Kanon another1”snowdrop”第50話
季節が巡っていく。
それはなんの代わり映えもしないのに。
とてもとても大切な、日常。
それは、きっと。
旅なのだろう。
誰かが、生き続けていく限り続く。
そう、それは。
Kanon another1 snowdrop。
最終回。
『さよならも、終わりもない旅へ』
冬。
雪の舞う町。
新しい足跡を残しながら、商店街を走り抜けることが好きだった。
あれから。
僕は日常へと帰っていった。
あゆのことを忘れたわけでは無論ない。
でも、そうすることで日々を”生きる”ことをおろそかにすることを、あゆは悲しむだろうと思ったから。
だから僕は。
いつもどおりの生活へと。
あゆと出会う前の生活へと帰っていった。
でも、まったく同じなわけはなかった。
側にいつも、騒がしい友人たちがいた。
前よりも優しく笑うようになった姉がいた。
だから、寂しくは、なかった。
・・・あゆのところへ訪ねることはしなかった。
まだ少しの通院生活が続く栞ちゃんにも、聞くことはしなかった。
事実を知ることが、怖かったわけじゃない。
僕らが再会する場所は、あの場所でしかなかったから。
ボクは座っていた。
何処かのベンチにずっと。
止まってしまった時の中で。
明けない夜に身を委ねて。
そこで、ずっと来るはずのない人を待っていた。
来るはずがないと知っていたその人を。
・・・それから随分経って。
その人が、ベンチの前を通り過ぎていった。
その横には、髪の長い女の子が一緒だった。
そして、ボクに気付くことはなかった。
ボクはほんの少し悲しくなったけど・・・
ほんの少し嬉しかった。
好きだと思った人が幸せならそれでいい。
そう思えたから。
そして、もう一つ。
いつからか。
そんなボクの横に座って、一緒に時を感じてくれる人が。
そこにいたから。
そして。
その人とともに過ごしているうちに。
明けないはずの夜が。
夜の空が。
ゆっくりと白みだしていた。
春。
雪解けの街。
木の幹に残る小さな雪の固まりを手ですくい取ることが好きだった。
春になって。
桜の舞う、美しく彩られた学校で。
それと同じくらい綺麗に着飾った舞さんと佐祐理さんが卒業した。
僕ら在校生は笑顔でそれを見送った。
・・・北川君が心の底から悔しそうにマジ泣きしていたのを、香里さんの鉄拳が制裁していたことも印象深かったが。
・・・二人は、この近くの大学に通うことになっていた。
なんでもアメリカに留学するつもりだったらしいが、取りやめたとのことだ。
その理由を尋ねたら、二人はいつもの調子でこう答えた。
「あははーっ。決まってるじゃないですかー。この街が、大好きだからですよー。
ねえ、舞?」
「・・・はちみつくまさん」
・・・だから、この二人とは、卒業後もこの街でよく会った。
たまに一緒に遊んだりもした。
・・・動物園、侮りがたしと教えてもらった。
ボクは、目を覚ました。
何でも、7年間眠っていたらしい。
・・・あの木から落ちて、7年。
祐一君と約束を交わせないままに別れて、7年。
祐一君はどうしているだろうか?
それから・・・・・
・・・・・?
何か、大切なことがあったような。
誰か、大切な人がいたような。
そんな気が、するのに。
何も、思い出せないし、浮かばなかった。
「いつか、思い出すかもしれない」
そう言ったのは、ボクの担当医じゃないのに、ボクのことをとても気にしてくれている女のお医者さん・・・ミコトさん。
「だから、それまでは、君は君のすべきことをするといい」
ボクのすべきこと。
それは。
夏。
雪の冷たさを忘れた町。
傾けた傘の隙間から、かすむ町並みを眺めることが好きだった。
あの冬のことを忘れ去りそうな季節がやってきた。
この街の夏は、ほんとうにそんな気にさせるほどに、冬の頃とは趣を変えていた。
僕たちは、そんな中を、高校生活最後の夏として楽しんだ。
皆で旅行に行った。
皆で一緒に勉強もした。
その時に振る舞われた・・・秋子さん特製のかき氷がとても美味しかった。
ただ、何故か皆苦しそうにもだえていたのだが。
なんでも特製シロップの原料は、あのとても美味しいジャムから作られているらしかった。
以前勧められて食べたあのジャムは僕のお気に入りだった。
「どおりで美味しいわけだ」
そう呟いた僕に、皆揃ってこう言った。
「・・・私(俺・あたし)の分も食べて(くれ)」
そんな僕たちを、秋子さんはいつものように微笑んで見守っていた。
・・・この微笑みが失われなくて、本当によかったと思った。
ボクのすべきこと。
それは、この7年間を取り戻すことだ。
7年間動かさなかった身体は、中々ボクの言うことを聞いてはくれなかった。
7年間錆付いたままの知識を、いきなり詰め込むのは大変だった。
7年間止まったままの心は、今生きている嬉しさの反面、ほんの少し、空虚だった。
そんなボクに、ミコトさんは退屈しのぎだと、お話をしてくれた。
冬の町であったと言う、物語を。
ゆっくりゆっくりと語ってくれた。
秋。
雪の到来を告げる街。
見上げた雲から舞い落ちる。小さな白い結晶を、手のひらで受け止めることが好きだった。
秋になって。
栞ちゃんが学校に復学した。
なんでもあえて一度退学して、編入試験を受けて入りなおしたらしい。
そうすることで、留年をチャラにしたのだ。
・・・そんなのありかと思ったが、秋子さんと佐祐理さんが手回しをしてくれたと聞いて納得した。
それにしたって、一年分のことを僅かな時間で学ぶことは本当に並大抵のことではない。
「お姉ちゃんがなんだって教えてくれましたから」
並々ならない努力の果ての、誇らしげなその顔がとても眩しかった。
そして、もう一人。
驚異的な努力でこの学校への編入をはたした子がいた。
真琴ちゃんである。
真琴ちゃんは、あの冬から、一日でも早く学校に行きたいと美汐ちゃんや舞さん、秋子さんの手を借りて猛勉強していたのだ。
「美汐やみんなと一緒に学校に行きたいのっ!」
そう顔を真っ赤にさせて言っていたことを、実現させたのである。
本当にすごい子だと思う。
・・・まあ、そのための書類を何処からか持ってきた(・・・作ってきた?)秋子さんたちもすごいけど。
そんな二人の頑張りを見て、背中を後押しされるように。
僕らは僕らで自分たちの進路について色々考えていた。
・・・と言っても、僕はもうすでにやることを、決めていたのだが。
いろいろあって。
ボクはようやっと退院した。
身体の方のリハビリは終えることができたから。
家に戻ると、お父さんが出迎えてくれた。
とてもとても忙しくて大変な仕事をしているのは、7年前から変わっていなかった。
それでも、出迎えてくれたことが嬉しかった。
・・・それからのお父さんは、ボクとの時間を割いてくれるようになった。
学校への復帰も手伝ってくれた。
勉強はまだ少し難しかったけど。
お父さんと、ミコトさん。そして祐一君の叔母さんだと言う秋子さんがいてくれたから。
ボクは頑張れた。
・・・でも。
まだ、何かを忘れているような気がしてならなかった・・・
そして、季節は冬。
・・・この季節が、また訪れた。
空からただ、しんしんと舞い降りる。
それは、この街の冬の風景として珍しくもないもの。
雪。
それが降る季節。
毎日のように降る季節。
僕は、どうしても、それを見るたびに思い出してしまう。
雪とともに現れ、雪が解け消える前に消えてしまった、雪のような少女のことを。
報われない想いのために・・・たった一人の少年に会うために・・・・奇跡を起こし。
そして、去っていった少女のことを。
あゆの、ことを。
だめだなあ、と僕は思う。
鯛焼きを食べるたびに、あの笑顔を思い出し。
通学路を走るたびに、ただ一度一緒に通ったときのことを思い出し。
学校の中を歩くたびに、暗闇の中でともに歩き、ただ一度対峙したときのことを思い出し。
雪の中をただ歩くだけで、あの雪の日々のことを思い出し。
泣いてしまいそうになる時があった。
まだ出会えないことに、ほんの僅かな悲しみを覚えてしまう時があった。
あゆのことについて、みんな何も言わなかった。
・・・僕に気を使ってくれていることが。
嬉しくもあり、悲しくもあった。
ただ、相沢君と名雪さんは何も知らないので「あゆはどうしてるかな」と、この季節中しきりに呟いていた。
僕は、それに。
「いずれ、帰ってくるよ。心配はいらないって。
うぐぅって言いながら走ってくるのが目に浮かぶよ」
と、冗談交じりに答えていた。
・・・そうすることしか、できなかった。
7年前の服はもう着れなくなっていて。
お父さんが服を買ってくれるというので、ボクは新しい冬用の服を買いに行った。
いろんなところを見て回った。
たくさんの女の子らしい服があって目移りした。
そんな中から、ボクが選んだのは。
ダッフルコート。
ミトンの手袋。
羽のついたリュック。
そして。
赤色の、カチューシャだった。
それを、ミコトさんと秋子さんにも見てもらうと、二人は笑って・・・でも悲しそうに・・・言った。
「よく、似合っているよ」
「ええ。本当に」
それは、見知ったものが見知ったものではないような。
そんな表情をしていた。
ただ、そんな気がした。
・・・そして。
また春がやってくる。
「では、皆の前途を祝って、乾杯!」
姉貴の言葉で、皆は近くにいた人々と手にしたグラスをカツンと軽くぶつけ合った。
かく言う僕は、近くといわず、この場に集まった全ての人にグラスをぶつけに行った。
相沢君。
「おう」
名雪さん。
「乾杯、だね」
北川君。
「よ」
香里さん。
「はいはい」
栞ちゃん。
「どうも」
真琴ちゃん。
「あ、あうー」
美汐ちゃん。
「ご丁寧に」
舞さん。
「・・・・・」
佐祐理さん。
「あははーっ」
秋子さん。
「あらまあ」
みんなみんな、あの冬に出会い、こんな縁をいつのまにか形作っていた。
それが、嬉しかった。
今日は、僕、草薙紫雲、そして相沢祐一、水瀬名雪、北川潤、美坂香里の卒業式だった。
それも終えて、みんなここに集まっていた。
卒業祝いにかこつけたお祭り騒ぎをするために。
・・・ここは、商店街の雑居ビルの五階。
来月・・・四月から僕の事務所になる部屋だ。
僕は大学に進学しなかった。
それよりもやりたいことがあった。
それは。
「しかしさ・・・普通卒業してすぐ、自分で商売を始める奴がいるか?」
「・・・しかも”何でも屋”。我ながらすごい友人を持ったものね」
北川君と香里さんが交互に言った。
・・・二人は卒業後、同じ医大に通うことになっている。
香里さんはあの冬の経験から、自分や栞ちゃんと同じ思いをしている人を救いたいと、自らその道を選んだのである。
北川君は、その道にどうあってもついて行きたかったらしく、かなりの猛勉強の末、どうにかこうにか合格したのである。
・・・あの冬以来、この二人を一緒によく見かけるようになった。
香里さんは徹底否定しているが、はたから見ると付き合っているようにしか見えない。
「うん、まあね。我ながら呆れてるよ。
でもやっぱりこうしたいんだ。
身近な人の手助けができる方法・・・僕にはこれしかないような気がして」
「なら自衛隊とかに入った方がよかったんじゃないか?
お前、かなーり強いわけだし」
「福祉関係もあるよ」
そう言ったのは、相沢君と名雪さん。
僕はやや苦笑い気味に言った。
「うーん・・・それも考えたんだけど・・・向いてないような気がして。
それに、自分の判断で何でもできるわけじゃないしね」
ちなみに。
とりあえずの資金は姉貴と秋子さんが出資してくれている。
・・・出世払いで返すよう、姉貴に脅されてはいるが。
その姉貴はというと。
昨年中で、勤めていた病院を辞めて(あの冬の事件で辞めさせられかけたが、患者を始めとする病院の皆の弁護の甲斐あって昨年中まで務めていいことになっていた)、診療所を開いていた。
・・・このビルの一階から四階までを占拠しているのが、”それ”である。
5階だけ空けていた辺り、僕の結論を読んでいたようだ。
なんだか、癪に障るが。
そんなことを考えていた僕に、件の姉貴が話し掛けてきた。
・・・例によって偉そうな感じで。
「ふん。愚弟にしてはよく卒業できたものだな」
・・・ほっとけ。
と僕がそう言おうとした時だった。
「だから、卒業祝いをやろうと思う」
そう言って、姉貴は一枚の地図を僕に渡した。
それはこの辺一帯の地図で・・・
その中の、ある一点に、赤い丸印があった。
そこは。
「・・・姉貴・・・・?」
「行ってこい。ただ、期待はするな」
「行ってらっしゃい」
・・・いつのまにか、そこにいた秋子さんも頬に手を当てて、そう言った。
「・・・・・・わかった。行ってくるよ」
静かに頷くと、僕は話に興じている皆の中を抜けて、この部屋を後にした。
「・・・いいのだろうか?私は・・・あの子達を傷つけようとしてはいないだろうか?」
喧騒の中、紫雲が去った後をただ眺めて、命は言った。
秋子は、笑顔を崩さないままに、口を開いた。
「・・・大丈夫ですよ。
あの二人は、あの冬を越えた二人なのですから」
その表情には一点の迷いもなかった。
それを見て、命はハアと嘆息した。
「私も、秋子のようになれれば楽なんだがな」
「そうでもないですよ」
秋子はそう言いながら、何処からか取り出したワインを、命のグラスに注いだ。
命は、赤い色のそれをくいっと飲んでしまうと、こう呟いていた。
「だが、まあ、その通りだな。
あの愚弟は、最高の愚弟だから、な」
「うぐぅ・・・こっちでいいのかな」
少女が桜の咲く道を歩いていた。
その服装は冬の服装と言うよりは春先のものだった。
オーバーオールを着た、少年のようないでたちだったが、紛れもなく少女だった。
長い髪が、その証拠と言わんばかりに風になびいた。
久しぶりに訪れた隣町は、子供の頃の風景とは違っていて、とても不思議な感じがした。
でも、何故か、思ったよりもすいすいと歩いていた。
なんだか、この道を知っているようなそんな気がしたのだ。
それもまた不思議なことだった。
・・・不思議なことと言えば。
少女は、そのことを思い出した。
そもそも自分がここにいる理由。
(ミコトさんが、会って欲しい奴がいるから会ってくれと言われて、断れなくてこうなったんだっけ)
何故自分が会ったこともない人に会わなくてはならないのか。
・・・そう言うと、命がが悲しそうに微笑んだために。
「ボクは今、ここにいる」
少女がそう呟いたときだった。
その目の前を、人が駆け抜けていった。
・・・ただそれだけなら、少女は特に何も思わなかっただろう。
そう。
目の前を駆け抜けていった人が、この冬に自分が好んで着ていた服・・・ダッフルコートに、ミトンの手袋、羽のついたリュック・・・とまったく同じモノを着て・・・自分とまったく同じ顔をしていなければ。
唯一つ、紫色のカチューシャをしている以外はまったく同じ少女が、いた。
「・・・・・え?・・・・・」
少女は戸惑った。
戸惑ったが、早く追わなければならないような気がして・・・いつのまにか駆け出していた。
紫雲はゆっくりと商店街を歩いていた。
自分の姉の真意が見えなかった。
そこに行って何があるというのか。
それは、誰かが待っているということなのか。
確信は持てなかったが、とりあえず足は進んでいた。
そんな時だった。
雑踏の中。
立ち止まって、こっちを見ている少女がいた。
それは、あの時の姿そのままの。
「・・・・・・え・・・・・・・・?!!」
少女は、紫雲に笑いかけると、いきなり背を向けて走り出した。
・・・一瞬呆けていた紫雲だったが、慌てて、その後を追った。
「はあはあはあ・・・・・」
吐く息はまだ微かに白い。
少女は、その息をほんの少しだけうっとうしく思いながら走り続けた。
・・・やや過剰なリハビリのおかげで足は速くなったような気がしていた。
「気が、しただけなのかなあ」
走っても走っても少女には追いつけなかった。
一定の距離を保ったままで、少女は、少女を追いかけ続けた。
やがて。
前を走っていた少女が唐突に足を止めた。
「へ?あわわわっ!」
少女もまた、急停止する。
キュキュキュ・・・・といいそうな感じで止まると、自然に二人は向かい合うようになっていた。
少女は知らなかった。
そこが、ミコトの行って欲しいと言った場所で。
自分が行こうとしていた場所であることを。
少女は改めて、少女の顔を見た。
今の自分よりわずかに幼いが、確かに自分だった。
そして、とても不思議な感じがしていた。
そんな空気の中で、その少女は自分の紫色のカチューシャを外すと、自分自身にそれを差し出した。
少女は、そうするのが当然だというように、それを受け取っていた。
そして。
いつだってそうするように、自分の赤いカチューシャを外して、紫色のカチューシャを。
頭に、つけて、みた。
僕は全開で走っていた。
それなのに、少し遠くを走る、自分のよく知っているはずの少女に追いつけなかった。
気ばかりが焦る自分を精一杯なだめて、僕は、少女を追い続けた。
唐突に。
少女が、その足を止めた。
僕もそれに合わせて、足を止めた。
何か、話をしてくれるのではないか?
そんな期待と、いろんな気持ちで、僕は自分に向き直った少女を見詰めた。
少女は笑った。
笑って、言った。
『想いが、あるべき場所にあるように。それが君の願いだったよね?』
頭に直接響くような声がする。
「・・・・・・・!・・・・・・・・」
その出来事に。
何か言うべきなのかどうか・・・それすらも分からずに僕はその場に立ち尽くした。
すると、少女は笑顔のままで、こう告げた。
『願いは、あの時叶ったから。それを、果たす時が今だから』
そう言って、少女は僕に背を向けて歩き出した・・・・・かと思うと、その姿を消した。
「・・・・・・・・え・・・・・・・・・・・・・?」
もう、何がなんだか、僕にはわからなかった。
ただ少女が消えた先を見詰めるだけ・・・そこで僕は気付いた。
そこが姉貴が示した場所であること。
そこが、自分と、あの少女との思い出の場所であることを。
そして。
さっきの少女が消えた辺りに立つ、一人の少女。
それは先程の少女と・・・自分が待ち望んでいた少女とは違っていた。
髪は長いし、背もほんの少し高い。
服装だって、違う。
でも。
間違えるはずなんてなかった。
あれは。
あの少女は。
・・・・・・その少女もまた、こっちをじっと見詰めていた。
・・・・・・・・・・・・・ややあって。
少女は僕の方へとゆっくりと歩いていった。
僕も同じくらいのスピードで歩み寄っていった。
少女が、ゆっくりと駆け出す。
僕も、同じように駆け出した。
もう、間違いはない。
だから、その名を呼ぼう・・・・・・・!
「・・・・・・・・・・・・あゆっ!!!!!」
「・・・・・・・・・・・・紫雲君っ!!!!!」
お互いの名を呼んで。
走り寄った僕たちは。
ぶつかるように。
想いを、ぶつけるように。
お互いの胸の中へと。
飛び込んだ。
雪のような。
桜舞う中で。
「・・・・・・ただいま、紫雲君」
「・・・・・・お帰り、あゆ」
僕は。
一人の少女と”出会った”。
あたたかい風が吹く。
それは、春の風。
その辿り着く場所は僕には分からない。
ただ、分かることは一つだけ。
遅い春が、もう、そこまで来ていた。
・・・・・・・・・終わり。
―――後書きらしきもの。
どうも。
情野 有人です。
Kanon another1”snowdrop”。
楽しんでいただけたでしょうか?
僕としては精一杯だったのですが、文章をよくお読みになる皆様にはさぞや稚拙に思われたことだと思います。
あと、色々と不行き届きなところがあって、誤字脱字、分かりにくいところなどいろいろあったことをここにお詫び申し上げておきます。
では、後書きと銘打ったからにはそれらしいことを書こうと思います。
まあ、そもそもの発端は言わずもがなというか、これを読む立場になられた方にはよく分かることだと思いますが、一応言わせてもらいますね。
Kanonというこの世に唯一無二の素晴らしい作品と出会えたから。
これが全ての始まりであることは分かりやすいぐらいに分かることです。
魅力的なキャラクターたち。
巧みな文章表現。
物語を彩る、イラストの数々。
そして、読むものを涙に陥れる(・・・褒め言葉ですよ)シナリオ。
これらはもの書き志望であるところの僕を大いに刺激してくれました。
彼女たちの物語を自分なりに書いてみたい。
・・・これは某東鳩の来栖川綾香に出会って以来の(ぉ)ことだったのですが。
んで、何を書こうと思ったときに思い至ったこと。
それは、このゲームでは一人の少女しか救われないということでした。
僕は名雪が好きなのですが、彼女が幸せになるためには他の少女たちは救われない・・・その事実に気づいた時、これを元にサイドストーリーを書けないか・・・そう考えたのです。
ベースは名雪シナリオ。
では、ヒロインは?
名雪と対になるんだったらあゆだろう・・・と割合ここまではあっさり決まって。
単純な構想を練ったうえで、僕はネット上にペンを取ることになりました。
それが、始まりでした。
・・・ここから先のことなど予想だにしていなかったのですが。
名雪のシナリオの横で繰り広げられる、あゆとオリジナルキャラの物語。
それが基本の設定でした。
主人公をオリジナルキャラにしたのは、他のキャラは自分のことで手一杯であゆのことに気をまわす余裕はないかもなあと思ったからであります。
・・・一時は北川をそうさせようと思ったのですが、僕的に北川は香里さんを追っているような気がしたので、それを邪魔するのはどうかな?とも思ったわけです。
最初、あゆを救う気はありませんでした。
メインシナリオを崩す(壊す)危険性もあったし、何より、そういう切ない話の方がいいかなと、そのときの僕は思っていたからでもあります。
ですが。
資料を集めるという名目で再びKanonを起動させた時。
全てはご破算と相成りました。
・・・なんで、こんな少女を再び苦しめなきゃならないんだ。
・・・所詮、オリジナルにはかなわない自分の二次創作物でまで、彼女を苦しめる理由はあるのか?
(今の僕の考えとは少し違います)
・・・否。
なら、本編でできなかったことをやってみたい。
なら、どうするか。
あゆを救いたい。
でも、それだと皆に不公平・・・というか、どの人も幸せになってほしい。
よし、ならこの話は皆を救う話だ!そう決めた!なあに奇跡を使えば何とかなる!
・・・と、まあ、こんな感じで、今の話の方向性ができてしまったわけです。(汗)
そして、それを救うためには、生半可な奴じゃできない。
究極の最強お人好し馬鹿じゃなけければ。
そうして誕生したのが、草薙紫雲でした。
本当に最初は(それこそ、第一話を書き終わった時点では)普通の人間のはずでした。
ですが、そういった事情、様々な影響や、AIRと出会ったことにより、現在の彼が構築されていったわけです。
まあ、壊滅的にいい奴なのは変わっていないから、昔の無能な彼でもきっと奇跡は起こせていたでしょうが。
・・・そんな感じで続けていった物語。
草薙紫雲を中核として、それぞれのキャラにも光を当てて、自分なりの”奇跡”を見いだして、紡ぎ上げていった物語。
あゆ、名雪、秋子さん、真琴、美汐、舞、佐祐理さん、栞、香里さん、北川君、祐一君、今回は脇に回ってしまったキャラたち、黒野真紀、群瀬剣、そして、草薙命、草薙紫雲。
この、愛すべき人々。
皆さんの目にはどう見えましたか?
このsnowdropでの皆はちゃんと”生きていた”でしょうか?
もしよかったら、気が向いたら一言くれると嬉しいです。
では、最後に。
今までこの作品を読んで頂いてありがとうございました。
今ここでこの文章を読んでいてくれるあなたに最大級の感謝を。
そして、願わくば。
この物語を心の何処かにでも置いてやってくださればこれ以上の幸いはありません。
まあ、この拙い作品でそれを望むのは酷でしょうが・・・僕がそうあってくれるといいなあと思うことはただなので。(笑)
それでは、いつか、また何処かでお会いできることを。
戻ります