・いつもの朝
シエル「はい、皆さん朝食です」
晴子「うわっ、朝からカレーくさっ!!」
観鈴「っていうか、カレーでいっぱい……こないだからずっと」
晴子「なあ、アンタ。
毎日毎日朝からカレーって重うないんか?」
シエル「そんなことありませんよ」(笑顔でキッパリ)
晴子「……。
居候アンタはどう思う……」
往人「オレハナンノフマンモアリマセン。
アサノカレーサイコー。アサノカレーバンザイ」
観鈴「わ。往人さんが壊れちゃってる。遠野さん、いいの?」
美凪「モクモク……とっても美味しい。お米とのコラボレーション……お見事です」
観鈴「わわ。眼が凄くキラキラしてる」
往人「ダカラヤメテー!! 黒鍵フォークは痛いんだぁぁっ!!!」
シエル「おやおや。そんな風に取り乱してると、今度は黒鍵五本いっぺんに行きますよー?」
往人「NOOOOOOO!!!」
晴子「……」(黙してスプーンを取る)
観鈴「……」(同じく無言で食事を始める)
セブン「うう、こうして皆カレーの闇に染まって行くんですね……ウルウル」
・666の獣
ネロ・カオス。
666の獣の因子を持つ死徒。
遠野志貴に殺されて存在として極小化してはいるが、混沌はなお健在である。
観鈴「ネロさん、たくさん動物さん出せるって本当ですか?」
ネロ「……まあ、偽りではない」
観鈴「だったら恐竜さんは?」
ネロ「ふむ。残念ながら恐竜は難しいな。
だがそれに近い幻想種ならば……」
……暫し時が流れて。
往人「おおおおおおお!!!!????」
観鈴「あ、恐竜さんの体当たりで往人さんが木の葉のように」
美凪「空を飛んでる姿……お星様みたい」(うっとり)
アルクェイド「そう? 星というよりカラスっぽいけど」
シオン「言い得て妙ですね。確かにあのボロボロの黒い衣服は翼に見えなくもない。
それはそうと観鈴。あれは恐竜ではなく……」
志貴「こらぁぁっ!! 見物してないで抑えるか倒すか手伝えぇぇぇ!!」
ネロ「ふむ。済まないな。
コントロール不可能になるとはとは予想外だった。
思いのほか、弱体化しているようだな」
シエル「セブン!! 突撃しますよ!!!」
セブン「うう、あんなのに刺さりたくないぃぃ!!」
ちなみに国崎往人が救助され、混沌が元の位置に戻るまでに要した時間は約三時間。
救出された往人が虫の息だったのは言うまでもない。
・666の獣2
ネロ・カオス。
666の獣の因子を持つ死徒。
遠野志貴に殺されて存在として極小化してはいるが、混沌はなお健在である。
観鈴「♪ー」
往人「えらくご機嫌だな」
観鈴「あ、往人さん。怪我の具合はどう?」
往人「……これが大丈夫そうに見えるのかお前は」
観鈴「にはは、ごめんなさい」
往人「まあ、いいが。
それはそれとして、どうしたんだ肩に止まったそのカラス。なんか凄く懐いてるが」
観鈴「カラスさんも好きだって言ったら、ネロさんがこの間のお詫びに出してくれたの」
往人「………………………………観鈴。ソイツ寄越せ」
観鈴「どうして?」
往人「この間の恨みはらさでおくべきかぁーっ!!」
数分後。
観鈴「あ。このカラスさん。私を守ってくれるようにネロさんが命令してくれたんだった。
いざって時は、分裂して百羽ぐらいで私を守ってくれるんだって」
往人「……そ、それを早く言え……」
観鈴「こんなに可愛いのに襲い掛かった往人さんが悪い」
往人「お、お前のセンス……相変わらずよく分からん……ガクリ」
こうして往人の全治が更に遠ざかったのは言うまでもない。
・衣装
志貴「……どうしたんだ三人とも」
秋葉「兄さんがこの喫茶店に入り浸るから、その監督の為にここでバイトする事に決めただけですよ」
翡翠「私は志貴様の使用人ですから」
琥珀「素直じゃないですね。特に秋葉さまは」
秋葉「……琥珀」(反転)
往人「しかし、三人ともそのままでいいのか? 服」
シエル「秋葉さんについては一考の余地ありですが、翡翠さんと琥珀さんは問題ないでしょう」
晴子「うんうん。分かるで。通も喜ぶ喫茶店ってわけや」
観鈴「えーと。それって何か違う気がする」
・接客
秋葉「いらっしゃいませ。ご注文はお決まりでしょうか?」
翡翠「はい、かしこまりました」
観鈴「にはは、すぐにお持ちします」
往人「へぇ。中々様になってるな」
シエル「お蔭様で繁盛してますよ」
志貴「でも、あれだな。
客に絡まれたりしないか心配だな。翡翠や神尾さんは人に不慣れじゃ……」
シオン「その時の問題はないでしょう」
呟いたシオンが視線を送った先には。
琥珀「♪〜」
コーヒーカップの棚の近くで鼻歌交じりに何かの薬を調合している琥珀の姿と。
晴子「あのオッサン、観鈴に馴れ馴れしいな。
コーヒーに塩入れたろか」
明らかに何か間違った意味で余念がない晴子の姿。
往人「問題ないな」
志貴「……ああ、問題ない」
セブン「誰も真面目に突っ込まないのは流石ですね」
・エーテライト
晴子「しかし、アンタのアレ、便利やな」
シオン「エーテライトの事ですか?」
晴子「そうそう。記憶を読めるわ、人体を操れるわ。
うちにそんな力があればなー。うっはうはになれそうやのに」
シオン「……あまりお勧めはしませんが。
慣れないとあまり良い事ばかりではありませんし」
晴子「そうなん?」
シオン「はい。例えば……」
プス。
往人「?」
『ダッシュッ』
『ギャラはずめよな』
『ロック、オン』
『惚れるなよ』
シオン「今、国崎往人の記憶を読み取りましたが……なんと言えばいいか」
晴子「あー言わんでも分かる。
居候の人格や人生はさておいて、読んでいいもの悪いものはあるなぁ。
……居候やしな」
シオン「はい。国崎往人ですから」
往人「……おい。なんだ、二人してその顔は。しかも俺を見ながら」
二人『別に何も』
・休日、その理由
シエル「今日はお休みにします」
往人「なんだ、唐突だな」
美凪「何かあったんですか?」
シエル「今日の営業分のカレーの材料を切らしてしまったので」
往人「おい。ここが喫茶店だって事を忘れてないか?
別にカレーがなくても……」
ドスドスッ!!(往人の眼前に突き刺さる黒鍵)
シエル「何か言いましたか?」
往人「イイエ。ナニモ」
志貴「……朝食の時は慣れてきたからな。
もう少しで完璧になるさ」
言いながら、ぽんぽんと往人の肩を叩く志貴。
シオン「……それもどうかと思いますが」
・お休みの日に
往人「となると時間が空いたな。暇でたまらん」
シエル「そうですね。皆で何処かに行きますか?」
観鈴「だったら、皆で遊園地に行きたい」
往人「そー言えば、こないだ遠野がチケット貰ったな」
シエル「町内会のお祭りで鳥葬式典をやったら大ウケでしたからね」
志貴「でも……人数分には少し足りなくなかったか?」
美凪「そういう事ならばお任せください」
往人「……いいのか?」
美凪「今日は体調がいいので問題ありません。
料金は後日にちゃんとお支払いするという事で。
では、行きます」
膨大な魔力が迸る。
その中で、美凪は詠唱を始めた。
固有結界起動の為の。
『――体は券で出来ている。
血潮は紙で 心は繊維。
幾たびの売り場を越えて不敗。
ただの一度も買い逃しはなく。
ただの一度も有効に使えない。
彼の者は常に独り 券の丘で勝利に酔う。
故に、生涯に意味はなく。
その体はきっと、券で出来ていた』
観鈴「わわ。いきなり店内が青空の田んぼに」
晴子「なんか辺りをたくさん飛んでるな……って、これ全部なんかのチケットか?
でも、殆どお米券ばっかりみたいやな」
志貴「これは……アイスの商品券。
こっちは……ファーストフードの商品引換券か。
と思ったら、サッカーや野球の観戦チケットもあるし」
美凪「遊園地のチケットは……これですね」
シオン「”アンリミテッド・チケット・ワークス”……実に興味深いです」
往人「そうなのか?」
シオン「はい。固有結界は限りなく魔法に近い魔術。
常識を遥かに超えた、この力……正直、感心していいやら呆れていいやら分かりません」
往人「……まあ、気持ちは分かるが。
だが、確かに言える事が一つある」
アルクェイド「なになに?」
往人「決まってるだろ。
この力があれば、旅に付き物な乗り物への心配が無くなる……!!
金要らずな旅……それはまさに理想郷(アヴァロン)……!!」
シオン「……旅は終わったのでは?」
秋葉「悲しい性ですね」
・友達
観鈴「にはは」
シオン「楽しそうですね、観鈴。
先程のジェットコースターはそんなに楽しかったですか?
私としても興味深かったのは確かですが」
観鈴「うーん。確かにジェットコースターも楽しかったけど。
それよりもこうして皆で一緒に遊ぶのが楽しい。
私、ずっと一人だったから」
シオン「……そうでしたね。
私も、こういう空気は感じた事がなかった。
貴女と同じ様に私も友人を作れませんでしたから」
観鈴「じゃあ……私と友達になってくれるかな」
シオン「私で、いいのですか?」
観鈴「うん。私こそ、こんな私でよければだけど」
シオン「……今後は良き友人として努力します。
宜しくお願いします、観鈴」
観鈴「こちらこそ。
友達出来て、うれしい。にはは」
シオン「それでは、観鈴。
早速、一つ友人として言いたい事があるのですが」
観鈴「え、なにかな」
観鈴の頷きを確認したシオンは、視線を観鈴から離し、ある方向に向けた。
秋葉「兄さん、まずは私とこちらに」
シエル「いいえ、遠野君はまず私とお化け屋敷に……」
アルクェイド「何言ってるの。志貴は私と遊ぶのよ」
志貴「あー……皆で……」
三人『何か?』
志貴「いえ、何も」
翡翠「志貴様、とりあえずお昼を取られてはいかがでしょうか?
……その、サンドイッチ、作ってきましたけど」
琥珀「志貴さん、これを食べないと一生後悔しますよー……いろんな意味で」
志貴「な、何? いろんな意味ってなんですか琥珀さん――??!!」
往人「く……やはり乗り物に乗るのも金か。
遠野、やるぞ」
美凪「……ガッツ」
晴子「ここで商売始めるのはまずいやろ、アンタら。
あ、でも、もし儲けたら売り上げは山分けしてな。
観鈴と一緒に観覧車乗るさかい」
往人「何で何もしてないアンタに山分けを……」
晴子「ここでうちが係員を呼べば……どうなるか、わかるやろ?」
往人「ち……なら、8:2だ」
晴子「あかんな。4:6や。びた一文まからんで」
周囲の賑わいも、他人の眼もなんのその。
ギャイギャイと騒ぎまくる喫茶”華璃唯”ご一行。
シオン「私も人の事は言えませんが……友人は選ぶべきかと」
観鈴「うーん……これはこれでいいと思うな、私」
シオン「……寛大ですね、観鈴は」
・新たなる旅立ち
往人「なあ、観鈴。一つ聞きたいんだが」
遊園地からの帰り道。
静かに、だが何処か強い声で往人は呟いた。
観鈴「なにかな」
往人「ずっと聞きそびれてたんだが、お前は……翼の少女と繋がってたんだよな。
こういうのは何だけど……ソイツはどうなったんだ?」
観鈴「……呪いからは解き放たれて、自由にはなったと思うけど」
往人「まさかソイツ……実体を持ったのか?」
観鈴「うーん……どうかな。ごめん、あほちんだからよく分からない」
志貴「でも、そんな事があり得るのか?」
シオン「論理的ではありませんが。
翼人という存在の特異性を考えるとありえない話ではないでしょう」
往人「……遠野。いや、美凪」
美凪「はい」
往人「やる事が決まった。路銀を貯めたら出発だ」
美凪「何処までもお供します」
シエル「何処に行くんですか?」
往人「折角だ。ソイツを探しに行く。
ここまで来たら、きっちり決着をつけないとな。
それに……やっぱり俺たちは旅人だからな」
美凪「そうですね」
シエル「……そうですか。寂しくなりますね」
往人「まあ、それがもし全部終わったら一度報告に戻るさ。
世話になった以上、アンタらにも事の顛末を話すべきだろうしな。
その時、頼みが一つある」
シエル「なんですか?」
往人「……もし俺達が翼の少女を連れてきたら。
アンタが作る中でもとびきりのカレーを食わせてやってくれ」
シエル「そういう事なら喜んで。
とっておきの材料を準備しておきますよ」
往人「ああ、頼む」
セブン「……その前に旅立てるかが問題ですけどねー」
志貴「路銀がたまらず一生此処になんてありえそうだよな」
往人「やかましい」
そうして語らいながら、彼らは歩を進めて行く。
幾度となく立ち止まった、その町中を。
別れの時は、いずれ確かに来るだろう。
だが、その時までは、この愉快なる時を穏やかに過ごして行こう。
そう思いながら、往人は店の中に入っていった。
其処は喫茶”華璃唯”。
そういう店だ。
……とりあえず、終わり。