☆作品の前に、そして大前提として



 この作品はゲーム「Fate/stay night」、「Fate/hollow ataraxia」の設定を元にしてお借りした上で制作した2次創作であり、2次創作の聖杯戦争の物語です。
 
 原作の登場人物は一部を除き殆ど登場しません。
(この試作版に限って言えば、登場人物にそれらしき人物の話題が上がるのみです)

 この物語に英霊、サーヴァントとして登場する方々はあくまで物語上のものであり、実在の人物とは異なります。
 重ねて書きますが、実在していた方々をモデルにして、名前をお借りしただけの創作上の別人として描いております。
 また作者の知識不足ゆえの勘違いなども含めて、寛大な心でお見逃しいただければ幸いです。
(今回の試作版では殆ど登場しませんが、ネタバレ項目で触れているため記載させていただきました)

 また、独自設定も多々ございますが、

 この物語を書くに当たって、特に参考にしているのは「Fate/stay night」、「Fate/hollow ataraxia」だけで、
 その他の公式作品や、二次創作などについては完全にはチェックしきれていないため、
 ネタが被っていた場合、寛大な心でお見逃しください。

 また、TYPE‐MOON様の膨大な設定を、作者が把握し切れていない、理解し切れていない事もあり、
 解釈に間違いなどあるかと思いますが、その際もご容赦いただければ幸いです。

 以上の事を踏まえていただいた上で、それでも作品を読んでみたいと思われた方は、このまま画面をスクロールください。

 長々とした前置き、失礼いたしました。


















 とある聖杯戦争から幾年が経った、ある時。
 日本の地方都市で、聖杯発現の兆候が観測された。

 冬木の聖杯によく似たソレは、願望機としての機能も同質とみなされ、聖堂教会により新たなる聖杯候補として認定される。
 それに伴い、魔術協会が主催となり、聖堂教会から監督役が送られ、ここに新約聖杯戦争の開催が決定された。

 しかし、この聖杯が『劣化模造品』であること、
 そして、この聖杯戦争そのものが第五次聖杯戦争の複製品として開催されたことを知る者は少なかった。

 まして、これが聖杯戦争の始まりからつながっているものなのだとは、一人を除いては誰も知らなかった。

 これは本物を目指した偽者の物語であり、偽者になりたかった本物の物語であり、彼らを見守り、導いた本者達の物語である。

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 Fate/DEAD COPY prototype prologue










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 星が見える。

 満天の星空だ。

 そんな夜空が見えるどこかで、隣にいる誰かが、私に問い掛けた。

「―――。
 完全なる善人などこの世界にはいない。
 この世界には、根本的に正悪がどうでもいい者か、
 自分の本質を知りながら悪に傾くものか、
 自分の本質を知りながら正しくあろうとする者だけ。
 ―――は、どうありたい?」

 私は、その問いに――――。


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 そんな、夢を見ていた。

「――慣れない飛行機なんかに乗るものじゃないですね」 

 こんな科学の塊に乗せられて空を飛ぶから、けったいな夢を見るのだ。
 あるいは最近何故か妙にうずく右手のせいなのかもしれないが。
 正悪など私には興味がないことなのに。

 なんにしても、だ。
 実際の私は、あんな風に星空をじっくり見た事はなかった。
 そんな暇すらなく打ち込んできたものがあった。
 それは、今私が乗っている飛行機とは真逆を行くもの。
 科学は未来に進むもので、私が打ち込んできたものは過去に向かうもの、とは誰の言葉だったか。
 しかし、私はそんな言葉を鵜呑みにはしない。したくない。
 私が打ち込んできたものには、未来への可能性がきっと詰まっているはずなのだ。
 だけど、私単独では実現不可能な事をこうして実現され、他ならぬ私自身が利用している事を考えると……。
 
「嫌になりますね」

 それは、自分のネガティブな思考であり、矛盾点であり、様々なものへの言葉だった。
 様々をあえて明確化しないのは、自分なりの抵抗なのか、現実逃避でしかないのか。

(――まぁ、でも、景色は悪くないです)

 そろそろ目的地に着きそうなので、気持ちを切り替える。
 その行為まで現実逃避だと考えていては尾を引きそうなので、やめておく。
 結果失敗したのでは、本末転倒過ぎる。

「しかし、日本、か」

 目的地の名を口にして、何処となくなんとなく複雑な気持ちになる。
 それというのも、私の知り合いの日本人は、真面目な変人と恐るべきあかいあくまぐらいしかいないからだ。
 あくまで私の主観だが、彼ら二人の語る日本と、彼ら自身が著しく乖離している気がする。
 ので、もしかしたら色々と騙されているのではないか、本当の日本は人外魔境なのではと不安になる。
 ――いや、騙したのは私の方なのだが。

「……怒ってますかね、彼女」

 もしかしたら、今回の日本行きは彼女か、彼女によく似た他人――こちらは日本人ではない――になっていたかもしれないのを、強引に押し切って、さっさとこっちに来てしまったからである。
 決定していなかったとは言え、本来この件は縁深い彼女達が参加すべきだったのでは……。

「いけないいけない」

 頭を振って思考を散らす。
 こういう自分の無駄に弱気な所を変えるために、強引にここまで来たのだ。
 ここで愚痴ってるんなら、さっさと帰れ、というか代われ……彼女なら、彼女達なら、そんな事を言いそうだ。

 彼女達は、私が通う『学び舎』において、同年代の中でトップクラス、いや数世代内でも指折りの優秀な人材だ。
 私自身そう思うし、周囲の殆どがそう思っている。
 ――まぁ、優秀な人材にありがちなトラブルも起こしていて、思う所は色々あるが。

 さておき。
 彼女達には、評価された実力に見合った自負がある。
 そして、その自負が更に彼女達の実力を磨いていく。

 彼女と私の違いは、そこだ。

 決して自慢するわけではなく、幾つかの実験成果や結果などを踏まえた客観的な事実として、私だって彼女達に負けていない。
 だけど、それはあくまで同年代であって、数世代分は含まれていないが。

 ああ、そうだ。
 自分だって、そういう彼女達と同年代で、決して劣ってはいないのだ。
 多少地味かもしれないし、気弱だから前には出られないけど、劣ってはいない。
 少なくとも、周囲から不当な評価をされるほど、負けてなんかない。

 だけど、そう思いたくも、思えない。

 生まれてから十数年――あと数年で二十年になるが――ずっと閉じ篭って自分一人で研究に打ち込んでいたからか、
 私は、私のやっている事に完全な自信が持てない。

 他人の目が、評価が正しくて、今ある私のちっぽけな自負なんか簡単に吹き飛んでしまうのではないか。
 私は、それが不安でたまらない。

 だからこそ、それを払拭させる為に向かうのだ。

 彼女が参加し、生き抜いたが、勝者にはなれなかったとされる……聖杯戦争。
 その戦争に参加し、勝利する、ただそれだけの為に。

 私……魔術師たるアリス=ロックフィールドは、その為に日本へと降り立つのだ。















「はぁ……移動に時間が掛かるのは、何処の田舎町も同じなんですね」

 私がそう呟いたのは、空港からタクシーを使って、目的である街にようやく着いた時だった。
 日本という島国の中ほどにある、鈴清市という街。
 四方の殆どを山に囲まれた盆地にある、少し寂れた……少し田舎の町だ。
 正直、イギリスの私の生家と同じ位田舎……いや、私の故郷の方が田舎だろう。
 私の住んでいた辺りには、若干古びているとは言えビル街はなかったし、交通の便もここよりちゃんとしていなかった。

「ふん、空気はこっちが汚いです」

 少なからず悔しいので、あえて負け惜しみを形にしてみる。
 なんか悲しい。慣れない事はするものではないのかもしれない。
 すみません、この土地の皆さん、本当にすみません。

「……はぁ」 
「お客様、あの」

 そうして感慨にふけっていると声を掛けられた。
 タクシーの運転手からだ。
 既に運賃は支払った筈なのだが……ああ、そうかチップか。

 ――ついでだ。
 腕が鈍っていないか、テストをしておこう。

「スミマセン、こちらがチップになりマス」

 あえて不慣れっぽい日本語で話しかけながら、日本のお札を差し出す。
 多分、二番目に大きな額のお札だった筈だ。
 少々出し過ぎかもだが、今からやる事のせめてものお詫びに。

「え、いや、そうではなく……」

 何事か言い掛けた言葉はうやむやになり、彼の目はとろんとした、焦点の合わない状態になる。
 何故なのか。それは、私の目を見たからだ。

 魔術が掛けられた、魔術師である私の眼を。
 
 催眠・暗示の魔術。
 私の眼には後天的な魔眼であり、そういう魔術を特化して使える様に調整してある。
 先天的な魔眼には常軌を逸する能力が備わっている者も存在しているらしいが、私にはこれが精一杯である。

 そんな魔術に飲み込まれた男性に、私は丁寧な日本語で命令する。
 日本語という言語は複雑怪奇で表現が広く、奥深い。
 上手くすれば新たな魔術開発に繋がるかもしれない、と普段の私は思っているが、それはとりあえず置いておく。

「ご遠慮なさらずに、チップをお受け取りください。せめてものお詫びと感謝、そして報酬です。
 その代わりに、私の事は何処にでもいる日本人だと記憶しておいて下さい。
 お願いしますね」
「はい……分かりました……」

 ここから先は何が起こるかわからない。
 可能な限りは痕跡を消しておくに越した事はないだろう。

 点ぐらいは残しておいてもいいが、点と点が結びつくようなものはまずい。
 少なくとも線にさえならなければ、点同士を結び付けるまでの時間稼ぎは出来る。

 聖杯戦争は、魔術師同士の闘争……殺し合いでもあるのだから。

 そこに無関係な、魔術の存在さえ知らない人々を巻き込まない為にも、ある程度の配慮は必要だ。
 自分の為にもなり、他者の為にもなる……誰にも損がないのは素晴らしい事だ。
 そう出来ない瞬間があるからこそ、出来る時位はやっておきたい……ただのエゴなのだが。

 さておき、魔術は成功したようだ。時差ボケの心配はない。
 魔術の発動に必要な魔術回路もキッチリ稼動している。
 上機嫌になった私は、笑顔で告げた。

「それでは、元のお仕事に戻ってください。お気をつけて」
「はい……」

 そうして運転手はタクシーに戻り、発車させて去っていく。
 よし、次はホテルを探さないと。ああ、情報誌はバッグだったっけ。
 そうして、私はバッグから色々取り出そうとして……バッグ?

「……あぁぁぁぁぁっ!?」

 そこで私はバッグを下ろしていなかった事をうっかり忘れていた事に、今更ながらに気がついた。
 もしかしなくても、運転手さんが口に仕掛けていたのはその事だったのだろう。
  
「ちょっ! 運転手さぁぁぁんっ! ストップ! ストォォォップゥゥッ!?」

 当然というか何というか、私は自分の迂闊さを呪いながら、タクシーを追いかける事になった。










「ハァ、ハァ……」

 息切れ半分、精神的な疲れ半分で息を吐きつつ整えていく。
 よもや、タクシーに追いつくために強化魔術を使う事になろうとは。

 強化魔術とは、魔術師にとって基礎中の基礎たる技術。
 ものの働きを強める効果を対象に付与させる魔術である。
 ナイフに使えば切れ味が増し、パソコンに使えば処理速度を増強できる。
 私が今使ったのは、身体能力そのものを向上させる使用方法である。
 と言っても、身体に軽く魔力を通しただけで、厳密には強化魔術に近い、魔術師における準備運動のようなものだが。
 それを施した私の足は、加速し始めた自動車くらいになら追いつける。事実そうできた。

 しかし、人が通りかからなかったからよかった。
 そうでなければ通りかかった人間全員に片っ端から暗示を掛ける羽目になっていた。

「まぁ、追いついたからよかったですけど……」

 さっき掛けた暗示のせいで、私をさっきの客だと認識してくれなかったので焦ったのは、失敗談だとしても誰にも話すまい。
 もう少し後先考えないと駄目だなぁ、私。こういう所が駄目なんだよね、私。
 更に言えば、情報やメモを挟んだ情報誌そのものを海の向こうに置き忘れてきてしまったらしい。
 駄目駄目である。

「うぅ、どうしましょう……」

 辺りを歩き回ってみるが、どうにも要領を得ない。
 幾つか見かけた看板や地図を見ても、日本語だけで英語表記などはない。
 読めない事はないのだが、どうにも分かり難い。
 この街が観光を重視していない事がよく分かる。

 だからこそ、事前の準備はしてきたつもりだったのだが、その準備そのものを忘れてしまっていては元も子もない。
 不幸中の幸いで、魔術関係については忘れ物はなかったが、なんにしても今現在途方に暮れているのは間違いない。
 そうして、私が自分の間抜けさ加減を内心でなじっていると。

「そこの、貴方。困ってるんですか?」

 何処か無機質な、抑揚の少ない声音が私の耳に届いた。
 どうやら、私に掛けている声らしいと認識して振り返ると、そこには男の人、いや、男の子だろうか。
 私に近い年頃の黒髪の、日本人の青年が立っていた。
 
 おそらく、学生なのだろう。
 胸に何かのエンブレムが刺繍された、半袖の白シャツとパリッとした紺色のズボン。
 多分エンブレムは校章で、となるとこれは学生服――昔、映画で見た魔法学校の制服に似てるような気がした――なのだろうと思われる服を着ている。

 割とガッチリとした体付きで、背は私より頭一つ分半か、二つ分弱大きい。
 そうして見上げた先にあった顔は、日本人にしては彫りが深い。
 西洋人寄りの日本人なその顔は、何処か無表情というか、無感情というか、こちらに対する関心が薄そうであった。
 いや、初対面なのだし、こちらへの関心が薄いのは不思議ではないのだろうが。
 それならこちらに声を掛けるものだろうか、などと思っていると、彼は少し眉を寄せつつ口を開いた。

「How are you……、あー……」

 簡単な挨拶というか、声の掛け方というかで始まり、ひどく稚拙で無機質な、それでいて発音はしっかりした英語で彼は話し掛けてきた。
 こんにちは、なにかお困りですか? 道、迷ってる?というような感じである。

「ダイジョブです、わたし、日本語、分かります、少し?」

 少し悩んだ末、不慣れを装って返事する。
 不利になりたくなかったので、日本語はしっかり勉強してきたが、何処に誰の目があるのか分からないからだ。
 さっきまでの醜態はともかくとして、素を晒すのは、魔術師になるのは、ちゃんとした自分の空間、工房を作ってから、それからでいい。

 ともあれ、そうして答えると、安堵なのか青年は小さく息を零す。
 英語で喋り続けるのには不安があったのだろう。
 かくいう私も日本語を使うのは不安だが、そうも言っていられない。

「エト、私、旅行中です。ホテル探してて。でも、よく分からなくて」

 そう言いながら私はどうしたものかと考えていた。
 こうして事情を話したところで、彼が地元民ならホテルの場所をいちいち覚えていない可能性の方が高いからだ。
 私だって自分の町にあった大きなホテル、ならともかく、小さいホテルなんかいちいち覚えていないし、知らない。
 まぁ、適当に言葉を濁して、タクシーを改めて捜したほうがイイかもしれない。
 少なくとも、適当に道を聞くよりは確実だろう……そう思っていると。

「ホテルとは違いますけど……旅館って、分かりますか?
 それなら、一つ案内できる場所がありますが」

 彼は淡々とした口調でそんな事を言ってきた。
 旅館……確か、古い日本の在り方としてのホテル、そういう認識でよかった筈だ。
 個室に鍵があるのかないのか、出入り口が所謂フスマのようなものだと防犯、秘密その他が気になるところなのだが。

「んー……」

 ふと空を見ると、既に日は西に沈みかけている。
 今から改めてホテルを探していたのでは夜になってしまう。
 やはり、ホテルを先に予約して迎えに来てもらうべきだったか……と思ったが、今となっては後の祭りである。

 何分大急ぎで準備したので、行き当たりばったりの部分があるのは否めない。
 聖杯戦争への魔術的な備えは完璧だが、その他については雑になっていた。

「背に腹は変えられないか」 

 そういう日本語があったなぁと思いながら呟いてみる。
 実際の所、そういう状況だ。
 どの道、魔術工房は別荘で構築するつもりだったし、
 それをリストアップしていた幾つかの候補から絞るまでは、ごく普通の旅行者としてホテルに泊まるつもりだったのだ。
 不安であれば一泊した後で、別のホテルに移ればいい。

 資金については、以前の聖杯戦争で色々やらかしたマスターがいたらしく、
 一般人への露見を防げるのならば、と、結構な資金提供を認めてもらっている。
 まぁ逆に露見しかねないほどの騒動を自ら起こした場合は、逆に色々請求されかねないらしいが。
 以前の聖杯戦争に関わっていた『とある魔術師の家系』も、今回の聖杯戦争に引き続き何故か資金援助してくれているらしいが、そういった事態は出来れば避けたい。

 閑話休題。

「?」
「あ、イエ、そうでしたら、お願いできますか?」
 
 私の呟きが聞き取れなかったのか、流暢な呟きを不審に思ったのか、微かに首を傾ける青年に、私は言った。

 もしかしたら。
 彼がマスター……聖杯戦争に参加する魔術師の一人で、これが私を罠にかける為の何かしらの可能性は、ある。

 だが、正直な所、その可能性は天文学的確率で低いだろう。

 私が聖杯戦争参加を(密やかに)表明し、こっちに来るまでは割と短期間だった。
 更に言えば、それまでは別の魔術師が参加する可能性が濃厚だと言われており、他の魔術師達の注目はそっちに行っていた。

 であるならば。
 日本に到着して、ある程度の期間が経っていたのならまだしも、到着直後の今に限っては、殆どノーマークのはずだ。

 そんな私の動向を逐一チェックしている存在などいるはずがないし、ゆえに、今ここで敵と遭遇などするはずがない。

 偶然遭遇する可能性もあるにはあるが……目の前の青年には、魔術師の匂いは全くしない(現時点では)。
 ある程度年季を重ねた魔術師には、なんというか、そういう雰囲気というか気配というか、そういうものがあるのだ。
 彼にはそういうものはない。
 魔術師でないのなら、今もそうだし、これから彼がマスターとなる可能性もない。

 つまり、目の前の青年が聖杯戦争に参加する、している可能性は全くのゼロ。

 まぁ、私個人に対して良からぬ事を考えている、という可能性の方はないでもないが。
 
 それなら私の独力でなんとか解決出来る。
 痩せても枯れても魔術師の端くれなのだ。一般人にそうそう遅れをとるつもりはない。

 というか、私なんかを好んで襲う物好きなどそうそういるまい。
 昔から、男子に散々からかわれ、嫁の貰い手なんかないだの好き勝手いわれ続けた身の上は伊達ではない。

 あ、なんか考えてて悲しくなってきた。
 思考を切り替えよう。うん。うんうん。

 そういう思考を、彼との会話中に殆ど纏め終え、方針を決める。
 そのタイミングで青年が言った。

「分かりました。では、案内を……。」

 何事か言いかけて、彼は私をジッと見つめてきた。

 彼には申し訳ないのだが、少し怖い。
 少し厳つい顔付き&無表情で、こちらを上から見下ろされると、なんとも言葉に出来ない怖さがある。

 魔術関係での多少の怖い事や危険には遭遇・経験した事があっても、
 こういう経験……異性と向き合う事はあまりなかったので尚更である。

「え、えと、何か……」

 念の為、催眠の魔術でも彼に掛けるべきなのだろうか、と思案しつつ、恐る恐る問い掛ける。
 すると、彼は数度瞬きした後、視線を何処か明後日の方に逸らした。
 そうしてから無感情な声音で、日本語に不慣れなこちらへの配慮なのか、ゆっくりと言った。

「いや、その。荷物が多いみたいですから。
 こっちに迎えに来てもらったほうがいいか、そう思ったもので」

 ああ、そういうことか、と納得する。
 彼は私自身ではなく、その後ろに詰まれたスーツケースその他の荷物を見ていたのだ。
 それをどうするのかを思案してくれていた事を、私が勝手に誤解してしまっていたらしい。

「迎えに、って、その……」

 私は、そのバツの悪さを誤魔化すというか、そもそも謝罪すべきなのかどうなのか迷ったあげくに、気になっていた事の方を優先して口にしてしまう。
 彼は逸らしていた視線を、僅かにだけ戻した後、またあらぬ方向に視線を向けながら答えた。

「迎えの車を、呼べます。実は、その旅館……俺の家なんです」
「……え?」

 彼の口から出た予想外の言葉に、私は思わず目を丸くした。
 









「……シゲさん、ありがとうございました」
「なんのなんの。四代目に頼まれたら例え火の中水の中……」
「四代目は勘弁してください。兄貴もいるし、俺もまだ継ぐとは決めてないんで……ああ、ちょっと待っててください」

 車に揺られて十分後。
 そんな会話を停車後に交わしつつ、先程の青年は車を降り、私が座っている後部座席のドアを開いた。

「ありがとう、ございます」

 御礼を言いつつ、詳しくない私でも古い車種だと分かるワゴンから降りる。
 そんな私の前には、観光場所としても通用しそうな風情の大きな日本家屋があった。

 これが旅館というものなのか。
 案内されるままに出入り口……小さな門を越えると、左右には庭園が広がっていた。
 緑色の木々、石でできたオブジェ……確か名前があったはずだが思い出せない……。
 私でもちゃんとした手入れがされているそれらを見ていると、なんだか不思議な感覚に包まれる。
 これが、噂に聞くワビサブ、じゃない、ワビサビ?なのだろうか。

 そうして色々考えているうちに、旅館の玄関に到達。
 少し気後れしていた私に、少し先を行く青年が振り返る。
 静かにこちらへと視線を送る様子に、あるいは私の荷物を運んでいる姿に、急かされているような気分になった私は、恐る恐るながら意を決して旅館の中に足を踏み入れる。

『ようこそお越しくださいました〜』
「っ?!」

 そこには十数人の従業員達が居並び、挨拶と共にこちらに頭を下げてきた。
 これがジャパニーズ的礼儀の極地……!? 
 そうして戸惑っていると、その中で一人だけ目に付いて衣装が……着物が違う女性が、私に声を掛ける。

「遠い所をはるばると、ようこそお越しくださいました。
 わたくし、この旅館の女将……ホテル風に言えば、総支配人の十深喜代美と申します」
「あ、はい、その、丁寧なご挨拶とお出迎え、大変恐縮……デス」
「よかった。本当に日本語が分かる方ですのね」

 胸に手を当てて、ホッとする様子の女性……十深喜代美さんは、続けて言った。

「何分、このような辺鄙で観光名所などない土地ですから。
 外国のお客様を迎えたことなどあまりなかったものでして」
「エト、あまり、お気になさらず、普通に接していただけると助かり……マス。
 私も、日本語の勉強になりマスから」
「ありがとうございます。こちらこそ、そう言っていただけると助かります」

 穏やかな笑顔を向ける彼女は、女の私でさえドキリとする魅力があった。
 そうしてドギマギしつつ、私は名前の記入や必要事項その他の確認を進めていく。

 そんな私の様子を、先程の青年ともう一人……ミズ十深の横に立っていた、私より少し年下だろう少女が眺めていた。
 少女はニコニコと、青年は少女やミズ十深とは対照的な無表情さで。
 ちなみに、他の従業員達はこちらへと一礼した後で、おそらくはそれぞれの仕事へと去っていった。
 
「それでは、ひとまずお部屋へとご案内いたします。宗二、迎」
「はーい」
「……」

 ムカエとソージ。少女と青年の名前なのだろう。
 呼ばれた二人は、歩み寄ってミズ十深の横、私の前に並んで立った。

「この二人は、私の娘と息子です」

 ワッツ?! え、嘘、マジですか? 
 私と同年代の子供がいるようには見えないんですが。
 ミズ、いやミセス十深は、むしろ私から少し年上くらいだと思っていたのにっ。
 そうして内心動揺している私に微笑みかけながら、彼女の言葉は続いていく。

「普段は学生をしてますが、時間のある時はこの旅館の手伝いもしております。
 貴方とは年頃も近いですし、街の案内もそれなりに出来ますから、遠慮なく使ってやってください。
 互いにいい勉強になると思いますし」
「お心遣い、ありがとうございます」

 ミセス十深は、私の、建前上の旅の理由である『日本の様々な場所を探訪し、レポートする』を信じて、気遣ってくれたようだ。
 聖杯戦争前に土地勘を掴んでおく上でありがたいし、気遣いそのものも嬉しかった。
 なので、日本式に則って深々と頭を下げる。

「別荘を見つけるまでの期間、お世話になります」
「はい。でも別荘を見つけても、滞在中は遠慮なくこちらにいらしてくださいね。
 不慣れな異国だと分からない事もたくさんあるでしょうし。
 私達に出来る事、分かる事なら、お手伝いしますから」
「重ねて、感謝します」
「本当に日本語お上手ねぇ」
「……イエ、そんな事はないデス」
「ご謙遜ね。では、わたくしはこれで失礼致します。
 宗二、迎、後はお願いね」
「うん、任せて母さん」

 元気よく返事する……迎と、静かにただ頷くのみの……宗二。
 本当に対照的である。

「えっと、その、はじめまして。
 十深迎……ムカエ・トオミ、デース」
「ソウジ・トオミ、デース」

 いや、なんで二人して変な片言っぽい感じに?
 もしかして、私に気を遣ってくれてるのだろうか。 

「改めましてはじめまして。アリス・ロックフィールドです。
 あの、二人トモ、普通に話していただいて結構デスから。
 ネイティブなジャパニーズ、聞きたいですし。
 あと、もっと砕けた話し方でお願いしマス。
 年頃、近いですから」

 実際、同年代・年下の人間に恭しくされるのは落ち着かない。
 例え客だという建前があったとしても、だ。

「え、いいんですか?」
「ええ、その方が、いいです」
「じゃあ、砕けていくねアリスさん」
「うん、えっと、ムカエ、ちゃん。それから……えと、ソージさん」
「呼び捨てでもいいです……いいけど。ロックフィールドさん」
「じゃあ、間を取って……ソージ君、でいいデスか?」
「ロックフィールドさんさえよければ」
「あの……アリスでいいデスよ?」
「……」
 
 私の言葉には答えず、宗二君は頬を掻いて、背を向けた。
 
「もう、お兄ちゃんってば……ごめんね、アリスさん。
 お兄ちゃん、ぶっきらぼうで中二病だから」
「中二病? 何かの病気デスか?」
「ああ、分からないかー。まぁ、その、かっこつけたがりというか、設定作りたがりというか」
「……。ああ、そういうコト」

 年頃の男の子がよくやる『背伸び』の延長線上だったり、曲がり角だったりする、アレの事だろうと納得する。
 不良的な事やって悪ぶったり、変な事やって誰かの気を引きたがったり。
 その辺りは世界共通の通過儀礼なのだろうか。
 
「実際にはもうちょっと深刻というか、変な思い込みしてるというか……その、」
「……迎。別に俺の事を話すのはいいけど、まずは仕事だ」

 改めて私の荷物を持ち直しながら、宗二君が言う。
 その表情は先程から変わらない無表情、声音も淡々としたものだったので、彼が怒っているのかどうなのかは、よく分からなかった。

「あ、そだね。じゃあ、部屋まで案内からついてきて。
 ねぇねぇ、アリスさんって、何処の国の人?」
「イギリス、デスよ」
「……ふむ」

 そんな雑談をしつつ、私は部屋へと案内されたのだった。










「……ふぅ」 

 部屋や旅館の中を案内されたり、避難経路を教えてもらったりした後、私は暫し一人の時間を過ごしていた。
 改めて今後の事や荷物を確認しておきたかったこともあるが、やはり少しでも一人に戻りたかったのだ。
 やはり、私は一人でいる方が性に合う。

「旅館、素敵ですね」

 見せてもらった日本庭園や、今窓際で座りながら眺めている山の景色に想いを馳せていると、そんな言葉が自然と零れた。
 私の故郷とは、同じ田舎町でも景観の良さが違う。

 季節によっては、緑色の山々も色を変えるというし、夏に行われるという花火大会を眺めるには、ここは絶好のポジションだという。
 旅館敷地内に湧いている温泉も気になるところだ。

 心配していた防犯についても、日本風の引き戸の奥に普通に鍵付きの個室用ドアがあって、予想よりずっといい。
 流石にホテルとは勝手が違うが、文句を言うところではない。
  
「普通に観光で来たかったです」

 しかし、そもそも聖杯戦争がなければ、ここに来る発想すらなかっただろう。
 そして、戦争の行方如何によっては、こんな穏やかな場所を踏み荒らす事になる。
 いや、如何によらず、知っている人間と知らない人間がいるだけで、この街を荒らすことに変わりはない。
 いかに聖堂教会、魔術協会の両組織が隠蔽その他行ってくれるとは言え、その事実は変わらないのだ。

「……ん?」

 そんな事を考えて、下降気味だった気分がドアのノックで霧散する。
 聞いていた食事の時刻には少し早いようだが……。

「ハイ、なんでしょう?」
「ロックフィールドさん、その、宗二だけど。
 君に少し用事があって……邪魔してもいいだろうか」
「はぁ。構いませんが」

 妹の迎なら、先程色々話してみたいと言っていたから分かるが、彼が私に用事……なんだろうか?
 部屋の掃除にしても、その他雑用にしても、早すぎる気がするし。

 まさか、こちらの素性を疑っている?
 私が気付き損ねただけで、タクシー追撃ダッシュを見ていた?
 いやいや、まさか。

 疑問に思いながらもドアを開くと、両手に何かがたくさん入っているビニール袋を持った宗二君が立っていた。
 
「えと……?」
「済まないけど、ほんの少しだけ時間を借りたい。少し部屋に入っていいか?
 嫌ならここで済ませるけど、それだと少し時間が掛かるかもしれない」
「――どうぞ」

 荷物の確認は済ませてあるから、部屋の中に入れるのは問題ない。
 多少の警戒心を抱きながらも、部屋に招き寄せる。

「すまない」

 軽く会釈して部屋に入った彼は、テーブルを挟んで向かい側に座る。

「それで、何か?」
「……ロックフィールドさんは、イギリス人なんだよな?」
「ええ、そうですが……」

 まさか、倫敦の時計塔の事を、魔術協会の事を知っている……?

 馬鹿な、ありえない。
 いや、もしかして、何者かに操られている……?
 なら彼が持っている荷物は? 
 大量の荷物に紛れて、何か武器を隠し持っていたら……?

 我ながら突拍子もない発想だとは理解している。
 だが、私が参加しようとしている聖杯戦争は常識が通用しない部分も多々あるらしい。

 既に何らかの英霊が召喚されていて、未知の力を使っていないとは限らない。

 そして、彼。
 十深宗二の漂わせる雰囲気は、何か、変だ。
 妹・迎によると単なる『病気』らしいが、それでは説明出来ない、言葉に出来ない何かが、彼にはあるような気がする。
 私の眼で見たところ、彼の体温は先程より僅かに上昇している。
 真剣な彼の殆ど動かない表情も、それを助長している。

 まさか、いや、しかし。

「じゃあ、これは欠かせないんじゃないか……」

 そんな逡巡の中、彼が袋から何かを取り出そうとする。
 刹那、私は息を飲み、小さく呪文を口にして、魔術回路を稼動させる。 
 いざと言う時は、テーブルをひっくり返し、場の混乱を突いて彼を……!

「――って、え?」

 そんな覚悟でいた私の警戒は、簡単に霧散した。
 テーブルに置かれた、ティーカップに。
 さらに、ティーカップを置くソーサーや、ティーポッドに、未開封の何かの箱……察するにお茶関係のものらしいが次々と並べられ、積み重ねられていく。
 警戒は解いても困惑している私に、宗二君は淡々と告げた。

「紅茶。イギリス人は、紅茶を日常的に飲むんだったろう?
 確か、アフタヌーンティーだったっけか」
「……」
「だけど、生憎うちには紅茶の備蓄がなくて。見てのとおりの日本旅館だから。
 だから、近くの店で手当たり次第に買ってきたんだ。
 でも、茶葉には詳しくないし、ロックフィールドさんの好みも分からないから、思いのほか大量になってしまって。
 これ全部進呈してもいいんだけど、全部部屋に置くと邪魔になりそうだし。
 だから、君に見て選んでほしい、そう思ってきたんだ」

 呆気に取られている私に、宗二君は穏やかな声で状況を説明してくれた。
 ああ、つまり、なんだ。

「慣れてない土地だと、故郷の味が恋しくなるものじゃないかと、俺は思う。
 俺的に海外旅行する時、しょうゆとかは欠かせないと思うし。
 勿論、故郷の味とは似ても似つかないかもだけど、ないよりましだと思って。
 ロックフィールドさんの貴重な時間を邪魔するのは申し訳ないけど、協力してくれると助かる……」
「――プ。あはは……」 
「? ロックフィールドさん?」

 思わず笑いが零れる。
 自分の間抜けさ加減と、色々な勘違いに。

「何か、おかしい事でも?」
「ごめんなさい。私、少し勘違いしてて」
 
 体温の上昇については、何てことはない。
 私の為に、慌てて紅茶を買って、持って来てくれたからなのだろう。
 最初の最初から、彼は純粋に私の事を気に掛けてくれていたのだ。 

 これが全て演技だという可能性や、彼自身気付いていない何者かの作為の可能性は、皆無ではない。
 傍から見れば滑稽だろうが、完全に警戒を解くつもりはない。

 だけど。
 今この瞬間だけは、それを忘れてもいいだろう、と私には思えた。

「私、知らず何か粗相してしまってて、てっきり貴方にそれを注意されるのかと」
「いや、そんな事はないけど。
 むしろ、ロックフィールドさんは、俺の思ってる外国人よりずっと日本に詳しいみたいでビックリしてる」

 建前上の『勘違い』を述べる私に、彼は表情を変えないままに驚きを口にした。
 全く驚いていないように見えるのだが……わざわざ言うべき事ではないだろう。
 どうやら、この無表情は彼の個性らしいから。
 あるいはこれも迎ちゃんの言う『病気』なのかもしれないが。
 
「そんな事はないデスよ。
 では、折角の厚意ですので、紅茶、選ばせていただきますね」
「どうぞ」

 イギリス人だからと言って、いつも紅茶を飲んでいるわけではないが、それなりには飲んでいる。
 ゆえに、宗二君の気遣いはありがたい。
 感謝しつつ、私は買ってきたものを確認させてもらう事にした。










 それから幾日かが過ぎ。
 宗二君やミセス十深の案内もあって、無事に条件に合う別荘の所持権を入手した私は、十深旅館を出る事になった。

「ここか」
「はい」

 十深旅館の出してくれた車から別荘の玄関先に荷物を降ろして、私達は言葉を交わす。
 休日だった事もあって、宗二君もわざわざ手伝いに来てくれている。

「街から結構離れてるけど、大丈夫?」
「大丈夫です。
 買い込みも手伝っていただきましたシ。
 向こうから手配した荷物もじき届きますから、不便はなくなるでしょうシ」
「そうか。じゃあ、中に……」
「いえ、後は自分でやります」
「しかし、結構な荷物だし、ここまで来たら……」
「逆です。ここまで来たからこそ、後はもう、一人でやりたいんです」

 一瞬だけ、私と宗二君の視線が交錯する。
 ――先に視線を逸らしたのは、どちらだったか。あるいは、同時だったのか。

「ロックフィールドさんが、それでいいのなら」
「はい、お二人にはここまで手伝ってもらって申し訳ありませんケド」
「別にいいよ。俺が手伝いたかったから手伝っただけだ」
「気にしないでくだせぇよ、アリスさん。
 久しぶりの華やかなお客様だったんで、俺っちも嬉しかったし」

 宗二君と、数日まで私を十深旅館まで運び、今日も送ってくれたシゲさん(本名はちゃんと聞く機会がなかった)の言葉に、思わず顔が綻ぶ。
 二人とも、いや十深旅館の人達が、今日まで私に良くしてくれていた事を否が応でも思い起こさせる。
 本当に、皆良い人たちだった。

 でも、だからこそ。
 そろそろ、それを断ち切っておかなければならない。

「本当にありがとうございました。
 ミセス十深……喜代美さんや迎、皆さんにもよろしくお伝えください」
「おうともさ」

 シゲさんはサムズアップして答えると車に戻っていく。
  
「じゃあ、俺も行くけど……何かあったら、連絡してくれていいから。
 迎も、母さんも、同じ様に……いや、俺より強くそう思ってるから」

 淡々と、無表情に宗二君はそう告げる。
 その色の無さは、出会った時と何も変わらない。

 だけど、私の事を少なからず心配してくれているのは、信じられる。
 確信ではないけど、きっとそうなのだと思える。
 その根拠である紅茶セットの入った、日本に来て増えた荷物入れを持ち直しながら、私は言った。

「ええ、そうさせてもらいマスよ」
「……」

 瞬間、宗二君の無表情が変化した。
 ほんの少しだけ目を細め、ほんの少しだけ眉を上げた、ただそれだけ。
 
 何故だろう。
 表面上は少しのそれが、私にはとても大きな変化に見えた。

「宗二、君? どうか、しましたか?」
「……。何もしないよ。じゃあ」

 そう言って、彼は去ろうとする。
 そんな彼に、何故か私は声を掛けずにはいられなかった。
 
「宗二君っ」
「――」

 振り返ったその顔は、無表情だ。
 出会った時と同じ、無表情。
 それにごく微かな痛みを感じながら、構わず、私は言った。

「……私が、この街にいる間、気をつけてください」
「――?」
「深い夜に、人気のない場所に、異常に。
 入り込まないよう、皆や、貴方の親しい人を、気遣ってあげてください」
「それは、どういう」
「……その、防犯とか、そういう意味です。
 なんだか、私、そういうの、勘が良くて。だから――」

 それ以上は言葉にならない。いや、してはいけないのだ。
 それを言うのなら、そもそも言うべき事ではなかったのかもしれないが。
 だけど、私は言い訳のような言葉を、まだ探していて。

「分かった。よく、分からないけど」

 それを。
 宗二君が断ち切ってくれた。

「ロックフィールドさんの忠告、ちゃんと覚えておく。皆にも伝える。
 だけど、君がこの街にいる期間、不明確なんだろう?
 だから、街にいる間、もしくは街から出る時、メールなりで迎や俺に連絡してくれると助かる」
「……はい。そうします。えと、」
「――ありがとう」

 それは、別れの言葉であり、彼なりの気遣いだったのだろう。
 その言葉を最後に彼は、こちらに振り返る事無く車に乗った。

 私は、そうして去っていく車を、ただぼんやりと見送る事しかできなかった。



 






「……今日から、一人ですか」

 十深旅館に始めて足を踏み入れたときは、いつまでここにいる事になるだろうと不安だった。
 それを、景色や物珍しさで誤魔化していたのだと、今になって気付く。
 しかし、こうして明確に独りになると、なんとなく寂しさを覚える。

 だけど、だからこそ、私は早急にあそこから出なければならなかったのだ。

 あそこは、あまりにも……私の実家に似ていた。

 私の家は、私の家族は、魔術師にあるまじき自由さがあった。あたたかさがあった。
 ただ単に、魔術に傾倒する私が、そこから距離を取っていただけで。
 ただ、私だけが普通の魔術師であろうとしただけで。 

 喜代美さんは、母のように接してくれていたから。
 迎は、弟のように無邪気に笑ってくれたから。
 旅館の人達は、故郷の人々のように優しかったから。

 そういったことを、つい考えてしまった。

 ここから先は、そんな甘えなど許されない世界なのに。

 いや、元々私はそういう所から自分なりに良い意味で脱却しようとしていたのに。

 魔術師であろうと、魔術を極めたいと思っている私にとって、故郷はあまりにもあたたか過ぎた。優しすぎたのだ。

 何か一つを極めるという事は、辛く険しい道のはずだ。
 何の犠牲もなく為せる事はないはずだ。

 それが、魔術という『根源』に至る道なら、尚の事。

 だというのに。
 故郷にいると、私は辛くなかった。

 私がどれだけ魔術に打ち込んで、色々な事をおろそかにしても、何も変わらない世界――優しい世界。
 得難い世界、居場所なのだとは分かっている。分かっていたのだ。

 だけど、ずっとそこにいたら、私は私の夢を見失ってしまいそうで。
 道の半ばで本当に辛い事に出会ったとき、圧し折れて、何もかも失ってしまいそうで。

 だから、私は。
 推薦を受けて、故郷を出て、倫敦の時計塔に辿り着いた。
  
 ここでなら、今まで以上に魔術を学べる。集中出来る。
 そう思っていた。

 だけど、思ったより何故か上手く行かなかった。

 環境はいい。故郷に比べれば雲泥の差だ。
 研究に必要なものは比較的集めやすいし、
 それぞれの己が研究については当然ながら語れなくとも、魔術そのものについて語り合える人間も増えた。
 
 だけど。
 何処か、何かの違和感が拭えなくて。

 それを振り切るように、今まで以上に成果を上げていったけど。

 それでも、評価される事は少なくなっていって。 
 そんな私と対照的に、ぐんぐん成果を上げて、周囲から評価されていく人達が現れて。

 そんな彼女達は、育ちが自分よりずっと純粋な魔術師で。
  
 今の自分のままでは、どうひっくり返っても勝てないと思ったから。

 だから、ここに来たのだ。
 自分の中の甘えを、ギリギリの世界で斬り捨てていく為に。
 かの彼女が勝てなかった世界で勝ち抜く事で、自分自身を証する為に。

 聖杯戦争に勝利する事で、私は私を、魔術師アリス=ロックフィールドを証明する。

「だから、一人だからなんだってんです……」

 一人吐き捨てて、私は準備を始めた。
 こうして一人になった以上、準備が整った以上、足踏みをしている暇なんかない。

 先程までの事は、今からの戦いを前にした最後の休暇だと割り切ろう。
 
 ここから先は、魔術師の私になる――

「……よし」

 そうして私は、久しぶりに魔術に掛かりきりになった 
 十深旅館にいる間は、日常的にやっている魔術回路の稼動確認・点検も周囲への警戒の為に行わなかったので、かなり久しぶりな感があった。

 屋敷全体にひとまず簡易結界を張り終え、これと決めていた部屋に工房を練り上げ、その後は、ただひたすらに準備を進めた。

 そう。
 聖杯戦争の肝、英霊召喚の為の魔法陣の作成である。

 流石に、ここで手抜きや失敗は許されないので、二重三重に確認を行いながら陣を形成していく。

 最近は魔方陣についても技術革新が起こっている。
 私はまだ手をつけていないが、電子的な魔術による霊的存在の召喚も一部で成功したとか。
 
 興味深い事例ではあったが、
 今回のような大一番に、博打は打てないので今回は我慢しておく。
 
 そうして、気付けば一夜明けて――更に、もう一夜明けて。

「ん。こんなものですか。
 思ったより時間が掛かりましたが、まぁいいでしょう」

 明るくなっていく窓の外を眺めて、経過時間を嘆きつつ、それでも成果には満足して呟く。

 召喚陣を作っている途中で、やはり結界が薄過ぎると強化してみたり、警戒が足りないかもと色々な準備を練り直したりしながらだったためだが。
 無事に完成まで漕ぎ着けたので、それらの行動にも意味はあったのだろうと思っておく。

「さて、では召喚に取り掛かりましょう」

 少し休んでからにしようか、とも思ったが。
 正直、体が高揚していて眠れそうにないし、そもそも全然疲労していない。

 一つの魔術の実践・実験では最大十日連続徹夜した事がある身の上としては、二日程度はどうという事はない。

 というか、魔術研究の徹夜で疲れた、少なくともそう思った事は、私にはない

 何故なら魔術は楽しいからだ。
 今の時代、科学で置き換えられる魔術が増えているとは言え、紛れもない神秘には変わらない。

 魔術に触れている時、私は御伽噺の魔法使いになった気分になる。
 今の私は、本当の魔法や、魔法使いがどういうものなのか知っているが、それでも、その気持ちは変わらない。

 今回の英霊召喚なんて、その最たるものになるだろう。
 聖杯の力を借りてとは言え、自分の魔術で過去の英雄を呼び出せるなんて、夢のようだ。

 ……まぁ、問題は。
 大急ぎで出て来て、触媒を準備出来なかったため、どんな英霊を呼び出せるかが全くの未知だという事なのだが。

 いや、実際には準備の時間を作る事は出来たし、考えもした。

 だが、最終的に私はそれを切り捨てた。
 短時間で準備出来る、自分と相性が良くて高い能力の英霊など、想像もつかなかったからだ。
 強力な英霊でも自分と相性が良くなければ即座に切り捨てられる――そのリスクを避けるべく、私はあえて触媒を探さなかった。

 あるいは、時計塔での師の一人である、かのロード・エルメロイ�鏡い�、赤い彼女に頼めば、聖杯戦争に参加した英霊を召喚可能な遺物を借りれたのかもしれない。

 そうすれば、少なくとも意志の疎通が可能……だと推察される英霊召喚は出来るだろう。
 だが、それも私は却下した。

 前者はともかく、後者は出し抜いた上での来日なので、そもそも問題外だが――それを抜きにしても、彼らを生存に導いた英霊を召喚するのは気が進まなかった。

 出来れば、彼女達とは違う、自分の呼び出した英霊で聖杯戦争を勝ち抜きたかったからである。

 生存や勝利を考えるのなら、決して正しくはない思考だろう。
 魔術師としても合理的とは言い難い。
 魔術師であろうとする私にとって、矛盾とすら言えるかもしれない。

 だが。
 それでも、私はそうしたかった。
 理屈ではない、ただの我が侭だと分かっていながら。

 私にとって、未知の魔術が記された書物を読むのと同等以上の楽しみや煌めきを、奪われたくなかったから。

「告げる――」

 その気持ちを最高潮に高めながら、私は魔術を、陣を起動していく。

「汝の身は我が下に、我が命運は汝の剣に。
 聖杯の寄るべに従い、この意、この理に従うならば応えよ」

 陣から魔力の光が溢れていく。
 それに伴い、私は高揚を冷静へ、過去への想いを未来への希望へと変換していく。

「誓いを此処に。
 我は常世総ての善と成る者、
 我は常世総ての悪を敷く者。
 汝三大の言霊を纏う七天、
 抑止の輪より来たれ、天秤の守り手よ!」

 光は最高潮になり、そして――現れた。

「――ん」

 召喚は、成功した。

 小さな息とともに、跪いていた状態から立ち上がる『彼』。
 男性なのか女性なのか判断がつかない、中性的な、整った顔立ち……正直、見惚れてしまった。
 身に纏っているのは……様々な要素が混じり合った装束。
 青いキモノ?らしきものを羽織っているがその下に着ているのは、現代的な、揃ってデザインされたのであろう黒い上下の衣服。
 腰に差しているのは一振りの……日本刀?
 一体、いつの時代、何処出身の存在なのか、外見からでは判断できない。
 そんな『彼』は、少し高い視線から……宗二君と大体同じ位の身長だ……私を見下ろし、薄く笑った。

 その微笑みは、如何なる意図なのか、私には計りかねた。
 友愛か、軽蔑か、それとももっと違う何かなのか。
 
「どうやら、貴女が僕のマスターか」
「……」
「どうかしたのかな? おーい」

 何故なら、その時の私は成功した嬉しさやら、英霊との対面による緊張や、そも緊張するような存在なのかどうなのかという回転しまくる思考などなど、絡み合っていたからだ。

 だけど。
 それは数秒でどうにか解決する。

「ええ、そうです」

 どうやら初対面で速攻攻撃しかけられて殺されるような事はないらしい。
 その事には安堵しつつも、今からの対応次第ではそうならないとは限らない事を意識して、言葉を選んでいく。

「私の名は、アリス=ロックフィールド。
 倫敦の時計塔、その末席に名を連ねる、未熟な魔術師です。
 今回は、聖杯戦争への参加、そして勝利の為に、貴方を召喚させていただきました」
「の、ようだね。ちなみに、触媒は何か使ったのかな?」

 何処か軽い口調で話しかけてくる『彼』。
 まるで昔からの知人のような、そんな感じだ。
 
「いえ、何も。
 触媒を慎重に選び、準備する期間がなかった事、様々な事情、そして、何よりも私の我が侭で、触媒無しの召喚に臨みました」
「我が侭?」
「はい。私は、私が召喚した英霊と共に聖杯戦争に挑み、勝ち抜きたい、そう思いました。
 既に召喚された事のある誰かや、既知の誰かではなく、
 初対面で、同じ様に聖杯を求める、誰かと」

 対等、なんて言葉を使うのはおこがましいかもしれない。
 相手は英雄として呼び出される存在なのだ。

 だけど。
 私は、ちゃんと『一緒に』戦いたかった。
 一方的に頼るのではなく、互いに支え合って。

 相手が英雄だからこそ、そうありたかったのだ。
 内面でどんなに萎縮していても。

 だけど、それはやはり私の我が侭だ。

 英雄ともなれば、敬われるのが当然の存在だ。

 英雄譚の後期ともなれば、主人公は地位も名誉も併せ持っている状態が殆どだ。
 終焉こそ悲劇的ではあるが、かのアーサー王などはまさにそうだろう。

 そういった存在にとって、私のような小娘の言葉など妄言の類でしかない可能性だってある。
 勿論、英雄なればこそ、高潔な魂を持ち、誰に対しても真摯に接する存在も少なくないのだろうが。

 果たして、眼前の人物は、私の事をどう捉えるのか……恐れながら、微かに震えながら、視線を外さずにいると。

「ふむ。
 つまり……貴方は、運命に懸けた、そういう事でいいのかな」
「そういう事になります。
 もし貴方が、過去に召喚された事のある英霊なら、私的には少し不服ですけど……縁というものなのでしょう。
 そこは私の未熟分、お互い様、という事でガマンしていただきます」
「実に、ロマンチストだね、貴方は。そして愚かしくもある」
「……」
「だが、僕はそういうのが嫌いじゃない」
「え?」
「かく言う僕も、浪漫に人生を懸ける、いや懸けた部類の人間でね。
 どうやら、上手くやっていけそうだ」

 言いながら、彼は私に手を差し出した。

「サーヴァント、セイバー。
 貴方をマスターと認め、従う事を誓おう。
 ここに契約は完了した」
「は、はい、宜しくお願いしますっ!」

 そうして、私達は握手と契約を無事に交わし終えた。

「そっか、セイバー、なんですよね」
「ん」

 実際は最初から認識出来ていたのだが、改めて感慨深く認識する。

 過去、別の場所で行われた聖杯戦争によると、サーヴァントの中でもセイバーは、最優の存在らしい。
 安定したステータス、高い対魔力、強力な宝具……実際、見えるようになった彼?彼女?ともかくセイバーさんのステータスは、素晴らしいものがある。
 現代の魔術師ではどう転んでも彼女に傷は付けられないし、同じサーヴァントであるキャスターでも至難の業だろう。
 どうやら私の運は悪くないらしい。 

「どうやら、僕の運は悪くないようだね」
「え?」
「貴方から流れてくる魔力は過不足ない。どうやら万全の態勢で戦えそうだ」
「そ、そうですか。よかった」

 魔力量、魔術回路については、それなりだと自負していたが、それが過信でなくて何よりだ。
 いや、本当にそうなのかは我ながら半信半疑だったのだが。
 我ながら、どうにも他人の評価には振り回されがちだ。
 
 と、そこで。
 気になる事に思い当たった。

「あの、セイバーさん」
「セイバーで構わないよ」
「えと、じゃあ、セイバー。
 不躾だけど、貴方の真名と宝具を教えてもらえますか?

 真名は、サーヴァントの本当の名前。
 宝具は、サーヴァントの切り札。

 どちらもマスターとしては最低限知っておかねばならないことだ。
 そうでなければ、今後の方針もままならない。

 なのだが。

「ああ、それについては、教えない」
「――はい?」

 などと。セイバーは信じがたい事を言い出した。

「ちょ、え? ど、どどういうことです?!
 わ、私に何か不満でも、いや、きっと私のような未熟者なちんちくりんには不満はたくさんあるんでしょうけどっ!?」
「いや、さっきも似たような事は言ったが、貴方に不満はないよ。ちんちくりんでもないだろう。
 ただ、私にも色々思う所や事情があってね。
 そういうのを無視して肩入れしすぎると、この聖杯戦争、君に有利になりすぎる」
「有利? 聖杯戦争に参加した事があるんですか?」
「いや、あいにくと。
 貴方の望みどおり、私は参加した事がないんだ。
 だけど、色々と伝え聞いて、聖杯戦争について知っている事も幾つかあってね」
「えと、つまり、真名や宝具を明かさないのは、私を有利にさせ過ぎないためだと?」
「察するに、貴方はロマンチストで、勝負には公正さを求める性質なんだろう?
 だから、私なりに考えた結果なんだけど」
「ぐぬぬ」

 当たっている。さすが英霊、観察眼凄い。
   
「正直、生存を追い求めるだけなら、令呪を使って、私から全てを聞き出す方がいい」

 令呪。
 サーヴァントへの絶対命令権。

 今の私にはそれが宿っている。
 疼いていた右手に、それを示す輝きが宿っていた。

 これを使えば、セイバーの言うとおりの事はできるだろう。

「そうすれば、かなり確実に生き残る事はできるだろう。
 それが君が望む生存であり、勝利ならね」
「……」
「さぁ、どうする?」
「令呪は使いませんし、貴方の事は聞きません……少なくとも、現時点では」
「ん。いいのかな?」
「構いません」

 命知らずで無謀だと分かっている。
 だけど、私はそう分かった上で、戦争の名を冠する儀式に参加した筈だ。

「私に有利になり”過ぎる”から喋らない。
 それは、私が明確に不利になる事もしない、そういう事でもあるんでしょう?
 多分必要になれば、貴方自身が判断して宝具を使用するし、真名も明かしてくれる……違いますか?」
「正解」
「であるなら、私から言える事はありません。
 まともに戦闘した事がない私より、きっと貴方の方が正しい判断を下せるでしょうし。
 それに。
 そもそも、私が聖杯戦争に参加したのは、明確な願いの為じゃありません。
 この戦争に参加し、勝利する事で、私が私として明確に立脚する為。
 その為に手段を選ばないのは、私のなりたい私の形ではありませんから」
「魔術師らしからぬ思考だね、それは。
 魔術師は、己の為に、己の追い求める何かの為に、他を切り捨てていくものだと僕は思っていたんだけど」
「事実ですよ。
 私だって、必要とあれば色々切り捨てますし、事実切り捨ててきました。
 ですけど、切り捨てずに済むものはギリギリまで抱えたいんです。
 根が貧乏性なもので」
「欲張り、とも言うけどね。
 まったく、そういう自分探しやら青臭いのは他所でやってほしいものだね」
「う」
「だけど、まぁ、そんな暇がなくなる前ならそれもいいだろう。
 かくいう私も結構な歳まで自分探しをやっていたものだしね」
「そ、そうですか」
「ふむ、貴方はどうにもトークが苦手なようだ。
 こういう時は、ここから話を色々と膨らませるものだよ」
「……いや、そんなの期待されても困るんですけど」
「外面を鍛えておくに越した事はないよ。
 さて、マスター、これからどうする?」
「私の事はアリスと呼んでください。
 マスターなんて呼ばれるほど、立派ではありませんので」
「努力しよう、アリス――」
 
 後半何か付けたし掛けて、言葉を殺すセイバー。
 多分「ちゃん」とか「嬢」とか付けそうになったのだろうと思う。
 付けられても別に気にすることはなかったのだが、まぁそれはそれでいい。  
  
「それで、今後の方針ですが……ふむ」

 まだ眠らずに活動は出来るが、体力は可能な限り万全にしておきたい。

「私は少し眠ります。
 その後、教会に顔出ししたあと、街を改めて巡回、魔術師の工房、拠点を探します。
 戦闘にならない日中の内に探しておいて、可能なら今夜仕掛けるので。
 セイバーは私が眠っている間に、街の探査を少しでも進めていてください」
「ふむ、調査ついでにここがどういった場所か把握しておけ、そういう事かな」
「ええ」
「しかし、貴方の守りはどうする?
 私には単独行動のスキルはないから、貴方を暗殺する気はないが」
「いや、さらっと物騒な事言わないでくださいよ」

 サーヴァントのスキル『単独行動』。
 このスキルを持っているサーヴァントは、マスターの魔力なしでもある程度活動できる。
 つまり、気に入らないマスターを殺し、他マスターのサーヴァントになる事も状況によっては不可能ではない。

 サーヴァントも聖杯を求めて召喚に応じる以上気を許してはならない、そう思わせるスキルの一つである。

 英霊と魔術師。
 サーヴァントとマスターの関係性ではあるが、実際の力量・能力は基本的にサーヴァントが遥かに上回る。

 相手は英霊……英雄なのだ。
 少なくとも私は私単独で勝てる気がしない。

 英霊をサーヴァントとして使役できるのは、呼ばれたモノが『英雄』だからであり、また令呪という絶対命令権があるからこそである。

 そのどちらか、あるいは両方があるからこそ、聖杯戦争において魔術師と英霊は共に戦う事が出来る。

 私の場合は、その両方である。
 
 勿論初対面の存在を心底から信じ切れているわけではない。
 正直、内心では寝首をかかれるんじゃないかと冷や冷やしている部分もある。

 だが、大部分はそうならないと判断している。

 何故なら。
 
「そもそもセイバーに私を殺すつもりはないですよね?
 殺すつもりがあるのならそんな事は言いませんし、そのつもりがあればとっくに私は殺されてます」

 私ではセイバーには――サーヴァントにはどうあがいても勝てない。
 そも、私の魔術はセイバーには通じない。
 せいぜい上手く行ってもここから逃げおおせるくらいだろう。

 そしてそのくらい、目の前の存在は簡単に把握しているだろう。
 だからこそ、今この瞬間に首を刎ねられてもおかしくない。 

 だが、それをしていない、というのは少なくとも現状で殺す気はないという事だろう。
 あくまで、セイバーも聖杯を求めている、セイバーが『英雄』である、という幾つかの前提条件からの推測、信用ではあるが。

「貴方は甘いなぁ」
「え?」
「世の中には、特殊な存在というものがいくらでもいる。
 私が外道な変態の類で、貴方が隙を見せた瞬間に殺すのが楽しみな、人の絶望が生きがいなモノという事だって可能性としてはあるよ?」
「う。ま、まぁ、そうでしょうけど」
「更に言えば、私は聖杯には興味がない」
「えっ!?」

 なんと。
 ここにきて前提理由一つが消滅。
 同時に私の命の危機ランプが点灯開始――?!

「まぁ聖杯戦争に参加する事そのものが目的って所になるんだけど……。
 ともあれ、貴方を後から殺さない理由がないとは限らないんだよ?」
「うぐぐ……」

 でも、だとしても。

「ま、まぁ、そうなんでしょうけどね。
 でも、そうなら尚の事、私には打つ手がありません。
 貴方を召喚した時点でサイは投げられていますから」

 そう、最早運命は始まっている。
 
 私は目の前のセイバーを信用しているし、信頼したいと思っている。

 まだ少しの会話しかしていないのに、甘い発想、判断だとは思う。

 だが、もし。
 現時点で私がセイバーの本性さえある程度見抜けていないというのなら、もうその時点で負けだろう。

 あるいは、そういう英霊を呼んでしまった己が業、己が在り方を呪うしかない。

 勿論死ぬのは嫌だから、殺されそうになったら出来る限りあがくつもりだ。

 だけど、覚悟は済ませてある。
 半端者なので、追い詰められたら剥がれてしまう、メッキの覚悟だろうけど。
 
 それでも、今この瞬間の言葉には、心には、嘘はない。

「私は、さっき私に誓ってくれた貴方を信じます。
 だから、私が眠っている間の街の探査をお願いします。
 緊急の時は令呪を使って呼び戻しますので」
「……申し訳ない。少々、貴方を侮っていたようだ。
 覚悟、決まっているね、うん」
「も、もしかして試されてました?」
「の、つもりだったが……むしろ逆だったのかもしれないね、いやはや。
 ともあれ」

 そこでセイバーは私の前に跪くと、凛とした声で告げた。

「了解した、マスター・アリス。
 貴方から仰せつかった仕事、しっかりこなしてみせるよ」

 真剣な顔でそう告げた後、セイバーは小さくウィンクした。
 その所作は軽々しくて……まったく、信用できるんだかなんだか。 

 だけど、うん。
 私の直感は、あながち間違っていないようだ。

「お願いします、セイバー。では三時間後を目処に」
「ん」

 そうして、セイバーは私の目の前から文字通り消えた。
 霊体化、という現象なのだろう。

「私もアレができたら便利なんですけどねぇ。
 っと、無駄口は謹んで眠らないと」

 折角セイバーが仕事してくれているのだ。
 今の内に体力を万全にしておこう。
 
 トラップと結界を仕掛けておいたから、少なくとも、誰かが侵入した時は気付く事ぐらいはできる。
 もし相手がサーヴァントなら、即座に逃げるかセイバーを呼ぼう。

 そう頭に叩き込んだ上で、私は寝室と決めた部屋へと向かった。









「――さて」

 時は既に夜。
 あの後、予定通りに目を醒ました私は、聖杯戦争の監督役である聖堂教会、その拠点である教会へと向かった。

 この街には元々聖堂教会も魔術協会も全く介入していなかったらしく、
 聖堂教会は今回の聖杯戦争の開催の折に、元々あった古びた教会を一部改装し、拠点にしたとの事だ。

 聖杯戦争が行われるような土地が、全くのノーマークだった事は不可解だが、
 そもそも私の聖杯戦争の知識は半端(可能な限り収集はしたが)なので、その辺り何か事情があるのかもしれない。

 ともあれ、サーヴァント召喚を報告しに行ったのだが、その際とんでもなく驚かされる事があった。
 が、今の所、なんともしようがないので、とりあえずはスルー。

 監督役である神父様も、今は状況把握が先だろうと教示してくれた。

 事実、そのとおりだろう。

 なんでも、サーヴァントは既に六騎分召喚を確認しているという。
 私も、セイバー以外に一騎、ランサーの存在確認を終えている。

 召喚されていないのはあと一騎。
 その一騎が召喚され次第、明確に聖杯戦争は始まるのだ。
 
 いや、もう実質的には既に始まっている。
 ゆえに、各陣営の事を調べられるだけ調べておきたかった。

 単純に魔術師同士のみの闘争であるならば、拠点・工房を調べて、その付近で戦い合えばいいのだが。

「簡単に事が済めばいいんですけどね」
「まぁ、そう簡単には行かないだろうね」

 歩きながら、霊体化しているセイバーと言葉を交わす。

 そう。
 簡単にはきっと済まない。

 参加した魔術師が全員、魔術師らしい魔術師であれば、話は簡単だ。

 しかし、そうであるとは限らないのだ。
 過去に起きた聖杯戦争では、幾つものイレギュラーがあったと話には聴いている。

 魔術師が魔術師らしくない場合、または魔術師でないモノがマスターになっている場合。

 そういった場合、魔術師同士のセオリーは全く通じない。
 一般人には奇跡を隠匿する、という魔術師の常識すら持ち合わせていないものが相手の場合、
 一般人を巻き込んでの戦闘すら考慮に入れなければならない。

 聖堂教会、魔術協会、二つの組織が隠蔽協力していても、限度はあるし、
 リアルタイムで進行する事態に「組織」というのはとかく二の足を踏むものだ。

 そして今。

 この街で進行しているらしい事態は、魔術師らしい魔術師が関わっていると思い難いものであった。

「本当なんですよね。最近起こっている、行方不明事件」 
「ん。警察に潜り込んで資料も見たし、街でも噂その他確認したよ」

 このところ、街の中で起こっている奇妙な出来事。
 正確に言えば、行方不明未遂事件、というべきなのだろうか。

 この街の住人が、時折フラッと姿を消し、数日間……長いときは一週間以上行方をくらまし、警察に捜索を頼んだ頃に何事もなかったように帰宅しているらしい。

 所持品や金品が取られたわけではなく、怪我を負ったりしたわけでもない。
 カードや携帯情報端末の情報が抜き取られたのかというと、そういうわけでもないらしい。
 ただ、いなくなっていた期間の記憶が抜け落ちている。

 という、なんとも奇妙な事件なのだが、私的に問題なのはこれが起こり始めた時期。

 この事件群は、何者かによる聖杯戦争の発現兆候調査結果が魔術協会に送りつけられた時期と符合している。
 そして、ここ最近加速度的に上昇しているのだという。

 多少短絡的かもしれないが、私としては聖杯戦争との関係を疑うしかない。

「さっきも話したが、警察は事件同士の関連性を疑っているが、明確に結び付けられてはいない。
 何か繋がりを見つけてはいるが、俄かには信じられないようだ」
「そうですか。短期間によく調べてくれました」
「このぐらいは容易いよ。マスターが十深旅館にいた間も色々調べてくれていたお陰だ」

 私は十深旅館にいる間、別荘を探すのと並行に、街の異常についてもそれとなく調べていた。
 迎ちゃんや宗二君が協力してくれた事もあり、事件の存在に気付く事が出来たのは大きい。
 もしそもそも事件が起こっている事に気付いていなかったら、もっと後手を踏む事になっていただろう。

「行方不明になっていた人間は、若者が大多数。 
 そして、日常の中、何処かへとフラフラと向かっていく姿が確認され、直後姿を消す。
 手がかりは、こんな所ですか」
「不機嫌そうだね、アリス」
「当たり前です。
 初っ端から一般人を巻き込んでいる魔術師がいるなんて」

 魔術師らしい魔術師なら、密やかに事を為すものだ。
 少なくとも私が目指している形はそうだし、昔から魔法使いというのは密やかな存在のはず。
 
 さらに、魔術師としての矜持や常識がない者が、聖杯戦争に参加している。
 それだけならまだしも、一般人を大きく巻き込んでいる。
  
 もしかしたら、十深旅館の人達や、ここ数日で多少なりとも知り合った人達も巻き込まれるかもしれない。

 そう考えると、私の中で何かが沸々と湧き上がっていく。

「……見つけたら、燃やしてやります」
「物騒だなぁ。だがまぁ同感だ。
 戦争というものは、闘う覚悟があるモノ同士で行うものだ。
 戦う覚悟がないもの、備わっていないものを巻き込むのは、ただの虐殺だよ」
「ええ、全くです」
「しかし、この騒動が魔術師のものでない可能性もあるが?」
「いえ、それはないと思います。
 これだけの規模の騒動が起きているのに、警察が事件の痕跡すら完全に追えていない。
 現代では考えられません。
 それこそ、魔術でも使わない限りは。
 ……まぁ、私も科学には疎いので断言とまでは行きませんが、魔術的見地からほぼ確信しています」
 
 現代社会における公的組織の科学的捜査は凄まじいものがある。
 いや正確に言えば、科学全般か。

 的確に捜査能力が活用される限り、普通の事件であれば、時間は掛かっても確実に解決出来る能力が現在の警察組織にはある。

 それでも解決できないのは、
 捜査機構を扱う人間に様々な事情があって、捜査が滞る場合か、
 普通ではない異質な事件の場合か、という所だろう。
 今の時代、科学はそれだけ発展している。

 まぁ。
 そんな科学万能の時代だからこそ、私は魔術の方に強く惹かれるのだが。

 私は、どうにも根本的な部分が捻くれている気がする。

 閑話休題。

「もし万が一そうでなかったとしても、その情報を警察なりに流せば無駄にはならないでしょう。 
 だから、とりあえず私達は無心に魔術師を追っていきましょう。
 勿論、事件に関係ない他のマスターも、その過程で発見できればそれに越した事はありません」
「ん」
「しかし、出来ればもう少し手がかりがほしいところですね。
 例えば、まさにフラフラと行方不明になりそうな人がいれば……いや、勿論そういった人はいない方がいいんですけど」
「あの少女のように?」
「そうそう、まさに、あんな感じ……って、えっ!?」

 セイバーの指摘にしたがって視線を送った先には、まさにフラフラという感じだが、足取りそのものは割としっかりと、何処かに向かう少女の姿。
 背格好は私より少し幼いくらいの、ハイスクールに通う前位の年頃の少女は、手に何かを握り締めて進んでいく。
 
「あれは……」

 携帯出来る情報端末、だろう。
 現在から比較すると数世代ほど型落ちしているものだ。

 魔力を目に通し、多少強化した視覚で手にした端末の画面をのぞき見ると……。

「何か、魔方陣のようなものが描かれている?」
「のようだね。詳しい術式までは読み取れないが」

 私同様に魔的な強化か、素の視力なのかは分からないがセイバーも同じものを見ていたようだ。

「どうやら、魔術師の仕業に確定のようだね」
「ええ。どうやってるのか知りませんが、どうやら携帯の何らかのソフトを通じて魔術を仕掛けてるようです」

 何かのプログラムに魔術を仕込んでいるのか、端末の画面を見た事で少女は操られているらしい。
 そんな事が可能なのかは正直未知数だが、今は出来ていると考えておこう。

 少女の背後から追跡して分かった事は、
 基本的に人が少ない道を選んで歩いているらしい事、
 視界に誰か入ると若干姿勢を正して歩き出す。
 だが、背後、というか本人の視界が入らない所からの視線には気付けないのか、
 視線が私達だけになると、微妙にフラフラな歩き方に戻る。

「……人目を気にするようになってる? 
 いや、でも、そこまで細かい挙動が指定できるなら、最初から徹頭徹尾きっちりした歩き方の方がいいはず……どういうことでしょう」
「さぁね。
 なんにせよ、あの少女を追っていけば、何か手掛かりが掴めるかもしれない」
「そうですね……」
 
 ――彼女が、件の事件に巻き込まれていると仮定して。

 彼女を囮にするのは気が進まない。
 人道を考えれば、手掛かりを失ってもここで彼女を止めておくべきなのだろう。
 
 だが、ここで彼女を止めてしまっては、手掛かりが失われ、もっと多くの人が犠牲になるかもしれない。

 そして「そんな事知ったことか」――そう言えるほど私は強くない。

 そもそも聖杯戦争に参加している魔術師としては、彼女の事など気にせず、上手く利用すべきなのだろう。
 
 私は、どうしようもなく、未熟だ。
 人間としても、魔術師としても。

 だから、私は。

「彼女には申し訳ないですが、現場までは案内してもらいましょう。
 ただし、現場で何かしらの事が起こり次第、彼女を最優先で守りましょう。
 もし周辺に誰かいた場合は、彼女より優先度は下がりますが、出来る限り助ける方向で」

 魔術師としての冷酷さと人間としての甘さの狭間で、煮え切らない妥協案を上げた。

「そこまでの案内の礼代わりに、か。いやはや、随分と甘い事だね」
「甘いのは分かってますけど、私は目の前の誰かを見殺しに出来るほど強くないので。
 それで無駄に悔やんで尾を引きずるよりはマシでしょう。
 勿論自分の命とは引き換えには出来ませんが、そうでないなら、出来るだけは助けたいですし」
「ん。色々な妥協が交じり合った結論だね」
「う」

 どうやら、私の思考は思いっきり見透かされているようだ。
 だが、そうして私を見透かしているセイバーの、私への視線は軽蔑の視線ではなかった。
 むしろ、あたたかみのある、見守ってくれているような、そんな微笑み混じりの表情を私に向ける。

「だけど、簡単に切り捨てたり、簡単に全てを守ると言い切るよりよほど現実的だ。
 現実的であり、魔術師らしくも貴方らしい、合理的な思考だよ」
「――合理的じゃないと思いますけどね」
「いやいや、貴方という魔術師としては、合理的じゃないかな。
 他の魔術師だとそうじゃないんだろうけど」
「ぐ」

 セイバーは私の決断を批判しているわけではないのだろうが、やはり耳が痛い。
 普通の魔術師ならきっと、もっと効率よく考えるんだろうから。

 だけど、今の私にはこれが精一杯だ。
 だから、少し無理矢理に思考を切り替える事にする。うん。

「さておき。
 仮に彼女が聖杯戦争に巻き込まれているとして、だ。
 敵の狙いはなんだと思う、アリス」
「多分、魔力の収集じゃないでしょうか」

 現状において彼女を放っておいても今の所において命の危険はないのだろう。
 今までの「被害者」がそうであったように。

 生命そのものや、所持品などに目当てがあるのだというのなら、もっと大事になっている。

 そう。 
 確かに、何も盗られてはいないのかもしれない。

 ――ただし。
 それは形あるモノだけの話。

 形のないモノであれば盗まれている可能性はある。

 そう。魔力に転換しうる生命力だ。
 
 私の考えどおり、何者かがそれを吸い上げ、貯蓄しているというのなら。

「そうして溜め込んだ魔力を何かに使うつもりだというのなら、敵マスターたる魔術師の仕業か、あるいは」
「魔術師のサーヴァントたるキャスターの仕業、というわけか。
 ふむ、思考の方向性としては間違っていないと思う」
「そ、そう思います?」

 褒められた用でちょっと嬉しくなったり。

「ただし、何事にも例外はあるからね。
 サーヴァントにしても、マスターにしても、聖杯戦争そのものにしてもだ。
 この聖杯戦争を過去で起こったものと一緒に考えすぎると痛い目を見る」
「……むむ。
 そうですね、ええ。気をつけます」

 そんな会話を交わしつつ、薄暗い闇の中、彼女に認識されないように追跡する。
 この街は夜の明かりが少なく、人通りが少ない為、そういう時は便利だ。
 聖杯戦争が行われる場所として、そういう意味では相応しいのかもしれない。
 ……個人的には、多少気が滅入る認識だが。

 そうして追跡して辿り着いた先は……人気のない公園だった。

 灯りも殆どなく、店の類も周囲にない。
 現代日本とは思い難い暗闇が周辺に蟠っている。

「セイバー、視界は大丈夫ですか?」
「心配はいらない。月明かりのお陰で十分見えるよ。
 貴方こそ、暗視スコープとか必要ないかな?」
「いや、私魔術師だから。普通に視力強化で行けるし、魔眼あるし」

 暗視スコープに興味がないでもないが、アレはちゃんとしたものの購入を考えると結構高い。
 魔術もお金の浪費ばかりなので、そっちにも割いている余裕はない。

 さておき。
 そうして、物陰から暗闇に目を凝らしていると、あちらこちらから人が集まってきた。
 彼らは私達が追跡して来た少女よりふらついていなかったが、
 携帯情報端末を手にしているのは皆同じである。
 
 例の画面内の魔方陣は暗闇ゆえかよく見える。
 見えはするのだが、持っている人の位置や角度のせいで、魔方陣全体を確認できない。

 しかし、何処となく、英霊召喚の陣に似ているような。
 だが、他の、暗示や服従などの魔術を込めた陣も混じっているようで。

 結論。
 正直、ゴチャゴチャ過ぎてよく分からない。

 この場の顛末を見届ける事が出来たら端末を回収しておきたいところだが。
 いやむしろこの状況を見極める為に、今回収しておいたほうがいいのかも……。

「携帯の魔術を明確に確認しておきたいですね。
 セイバー、霊体化使ってこっそり一人ここまで連れて来れませんか……」

 多分無理だろうなぁと思いながら、頼もうとした瞬間。

「えっ!?」

 何かが小さく破裂するような音が聞こえた直後、急激に視界がブレた。
 正確に言えば、ガクンと大きく跳ね上がってズレたかと思った瞬間、一方向にスライドした。

「ちょ、え!?」
「アリス、敵襲だよ」

 そうしてセイバーからの声で、私は自分の状況を把握していく。

 敵襲。何者かの攻撃。
 それを回避するためにセイバーは私を引っ掴んで、飛び上がり距離を取ったのだ。

 そう、音もなく私を攻撃出来る間合いに近付き、銃撃してきた襲撃者から。

「……外したな。いや、むしろ気付かれた、というべきか」

 暗闇に浮かび上がるように現れたのは、スーツ姿の男性だった。
 手には拳銃を握っているのだが、何処か古めかしい。
 いや、それを言うのなら着ているスーツもそうだ。
 なんというか、古い英国紳士、という感じだろうか。

 異質なのは、鋭い眼。
 魔術以外には鈍い私でも、一般人ではないと分かる。

「気配遮断か。どうやらサーヴァントの類だね」
「そう決め付けるべきではないよ。
 ほら、私は拳銃を使っている。こんな風に」 
 
 言うや否や、男は私に向けて拳銃を撃ってきた。
 その所作は素早く、私では事後になってようやく「あ、撃たれたんだ」と認識出来るほどだった。

 セイバーがいなければ、私は死んでいた。

「馬脚を現した、とでもいうのかな。
 サーヴァントに影響を与える、霊体の銃器を持っているものが、人間であるはずがないだろう」

 セイバーが抜き放っていたのは、日本刀。
 柄などは年季を感じさせる古びたもの。
 だが、その刃には翳りはなく、まるで自ら光を放っているように月光を浴びて煌いていた。

 セイバーはどうやらその日本刀を抜き放って、男が放った銃弾を切り払ったらしい。

「アサシンの、サーヴァント?!」

 気配遮断のスキルを持つサーヴァントと言えば、アサシンだ。
 なのだが、決め付けは危険である。

 それに。
 近代の銃器を持つ英霊など、そもそも存在しているのだろうか?

「さぁ、どうかな?
 もしかしたらもっと違う何かかもしれないぞ、お嬢さん」

 ニタリ、と笑みを浮かべる男。
 その酷薄な笑みを見て、私の背筋が凍る。

 私をからかっているようで、その実なんとも思っていない。

 何人かの魔術師と出会ってきた事で、私はこの眼を知っている。
 他人を『自分と同じ人間』と思っていない者の眼だ……!!

 アサシンがどうとかどうでもよくなった。
 このサーヴァントは、危険だ。
 私にとっても、この街にとっても。

「セイバー! 私をあっちに投げ飛ばしてッ!!」 

 私の叫びを認識したセイバーは、即座に命令を実行する。

「うひぃっ!?」

 思わず無様な声を上げてしまったが、手加減してくれてるお陰で体勢を整える事が出来る程度の投擲だった。
 若干涙目になりながら、私はサーヴァント同士の対峙から数十メートル離れた位置に着地。
 更にバックステップして、茂みの中に隠れる。

 これで、セイバーは私を気にせず戦えるはず。
 茂みの中にいれば、そうそう銃は当たらないだろうし。
 何より、そんな隙はここから彼には与えられないはずだ。
 
「うぬぅっ!?」

 その肯定と言わんばかりの声が男から上がる。
 
「……どうしたんだい?
 その程度の敏捷性では、あと一分も経たずにアンタは死ぬ事になる」
「減らず口を……!」

 直後、男は左右に身体を振ったかと思いきや、セイバーの背後をあっさりと取って見せた。

 明らかに人間の身体能力、脚力ではない。
 その際、土を蹴り、駆け抜ける音さえ生じさせなかった。

 さらに。

「っ!?」

 その際抜け目なく、私の方へと銃撃を放っている。
 茂みに隠れて、状況をより効率的に把握出来る位置へと移動している私の眼前を、銃弾が掠めたのだ。

 あの男、紛れもなくサーヴァントだ。
 暗闇の茂みの中、万が一にもこちらの位置を気取られまいと、不規則な動きをしていた私の位置を簡単に感知してのけていた。 

 私への銃弾は、おそらくは牽制の意味合いが強かったのだろう。
 当たれば運がいい程度だったのだろうが、それでもセイバーとの距離をあっという間に詰める間隙でそれをやってのけたのだ。

(これが、サーヴァント……!?) 
 
 私は一瞬恐怖に凍り付く。
 だが、その直後全く同じでありながら、全く逆の思いを抱く事になる。 

「なっ――!?」

 それを上げたのは、背後を取った男の方だった。
 男は、セイバーに銃を向けながら、何かを仕掛けようとしたようだったが、
 結局の所、全てが無駄に終わった。

 男が何か為す前に、いや、そもそもそれ以前の問題だったのか。

「言っただろ? まぁ、一分も持たなかったわけだけど」

 まさに、一刀両断。
 男は、左肩口から右脇腹を見事なまでに薙がれていた。

 私にはまるで認識出来なかったが――いや、男にも認識出来ていなかったのだろう。
 男が背後に回る前、両者が交差した瞬間に、既にセイバーは男を一閃していたのだ。

 本来ならサーヴァントとは言え血が出るべきなのだろうが、男はそれすら流れずに消滅していく。
 つまり、最早存在そのものが消えるのが確定している、という事。 

(これが、サーヴァント……!!) 
 
 人の領域を超えた存在を、いとも簡単に凌駕し返して見せる。 
 これこそが英霊であり、これこそが聖杯戦争なのだ。

 驚きと興奮が入り混じった感情で、私は茂みから飛び出した。
 サーヴァントが消滅した今、マスターである魔術師も動揺しているだろうと判断し、合流しようとしたのだが。

「アリス、しゃがんでっ!」

 私の方を振り向いたセイバーの叫びに、その必死な表情に、私は思わず驚いて転んだ。

 結果として、それが功を奏した。
 私の反応より、私の鈍さが私を救った。

 先程も聞いた、小さな破裂音……銃撃音が背後から響く。
 私が立っていれば、間違いなく私を貫いていただろう。

「ひぃっ!?」

 その事を認識した私は、慌てふためいて数度転がった後、駆け抜ける。
 そんな私を背後にいる何者かが襲おうとしていたようだったが。

「はぁっ!」

 それは一瞬で距離を詰めていたセイバーの牽制攻撃でどうにか防がれた。
 そうなっている事に安堵しつつ、私が体勢を整え、振り向いた先には。

「ふむ。こうまで上手く行かないとは。
 流石はセイバー。最優のサーヴァントというところか」

 先程、セイバーに切り伏せられて消滅したはずのサーヴァントが何事もなく立っていた。

「そ、蘇生したっ?!」
「どうやら、そのようだね。すまない、隙を見せてしまった」
「いや、うん、って……そ、そうじゃなくて!? 隙が出来るのは当然ですよっ!?」
「ああ、お嬢さん言う通り。隙が出来て当然だ。
 さっきの私は、確実に斬られて消えたからな。
 隙が出来て当然なのだが……いやはや、流石は真っ当な英霊。良いスキルをお持ちで。
 こうなると、真っ当に勝負するのは避けるべきか」

 男がそう言って指を鳴らした瞬間。
 辺りでぼんやりとしていた、集められた若者たちが一様に動いた。
 その視線は虚ろで、その虚ろな眼差しは、私とセイバーに向けられている。
 
「さらに、これでどうかな?」
 
 男が左手で指を鳴らすと、数十人単位の人型の何かがあちらこちらに浮かび上がる。
 足元が薄ぼんやりで、宙に僅かに浮かぶそれらは明らかに人間ではない。

「悪霊の類だね」
「ご推察の通り。
 私にとって、同僚、ではないが、距離の離れた仲間というところか。
 君のような英霊には細波にもならないが、普通の人間にとっては十分に脅威になる」

 どうやら操られているらしい若者達と、サーヴァントが操る悪霊達。
 どちらも単体ならセイバーの敵ではない。
 だが、この数は馬鹿に出来ない。

「さて、どうしたものか……」

 その瞬間だった。

「……おいっ!、いい加減に、正気に……」

 何処か遠く、でも声が薄く聞こえる程度の距離で、声が響いた。
 それはおそらく第三者の声。
 ここにいるべきではない、正気を保った一般人の声だ。 

「む。
 どうやら招かれざる客人のようだな。
 となれば、先にあちらを処理してこようか。
 君達は精々頑張っておきたまえ」

 そう言いながら、サーヴァントは姿を消した。
 同時に悪霊と操っている数名が同じ方向に動き出す。

 乱入者を処理した後、私達が数に押されている隙を突いて撤退か、あるいは私を殺す算段なのだろう。
 
「セイバー、私には構わず、あのサーヴァントを追って、倒してください!」

 霊体化したあのサーヴァントを私は認識できないが、
 同じサーヴァントであるセイバーなら認識して追う事が出来るだろう。

 さっきのアレが蘇生ではなく分裂の類であれば、セイバーが追っているうちに私を殺しに来る可能性はある。
 だが、もし分裂だとすれば、そもそもここに至るまでに私を殺す隙はあった。
 それをしなかったということは、分裂ではなく蘇生であり、あのサーヴァントは一体のはずだ。

 セイバーがアレを追いかけているうちなら、私は他の面々を相手に出来る。

 そして。

「そうして、巻き込まれた人を逃がしてあげてください。
 聖杯戦争に一般人を巻き込むわけにはいきません」
「アリス……いいのかい?」
「私も、聖杯戦争に参加した魔術師です。
 ただ貴方の足手纏いになるつもりはありません。
 こちらはなんとかします」
「わかった」
「あと、操られていている人については、可能な限り殺さないでください」

 ゆっくりとした動きで私達を包囲しつつある面々を警戒しながら話す。
 一気に襲い掛からないのは、時間稼ぎなのだろう。
 むこうもセイバーにとって自分達が塵芥でしかないというのは理解している、という事か。

「勿論貴方や巻き込まれた人に危機が及ぶ場合は、その限りではありません。
 その罪科は私の荷物とした上で、容赦なく殺して構いません……あたっ」

 セイバーが軽く私の頭を小突く。

「まったく、なんて顔をしてるんだい。
 まだ殺しもしてないのに、思いつめすぎだ。
 ……大丈夫だよ、アリス。僕を信じてくれ」
「セイバー……」
「彼は殺させない。勿論操られている人々もだ。
 その代わり、君が死なないように気をつけてくれ」

 そう言って、セイバーは私にウィンクして見せた。
 この状況で軽い所作、だけどそれがとても心強い。

「分かりました。
 私は貴方を信じます。
 貴方も、私を、マスターを信じてください」
「了解だよ。じゃあ、行って来る。――はっぁあああああっ!!」

 そう言うと、セイバーは凄まじい叫びと共にロケットさながらに飛び出した。
 その際、進路上にいた悪霊を消し飛ばし、操られている人を気絶させている。
 どうやっているかは全く見えなかったが本当に凄い。

「何処の英霊なんだろ、ホント。って、早速きたぁぁぁぁっ!?」

 セイバーがいなくなった瞬間、操られた人々が殺到してきた。

 ここまで案内してくれた少女を確認しようと思っていた私は、その思考を一時捨て、慌てて簡単な呪文で身体強化を施し、飛び下がる。

「ひぃぃ、勘弁してくださいよぉっ!」

 女の身からすれば、見ず知らずの男性に飛び掛られるなど恐怖でしかない。
 男性差別とか、男性恐怖症とかではないが、そこは非力な私なので。

 そうして距離を取った私に、次に悪霊が襲い掛かってくる。

 しかし、距離を取ったことで思考は切り替わった。
 冷静に対処させてもらう。

「悪霊相手なら容赦しませんよ……!」

 両腕に仕込んだ魔術刻印が駆動する。
 魔術刻印のお陰で呪文を使わずとも、魔術の行使は可能。
 そして、そこに刻まれた魔術は、我が家が受け継いできた、人類文明の始まりの象徴。

「消し炭にしてやる……っ!」
 
 アーチェリーの要領で弦を引き放つのは、複数本の炎の矢。
 限界ギリギリまで魔力を込めて撃ち放った矢は、直進せず、目標に向けて微妙に進路変更しつつ突き刺さる。

『―――――――』

 炎の矢を受けた悪霊達は、声なき声を上げながら消滅していく。
 
「どうやら、貴方方は私の魔術でも十分みたいですねっ!」

 声に出して確認する事で、己を鼓舞する。
 そうでもしないと怖くてたまらないのだが、そうすることで私の中の凶暴な私が膨れ上がる。

 ああ、燃やしてやらねば。
 私の邪魔をする何者も、燃やし尽くしてやらねば気が済まない……!!

「がぁぁぁっ!」

 そんな私に操られた男性が襲い掛かる。
 魔術の行使により、隙が出来た私は簡単に組み伏せられる……かに見えただろう。

「残念。それは私じゃありませんよ」

 男性が組み伏せようとした私は触れられた瞬間消失する……陽炎のように。

 そう。それは陽炎の魔術。
 炎の魔術の副産物、というか同時行使魔術。

 生み出した炎により発生した陽炎のゆらめきに幻影を投影し、囮にする。
 
 ロックフィールドなどという苗字に反して、私の一族が操るのは炎や陽炎と言った揺らめく儚いもの。
 それを自在に操り、神出鬼没に現れ、焼き滅ぼす、古き『御伽噺の魔法使い』たる魔術師。
 それこそが、ロックフィールド家の魔術特性。

「とりあえず、悪霊を先に片付けさせていただきます……っ!」

 陽炎に投影した幻影に気を取られている隙に、公園の茂みに飛び込んでいた私は、隠れながら視認出来る悪霊の位置を確認。
 立ち上がると共にロックオン可能な最大9人分の炎の矢を構成し、解き放とうとする……が。

「――――っ!?」

 結局の所、それは出来なかった。
 背後から首を掴まれる。
 瞬間、そのあまりの冷たさに、私は思わず魔力を霧散させてしまった。

「か、ぁっ……!?」

 首を絞めているのは、どうやら悪霊らしい。

 そうか。
 悪霊には、私の幻影は通用しないのだろう。
 肉の眼を持たない彼らにとって、私の陽炎魔術は陳腐な騙し絵に過ぎない、ということか。
 彼らを騙すのならもっと研ぎ澄まさなければならないのだろう。

「ぁ、ぁぁぁっ!」

 私の首に指がめり込んでいく。
 指の冷たさに、死の恐怖に、私は囚われ、あろう事か股を濡らしてしまう。

 だけど、その反面で魔術師としての私が、起動する。

「燃えて、しまえっ……!」

 掠れた声で叫びながら、簡易魔術の炎を巻きつけた拳で悪霊を殴り付ける。
 不十分なそれは悪霊を消滅には至らしめないが、掴んでいた手を離させるには十分だった。

「けはっ! ごほっ!」

 地面を転がった後、私は慌てて起き上がる。
 すぐさま状況を確認しようとするが、咳き込んでまならない。

 そして。
 そうしている内に。

「くっ……」

 私の周囲を、無機質な視線の群れが取り囲んでいた。
 茂みから開けた場所に飛び出してしまった事に、今更ながら気づく。

 炎の矢を使えば、突破は出来る。
 出来るが、悪霊と操られた人が近くに並び合いながら囲まれた状況でのそれは、操られた人を確実に巻き込む。焼き殺してしまう。

 私の家の魔術は、本来そのためのものだ。
 そもそも、聖杯戦争に参加している以上、私が魔術師である以上、一般人など必要以上に気に掛ける必要はない。

 ないのだが。

「……うぅっ」

 私には、出来ない。
 魔術師でない、普通の人を殺す事が、私には出来ない。

 そうして逡巡している間に。

「ひ、ぃっ……!?」

 私は、操られた者達の群れに飲み込まれた。

「あ、がっ、ぅっ!」

 殴り付けられて、地面に倒れた私の体は抑え付けられ、踏み付けられる、蹴り飛ばされる。

「く、っそ……」

 手に炎を集めようとするも集中さえままならない。
 頭を蹴り飛ばされて朦朧としたところで、悪霊か人間か、凶器を持った誰かが近くに立って、凶器をふりあげて。
 
 そのまま、吹き飛ばされた。

「――えっ」

 痛みへの苦悶の声ではなく、そんな声が私の口から零れた。

 私を殺そうとしていた誰かは、長い棒……槍か何かだろうか……に弾き飛ばされ、茂みの向こうへと消え。
 私の周囲に立っていた者達も、あちらこちらに吹き飛ばされ、あるいは消滅していく。

「……不愉快な。
 女子一人に寄ってたかって、乱暴狼藉とは」

 凛とした、刃のようであり、風のようでもある、そんな澄んだ声が響く。

 脅威が去った事を半ば認識しながら、呆然と身を起こすと、そこにいた。

 月下。
 月を象った兜を被り、天馬かと錯覚させるような、威風漂う馬に騎乗する……鎧の騎士。

 いや、違う。
 あれはサムライ。
 鮮やかな空色の服の上に、黒を主体に銀色で縁取った東洋の鎧を纏っている。
 鎧を纏ったサムライ……ムシャ、というものだったか。

 男性とも女性とも取れる中性的な容姿と、戦う為の装束が合致した姿は、神々しくも勇ましい。

 ――戦神の顕現。
 私にはそうとしか表現できないモノが、そこにはあった。

「しかし、どうやら魔術師というものらしいな、そなた。
 いや、そなたも、か」

 周辺の状況を一瞥して、呟く。

 そして、その呟きで私は理解する。
 おそらくは、この人物もサーヴァント。
 
 つまり、私の敵なのだ。

「見かねて助けはしたが、どうしたものか。
 無闇矢鱈に殺すのは性に合わないし、かといって放置も出来ないし。
 やはり、まずは捕えて……」
「はぁぁぁっ!」

 言葉の最中、突然響いた裂帛の叫びと共に『彼』に斬りかかる一つの影。

「セイバー!?」

 私の状況を見て危機と判断したのか、セイバーは戻ってきた矢先に迷う事無く『彼』への攻撃を選択した。
 
「はぁっ!」

 しかし、その一撃を謎のサーヴァントは、手にした槍で簡単に捌いて見せた。
 攻撃を弾かれたセイバーは、私の側に着地する。

「アリス……どうにか生きてくれてるようだね」
「えと、その、まぁ。色々ギリギリですけど、今も」
「謝罪は後程。今はまず、目の前に集中しよう」
「ええ、そうです……」
「ライダーさんっ!」
「――――――――え?」

 セイバーへの同意の言葉が霧散する。
 同時に、私の視線は、明確な敵である筈のサーヴァントから、その後ろ、遠くから駆けて来る青年に移ってしまっていた。
 
「……主殿か。丁度良かった。
 どうすればいいか、尋ねようと思っていた所だ。
 勝手に切り捨てるわけにもいかないだろう。
 命は代えがないものゆえな」
「それには全く持って同意しますけど……って、ロックフィールドさんっ!?」

 そう。
 現れたのは、ここにいるべきでない、ここにいるはずのない人物。

 十深宗二。紛れもない本人だった。
 
 そして、問題なのは、サーヴァントが彼を主と呼んだ事。
 彼の右手の甲には、その証である令呪が赤く輝いていた。 

「どうして、ロックフィールドさんが……?!」

 それはこちらの台詞だ。
 
 互いのサーヴァントと並び立ち、私達は対峙する。

 何故、どうして、こんな事になってしまったのだろう――――。










 プロローグ FIN

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○後書き的な何かとネタバレ



 という形でプロローグは終了となります。
 お読みいただいた皆様方、本当にありがとうございました。
 色々と穴だらけで申し訳ありません。

 さておき。
 今回試作版をアップさせていただいたののは、
 この物語は数年前からチマチマ書いていたのですが、
 物語全編を書き上げるには凄まじく時間が掛かるだろう事、
 この物語がある事情からお蔵入りする可能性が高くなった事、
 折角序盤は書いたんだし勿体無いよネ、という様々な理由(?)が重なった事によるものです。

 ある事情、というのは、この物語の設定の一部が、
 近年放送されていたアニメ「Fate/stay night 【Unlimited Blade Works】」内で明らかになった設定により使えなくなったためです。
 ぶっちゃけていうと、アトラムさんですね、ええ(汗。
 聖杯戦争に参加しながらも詳細が明らかにならずに死んでしまった魔術師、
 という設定も含めて広げた物語だったので……まぁなんといいますか。
 そういった設定が明らかになる前に書き上げなかった自分の責任ですね、ええ(ぉ。

 アトラムさんは素敵なキャラクターだったので、そちら寄りに設定を修正しようかとも思ったのですが、
 僕の独自設定が物語の都合的な意味合いで強すぎて、すりよせは無理っぽかったのです(汗。
 
 あくまでアニメはアニメ、これはゲーム版頃の設定という考えで個人的趣味として書き進めてみたりはしておりますが、
 お蔵入りは濃厚なのに間違いはないので、今回設定だけでも残しておこうかなぁとアップしてみた次第です。

 そんな訳で(?)ここから下では物語のある程度のネタバレを含む、
 登場人物や登場予定人物、サーヴァントの真名など一部設定を書き記しております。

 今後続きをアップする可能性は低いですが、皆無ではないので、
 ネタバレしても構わないという方だけ、ここから先をお読みくださいませ。
 
 














○登場人物


・十深宗二

 Fate/stay nightの主人公・衛宮士郎が『一生懸命、人間のフリをしているロボット』だとすれば、
 彼は『ロボットになるべきだと思い込もうとしている人間』。
  
 かつて、一緒に遊んでいた『友達』を、深い森の奥に置いて一人で帰ってしまった、というおぼろげな記憶を持っており、
 そんな事が出来るのは真っ当な人間ではない、とその事を話した幼馴染に評された事から端を発し、
 そこから様々な思考を重ねた結果、自分は真っ当な人間ではないものだと思い込もうとしている。

 それは、
『本人的には罪人として死にたいとさえ思っているが、
 そうする事は家族や友人を悲しませる行為であるため、生きていなければならない。
 だが、真っ当な人間でないものが人間のフリをして生きていては周囲に迷惑を掛ける。
 だから、ソレと分かるように振舞わなければならない』
 という思考によるものなのだが、そうする事が矛盾であるという事実からは目を逸らしている。
(真っ当な人間でないのなら、家族の事を気にするはずもない)

 そう思い込むようになった結果、
 日常的には無愛想で、他人との関わりをなるべく避けようとする在り方となった。
(駄目な方向に拗ねているわけではなく、協力を求められれば応えるし、与えられた善意にも応える)
 
 しかし、実際には上記の事柄から『誰か』を放っておけないものとして精神に刷り込みがなされており、
 目の前で誰かが苦しんでいたり困っていれば、助けずにはいられない。
(だが、実の所これは彼の本質であり、
 かつて『友達』を置いて帰った事も、『友達』が自身と一緒にいる事で、本来の居場所を失いかねないと判断した為であった。
 しかし、これらの記憶は様々な要因から混乱と忘却により、曲解された状態になっている)

 自身のサーヴァントであるライダーを召還できたのは、
『他の誰かの為に人間でないモノになろうとしていた』という共通点から。
(宗二は、周囲の人間を傷つけない為に、ロボット的な行為を繰り返し、
 ライダーは、自身の配下、その家族や領民を守る為に)


 ☆宝具

 『陽炎なれど永劫なる正灯』 ランク EX

 ある事情で宗二の身体に設計図が刻み込まれた宝具。
 それを元に刀身を魔力で編み上げる。
 かつて十深宗二と遊んでいた『友達』が、自分との約束……契約を守り抜いた宗二へと渡した準・神造兵装。
 近代社会においての人類の『正しい事をした者は報われるべきだ、報われてほしい』という想念から結晶・精製された聖剣ならぬ聖刀。
 ラストファンタズム(最強の幻想)ではない、ライトアイディール(正しき理想)。 

 力強くなくても、か細くても、絶やさず輝き続ける光。
 勝利は確かには約束されないが、不滅だと叫び続ける希望。
 正義を肯定し、正しきモノを守るための宝具である。
 正肯であり、星光。
 『友達』曰く、この国ならではの宝具、らしい。

 初使用後は、宗二の身体の魔術回路と結合。
 以後は、宗二の意志により自在に精製・取り出せるようになる。
 
 通常状態では、尋常ではない切れ味を誇り、
 魔力を込めれば、魔力放出により刃を伸ばす事が可能で、
 ランク下の宝具を破壊する事も難しくない。
 さらに、宗二そのものを補助し戦闘能力を向上させている。
(ただし、使用する宗二にかなりの負荷をかける)

 だが、それらは武器としての側面でしかない。

『守る為に戦い、勝利しなければならない』という、正義矛盾を内包した宝具。
 その在り方から、守るものがなければ真価を発揮できない。



・ライダー

 身長 156cm 体重 58kg

 スリーサイズ:B84 (D) W58 H85

 誕生日 2月18日 血液型 AB

 イメージカラー 紺碧 属性 秩序・善

 パラメータ(マスター宗二) 筋力 B / 耐久 C / 敏捷 A+/ 魔力 C / 幸運 A / 宝具 A

 スキル 対魔力 C / 騎乗 B / 直感 A / カリスマ B+

 主人公が召還した鎧武者の女性サーヴァント。
 召喚された時が緊急状況下であった為、多くは問わずに一時的な主と認め、初戦を潜り抜ける。
 その後、宗二が基本的に腑抜けている様を見て、主とは認め難いと認識するも、
 他人の危機において静かに激情に駆られる姿を見て、それを改める。

 その後幾つかの戦いや出来事を経て、
 宗二が自身を貶め、自分を無価値だと思い込もうとしている様に気付き、見ていられないとそれを解き解そうとしていく。
 その感情の事を、彼女はなんと呼ぶのか認識していなかったが……。

 聖杯への願いは特になかったが、強いて言えば『ある人物』との決着。
(実は本人が自覚していない潜在的な願いがある)

 好敵手となったサーヴァントを見逃したり、自身以外に苦戦していると助勢したりする癖がある。
 通常のマスターなら忌避すべき悪癖だが、宗二はそれを許容できる為、そういった意味でも相性が良い。

 ある展開の一つにおいて恋愛関係になった後は、
 宗二の事を、宗二とも主とも呼ばず、宗二様と呼ぶようになる。
 というかめっちゃ甘える。

 自身を清廉潔白な人物として見ていた宗二に、
「私はそんなに気高い人間ではない。
 かの塩を送った話も交易の都合上もあったからだし、人身売買も黙認していた。
 私はただ、自分の守りたいものしか守れなかった、守ろうとしなかった、浅ましい女だよ」と語る。

 性格は情け深く寛大で、部下(宗二)の謀反的行動も許したりする。
 ジオラマ好きで、戦略シミュレーション好きで、子供好き。
 一向一揆には苦手意識あり。

 その真名は『上杉謙信』。
(女性説が語られており、この物語ではそのあり方で) 
 聖杯への願いは『武田信玄』との再戦と自らは語っている。
 冬木の聖杯においては本来彼女のような東洋系のサーヴァントは召喚できないのだが、
 この物語の聖杯は擬似的な複製品で、それゆえの誤作動なのかライダーとして召喚された。

 魔の概念が薄い事から、対魔力や魔力そのものは低いが、
 保有スキル「毘沙門天の加護ぞある」により、全体的なパラメータに補正が掛かり、
 魔術にも十二分に対応できるようになっている。

 また日本での圧倒的な知名度による補正は並ならぬものがあり、
 比較的近代の存在でありながら、神代のサーヴァントと渡り合えるのに、少なからず関係している。


 ☆宝具


 『車懸りの陣・一人独楽』 ランクB+

 本来は彼女が率いた軍隊において成立する陣形が、
 彼女単独でも作用しうるように変形した宝具で、
 多重次元屈折現象に近い超高速による多方向からの連続攻撃の嵐。
 一撃一撃が乾坤一擲・必殺の気迫をもって放たれるものが間断なく連続して続いていく様は、受ける側としては恐怖以外の何者でもない。
 対人と対軍で使い分けが可能。

 上記の宝具バリエーションとして『車懸りの陣・双虎演舞』がある。こちらのランクはA+。
 珍しい『他者を巻き込む事で発動する宝具』のため、
 巻き込んだ他者が普通人であれば死に至る危険性が極めて高い為使えない。

 ある展開において宗二を臣下にして相棒たる存在と認めた事で使用可能となった。
 上記の宝具を二人で展開するものだが、
 現代人である主人公との連携により、圧倒的なまでの多彩さ、強力さを生み出し、効果は単純な『倍』では収まらなくなっている。



 『是なるは夜叉羅刹』 ランクEX

 ライダーの切り札宝具。
 全ての防具を捨て、愛用の十文字槍から放たれる、決死の一撃。
 かつてあった逸話から、
 一撃を放つまでの間は決して攻撃が当たらず、敵の懐に入り込む事が出来る。
 圧倒的な速度と渾身の一撃が合わさった、速度という概念を超えた一閃。

 しかし、その一撃を放ち終わった後は致命的な隙を作ってしまう、という欠点があり、
 また宝具の威力も、誰かを助ける時、危機的状況である時などなど、幾つかの条件が重ならない限り真価を発揮し得ない。

 使いどころの難しい宝具であるが、ライダー本人としては宗二が弱い為、結構使いやすいとの事。
 だが、個人的には逸話で褒め言葉とはいえ、『夜叉羅刹』とされる、あるいは自分から認めるのは気が進まない事もあり、出来る限り使いたくないとの事。
 



・アリス=ロックフィールド

 ロンドンの時計塔に籍を置く魔術師。
 同年代の中では5本の指に入る優秀な人材なのだが、
 同世代に存在している『よく似た二人』のとばっちりで今一つ目立てない。
(いや、目立たなくてもいいのだが、評価されないのは腹が立つ、というスタンス)

 そんな自身の状況を一変すべく、聖杯獲得の為に、どうにかあかいあくまを出し抜いて戦争に参加する。

 日本語が上手く話せない、外国人旅行者みたいな風体を装いながら、
 宗二の実家である旅館に潜り込み、別荘を買い取って工房を制作。

 以前から聞いていた情報を元に、聖杯戦争を有利に進めていこうとするも、
 いかんせん実戦不足で、色々と後手後手に回ったり、宗二たちに振り回されたりしていく。

 しかし、そうしていく中で、他人からの自分の評価などどうでもいいとふっきり、
 本当に大切な自分自身による自分の価値や、他人の価値を認められるようになり、大きく成長していく。 

 炎の魔術が大の得意で、事あるごとに放火しようとする。
 また、炎の余波で生じた陽炎に幻影を仕掛ける事なども可能。

 内気で丁寧語を喋るのだが、時折出す本性は雑。 

 幾つかある展開の一つではヒロインとなる。

 また、英国生まれであるゆえかシャーロキアンであり、この聖杯戦争において探偵役を担っていく。



・セイバー

 身長 173cm  体重 59kg スリーサイズ B86 (E) W57 H88

 誕生日 ???   血液型 AB

 イメージカラー 銀色  属性 秩序・善

 パラメータ(マスターアリス) 筋力 B 耐久 B 敏捷 A 魔力 B 幸運 A 宝具 B

 スキル 対魔力 A 騎乗 B 直感 A  カリスマ C

 アリスが召還した、正体不明の剣の英霊たる男装の女性。
 幾つもの剣や槍を使いこなし、
 炎の魔術(ファイヤアロー)を操り、
 騎乗スキルを持って戦場を駆け抜けるライダー寄りなセイバー。

 性格は、物静かでクール……っぽく見せようとしているだけで、実際には明朗快活。
 そうしないと地が出そうなため、猫を被っている。というかあまり隠せていない。

 時折零れる頑固さ、激情は、何処かの誰かに似ている。

 その真名は『トオミ』。
 この物語の数ある展開の一つで生まれた、宗二の娘が英霊と化した姿、つまり未来の英霊である。 

 宗二から聖刀を譲り受け、母親達から様々なスキルを受け継いだ、ハイブリッドな存在。
 幸せな、それでいて幾つもの冒険を潜り抜けた人生を送った者。 

 彼女が英霊となる事が出来た、英霊となったのは、出自の他様々な理由・要因があるとのこと。
 聖杯戦争で出会った頃の両親達を見てみたかったからでもあるらしい。

 母親達から自分達が遭遇した聖杯戦争について聞き及んでおり、詳しい情報を知ってはいるのだが、フェアではないとして、
 ある程度の情報が出揃った時、
 自身が出した謎掛けに勘でも何でも当てる事が出来た時、
 などに限り、情報を開示するスタイルを取っている。
(ただし、多くの人命が危ない時などは端的に情報を漏らす)

 自身が召還された時点で、この聖杯戦争は自分の親達には繋がらないと理解した上で、
 純粋に英霊としてアリスに協力して、勝ち残ろうとしていた。

 だが、親が危機的状況になるのを見過ごしは出来ず、
 幾つかの展開の中において、自ら捨て駒となる事を選ぶ。

 その際に、宗二に対して、決して未来を悲観しないでほしい、など様々な言葉を伝えている。

 宝具は、
 父が残した『陽炎なれど永劫なる守護の刃』の他、
 母から伝授された二つ、合わせて三つ。
 
 アリスについては、育ての親の一人であり、魔術の師でもあるため、
 素っ気無く見えても実際には過保護に接している。




・リヤアスフィール=アインツベルン

 身長 155cm  体重 45kg  スリーサイズ B79(B) W58 H83

 誕生日 ??? 血液型 ??? イメージカラー 白


 アインツベルンの新しいホムンクルスで、バーサーカーのマスター。

 人間を下賎な存在として認識しており、
 聖杯にはホムンクルスによる世界統治を願うつもりでいる。

 しかし、無闇な殺戮は望んでおらず、下賎は下賎なりの価値があると考えている。
 なので、自他の戦意を煽る為に、自身に絡んできたチンピラをあえて殺した時は精神的ショックから吐いたりも。

 本当はホムンクルスを使い潰すような人間の醜さから、作られたものや虐げられるものを救済したいと心底思っている純粋な女性。

 性格は、基本的・表層的には下品かつ高圧的。
 素は何処か気弱で、時折全てに脅える様子も見せる。

 マスターとしては強靭で強い部類なのだが、
 その性能については他マスターから疑問視されていた。

 その正体は、アインツベルンから逃亡したホムンクルスを黒幕が捕獲、改良洗脳した存在。
 元々から逸脱した改造を施した結果、極めて短命な存在となっている。
(本人も自覚はなく、戦闘中に吐血し、それにより宗二が命拾いする事も)。

 聖杯戦争をスムーズに動かす為の機構として、都合のいい行動を行うように仕組まれている。

 ホムンクルスとしては実際には新しくはなく、
 かつてある少女の護衛として作られたが、
 自身が仕える存在の儚さや未来に絶望し、耐え切れず、逃亡した過去の存在。

 仕えていた少女については敬愛していたのだが、
 全ての真実を告げる事、聖杯戦争からの逃亡を持ちかける事が出来なかった。
 その事はトラウマとなっており、彼女の深層に深く刻まれている。

 後に洗脳が解け、真実を思い出し、絶望する。
 だが、自身と同類だと感じた宗二により助けられ、
 もし少女が生きているのなら、謝りに行けばいいと指摘される事になる。

 

・バーサーカー

 身長 163cm  体重 67kg

 誕生日 ???  血液型 ???

 イメージカラー 黄金・紫  属性:秩序・善

 パラメータ(マスターリヤアス):筋力 A+ 耐久 A+ 敏捷 B+ 魔力 B+ 幸運 B

 スキル 対魔力 B  騎乗 B 直感 B カリスマ B


 若干小柄で赤毛の男性。
 多少茶目っ気はあるが、必要ならば冷酷になれる人物。
 バーサーカーでありながら、意志疎通が可能なサーヴァント。
 当初は、狂化したふりのままでリヤアスを冷ややかに見守っていたが、
(誰かが彼女を助けてほしいと願っていたのを『何処か』で聞き及んでいた)
 彼女の中にある、泥に塗れながらの気高さ(と『本来の居場所』に帰りたいという気持ち)に気付いて以後は、
 積極的に彼女に協力し、聖杯戦争を勝ち残るべく知略を用いていく。

 当初はノーティス(だれでもない)と名乗っていたが、その真名はオデュッセウス。

 保有スキル『狂演』により、
 狂気を演じる事で、バーサーカーとして召還されたにも関わらず理性的な行動が可能。
 しかし、戦闘においては直前に演技をしていたかどうかで能力恩恵が受けられるかが変化する。
 また、演じている事が明らかになった場合、その相手の前ではバーサーカーとしての能力を発揮できなくなる。

 保有スキルとしては他に『戦神の加護』があるのだが、
 サーヴァントとして呼ばれていることや、クラス・バーサーカーの弊害からか、筋力と耐久にのみ補正が掛かっている。

 ☆宝具

 『我、汝の本質に問い掛ける』 ランク B
 
 アキレウスの変装を破った知略が宝具化したもの。
 これを使われたサーヴァントは、自身の素性その他を明らかにしなければならない。
 また、好戦的なサーヴァントは戦わずにはいられなくなる。
 戦闘用の宝具ではないゆえか、効果は絶大。
 よほどの意志力の有無、あるいは令呪を使用でもしない限り、抗う事ができない。


 『不逞を討ちし偽りの死』 ランク B

 オデュッセウスが死を偽ってアンティノオスを討った逸話からの宝具。
 これにより、一度だけ死亡を免れ、行動が可能になる。
 しかし、死の状態から動けるようになるだけで、死の前の怪我などは最低限にしか治癒されない。

 
 『不逞討ち貫きし、十二の矢』 ランクA++

 オデュッセウスの逸話からの宝具。
 一つ一つAクラスの光の弓矢が必中の精度を持って敵に刺さる。
 対人、対軍、どちらでも使用可能で、ライダーとの『車懸りの陣』と激突し、凌ぐほどの威力を見せる。
 貫通効果もあり、矢こそ十二だが、倒せる敵は十二に留まらない。
 状況によって(神話の再現に近い場合)は、A+の効果が発動する。 
 また敵対者が『悪漢』であった場合はより高い効果が得られる。
 ただし、狂化状態では使用不可。

 極めて有能かつ強力な英霊で、まともに戦った場合並みのサーヴァントでは勝てないのだが……。



・ディーン=タナカ=ラングレッジ

 聖堂教会から派遣された監督役。
 前任とは違い、極めて温厚かつ純粋な善人たる神父。

 苦しんでいる人々を助ける為に、救いを求め、秘密裏に魔術を習い、一時破門されていたが、
 人格面では信頼されていた為、今回の監督役として適役として呼び寄せられた。

 その結果、令呪を宿してしまい、交流のあったとある執行者から一時的に預かっていた品からランサーを偶発的に召還する事に。

 自身に望みなどないと思い込んでいる事から、戦闘への参加は良しと出来なかったが、
 さりとて、サーヴァントを無為・無碍には出来ず(こちらの都合で招いたものを自害など持っての他)、
 魔力を提供した上で、サーヴァントの自由意志に任せる事にした。

 自身がサーヴァントを令呪を宿した事、召喚した事を馬鹿正直に報告。
 一歩間違えれば、監督以前に殺害命令が下っていた可能性が濃厚だった。

 しかし、これまでの様々な行動が信頼を得ていたため、
 サーヴァントとしてのランサーへの自由意志委任、
 サーヴァントを使った聖杯戦争の『コントロール』などの思惑や事情もあり、奇跡的に首の皮一枚繋がった。



・ランサー

 かつて第五次聖杯戦争に参加していたランサー=クー・フーリンその人。
 (ただし、かつての記憶はなく、出来事を記録として把握しているのみ)

 自身を召還した人物がどうしようもない善人であることに毒気を抜かれたものの、
 かつてのマスター(勿論あの神父)より遥かにマシであり、
 無関係なものを巻き込まない、出来うる限り人死にを出さない、
 という神父の願い以外は自由にしていいとされた事で、喜び勇み、
 様々な強者と戦い合ったり、未熟な宗二にも喝を入れたりなどしつつ、聖杯戦争を謳歌する。

 その恩もあって、神父の言う事には出来る限りで従っており、
 まだ未熟な若者である宗二やアリスには手心を加えたりしている。

 この物語でも、展開の一つに自害を強要されるものがあるのだが、
 その場合、マスターである神父の強い意志を賞賛し、宗二に男とはかくあるべしと見せ付けて、舞台を去っていく。



  
・虹乃ゆめ

 身長 150cm 体重 48kg スリーサイズ B80(C) W58 H82

 誕生日 この街での聖杯戦争の始まった日 血液型 なし

 イメージカラー 虹色 属性 中庸・中立

 パラメータ(???) 筋力 E 耐久 E 敏捷 A+ 魔力 C 幸運 B

 スキル 対魔力 C

 時折登場人物たちの前に現れては、様々な情報をもたらし去っていく。
 宗二達の住む町について詳しく知っており、この街を愛していると標榜し、
 この街を危機に晒すような状況には現れて、それを止めるように忠告する。

 虹乃ゆめは偽名であり、正体はアーチャーのサーヴァント……と見せかけているもの。
 その真名は『虹』(レインボウ)。

 宗二達の住む街は、古くからあまり変わらない穏やかな場所であり、精霊や妖怪などの目撃談が語られていた。
 実際それは正しく、彼らの住む町は現代では殆ど存在しないはずの精霊や妖精などの隠れ里であった。

 魔術協会や聖堂教会も精霊の守護によって、
 正しく認識できなかった(あるいは認識していたがゆえに手が出せなかった)土地である。

 精霊達はこの街で行われようとしている聖杯戦争が、自分達を脅かしかねないものだと認識。
 その防衛手段として、講じた手段の一つが宗二であり、もう一つがゆめであった。

 しかし、現代社会に近い場所においての精霊の力は微弱で、
 無理矢理なこじ付けで「ゆめ」という人間に近いあり方の精霊を擬似的な英霊として潜り込ませる事が精一杯であった。

 そうした強引な介入の結果、色々と捻じ曲げられ、存在として弱体化。
 その為、英霊としての力は殆ど持たず、街や精霊の意思を代弁するぐらいでしかない。

 しかし、いわば街そのものがマスターであるゆえか、
 街内での情報収集力は圧倒的で、あるサーヴァントからは謎の脅威として認識されていた。

 ☆宝具

 『街を織り成す希望の弓矢』(レインボウ) ランク EX

 この街限定で自在に雨を降らす事が可能で、その後に虹を掛ける事が出来る。
 この雨こそが時に宗二達の勝因となり、虹こそは最終的な勝利の証となる。



・エミヤ=シロウ

 この作品の黒幕の一人。

 宗二のいる学園に転入してきた少年で、あるサーヴァントのマスター。
 かつての聖杯戦争についての詳細を語り、聖杯を得るためにではなく、戦争を止める為に戦うと宣言。
 その方向性から、宗二と組む事になるわけなのだが……

 正体は、第五次聖杯戦争にアサシンのマスターとして参加する筈だった魔術師の少女。

 複製魔術という、見たものの構造を大まかに把握し、模倣品を作り上げる魔術の使い手。
 彼女自身は魔術師としては凡人で、武器らしい武器はない。
 が、その複製魔術により様々な現代武器、宝具などを複製し、立ち回る。
 
 元々親の名前姿すら知らない孤児であり、
 孤児院から逃げ出した末に、とある高名な魔術師の家に拾われたのだが、
 後継としてではなく(後継者としての娘・義姉が既にいた)、あくまで予備であった。
(いわゆる、貴族の義務、暇を持て余した貴族の遊びでもあった)

 姉の影武者・模倣品として育て上げられるも、
 真っ当な魔術師としては姉ほどの才能はなかったため重用されなかった。
 その出自ゆえに、明確な自分としての自己を持たない。
(模倣を求められたゆえか、複製魔術が開眼するも、魔術そのものを複製できるわけではない)

 しかし、ヒトとして育てられた恩義は感じており、
 複製魔術を用いて、幾つかの修羅場を潜りながら、彼らの家に利益を還元すべく様々な商売を行っていた。
 第五次聖杯戦争に参加しようとしたのも、ひとえに彼らに対しての恩返しとして聖杯を手にするためであった。

 その際、成果なく殺されてしまっては無意味として、
 偶然知り合っていた高名な人形遣いに寸分違わぬ人形を作ってもらい(かなり高価で財産の半分を使った)、意識を共有して操って参加。

 だが、聖杯戦争に参加すべく来日した矢先に、現状把握の途中でキャスターに強襲され、殺されてしまう。

 しかし、どうにか『本人』は生き残った為、
 これは自分の手に負える戦争でないと判断、その後は聖杯戦争の行方を密やかに見守っていた。

 そんな中で衛宮士郎の存在を知り、興味深く感じ調査。
 孤児だったという過去や、借り物の理想の事を知り共感。
 その上で聖杯戦争を勝ち抜いた彼に強烈な憧れを抱き、
 『彼』そのものになれなくても、近い何かになりたいと思うようになる。

 そんな思想から、第五次聖杯戦争においてキャスターのマスターだった魔術師の弟子からの提案に乗り、
 かねてより計画中だった擬似聖杯戦争計画に賛同、複製の魔術を惜しみなく使い、舞台を急ピッチで作り上げた。

 その上で男装し、エミヤ=シロウとして自らが起こした聖杯戦争を自らで収拾すべく動き出す。

 かなり計算高く慎重な性格ではあるが、立てる計画は大雑把。
 これは彼女の複製魔術にも言える事で、大まかは似ているが詳細は違う、という彼女のあり方そのものである。
 だが、これにも意味はあり、今回に限っては「あえておおまかになぞる」事で、聖杯戦争の大きな流れを変えないようにする意図があった。

 そうして作り上げた舞台で士郎と同様に立ちまわり、生き残ろうとするもままならず、次第に焦っていく。

 そして、自身よりも士郎の立ち位置に近い宗二を目の敵に思うようになり、
 最終的に敵対したりするのだが、ある展開の一つにおいてはヒロインとなる。

 彼女の武器は、第五次聖杯戦争中に目撃した幾つかの宝具の模倣品。
 しかし、士郎と違い無限にストックできるわけではなく、劣化複製でしかない。
 ランクは低く、サーヴァントには牽制程度にしか使えない。
 威力的にもそこそこ強力なマジックアイテムどまりである。
 他は通常の武装に魔力を帯びさせての攻撃などがメイン。

 口癖は「なんでだ?」もしくは「なんでよ」。
 当初は意図的に言っていたが、後に本当の口癖になっていく。




・ジョン=ドゥ(偽名)

 第五次聖杯戦争のキャスターのマスター、その弟子。
 今回の黒幕その2。

 師匠から、聖杯戦争の全貌を聞き及んでおり、
 もし自分が生きて帰らぬのなら、進めていた計画に基づいて、もう一つの聖杯戦争を起こすように伝えられていた。
 自身をサポートする強力なアドバイザー兼スポンサーを得た事で奮起、擬似聖杯戦争を引き起こす。
 
 まさに魔術師らしい魔術師であり、奇跡の隠匿などの為には、情け容赦なく一般人を斬り捨てる冷淡さを持っている。

 魔術工房の制作は一人前以上。
 協力者のバックアップがあったからこその劣化模造とはいえ、この舞台を短期間で整える事が出来たのは彼の能力あればこそである。

 戦闘には特化していないため、
 それを補うべく、密やかに事をなそうとする。

 聖杯への願いは、師匠の復活。
 
 聖杯戦争の勝利には拘らず、生き残り、自己を獲得するのが目的であるエミヤ=シロウとは協力関係にある。
 しかし、彼女を完全には信用していない。

 魔術の世界における一般人で、小物ではあるが、魔術師としての矜持がある。
 それゆえに魔術の魔の字も知らなかった宗二が聖杯戦争をかき乱すのに怒りを覚えていく。

 師匠を殺した『英霊』という存在を憎んでおり、自身が召還した暁には使い潰す気でいたのだが、
 実際には使い潰そうとしていたサーヴァント達に最初から上手いように使われているだけであり、
 ある展開においては裏切られた末に事実を知って絶望、
 憎しみながらも実は憧れるようになっていた宗二に敵討ちを願う。



・オフェンダー(アサシン&キャスター)

 身長 180cm 体重 73kg

 誕生日 ??? 血液型 ??? 

 イメージカラー 赤・黒 属性:秩序・悪

 パラメータ(???) 筋力 D 耐久 D 敏捷 B  魔力 B+ 幸運 B

 アドバイザーに助言されたジョン=ドゥがエミヤシロウとともに意図的に二重召還したイレギュラーサーヴァント。
 分類としてはキャスターに当たる存在だが、魔術的な素養はほぼない。
 素質的にはアサシン寄り。
 
 真名は『ジェームズ・モリアーティ』。
 実際には、彼の名を冠すほどの犯罪結社の長だった男である。

 自身のサーヴァントとしての能力は極めて低い。
 モリアーティとしての体術や殺人技術などを持っている他、
 銃を霊体として所持している(サーヴァントに攻撃できる銃器)があるが、
 それらは真に英霊たる存在に太刀打ちできるほどではない。 

 唯一の宝具『不動なる千本の糸』により、
 かつて自身の配下だった者、思想が近い悪霊を一時的に呼び寄せて、手駒にすることが出来る。
 また、生きている人間、瀕死の英霊も、話術に掛けるなどの幾つかの条件を重ねる事で思うように操る事が可能。
 この辺りは二体分のサーヴァントとして召還された事により神秘性を補強されているゆえに可能になった事である。

 宝具の使用条件として、
 自分自身は計画に直接関与出来ないという欠点があるが、
 それをものともしない策略を練り、姿なき人海戦術により、宗二達を追い詰めていく。

 保有スキルとして『神秘封じ』を持っており、
 彼の付近にいる英霊や魔術は多少能力や威力を減衰されてしまう。




・アナザーキャスター

身長 190cm 体重 86kg

誕生日 ??? 血液型 ???

 イメージカラー 金・銀 属性:秩序・善

 パラメータ 筋力 B 耐久 B 敏捷 C 魔力 B 幸運 A 宝具 A

スキル 対魔力 B カリスマ B


 黒幕その3にしてラスボスの一人。

 ジョン=ドゥのアドバイザーにしてスポンサー。
 しかし、その正体は第一次聖杯戦争の生き残りサーヴァント。
 同士討ちの隙を突いて、聖杯に『永遠なる受肉』を望み、それを成功させた後は姿を消した存在。
 
 その後は聖杯戦争の行方を観察しながら、機を待っていた。
 そして、聖杯戦争が『終結』したのを見届けて、動き出す。

 真名はハンムラビ。
 
 そもそも最初の召還に応じたのは、自分の死後の世界を自身の眼で覗き見るためだけであったのだが、
 現代社会の歪みを第一次聖杯戦争での有様で垣間見た事で、
 自分が世界そのものを掌握し、改めて自身の法典を知らしめるべきだと確信。

 受肉以後は、詳しい世界情勢を把握すべく放浪。
 聖杯戦争が行われる折に趨勢を眺めていたが、繰り返される愚かな行為に呆れていく。
(この際、様々な文献を読み漁り、
 聖杯戦争に参加したサーヴァントの真名を全て把握出来る知識を得た)

 同様に、近代社会への変貌に驚きながらも絶望していく。

 第五次聖杯戦争において『正しい事』を標榜する士郎が勝者となったことについて高い評価をしており、士郎の勝利が彼に時機を感じさせた。

 今回の聖杯戦争で勝利した暁には、
 己が法典の世界中での行使、それに必要な審判者である自身の王としての君臨を望むつもりでいる。

 そうする事が状況・地方によっては弱者を巻き込みかねない可能性がある事は理解しているが、
 自分の支配下であれば最小限に出来ると自負している。
 
 しかし、それら全てが傲慢だという事も重々承知しており、
 もし自分が討たれるような事があれば、それこそが世界からの『目には目を、歯には波を』だと考えている。

 女性や弱者に対しては優しいが、決して際限なく優しいわけではなく、罪には相応の報いを与える。 



 ☆宝具


 『目には目を、歯には歯を』 ランク B+

 ハンムラビ法典そのもの。
 因果応報を対峙している相手にぶつけるもので、相手の罪科に応じてのダメージを刻む事ができる。
 ただし、戦争などによる殺人はその範疇外で、平時においての罪に応じてのダメージを負わせる事が出来る。

 実際には『所信表明』であり、完全なものではない。

 またこれを、真名解放して取り出すことで、
 所持者であり実行者であるキャスターにはステータス補正がかかり、
 能力以上の力を発揮する事が出来る他、
 キャスターの知名度補正を底上げする事も可能で、
 ただ純粋に強いサーヴァントとして、他サーヴァントを圧倒する。

 彼は保有スキル『その名は治癒者』により、自他問わず治癒能力を発揮するのだが、
 効果としては微小なそのスキルでさえも強化され、圧倒的な回復力を持つ。

 上記の兼ね合わせにより、
 パラメータなら五分であるはずのライダーを一方的に殴打する事も出来る。


 『法典は、過去、今、そして、これからも』 ランク EX

 現代では失われているとされている条項部分にプラスアルファした、現代版のハンムラビ法典。
 英霊の特性を維持したまま受肉したキャスターならではの宝具で、
『目には目を、歯には歯を』では手遅れになってしまう攻撃・存在に対して発動可能な先制宝具。
(現代社会を学んだ結果であり、本来は征服の王でもあるハンムラビの側面を反映した宝具でもある)

 キャスターの認識次第で変化し、常時発動可能な宝具で、
 相手の『規模』よりも一際大きな魔力光として発射される。





 以上です。

 上にも書きましたが、知識不足で穴だらけな設定ですが何卒ご容赦くださいませ。
 その上でお楽しみいただけたのなら何よりです。