第2話 星を見上げて、彼らは出会う・2
「んぐぅぶっっ?!」
全く予想外の言葉に、紫雲は含んだコーヒーを吐き出しかけた、というか少し出た。
橙が即座に差し出したテーブル備え付けのティッシュを会釈なのか頷きなのか自分にも分からず首を小さく縦に振りつつ受け取り、口元を拭き取る。
そうして状況を整えてから紫雲は尋ねた。内心驚いたままで。
「いや、あの、正気なんですか? 僕は……」
「男だって言いたいんだろうけど、今更それは通らないよ」
「だって、ほら、さっきも言いましたけど僕が通う高校は男子校で……」
「君が助けた子供がね、言ってたんだよ」
慌てて否定しようとする紫雲。
だが、それは橙の言葉で塗りつぶされてしまう事となる。
「助けてもらった時、顔におっぱい当たってたって」
「お、おぱっ!?」
「言っとくけど子供の言葉だからね」
実際には、子供はそれとなく……紫雲の身体に掴まる過程で胸全体を触っていたらしく、間違いなく明らかな凹凸があった事を発言していたが、紫雲の動揺振りからあえてそれは言わないことを選択する。
おそらく、子供を助ける事に全神経を集中していたのだろう。
そして、それはそれとしてその代わりに、別の『穏便な』証拠を口にする。
「それに、お姉ちゃんって呼んだら『違う違うお兄ちゃんだから』とか言いながら慌てて逃げたそうじゃないか」
「う」
「それに、だ。
君があの子の無事を確かめた時に見せた笑顔。
あれを見てピンと来たよ。
自分はやせてもかれても芸能事務所の人間なんだ。
あの笑顔が男に出来る笑顔じゃないってのは分かる」
正確に言えば、男であっても限りなく近いベクトルの笑顔を浮かべる事はあるだろう。
だが、あの瞬間……自慢の視力で遠くから見る事が出来た彼、否、彼女の柔らかな笑顔は女性的な慈愛に満ちたものだった。
そして、それこそが橙が彼女のスカウトを決定付けた理由だった。
「う、うぅ……」
「それでもまだ違う、というのなら、今はいいよ。
とりあえず、それはおいておいて、次に何故自分が君を勧誘しているのかを説明する。
ぶっちゃけて言うと……うちの事務所は今現在危機的状況なんだ」
「危機的、状況?」
動揺していた紫雲だったが、橙の言葉でとりあえず気を取り直したようだった。
それにより橙は紫雲の人となりをより把握しつつあったが、それはそれ。
今は優先すべき事があると判断して言葉を続けた。
「そう。ぶっちゃけると経済的な意味でだ。
うちの事務所はそこそこの歴史がある芸能事務所で、
有名なアイドルや俳優を輩出した事もあったんだけど、今はすっかり落ちぶれてね。
華やかな世界を志す少年少女が来てくれるような場所じゃなくなった。
今では、地味な仕事ばかりを請け負う、ほぼ男所帯な事務所になってる。
人もかなり少ないから稼ぎも少ない。
事務所の存続のために借金なんかもしてるが、そろそろそれも限界に近い。
そんな状況を覆す最後の一手として自分達が今進めようとしているのが新規のアイドル事業なんだ。
今はまさに日本歴史上何度目かのアイドル全盛期だ。
この時代に一人、名のあるアイドルを輩出できれば……傾いた事務所経営もなんとかできる」
「……えと、多分難しい事なんでしょうけど、もっと堅実確実に稼ぐ方法は?」
「ない。あったら実践してる」
「……。僕以外に誰か勧誘したりしてるんですよね?」
「いや、勧誘定員は一人だけ。つまり君だけだ」
「えっ!? どうして……?」
「予算が足りないんだ。
今の事務所に、二人以上を最初から育成してデビューまでこぎつける余裕はない」
「そ、そんな状況でどうして僕なんですか?!
街にはもっと素敵で可愛くて、女の子らしい女の子がたくさんいるじゃないですか」
「君より綺麗かはともかく、基本的にはそのとおりだ。
でも、それじゃ駄目なんだよ。
ああ、素敵で可愛い女の子らしい女の子を否定したいわけじゃない。
むしろ、そういう子も視野には入ってたんだよ。
ただ、そういう子は他のどの事務所も当たり前に探し出してきてる。
しかもとんでもなくレベルが高い。
うちみたいな落ち目の事務所がそういう女の子に対抗する為には、際立った個性が必要なんだ」
「際立った……?」
「不思議そうな顔してるけど、そうそういないよ。男装してる女の子なんて。
いや、そこを売りにするわけじゃないけどね。
ただ、そうした特殊な背景を持った君は他にはない資質を多く秘めている。
少なくとも、自分はそう考えてる。
それにだ。あの身体能力……おそらく、君はかなり鍛えてるだろ?
アイドルは結構体力や運動神経が要求される。
その、必要な基礎体力について既に備えてる君はある程度の育成をスキップできる……
そうした諸々を見越して、自分は君をスカウトした、というわけだ。
……何か腑に落ちない所、ある?」
「大体は理解できました。
……正直、力になりたいとは思いました。
ですけど、その手段は誰かがアイドルになるしかないんですか?」
「君はさっき確実堅実と言ったが、
うちにとっての一発逆転可能で一番確実堅実なのがアイドルなんだ。
……男子校に通ってるなら、いや、そうでなくても、
この所毎年行われてるアイドルの一大イベント、話題で名前位聞いたことがあるんじゃないか?」
「それは、ありますが」
自分の一押しについて熱く語っていたり、
強いて言えば程度で気になっている名前を挙げたりなど、
人によって温度差はあるが、クラスメートの大半がその話題を一度は口にしていた。
なので、紫雲も橙の言葉どおり名前位は聞いた事がある。
「インフィニットシャイニースターフェスティバル……。
その年で一番でありながら、その年が終わったとしても、
いつまでも輝き続けられるようなアイドルを決定する、という……」
「そのとおり。
日本中が注目しているイベント……
そこで結果を残す事以上に、世間に向けて存在をアピールできる機会はそうそうない。
誰もが知り、誰もが憧れる何かに、誰かになれる……
そういう意味でも、アイドルは文字どおり夢であり希望なんだ。
そして、それはウチの事務所に限った話じゃない。
少女たちにとっても、アイドルに何かを見出している人たちにとっても、俺にとっても」
「夢であり、希望……」
「自分は、君にその可能性を見た。
正直追い詰められてたからハードルは低く考えてた。
でも君はそれを大きく越えるものを見せてくれた……君なら、皆のアイドルになれる。
だから、お願いだ。
まず、俺のアイドルになってほしい」
「……」
「勿論、君の秘密がバレないよう、こっちは最大限留意するし、協力する。
アイドルとしての君を別人の女の子にしてみせる。だから」
「……一つ、お聞きしてもいいですか?」
橙の目を見据えつつ、彼の言葉を聞いていた紫雲が半ば遮るように尋ねた。
それが、あえて、である事を橙は理解していた。
「……なんだろう」
「僕は……私は、貴方が言うように出来るとは到底思えません」
そうして紡ぐ声は、今までの男子としての声音ではなかった。
凛としたまま、それまでの硬さが抜けた、柔らかさのある……おそらく彼女本来の声。
そんな声音で彼女が呟くのは、結論を出す前に訊かねばならない事の為。
橙に押し切られて決める、彼に責任を押し付けるのではなく、
彼の言葉を、願いを、頭ではなく心で受け取った上で自らの責任と意思を持って決断する為に必要な事。
「私は十年男のフリをしてきました。
そんな私が、女の子の夢、憧れであるアイドルになれるなんて、なるなんて、無理だと私は思います。
女の子らしい服を着た事なんか殆どなくて、
お化粧の事も全然知らないし、
同年代の女の子が好きなものの見当すら付かない……
貴方は、こんな私にアイドルになる事が出来ると本気で思っているんですか?」
「ああ、自分は……俺は、そう確信してる。
君は、アイドルになれる。最高のアイドルに」
紫雲と橙、二人の視線が真っ直ぐに重なり合う。
それは、視線の衝突ではなく、もっと柔らかなやりとりだった。
衝突ほど激しくなく、接触というほどに弱くもなく、そんな視線の折り重なりを経て……紫雲は、頷くように一度目を伏せた後、ゆっくりと顔を上げて、結論を口にした。
「……わかりました。
引き受けさせていただきます。
困っている人を放ってはおけませんしね」
そう言って、紫雲はニッカリとした笑みを浮かべた。
それは橙がスカウトを決めた表情とは趣が異なるのに、それでいて同じ方向だと思わせる……魅力的な笑顔だった。
「そして、引き受けるからには私も全力を尽くします。
期待にお応えできるとは思えませんが、それでも、応えられるように」
「ありがとうっ……!」
紫雲の結論を受けて、橙はテーブルに両手を付いて頭を下げた。
ガチン、と橙の頭とテーブルがぶつかり、その余波でテーブルの上のものが僅かに揺れる。
「今は、それしか言えない俺を許してくれ。
ふがいなくて情けない俺を許してくれ。
報いる手段がなくてゴミでクズで……」
「そ、そこまで言わなくても……あ、頭を上げてください。
それに御礼を言われるのは、まだ早いかと。
全力で努力はしますが期待外れに終わる可能性が高いと思いますし」
「いや、今ここで引き受けてくれただけでもありがたいことだよ。
無茶を言って本当にすまないと思ってる。
君の御人好しぶりに感謝するよ」
「……秘密をバラす、という手段を取らなかった貴方もかなりの御人好しだと思いますよ」
そう言って微笑む紫雲を見て、橙は心では冷や汗をかきまくっていた。
その手段を取らなくて本当によかった、と。
「ただ、その……引き受けるに当たって、
幾つか私から頼みたい事やなんとかしなければならない事があるんですが」
「自分に出来る事なら、いや出来なくてもなんとかするよ」
神妙な、というにはほんの少し軽い紫雲の表情を受けて、橙は居住まいを正した。
おそらく、彼女がアイドルをやる上での障害の話なのだろう。
引き受けてもらったからには、どんなものでも片付けてみせる……そんな意気込みの視線を彼女に送る。
すると、紫雲は申し訳なさげな表情で小さな声で呟いていった。
「えと、まず、その……言わなくても分かっていただいている事だと思いますが、私が、その」
「君が……男子校に通っている草薙紫雲が女の子だって事は誰にも話さないよ。
契約書で改めて誓わせてもらう」
「……助かります」
「それが一つ目として、他は?」
助かります、はこっちの台詞なんだよなぁと橙は思ったが、話の腰を折りそうだったのであえて言わず、先を促した。
それに紫雲は小さく頷いてから言葉を続けていく。
「えと、ですね。
その辺りについて話すには、
僕がこういう姿である理由から説明しなければならないんですが、いいですか?」
「話してくれるなら是非」
それについては興味もあったため、うんうん頷く橙であった。
「では掻い摘んで説明します。
漫画などの設定で、家の都合、跡取りが許されるのが男だけで、
それゆえに男だと偽らざるを得ない状況の女の子がいたりしますが、分かりますか?」
「ああ、たまにあるな、そういう設定」
「……正確には違いますが、私がそれなんです」
「え?」
「草薙家には先祖代々受け継いでいる体術……格闘技とか武術とか、そういうものがあるのです。
約八百年前に、その術体系を極めた開祖である男性が、
これを受け継ぐのは男でなければならない、そう言い出したのがそもそものはじまりなんです」
「なんでまた?」
「信じてもらえるかは別問題として、
その体術、元々は退魔覆滅、人間に仇なす人間でないモノを倒すための技術だったとかで、
それを完全に体得するには厳しくも激しすぎる修行が必要になるんです。
それを女性に課すのは忍びないという理由から、
伝承者は男児に限る、そういう意味で発言したらしいんですが。
……それ以後、開祖の技を受け継いだ息子以降の草薙家はなぜか代々女系で」
「……おおぅ」
「ご先祖様たちは開祖の想いは分かっていたとの事ですが、
折角ヒトを救う為に編み出し、極めた術を受け継がないのは悲しすぎると考えたわけで。
また、女系一族であった草薙家が生き残っていく為には力が必要だったんです。
開祖の言葉をないがしろにするのは当時難しかったらしく、
それを無理矢理に受け継ぐ為の方便として男と偽るようになったのです」
「もしかして、それがずっと続いて現代まで?」
「当時とは色々と変わっている部分もありますが、概ねはそうです。
時代錯誤だ、というのは僕を含む家の誰もが分かってはいますが……
受け継いできた術共々に受け継がれてきた当時の苦労が記された書物の内容を知っていると、
言い伝えを無碍にするのは心苦しくて、はい。
それに……男としての在り方を背負うほどの覚悟がなければ伝承が難しいのも事実で」
「いや、分からんでもないけど、無理しなくてもいいんじゃないのかな?
開祖さんもそこまで伝承を望んでいるわけじゃないんじゃないか?」
「ええ、代々男装して受け継ぐ人間が出るたびに、それについては何度も話し合ったらしいのですが……
まぁ、なんというか、
人を助けるための力なんだし、あって損はないだろう、いやむしろあるべきだ、と皆結論付けたみたいで。
かく言う僕もそう思った、というか今もそう思っている事もあって小さい頃に伝承者になろうと決めたんです」
「あー……その、なんだ。もしかして、そのころから将来の夢は正義の味方だったり?」
「はい」
「……そうか。そうかぁ……」
子供を助けた際の恐るべき身体能力や彼女の御人好しぶりなど、色々な事に納得しつつ橙は小さく呟く。
(……これは、想像以上に筋金入りだぞ……)
彼女は漫画などでよくある、と言った。
だが、非現実染みたそれを実際に行うには相当の苦労が必要だろうし、何より本人の覚悟が必要不可欠だ。
おそるべきは、彼女は幼い頃にそれを決意し十年間続けている、という事実だ。
御人好しによるものなのか、精神力によるものなのか、
いずれにせよ、とんでもない覚悟で男装をしてきたはずだ。
だが、こうも考えられる。
彼女がそれだけの、同等の覚悟をアイドルへの道に傾けてくれれば、とんでもないことになるかもしれない、と。
思わず胸が高鳴っていく……そんなワクワクを口元に僅かに零しつつ、橙は言った。
「事情は分かったよ。
それで、その事情とさっき言ってた解決しなければならない事って何か関係あるのかな」
「大有りというか……
とりあえず、私の家族を説得していただかないと、アイドル活動が出来ないのではないかと」
「あー……そりゃあ、そうか」
「勿論、了解した以上、私自身も説得に全力は尽くしますが……」
渋い表情をする紫雲を見て、覚悟を持った彼女の家族の説得……きわめて難儀なことになりそう、橙はそう思ったのだが。
「それはいいな。アイドル。うん、是非やってみるといい」
勤務地が近くにあり、仕事上がりだという事からこの場で会う事となった、彼女の実姉・草薙命は、話を聞くや満面の笑顔でそう告げた。
そんな彼女の発言に、紫雲は目を見開きつつ驚きの声を上げた。
「ね、姉さんっ!?」
「なんだ? 私が反対するとでも思ったのか?」
「……家の事情については大体の所妹さんからお聞きしましたが、
男のフリを大人になるまで続けなければ伝承者として認められないという事ではなかったんですか?」
「いや、そのとおりだよ。
ついでに言えば、こんな時代錯誤な事をやっているのはそこの愚弟な愚妹だけだ」
「なら尚更反対されるはずなのでは?」
「なら尚更に賛成だよ、私は。
実家はどうか知らないが、もういい加減こんなしきたりは絶つべきだろう。
廃れるなら廃れるでそれはそういうものだと……」
「いやいやそう思ってないからね、私はっ」
慌てた様子の妹に、呆れた様子の溜息を零しつつ命は続けた。
「と、コレが固執しているだけだ。
まぁ私はともかく実家はもう少し複雑に考えてるが。
……さておき、結論を言わせてもらえるなら私は大賛成だ。
コイツがこれを機に女らしくなってくれる、してくれると大変助かる。
実家についてはとりあえず伏せて活動すればいいだろう。
年寄り連中が最近のアイドルをチェックしているとは思えんし、
そもそも途中でおじゃんになったら報告損、怒られ損だ」
極めて冷静かつ合理的な結論を命は述べた。
実際それはこの場における最適解だろう。
そうして話が一段落したのを機に紫雲がトイレで席を外している間。
「貴方は、受け継がなかったんですか?」
二人から話を聞きながら疑問に思った事を橙は尋ねていた。
アイドルの絡み事とは関係なく、気になった事は可能な限り解決したいと思考する……それが岡島橙であったからだ。
これが自身の悪癖でもあるとは思っているが、簡単に是正出来るのであれば苦労はしない。
そんな橙のおそるおそるといった調子での質問に、命は苦笑した。
その柔らかな表情は、紫雲が助けた少年に向けたモノにどことなく似ていた。
「継承は自由意志だからな。
ご先祖様しかり、うちの連中に御人好しが多すぎるだけだ。
私としては、今更こんなものを引き継ぐ奴が出てくるとは思わなかったから拒否したんだ。
よもや歳の離れた妹が小学生に上がった頃合の時点で継承を決意するなんて思いもしなかったよ」
なんとなく、だが。
橙にはその言葉が「妹が継ぐくらいなら自分がやっていたのに」と言っているように思えた。
「話は変わるが……一つ言っておきたい事がある」
「なんでしょうか」
「もしこれが愚妹を騙すような詐欺の類だったり、不埒な格好をさせての商売だったりしたら……覚悟するがいい」
その言葉を口にした瞬間の命の表情はごく普通だった。
何気ない会話の中での、何気ない表情にしか見えなかった。
にもかかわらず、橙は極寒の中で半ば凍りついた海に叩き込まれたような寒気を、彼女の全てから感じ取っていた。
自身が感じているものが錯覚なのかどうなのか明確に判断出来ない状況が続く中、橙は精一杯に正直な言葉を口にする。
紫雲にそうしたように、自身に真っ直ぐに向き合ってくれた人にそうしてきたように。
「そのつもりは、ありません」
「……」
「自分は、こちらの誠意に応えてくれた彼女に相応しい向き合い方をしたい、そう思っています」
白い息でも出るんじゃないかと思いながら吐き出した直後、寒気が霧散する。
それこそ全て気のせいでしかなかったと思えるようにあっさりと。
その事に戸惑っている中、先程同様に何気ない、ごく普通の会話の続きのように命が呟いた。
「……そうか。そういう事なら、あれを頼む。
愚妹は……世間知らず、とは違うが、
ヘンなところが大人で、変なところが子供で……まぁそのなんだ、面倒な奴だから。
手間をかけてしまうかもしれないけれど……ん、どうかよろしくお願いする」
先程とは真逆の、穏やかな……思わず息を呑んでしまうような綺麗な微笑みを浮かべる命。
そんな命に、橙は小さくながらもハッキリと分かる形で頭を下げた。
「ありがとうございます。
えっとしかし、それはそれとしてアイドルとしての業務上、色々な衣装があるわけなのですがそれはいかがしましょう、お姉様」
「ふむ。不埒な格好の線引きは……まぁ君らの良心に任せるよ」
「了解致しました」
迂闊な格好はさせられないかも、と戦々恐々でありつつ、とりあえずは大丈夫そうだと安堵した橙であった。
……続く。