球(厳密に言えばその戦闘に特化した力)を手に入れようとしていたその異星人たち。
ロンドベル隊は地球内のごたごたをどうにか治め、それの最終侵攻をかろうじて食い止めた。

それで地球は平和になった・・・。

だが、その後がまずかった。

ロンドベル隊が総力を結集して宇宙で激闘を繰り広げている間に、地球でティターンズが再起、その活動を広げ、戦後、地球圏内外の争いの責任をロンドベル隊と異星人たちになすりつけてしまったのである。

もちろん、世論はそれを鵜呑みにするわけではなかったのだが、連邦軍はこれを理由に強大になりすぎたロンドベル隊を解体した。
そのためロンドベル隊を警戒して活動を抑えていたネオジオンもその活動を再開、その他の組織もそれに呼応する様に活動を広げていき、今に至る、というわけだ。

今はまだ、地球と言う生命圏の中においては、連邦軍と各組織の小競り合いばかりで、本格的な戦争状態にはなっていない。
だが、それが戦争に移行するのも時間の問題だった。

「・・・ブライト艦長。これから先はどうなされるのでしょうか?」

そう聞いたのは、二日前、魔操機兵という奴らから俺たちを助けてくれた”帝国華撃団”隊長の大神一郎。
・・・彼ら帝国華撃団は本日を持って、ロンドベル隊に配属されることになっていた。
彼らの敵であるところの魔操機兵の出現・・・それが彼らが協力を申し出る理由となったのだ。
魔操機兵がいつ何処に現れるか分からない以上、そして魔操機兵に対する有効な攻撃法を見出せない現状において、彼らのその申し出はロンドベル隊にはありがたい事だった。
彼らは部隊を二つに分け、片方をロンドベル隊に随行させ、もう片方を彼らが世界を越えた際に一緒に
来ていた彼らの”戦艦”に待機させる事にしたらしい。

大神の言葉は”隊長”と言うだけあって、何処となく落ち着きがあった。
さっき、ここに来るまでに彼女たち・・・カンナとすみれの喧嘩に巻き込まれ、仲裁しようとして逆に

「中尉はどちらの味方なんですの?!」
「中尉はどっちの味方なんだよ?!」

と問われて、顔を白黒させていた人間と同じには見えない。

・・・大神の問いに、ブライトは首を一つ縦に振ってから答えた。

「これから我々は、九州・長崎のサセボに向かう」
「そこに何があるのかな?」

ブライトの言葉に、名雪が独り言なのか”うー”と唸って考えながら言った。
その仕草に周りから少し失笑が漏れる。
それを咳払いで誤魔化して、再度ブライトは口を開いた。

「・・・そこには、対異星体の新造戦艦が建造中、間も無く完成するとのことだ。
その戦艦は民間企業・・・ネルガル重工の最新技術の粋を集めた最新鋭のものらしい。
完成後、火星奪還のため、火星に向かうらしいのだが・・・」

火星。
今現在、人は殆ど住んでいないとされている星。
何処からともなく現れた木星蜥蜴という謎の軍団に襲われ、壊滅状態にあるらしいのだが・・・

「連邦軍としては高性能の新造戦艦をわざわざ火星にやる必要はないと判断している」
「・・・そりゃそうだよな。いくら性能がいいったってたった一隻じゃやれる事の限度もあるだろ」
「・・・・・北川さん、すごくまともなこと言ってます」
「気をつけなさい、栞。明日は雪よ」
「五月蝿いぞ、三バカ」
「・・・誰が三バカよ」
「それで、俺たちはどうするんスか?」

祐一は香里のセリフをきっちり無視した。

「・・・・・正直に言えば、彼らのやっている事には協力したい。
だが、今は地球内のごたごたをまとめることが先だ。
未知の敵を相手取る前にやはり戦力は整えておくべきだろう」
「え〜と、つまり私たちはどうするのかな、祐一?」
「とりあえずはそいつらの説得ってところだろ」
「そうだ。では、到着まで各自で休養を取るように。パイロットは機体の整備を忘れるな。
以上だ。・・・解散!」





丁度、その頃。

ロンドベル隊と同じ場所を目指している戦艦があった。
・・・だが、その目的は違っている。

『・・・というわけだ。折原中尉。お前たちティターンズ第01特殊部隊はサセボに赴き、その新造戦艦を接収してくるのだ。川名大尉にもそう伝えるように』
「・・・はっ。わかりました」

戦艦アレキサンドリアのメインモニターに映っている顔は、ティターンズの高官・バスク=オム。
その画面に向けて、男・・・折原浩平は頭を下げた・・・が、その顔は不機嫌そのものだ。

『期待しているぞ』

慇懃にそう言って、その画面はフェイドアウトした。
その次の瞬間、浩平は消えた画面に向けて中指を立てた。

「け、何が接収だよ。強奪の間違いだろうが」
「浩平・・・大人気ないよ」

そう言ったのは、つややかな長髪と、のんびりした面持ちをした女性・・・長森瑞佳。

「・・・しかし、あれよね。
そんな強引なやり方で地球圏を統一できると本気で思ってるのかしら」
「無理に決まってんだろ、んなこと」

浩平は、オペレーター仕事片手に呟いた、ツインテールの女性・・・七瀬留美のいる方に顔を向けて言った。

「よね。ったくこれだから上の人は・・・」
「愚痴を言ってても仕方ないよ、留美ちゃん」

そう言いながら現れたのは、ホバーボード(床から僅かに浮き上がり、入力によりインプットされた場所なら何処へでも運ぶ、移動機具)に乗った盲目の女性・・・川名みさき。
彼女はこの戦艦の指揮を務めている。
・・・本当は艦長がいるのだが、今はある理由から不在だった。

「今はできることをしようよ。浩平君の叔母さんがこの状況をなんとかしてくれるまでは」
「・・・分かっちゃいるんだけどな」

浩平が苦笑気味にそう答えたときだった。
七瀬が振り向いて、言った。

「折原。なんか知らないけど、通信が入ってるわよ。えーと、友軍の・・・ジェリド=メサ中尉から」
「ああ、あいつか・・・わかった、繋いでくれ」

次の瞬間、先程バスク=オムが映っていた所に、若い男の顔が映った。
ジェリド=メサ中尉である。
ちなみに浩平とはあまり仲が良くない。

『よう、折原。久しぶりだな』
「ああ、なんか用か?お前と違って俺たちは忙しいんだよ」

その言葉にジェリドの顔が微かに歪む。
が、なんとかこらえて、次の言葉を繋げた。

『・・・お前たち、これからサセボに行って新型戦艦を接収するんだろ?』
「まあ、そうなってるな」

(気乗りはしないがな)

内心でだけ、浩平は呟いた。
そんな事など知るはずもなく、ジェリドは話を続けた。

『・・・それは俺たちの部隊がやる』

・・・その言葉に、浩平はいかにも”?”という表情を浮かべた。

「・・・おい、待て。なんでそうなる」
『今距離を確認したところ、俺たちのほうがお前らよりもサセボに近い。
こういう場合、相手が体勢を整える前に潰すのがセオリーだ』
「・・・・・じゃ、俺たちはどうするんだよ。お前らの都合で任務放棄とか言われるのはごめんだぞ」
『ああ、承知してる。だから代わりにお前らに頼みたい仕事がある。
・・・気付いてたか?
お前らと同じようにサセボを目指していると思しき戦艦が一隻ある。
どうもロンドベル旗艦・アーガマである可能性が高いらしい。
お前らはアーガマと交戦、時間稼ぎをしろ』
「・・・・・・・同じ連邦の艦と交戦しろと?」
『どうした、怖気づいたか?』

その言葉を浩平はハッと鼻で笑った。

「バカ言うな。ただ解せないだけさ。
同じ連邦軍でわざわざ争う事も、あんたが因縁深く思っているロンドベル隊をこっちに回す事もな」

すると、すでにその答えを考えていたのか、割合あっさりとジェリドは答えた。

『奴らの行動や規模はもう連邦軍の一部隊の範疇を超えている。
いかに連邦軍日本支部のお墨付きであれ、もう見逃す事はできん。
ティターンズの配下に下るつもりがないのなら、交戦は止むを得ない・・・これはティターンズの総意だ。
・・・俺とは確かに因縁深くはあるが、今はそれよりもティターンズの地盤固めが重要だ』

(・・・まあ、本当っぽく聞こえはするが・・・・嘘だろうな)

ティターンズがロンドベル隊を鬱陶しく思っている事は確かだろう。
だが、ジェリドが自分たちをロンドベルにぶつける理由は別にあることを浩平は看破していた。

浩平たちの部隊は”特殊”と名付けられるだけあって、他の部隊とは一線を画している。
それは浩平たちのパイロットとしての技能の高さもあるが、一番の理由は有している機体だろう。
MSが当たり前のティターンズの中で、浩平たちの部隊は唯一パーソナルトルーパーで構成されているのである。
これは特殊な才能を有する浩平たちの力を十二分に扱うためのものであり、ティターンズ上層部は対ロンドベル隊の切り札として、浩平たちを育ててきたのである。
・・・それは周りの部隊からすれば優遇・・・大袈裟に言えばえこひいきと捉えかねなかった。

ジェリドも、少なからずそう思っている一人である。
だからこそ、彼らの力量の確認と、新造戦艦奪取という自分たちの手柄と、上手くすればロンドベル隊と潰しあってくれるかもしれないという判断から、今回それを持ちかけたのである。
・・・無論、ロンドベル隊が破れる可能性など少ない事を見越し、浩平たちが敗れることで面目を潰す事を一番望んでいるのだろうが。


「まあ、いいだろ。了解した。アレキサンドリアはこれより針路変更、ロンドベル隊と接触する。
いいか?みさき大尉」
「うん、構わないよ」

笑顔で頷くみさきにうなづいてから、浩平は再びジェリドに向き直った。

「・・・これでいいんだろ?」
『・・・ああ。まあ、せいぜい死なないようにな』
「お互いにな」

その言葉を最後に、両者はほぼ同時に通信を切った。

「ったく・・・早くこういう職場から離れたいところね」
「お、今度ばかりは意見が合うな、七瀬。だがまあ、由紀子さんに任せておけばその必要もなくなるだろ。今は、ただ任務を遂行するだけだ」

そう言って、浩平は不敵に笑った。

「さあ、史上最強と言われるロンドベル隊・・・そのお手並みを拝見させてもらうとするかな・・・」







「これって、蒸気で動くのか?」

所変わって、ロンドベル隊・・・その格納庫。
祐一たちは自分たちよりも少し大きい、その人型を見上げるように見ていた。
そんな祐一たちに真宮寺さくらが笑いかけた。

「はい、蒸気で動きます。
でも、それだけで動いているわけではないんですよ。えーと・・・何だったかしら、紅蘭」
「よくぞ聞いてくれました!その名は蒸気併用霊子機関。
蒸気も確かに必要やけど、本当に動かすのに必要なのはうちらの霊子力なんや」
「・・・霊子力、ですか?」

聞きなれない言葉が出てきたので、栞は首を傾げた。

「んーなんというか人の潜在能力というか、特殊能力というか・・・
改めて聞かれると答えづらいな」
「・・・それがあれば、俺たちにもこれ・・・光武だったか?これを動かせるのか?」

頭を掻きつつ答える大神に、祐一は問うた。

「多分そうじゃないか?
俺も始めて動かした時、その直前までこんなものがあるとは知らなかったし・・・
そんな俺が動かせたってことは基本的に霊子力があれば誰だって動かせるってことだろう」
「へー・・・私も動かしてみたいなー」
「・・・名雪、物欲しそうな顔をするのはやめなさい。子供じゃないんだから」

その次の瞬間、紅蘭が眼鏡をきらりと輝かせた。

「そんなこともあろうかと!」
「うおっ・・・びっくりした・・・・」
「あー気にすんな。いつもの事だから」

ビクッと身を震わせた北川に、桐島カンナは苦笑しつつ言った。
そんなやり取りなど聞こえていないのか、紅蘭はどこからともなく怪しげな機械を取り出した。

「これはうちの発明品の一つで、人が潜在的に持っている霊子力の力を測定する機械や。
これであんたらの霊子力を測ってみよか」
「面白そうだな、名雪測ってもらえよ」
「え、いいのかな?」
「ええで。そのために出したんやし。ほな、いくで」

そう言って、紅蘭が機械のスイッチを押した時だった。

ピピピッピピピッピピピッ・・・!!
そんな音が辺りに鳴り響いた。

「・・・なんや?」

カメラのように構えた機械を下ろして、紅蘭が呟いた。
それに答える様に艦内アナウンスが続けられた。

『第二種警戒態勢・・・パイロットは至急機体搭乗の後、待機!繰り返す・・・』

「・・・なんかあったみたいだな」
「うう〜残念〜」
「まあ、次の機会に回しましょう。・・・お姉ちゃん、行こう」
「ええ、栞」
「俺たちも待機しておこう」
「そうですね」
「ちぇーこれからやったのに」

祐一たちはそれぞれ言葉を洩らしながら、自分たちの機体へと向かった・・・



ゲシュペンストのコクピットに滑り込んだ俺は、各種動作を起動させつつ、ブリッジとの通信チャンネルを開いた。

「こちら、相沢。一体何があったんだ?」

オペレーターを務めているファ=ユイリィに俺は問い掛けた。

『それが・・・アーガマの進行上にティターンズの戦艦が現れて・・・』
「それで立ち往生か」

ティターンズは連邦軍なので形式上は友軍である。
だが、それは所詮形式上に過ぎない。
データによると、過去幾度となくティターンズはロンドベル隊と対立している。
問題にならないのかと問われると、実際難しいところである。

ロンドベル隊は連邦軍独立部隊であると同時に、エゥーゴなどの支援も受けているために連邦軍の庇護無しでも活動でき、かつ連邦軍日本支部から現場の判断で動けるように取りはかってもらっている。

そのため、その立場は実に微妙なのである。
民間からの協力者も多いのでそうならざるを得ないところもあり、そういう部隊だからこそ過去幾度となく地球の危機を回避できたという実績がある以上、連邦軍上層部も細々とした命令をできない部分がある。

まあ、その辺りがティターンズが喧嘩を売ってくる理由なのかもしれないが・・・

『・・・あ・・・艦長。向こうから通信が入ってきています』

向こう・・・ブリッジからの情報によるとアレキサンドリア級の戦艦らしいが・・・・そこからの通信・・・興味が涌かないわけはない。
俺は、コンソールの通信設定をいじってから、そこに意識を集中させた。

すると、ブリッジで開いているのと同様にその通信ウィンドウが開いた。
そこに映っていたのは、黒髪で笑顔の女性だった。
顔立ちからすると・・・どう見ても日本人だ。

『こちらはティターンズ第01特殊部隊。私は艦長代理の川名みさき大尉です』

そう言って彼女はぺこりと一礼した。

『ロンドベル隊・戦隊長のブライト=ノアです』
『・・・かの有名なロンドベル隊の方とお話できて光栄です』
『済みませんが、用件を。あまり時間の余裕がないもので』
『あ、そうですね。では率直に言わせていただきますが・・・進路変更していただけませんか?』
『・・・それはどういう・・・・?』
『貴艦の目的地はサセボ・・・そして目的は建造中の新造戦艦・・・・違いますか?』

ずばり言われて一瞬沈黙するブライトだったが、その代わりにクワトロ大尉が答えた。

『そうだが・・・それが君たちと何の関係が?』
『ティターンズがその新造戦艦を必要としている・・・そう言えばお分かりかと』
『なるほど。君たちは時間稼ぎで、その間に他の部隊が新造戦艦を”接収”に向かっている・・・といったところかな』
『そんなところです』
『・・・どうしてそんなあっさりと答えるのです?・・・それにこっちに奇襲を仕掛ける事もできたはずです』

そんなアムロの問いにも、彼女はにこやかに答えた。

『私たちはティターンズに所属していますが、そのやり方全てに賛同しているわけじゃないですから』

その言葉に、俺は何とはなしに呆然とさせられた。
・・・そして。

「・・・・・・それならここを通してくれたっていいんじゃないか?」

気付いたらその会話に乱入してしまっていた。
しかもご丁寧にウィンドウを開いて。

『相沢・・・!』
「いやすみません、つい」

ブライトの叱責の声に半ば反射的に俺は謝った。
そんな俺に、黒髪の女性は首を傾げつつ話し掛けてきた。

『貴方は?』
「・・・・・一応ロンドベル隊所属のパイロット、相沢祐一」
『祐一君、でいいかな。声の感じだと、私より年下みたいだし・・・』

そこで、俺はウィンドウの向こうの女性が盲目なのだと気付いた。
そんな人が何故こんな場所・・・戦場・・・にいるのか興味があったが、それを聞くほどには俺は礼儀知らずではない。
心を押し殺して、俺は答えた。

「・・・好きなように呼んでくれていい」
『ありがとう。・・・確かに、祐一君の言うとおりだよ。
私としても許されるのなら、ここを引いて道を譲ってあげたい。
でも、私たちには私たちの”ここにいる理由”があるんだ。
だから、引けない。
そして、だからこそ、貴方たちに引いて欲しい』

・・・その言葉で、よく分かった。
彼女が闘いを望まない、穏やかな人だと。
自分のためではなく、俺たちのために引いてほしいといってくれている事が。

でも。
それでも。

「・・・それは、できない。そうだろ、艦長、皆」
『・・・彼の言うとおりです。我々にもやるべきことがある。
あなたたちにも理由はあるのかもしれませんが、こちらにも引けない理由がある』
『そもそも、ティターンズが新造戦艦を接収しようとしている事自体間違いなのだよ。
君たちに非がなくとも、それを見過ごすわけにはいくまい』
『そうですか・・・ならば・・・・・総員、第一種戦闘配備。
これより、ロンドベル隊との交戦に入ります・・・!』
「・・・残念だな」

俺はそう呟いて、ウィンドウを閉じた。
脳裏には、川名さんとやらの笑顔が微かに残っていた。
・・・それを振り払うように、俺は操縦桿をぐっと力強く掴んだ。

「・・・・・ゲシュペンスト・R・α!相沢祐一出る!!」







そこに広がるのはただ紅の空。

・・・今回の戦場は、空だった。
目的地にはまだ遠いので高度をかなり高めにとって飛んでいたからである。

それはさておき、空中戦闘というのは意外と難儀なものである。

空中における姿勢制御は、大気や重力があるため宇宙空間と比べても格段に難しい。
身体にかかるGも馬鹿にならない。
かなりの腕を持つ機動兵器のパイロットでも空中戦闘は鬼門なのである。

・・・だが。



「・・・・・こいつらっ・・・!!」

フルスピードで機動している俺のゲシュペンストにぴったりと張り付く三体のマシン。
スピードは僅かにこちらが上だが、それでもこいつらは俺がいかなる急加速急停止をしてもつかず離れずの距離を保っていた。
それだけで十分に分かる。

こいつらは、強い。

おまけに乗っている機体は、量産型の・・・!!

「ヒュッケバインMk−�兇箸呂福�ティターンズはよほど金が余ってんだな!!」

俺は凄まじいGがかかるのを承知で、急上昇した。
・・・だが、大方の予想通り、そいつらはその距離を離しはしない・・・!!

『・・・別にそういうわけではありませんよ』

このあたりはミノフスキー粒子が薄いのか、通常通信から敵の音声が流れ、聞こえていた。
・・・まあ、あえて通信を繋ぎっぱなしにしている辺りはすごいと思うが。

『この部隊がたまたまそういう部隊だった・・・それだけのことです』
『・・・・・・』
『ま、そういうわけだから覚悟しなさいっ!』

三者三様の声と同時に、そいつらはPTの標準装備、プラズマセイバーを抜き放った。
このスピードでは飛び道具は使えないと判断して接近戦でけりをつけるつもりか・・・
だが。

「・・・おあいにくさま、だな。あんたらの相手は、俺じゃない」

俺がそう呟いた次の瞬間、二条の光が俺と三体のヒュッケバインの間の空間を切り分ける様に行き、過ぎた。

『・・・くっ』
『・・・・・・!』
『きゃっ!なにすんのよっ!!』

流石にこれには驚いて、ヒュッケバインたちは俺への包囲網を解いた。
光の来た方向を確認すると、そこには北川のSR−1、栞と香里のグルンガスト弐式改がいた。

『そういうこった。あんたらの相手は俺、北川潤と』
『私たちでさせていただきます・・・!』
『そういうわけだから、諦めなさい・・・!!』
「よし、後は頼む。・・・そう言えば、兜さんやアムロ中尉たちは?」

出撃するのは確認していたが姿を見かけないので尋ねてみた。

『ああ、アムロさんならG3でカミーユのウェーブライダーに乗って下のほうで戦ってるよ。
兜さんとかはそのサポートだ』

あ、そうかと俺は今更のことながら思い出した。
基本的にMSは単体では空中戦闘ができないのである。
Zガンダムなどの飛行形態等に変形できるMSはともかく、普通のMSはせいぜい落下速度を軽減したり、地面から大ジャンプしてその高度を一定時間維持する程度しかできない。

それを補うための飛行ユニットもありはするが、単体で飛行できる機動兵器が多々あるアーガマにはその必要がないと思ったのか置いていなかったのだろう。

ちなみに現在のアーガマで単体による飛行が可能なのは、俺と名雪のゲシュペンスト、北川のSR−1、香里たちのグルンガスト弐式改、兜甲児のマジンガーZ、ゲッターチームのゲッター1、カミーユのZガンダム(変形時のみ)、今はオペレーターに専念しているファのメタス(こっちも変形時のみ)の8機のみだ。

おそらく今出撃しているのは、メタスを除く、その7機とさっき話に出ていたアムロ大尉のG3のみだろう。
しかし、このメンバーならそう遅れをとることはない。

「・・・・・安心して攻めにいけるってもんだなっ!!」

その場を北川たちに任せ、俺はフルスロットルで移動を開始した。
その先は・・・彼らの母艦、アレキサンドリア。
それを落としさえすれば、割合簡単に決着はつくはずだ・・・!

「・・・・・」

だというのに。

「・・・・・何を迷ってるんだ俺は・・・・・」

たったアレだけの接触が。
微かに交わした言葉が。
・・・明らかに俺に躊躇いを作らせていた。

その報いはすぐにやってきた。

俺の眼前にいきなり赤い塊が飛んできた。

「ち!」

慌てて回避運動を取る・・・何とか回避しきった。
だが、迷ってさえいなければ、こんなぎりぎりの回避になる事もなかったはずだ。
その高熱を伴う赤い塊・・・どうやらマグマそのものらしい・・・が飛んできた方向を確認する。
・・・そこにいたのは、全く予想外の機体だった。

「な・・・に・・・・・・?!」

その機体カラーリングは青。
胸には白虎の顔。
独特の形状の翼と、尻尾らしきものを持ち。
頭部は龍そのもので、その開いた口の中に顔があった。

その形、見紛うはずもない。

前大戦で、投入されたと言われている超古代の機動兵器・・・龍虎王・・・・・!

「なんで、龍虎王が・・・?!」
『・・・驚いたか?だが、まあ安心しろこいつは本物じゃない。
ただの複製、レプリカだよ。性能は本物の5分の1程度しかないし、変形もできない』

その複製龍虎王に乗っている奴が話し掛けてきた。

『・・・お前さっき、みさき先輩になんか言ってた相沢祐一って奴だろ?』
「・・・・・だったら、なんだ」
『いや、別に。単に気になったから聞いてみただけだ』
「・・・・・」

・・・苛々する。
さっきの女の人といいこいつといい。
・・・何でこんなに親しげに話し掛けてくるのだろう。
ここは、戦場だというのに。
自分の事を棚に上げて、俺はそう思った。

何より。

俺は目の前の敵を倒す事にさえ、躊躇いを感じ始めてる・・・・・
それが何より・・・腹立たしい。

『俺の名前は、折原浩平だ』
「・・・なんでわざわざ名乗るんだよ?」
『こっちだけ名前を知っているのはなんか失礼だろ?それに・・・』

そこでフッと笑ってから、不敵な調子でそいつ・・・折原は言った。

『自分が倒される相手の名前くらい知らないと、成仏できないだろ・・・・・?!』

・・・龍虎王が印を結ぶような動作をした。
すると、一枚の巨大の札が現れた。
それは次の瞬間には巨大な刀へとその形を変えていた。

それをパシッと手にとって、龍虎王・・・折原とやらは俺に切りかかってきた・・・・!!

「ちぃっ!!」

俺も即座にロシュセイバーを抜き放ち、それを迎え撃つ。

俺の閃光の剣と、折原の符術の剣が交錯し、火花を散らした・・・・・!!

「うおおおおおおっ!!」
『はああああああッ!!』

その交錯に打ち勝つべく。
俺は、いや俺たちは機体の力をマックスまで持ち上げていく。

『祐一っ!?』

それに気付いた名雪が、俺の所に向かおうとする。
だが。

『やらせないよっ!!』

それを白い機体が遮る。
その白い機体は、俺が相対している機体とは逆で、胸に龍の頭部があり、その頭部は白虎であった。

『・・・・・虎龍王の複製・・・?!』

虎竜王。
それはこの超機人を構成する二体の機体・・・竜王機と虎王機の組換えを変えた、龍虎王のもう一つの姿である。
おそらく、名雪の言うとおりこれもその複製なのだろう。

『浩平、こっちは抑えるから・・・』
『ああ、まかせた瑞佳』
「名雪!こっちはこっちでなんとかする!お前はそっちに集中しろっ!」
『でも・・・』
「名雪っ!!」
『・・・・・分かったよ』

そうして、青と黒が。
     白と青が。

螺旋を描くように激突する。





「女の心配とはいいご身分だな」

・・・浩平が余裕ぶって呟く。
剣と剣のスパークはいまだに続いていた。

「そりゃお互いさまだろーが・・・」

・・・祐一が不敵に笑い返す。
機体のパワーはすでにマックスに突入していた。
後はもう、根競べだった。

どちらの機体の耐久力が上なのか。
どちらの操者の意地が上なのか。





「ドリルブーストナックル!!」

栞の叫びと共に、グルンガストの腕が飛ぶ。
それを三機のヒュッケバインは軽く回避する。
・・・しかし、それは囮。

「T・LINK!超・・・ナックル!!」

北川のSR−1がドリルブーストナックルの影から現れ、微かにバランスを崩したヒュッケバインの一機に殴りかかる。

「・・・・・・っ!!」

・・・上月澪の声無き叫びが響く。
彼女のヒュッケバインの左肩が抉り取られた・・・!

「・・・これで・・・って、ちぃ!!」
「報いは受けてもらいますよ・・・!!」

攻撃する事で隙だらけになった北川の上空から、里村茜のヒュッケバインが舞い降りる。
その手にはプラズマセイバー・・・!
北川は即座に装備されているプラズマブレードを抜き放つ!

バチィ!!

「く・・・!」
「が・・・!」

斬りつけた反動で両者ともはじけ飛ぶ。
その隙を付いて、今度は七瀬留美のヒュッケバインが北川に銃口を向ける・・・とほぼ同時にエネルギーの塊が撃ち出された・・・!
しかし、それは叶わない。
グルンガスト弐式改の放ったスプリットミサイルが、北川に着弾する前にそのエネルギー弾に命中する事で攻撃を無効化させたのだ。

「そうそうやらせる訳には行かないのよ」
「・・・っ上等っ!!」





「ファング・ミサイル!!」

長森瑞佳の放ったそのミサイルは的確に名雪のゲシュペンスト・R・βに突き進む。

「・・・当たらないよっ!」

名雪はそれを高スピードで脇を通り抜けながら切り裂く事で避ける。
ミサイルが爆発した時には、名雪はすでに虎竜王の懐に入り込んでいる。
・・・かに見えたのだが。

ブン・・・

「えっ!?」

懐に入った瞬間、虎竜王の姿が霞のように解け消えた。
・・・オリジナルとは違う、高速機動による分身。

「・・・速さでは負けないもん!」

いつのまにか手の中に出現させていたソニック・ジャベリンを振りかぶる虎竜王。

「それはこっちも同じだよっ!」

名雪は腕に仕込んであるジェットマグナムを、隙ができた虎竜王の腹部に突き刺す・・・!
が、虎竜王は即座に全力後退し、着弾の瞬間にはすでに射程外から離れていた。

「・・・・・祐一を助けないといけないの。だから下がって!!」
「私も、浩平を護るんだよ!だから、引けないっ!!」







・・・分かっていたはずだった。


「ちっ・・・・・!」
少しずつだが・・・俺のゲシュペンストが押されていく。


・・・自分の理屈を通すための最悪の方法。
それが戦いだということは。



『・・・悪いが、ここまでみたいだな』
折原の声がただレッドランプの灯るコクピットに響いてくる。


・・・それでも、俺はそれを選ばざるを得ないと思っていた。
辿り着く、ために。
例え、自分たちに似た誰かを叩き潰してでも。


「ぎ・・・・ぐ・・・・・・」
いつのまにか歯を食いしばっていた。





・・・でも、それは・・・・・・





『俺たちには、俺には、負けられない理由がある・・・だから、勝たせてもらう・・・・・!』


その言葉で、切れた。







でも、何だというんだ?

あの時の、

『祐一君っ!』

笑顔。

それを奪った、炎。







あの時の、痛み。

あの時の、苦しみ。

そして、なにより、あいつの、かなしみ。







それに比べれば。
それに比べれば。
それに比べれば・・・・・・・・!





「うおおおおおおおおおあおあああああああああああっ!!!!!!」

全てをかけて、俺は咆えた。

『T・LINK、及びウラヌスシステム、リミット解除』

そんな声が聞こえた気がしたが、どうでもよかった。
この湧き上がる力と共に、目の前の敵を潰すのみ・・・・・!

『なにっ!??』

折原の困惑の声が上がる。
それはそうだろう。

さっきまでは確実に自分が攻勢だったはずなのに。
それを支えていた剣が、いきなり出力を倍化させ光の奔流となった俺の剣によって、構えていた腕ごと断ち切られたのだから。

だが、もう止まらない。
止められるはずも無い。

・・・あの全ての元凶に、あいつが受けた億倍の痛みを味あわせるその日まで。
俺が止まる事なんて許されてはいない。
あの日、あいつを救えなかった、俺にそんな資格はないのだから・・・・・!!

・・・湧き上がる力に引きずられるのは気に食わなかったが、そのままの勢いで俺が折原の機体を破壊しようとした・・・その時。

『浩平君!祐一君!下がって!!』

その声が聞こえたかと思うと、俺と折原の真ん中をメガ粒子砲の光が通り過ぎた。
・・・アレキサンドリアの主砲だ。

その一撃に俺は動きを思わず止めてしまっていた。
その間に、彼女は伝えるべき事を伝えていた。

『・・・これだけ時間を稼いだんだから文句は言われない。撤退するよ』
『・・・・・そうだな。頃合だ』

意外なほどあっさりと折原はそう言って、俺に背を向けた。
・・・俺はその背に攻撃する事が。

『じゃあな、相沢祐一。名前きっちり覚えさせてもらったぜ』

・・・できなかった。
止まれないはずなのに。
止まらないはずだったのに。
どうしても、できなかった。

折原のその言葉を皮切りに、彼らは拍子抜けするほどに手早く撤退し、この戦域から離脱していった・・・・・・・







・・・その後のことは、あまり覚えていない。
皆大した怪我もなく、全員帰還できたのはかろうじて覚えている。
帰艦し、報告して、飯を食べて・・・気付いたら自室の窓から月を眺めていた。

・・・コンコン。
ノックの音が響いた。

「どうぞ」

自分でも驚くほど無感動に、俺は言った。

「うん、入るね」

・・・名雪だ。声だけでわかった。
プシュ、と気の抜けた音と共に自動ドアは開いた。
だが、振り向きはしなかった。

「・・・・・ねえ、祐一」
「なんだよ」
「・・・私と戦った人、私に似てた」

名雪の表情は分からない。
見ていないから、分かるはずも無い。

「自分の大切な人を護りたいから戦ってた。それって、私とおんなじなんだよ・・・・・・祐一、私たち・・・・・」
「言うなっ!!」

振り向かないままで。
振り向けないままで。
俺は叩きつけるように言った。

・・・あの時。

あの川名みさきさんは、言った。
あいつと俺の名を呼んで下がるように言った。

あそこは確かに戦場で、
俺は折原とかいう奴を殺そうとしていた。

それは誰の目にも明らかだった。
そして、それは戦場では正しい事のはずだった。

それでも、あの人は俺にも攻撃を避けるように言った。
そして、俺はその言葉を、心の何処かで嬉しく思い。

・・・攻撃、できなかった。

なんて馬鹿。
でも、それで俺は安堵している。
人を殺さずに済んだ事を、安堵している。

「・・・名雪、俺たちは戦争してる。だから、もう何も言うな」

・・・それを認めるわけにはいかない。
言葉にして認めてしまえば、もう戦えなくなってしまう。
だから、俺はそう言った。

「・・・・・祐一・・・・・・」

名雪の悲しげな、心配するような声が響く。
俺はそれに答える術を持たなかった。

俺は。
こんな事で俺は。
あいつの、月宮あゆの仇を取れるのだろうか・・・・・?










何時か、何処かにあるその場所に彼はいた。
黒いヒュッケバインを操る、その男。
彼は、そこに在るものを見ていた。

その瞳は何処か悲しげだった。

そこにあるもの。
それはカプセルらしきものの中で眠る、少女。

「・・・・・大丈夫だ」

優しい声音で、彼は言った。

「いつか必ず、君を帰して見せる。君の日常へ。だから、今は眠っていてくれ」

そして、その名を呼んだ。

「・・・・・月宮、あゆ」





・・・・・続く。





次回予告。

サセボを襲う謎の敵。
その狙いは新造戦艦。
ただ思い悩む祐一は、この戦場に何を見る?

スーパーロボット大戦コンチェルト第6話「男らしくで行こう!」
乞うご期待はご自由に!





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