この作品は二次創作作品です。
実際の作品とは何の関連性もなく、著作権侵害の意志などもありません。
その事をご了承の上、お読みいただける方は下の方にお進みください。























俺が、あの蒼い翼を始めて見たのは三年前だった。

俺は、ザフトのMSパイロット。
当時はエリートでもなんでもない、普通の兵士だった。

そんな一般兵である所の俺は、MSジンを駆り哨戒活動をしていた中でその『非常事態』に気付き、現場に急行した。

……プラントを凄まじい速度で離脱した、一体のMS。

それが強奪された最新鋭のMSだとは、その時は知らなかった。

ただ、知ってようがいまいが俺の行動には変わりはなかっただろう。
俺は命令に従う事しか知らなかったから。

そう。
だから俺は、職務に忠実に停止勧告を行った。
だがその機体は、勧告を無視し、更に速度を上げる。

ならば仕方がない、と、俺は立ち塞がった。
同胞であれ、撃墜も止む無し……そう思って立ち塞がった。

だが。

「……嘘だろ」

気が付けば。
俺のジンは武装を持つ手とメインカメラを斬り潰されてしまっていた。

閃光が通り過ぎたと、認識した直後に武装が使えなくなり。

俺は地球に向かうその機体を見送る事しか出来なかった。

後に伝説とさえ称された、蒼い翼のMS……フリーダムを。







種運命外典・ある兵士の戦い







フリーダムを二度目に見たのは、あの、ヤキン・ドゥーエの……泥沼のような状況の中だった。

連合は核を、プラントはジェネシスを。
人を人とも思わない大量破壊兵器を手に、互いを滅ぼそうとしていた中。
プラント防衛の為に前線に出ていた俺は、鬼神の如き戦いを見せる二体のMSと遭遇した。

蒼い翼を持ったMSと、対照的な赤いMS。

彼らは、少し前の戦闘でプラントに迫る核攻撃を全て迎撃してみせた。
だが、今はジェネシスを破壊しようとしている。

それはどちらか一方を滅ぼす事を否定する戦い。
連合でも、プラントでもない、第三勢力……それが彼らだった。

彼らは敵だと、俺達コーディネーターの指導者である所のパトリック・ザラは言った。

だが、敵である彼らは、俺達を敵とみなさず、最小限の命しか奪わない戦闘を繰り広げている。
あの時対峙した俺にしたのと同じ様に、戦いに必要なものだけを剥ぐ戦闘。

「……すげぇ」

少し離れた場所で連合と戦っていた俺は。

その圧倒的な姿に『自由と正義』を見た。

二つの機体に、その名が与えられている事も、その時は知らずに。





そのすぐ後。
プラントと連合との戦争は、その『自由と正義』……オーブとクライン派が為したジェネシスの破壊、内部でのパトリック・ザラの死亡、プラントの穏健派の動きによって終結した。





そうして迎えた戦後……俺は決意を新たにしていた。

今まではただ軍務に忠実だった。
勿論、ソレを覆すつもりはないが、それだけではいたくなかった。

ただ、より強くなろう……そう思ったのだ。

あの時垣間見た『自由と正義』の精神を、いつか自分自身の手で体現する為に。

そうすれば、平和の為に何かができればいいなとなんとなくでザフトに入った俺でも『彼ら』のように大きな事が出来るようになるんじゃないか……そんな気がして。

そうして、俺は自分を鍛えに鍛えた。

MS戦においては、同じ隊の誰よりも強くなった。
トップエリートである『赤服』との模擬戦もこなせるようになった。

そうして鍛えた力も平和である以上振るう機会がなかったが、それはそれで俺は俺なりに納得していた。

新しく議長になったギルバート・デュランダル氏が平和への道を確実に手繰り寄せていた事もあって、不安はなかったからだ。
彼の語る言葉には、穏やかさの中に力強さがあり、世界を憂いていることがひしひしと伝わってきた。

問題はまだまだ山積みだが、もしかしたら、このままナチュラルとの和合も叶うんじゃないか……そう思っていた矢先。

「ブレイク・ザ・ワールド」と称されるユニウスセブン落下事件が起きた。

それにより世界は再び戦乱に満ちた。
ユニウスセブンの事を口実に連合(というよりブルーコスモス)が動き、プラントが応戦し、連鎖的に戦火が拡大していった。

そうなれば。
プラントにいた俺も当然戦いに駆り出される事になる。

宇宙での連合との交戦により、そこそこの戦果を上げた俺は、一時膠着状態になった宇宙から地上への転属を命じられた。

それは宇宙よりも深い地上の混乱に対応すべく有能な人材を回すべきだという上層部の意思でもあり、その中で何が出来るのか模索したいという、俺自身の希望でもあった。

そうして地上に降りた俺は、様々な戦場を経験した。
そして、経験を糧にMSパイロットとしての腕を上げていった。
戦場の中で見え隠れする各々の『正義』や真実を目の当たりにしていった。

そんな中。
一つのニュースが俺の耳に入った。
かつての英雄……フリーダムとアークエンジェルが再び戦場に現れたという。

だが、それは決して賞賛される『復活』ではなかった。

戦場に現れた彼らは、ザフト最新鋭艦ミネルバと連合……というよりオーブ……に戦闘制止を呼び掛け、それが叶わないと見るや戦闘開始し、両者の武装を破壊・戦闘不能にし、戦線を離脱したという。

その行動は……ヤキン・ドゥ―エの時と同じ。
だが、それはあくまで行動だけ見ればだ。
あの時と様々な状況が違う『現状』で、同じ事をやっても意味がない。

結果、ミネルバには甚大な被害が出た。
『赤服』の死者も出たらしく、かつての英雄を疑問視する声が高まっていたらしい。

俺自身も、彼らの行動に疑問を覚えた。

確かに前大戦で彼らはオーブと共に戦争を止める為に尽力してくれた。
その姿に『自由と正義』を見たからこそ、俺も憧れた。

そんな彼らが連合に与するオーブを止めようとした、という事は理解できなくない。

でも、ソレしか本当に手段がなかったのか……正直、疑問だった。
彼らが真に平和を望むなら、まず連合を叩くべきではないのか。

様々な考えが頭をよぎり、確かだった憧れが曇っていく。

だが、そんな俺をさらに混乱させる出来事が起きた。



それは……連合の『化物MS』の都市蹂躙に端を発する事柄だ。

『化物MS』が行った、軍隊というよりもテロリストのような、多くの人民を巻き込んだ、あまりにも非人道的な戦闘。

余りの惨状、事態に、俺や俺の所属する部隊も出撃したのだが生半可な武装は化物には通用せず、鍛えた腕で補う事も出来ず、俺のザクはあっさりと返り討ちに遭った。
かろうじて機体の爆発は免れたものの機体は動かず、かといって激しい戦闘の中出て行くわけにも行かず、コックピットの中で最低限の動作回復を試みていた時。

またしても、蒼い翼が俺の前に舞い降りた。
フリーダムのあの時と変わらない華麗な動きは、乗っている人間が以前と変わっていない事を俺に確信させた。

俺がそんな事を思考している間に。
ミネルバの介入を経て、フリーダムは『化物MS』を撃破した。

それが、俺が見た真実。

だが……報道にはフリーダムの姿はなかった。
映るのはミネルバのMS……インパルス、だけだった。

まるで、都合が悪いものを覆い隠すかのように。

あの蒼い翼は、多くの人々の目には映らなかった。

それにより、またしても疑念が頭をよぎる。
これがもし、意図を持った情報操作ならば一体誰が何の為に意図したのか。
その誰かや理由を知っていたから、フリーダムやアークエンジェルは今の立ち位置に居るのではないか。

そんな推測を深く吟味する間もなく。
部隊と機体を失う事で向かわざるを得なかった新たな転属先で俺は目の当たりにした。

インパルスによる、フリーダムの敗北を。

そして、俺が憧れたものの敗北は、新たなる力の誕生でもあった。

デスティニー。
対ロゴス戦の最前線での戦いの中、あの『化物MS』を何機も相手にしながら一歩も引かず、返り討ちにしたザフト最新鋭MS。

そのパイロットは恐らくフリーダムを落としたパイロット。

ミネルバで運用されている事、動きの癖から俺はそう考えていた。

そして、その戦いは常に必殺だった。

不殺だったフリーダムとは対称的に、デスティニーはより確実に相手を戦闘不能にする手段としての必殺を得意としていた。

俺が憧れていたものと真逆の強さ。
それはロゴスの兵器『レクイエム』を停める為の戦いでも遺憾なく発揮され、ミネルバ同様に宇宙に上がった俺はその強さをまざまざと見せ付けられた。

『お前の憧れなんか、間違いでしかないんだよ』……俺の耳元でそう囁くように。

そんな俺の内面の葛藤はともあく、そうして議長が見出した『力』もあって、戦争は終わるかに思えた。
そう思えた矢先、議長が発表したデスティニープランで、世界は再び混乱の坩堝に落ちた。

遺伝子による完全なる適材適所を行う管理統制社会機構。
デュランダル議長が推進するそれは、ある意味完璧ではある。

だが、それは一部の人間の自由意志を奪う行為なのではないのか。

そんな俺の考えを肯定するかのように、オーブからアークエンジェルが動いた。
それが議長を止めるためだというのは、誰の目にも明らかだった。

この時。
俺にはもう、何が正しい事で、何が間違っているのか分からなくなっていた。

この連綿と続く戦いの連鎖を断ち切るには、世界そのものの変革が必要だ。
俺にだってわかってる。

だが、議長はその変革の為にレクイエムを使ってしまった。
プラントにも放たれた死しか生まない力を。

そして、それは再び俺に自由の翼との邂逅を与えた。

戦場を駆ける『自由と正義』。
それはまさしく三年前のヤキン・ドゥーエと等しい姿。

……多分、議長を止めようとする彼らは「正義」なのだ。

だが、議長もまた「正義」だ。
手段は是非を問われるかもしれないが、少なくとも平和への道を模索した末の決断なのだろうから。

絶対的な正義を信じるほど、子供ではない。
それでも、俺は信じたかった。
この世界に平和をもたらす、絶対的な正義を。
具体的な方法でもたらそうとしている議長を。

だが。
その議長が頼りとし、呼び寄せたデスティニーは『正義』の前に破れ。

議長はフリーダムやアークエンジェルを討つ為に、味方を巻き込むのを承知でジェネシスを放ち。

甦った蒼き翼のMSがこちらに、メサイヤに向かって進んでくる。

それらはどう見ても、議長の敗北を表わしていた。

「……」

そんな状況の中。
あの時以上の速度で接近するフリーダムをザクのコクピットで確認しながら、ふと思った。

俺は、この二年……いや三年、何をやっていたんだろうか、と。

彼らの強さを、正義や自由さを求めてきた事は、全くの徒労だったのだろうか。
今、自分が此処にいるのは、彼らと対峙する為だったのか。
彼らのようになりたいと思った俺が、何故彼らと対峙しているのか。
あの憧れは、イケナイものだったのか。

混乱が、頭の中で廻る。
その間にもフリーダムは接近する。

廻り。接近。廻り。接近。

「……うおおおおおおおおおおおおおっ!!」

そうして俺は。
蒼い翼の機体に立ち向かった。

立ち向かうべきなのかどうかも決めきれず、今の立場に従ったままで。

……その結末は、語るまでもない。

磨いてきた筈の強さは。

圧倒的な強さの前に吹き散らされて。

全てが終わった。







そして、現在。

世界は、今も混迷を極めている。
状況として言えば、過去最悪のものだ。

未だザフトに所属する俺は、毎日のようにテロや暴動処理に奔走する日々を送っていた。

ザフトを辞めようかと思わなくもなかった。
だが、この情勢の中でザフトから抜けても、きっと後悔しか残らないから居た。
逆に言えば、情勢が収まったらどうするか……正直、まだ俺には整理がつかないでいる。

整理がつかないのは、それだけじゃなかった。

俺が平和を望んで求めた力のオリジナルが議長を否定した。
その事で、かつてない混乱に世界は揺れている。

議長は果たして、間違っていたのか。
クライン派やオーブの方が間違っているんじゃないのか。
俺が三年前から目指してきたものは一体なんだったのか。

未だに俺は思い悩んでいる。

ただ、二つだけ明確になった事があった。

一つは……自分が求める『何か』を『誰か』の中に見たとしても、それを『誰か』に背負わせたり、背負ってもらったりするべきではない事。

この数年の間、世界は揺れて来た。
一部の指導者や上に立つ者、カリスマを持つものによって。

彼らに従うのは、確かに楽だろうと思う。
彼らの言葉には、多くの正しさを含んでいる。

だが、ソレにただ従っているだけでは駄目だ。
『彼ら』は『俺』ではないのだから。
求めるものが完全に同じになる事は、ありえないのだから。

そして、もう一つは。

色んな事がありはしたが、それでも俺は平和の為に戦いたいと望んでいる事だ。

フリーダムとの最後の邂逅の時。
俺は逃げてもよかったはずだ。
でも、逃げずに立ち向かったのは……俺の意志だと思う。
近くに存在していた、議長が作ろうとしていた『未知の』平和を護ろうとした俺の意志。

だから、どんな形であれ、ザフトにいようといまいと俺は戦い続けていこうと思う。

あの蒼い翼の中に見た、いつか見つけたいと願う、俺自身の自由と正義の為に。

フリーダムのパイロットがどんな人物であれ。
あの時思い描いた憧れそのものは、間違いではないと思うから。

蒼い翼が再び俺の前に現れた時。

もしも、その時『味方』ならば、共に戦う為に。
もしも、その時『敵』ならば迷いなく倒す為に。

俺は、この先も戦い続けよう。

MSパイロットとしてではなく。

この世界に生きる、俺という、唯一人の人間として。

この混迷の世界の中で。




……END







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