この物語は、このHP『ゆーとぴあ本舗』の一次創作をある程度知っていないと色々と分からない可能性が大きいです。
その事を踏まえた上でこの作品を読みたいと思える方は下の方へにお進みくださいませ。
ゆーとぴあ本舗・創立9周年記念SS
とある魔術師の終わりと始まり
カツン、カツン。
足音が響く。
それは自分の足音。
まだ靴を履いている。
という事は、まだまだ道は遠いのだろう。
そこは、場所という言葉では言い表せない場所。
そこは”いつ”という言葉を使うのに意味のない時間。
今の私の姿を傍から見れば、
青空であり、朝焼けであり、夕闇でもある空を、
地面があるかのように歩いているように見えるだろう。
そんな時と場所が意味のない世界を、私はただ只管に歩いていた。
目指すのは、今の私にとっての完全なゴールであり、次の私にとってのスタート。
慣れている事なので、のんびりでも急ぐでもないペースで歩いていく。
カツン、カツン。
……カツンカツン。
そんな中。
自分の足音が響くのに混じって、別の足音が響いてきた。
少し足早な、先を急ぐ音。
真っ直ぐに前を見据えているような、軽快でいて力強い足音。
「……ああ、やっぱり貴女か」
「あ、カナミさん、こんにちはです」
いつか何処から現れたのか、それは分からない。
私が私として生きていた三次元世界ならば気配やらマナやらで分かるのだろうが、ここでそれらは意味を持たない。
人によっては、ここで起こる様々な事象の時間的な連続性があやふやになる事もあるし、そもそもにして警戒する必要性が無いからだ。
ともあれ、彼女はいつの間にか私の前に現れていた……というよりたまたま通りかかったようだ。
私の存在に気付いて立ち止まり、小さく頭を下げた彼女は、私のよく知る誰かとは似て非なる者。
ある意味私が生み落としながらも、私を完全に超越してしまった存在である。
しかし、それはそれとして。
「カナミか。その名前を呼ばれるのは久しぶりだわ。ふふ、懐かしい」
お陰様で、久しぶりに自分が何者なのかを明確にイメージできた。
私の名前は……艮野カナミ。
長く生きてきた私にとって、幾つか持っている名前の一つだが、もっとも愛着のある名前。
私はかつて、基本的にその名を名乗りながら長い時を生きてきた。
長い時……並の人間とは比べ物にならない寿命は、星の恩恵によるもの。
そうして長く生きてきたのは、私が地球という星の管理を異能により裏から行う『管理人』という存在だったからだ。
そういう存在だったから、星の恩恵を受ける事が出来た。
そう、”だった”。
今の私は肉体的には死亡している。
肉体的な死後、私の魂だけが次元階層の高いココ……所謂”あの世”に移り、裁きを経て、行くべき場所へと向かって進んでいる。
それが私の現状である。
そんな私の目の前に立っている”女性”は、私が管理人であった事を知っている、私とは違う世界の存在だ。
管理人のようでありながら、それとは違う存在……それが彼女だ。
彼女は、私の言葉でなんとなく現状を察したのか、改めて私に向けて丁寧に頭を下げてくれた。
その所作、礼の仕方は、彼女の真面目さが十分に感じ取れるものだった。
「そうですか。……管理人のお仕事、お疲れ様でした」
「いえいえ、そちらこそ」
「いえ、とんでもないです。私はカナミさんに比べたらまだまだです。
それはそうと、これから最初に戻るんですか?」
「ええ、そうよ。貴女は何処へ?」
「色々な事を見て回って、勉強している途中です。
まだ『成った』ばかりなので、学ばなくちゃいけない事、学びたい事がたくさんあるんですよ」
「”正義の味方”とは、やっぱり勝手が違う?」
「……そうですね。
昔の感覚で行動すると”過保護過ぎる”と怒られますし、
かと言って、悲しい事を悲しいままにはしておけないですし、
でも直接介入すると皆がこっちに依存し過ぎるようになってしまいますし……
どうすればいいのか、ホントに分からないですよ」
「でも、あがき続けるんでしょう?」
「ええ、それはもう。
私含む、皆が幸せになれる世界……不可能なのは百も承知ですけど、それでも可能にしたいんです。
それに私が不可能なんて言って諦めてたら、立場上示しがつかないですし……
それ以前に私自身が許せませんから」
そう言って、彼女は僅かに苦笑を含んだ微笑みを浮かべた。
それは、文字通り神々しさを感じさせる”彼女の立場”に相応しい笑顔。
そんな彼女の笑顔を見て、私は改めて思う。
全くもって大した子だ、と。
様々な、それこそ並みの人間であれば百万回心が確実に死ぬだろう事象を越えて、なお希望を抱き、微笑む事が出来る。
こんな子だからこそ、この子は私や良く似た彼が至れなかった高みにまで登り詰め、さらにその上に昇っていくのだろう。
そんな彼女のお蔭で、新たな要素、可能性が『次の世界』にプラスアップされる筈だ。
それは、彼女が管理するようになった『大きな並行世界』の誕生により、多かれ少なかれ”繋がった”他の平行世界にも彼女の世界の要素が生まれるという事。
更に、新たな世界と古い世界の間の大きな違いを埋める為に緩衝となるべき大きな並行世界も『次の世界』で生まれるだろうし、それは更に新たな可能性を生む事に繋がる……。
「ふふふ、本当に凄いわ、貴女は」
「そ、そんな事ありませんよ」
私には珍しい素直な賞賛を感じ取ってか、彼女は顔を赤らめた。
先程とは打って変わって、人間の枠を超えた存在になったのに、何処までも人らしいリアクションである。
彼女はそうして照れ笑いながら、私への言葉を続けた。
「それを言うのなら、何度も長い時間を繰り返しながら管理人を続けるカナミさんの方が……」
「お褒めいただきありがと。……じゃあ、私はそろそろ行くわ」
この空間において時間はあまり関係ないのだがが、忙しい彼女の歩みを止めるのは申し訳ない。
なんとなくそう思い、私は告げた。
すると彼女は、その辺りを察してなのか、表情を引き締め、穏やかで、それでいて威厳を感じさせる声で答えた。
「……はい。それでは、またいずれお会いしましょう、カナミさん」
「ええ、また遠くて近いいつかで。
あ、そうだ。一つ言っておくけど」
「なんでしょう?」
「貴女クラスだと、使用する回廊は、ここよりもう少し上の階層じゃない?
別に規則はないけど、誰かに文句を言われるかもだから無意味に通るのは止めた方がいいわよ」
「そ、そうなんですか?」
「そうよー。
生身があった時とは違うんだから気をつけないと」
「……うう、ご指摘ありがとうございます」
ガックリ肩を落とす彼女。
彼女のこんな姿を見る事が出来る機会も存在もそうそうないだろう。
だから私はニヤニヤ笑いつつ、その記憶をしっかり魂に刻み込んでおく事にした。
カツン、カツン。
足音が響く。
それは自分の足音。
まだ靴を履いている。
という事は、まだ道は遠いのだろう。
「……やれやれねぇ」
再び歩き出して呟く。
流石に『成り立て』だからなのか、まだまだ彼女は人間臭かった。
ただ、あの良い意味での人間臭さをいつまで持ち続けられるものなのか。
長いなんて言葉じゃ足りないほどの時間の果てに精神が磨耗、人格が変貌する事は珍しくない。
私と同じ”管理人”でも、そうなのだ。
……とかなんとか考えはするものの。
「まぁ、大丈夫でしょうけどね」
彼女も、彼女に良く似た男も筋金入りだ。
時間を重ねて成長する事はあっても、決定的に歪みはしない。
万が一、億が一で歪んだとしても、彼らを引き止め、叩き直す存在が確実に現れる。側にいる。
それが彼らの『人徳』なのだから。
「……自分とは違って、そう言いたげね。ヘクセ」
何処からともなく声が響く。
その声を認識した瞬間、一人の女性が私の道を塞ぐように突然現れた。
彼女の事はよく知っている。
彼女は『裁く者』。
三次元世界での生命が肉体的に死んだ後の行く先を決める者の一人だ。
彼女は、主に魔術師などの異能者を担当しているからか、
私達のような世界を管理してきた管理人などのさらに特殊な人間の担当者でもあるらしい。
私は何度も転生しているが、彼女以外の『裁く者』によって裁かれた事はない。
そんな顔馴染みに笑いを向けながら私は言った。
「事実そうじゃない?」
「いいえ、そうは思わないわ」
「その根拠は?」
「貴女が、深く人を愛しているから、かしら。
貴女をはじめとする”最後の管理人”達は今度で9回目の転生になるけど、まるで軸がぶれていないわ。
貴女は特に、ね」
「……」
「それゆえになのか、
貴女は、先程貴女が遭遇した”あの方”のように到達した訳でなく、
人のままで、数千年から数万年単位で生きての転生を繰り返しながら”変わらない”。
そんな貴女なればこそ”大丈夫”でしょう。
少なくとも私はそう考えているわ。
それに……」
「それに?」
「貴女にも、貴女が万が一歪んでしまった時、助けてくれる仲間や友人がいるはず……
いえ、はずではなく、彼らは確実に助けてくれる。
転生前の彼らの心はそう言っていたわ。
先程の”あの方”も、そうなっていれば必ず貴女を助けに現れるでしょう。
だから、大丈夫よ」
「……嬉しい事を教えてくれるわね」
流石『裁く者』。
私の心情などお見通しのようだ。
しかし、それはそれとして。
「でも、どういう風の吹き回しなのかしら?」
彼女は基本的に、というか絶対的に全てに公平のはずだ。
裁く者であるからこそ、曲げられない、曲がらない所であるはずだ。
そんな彼女の、個人寄りの言葉など聞いた事はなかった。
その事への疑問を口にする私に、彼女は淡々とした口調で答えた。
「貴女は世界に必要な人材。歪んでもらっては困るわ。
ゆえに、そうならないように事実を告げただけよ。
そして、それとは別に……私自身、顔見知りである貴女の幸せを、貴方達の望みが成就される事を望んでいる、それだけ」
「へ?」
「言っておくけど、仕事に私情は挟まないわ。
であるのなら、個人の幸せを願うくらいの自由は、私にもあるのよ」
「……うわー、貴女がデレるの初めて見た気がするわ」
「好きに解釈すればいいわ。
嘘を言っていない以上、言葉を撤回するつもりはないし」
「こういうのをクーデレっていうのよね、確か。
薫ちゃんならもっと色々……」
「……それでも、ほどほどにしておきなさい」
「はーい。……ありがとうね」
「……長い付き合いだもの。
貴女のように、ここでの記憶や周回ごとの記憶を持ち続けている存在は少ないわ。
こうしてちゃんとした普通の会話が出来るのは、悪くない、そう思っているのよ、これでも」
「それは私も同じよ。
私以上に長生きな知人なんて、片手で数えられる位しかいないんだし。
まぁ、コンゴトモヨロシク、ってね」
「ええ」
「ふふふ。……じゃあ、また遠くて近いいつかで」
「ええ、遠くて近いいつかで」
そうして、私は旧知の友人と初めて笑顔を交わしながら別れ、再び歩き始めた。
私にとっての、終わりと始まりへ向かって。
ペタリ、ペタリ。
足音が響く。
それは自分の足音。
もう素足。しかも徐々に音が消えていっている。
それは私が身に付けていた『前回の生での垢』が取れ掛けているという事に他ならない。
という事は、そろそろゴール……スタートが近い。
そんな私の前に。
「……こんにちは」
「……こんにちは」
私の同僚にして同胞。
娘にして仲間。
上司にして家族である金色の少女……管理人を統べる者たる世界王が佇んでいた。
私は、彼女に向けて微笑んだ。
彼女もまた、私に向けて微笑んだ。
「話す事は、あまりないね」
「ええ、話す必要はないわね」
彼女と私は最早一蓮托生、二心同体……とまで行くか行かないかはギリギリだが、そう言ってしまっていいと私は思っている。
彼女もまたそう思っているだろう事を確信しているから。
「全ては、全てが終わった時に」
「ええ、そうね」
「私も最後の処理が終わったら、行くわ」
「はいはい。
またね、オーナ。また私を見出しなさいよ?」
「ええ、勿論よ。貴女こそ、また貴女になってね」
「当然よ。じゃあね」
「ええ、またね」
そうして、私達は軽く手を振りながら別れた。
……その軽さは、再び出会う事を確信しているがゆえ。
「〜♪」
歩き出した私の背中に、歌が降り掛かる。
それは彼女の、世界王の歌。
感情を溢れさせた時に口ずさむ、彼女の癖。
管理人として生きていた最後の頃は、悲しい歌ばかりだった事が思い起こされる。
今も少し悲しげだが……ただそれだけじゃない。
悲しげだが、希望を含んだ歌詞と歌声になっている。
だから、私は振り向かずに歩いていく。
前を向いて歩く事を、その歌は望んでいたから。
(……まったく。
何回目でも、幾つになっても、泣き虫な王様なんだから)
再会出来る事を確信していても、今抱く感情は別問題なのだろう。
そんな泣き虫な王様とは違い、その辺りを覆い隠して嘘を吐く事を知っている私は涙を流さない。
ただ笑いながら、前へと歩を進めていった。
……ええ、泣いてなんかいませんとも。ホントだってば。
もう、音はない。
歩く脚すらない。
ここにあるのは、艮野カナミ、ヘクセ、様々な名前を持っていた魔術師の魂のみ。
いよいよ、転生の時らしい。
ただ、転生と言っても私は普通の……転生の際に記憶や魂の在り方を消されてしまう……者達とは、少し事情が異なっている。
私は他の魂とは違い、世界影響や守護の関係から特別扱いされていた。
つまりどういう事かというと、私にはある程度の魂記憶の保護を受けての転生が許可されているのだ。
だけど。
「……さて、今回は思い出せるかしらね?」
私は転生の度にその記憶……今まで積み重ねてきた知識や経験、魂の在り方を封じる事にしている。
それら封じた記憶を全て取り戻す事が出来るのは、世界管理人になった時だけだ。
そうなるように細工して私は記憶を封じている。
何故そうするのか……そこに大した理由はない。
事情有りとは言え、こういう特別扱いについて微妙に気が乗らないというのもある。
こんな事で仲間達に出会えないようなら、管理人になれないようなら、それまでの縁だと思っている事もある。
だがそれ以上に”そうしなければ面白くないし、そうする方がきっと私らしい”そう思っているからに他ならない。
「まぁ私は私だし、大丈夫でしょ」
過去同じ様に記憶を封じてきたが、今まで唯の一度も思い出せなかった事はない。
勿論、そうして今までが大丈夫だったからと言って油断しているわけじゃない。
ただ、私は私を信じているだけだ。
何度”やり直し”させられたとしても、同じ道に進む事を選ぶ自分を。
「……しかし、次はどうなるかしらね」
私自身は、管理人になるまでは同じ道を進む確信がある。
だが、世界はどうなのだろうかと私は想いを馳せた。
今回、いや前回……八回目のループ世界では、七回目では起こらなかった様々な事が起こった。
だが、あくまでそれは『平行世界』絡みのことばかり。
幸いにも基本世界は殆どいつもどおりの流れのまま歴史を重ね、
”世界の外から攻めてくるモノ”との大きな戦いは起こらず、比較的穏やかにループ終焉を迎える事が出来た。
アレらが全力で攻めてきたら最後、私達、地球の生命体はループ終焉……地球の歴史が終わるまでに確実に滅ぼされる。
過去三度、それが起こっており、その度に地球は世界基盤にダメージを受けている。
あと一度攻められて、完全に負けてしまえば……地球はアレらの存在力に押し潰されて、確実なループから零れ落ちてしまう。
つまり、根源記憶たるアカシックレコードの記録にダメージを受けてあやふやになり、この地球という星の誕生、その確率が危うくなってしまうのだ。
逆に一度でも明確に勝つ事が出来たなら、アレらの再度の来襲を封じる事が出来る筈だ。
明確には未だ把握できていないのだが、そういうルールになっているらしい。
向こうが毎回確実にこちらに攻めてこないのも、その辺りに事情があるらしいのだ。
まぁ、お蔭で命拾いをしているわけなのだが。
確かに、アレらは強い。
だが、絶対に勝てない訳ではない。
アレらが地球の基本たる三次元世界に介入するには、
アレらもまた三次元世界に相互干渉出来る形を取らなければならないからだ。
こちらがアレらを認識、干渉できる以上、勝利する可能性は確かにあるのだ。
事実、アレらの一部と戦い、勝てはしないものの地球を守り抜いた事はあるのだから。
だが、完璧に勝つ為にはまだパーツが足りない。
ループを重ねながら、私達管理人はそのパーツを探し続けてきた。
そして、今回、そのパーツの一部が『大きな並行世界』と共に誕生した。
おそらく、次のループで更にそれに連なり、新たなパーツが発見出来るだろう。
しかし、敵もそれにいずれ勘付くだろう。
私達が表向きに通常の歴史を重ねる事で誤魔化せるのは、恐らく後1回が限度。
地球歴史のループ十周目。
おそらく、そここそが正念場になる。
十回目に最高の布陣を揃えられるかは分からない。
下手をすれば、九周目で滅ぼされてしまうのかもしれない。
だが、正直な所、私は悲観していなかった。
明確な根拠はない。
だが、歴史を重ねるたびに、そう思えるのだ。
一部を除いて、地球の生命体は歴史のループの事を知らない。
知らないにもかかわらず、彼らは”変わっている”のだ。
私自身、そして私が行っている事についてもそうだ。
今回のループに限らず私が行っている、管理人の仕事と絡めた戯れ。
いつもと変わらない筈のその中において、何の因果か運命か『大きな並行世界』と”彼女”が現れたのだ。
それらは、半ば私の戯れでしかなかった行為で、存在に過ぎなかった。
だが、そんな存在が最終的には私の意図どころか、私そのものを超越してしまった。
そんな新しい変化は、私の長い”人生”の中でも滅多にない驚愕を私に与えてくれた。
だが、そういう偶然とも言える変化の全てが、最終的に良い方向に繋がるのかというと、正直な所未知数だ。
むしろ最終的に最悪の結果を生む可能性に繋がるのかもしれない。
しかし、変わるという事は、同じである事より、新たな可能性を押し広げるのは紛れもない事実。
それは0%が0%のままであるよりも、価値がある事だ。
例えマイナスの可能性が生まれたのだとしても、
そのマイナスと別のマイナスの可能性を掛け合わせれば、それはプラスになりうるのだから。
だから、私は悲観していない。
周回を重ねるがゆえの淀みからの誤差か、
周回の存在を知る者達の行動ゆえか、
地球に生まれた命が生まれ持つ本能か、
それとも未だ予想だにしない要因か、
あるいはそれらの組み合わせか。
そんな、明確な原因が分からない『変化』が生む未知なる可能性が、私は楽しみで仕方ない。
正直、今回はいつも以上に楽しみだ。
次の世界は、今回よりもっと未知の世界になっている筈だから。
私のそんな感情を反映してか、世界が明確に光に包まれ、明るくなっていく。
いや、違う。
それだけじゃない。
私が新しい私として生まれる時が、もう間近に迫っているのだ。
「ふふふ、さぁて、今度はどう生きてみましょうかね……!!」
最後の思考で私は目一杯に叫んだ。
それは嘘を吐いてばかりいた私にとって珍しい、心のままの、思いのままの叫びだった。
……END AND START