注意その1 おそらく舞エンド後、二人暮しを始めた舞達にならって、大学に進学した祐一が、
そのとなりで一人暮らしを始めて、その年の年末というご都合セッティングです
注意その2 ひさびさのSSのため、ものごっつ文章がつたないです
注意その3 これがSSかどうかは自信がないです
ちなみに題名は「げっこう」ではなく「つきびかり」とよんでください
注意その4 調子にのって詩なんて書いちゃったりしてます
よって読むのに相当覚悟がいるかもしれないです
それでは覚悟が完了した方からどぞ
月光 Written by 那覇(大)
「ゆういち、おそい」
「いや、待たせちまってわりー、わりー。なかなかあいつらが帰してくれなくってさ」
人がせわしなく行きかう駅前のロータリー。
今はもう少しで日が変わる午後11時。というかもうすぐ年さえも明けてしまう。
都会からはずいぶん離れているとはいえ、忘年会シーズンのためかその流れはいつもよりも多い。
今年最後のバイトが終わったのが午後8時。
さぁ帰るかと思ったのだが、 来年のスケジュール確認をしようというその隙に、バイトのメンバーに両腕を捕まれ、
そのまま忘年会へと拉致されてしまったのである。
余談だが、その拉致を実行した二人は大学の先輩(しかも女性)であったり、意外とスタイルがいいなぁと、
抱えられた両腕から伝わるその感触に思わず振りほどくことができなかったという悲しい男のサガ。
まぁ、彼女達にしてみれば、すこしでも華が欲しいがための行動であるからして、わからんでもない。
ばれたら顔に生傷が増えることこの上ない状況ではあるが…ばれなきゃ問題ない。
強いというわけでもないアルコールを勧められるがままに飲み干し、そして騒ぐ。
気がついてみれば、すでに時計の短針は10を大きく過ぎてしまっていた。
相沢祐一のスケジュール。
ある一点。
大学に行き、バイトをし、そして帰宅する、そんな当たり前の学生ライフの中での決まりごと。
それは。
「言い訳無用。体冷えた。寒い」
相変わらず箇条書きを連ねた口調と語尾が三点リーダついとるんじゃなかろうかという言葉でしゃべる。
ひとつ年上の彼女、川澄 舞。
いや、共同生活者というべきかもしれない。
部屋は別々ではあるけれど、バイトの時間が重なったときは一緒に帰るという、彼女との約束事。
拉致られる寸前に交わしたメール。
それは…。
『午後10時30分 待つ』
短いながらも、いつも交わされるそのメールに決まりきった文句をメールで返す。
変わらない言葉、変わらない日常。
そして、変えるつもりなんてさらさらない彼女達との関係。
大学に入ることが決まった段階で、お世話になっていた親戚の家を出ることに決めた俺。
すったもんだした挙句、手持ちの荷物を持ってアパートを探したのだが、
どこから聞きつけてきたのか、
「ゆういち、来る」
のひとことのもと、彼女の住むアパートへと連れられていったのである。
まぁ、流れからいくと舞の住む部屋に同居、ということになるのであろうが、
それは常識的に考えてもあれもんだろう。
俺としては嬉し…げふげふん。
ま、まぁあれだ。
舞は佐祐理さんと同居している上、部屋自体も2人以上が入る余地はない。
聞いてみれば、ちょうど隣の部屋が空いているからどうだ…ということだった。
角部屋で2人が住める舞達の部屋に対し、真ん中のワンルームに毛が生えた程度の広さの部屋。
とりあえず、ユニット風呂とトイレがついていることと、築浅ということもあって非常にきれいだ。
加えて、駅まで徒歩で大体15分で帰り道には商店街も近い…と。
うん。ものすごくいい。
が、駅から少し歩くとはいえ、こんな好条件の物件が学生のアルバイトでまかなえるのだろうかと心配になった。
アルバイト漬けで過ごす学生生活は色気もへったくれもないし、それに留年とかは正直勘弁してほしい。
きっと舞と佐祐理さんは二人で出し合っているからなんとかなっているにちがいない。
いちおう確かめてみるかと、佐祐理さんに家賃について聞いてみると…(間違っても舞には聞けない…)。
「ここは、佐祐理のお父様の地所なんですよー。
ただ、一人暮らしする条件として、一定のお金を納めてますけど、そんなに高いって言うほどじゃないですよ」
さすがブルジョワ。
まぁ、佐祐理さんのお父さんも愛娘が心配で自分のところをすすめたんだろう、きっと。
家賃と称して家にお金を納めろって言っているあたりも、けじめをつけているのだか、格好つけているのだか、
要は規模のでかい親馬鹿ってことだろう。
このあたりに佐祐理さんの家族間の関係が良好になってきていることを感じられるのはうれしいし、
実際、佐祐理さんも前よりもずっと明るく、そしてそれが自然に出てくるようになった気がする。
「ゆういち、はやく帰る。寒い」
と、なんとなくこれまでの祐一ヒストリーを回想していたのだが、背を向ける舞に終わりを余儀なくされる。
「おい、まてって」
こちらに背を向けてすこしはやめの歩調で帰り道をたどる舞。
すこし固めの、無理やり歩調をおし進めるようなその姿に、
言葉ではなく、背中ですねてますと語っていることに苦笑。
アルコールが入っているとはいえ、まだまだ元気な俺の脚は、舞のすぐ横にたどりつくまでの時間をつめる。
「…遅れたおわびだ」
言葉も短めに、というか飲んでそうたっていないうちにダッシュなんてものをかましたせいで、
あがってしまった俺の息が長い言葉をゆるさない。
コートの両ポケットに入っていた缶コーヒーのうち、舞にすぐ近い左のポケットからそれを抜き出すと、
そのまま舞のコートの右ポケットに滑り込ませる。
まぁ、ここでアイスのコーヒーを入れて舞をからかうというのもおもしろいかもしれないのだが、
そこまでやると後が怖い。
というか、ほろ酔い気分で頭が少しハッピーになっている俺にそこまでの余裕はすでになかった。
「あったかい」
目を細めてコートの右ポケットの中身を握りしめる舞。
ようやく息を整えた俺は舞の肩をぽんと叩いて促した。
「さぁ、さっさと帰ろうぜ」
どこかで鳴り響く除夜の鐘。
駅とは反対方向の帰宅道。
街灯がメートル単位から交差点ごとに。
明るかった夜道がうっすらと暗がりのものになっていく。
交わす言葉もなく、ただ俺と舞の白い息とその吐息。
時折車道を過ぎていく車以外に音は無く、同じように歩いている人もまばら。
何か利いた話題でも振ればよかったが、あいにくアルコールの回った頭は空回りするばかり。
普段であれば、軽いジョークでも吹っかけたりするところだが、そんな気分にすらならない。
除夜の鐘が鳴り響く。
すでに商店街は通り過ぎた。
ゆるい坂道をゆっくりと登るようにして歩く。
舞と二人。
ともすれば歩くよりも遅いそのスピード。
それにあわせるかのように歩く舞。
だんだんと坂道の終着が見えてくる。
公園。
たどりつけば街の明かりを見下ろすようなその場所。
ふと、舞が立ち止まった。
「舞、どうした?」
手袋とおそろいのその白いマフラー。
その上の端正な舞の面持ち。
見上げるそれは空。
駅から離れたこの場所は、街灯少なく空は闇。
寒いはずだと納得するかのように星がきらめく。
学校でならったはずの冬の星座たち。
今は名前すら浮かんでこないそれら。
舞が見上げていたのはそれらの宝石たちではなく。
「お月様」
ひっそりと穏やかにたたずんでいるかのような月。
数日後には隠れてしまうであろうそれは、名残惜しそうな感じすらする。
舞につられて、自然を俺もそれを見上げる形になる。
空に浮かんだ下弦の月 見上げたそらは星の海
そっとしずかにながれいく 淡い光の雲流れ
みあげたままのそのままで あなたとわたしは立ち止まる
空に浮かんだ下弦の月 次に逢いしはいつの日か
わずかな時間の隠れ(わかれ)といえど
惜しんでいるようなその光
淡い光につつまれて あなたはなにを思うだろう
「…?」
俺のダウンジャケットのポケットに何かが突っ込まれる。
それが何かはすぐにわかった。
言葉こそ少ない舞だが、その行動は舞の言葉そのもの。
空に浮かんだ下弦の月 手をのばせば届きそうで
独り彷徨い求めてる 欠けた己の半身を
冷たい夜風の寂寥感 気づけばそこにあなたがいた
そっとにぎった互いの手 布越し伝わるぬくもりは それはさながら月光(つきびかり)
残光たなびく流星に 願い託した星の海
その月明かりの寂しさに わたしはそっとキスをする
「ゆういち、ズルい」
「なにがだ?」
どこかで聞こえる除夜の鐘。
言葉少なくいつもの道を歩く俺と舞。
いつもなら漫才じみた会話を交わしながら帰るこの帰宅途中も、
きっと互いに赤らめた顔のせいで無言のまま。
怒っているとか、恥ずかしいとかそんなんじゃなく、
ただ、俺も舞も同じく、ただ二人だけのこの時間を感じていたかったからかもしれない。
握られたままの手から伝わるかすかな暖かさが、それを物語っていたのだから。
後数分で年が明ける。
きっと、来年も舞と俺と佐祐理さんとの二人三脚な生活は続いていくのだろう。
まだまだ俺は二人のとなりに立つにはガキすぎるだろう。
学生という身分では仕方の無いことだろうけど、いつかは本当に一緒になれたら。
そんなあいまいな決意を胸に秘めたまま、ついたのは俺達のすむアパート。
正確には、舞と佐祐理さんの住む部屋の隣が俺の部屋なのだが。
そして、十二時を回った。
「ゆういち、佐祐理にあいさつだけでもしていって…」
「ああ、わかっているって」
舞に言われるまでもなく、新年の挨拶くらいはしていきたい。
まぁ、挨拶もそうそうに部屋に戻ったら、そのままぶっ倒れて眠るのだろうが、それはともかく。
「あ、ゆういひしゃん。はっぴーぬうーいやーでふよー」
「うお、佐祐理さん、締まってる、締まってる、つうか当たってる!」
「佐祐理、ずるい」
部屋のドアを開けると同時にどうやら独り酒を始めてしまったらしい佐祐理さんがダイレクトにダイビング。
こいつは新年早々縁起がいいやーというような言葉にできない感触が俺をつつみこんだ。
天国気分早々に首後ろまで回された佐祐理さんの両腕がそのまま、もうがっちりと俺を抱きしめる。
当たっているどころか、白いモヘアのセーターを突き抜けるかのような双子山の感触がー。
そして、そのまま全力のハグ。
失いつつある酸素を求めてその場から逃げ出したい反面、体は敵前逃亡を許さない。
天国と地獄の狭間にいた俺に、後ろから私を仲間外れにするなといわんがばかりに舞が背中からしがみつく。
「こ、ことしもこいつは、縁起がええにゃー…あへ…」
頬が緩みきっているのを自覚しつつ、体の感覚は前後の天国をばっちりと認識しつつ、
俺の意識は天国に旅立つのであった。
おわり