第11話 たまにはマジの大決戦・中編
      魔法少女リューゲ〜複製品でもいいですか?〜











 あたしの名前は、リューゲ・ヴィオレット。
 ドイツ語で嘘、紫と並べただけの簡易な名前。
 あたしの生まれが生まれなのでそれも当然と言えば当然なのだが。
 あたしは『複製』の概念種子を持つ人間の能力によって偶発的に生まれた、魔法多少少女・ヴァレットの複製体だ。
 ヴァレットの欠片程度の記憶と力しか持たない私を偶然に拾ったのは、マッドマジシャン・シャッフェン。
 世間では馬鹿、阿呆、間抜け、勘違い野郎の代名詞、と好き放題言われている魔術師だ。
 そんな人に付けられたのだから、私の名前についてはもう諦めている。

 でも、実際彼には良くして貰っていた。
 あたしが、彼が恋焦がれるヴァレットの複製体だからというだけではなく、一人の人間として扱ってくれていたから、素直にそう思う。

 まぁ、自作機械もしっかり愛してる人なんで複雑なんですけどね、実際。
 そんな彼が謎の怪獣の手により星になって、さしあたっての居場所を失ったあたしなんだけど……。











「何の因果でこんな場所に……」

 眼が覚めて、辺りを見回すと、人形……フィギュアの群れ。
 アニメーションや漫画のポスターが隙間も無いほどにピッシリと飾られている。

「お、眼を覚ましたか」
「……」
「そう警戒しなくてもいいぞ、リューゲたん」
「……たん?」

 まぁ、正体がバレているのは仕方ないというかどうでもいいとして。
 なんか、背筋がぞわぞわ来る呼ばれ方なんですが。

「たん付けは嫌か」
「……ぞわぞわするわ」
「なら、止めとくか。
 癖で時々出るかもしれんがソレは勘弁してくれ。
 とりあえず自己紹介だな。俺は久遠征。
 ま、見ての通りのオタクだ。
 現場を通り掛ったから助けたらヴァレットにアンタの事を頼まれた一般市民でもOKだ」
「知ってるみたいだけど、一応名乗るわ。リューゲ・ヴィオレットよ。
 ……どうやら、助けてもらったみたいだけど……。」

 着替えさせられていた服、身体をなんとなく抱きしめる。

「あ、心配するな。服とかを着替えさせたの俺の女のダチと妹だから」
「ダチ……友達の事ね。」

 言いながら、あたしは落ち着かず視線をさまよわせた。

「……なにこれ?」

 ベッドの隅に追いやられた抱き枕らしきものをを見ると……
 私と同い年位の外見の、半裸の女の子がアニメ調で描かれていた。
 ……改めて周囲を見るとそれっぽいグッズがたくさんある。

「……あたし、貞操の危機を感じるんだけど」
「心配するな。俺は三次元側への興味が薄い」

 彼……久遠征はそう言ってニヤリと笑って見せた。
 あー、だから恥ずかしげもなくこんなのあたしの……女の子の近くにおけるわけね。納得。

「それに」
「?」
「オタクだからこそ、女の子を泣かせる趣味は無い」

 その言葉は、少し後であたしを誰かと勘違いして追い掛けていた男との会話で証明された。

 どうやらこのヒトは、中々イイヒトらしい。趣味はいただけないけど。











「……お前、やっぱり草薙に似てるな」

 傷と法力回復の療養の為、やむを得ず彼の家に居続ける私に彼はそんな事を言った。

「草薙?」
「俺のダチでな。男……のつもりでいるらしい、本人はな。
 俺から見ればバレバレだがね、色々と」
「なら、それがあたしのオリジナルね。
 そして……ヴァレットの正体」
「やっぱ、そうか。お前の顔を見た時からそんな気がしてたよ。
 なんで男のカッコウなんかしてるんだかね、勿体無い」
「……なんで、あたしの方を見て言うの?」
「そりゃあ、元々同じ顔だからだろ。実際、お前可愛いしな」
「……」
 
 そんな事を言われたのは初めてで、あたしの顔は勝手に熱くなった。

「ま、三次元にしてはだけどな」

 ……すぐ冷めたけど。










「あたし、これからどうなるんだろ」

 療養五日目。
 気が緩んだからか、いつの間にか気を許してしまっていたのか、あたしは征の前でそんな言葉を漏らしていた。

 五日前、『怪獣』に種子を吸われ、あたしに残った種子はわずか。
 多分、あたしの身体が法力で構成されてるから奪われやすくなっていたんだろう。
 シャッフェンの性格上、捨てられる、とは言わないが……
 馬鹿にされるのは確かだろう。正直居辛くなるのはいただけない。

 あと、この騒動がどうにか無事に終わっても、あの人が帰ってくるのは結構遅くなるかもしれない。

 そもあたしには戸籍やら何やらが全くもってない。
 である以上、あたしが生きられるのはシャッフェンのような人間の近くでしかない、そう思っていたのだが。

「なんだったら、この家にいればいいさ」
「え?」

 思わぬ言葉に、あたしは目を瞬かせた。

「幸い、我が家の人間はお前の事気に入ってるみたいだし」
「……征は?」
「嫌いなわけないだろうが。
 ただでさえ三次元だってのに。
 嫌いだったらとっくの昔に簀巻きにして放り出してるよ」
「……嘘ばっかり」

 ヴァレットに頼まれた。このヒトはそう言っていた。
 である以上、このヒトはソレを遵守する。
 頼まれ事はキッチリ果たす。
 征はそういうヒトだとあたしはなんとなく分かっていた。

「ま、簀巻きは嘘だが」
「やっぱり」
「気に入ったのは嘘じゃないぞ? 好きなだけ居ればいいさ」

 それが同情なのか何なのか、あたしには分からない。
 でも。なんであれ、アタシは征の言葉が凄く嬉しかったし……ココに居たいと思うようになった。











 そして、今。
 『怪獣』の襲来を感じ取ったあたしは、考えていた。

 ヴァレットとオーナ。あの二人の実力は認めているし、正直な話、二人とも嫌いじゃない。

 でも、今回は相手が悪い。
 果たしてあの二人だけで抑えきれるのだろうか。

 そして、もし抑え切れなかったときは。

「……あたし」

 あの艮野とかいう奴がいなくなって、窓の外を見ていると、征が言った。

「行って来いよ」
「え?」
「あの二人の手伝いがしたいんだろ? 
 危ない事はさせたくないが、まぁ、しょうがないな。
 お前を信用して、送り出してやる」

 厳密に言えば、あの二人の手伝いがしたいわけじゃない。
 でも、その気持ちもゼロってわけじゃないし、何より……。

「でも、ま、ちゃんと帰って来いよ」

 今目の前でアタシに笑いかけてくれる……
 魔法少女だとか複製だとか関係なく笑ってくれるこのヒトが平和に生きる世界を守りたい。

 だから。

「……ありがとう。あたし、行くよ」
「そっか」
「でも」
「ん?」
「ちゃんと帰ってくるから。貴方の元に」
「……ああ。お菓子でも買って待っててやるさ」

 そう言ってニヤリと笑う征に、あたしは不慣れな笑みを浮かべて返した。










……続く





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