●注意

 この作品はこのホームページの一次創作をある程度知っていないと楽しめない可能性が大いにあります。
 それでも構わない、むしろOKという方だけ下の方へどうぞ。


























 どんな世界にも終わりがあるように。

 どんな世界にもはじまりがある。

 一年のはじまりという名の、はじまりが。 

 それは世界が続く限り変わらない。

 過去・現在・未来、異世界でも変わらない。

 








 ゆーとぴあ本舗なお正月










・関係の無い人

音穏「新年あけましておめでとうございますーっ。
   本日は草薙家の実家にお招きいただきありがとうございます〜」
命「うむ、白耶家の皆、おめでとう。
  音穏は相変わらずだな」
凪「……この年甲斐も無い子供っぷりを見て相変わらずとか言える命従姉も相変わらずだな」
命「そうか?
  私は日々歳を取って変化していくばかりだもんで、嫁の貰い手がないのに戦々恐々して相変わらずとは言い難いんだが」
凪「何処かの馬鹿みたいに無駄に結婚して家族を不幸にするよりはいいだろ。
  ま、どうしても結婚したいってんなら俺が貰ってやるよ。
  その時俺に相手がいなければだが」
命「ふむ。考えておこう」
音穏「ちょっと兄さん、若干本音なプロポーズはともかく、紫雲従兄さんがいつ誰を不幸にしたのよっ!
   ……って命従姉さん、紫雲従兄さんは?」
命「ああ、アイツはいつもどおりで遅れるそうだ。
  だから、先に家に入って盛り上がるといい。
  私は暫し外(ここ)で待つ」
凪「ふん、いつもどおりだな、あの馬鹿は」
音穏「……紫雲兄さんも正月ぐらいゆっくりできればいいのにね」


紫雲「別に僕が立ててる計画じゃないけど。
   一年の計は元旦にありって言うなら……今年も大変な一年になりそうだな」
紫須美(幼)「パパー、もう行こうよ〜 皆待ってるよー」
紫雲「ああ、分かってる。
   分かってるけど、もう少し待ってて。
   あと、今から犯人抑えるからもう少し静かにしてて。
   ……にしても、去年はスリで今年はコンビニ強盗か。
   来年はテロとかに巻き込まれたりしないだろうなぁ」

 紫雲は知らない。
 ここから先、彼の過ごす正月にトラブルの無かった時など一度として無い事を。
 残念な事だが、知る由も無かった。

紫雲「……せめて関係のない一般の人達は幸せな正月を過ごせてるといいんだけど」
紫須美「幸せ?」
紫雲「うん、幸せが一番だからね、誰だって」
紫須美「……」










・変わらない人達

薫「あけましておめでとう陸君」
陸「あけましておめでとう、薫さん」(赤面)
薫「ん? どったの?」
陸「いや、その、今年も薫さんの晴れ着姿見れて幸せだなって」
薫「ありがと」(照)

道雄「相変わらず恥ずかしいやら羨ましいやら」
由里奈「”進化”してもそういう所が変わらないのは凄いわね」
明悟「って、のほほんと会話しながら僕を羽交い絞めにするなっ!」
道雄「だって、なぁ?」
芽衣「ええ。
   人の恋路を邪魔するものはなんとやら。
   いっそ馬じゃなくて干支にちなんで牛に轢かれますか?」(ニヤリ)
明悟「ぬぅぅっ!? またも僕を阻むか平良芽衣っ!」
由里奈「……やれやれ」

 年が明けようが、変わらないものは変わらない。
 関係性がどんなに変化しても、変わらないものがそこにはあった。
 
薫「あ、でも、同人誌の購入行脚はそれはそれということで手加減しないからね」
陸「……………うん、分かってた。分かってたよ。
  何処までもお供しますとも」
薫「ありがと。
  今回はKQのものが多いから、陸君も結構読めると思うよ」
陸「へぇ。じゃあ、読んでみようかな」
薫「うんうん、そうしなよ。
  ……って、今なんとなく思ったんだけどさ」
陸「なに?」
薫「KQみたいなファンタジー世界のお正月って、どんなのだろうね?」










・異世界の場合でも

スバル「困ったなぁ」
レイアル「いや、ホントに。
     何も新年早々暴れ竜が出なくてもいいのに……」

 スバル率いるルーヴァス騎士団は新年に山から下りてきた竜の捕獲もしくは撃退の為に街に展開していた。

スバル「人災ってわけじゃなし、まだ子供な竜みたいだから……しょうがない、って所じゃないかな?
    それに、これが俺達の仕事だし」
レイアル「そうね……」

 新年であろうが、働くべき人間は働かなければならない。
”普通”に新年を過ごす人たちが、心穏やかに、幸せに新年を過ごせるように。

 異世界であったとしても、それは何も変わらない。

レイアル「でも、流石に新年第一日目に竜とは言え子供を殺すのは避けたい所ね、団長?」
スバル「うん、分かってるよ副団長。
    じゃあ、それを避ける為にもそろそろ追い込みをかけよう。
    ……頼むから、この間の訓練みたいに予定された戦闘場所を間違えないでね」
レイアル「……はい(涙。
     にしても、なんでこの地方こんなに竜がいるのかしら。
     ただの生息地って感じじゃないし」
スバル「ああ、話してなかったっけ。
    昔魔王を倒す為に各種族がこの辺りに結集した名残らしいよ。
    最終的に一番多く生き残った竜族がこの辺りで戦争の傷を療養して、その過程でこの土地を気に入ったからとか何とか」
レイアル「魔王、か。なるほどね。
     ……ねぇ、知ってる?
     魔王を倒したパーティーって、今日魔王に戦いを挑んだんだって」
スバル「そうなの? そっちは初耳だったな」
レイアル「私にしてみれば、この場所の由来が初耳だったんだけどね。
     今日の仕事が終わったら詳しく話してあげる。
     ……じゃあ、そろそろ始めましょうか団長」
スバル「ああ、行くぞ……!!」








・一年のはじまりだから

勇者「さて。新年になった。
   予定通り、最後の戦いって奴を始めよう」
魔法使い「ああ。勝っても負けても最後になる」
剣士「魔王との最終決戦……そんな最後の戦いを、どうして今日にするって決めたんですか?」

 剣士の少女が尋ねた先には、体中にアイテムを纏った男。
 このパーティーの荷物係にしてムードメイカーたる、青年がそこにいた。

勇者「そうだな。
   オッサンの言う事だから打ち合わせでそういう流れにしたけど、何か意味が?」
荷物係「深い意味はない。
    ただ、さ。
    一年のはじまりに魔王ぶっ潰して、幸先の良いスタートを切りたいって思ったのさ」
魔法使い「……幸先の良いスタート?」
荷物係「ああ。
    魔王のお陰で世界はボロボロだ。
    新しい年を迎えても希望が持てない種族の方が多いだろ。
    だから、一年のはじまりのはじまり、初っ端に最高の報せを世界中に響かせて、幸せ気分で一年をはじめさせたいんだ。
    そうして、最高のスタートではじめて、今年は去年の分まで思いっきり笑って笑って笑い抜く一年にしてやるのさ。
    そうなったら、俺の気分が凄く良い」
勇者「アンタがかよ!
   ……でも、そういう事は事前に言ってくれよ、オッサン。
   アンタが言うその理由だったら皆もっと盛り上がったのに」
魔法使い「……今、思念魔法で会話の内容を全軍に伝えた。
     作戦上騒ぎはしてないけど、戦意は高揚している」
勇者「仕事速っ!」
剣士「…………いよいよですね」
荷物係「だな」
剣士「この戦いが終わったら……」
荷物係「皆まで言うなよ。分かってるさ。
    だから、とっとと終わらせよう」
剣士「はい。
   なるべく早く倒して、今日中に世界に吉報を響き巡らせましょうね」
荷物係「ああ。
    こうなると、パーティーに良い報道関係者がいなかったのが残念だな……」










・残す意味

羽唯「へっくしっ!?」
繋「部長、風邪ですか?」
羽唯「いやいやいや、これはきっと誰かがあたしを噂してる……必要としてるってことなんよ」
真治「んなわけあるか、このゴシップ記者が」
羽唯「おおぅ、元会長。
   あたしが此処に来るのを勘付きおったか。
   ……それって愛?」
真治「違うぅぅぅっ!
   ……ここには霧里薫達も来るらしいと聞いていたからな。
   面白い事を探すお前が彼女達に付き纏うのは目に見えていた」
羽唯「人聞きの悪い事言わんといて。
   ここには初詣に来ただけや。
   ……まぁ、あわよくば連中の面白写真を狙っていたのは確かやけど」
真治「正月ぐらい休め、頼むから」
羽唯「例え新聞が休んでも、ジャーナリストに休息はないで。
   ……まぁ、許可とれんかったら掲載せんから安心しぃ。
   ともあれ、新年あけましておめでとう。
   彼女さんもおめでとさん……ってわけで、はいチーズ」
真治「って、こらあああっ!
   新年早々人の許可得ずに写真を撮るなっ!」
羽唯「でも彼女さんは笑ってくれてるで?」
真治「付き合いだっ! 痛々しいカメラ小娘への優しい心遣いだっ!!」
羽唯「なら問題ないやん。
   というわけで、はいチー……」
真治「おいぃぃぃっ!」
羽唯「うるさいなぁ。
   大の男が道の往来でぎゃあぎゃあぎゃあぎゃあ……恥ずかしい」
繋「まったくです」
真治「誰のせいだと思ってるぅぅぅっ!?
   ああ、くそ、お前らが将来報道関係者になるかと思うと今から胃が痛い……
   捻じ曲がった記事が世界に流れ出て氾濫するかと思うと世界に申し訳が……」
羽唯「相変わらず大袈裟やねぇ。
   ……心配せんでも、火午君の思ってるようにはならんよ」
真治「なに?」
羽唯「今の世界、簡単に捻じ曲がった報道がまかり通るほど甘くはないで。
   昔ならいざ知らず、今はネットやメール携帯のカメラ、誰もが真実を掴みやすく、伝えやすくなってるんやから。
   仮に捻じ曲がった情報が世界に溢れても、何時かそれは必ず淘汰される」
真治「何故だ?」
羽唯「愚問やね。
   真実を求め、伝えたいと願う人間が、ジャーナリストが存在する限り、真実に蓋なんかさせないんよ。
   そして、そうして伝えた真実は誰かの心に残る。
   様々な雑音に多くが打ち消されても、そこからまた真実は広げていける。
   甘い考えかも分からんけど、あたしはそう信じてる」
真治「……羽唯、お前……意外と良い事を」
羽唯「というわけで羽唯フラッシュ!!」
繋「フラッシュしてないですけどね」
真治「おいぃぃぃっ! 何がという訳でだ!! 感心してたらソレかっ!!」
羽唯「まぁ、これもあたしにとって残したい真実やから、見逃しといてや」

 そう言って、羽唯は笑い、繋と共に真治から離れていった。
 楽しそうに、ソレでいて哀しそうに。
 大切で楽しい、真実という名の思い出を切り取ったカメラを大事そうに抱えて。

繋「……部長」
羽唯「ん? どした?」
繋「こんな時間がずっとずっと先まで続けばいいですね」
羽唯「…………お馬鹿やね。
   この時間がもうすぐ終わるのはしょうがないやん。
   だから、楽しいって真実をココに残すんよ」

 例え、自分がいなくなったとしても。

 例え、誰かがいなくなったとしても。 

 いつかの未来で、ふと懐かしさに振り返った時、誰かが笑えるように。
 
 幸せな気持ちになれるように。










・いつかの未来のお正月

音穏「新年明けましておめでとうございますーっ!」
命「ふむ、毎年毎年音穏は元気だな」
音穏「そりゃあ、もう。
   それが紫雲従兄さんが好きって言ってくれた、そのままの私だから」
命「……そうか」
凪「……だが、そう言った馬鹿はもういない。
  結局全部中途半端だった。
  正義とやらも、仕事も、家族も。
  おまけに娘にも同じものを背負わせる始末だしな」
音穏「はいはい、そんなヒトにさえたった一度しか勝てなかった人が言わないの」
凪「ぬ」
音穏「まったく。
   同じ事を他の人が言ったら怒る癖に」
凪「……ふん」
命「ははは。
  音穏、お前はホントに強くなったな」
音穏「いやいや、そんな事ないって。
   仮に私が強かったら、あの子なんかもっとずっと強いっていうか、強くなるわ」
凪「何処がだよ。
  ったく、嫌な所があの馬鹿に似やがって……
  大体だな、少なくともこうして予定より遅れている以上アイツもあの馬鹿と同じ……」   
紫須美「新年あけましておめでとうございまーすっ!!」
凪「……」
命「……。
  あけましておめでとう、紫須美」
音穏「あけましておめでとう、紫須美ちゃん」 
紫須美「ハァ……ハァ、ちょっと遅刻かぁ。
    想定しててもこれだと先が思いやられるわ」
凪「……おい。
  独り言はさておき、なんで遅れたんだ?」
紫須美「あ、えと、コンビニ強盗に遭遇したんです。
    昔親父様と一緒に巻き込まれた事があったから捕まえるまではスムーズにいったんですけど。
    野次馬やらをかわすのに時間掛かっちゃって」
命「……ふ。
  感慨深いじゃないか、凪」
凪「なにがだ?」
命「一年の計は元旦にありという言葉がある。
  この点で言えば、愚弟はあまり成長がなかったのかもしれん。
  一年の計画を立てる間もなく何かに巻き込まれ、毎年ソレを繰り返していたわけだしな。
  そして、その格言通りだとするなら、それゆえに愚弟は中途半端で道半ばだったのかもしれない」
凪「事実そうだろ?」
命「まぁな。
  だが、その道はそんな父を教師とする娘に受け継がれる事で、よりよいものへと改善されている。
  一年の計は元旦にあり。
  紫須美がソレを意識しているのであれば、それは今年の彼女の成長へと連鎖する。
  ゆえに、紫須美の道は今年も、その先も悪いものにはならない気がするよ。
  これを感慨深いと言わずして何を……」
凪「あー……全部言わなくていい。
  紫須美」
紫須美「なんです?」
凪「言いたい事は色々あるが、とりあえず今日は正月らしい正月を過ごさせてやる。
  お前の親父も遅刻はしたが、可能な限りそうしてたから、俺も今日は文句はなしだ。
  その代わり、正月が終わったら説教だ。
  お前に言いたい事が色々出来た」
紫須美「うーん……よく分かりませんが、気を遣ってくれてるんですよね?
    ありがとうございます。
    説教もしっかりお願いしますね」
凪「……ふん。
  とりあえず年玉くれてやる」
紫須美「わ、ありがとうございます」
命「ふむ。
  色々言ってた割にお年玉は準備しているのか」
音穏「なんだかんだで可愛いのよ、従兄さんとあの人の子供だから」
凪「やかましい。
  ……先に家に入ってるぞ」
音穏「まったく、いつまで経ってもチンピラ風味な子供なんだから」







 こうして、一年がはじまる。

 一年のはじまりが一年そのものを表すかは何処の誰にも分からない。

 ただ、どんなはじまりであろうとも、決まっている事は一つ。







紫須美「まだまだだなぁ。
    事件が起こった時間は”あの時”と大体同じだけど、遅れ気味なら結果的に大差ない。
    ……今年はもっともっと頑張らないとね。
    幸せの為に」

   






 自分が。誰かが。皆が。

 それぞれが、それぞれの幸せになる為の道を歩いていく事。

 上手く歩けなくても。

 回り道をしたとしても。

 落とし穴に落ちたとしても。

 ただ、歩けるだけ歩くだけ。

 そう……歩けなくなる、その時まで。







命「……紫須美?」
紫須美「あ、行きます行きます」

    





 紫須美は知らない。

 そうして歩き続けた先で、再び父と対峙する事になる事を。

 その先に、何を見る事になるのかを。

 知らず、ただ歩き続けていく。

 はじまりがあるが故の終わり、その瞬間まで。







 ただ、今は。








紫須美「命さん命さん♪
    命さんのおとそ、今年もあります?」
命「ああ、勿論だ。
  あれはアイツも大好きだったからな。
  作らなかったら寂しがる」
紫須美「ですよね〜」








 一年のはじまりたる、今を楽しもう。

 一年の計は元旦にあり。

 今を楽しく過ごす事で、一年が楽しさに彩られるように。

 








……END






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