○魔法多少少女ヴァレット 箸休め2〜彼らの海水浴〜
これは、魔法多少少女ヴァレットこと草薙紫雲やその友人達の、休日であり、夏休みの一幕である。
・到着と変装と
清子「なんとか来れたわね、海水浴。
一時は皆の都合合わないかもしれないとか思ったけど……よかったわ」
征「今回は素直に同意だな。
夏休みに一度も海に行かないとか、俺のようなリア充にはありえない話だし」
明「それは二次元の話なのか……?」
灰路「だとしたら今ここにいるのはどうなんだって話になるが」
真唯子「二次元も三次元も両方リア充なんでしょ」
征「うむ、そういう事だな。
分かってるじゃないか、真唯子」(自信満々)
真唯子「……」(なんとも言えない表情)
灰路「それはそうと、宮古守とアイツは?」
真唯子「……ん。駅のトイレ。
アレがちょっと着替えに手間取ってるみたいよ。
ったく、往生際の悪い事。……まぁ気持ちは分からなくないけど」
灰路「ああ、水着の前にとりあえず女装しなきゃならないもんな」
明「言い方に語弊があると思うぞ、艮野」
征「とはいえ、明らかに女の子だと分かる姿でないと更衣室に入り辛いだろうから仕方ないな。
容姿的に、じゃなくて、草薙の精神的に」
清子「艮野……アンタね」
灰路「おおっと、噂をすればなんとやら、来たみたいだ、な。……」
櫻奈「大丈夫だってー。ちゃんと可愛くなってるよー」
紫雲「ほ、ホントに?
というか、可愛くは無理だと思うから、変じゃないならそれでいいんだけど……。
み、皆、ごめん、お待たせ」
明「いやいや、待ってないし、全然変じゃないよ、草薙。
何回か見たけど、魔法で髪伸ばせるのはやっぱ凄いし便利だなぁ」
征「ほぉ。少し懐かしいデザインの長いスカートの白いワンピースに、長い黒髪……テンプレートのような夏の少女だ。
これで鍔広の白い帽子があれば完璧だが、まぁそれは贅沢だな。
やるじゃないか、草薙」
清子「なんでアンタが偉そうにサムズアップしてるのかはともかく。
ちゃんと似合ってるってば紫雲」
櫻奈「わたしも何度もそう言ったのに、紫雲さん恥ずかしがっちゃって。
だから言ったのにー、変じゃないって」
紫雲「ご、ごめんね、櫻奈ちゃん。
えっと、その、灰路君は、どう思うかな」
灰路「……。あー、うん。変じゃない変じゃない。
よし、草薙も来たし、次はバスで海水浴場まで移動だなっ」(早口)
紫雲「あ、ちょ、待ってよ灰路君っ」
清子「……艮野の奴。後で説教しなくちゃ」
明「いや、それは勘弁してやってくれないか、清子」
清子「なんでよ」
征「いや、ろくに草薙に視線合わせずに行く辺りで察しろというか」
清子「……そういうことなの?」
明・征「「そういうこと」」
真唯子「アレはアレで、恥ずかしがって一番反応が気になる奴に最後に尋ねる辺り、面倒ね。
普通の格好でこれなら水着はどうなるやら」
・少女達と水着と
征「で、海水浴場で水着なわけなんだが。……ほほぉ。
清子は水色なタンキニ、真唯子は紺色のセパレート。
草薙とオーナたん、もとい、櫻奈はワンピースか。
黒と白、大人なデザインと子供らしいデザインが対照的なのもいいな」
清子「なんで口でわざわざ説明してんのよ……」
征「そんな気分だったからな。
なんならもっと解説しようか? お前がタンキニなのは体型を……」
清子「黙りなさい」
征「はい」
明「しかし、いやー、うん、壮観だな」
征「ふむ、皆水着が似合ってるのもあるが……巨、並、貧、板、とあちらのバリエーション完備だからな」
櫻奈「……背の高さのこと?」
清子「いいのよ、櫻奈ちゃん。
貴方はあんな戯言を理解しなくていいの……貧……貧……」
明「いや、気にしなくていいのは清子だよ。
水着も似合ってるし、いいじゃないか」
清子「ほ、ホントっ!?」
明「草薙と同じで、嘘を吐く理由もないのに嘘は吐かないさ。
気にしなくていいって」
真唯子「そうよ、高崎さん。
あんなのただの脂肪の塊なんだから」
灰路「……。
いや、それを法杖が言うなよ、生後一年未満で並なのに」(紫雲をチラ見しつつ)
紫雲「……」
櫻奈「紫雲さん、喋らないね。
水着似合ってるのに、なんでだろ」
明「恥ずかしかったり、清子の事を上手くフォローできなかったりで言葉が出ないんだろう、うん。
なにせ普段は肌を殆ど見せてないから」
灰路「……ごほん。
お前なぁ。そんな露出してないだろ、それ。
俺としてはビキニ辺りを期待してたのに……ブーブー」
紫雲「こ、これでも結構頑張った方なんだよ……?」
灰路「それは分かってる。うん、まぁ……似合ってると思うぞ」
紫雲「そ、そうかなっ。それなら、うん、よかった。
えとね、清子さんは、もっと別のを勧めてくれたんだけど……
そっちはもっと露出が多くて……清子さん、なんだっけ、あれ」
清子「ああ、モノキニね。
紫雲には絶対そっちの方が似合ってたのになぁ。
デザインももっと大人っぽくて素敵なのがあったんだけど」
明「……モノキニって、確か、見た目ワンピースだけど背中の露出が高い奴だよな?」
紫雲「うん、そう……あれは私には無理だよ。
背中があんなにスカスカなの、落ち着かないし。
理由もないのにあれを着るのはハードルが高過ぎるというか……」
灰路「理由があれば着るのか?
俺、もとい、誰かが見たいって言ったら着てくれたりするのか?」
紫雲「う。ぐぐ……そ、それは、ちょっと考える、かも」
灰路「じゃあ、ビキニはー?
というか、土下座したら更にきわどい水着を着てくれるのかー?」
紫雲「……。それは調子に乗りすぎ」
灰路「ちっ」
真唯子「……わざとらしいテンションで色々誤魔化してるわね、アイツ」
征「察してやれ。あれはあれで複雑なんだろ。
……さておき、しっかり似合うチョイスをしてるじゃないか、お前も」
真唯子「……当然よ。皆が一緒に選んでくれたんだから」
・男子と女子と
紫雲「この辺りは結構深いね……櫻奈ちゃん大丈夫?」
櫻奈「浮き輪あるし、というか、そもそもわたし泳げるからー」
紫雲「ならいいけど……」
真唯子「むしろアンタが大丈夫なの?」
紫雲「ふふふ、私はこの夏色々あったから泳ぎを猛特訓したんだ。
万が一鮫が来ても撃退できると思うよ」
清子「いや、鮫は来ないというか、来てほしくないわよ……」
櫻奈「えー? わたしはちょっと見てみたいなー。
というわけで、ちょっと潜ってきまーす」
清子「ちょっ……!? 紫雲が変な事言うからっ!」
紫雲「こ、言葉の綾というかっ!? 鮫はいないと思うよー!?」
征「……しかし、まずは、皆で水に浸かろうという艮野の案は正解だな。
草薙も大分緊張が取れたみたいだ」
真唯子「そうね、ここなら体の大半は隠れてアレも高崎さんも気恥ずかしい想いをせずに済む。
珍しく気が回る提案だったんじゃないの?
……ったく、なにしてるのよ、貴女達は」
明「うんうん、仲良き事は美しき哉」
灰路「可愛い女の子達なら尚更な」
征「三次元でもそれはそのとおりだな。
……うむ、作戦成功だ」(小声)
明「うん、艮野に言ってもらって正解だった。
艮野が言えば草薙はより気を緩めてくれるだろうし」(小声)
征「艮野も気まずいの、少しは解消出来たろ?」(小声)
灰路「……今度ばかりは恩に着る、直谷、久遠。今度何か奢る」(小声)
明「そっか、期待してる」(小声)
征「右に同じく」(小声)
明「しかし……あれだな。
俺ら、滅茶苦茶に眼福なのではないでしょうか」(小声)
灰路「ああ、うん、全員レベル高いよな……」(小声)
征「バリエーション完備だからな」(小声)
清子「よかった、普通に戻ってきた……ホントに泳ぎが上手いのね、櫻奈ちゃん。
って、何をボソボソ話してたのよ、男子」
灰路・明・征『いや、別に』
・一時解散とそれぞれの組み合わせと
灰路「よし、いい感じで解れてきたし、今からは解散して各自で遊んでみるか」
清子「お昼に集合って事でいいわよね。
……じゃあ、私と明は、ちょっとあっちの砂浜見てくるわ」
征「不純異性交遊はほどほどにな」
清子「不純じゃないっ!」
明「どーどー清子、落ち着け。あと突っ込み所はそこでいいの?」
櫻奈「それにしても……んー。
やっぱりクラウド君とフォッグ、命お姉さんも一緒に来てほしかったなぁ」
紫雲「そうだね、うん。
今度は羽を伸ばしてほしいと思ったんだけど……」
灰路「命さんは仕事だし、アイツらは揃って遠慮したんだから仕方ないだろ。
人が多いと落ち着けないし、万が一の留守番もしたいからって。
……まぁここの人気が少ないからお前らがそう思うのはしょうがないのかもしれないけどな」
明「艮野の言うとおりだと思うよ。
むしろ、そうして気にして二人がのびのび出来なかったら、命さん達が落ち込むんじゃないか?」
征「実にコイツらしい王道的な台詞だが、実際そうだと思うぞ」
紫雲「……そう、だね。そうだよね」
櫻奈「そういうことなら、それはそれ、これはこれだね、うん。
お土産話がたくさんできるよーに楽しまなきゃ。
じゃーわたし、砂のお城作る事にしよっかな。
漫画とかでよく作ってるような、大きいヤツ、一度作ってみたかったんだよねー」
真唯子「ふーん。まぁ好きにすれば、アタシは休憩……」
征「そういう事なら協力しよう。
こういうイベントに対応できるよう、訓練はしてある。腕の見せ所だ」
真唯子「アタシも参加するわ。興味が出てきたの、ええ、急に」
灰路「あからさまだな、おい。じゃあ俺は……」
紫雲「……」
灰路「ごほん。じゃあ、草薙、とりあえず泳ぎで勝負と行こうぜ」
紫雲「っ! いいねいいね、望むところだよっ!
じゃあ、どんな感じで勝負しようか? 速さ? 距離?」
灰路「どーどー草薙、落ち着け」
明「うーむ、良い顔してるね、草薙」
真唯子「……色々含みもあるんでしょうけど、そもそも勝負で競うのは好きだからね、あれ」
明「……ああ」
征「そうだったな」
清子「紫雲は、こういう所がね……」
櫻奈「男の子っぽいかなー、うん」
紫雲「じゃあ、そういう事でって……あれ?
何故皆少し呆れ気味な顔でこっちを見てるの……?」
灰路「気にすんな。ほれ、あそこのブイまで勝負だからなっ!」(言い終わらないうちに駆け足)
真唯子「セコいわね」
紫雲「うーむ。相変わらず姑息だねー」
明「……それを笑って眺めてるのは慣れてるって事なんだな」
清子「紫雲達もやっぱり幼馴染なのね、うん」
・いない人物とその謎と
紫雲「ふぅ、お昼も近いし一足先に一休み。……皆も?」
征「ああ」
明「俺はトイレに行ったついでにちょっと立ち寄っただけだよ。
……艮野はバテてるな」
征「多少泳げても俺よりは泳ぎが苦手なはずっ、とか調子こいてたのにな」
明「電車の中ではそれで優位に立ってやるとも言ってたな」
灰路「ほっとけ。コイツがこっちを特訓してたとは思わなかったんだよ。
くそ、どうせ喧嘩方面とかだけだと思ってたのに」
紫雲「必要だと感じたからね。
それに、皆と海に行く話もあったから、うん」
灰路「……。そうか」
紫雲「そうだよ」
灰路「あー、うん。
……と、この面子か。よし。
なぁ、せっかくだから一休みついでに一つ訊きたいんだが」
紫雲「なに?」
灰路「お前、命さんの水着姿見た事あるか?」
征・明『ピクッ』
紫雲「姉さんの? あるにはあるよ。何年か前だけど」
灰路「ほほぉ……どんな感じだった?」
紫雲「どんな感じって……普通じゃないかな」
灰路「そうじゃなくて、どんな水着か、とか、こう、色々あるだろ」
紫雲「……どういう意図で訊いてるの。それ」
灰路「勿論好奇心だよ。今回結局命さん来れなかったろ?
俺ら、命さんが来るんならどんな水着なんだろって気になって話してたからさ」
明「うっ、巻き込むなよと言いたいが事実だけに否定できない……」
征「右に同じく」
紫雲「……ふーん。まぁ、男子だもんね。
姉さんなら気になるのも当然かもね、うん。
まぁ隠すような事じゃないし、いいか。
えっと、前に泳ぎに付き合ってくれた時の水着は、紐が……っ?!」
灰路「え? どうした?」
紫雲「この気配は……概念種子?! ごめん、ちょっと行って来る!」
灰路「ちょ、おまっ!」
明「気をつけてなー。困った事になったら言ってくれよー」
紫雲「ありがとうっ!」
征「しかし、いいところでまぁなんと、だな」
灰路「紐……? 紐ってなんだ……!?」
明「気になるところだけど……」
征「俺は知ってるぞ。
このパターンは結局聞けずじまいになる奴だ」
明「ああ、そうだな。
そういうパターンだ、間違いない」
灰路「お前ら、今まで一体どんな経験を積んできてるんだよ……」
・似て非なる事柄と繋がりと
櫻奈「ごめんねー」
紫雲「ごめんなさい、お昼が少し遅れちゃって」
清子「二人が謝るような事じゃないわよ。
それに、二人含む誰も怪我なく、無事に騒動が収まったんでしょ?」
灰路「それならいいだろうが。ったく気にしすぎなんだよ」
紫雲「ありがと、清子さん、灰路君」
櫻奈「ありがとー」
真唯子「まったく。遊びに来てる時くらい……ブツブツ」
征「とか言いつつ、真唯子も城の近くにいなかったじゃないか。
必要なら助太刀するつもりだったんだろ?」
真唯子「邪魔をされたくなかっただけよ。
凄く良い城が作れそうだったんだから。
それこそ漫画のオチみたいに些細な事で壊されたらたまったもんじゃないわ」
灰路「……お前が一番熱入ってないか? 城作りに」
真唯子「……」
明「あー。なんだ。
それにしても、こういうところにも出るもんなんだな、能力持ちの人間。
平赤羽市から少し離れてるのに」
征「俺らと同じであっちから遊びに来た奴がたまたま、なんじゃないか。
……ちなみに、知り合いに遭遇した時の会話パターンは覚えてるな? 皆、特に草薙」
清子「勿論よ。
ここにいるのは紫雲の従姉妹の白耶紫真子ちゃん」
紫雲「うん、前の時と同じ失敗はしないよ、うん」
征「是非そうしてくれ。
まぁ、今回は知り合いが来る可能性はほぼないだろうがな。
例のウォーターパークが開いたわけだし」
清子「岡島財閥が作った豪華なプールね。
確かに平赤羽市の人達なら、今年はわざわざこっちまで遠出しないかな」
征「それに、夏の始め頃この辺りで盗撮騒ぎがあったらしいからな。
犯人は早々に捕まったらしいが、まだ警戒してる人間もいるんじゃないか?」
清子「どおりで、今の時期にしては人が少ないわけね。
……? どうしたの、紫雲。渋い顔して」
紫雲「な、なんでもないよ、うん。
……もっと早くに解決出来ればよかったんだけど(小声)」
・早食いと大飯食らいと
征「お、なんか海の家(ここ)でイベントやるみたいだな」
明「……焼きそばの早食い競争かぁ」
灰路「お前出てみたらどーだよ」
紫雲「……。
そういう食べ物関連ですぐ私に振るのはやめてほしいなぁ」
灰路「まぁそう言うなよ。
これも命さん達への土産話になるんじゃないか?」
紫雲「……むむむ」
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司会者「最後は紅一点、和草町からお越しの白耶紫真子さんですー」
紫雲「よ、よろしくおねがいします」
明「おぉ……歓声が上がってる」
灰路「まぁ、ヴァレットでもあるアイツならな」
清子「ふふん、当然よ」
真唯子「なんで貴方達が自慢げなのかしら」
櫻奈「気持ちは分かるかな、うん。
友達が褒められてると嬉しいよね」
明「純粋だなぁ、櫻奈ちゃんは」
征「いつまでもそうあってほしいものだ。
……しかし、思ってた以上に人は来てたみたいだな」
清子「私達みたいに遅めの昼食とか、あるいは早めのおやつとかで、海の家近辺に人が集まってるのかしらね」
明「昼から海に来た人が増えたのかもね。
もう夏も終わりだし、秋が来る前に、ってな感じで」
灰路「と、早速競技が始まったぞ。
というか何故プロのフードファイターが参加してるんだ」
明「何処から聞きつけてきたんだろ」
清子「商品さほど豪華でもないのに……」
真唯子「ファイターとしてのプライドなんじゃないかしら。
あと、壇上のあれ同様に勝負事が好きだとか」
征「で、実際どうよ。我らが紫真子ちゃんに勝ち目はあるのか?」
灰路「むぅ……量を競うんなら十二分にある。
結構前の、初めてアイツがアルバイトした時の話なんだが。
初めてもらったバイト代で何か食べに行こうって事になってな。
食べ放題のバイキング……俺はその時初めてアイツの本気を見た。
それを覚えてる俺としては、こと食事量に関してアイツの右に出る奴はいない、いや、そうはいないと思ってる」
櫻奈「その時はどうなったんです? どの位食べたの?」
灰路「出禁を食らった」
清子「あちゃぁ……」
灰路「気持ちいい位の食べっぷりだったから、店の人は苦笑気味だったけどな。
それでも出入り禁止を伝えられた時のアイツの落ち込みようたるやなかったぞ」
明「それは出入り禁止になったからなんだろうか」
清子「馬鹿ね、女心よ」
真唯子「どっちもに百円賭けるわ」
征「そうこうしてる間に皆結構食ってるな」
櫻奈「しう、じゃない、紫真子さん、頑張れー!」
明「櫻奈ちゃんの応援聞こえたんだな、ガッツポーズしつつ食べてる」
征「ふむ。……ちょっと出遅れてるな」
灰路「アイツ、食べるの速いは速いけど、こういう速さを競う意味合いでの速さじゃないもんなぁ」
清子「あれ? でも、徐々に追い上げてない?」
明「というか、ペースが全く変わってないな」
櫻奈「他の人はペース落ちてるのに」
清子「……これを維持できたらひょっとして勝てるんじゃ?」
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灰路「お疲れさん。惜しかったな」
櫻奈「二位おめでとー!」
紫雲「ありがとう。
やっぱり専門の人は凄いよね、うん」
明「そこで素直な賞賛が出るのが草薙らしいな、なんとなくだけど」
灰路「しかし、改めて思うが……あれだけの量よく入るな」
征「うむ、二次元の大食いキャラそのものだ。
あの量がこのお腹の中に入ってるのかと思うと脅威だな」
明「脅威は大袈裟だと思うけど……ホント、不思議だよ」
紫雲「……っ。
え、えと、その、揃ってお腹見ないでくれないかな」
灰路「どして?」
紫雲「なんか、恥ずかしいよ……」(赤面)
明「いやいや、なんら恥じる事のないお腹だよ。
無駄がないのは水着の上からでも分かるし」
征「ああ、そうだな。
ちょっとだけほんのり腹筋ついてるのが健康的でいい」
灰路「……お前らと同意見なのはなんか少しイラッとするが、同意する。
良いお腹だぞ。ついでに太腿も」
紫雲「え、そ、そうかな、あ、いや、でも恥ずかしいってば。
というかさらっと追加された太腿は関係ないんじゃ……」
清子「こらぁぁっ! ホント、アンタらは女心が分かんない奴らねっ!」
明「あ、ごめんごめん」
征「男装してる時の距離感でついついな」
清子「まったく。
大体、紫雲はそういう視線に慣れてないんだから。
ど、どうしても見るって言うなら私のを見なさいよ」(チラッチラッと明に視線を送りつつ)
征「いや、お前のは別に」
清子「アンタは黙ってなさいっ!」
灰路「俺もいいかな」
清子「アンタもいいのよっ!」
明「見てもいいなら、ジックリ見るよ。いいんだな?」
清子「へっ!? あ、いや、明ならいいけど、いや、その……」
真唯子「……売り言葉に買い言葉、ノリで呟く事にろくな事はないわね」
櫻奈「言ってる事の意味は分かんないけど……。
高崎のお姉さんが嬉しそうで楽しそうだからいいんじゃないかな?」
真唯子「……うーむ。同意すべきかどうか悩むわね。
って、そこ。注意が逸れたのを良い事に再度凝視しないの」
灰路「ちっ」
紫雲「……お腹の開いた水着の方がよかったのかなぁ。でもなぁ」(赤面)
真唯子「アンタはアンタで何言ってんの」
・夕暮れと帰り時と
櫻奈「……あふぅ。ハッ。
寝てない、寝てないよー」
紫雲「ふふ、朝早かったもんね」
真唯子「こんなところでうつらうつらしないの。寝たら風邪引くわよ。
……名残惜しいけど、そろそろいいんじゃない?」
征「ん、そうだな。日も沈んできたし、潮時か」
灰路「名残惜しいんだな、お前でも」
真唯子「……そういう余計な発言がたまにあるから、貴方は駄目なのよ」
紫雲「うんうん、私もそう思う」
灰路「ぐ。同じ顔で言われるとダメージでかいな」
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征「予定通り駅に着いたな」
明「とりあえず一安心だ。
それにしても今日は遊んだなー」
清子「遊んだわねー。
うん、やっぱいいもんね、皆と海に来るの」
征「お前の場合、特に明とじゃないのか?」
清子「……そりゃあまぁ、そうかも、だけど。
皆と遊ぶのだって方向性が違うだけで同じくらい楽しいわよ。
アンタはそうじゃないわけ? 違うでしょ?」
征「む。そうだな。悪かった。
俺も楽しかったよ。三次元だけどな」
清子「全く。無神経発言じゃ艮野と同レベルじゃない。
二次元の女の子だって、そういうのデリカシーないって怒るんじゃないの?」
征「今回はごもっともなご意見だ。しかと聞き入れておこう。
艮野と同レベル扱いなのは地味にキツイしな」
灰路「……お前らひどいな」
櫻奈「ねーねー、お土産とか買わないんですかー?」
明「うーむ、お土産らしいお土産とかあるのかな、ここ」
清子「とりあえず見てみましょうか、と、紫雲は……」
灰路「俺が待っとくから、皆で行って来いよ」
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紫雲「あれ? 皆は?」
灰路「お土産探しに行った。すぐ戻ってくるだろ」
紫雲「そう。……じゃあここにいようかな。
着替え、待っててくれてたんだ。ありがと」
灰路「休憩ついでだよ。礼を言われるような事じゃないさ。
……」
紫雲「なにかな? じっとこっち見て」
灰路「あー、なんだ。言いそびれてた事なんだが」
紫雲「なに?」
灰路「ワンピースも水着も、凄く似合ってた。うん。
ちゃんと間違いなく女の子してたぞ、紫雲。……綺麗だった」
紫雲「……。えっ!? き、キレッ?! 急にだったから心の準備がっ?!
あの、その、えと、ほ、ホントにっ!?」
灰路「こんな台詞を嘘やお世辞でお前に言えるかって」
紫雲「……そっか。そっかぁ……頑張ってよかったぁ、うん」
灰路「……もっと早く言えばよかったな」(小声)
紫雲「え?」
灰路「いや、気にするな。
ああ、その、なんだ。
水着は女連中で見立てたんだろうが、あのワンピースはどうしたんだよ。
前着てた水色の奴とは違うレトロな感じというか……」
紫雲「あれ、姉さんのお下がりなんだ。
随分前に綺麗だって言ってたの覚えてくれてて。譲ってくれたんだ」
灰路「え? ……え? あれを命さんが着てたのか?!」
征「……ほぉ。それはまた興味深いな」
清子「ぐっ、今回ばかりは征に同意ね」
明「命さんがあのワンピースを着た姿、想像しにくいな。
いや似合わないわけじゃなくてきっと似合うんだろうけど」
真唯子「……そうでもなくない?」
櫻奈「いやいや、簡単には考えられないよー」
灰路「お前ら、戻ってくるの早かったな……」
紫雲「うーん、そんなに驚くようなことなのかなー」
「くしゅんっ……噂されてるのかな?」
その頃、草薙家では草薙命が料理の真っ最中であった。
もう少しで帰ってくるだろう妹達へと振舞うべく、少し多めに。
「きっと君が来ていない事を残念に思ってる、そんな話題さ」
「そうそう」
紫雲達がいない間、街でおかしな騒動が起こらないかの見張り役を自ら買って出たクラウドとフォッグが口々に呟く。
「それを言うなら君達もそうだと思うがね。
……となると、私単品で変な噂話でもされてるのかもしれないな。
まぁ、それはそれとして、次は私達だけで何処かに日帰り旅行に行ってみるか?
町の為の留守番役ばかりはそろそろ飽きただろう」
「そうだね、いつか機会が出来たらそれも悪くない……だが」
「その時は、みーんなで行きましょうよ。
そろそろ私達も行ってあげないと、優しいあの子達は出掛けたがらなくなっていくわよ?」
「ああ、そうだな。そのとおりだ。
となると、なるだけ早くに後顧の憂いが無くなる状況になる事を願うばかりだな」
「全くだ。……ふむ、大分暗くなってきたな」
「今頃どの辺りでどんな話してるのかな?
うう、やっぱり法力会話で話だけでも参加しとくべきだったかな〜」
「それやると余計に行きたくなるからって、却下したの君だろうに」
「ふふ。
そうだな、今頃は……少し眠ってる頃合かもな」
命が微笑みながらそう呟いてから、少し経った頃。
事実、遊び疲れた紫雲達は、電車の揺れを子守唄代わりにして寝息を立てていた。
……平赤羽市到着前後に寝起きの悪い紫雲をどうするかで、ちょっとした一騒ぎが起こる事になるのを知らず。
だが、それを知る由もない、この瞬間に限っては。
彼らは、ごく普通……よりほんのちょっとだけ充実した青春を送っている若者に相応しい、幸せそうな顔で眠っていた。
……とりあえず終わり。