双星乃詩〜エピローグ・風の行方〜





・・・あれから、時が流れた。
俺、相沢祐一と水瀬名雪はあの海辺の町を後にして、俺たちの町へ・・・水瀬家へと帰ってきていた。

友人達にその旨を伝えると彼らは俺たちの勝手を怒りながらも帰還を喜んでくれた。
・・・すごく嬉しかった。

旅に出た時に、この家をそのままにしていて欲しいと一方的に頼んだ両親の怒りは凄まじいものがあったが、名雪と一緒に帰ってきた事で、多少なりとも抑えてくれていた。
俺たちがそのことに対し心底から謝罪する事で、親子関係の危機は回避できた。


それはそれとして・・・
今、俺たちが何をしているかと言うと、店を開いている。
小さなパン屋で、手作りのジャムも販売している。
中々に好評で、二人だけでは手が足りず、たまに、大学生になっていた北川や香里にもバイトとして手伝ってもらっているほどだ。


・・・高校中退扱いの俺たちはまともに就職できなかった。
かといって、もう一度学校に通う気はなかったし、何よりそれは俺たちの勝手な行いの報いだったから仕方がないというものだ。
だったらいっそのこと自分達で何かをやろう。
そう、名雪と決めたのである。
そうする事で、何かを一から始める事で、俺たち自身も色々な事をやりなせそうな気がしたからだ。



・・・たまに、俺はあの旅の日々を思い出す。
名雪は名雪で晴子さんと暮らしていた時の事を思い出しているようだった。

国崎と遠野は今も二人で旅を続けているとの事だ。
近くに寄ったら、遊びに行く・・・それが別れの言葉だった。

晴子さんはあの町で幼稚園の先生になったそうだ。
別れ際、名雪と二人して本当に名残惜しい表情をしていた事が懐かしく思える。



・・・人は、望む望まざるにかかわらず、いつか何かに別れを告げる時が来る。
ありきたりだが、それはありきたり、では済ませられないほどに辛い。


あれだけの事があってようやっと繋がった俺と名雪にしたってそれは避けられない。

それは明日かもしれないし、この一瞬後かもしれないし、それとも予想がつかないほど遠い日なのかもしれない。

それを不安に思うことはこれからも続く。

名雪も、俺も、かけがえのない人を失ってしまったから、それを拭い去る事はできないと思う。

でも。

誰だって同じ痛みを、不安を抱えて生きている。

それを恐れていては、何かを・・・誰かを愛する事は、きっと出来ない。

そして、そうして誰かを愛した記憶は、きっと胸の中で輝き続けてくれる。

それはきっと照らしてくれる。
寂しさという名の薄暗いトンネルの道を。

また、誰かに出会うそのときまで。
いつか終わりを迎えるそのときまで。

だから、恐れる事は無いのだ。
果てさえ知らない、行く先さえ分からない、この道を。





・・・風が、吹く。

その行方もまたわからない。
俺たちの道と同じだ。

なら行き先はきっと同じだ。
だから、あとは行くだけだ。
いつか辿り着く、その場所まで。


『祐一っ、行こうっ』

・・・ああ、行くぞ、名雪。
もう、二度とはぐれるなよ。
それでもいなくなるときは俺の中でいなくなってくれよ。

『それは、私の台詞だよー』

・・・ああ、そうだな。
手でも繋いで行ってみるか・・・

『うんっ・・・』




・・・そして今。


全ては、風の中。





・・・END

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