この物語は、このHP『ゆーとぴあ本舗』の一次、二次創作の傾向を知っていないと楽しめない可能性が大きいです。
その事を踏まえた上でこの作品を読みたいと思える方は下の方へにお進みください。































この三年間『此処』に訪れてくださった方々に、心からの感謝を込めて。









ゆーとぴあ本舗三周年記念作品・パーティー(前編)











『深窓の令嬢』。
ご近所からそう呼ばれているらしい私は幼い頃から病弱で。
小学校に行く様になるまで、いつも窓から見上げる四角いフレームの空しか知らずにいた。

大きくなって多少無理をしたり治療をしたりしたかいがあったのか、少しは身体も頑丈になったけど。
それでも人並みには程遠くて、家に居る時はベッドに座っているのが一番落ち着いた。

それは高校生になったばかりの今でも変わらず。
基本的に私は、学校に行く以外、ベッドの上でいつでも眠りに落ちる事が出来る服装で時間を過ごしていた。
運動神経は有るのに勿体無い、と良く家族には言われていたりする。

一言言わせてもらえれば、そういう境遇について私は別に不満を持って無かった。

これが持って生まれたものである以上、上手く付き合っていくのが当然だし、そうしていかなければならない。
同じ様な環境にある人の事は知らないけど、少なくとも私はそう思っていた。

ただ、少し退屈はしていた。

そんな退屈を潰すために色々やってはいた。
勉強は基本。
読書はかなり。
絵画は少々。
漫画や小説を書いてみた事もある。

今も続けているソレラに飽きたわけじゃないけれど、時々ソレラでも気持ちを持て余す時がある。

そういう時に爺や……幼い頃から私の面倒を見てくれている執事だ……に勧められたのがインターネット。

恥ずかしながら、ネット全盛の時代に生まれ落ちたというのに、私はソレまでそういう事に無頓着だった。
機会は幾度かあったのだが、なんとなく気分が乗らなかったのだ。

だが、一念発起してやってみると、中々に面白かった。

そして、その中で私が特にハマっている事がある。

家にいながらにして、多くの人と出会う事が出来る。
病弱な私でも『世界』を歩く事が出来る。
冒険が、出来る。

そう。
私は今、ネットゲーム……オンラインRPGにハマっていた。










「えーと斡旋所は……っと」

呟きながらブライドタッチ+マウスでキャラクターを操作する。

眼鏡の様に装着して使用するビジュアルアップグラスのお陰で、今やネットゲームは現実さながらの実体験を可能にしている……とまでは言わないが、
それなりの臨場感とリアルさでゲームをプレイできるまでになっていた。

ので、私の眼には異国情緒……というかファンタジー情緒溢れる風景が映っている。

「こんなにリアルだとは思いませんでしたけど」

このゲームを初めたのは二週間前。
初めてプレイした時は、サンプル画面以上のリアルさに驚いたものだ。
このオンラインRPGが、画面=自分のキャラクターの視点となっているのも臨場感に一役買っているのだろう。

ちなみに、私も含め、その辺りを歩いているプレイヤーキャラクター達の姿は、ゲーム開始前にそれぞれがパーツを組み合わせて設定した姿。
そんな『それぞれの姿』が『それぞれの視点』に映っている……筈だ。
私は私以外の視点を知らないのでシステム的にそうなっている、というのを鵜呑みにするしかないのだが。

余談だが、私の姿は、現実の私の写真をスキャニングしたものをゲーム風味に仕立てあげたものだ。
その辺の処理は大体PCにインストールした基本ソフトがやってくれるので、私みたいな素人でも安心だ。
全体的に青色主体で纏めつつ女の子らしく仕上がっている戦士風デザインは結構気に入っている。

閑話休題。
そんな事を考えながら街を歩いている内に、私は仕事斡旋所……RPG風に言うとギルドだ……に到着した。
いつもならそれなりの人で賑わっているのだが、今日は珍しく私しかいない。

たまたまそういう時間帯なのか、何か理由があるのか……それはさておいて、私は奥に立つオジサマに話し掛ける事にした。
紫色の眼をしたこの人には、今まで何度も仕事を紹介してもらっている。

一応彼はプレイヤー。
冒険こそしていないが、彼はこういう仕事をする事で、この世界に『生きている』のだ。
なんでも此処に訪れる人が自分の紹介した『仕事』を経てレベルアップしていくのが楽しいのだとか。

そんなオジサマに、私はこれまで何度もそうしてきているように尋ねた。

「すみません。
 この近辺で私のレベルに見合った仕事を紹介してもらえませんか?」

仕事。
いわゆるクエストであり、ミッションである。

内容としては盗賊退治やモンスター退治、各国の要人の護衛、レアアイテムの回収などなど。
そういった依頼を達成していく事で、それまでに至る過程の戦闘やイベント終了後に経験値を獲得し、レベルを上げていくのだ。

今のところ、私がやってきたのはレベルが低い雑魚モンスターの退治やちょっとしたおつかい位。
なので、そろそろ目新しいイベントを期待して返事を待っていたのだが……。

「残念だが、仕事は無いよ」

穏やかなオジサマの言葉で、そんな淡い期待は崩れ去った。
……ちなみにこのゲーム内での会話は基本的に漫画的ふきだし台詞で行われている。

「え? でも……」
「このリストを見てみるといい。
 今の君じゃ難しい仕事ばかりだ」

オジサマが画面上に開いてくれた仕事のリストに眼を凝らす。

確かに。
よく見てみると、戦士になりたての私にはレベル的に辛いものばかりだ。

「最近、君ぐらいの新しい冒険者が増えてね。
 その手の人達向けの依頼はつい30分前に全部無くなったんだ。
 職業を決められるレベルになった奴は、ここに飽きたのか他所の街に行っちゃうし。
 結果、初心者向けにしちゃ高めの依頼が残るばっかりって寸法さ。
 仕事が欲しいなら、もう少し待った方がいいよ」
「うーん。
 でも、仕事しないとレベル上がり難いですし」

依頼以外では、ここ……所謂『始まりの街』周辺の雑魚モンスターを結構倒し、私はそれなりにレベルを上げてきた。
だが、それも限界に来ている。
レベルを上げる自体は不可能ではないが、あまりにも非効率的なのだ。

「ん……そうですね。
 この際、レベル高めでも構いません。
 何か仕事を紹介してもらえませんか?」
「言っとくけど、無謀だよ?」
「それがRPGの……冒険の基本じゃないでしょうか?」

伊達に小説や漫画を読みまくっているわけではない。
そういう『基本』は知識としてそれなりに抑えているつもりだ。
そして……多分、そういう部分に『面白さ』は隠れているものだと私は思っている。

「う…む」

何か思う所があったのか、私の言葉に唸るオジサマ。
そうして、少し考えるような素振りを見せた後オジサマは言った。

「……なら、無茶ついでに魔王を倒しに行ったらどうだろう?」
「魔王、ですか?」
「ああ。
 ここだけの話だが、明後日から行われるイベントがあるんだ」

興味が涌いたのもあって、詳しく話を聞いてみる。
なんでも現在この世界を支配しようと暗躍している邪神が、尖兵としてかつての魔王を蘇らせようとしているらしい。

……まあ、平たく言うと。
新規に入ったプレイヤーに与えられた、いいレベル上げの機会ということらしい。
魔王を倒せるのは1パーティだけだが、その周辺にはそこそこのレベルのモンスターも出現しているので、単純なレベル上げながらソレで事足りる。

「でも、それこそレベル高過ぎじゃないですか?」
「心配しなくていい。
 あくまで新規の冒険者向けだから、上手く調整されていると聞いているよ」

事実その通りなら問題は無いだろう。
ただ……別の問題がある。

「ただ。
 君のレベルだと、その場所に行く事自体がキツいだろう」

魔王が現れるという古城……私が持つ地図によると、それはこの街から少しばかり離れている。
現行の私のパラメータ(特にアイテム所持数限度)から考慮するに、其処に行くまでに回復などがおっつかなくなる可能性が高い。

「はい。おそらくおっしゃるとおりだと思います」
「折角の機会だ。
 この際にパーティーを組んでいく事を勧めるよ。
 まだパーティーを組んだ事は無かったんだろう?」

パーティー……旅の仲間。
確かに今まで誰かと行動を共にした事が無かった。
現実世界でも割りとそう(友達少ない)なので、少し抵抗が無くも無い。

だが……確かに、この際だ。
こういう機会でもなければ、私はパーティーを組んだりしないだろう。
それに、そんな僅かな抵抗でゲームの楽しみを損なうのは勿体無い。

良いか悪いかは、経験してみなければ分からないのだから。

そういう事を思考した末に、私はオジサマに頷いて見せた。

「……そうですね。
 パーティー、組んでみます。
 助言ありがとうございました」

そうして。
オジサマに礼を告げた後、私は斡旋所を出た。

旅の仲間を探すために。










『明日から遠出します。
 誰かパーティーを組んでくれませんか?』

そんな風味な意味合いのプレート台詞を掲げて、街中を歩き回る。
ソレに誰かが眼を留めてくれるのを期待して。

オジサマに頼めば、誰かを紹介してくれたか、斡旋所に訪れる誰かに私を紹介してくれたのかもしれないが、それだと時間が掛かる。

『魔王』の事が一般に公開されるのは明後日。
折角の先行情報を無駄にしたくない以上、なるべく急いでおきたかった。



「あ、これもお願いします」
「こちらの薬草もですね。追加いたします。
 全部で450エヌになります」

私の注文にノンプレイヤーの商人さんが事務的に(というか機械的に)精算作業を行う。
その精算額を確認した私は支払いを済ませ、薬屋さんを後にした。



勿論、そうして街を練り歩いている間何もしないわけではない。
冒険の基本中の基本……出発前の準備を私は進めていた。

薬屋で回復アイテムを揃え。
武器屋&防具屋で装備できる中で最高……よりワンランク下の武器を買い(結構予算ギリギリだった)。
HP(ヒットポイント)自動回復用の食べ物類を買い揃える。

そんなこんなで、いつもより人が少なめな街中を歩く事30分。
リアルで紅茶を飲みつつ休憩を入れようかと思い始めていた矢先。

「やあ、お嬢さん」

そうして、私に声(と言っても当然漫画風ふきだし文字表記だが)を掛けてくれる人がやっと現れた。

其処に立つのは、金髪の青年。
まだ職業らしい職業(戦士とか魔術師とかの事)についていないらしく、最初に装備される軽装の鎧を纏い、標準装備の一つであるロングソードを腰にぶら下げていた。

「はい。なんでしょうか?」

初めて声を掛けられた事を嬉しく思いながら、私は無職さん(便宜上そう呼ぶ)を真正面に置いた。
それを律儀に待っていたのか、互いに真正面に向き合ったタイミングぴったりに彼は言った。

「遠出をするんだって? 大変そうだねぇ」

……折角声を掛けてくれたのになんだが、何だか軽薄そうである。

(いけないいけない。相手に失礼です)

リアルの方で頭を振って、気を取り直す。

「はい、そうなんですよ」

『キャラクター・笑顔』の操作をして頷く。
すると、その人も同じ操作をしたらしく、笑顔を見せてから言った。

「そうかそうか。なら、僕で良かったら力を貸すよ」
「ありがとうございます」
「それで、だ。
 詳しい事は後で聞くとして、僕に何かメリットはあるのかなぁ?」
「え?」

目の前に立つ青年……無職さんの表情は変わらない。
だが、なんというか……なんとなく、その笑顔は最初から少しだけ質が悪いものだったんじゃないかな、と感じさせた。

「あの……えーと」
「ふーん。
 報酬とか無しで考えてたのか。これだから初心者は困るな」

少しだけ唐突な展開に、私が答えあぐねていると無職さんが言った。
その台詞は、ちょっと感情を硬化させている感じがする。

「…………えと。だったら、どういう報酬だったら一緒に行ってくれるんですか?」
「そうだなぁ。
 遠出先の全レアアイテムをくれるんなら考えてもいい……」

その時だった。
突然、ズバッという斬撃音が響いたのは。

「って、あれ、HP(ヒットポイント)が?!!」

そして、その結果として眼前の青年のHPが3分の1ほど減ってしまっていた。

「いやーごめんごめん」
 
一体いつの間に現れたのか。
無職さんのすぐ傍に、茶色の髪を片側だけテールにした女騎士が佇んでいた。
どうやら結構なレベルらしく、HPの数値が私達とはまるで違う。

彼女は会話用設定動作の一つである腕組みをしながら、私達の方を眺めていた。
そんな彼女に当然のように無職さんが食って掛かる。

「ちょ……!?
 いきなり斬りつけるなんて酷いんじゃないですかねぇっ!?」
「いやいや、あまりのチンピラ振りに見かねてつい手を出しちゃった。
 装備変更して手加減したつもりだったけど、結構減っちゃったねー」
「ううう……」

いきり立つ青年を女騎士さんはストレートな言葉でかわす。
……言葉そのものは焚き付けているような感じだが、むしろ和ませている感があり、不思議な光景だった。

ちなみに。
このゲームはプレイヤー同士の戦闘が可能だったりする。
その攻防が白熱して、問題になる事もしばしばあったりするのだが。

(大丈夫でしょうか……?)

そういう事態になったりしないだろうか、と心配しつつ、とりあえず状況を見ていると女騎士さんが腕組みを解いて、言った。

「話は途中から見せて……もとい、聞かせてもらったけど。
 下手に報酬を払う事を書いたりすると貴方みたいに弱みに付け込んで馬鹿な要求したり、
 高い要求を吹っかけたりをする人がいるから、この子はあえて報酬の事は書かなかったんじゃないかな。
 勿論、御礼の事を考えていなかったわけじゃない……違う?」
「……そうです」

女性の指摘を、私は素直に肯定した。

まったくもってそのとおりで、私は報酬の事を考えていなかったわけではない。
お世話になる以上そういうことは避けて通れないのはちゃんと分かっていたし、私自身ちゃんと御礼をしたいと思っていた。

ただ。
今の私はソレを支払うにも十分なアイテムやお金を持っているわけではない。
だから、あえて書かずにいたのだ。
その辺りは、ある程度話が進んでから話し合うつもりで。

ある意味プレイヤーの人達の人間性を試していて、申し訳ないとは思っていた。
だが、折角初めてパーティーを組む以上、いい人と組みたいし、後腐れないものにしたいし、何よりいい思い出にしたい。
それは……多分度を越えた我侭ではない筈だ。

そういう事を踏まえた上での『文章』だったのだが……結果としては裏目に出てしまったようだ。

「そっかそっか。うん、私も大分ヒトの事を見れるようになって来たかな。
 しかし、これも何かの縁かしらね」
「え?」

リアルで呟いた一語を全く同じに打ち込む。
すると女騎士さんは最上級の笑顔をキャラクターに浮かばせた上で、こう言った。

「この周辺イベントやりつくして暇してたし、丁度いいわ。
 良かったら、私とパーティーを組んでくれないかな?」
「え、いいんで……」
「待てよっ! この落とし前はどうつけてくれるんだよ」

私の言葉を遮って、無職さんの言葉が響く。
少しだけ自業自得なんじゃと思わないでもなかったが、
言っている事は非常に正論なので、私は自分の言葉を閉じて、そちらの方を優先させた。
そんな無職さんの言葉に、女騎士さんは基本動作の一つである『手を合わせて謝罪』をしてみせた。

「あー、ごめん。
 さっきはちょっと勢いでやっちゃって……回復アイテム上げるんじゃ駄目?」
「いいや、それじゃ気が済まないね。
 ……まあそれは当然として、そうだな。
 君達リアルで女の子? もしそうだったら……ってうぎゃああああああっ!?」
「おおーっ」
「あわわわっ?!」

無職さんが叫びと共にいきなり炎上する。
その瞬間、炎系魔法の二段階目位の大きさの炎弾が走っていたのが視えた。
それが打ち出された方向を見ると……路地の一角から、眼鏡を掛け、黒いコートを身に纏った魔術師が現れる姿が眼に映った。

「失礼。
 正直、傍観するつもりだったが、あまりに見苦しい上、マナー知らずなもので」
「い、いえ。私はいいんですけど……その」

流石にこれは酷過ぎるのではないでしょーか。
炎が消えた無職さんのHPは赤色で危険状態だ。

「あらあ……」

女騎士さんが思わず呟いたのは、この惨状になのか、あまりの騒動に少ないながらも人が集まり出した事なのか。
ともあれ、周囲の状況には興味がないのか、再び無職さんが吼えた。

「おおお、お前、何してくれてるんですかっ?!」
「この世界でリアルを持ち出すなど、情緒をぶち壊す真似はしないで貰おう」

クィッ、と眼鏡をあげる動作を見せる魔術師さん。
会話内の基本動作以外に、そういう動作も設定すれば出来ない事は無いらしいけど……よくやるなぁ、と思わず感心。
それぐらい滑らかで自然な動きだった。

「全く、モラルの欠けた存在というのは昔から見るに耐えないね。
 どうやら、そういう輩を排除するのが僕の運命らしい」
「ふん、何を気取ってるんだかね。
 なんかアンタ、俺の嫌いな人種っぽいし、一つギャフンと言わせてやるとしますか」
「それはこちらの台詞だ。
 もっとも僕はギャフンなんて言葉を言わせるまでも無く君をチリに出来るがね」

互いに剣と杖を構える。
まさに一触即発……とそこに、人ごみを裂いて新たな乱入者が現れた。

「……どうどう」

まるで動物を相手取るような言葉で間に入ってきたのは、僧侶の衣服を纏った長髪長身の女性。
なんというか……ゲームだと言うのに独特の雰囲気を感じさせるヒトだ。

いきなり間に入ったその女性に、二人の視線が集中する。

「なんだよ。邪魔しないでくれないかな」
「その意見には同意する。これはこっちの問題だ」
「……これは元々そちらのお嬢さんの問題だと思いますが」
「う」
「む」

的確な指摘に、二人は沈黙する。
その間に、女性はアイテムの入った鞄をゴソゴソと漁り、其処から何かを取り出した。

「よろしければこれを進呈しますので、喧嘩両成敗ということでここは穏便に」

二人に差し出したソレは……食事券。
道中でHPを回復するための食品類をかなりお得に買える特殊アイテムだ。
レアアイテム、とまでは行かないが中々に希少なモノだった筈。
それをこんな所で二枚も出すなんて……太っ腹と言うべきか、天然と言うべきか。

同じような事を考えたのか、その場の全員が沈黙し、彼女に注目した。

その注目も何のその。
彼女は……厳密に言えば、彼女のキャラクター……は無表情のままに言った。

「本当はお米券がいいんですけど、残念ながらこのゲームにお米券はないので。
 とても残念です。ガックリ」
「いや、意味分からないし」
「ぽ」
「……いや、照れる所でもないだろう」

さっきまでの険悪さを忘れたのか、無職さんと魔術師さんが交互に突っ込みを入れる。

「……」
「……」

それが切っ掛けになったのか、スッカリ毒気を抜かれたらしく、戦闘態勢を解除する二人。
その瞬間に……まるでこうなる事を全て見越していたかのように……女騎士さんが言った。

「うん、なんか場も収まった事だし。改めて色々お話しましょうか」
「は、はい」
「まあ、いいけど」
「ふん」
「OKです」

女騎士さんのこれ以上ないほどの笑顔にほだされて。
この出来事に関わったそれぞれがそれぞれの言葉で頷き返し、とりあえずこの場での決着はついたのだった。










「……ふむ。発端はそういう事だったのか」

それから暫し経って。
いつのまにやら結構注目を集めていたので、人気のない路地裏に場所を変え。
その上で、先程の事に関わった五人に改めて事のあらましを話すと、魔術師の人はそう言って眼鏡を、クィッ、と上げた。

「やはり、君が悪いじゃないか」
「なんでっ!?」

ビシッと指をさされた無職さんが不満の声を上げる。
だが、その声も虚しく僧侶さんが魔術師さんを肯定するように言った。

「言い分は分からないでもないですが、チンピラ風味なのは良くないかと」
「だからって、過剰に切られたり焼かれたりは酷いんじゃないですかねぇっ!?」
「まあまあ、その辺りはもう解決したじゃない」

あの後。
無職さんの怪我については僧侶さんの回復、女騎士さんのアイテムプレゼントにより回復していた。
オマケに女騎士さんが慰謝料として幾らか渡してようやっと彼の機嫌が直り、落ち着いて本題が話せるようになったのである。

「アレで貴方も納得してたはずじゃなかった?
 これ以上何か要求するのはチョットカッコ悪いと思うよ?」
「う」
「だから、それは終わった話として、話を進めるわね。
 っていうか、さっきの話の続きなんだけど……
 貴女とパーティーを組ませてもらいたいんだけど、いいかな?」
「あ、はい。ありがとうございます」

女騎士さんの改めての申し出に、私は感謝の言葉を述べた。
なんというか、言葉以上に凄く嬉しかったし、感謝していたのだが……上手く言葉に出来ない自分が腹立たしい。

「……でもいいんですか?
 貴女のレベル、高いですし……他に行く所があるんじゃ」
「いいのいいの。
 私はこのゲームそのものより、楽しい事が大好きなだけだから。
 あ、そうだ。
 楽しいついでな感じで思いついたんだけど……折角だし、ここに居る皆で一時パーティー組まない?
 その遠出とやらが終わるまで、って事で」

「え?」

女騎士さんの提案に、私はリアルでのみ声を上げ、眼を丸くした。
元々パーティーを組んだとしても一人か二人か位を想定していたので、その提案は正直寝耳に水だったのだ。

「ふむ」
「なるほど」

だが、他の人達の反応は割りと冷静なものだった。
どうやら、ある程度そうなるだろうと話の流れを読んでいたらしい。

「……まあ行き掛かり上、止むを得ないか。
 迷惑を掛けてしまった事もあるし、困っている女性を放っても置けまい」
「私はレベル上げの場所を探していたので、そうしていただけると助かります」
「あの……いいんでしょうか?」

簡単に同意する魔術師さんと僧侶さんに、私は少し躊躇いがちに尋ねた。

「ああ、構わないよ。というか君が気に病む必要はない。
 さっきも言ったが、迷惑を掛けたのは僕なんだし」
「一人は皆の為に。皆は一人の為に…素敵です。ぽ」
「……ありがとうございます……!」

多少個人的な事情が入っているとは言え、二人は快く同意してくれた。
その純粋な厚意に私の胸が熱くなる。

これが『こういうゲーム』の醍醐味……いや、良い所なのだろう。
そう実感していると、ソレを台無しにするような言葉が無職さんから飛んだ。

「ふん、僕は勘弁だねっ。
 僕はこのゲームを始めて一年のベテランなんだ。
 あんた達みたいなレベルの低い連中と一緒に冒険なんかできるか」

そう言うと、無職さんのキャラが私達に背を向ける。

「……あー、行く前に一ついいか?」

その足を止めたのは……意外な事に魔術師さんだった。

「なに? 
 この僕のレベルの高さに見惚れて呼び止めたのは当然と言えるけど……」
「そう。そのレベルの事だ。
 言っとくが、君のレベルがこの中で一番低いぞ」
「なにっ?!」
「あ、ホント。しかも無職」
「比較的死に難いこのゲームでプレイ一年で無職だとは……いやはや恐れ入る。
 そこの女性はプレイ開始二週間で君よりレベルが高い上に、戦士にクラスチェンジしてるのにな」

多分、この嫌味が言いたくて呼び止めたのだろう。
なんというか、魔術師さんのキャラクターの表情は通常モードなのに、やたら楽しそうだった。

「うーん。いるのよねぇ……たまに。
 レベル表記見忘れてたり、ただ漫然と時間を過ごしてただけなのにベテラン顔する人」
「あああああああああああああああuygyuguyguuygyygygiuugiuugigi」

皆の突っ込み+あまりの言い様に、無職さんはショックを受けすぎたのかキーボードかマウスを乱打しているようだ。
……うう、画面の前でガクガク震えてる様が何故か眼に浮かぶなぁ。

「ま、まあまあ。
 いいじゃないですか、人それぞれですし」

流石に余りに不憫だったので、思わずフォローを入れる私。
すると無職さんは私の方を向きながら眼の幅涙を流した。

「ううう……君は優しいね」
「いえ、つい先日まで無職でしたから他人事じゃありませんから。
 あの、それで、どうしますか?」
「え?」
「良かったら、ご一緒に冒険しませんか?」
「……」

無職さんは暫しの沈黙を経て、何処か偉そうなポーズをしつつ言った。

「まあ、僕が入れば後は人数合わせで……」
「さて後は今後の事を4人で話そうか」
「あああああスミマセンゴメンナサイ調子コキマシタ。どうかパーティーに入れてください」

魔術師さんの言葉に、慌てまくったのかかなり即座に無職さんの台詞が奔った。

「あ、あはは。
 えと……はい、私は問題ありません。
 皆さんは……?」

女騎士さんの言葉を借りるなら、これも何かの縁。
折角だから、無職さんとも冒険してみたい……今の私はそう思っていた。

だが、それはあくまで私の独断である。

多分、こういう時は『皆』の意見を聞くものだろう。
友人関係の経験が乏しいながら、私はそう判断した。

ゆえに、少しだけ不安に思いながらも意見を求めたのだ。

でも……その不安は杞憂に過ぎなかった。

「いいんじゃない? その方が楽しそうだし」
「そうですね」
「……まあ、不本意だけど多数決じゃ仕方がない」

私の時と同じ様に、皆さんは快くその提案を了解してくれた。
なんだか……凄く嬉しかった。

「皆さん……ありがとうございます」
「君が御礼を言う事はないだろう? 言うべきは其処の無職」
「うるさいなぁ」
「貴女の姿勢、素敵です。ぽ」
「いや、そこ照れるところ違うと思うけど。
 ……さて。
 こういう流れになった事だし、とりあえず自己紹介しましょうか」

女騎士さんはそう言うと、ニッカリ笑顔をキャラクターの顔に表示させた。

「私はカオル。
 職業は見ての通りの騎士。もうちょっとしたら聖騎士になる予定」
「僕はエズーク。とりあえず魔術師だ」
「私は……カプリコンと申します。職業は僧侶です」
「僕はサン。太陽のように輝く男さっ」
「……本名が陽平とか陽介とかなのかな」

ポソリ、と呟く感じで漏らした女騎士……カオルさんの言葉にサンさんは沈黙した。
どうやら図星だったらしい。

というか、カオルさんはどうやらマイクの言語変換機能で『会話』をしているらしい。
もしキーボードを打ちながらなら、打つ前に言うべきじゃない言葉には気付くだろう。
……いや、平気でそういう事をやっちゃう天然さんなのかもしれないけど。

「あ、ごめんごめん。リアルの事は言うべきじゃないのにね。
 以後気をつけるわ」
「そうだな。別に彼を庇うつもりはないが、今後はそうしてくれ。
 しかし……安直だな」
「う、うるさいな。
 そういうお前の名前の由来は何だよ。まさか逆さ読みとかじゃないだろうね」

サンさんの言葉に、今度はエズークさんが沈黙した。

「……それは人の事言えないような気が」
「い、いや。僕はもう少し捻ってあるから。本当だぞ」
「別に安直でもいいと思いますけど。私は自分の星座からですし」
「私は本名。本当は漢字だけど、まあファンタジーだからカタカナ表記で」
「にしても本名は凄いと思います」

思わずそう零した私に、皆の視線が集まる。

「それで、君は?」
「そうそう。君の名前こそ聞きたいね。
 ついでに本名も教えてくれると……おおおおおおおおおおお?! またしても赤表示に?!」

エズークさんの雷を受けてHPデンジャー状態になるサンさん。
ソレを見てクスクス笑うカオルさん。
少し考えてから回復魔法を掛けるカプリコンさん。
ソレを見て肩を竦めるエズークさん。

そんな四人を一瞥していった末に、私は名乗った。

「私の名前は……ブラウです。
 よろしくお願いします」










そうして、その日。
偶然出会い、集まった私達はパーティーを結成した。










ログオフし、ビジュアルアップグラスを外す。

「うわ、もうこんな時間ですか」

幼い頃から変化のない、四角い空を見上げる。
其処にはもう星々が浮かび、自分達の生命を主張していた。

気付けば随分な時間が経っていた。
それだけ、楽しかったという事だろう。 

「……フフ」

パソコンの電源を落とした私は、自分で『少し変かも』と思いながらも笑い声を零した。

あんなに大騒ぎした事は、今まで無かった。
したくても友達が余り居なかったし、無茶に身体がついてこなかったから。

でも『あの世界』なら、誰かと一緒に無茶が出来る。
私らしい私を、出せる。

プレイ二週間目にして、私はようやっと気付いた。
『あの世界』は、私にとっては夢の様な世界なのだと。

「カオルさん、サンさん、エズークさん、カプリコンさん。
 そして……私」

ブラウ。
ドイツ語で青の意味。
『青蒼藍』という、アオイロずくしな私の名前をこれ以上ないほど表したものだ。
なんというかシンプルさでは、皆に負けていないと思う。

「じゃあパーティー名は『ザ シンプルズ』とか『シンプル イズ ベストズ』とかかな」

そんな、あまりセンスの感じられない名前しか思いつかなくても、楽しくって仕方がなかった。

久しぶりに明日が来る事を楽しみに待ち侘びながら、横になった私はゆっくりと眠りに落ちていった……。







……後編に続く。






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