第3話 異能者と違能者















『なんだ、お前ら? 揃いも揃って顔を隠しおってからに』

 突然現れ、シャッフェンを取り囲んだ四人はそれぞれマスクや仮面などで素顔を隠していた。
 色々と突っ込むべき所は他にもあるだろうに、シャッフェンはまずその事に突っ込みを入れた。
 その内の一人……シャッフェンのガラクタよりも小型の、大型オープンカーのようなデザインの機械に乗った少女がシートから立ち上がり、口を開く。

「顔を隠してる事で言えば貴方達に言われたくありませんわね。
 魔法少女オーナ以外……貴方、ヴァレット、リューゲは顔を隠しているじゃありませんの」

 年齢は、リューゲこと真唯子の外観年齢と同じくらいだろうか。 
 シャッフェンを見下ろす金髪の少女は、風で少し乱れていた前髪を整えるようにかきあげる。
 そう、金髪。日本人らしからぬ肌の白さも考慮すると、どうやら外国人らしい。
 それにしては流暢な日本語に、というかこの状況に、シャッフェンや見物人達はリアクションらしいリアクションが出来ずにいた。
 あるいは、漫画やアニメの女悪役がつけていそうなのだが、微妙に安っぽい感じがするハート型のマスクの浮きっぷりに。

「そうだよ。それを机に上げるのはズルイよ」

 何の道具も使わずにふわふわと空に浮かぶ、ヒーローのお面を被った少年が続く。
 菱形の眼の部分が赤く透明なパーツで出来ている為、大き目のお面で覆われた顔で眼だけがそこから覗く事が出来た。

「それを言うなら棚に上げるだよ、少年」
「っ! じょ、冗談だよ、ちょっとした冗談」

 櫻奈と同じ位の年頃の少年の言葉に突っ込んだのは、横に倒れた状態で空に浮いている箒に乗った、ローブを纏う中肉中背の男。
 箒は、ヴァレットの乗る巨大な箒……実際は『筆』だが……とは違い、古めかしいがごく普通のものである。
 顔の下半分を三つ葉のクローバーが描かれたスカーフか何かで覆ったその男は、少年の言葉にやれやれと言わんばかりに肩を竦めて見せた。
 
「まぁ、いいじゃねーか。
 細かい事は言いっこなしだ。そういう街なんだろ、ここは」

 最後に口を開いたのは、停車していた車の上に仁王立ちする大柄な男。
 その顔には、量販店などで売られていそうな、プロレスラーっぽい、スペードのマークが則頭部に描かれたマスクを被っている。

「ちょ、あの、それ俺の車……」
「ああん?」
「ひぃっ!? いやでも、その、買ったばかりだし乗られるのはちょっと……」

 大柄な男が乗っていたのは見るからに新車らしく、それゆえにその持ち主と思しきサラリーマンは引き気味ではあるが食い下がっていた。
 そんなサラリーマンを、男はどこか物珍しそうに眺めてから言った。

「……。あぁ、悪い悪い土足だな」

 言いながら靴を脱ぐ男。
 車の持ち主を含むその場の誰もが「そういう問題じゃないだろっ!」と突っ込みを上げる。

「え? そうなのか?」
『車の上に乗るな、と言っているのだ。全く常識を知らない奴はこれだから困る』
【「『お前(シャッフェン)が言うなっ!』」】

 そんなやりとりが行われている中、周囲とは違った反応を見せる一団がいた。
 言わずと知れた、話題にも上がった魔法少女オーナ、リューゲを擁する面々である。

「あー、なんだ、これ」
「というか、何者なんだ、あいつら」
「さぁ……少なくともあたしははじめて見るけど。それにしても、変ね」
「いや、どう見ても変だろ」
「あのね征、そういう事じゃなくてね……」
「……少し様子見した方がいいの? うん、分かった」
「フォッグ、だっけ? そっちと連絡取れたのか」

 灰路達が漫才気味意見交換(?)をしている間に、櫻奈は自身の相棒……紫雲にとってのクラウド……であるフォッグと魔法、法力による会話を終えていた。
 クラウドも交えたその会話が一段落ついた事に気付いた明の言葉に櫻奈は頷いた。

「はい。状況が掴めないから暫く様子見した方がいいって言ってました」
「ああ、俺もその方がいいと思うぞ。こういうときはまず情報収集だ」
「様子見というか帰りたいわ、あたし」
「ホントものぐさだなぁ、お前」
「ものぐさっていうか、あたしはヴァレットみたいな正義馬鹿じゃないし、オーナみたいないい子ちゃんでもないからね。
 というか、なんか話が進みそうよ。聞いとかないでいいの?」

 極めてやる気なさげな真唯子の言葉に、櫻奈達はシャッフェン達のやりとりに再び意識を向けた。
 漫才的やり取りがひと段落着いたらしく(というか居合わせた人々が突っ込みに疲れて停止した)シャッフェンが再び四人に向き直っていたところだった。
 
『で、結局何なんだ、お前ら。お前らなんぞに用はないぞ。
 俺が用があるのは、我が未来の恋人、ヴァレットのみっ!』

 シャッフェンの発言に灰路他ヴァレットのファン達がイラッとする中、箒に乗った男が言った。

「つれないね、折角遠くから来てやったってのに。
 一応君も目的に入れてるんだけどなぁ。まぁ本命は魔法少女達だけどね」
「あら、貴方もそうなの」
「そう言うって事はお姉ちゃん達もなんだ。ボクはこの人とかはかなりどーでもいいけど」
「どうやら、俺らは皆近い立場のようだな」
『……ふん。察するに、力試しのおのぼりさんか』
「お、思ってたより馬鹿じゃないみたいだね。大体当たりかな。
 僕は魔術師なんでね、君達の使う魔的技術に興味がある。
 君達の内の誰かを捕獲させてもらおうかなと思ってるんだ。
 まぁ、出来れば実験体は多い方が良いけどね。
 大騒ぎは性に合わないけど、こうしないと彼女達は現れなさそうだから」
「私も殆ど同じですわね。
 魔法少女達が使う力の源泉、エネルギーや仕組みは、現代科学とは一線を画すもの。
 是非研究させていただきたいですわ。
 その為に、貴方がヴァレットやオーナに破壊されたりした機械のパーツを、ちょっとしたコネで回収、研究した上でこちらに来ましたの。
 貴方が今乗っている機械にも興味津々ですわ。また新しい技術が盛り込まれていそうですし。フフフ……」
「なんか色々考えてるんだねー
 ボクは単純に、この力を思いっきりぶつけられそうな人達がいるから、相手してもらおうかなって思って。
 ほら、やっぱり遊ぶんだったら玩具がほしいじゃない。出来れば、あのヴァレットってお姉ちゃんがいいかな」
「俺もそっちの小僧と目的と標的が同じだなぁ。
 噂だとヴァレットてのはデカイ怪獣と素手でやり合ったらしいじゃねぇか。
 そういう奴と素手同士で殴り合ってみたくてな、ここまで来たって訳だ」
『ふむふむ、言いたい事は大体分かった。
 つまり、今俺が貴様らを蹴散らせば、泣いて帰ってヴァレットには手出し出来ないという訳だな?』
「「「「何故そうなる」」」」

 独特解釈なシャッフェンの言葉に四人の突っ込みが唱和する。

「……でも、あながち間違ってもないんじゃないか?」

 状況を見守っていた明が小声で呟く。
 彼らはリューゲから集音マイクの限界を教えられ、集音されない程度の声で言葉を交わすようにしていた。
 ここでリューゲの存在に気付かれシャッフェンに絡まれると事態がややこしくなりそうだったからである。

「実際、シャッフェンがあいつらを一蹴出来れば、それより強いだろうオーナやヴァレットには敵わないと思うかもしれないし」
「あー。そうかもしれないですね。
 全員は無理でも、何人かはそうなってくれるかも……」
「……色々な意味で楽観的な発想ね」
「同感だ」
「じゃあ、やっぱりわたしが行った方がいいのかな」
「それはさっきフォッグとも話し合っただろう、櫻奈」
「でもねクラウド君。誰かが危なくなったらわたしは行くよ。ヴァレットさんもそうするだろうし」
「む。それは、そうだが」
「あ、でも、シャッフェンのおじさんは放っておくね」
「……何気に鬼畜な事言ってるな、櫻奈ちゃん」
「仕方ないわ。だって、マスターだもの」

 そうして灰路達が言葉を交わしている間にも状況は動いていた。
 シャッフェンの発言に対し、金髪少女は肩を竦めてから不敵に笑って見せる。

「まぁ、いいですわ。
 そういう事なら、まずは貴方で腕試しとしましょう……!」

 言いながら、少女は手にしたリモコンらしきもののボタンを押した。
 直後、それに反応してか乗っている機械の後部が開き、小型のミサイルが数十発射される。

『ふむ、受けて立とうっ。負けたら田舎に帰れよ、お前ら!!』

 叫んだ直後、シャッフェンのマシンから伸びた2つの腕が目にも止まらぬ速さで動く。
 それによりミサイルは掻き集められ、手の中で爆発を起こす。
 しかし、シャッフェンのマシンには何のダメージもなかった。
 むしろ、クイックイッと『掛かって来いよ』と挑発する余裕を見せる始末。

「ほぉ、やりますわね」
『ふん、言った筈だ。俺が用があるのはヴァレットのみ。
 ヴァレット用に仕上げた我がマッシィィンッがヴァレット以外に負ける要素などないッ!』

 その発言に、地上の灰路は即座に突っ込みを入れた。

「……いや、そんな感じで作ってるいつものガラクタ、普通にオーナにも負けてるだろ」
「あはは。でも、今日のおじさん、いい調子じゃないですか? これなら……」
「いや、駄目臭くないか?」
「どうしてですか?」

 征の言葉に櫻奈は小首を傾げる。

「だってなぁ……」

 征が呟いた直後、再び状況が、というよりシャッフェンが動き出す。

『さぁ、貴様らまとめて一網打尽だ……!』

 シャッフェンのガラクタの両腕に白い光が集まっていく。

「あれはまさか、浄化の……!?」
「ヴァレットたん達の必殺技か」
『ヴァレットには”凄いですけど当たらなかったら無意味ですよね?”とか言われて、
 あっさり回避されるわ、即座には破壊されるわで微塵も通じていないが、貴様らには当たるはずっ! むしろ当たって!
 アンチイレイズブレイク効果反転ッ、つまるところそれってイレイズブレイクだよね的なフラァァァッシュッ!』
   
 ガラクタの両腕から次々と発射された4つの光弾。
 凄まじい速度で打ち出された為か、失敗すると高でも括られていたのか、あっさりと四人に着弾した。

『ぷぅははははははっ! ざまぁぁぁ!』
「う、うぜぇ……でも、これで……」
「いや駄目でしょ」
 
 真唯子の言葉を肯定するように、光が収まった直後には何事もなくその場に立つ四人がそこにいた。

『げぇぇぇっ!? なぜにッ!?』
「いや、それはこっちの台詞なんだけど」
「なんの痛みもなかったぞ」

 うろたえまくるシャッフェンとは対照的に、四人は極めて冷静だった。
 この結果について、真唯子は冷静に分析し、結論を出していた。 

「ったく、馬鹿マスターは。当然の結果でしょ」
「どういうことなんだ、真唯子ちゃん」
「ふむ。……櫻奈、アレらに何か感じる?」
「え? う、うーん、なんか変な感じはするんだけど」
「そうなの? まぁいいわ。つまりいつもの反応とは違うんでしょ?」
「それは、そうだけど」
「つまりは、そういう事よ。
 マスターはあいつらをおのぼりさんと言って、あいつらも肯定した。
 つまり、あいつらは平赤羽市に由来する能力者じゃなくて、この世界に元から存在している異能の持ち主。
 ゆえに、概念種子効果を封印・消去する浄化の魔法はあいつらには通用しないのよ」
「なるほど。魔法少女になる前の草薙みたいな奴らだってことか」
「それで征さんは駄目だって言ってたんですねー」
「いや、俺は単純にシャッフェンが敗北フラグを立てたからだが」
「そ、そうなんですか。……敗北フラグ?」
「それは後で説明してやるから、今はこの状況を見てた方が良いんじゃないか?」

 征が呟いた直後、即座に気を取り直したシャッフェンが叫ぶ。

『ふん、要はイレイズブレイクだよね的なフラッシュが効かないというだけの事っ!
 この対ヴァレット用マシン5号には、他にも武装がたんまりあるのだからっ!!
 右手には冷気放出、左手には火炎放射っ!!
 とりあえず死なない程度にどっちも喰らえぃっ!!』

 ヴァレットの影響受けまくりな武装だというのは火を見るより明らかだったが、それはそれとして、それらは武器としてはしっかり機能していた。
 死なない程度、と言い切っているからには、炎や冷気の繊細な制御もできるのだろう。
 真唯子が知るシャッフェン手持ちの武装の中では、かなり高レベルの代物だ。

 だが、しかし。
 その二種類の攻撃は、箒に乗った男が両手から放った炎と冷気の奔流にあっさり防がれる。
 二人の火炎と冷気が拮抗する中、男……魔術師は、ふっ、と余裕めいた息を零した。

「火炎も冷気もどちらも大した事はないな。
 ああ、そうか、こちらを気遣っているのか。
 ならば遠慮は無用。出力をもっと上げたらどうだい?」
『ぬぐぐぐ……ええいっ、ならばお望みどおりにぃぃ……!! って、うぉっ!?』

 そうして両者の炎と氷が鬩ぎ合いする中、オーバーヒートを起こしたのか、シャッフェンのマシンの背面が突如爆発する。
 それに連鎖する形で火炎と冷気が停止し、男の放つ火炎と冷気に突き破られる。
 結果、マシンの両腕が、男の放った炎と冷気により溶かされ、凍らされてしまう。
 
『うぬぅっ!? ヴァレットに対抗する為の腕タイプ3がっ!?』
「科学と魔術の融合とは面白いね。でも肝心の魔術部分が古いし、偏っている。
 この島国伝来のものなのかな? あるいは西洋伝承のものが変化したのかな?」
「そんなのはどうでもいいですが、魔術が肝心とは片腹痛いですわね」

 直後、再びミサイルが発射される。
 そのミサイルを、背中から伸びた予備らしき腕が先程同様に掴もうとするも、少女が手持ちの携帯端末を操作する事で軌道を変え、腕をかわし、本体に直撃させる。
 爆発が起き、シャッフェンのマシンが大きく揺れた。  

「肝心なのは科学。覚えておきなさいな」
『おのれ、こんちくしょうっ! 好き放題言いおってからにぃぃぃっ!?』
「おいおい、お前らばかり楽しむなよ。だよな、ガキ」
「う、うん、そうだね。そのとーり」
「ってわけだ。おい、アンタ、こっちにも来いよ」
『うがぁぁぁっ!? すげぇ腹立つぅっ!? じゃあお前らだぁぁぁっ!?
 あ、いや、別に勝機が見えそうな奴から先にしようとか思ってませんからね、皆様』

 炎が上がった状態だからか殆ど落下しているように見える勢いで突撃するガラクタは、予備の腕を広げて大柄の男を握り潰そうと、あるいは捕まえようと、両手を広げる。
 その両腕を……男はアッサリと受け止めた。
 ……その際、乗っていた車の屋根が思いっきり凹んで、持ち主が叫んでいたりしたが、それはさておき。

【「『えぇぇぇえっっ!?』」】

 人間の姿をしたモノが、自分の数倍以上の大きさの何かを受け止める。
 漫画やアニメなどではよく見られる光景だが、実際に目の当たりにすると衝撃である。
 同じ様な光景をヴァレットやシャッフェン絡みで何度か見ているものもいたが、いつも見られる光景というわけではないのでやはりというか、思わず驚きの声を上げていた。
 しかし、当人同士は慣れているのか驚きもなく、そのまま力比べが展開される。

「おお、中々やるじゃねぇか。少なくとも今まで相手してきた中では一番だ」
『ふふふ、当然っ!』
「だが」

 男が不敵に笑った次の瞬間、マシンの腕に皹が入る。

「俺の方が強い」
『うぉぉぉっ!?』

 男は組み合っていた手の部分を砕き潰し、そのまま力任せに放り上げた。
 投げたガラクタはお面を被った子供の方へと飛んでいく。

「っと、しまったっ!」
『ぬぅぅぅっ!? ちょ、おまっ、あぶなっ……』
「大丈夫だよ」

 直後、子供の姿がいずこともなくかき消える。

「お?!」
『超能力……!? テレポーテーションかっ!?』
「そっちでも良かったけど、今のは時間を停めるやつ」

 声が響いたのは、子供が浮いていた場所から若干離れたビルの屋上。
 フェンスの上に片足立ちしながら、少年は言った。

「テレポーテーションは飛ぶ場所の事色々考えなくちゃいけないからメンドーなんだよね」
「むしろ逆じゃねーのか?」
「ううん。適当に飛んだところが壁の中とか、水の中とかだとかだとひどいことになるから」
「ふむ、そういうもんか」
『って、のんきに会話してる場合かぁぁぁぁあっ!? 俺が危ないだろぉぉぉっ! って、あれ』

 少年が回避した事で、その向こう側にあったビルに激突しそうになるシャッフェンのマシン。それが急停止する。

「危ない危ない。ものの壊し過ぎは良くないよね」

 ビル接触まで数センチの状況でそれを為したのは、他でもない少年だった。
 彼は広げた手をシャッフェンに向けており、そこから何かしらの力が放たれているらしかった。

『お、おお、敵ながら天晴れだぞ、少年。
 ふむ、折角だしこのままやんわり下ろしてくれたのなら見逃さないでもないかなとか……』
「まぁ……壊すものは壊すけど」
『のぉぉぉぉっ!?』

 少年が手を開いていた手を握り閉じた直後、シャッフェンのメカがじわじわと圧潰されていく。

『うぎぎ、しかし、まだだ、まだ俺は負けん! ヴァレットへの愛を証明するためぇぇぇぇっ!?』

 その最中に誤作動を起こしたのか、あるいは正しく機能したのか。
 勝手に脱出装置が起動し、マシンから飛び出た巨大スプリングに撃ち出されたシャッフェンは空の彼方へと消えた。

「あ、シャッフェンのおじさんがまたお星様に」
「まぁ大丈夫よ。……ふむ、やっぱり生体反応に異常はなし」

 腕時計らしきものを眺めて真唯子が呟く。

「お、なんだ真唯子、その腕時計。素敵機能でもついてんのか?」
「マスターとあたし、互いの生体反応を確認する機能があるのよ。
 あたしはいらないって言ったんだけど、マスターが泣いて頼むもんだから付けてあげてるの」
「おぉ〜いいな」
「ああ、対象を変えれば中々便利そうだ」
「くそ、ちょっとほしいとか思ったぞ。対象を変えればだが」
「いいなぁー わたしもほしいなぁー 皆の分が確認できるやつ」
「……そうね。あたしも何人か追加してほしいし、そのついでで一応話はしてあげる」
「リューゲちゃん、ありがとーっ!」
「それはいいが……」
「あ、うん、ちゃんと分かってるからね、クラウド君」

 便利メカに色めきだちつつも、櫻奈達は状況をしかと観察していた(特にクラウドが)。
 そんな中、星となったシャッフェンを見送った後、少年が呟く。

「あ、どっか行っちゃった。
 でもこれで遠慮なくこのガラクタ壊せるね。ゴミ捨て場に捨てられるように小さくしないと」

 そうして少年が更に力を込めようとした瞬間、金髪少女が声を上げた。

「ちょ、待ちなさいっ! その機械は私が研究材料にしますから! 壊すのストップ!!」
「えーでもなぁ……ゴミはちゃんと捨てないと」
「だから研究材料にしますって!
 あーもう、ソレを渡してくれたら、この街にいる間の宿泊場所とか色々提供しますから!!」
「あ、それ助かるなぁ。持ってるお金あんまり使いたくないし。じゃあ我慢してあげる」
 
 直後、ゆっくりとガラクタが降下していき、最終的に駅前の広場に置かれる事となった。 
 無論その付近にいた見物人達が大騒ぎしつつ逃げる羽目になったのだが、その辺りは深く考えていなかったようだ。

「ふぅ、これでいいよね」
「ん。感謝しますわ。さて、次はこれを運び出したいんですけども……」
「おい、お嬢ちゃん。俺がそれ運んでやるから俺にも寝る場所提供してくれよ」
「えっ!?」
「僕もその機械に興味があるんで、解体するのなら立ち会いたいんだが」
「へっ!? 
 んー、あーもう、分かりました。皆まとめて面倒見てあげますわ。
 でも、その代わり、皆さん今後とも色々協力してくださいませ」
「はーい」
「おう」
「了解したよ。さてと、観客たる、平赤羽の皆々様」

 魔術師の言葉は、さして大きくないのにここにいる殆どの人間に届いていた。
 それが魔術によるものだと分かったのは、この場では数えるほどのみ。

「どうかな。僕達の実力。
 少なくともシャッフェンとやらは相手にならなかったわけだけど」
「……う、うーん、どうかなって言われてもな」
「相手がシャッフェンだしなぁ……」

 魔術師の言葉に対し、多少驚きなどを交えておっかなびっくりになりながらではあったが、見物人達の声が上がる。
 実際、常日頃ヴァレットやオーナに簡単に撃退されているシャッフェンでは実力が分かり難い。
 それは本人達も同様だったようで、魔術師は、ふむ、と小さく納得するような声を上げた。

「まぁ、そうかもね。
 というわけで、誰か噂の魔法少女達を呼んで来てくれないかな」
「……というか、そもそも来ませんわね」
「外国人の僕が言うのもなんだが日本語おかしくないか、君。
 ……ふむ、シャッフェンを倒してしまったから場所が分かり難くなってしまったのかな?」
「かもしれませんわね。
 彼女達、能力者の事件に関しては、どうやら何かの反応を察知して動いているようですし」
「やはり、僕とは……いや、僕達とは違うようだね、この町の異能者は」
「よく分からんが、魔法少女とか来ないのか? もっと暴れれば出てくるんじゃないか?」
「いやいやいや、何言ってるんだい」
「おおよそ、文明人の言葉とは思えませんわね。それは最後の手段ですわ」
「最後なんだ……」
「最後でもそれを手段に持ってくる辺り、君も文明人とは思えないんだが」
「う、うるさいですわね。じゃあ、どうしろって言うんですの?
 わざわざこの街に来たのは彼女らの力の研究の為ですのよ。
 大体貴方達が考え無しにあの馬鹿を撃退したのが悪い……」
「お姉ちゃんもノリノリだったじゃん」
「う、そ、それは……そうかもですが」
「じゃあ、とりあえず今日はこれでお開きって事にしようぜ。
 どうせこの街にいるんだろ、あいつら。
 さっきのおっさんが復活するなりすれば、ほいほい現れるさ」
「……まぁ、そうですわね。
 じゃあ、今日の所は帰りますか。ちゃんと忘れずに、かつこれ以上壊さずに持ってきてくださいませ」
「へいへい」
「貴方は……こちらに乗ってくださいませ。
 超能力がどんなものかは知りませんが、飛びっぱなしは疲れるでしょう?」
「う、うん」
「さぁさ、どうぞ。ジュースもありますわよ」 「あ、僕もいいかな。魔力の消耗が……」
「……。まぁいいでしょう。許しますわ。その辺に適当にどうぞ」
「何、その対応の違い」
「子供好きなんだろ、お嬢ちゃんが」
「ああ、なるほど」
「だ、誰がショタコンなのですわっ!?」
「誰もそこまで言ってないんだけど」
「純粋に子供が好きなんじゃないのかよ?」
「……。あ、いや、コホンコホン。どうもお騒がせしましたわね。
 では皆様、また、いずれ近い内にお会いしましょう」

 そうして。
 突如現れた彼らは、あっさりとこの場を去っていく。
 見物人達は彼らの強烈さなどに呆気にとられて、皆暫し動けずに……。

「いやいやいや、ショタコン誤魔化せてないから」
「いや、子供が子供を好きってショタコンなのか?」
「というかまた来るのかよっ!」
「というかアイツら意気投合してるんですけど」
「ヴァレットさーん、オーナちゃーん、早く来てぇぇっ! 危険人物が逃げるぅぅ!」

 いや、動けはしなかったが、突っ込みの声は上がり続けていたのであった。
 









 ……続く。






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