魔法多少少女ヴァレットIdol・アフターアナザー1

 


 キス。
 家族と交わすもの、友人にするもの、挨拶としてのもの、そして恋人へのもの。
 その形は様々だが言える事が一つある。
 そこにあるのは贈る存在へのあたたかな気持ちである、というもの。

 だが、そのあたたかな気持ちが、時に誰かを傷つける事もある。

 その日、ある恋人達が交わしたキスが、一人の少年の心をざわめかせ、暫しの間揺らし続けたように。








「うーむ……」

 その日。世間ではクリスマス、正月が終わり、冬休みもまた終わろうとしていた、そんな一日。
 魔法多少少女ヴァレットこと草薙紫雲は、パソコン内の、配信サイトで眺めていた洋画のキスシーンを眺めて少し頬を赤らめていた。
 かつて、ヴァレットという正義の味方志望としての正体撹乱の都合で男装しながら学園に通っていた彼女だが、
 今はもう男装する事なく、むしろ姉の協力も得て、女性らしい装いで過ごす様になっていた。
 もっとも、彼女自身の心はその事に完全には追随できないでいたが。

 閑話休題。

 紫雲が今暮らしているのは『喫茶 Vorreiter』の店舗と一つである、喫茶店のマスターの自宅。
 彼女はその一室を借りて、住み込みで喫茶店の店員として働き、
 いざ街の平和を乱す事件が起こればヴァレットとして飛び出していく、そんな日々を今は過ごしていた。
 事情を知るマスターのお陰で彼女はかつてとは比較にならないほど自由に活動できるようになった。
 そして、秘密を伏せていた友人、いや親友達と和解する事で、かつてないほどに心穏やかな日々に生きていた。
 ……もっとも、街は日々何かしらの事件が起こっており、ヴァレットとしての彼女は多忙だった。

 しかし、今日は珍しく、本当に珍しい事に何事もなく、
 閉店作業の手伝いを終えた紫雲は、暫しの時間潰しの為に配信サイトにてヒーローモノの洋画、
 以前ヴァレットの活動で途中になっていたところからの続きを見ていたのだ。

「キスかぁ……」

 思いの外長いキスシーンを少し気恥ずかしげに眺めながら、紫雲は呟いた。
 洋画のクライマックスの後、大団円の象徴としてのキスシーンはお約束のような気がするのだが、自分の偏見なのだろうか。
 それはさておき、キスという行為について紫雲はふと思いを巡らせていた。

 自分は今までキスをした事がないし、するような関係性の誰かに巡り会った事はなかった。
 初恋は十年前のあの少年だが、彼にはあれ以後出会う事はなかったし、
 その頃から明確に始めた男装の事情もあり、恋愛関係を誰かと結ぶ事はなかった。
 そもそも自分のなりたい自分……正義の味方を目指すのに必死で、紫雲自身恋愛に意識を向ける余裕がなかった事も大きい。
 
 だが、決して憧れがなかったわけではない。
 恋も愛もとても素晴らしいものだと紫雲なりに人生を生き、出会いや経験の中で実感してきた。
 そして今、女性として過ごすようになり、以前よりもその事を意識する事が増えていた。

 だからこそ、今キスシーンに直面し、思い浮かべていた。

 いつか自分も唇を交わすような誰かに出会うのだろうか。
 あるいは既に出会った誰かと新しい形の関係を結ぶ事になるのだろうか。
 
 正直、今は想像すらままならなかった。

「……まぁ今は今で手一杯だしね。と、そろそろいいかな」

 キスシーンを経てのエンディングロールに拍手して、
 動画が停止したのを確認して机の隅に置いていた携帯に手を伸ばしかけた、その時だった。

「あれ? 誰からだろ」

 その携帯が自ら着信音としての特撮ソングを流し出したので、拾い上げて名前を確認する。

「征君?」
 
 かつてのクラスメイトにして、自分の事情を知っても友人でいてくれた一人、久遠征の名前が画面には表示されていた。
 今から連絡しようとしていたもう一人の友人、新城入鹿ではないが、
 彼に電話で話したかった事柄の無関係ではない、むしろ関係ありありだったので、
 なんとも言えないタイミングの妙を感じながら、紫雲は電話に出る事にした。 

 そもそも配信で映画の続きを見ていたのは、
 夕食が終わり、ある程度落ち着いた、余裕のあるだろう時間帯になるまでの時間潰しだったりする。

「もしもし、紫雲だけど」
『悪いな草薙、今大丈夫か?』
「うん、全然。それで何か用事? 勿論特に何かなくてお話するのでも大喜びで付き合うけど」
『……んー、まぁ、大した用事じゃないんだが』

 いつも明朗快活、好きな事……アニメやゲームなどの二次元文化や好きになったキャラクター達について熱く楽しく語る、
 征らしからぬ歯切れの悪い言葉に、紫雲はやっぱり、と心の中で呟きながら、彼の言葉を待った。

『明日日曜日だろ? 明日そっちも休みだって言ってたし、ちょっと映画でも見に行かないか?』

 明日は定休日、というわけではないのだが。
 マスターが珍しいコーヒーの豆を買いにいくとの事で遠出、臨時休業となっていた。

 なので紫雲はそういった理由やその他の理由も含めて、躊躇わず即座に返事した。

「うん、いいよ。私と征君だけでいいのかな?」
『……ああ、明日はそうしてくれると助かる』
「うん」
『その、なんだ。振り回すこともあると思うが、遠慮なく怒ってくれていいからな』
「征君だし、よっぽどじゃないとそんな事ないでしょ?」
『……ああ、そうだな』
「……。えと、じゃあ明日の予定だけど」

 待ち合わせの時間と場所を決めると、征は特に話を広げる事もなく、通話を切った。
 ……やはりおかしい。
 いつもなら、いつもの久遠征なら、より楽しく面白くなるよう、会話を展開させていたはずなのに。

「……やっぱり何か悩んでるみたい」

 この所の征は、今も声のトーンが低かった事も含め、どうにも元気がなかった。
 入鹿と三人で話していて、いつもならこちらをからかったり、ジョークを入れる場面で、
 至極真っ当な事を口にしたり、ぼうっとして何処か上の空だったり。

 当初はクリスマスに『冬のお祭り』、お正月と続いた日々のイベント疲れかと思っていたのだが、
 それこそイベント慣れして、いつも楽しく自分達を引っ張ってくれる彼らしからぬ事だろう。

 これは勝手な思い込みではなく、彼と育んできた関係性による確信に近いものだった。
 それは冬休み中征共々行動を共にしていた入鹿も気付いていた。

 だから今日電話して、征について、どうすればいいか……
 何に悩んでいるのか何かに疲れているのかは分からないが、元気を取り戻す方法を話し合おうとしていたのだ。

 しかし、征自らが連絡してくれて二人で出かけたいとの希望なので、その案は暫し先送りにする事になりそうだ。
 いや、むしろ明日自分が解決して、次に入鹿に電話する際には無事解決した事を伝えたい所。

「よし、そうと決まれば寝よう寝よう」

 姉にはメールを送り、
 今は基本実家で暮らしている相棒たるクラウドには、
 ヴァレットとしての魔法の力……法力による会話で挨拶を交わし、
 紫雲は眠りにつく事にした。

「……そう言えばこれってデート、じゃないよねうん」

 あくまで友人同士で遊びに行く、そういう時間なのだ。
 
 ……そう思っていたのだが。









(えぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇっ!!???)

 紫雲は心中で動揺しまくっていた、
 何故なのかというと、自分達しかいない映画館で、隣の席に座る征の顔が自分の顔に近付いている……
 すなわち、キスの体勢になりつつあったからに他ならない。

 ここに至るまでの状況はこうである。

 時間を有効活用したいからと、征の提案で朝一の映画を見る事になったのだが、
 その際征がチョイスしたのは、今年度ピカイチで絶賛されているらしい恋愛映画であった。

 てっきり現在上映されている特撮作品の劇場版を見るのだとばかり思っていた紫雲だったのだが、
 征曰く「それは後からでも見れるから」との事であった。

 征が恋愛映画を見る訳がない、などとは全く思わないが、
 いつもの征であるならば、年末年始のドタバタもあってまだ見る事が出来ていない、
 自分と征の共通の趣味たる特撮映画が最優先のはずだ。

 だが、そうではなかった……ゆえにますます心配を深めつつも、
 この作品を見たいと語った征の真意を探る意味でも、紫雲はひとまず映画を楽しむ事にした。

 早朝ゆえに二人だけとなった空間にて、
 絶賛が圧倒的に多いのも頷ける、演出、空気感、脚本の名作に紫雲は堪能しつつ集中した……のだが。

「わ……」

 中途始まった、昨日見た洋画のキスシーンを遥かに上回る濃厚なキス&ラブシーンを目の当たりにして、
 紫雲はつい真っ赤になった顔を背けてしまった。

 そこで、征と目が合ったのだ。

 そうして、征は映画の雰囲気に呑まれてか、押されてか、はたまたもっと別の何かゆえか、
 紫雲の肩へと手を伸ばし、引き寄せ……今に至る。

(ど、どういうこと? 征君、一体何が、わた、わたしどうしたら、なにしたら……?!!)

 と混乱の真っ只中に叩き落された紫雲は、何をどうしていいか分からず、為すがままになろうとしていた。
 それが正しいのかどうかのかの是非もなく、思考が追いつかなかったが故であった。
 だが。

「……!」

 どうすればいいのか分からずに、それでも征の目を見ようとして、見据えようとして紫雲は気付いた。
 征の、一見いつもどおりの表情。
 だが、その視線は泳ぎ、唇は小さく噛み締められ、掴んだ肩からは震えが伝わり。

 何よりも。
 いつもどおりのはずのその表情が、紫雲には何故か涙を流す寸前に見えたのだ。

 ハッキリとした理由は分からない。
 それでも、そう感じていた。

 だから紫雲は……其処に留まる事にした。
 征の形を、答を受け取る為に。
 そうして、真っ直ぐに征を見据えた。見つめた。

 気付けば、まさに眼前の距離で征はいつしか停まっていた。
 そこから直後だったのか、あるいは数分後だったのか。
 判然としない状況の中で、征が大きく口を開こうとする。

 それを紫雲は「シーッ」と人差し指を口元に寄せ、その人差し指で映画のスクリーンを示した。
 今はただ映画を見ようと微笑んで。
 
 すると征は、一瞬呆然とした……
 それこそいつも冷静沈着で表情共々自分のペースを決して崩さない征らしからぬ表情の後、
 再び最初はそうであったようにスクリーンに向き直った。

 それを見届けて、紫雲もまたスクリーンに向き直る。
 ……思わず目を背けたラブシーンがまさに終わった瞬間であった。


  





「悪かった、草薙」

 あの後、映画を見終えると紫雲は征を『喫茶 Vorreiter』へと招いた。
 マスターがいない今、じっくり話す事が出来る場所にうってつけだと。

 到着後、店を開けているわけではないので最低限の電灯だけ点けた店内にて、
 紫雲が淹れたコーヒーを前に、カウンター席に並んで座った直後征が口を開いた。深く頭を下げてから。

「その、言い訳になるが、本気で草薙にキスするつもりはなかったんだ。
 しようといて、お前に拒絶されるのをあてにしてたというか……」
「別に怒ってないよ。いやもう、本当に全然。
 ただ、もしよかったら……無理強いするつもりはこれっぽっちもないから、
 征君が本当によかったら、話を聞かせてくれないかな。
 この所ずっと元気がなかったから、私も入鹿君も心配だったんだ」
「……元気なかったか、俺」
「うん」
「……外面はちゃんと管理してたつもりだったんだがな。
 どうも思った以上にアレだったらしい」

 自分達が気付いていた事に征が気付いていない……それこそ彼らしからぬ事だと紫雲は思った。
 同時に、それほどまでに征を動揺させる事があったという事に他ならない。
 そんなにも大きな感情に気付かなかった……征自身は気付いてほしくなかっただろう事は分かっているが……
 そんな自分が嫌になる。

 そして、そんな嫌悪感以上に……征の力になりたいと思った。
 征にはこれまで何度も何度も助けてもらっているのだ。
 ほんの少しでもそのお返しがしたい……そう思って見つめると、それに弾かれたようなタイミングで征は語り始めた。

「草薙は……明と、俺と清子の関係は知ってるよな?」
「うん」

 久遠征と、直谷明、そして高崎清子。
 ずっと一緒だったという幼馴染の関係。とても素敵だと紫雲は思っていた。

「これも周知の事実だろうが、あいつら付き合っててさ。
 俺はそれを応援、っていうのが適切か分からないが、そういう気持ちでいたよ。
 なんせ腐れ縁の幼馴染だからな。
 あいつらが幸せでないと、俺も落ち着かないんだよ。
 そういうつもりでいたんだけどな……。
 こないだのクリスマス……草薙は参加出来なかったが、
 クラスでクリスマス会やってたんだが、その帰り道さ。
 会場として使った飯屋に傘を置き忘れてな。
 で、取りに帰った途中で……あいつらがキスしてたのを目撃したわけだ」

 征は、静かに笑っていた。
 自嘲のようにも、あるいは二人を祝福する喜びの笑みにも見える、複雑な感情の入り混じった笑みだった。

「なんだろうな。
 応援してたつもりだったんだが、いざそういうのを目の当たりにすると、なんか、変な気持ちになるもんでさ」

 なんとなく、紫雲は察していた。
 征が抱いている……彼女への気持ちを。
 今までの三人の……いや、征と清子のやりとりを思い出して。

 そんな自身の推論を、紫雲は口にしなかった。
 結局の所邪推でしかなく、今はそれよりも、ただ征の話を、気持ちを、ちゃんと受け止めたかったから。

 だから、ただ頷きながら、話の先を促していった。

「なんか、俺だけ取り残されたような、そんな気分になってたのかもな。
 まぁ結構な長い付き合いだから、想像以上に衝撃を受けてたんだろうな。
 で、なんかどうにも、気持ちの整理がつかなくてさ。
 いい加減、ちゃんとしなくちゃって思って……お前なら、活を入れてくれるんじゃないかって、浮かんで。
 後は知ってのとおりだよ」
「そっか……その、ごめん。期待には応えられてなくて」
「いや、むしろ却って目が覚めたよ。
 自分の問題を他人に放り投げるなって、良い意味で打ち返されたって言うか」
「私としてはいくらでも放り投げてくれていいんだけどな」
「俺が突っ込むのもなんだが……ほんの少し前まで色々な意味でキャパオーバーしかかってたお前がそれを言うかー?」
「うぅ」

 ほんの少し意地悪そうに、でも楽しく優しげに笑う征。

 ――ああ、いつもの久遠征だ。
 
 どうやら、少し位は力になれたらしい。
 その嬉しさもあり、紫雲は少し、思わずテンションを上げつつ言った。素直な気持ちを口にする事にした。
 かつてそれが難しかった、嘘を吐いていた頃を、少しでも埋め合わせするかのように。

「だって、その頼ってくれて、すごく嬉しかったんだよー!
 今まで色々助けてもらってた恩返ししたかったし」
「気にするなよ。ダチだろ?」
「それはこっちのセリフでもあるからね。きっと入鹿君もそうだから」
「……ああ、そうだな。
 じゃあ、折角だから忌憚ない意見を一つ聞かせてくれないか?」
「なにかな?」
「……草薙が俺と同じ立場だったら、自分の気持ち、あいつらに話すか?」
「……きっと、話さないかな。話すことで、悩ませたり、悲しませたりしたくないから。
 なんというか、少し前の私なら、そこで終わってたと思う」
「今は違うのか?」
「今は……抱えて抱えて、どうしようもなくなったら……まず友達に話すよ。
 今私の目の前にいる、凄く頼りがいのある……親友にね。
 抱えてる荷物は渡せないけど……荷物の重さを忘れるくらい、楽しいお喋りができそうだから」
「……ああ、そりゃあいいな」

 そうして紫雲はニッカリと笑みを浮かべ、征は先程と同じ、意地悪げで楽しげな笑みを浮かべ、笑顔を交換し合った。

 二人には分かっていた。

 実際には、そうシンプルには出来ない事を。
 抱えた思いの重さゆえに、話さえ躊躇われる時がある事を。
 自身の抱えたものを、おいそれと他の誰かに渡せない状況がある事を。

 荷物を共に持ち合い、助け合い、支え合う事が悪いわけではない。
 だが、どんなに辛くとも。他の誰でもない自分自身で抱えなくてならない荷物があるのもまた事実。
 
 だけど、それでも。

 こうして笑顔を、言葉を、思いを交わす事で、抱えたものを少しの間忘れる事が出来る。少しだけ荷物を下ろす事が出来る。

 それはこれからも続く、言えない思いを抱えて生きていく時間を支える力になる事もまた、今の二人……紫雲には分かるようになっていた。

 かつて紫雲が、ヴァレットが、そうして救われたように。
 今日の征が、そうして救われたように。

「じゃあ、まだ見てない映画もあるし……改めて荷物の重さを忘れにいくとしようぜ、紫雲」
「……うんっ!」








「それはそれとしてだ」
「え? なにかな」
「お前、俺があの時動きを停めなかったらどうするつもりだったんだ?」
「んー……なんというか、私なんかよりずっと正しい事や間違っている事を分かってる征君なら、きっと停まってくれると思ってたし、それに」
「それに?」
「停まってくれるだろう大前提で言うけど、征君が私なんかの、その、キスで少しは楽になれるなら、いいかな、って」
「いや駄目だろ。俺が言うのもなんだが再びだが、それは駄目だろ」
「何故に?」
「お前その考え、状況によるけど、一歩間違えたら修羅場になるぞ。
 楽にできるなら誰ともキスするのか?」
「いやいやいや、流石にそれはないよ、うん……多分」
「……実に疑わしいなぁ、おい。
 仮に俺と新城、両方から同時に助けを求めて迫られたらどうするんだ?」
「え? ええ? ……えと、その、あの、ど、どうしよう?」
「俺に聞くな俺に。……ホントお前、危なっかしいな。  まぁいざとなったら相談は受け付けてるから、遠慮なく言えよ」
「う、うん……その、えと、もしもの時はよろしくお願いします」
















「あー……やっちまったなぁ……」

 そんな紫雲との1日を終えて、去っていく彼女の後姿が消えてから、征は小さく息を吐いた。
 それはここしばらくの自分の不甲斐無さで紫雲や入鹿に心配を掛けた事であり、そして。

「新城に申し訳ない事しちまったな」

 あの瞬間。
 キス未遂のあの時、確かに征にはその気は微塵もなかった。

 だが、見惚れてしまった。しまっていた。
 自分を迷いなく見据え、キスをされても受け入れようとしていた……親友のはずの、草薙紫雲という女の子に。

 それゆえに冷や水を掛けられたように冷静さを取り戻したわけなのだが、だがそれは征の中の……。

「いや、ないない。  なんにせよ、全部包み隠さず新城に話さないとな。後ろ暗い事は何もないんだし。
 あと詫びに何か準備して……」

 そうして征は帰宅の途に着いた。



 彼は知らない。
 彼が心配していた『草薙紫雲の修羅場』に自分もまた予想外の形で関わる事になるのを。

 そしてその日はそう遠くない事を、今の彼は知る由もなかった。











続く?





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