この物語は武装神姫の二次創作です。
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世界観・設定につきましては、
作者の独自の解釈が混じっている点などをご理解いただき、
以上の事に関する苦情などは受け付ける事ができない事をご了承の上、
それでも読みたい、と思われた方だけ下の方へとお進みください。
それでは、どうぞ。
西暦2036年。
第三次世界大戦もなく、宇宙人の襲来もなかった。
2007年現代からつながる当たり前の未来。
その世界では、ロボットが日常的に存在し、様々な場面で活躍していた。
神姫、それは全高15cmのフィギュアロボである。
”心と感情”を持ち、最も人々の近くにいる存在。
多様な道具・機構を換装し、オーナーを補佐するパートナー。
その神姫達に人々は、思い思いの武器・装甲を装備させ、戦わせた。
名誉のために、強さの証明のために。
あるいはただ勝利の為に。
オーナーに従い、武装し、戦いに赴く彼女らを、
人は『武装神姫』と呼ぶ。
―――武装神姫 公式ホームページ 『2036年 武装神姫の世界』より抜粋。
この物語は。
そんな世界の片隅に生きる、神姫オーナー『小野 邑一』(おの ゆういち)と、
その神姫たる天使型アーンヴァルの『エイル』、悪魔型ストラーフの『アルデ』、
彼らの周囲にいる人々や神姫達の日常を描いた物語……その一端である。
とある神姫とオーナーの日常〜神姫とオーナー悲喜交々編〜
・朝の光景
「ふわぁぁ……朝か」
神姫オーナーの朝は早い……なんて事はなく。
「如何にも”今起きました”風味な事言わないで下さいマスター。
ずっと起きっ放しだっただけでしょう」
ぶっちゃけ徹夜しただけだったりする。
ちなみに普段も徹夜に近かったり。
一般的な神姫オーナーはともかく、彼・小野 邑一はそういう生活をしていた。
「本当に、もう……
そんな不健康な生活ばかりしてると駄目ですよ。
ほどほどにしとかないと、私怒りますからね」
オーナーである邑一のベッドの上で自分の身長ほどもある漫画を読んでいた、
天使型MMS(Multi Movable Systemの略称で人型ロボットの事)アーンヴァルの『エイル』は、
その長い金髪を書き上げるような仕草をしつつ言った。
その表情は殆ど人間そのもので、
大きさや関節部の事を考えなければ、人間だと言っても通じるだろう。
邑一はエイルの膨れっ面に苦笑しつつ答えた。
「悪い悪い。
神姫オーナーとしては、神姫の事が気になって眠れないのさ」
「そ、そうなんですか?
確かに私達の戦闘記録を見てたような……」
「騙されちゃ駄目だよ、エイル姉」
その声は、パソコン近くの本棚から響いた。
其処には、自分と同じスケールのバイクや車の模型を弄っていた、
悪魔型MMSストラーフの『アルデ』がいた。
ちなみに、エイルの半年後に起動した事もあり、
この小野家の神姫の次女という扱いで、彼女自身エイルを姉として慕って…いるかどうかは微妙だが、姉と認識し、認めている。
さておき、アルデは乗っていたバイクからヒラリ、と降りると、
ニヤリ、と意地悪そうな笑みで言った。
「ボク見てたよ。
舐めるように同じ所ばっかりリプレイしてたの。
……下アングルからのオシリのアップとか」
「ちょ?! 誤解を招くような事言うなよっ!!
まぁ、そりゃあ、あれだ、ちょっとアングルがアレで色っぽかったから凝視はしたけど」
「誤解じゃないじゃないですかー!
マスターの変態っ!!」
「へんたーいっ!!」
「変態じゃないっ!
フィギュアのスカートの下とか覗きたくなるだろ?!
男は皆そうなんだっ!!」(一部偏見)
まぁ、なんというか。
健全な(?)成人男子と『姫』たる神姫との生活というのは中々に難しかったりする。
・その心、ハーレム系主人公に通ず?
「それはそうと、今日はお仕事お休みですよね、マスター。
どうされるんですか?」
自身の装備の点検をしていたエイルが尋ねる。
それに邑一は少し考えてから答えた。
「そうだな。
午前中はのんびりで、午後からは神姫センターにバトルに行くか」
神姫センターというのは、神姫やそのパーツを購入できる他、
神姫同士を戦わせる神姫バトルが行われている場所。
神姫バトルは人気が高く、毎日多くの人で賑わっている。
「待ってました〜っ♪」
嬉しそうに手を叩くのはアルデ。
彼女は最近戦績が悪くないので、神姫バトルを楽しみにしていたのだ。
「そうですか。分かりました。
私はノンビリするのも、結構好きなんですけどね」
同じく戦績は悪くないのだが、性格の差なのかエイルはそんな事を呟いた。
「なら留守番しとくか?」
「そうだよ、マスターとボクだけで行って来るからさ」
「なっ!?」
ニマーと笑いながらのアルデ……邑一の肩に乗っている……の言葉に、エイルは思わず声を上げた。
「誰もバトルしたくないなんて言ってないじゃないですかっ!
そうやって、マスターを独占するの、許せませんっ!!」
「……ムカッ。
自分は独占する事結構ある癖によく言うよ。
……センターに行く前に一戦やっとく?」
「いいわ、受けて立ちますっ!」
「いや、あのな、お前ら……
折角の休みなんだから喧嘩で無駄な時間を浪費させないで欲し……」
『マスターは黙ってて!』ください!!」
「……はい」
複数の神姫オーナーたるもの、甲斐性は必要である。
そうでなければ、彼女達のオーナーたりえない……というか振り回されます。
・隠し場所注意
「くのっ! くのっ!!」
「えーい!! とぉっ!!」
「やったぁ、ボクの勝ちっ!!
まぁ、当然の結果だけどね」
「ううぅ、負けちゃった……もう一回やりません?」
「いいよ。次は協力プレイやろうよ」
「うん、そうね、そうしましょう」
「……」
『一戦』と称してゲーム機を引っ張り出し、
自分と同じ位の大きさのコントローラーを器用に踏み、操作する神姫達。
その様は非常に愛くるしいものであり、微笑ましいものなのだが。
「あのー君達」
「なんです、マスター」
「なに、マスター」
「君ら喧嘩してなかったけ?
なのに、あれこれニ三時間ゲームしてるの?
そのゲーム、俺まだやり込んでないのに、そんなに上手いの?
というか、そのゲーム、いつもと違う場所においてたと思うんだけど」
神姫達に見栄を張る為、コッソリ練習しようと分かり難い所においてあった筈なのだが。
そんな疑問(多数)を含む視線を送ると、神姫二人は可笑しそうに笑った。
「やだなーマスター、ボク達喧嘩なんかしてないよ、ねえ?」
「そうですよ、マスター。ねぇ?」
「……そうか。うん、分かった。
深く考えない事にするよ。
あと都合の悪い質問シカトするのはヤメレ」
『はーい』
いかに機械とは言え、神姫達は女の子。
ゆえに、男とは違う思考形態を持っていて当然だ。
その辺りの理解と、我侭を受け入れる器量がないと、良きオーナーにはなれない。
……そう思う事にしようと思う、邑一だった。
「あ、そうそうマスター」
「なんだアルデ?」
「エッチな本の隠し場所、もう少し考えた方がいいよ?」
「……胸が大きい方がいいなら、私達用のパーツ買って来てくれればいいのに」(ポソリ)
「ぎゃああああああああああああああああっ!!?
見たのか?! 見ぃたぁのかぁぁぁぁっ!?」
あと、その手のモノの隠し場所には鍵をつけよう……そう痛切に思う邑一だった。
・負けたくなくても如何ともし難い時もあります
「おー、賑わってる賑わってる」
午後になったので、邑一達は予定通り神姫センターにやってきていた。
ちなみに二人はそれぞれ邑一の左右の胸ポケットに入っている。
「皆相変わらず強いなぁ……私達も頑張らないと」
「武装のセッティングがイマイチだと勝てるものも勝てないけどね」
「へいへい、努力するよ。
って、うわ、あれ凄いネタ武装だな」
「あ……す、すごいですね……」
多くの人が眺めている大型筐体、その中で行われている戦闘。
一方は普通のデフォルト装備……購入時に神姫とセットになっている武装……だが、
もう一方はまともな武装が一つとしてない……全てをチアリーダー仕様で固めた神姫だった。
一見戦闘など出来そうにないが、ポンポンがナックル扱いの武装として登録されているのでダメージを与える事が出来る。
「あの装備に、本気のセッティングで負けたら悔しいだろうなぁ……」
「うーん、だけど、何か負けそうだね。
妙に強いなぁ、ネタ武装の人」
「そうですね」
チアリーダー仕様の神姫は、装備の身軽さゆえのスピードで相手神姫を翻弄していた。
戦闘する気が無いようなからかう動きや、
相手神姫が重装備なのもその状況の悪化に拍車をかけていたが……。
「名前見ろ。
あれ、結構有名な最高ランクのオーナーじゃないか。
……まぁ、それがせめてもの救いだよなぁ」
この界隈じゃかなりの有名人な最強クラスのオーナーなので、知ってる人は対戦を避ける。
それをしていない事から、神姫自体の新人さんか、このセンターに来るのが初めての人間じゃないかと雄一は推測した。
ソレを踏まえて考えると……おそらく、相手神姫はこのままでは負けてしまうだろう。
となると……。
「このまま悔しい思いをさせたままってのはちと可哀想な気がするな」
「同情は良くないよ?」
「かもしれんが、俺の気が済まないからな。
ので、俺の勝手で行かせてもらう。
いっちょ勝ちにいきたいと思うがいいか?」
『了解ッ!!』
…………………その十分後。
ものの見事に返り討ちされ、センターの隅でいじける三人の姿が確認されたという。
・弱者と強者
「……ごめん、ごめんなぁ、駄目オーナーで」
「……ボクって役立たずだよね……」
「……すみません、弱くて……」
センターの隅で暗黒空間を形成する三人。
ちなみに、彼女らは決して弱いわけではない。
弱いわけではないが……突出して強いわけでもない。
悲しいかなそれが現実だった。
「あ、あの……」
「はい?」
そんな中、自分達に掛けていると思しき声に気付き、邑一は振り返る。
そこには二人の女の子が立っていた。
それぞれ忍者型MMSフブキと騎士型MMSサイフォスを肩に乗せている。
「……あの、どちらさまですか?」
「えと、貴方達の前にボロ負けした神姫のオーナーです」
「その姉です」
少し気の弱そうな、忍者型(確かにさっき負けていた神姫だった)のオーナーが妹。
物静かで落ち着いた雰囲気のある、騎士型のオーナーのが姉、という事らしい。
言われてみると確かに二人の容姿はよく似ていた。
(というか、可愛いな)
などと邑一が考えていると、姉が会釈より僅かに深い位に頭を下げて、言った。
「妹の為に挑んでくれたんでしょう?
ありがとうございます」
「……いや、まぁ。
ああいうのにボロ負けする気持ち、痛いほどよく分かるんで。
まぁ、でも負けたら意味ないッスよね」
「良い指示してたと思いますよ?
なにより、神姫達との信頼関係が凄く伝わってきました」
「ああ、見ていて正直恥ずかしくなるほどだったぞ」
騎士型の神姫は腕を組んで、うんうん、と頷く。
邑一はなんとも言えない表情で彼女に向かって言った。
「……それは褒めてるのか? けなしてるのか?」
「両方だ、卿」
「でも、負けたら意味ないよ……
相手が真剣じゃないとかそういうのは問題じゃなくてさ」
「はい、自分達が不甲斐ないです」
がっくりと肩を落とすエイルとアルデ。
「まぁ、同じ神姫として、その気持ちはよく分かるがな。
いつまでも嘆いても仕方あるまい」
「では、私達が貴方方の分まで敵を取ってきます。
それで少し元気を出してくださったら嬉しいです。
行きましょう、イクス」
「了解した、マスター。
見ているが良い。貴公達の分、奴に屈辱な敗北を味合わせてみせよう」
「だ、大丈夫なんスか?
アイツ、かなり、強いっスよ?」
「大丈夫です。上には上がいます」
長い髪をまるでマントのようにたなびかせ去って行く神姫とオーナー。
迷い無く、力強いその姿は、王者の風格を漂わせていた。
「か、かっこいい……」
「マスター……負けた私が言うのもなんですが、情けないです」(目の幅涙)
「あの人達がかっこいいのは事実だけど、言われる側になろうよ」(目の幅涙)
「……面目ないっス」
・『武装神姫』
それから3分後。
「……圧勝でしたッスね。
つーか、思い出しましたよ……九州地方で常勝無敗だった”雷光の聖騎士”さんですね」
チアガール仕様はおろか、
敗れた次に持ち出してきた本気仕様にさえイクスという神姫は圧勝して見せた。
そうして完勝して戻ってきた”二人”に邑一が声を掛けると、彼女は恥ずかしそうに頬に手を当てた。
「あら、ご存知でしたか」
「私的には少し大仰な二つ名で恥ずかしいんだがな」
「では改めて自己紹介しますね。
私は白耶菜奈未(ハクヤ ナナミ)と言います。この子はイクス」
「わ、私は白耶奈美実(ハクヤ ナミミ)です。
この忍者型の子は椿」
「お初にお目にかかります」
そう言って奈美実の肩に乗っていた忍者型MMSフブキ……椿は、静々と丁寧に頭を下げた。
「えと、小野 邑一っス。
こっちがエイルで、こっちがアルデ。
ともあれ、敵、討ってくれてありがとうございました」
『ありがとうございました』
邑一が頭を下げるのに合わせ、ポケットの中の二人も頭を下げる。
姉妹がその様子に微笑ましさを感じていると、邑一は言った。
「……でも、何か悔しいんで、アイツにはいつか自力で勝てるようにやってみます。
あと、いつか俺とバトルしてください。
貴方とも戦ってみたいんで」
ニヤリと笑う邑一。
彼の胸ポケットでは二人がそれぞれ両手をグッと握ったり、腕を組んだりで自分の意志を示していた。
「同じくです。感謝のカタチを努力と勝利でお見せしますっ!」
「そうだね。負けっぱなし、嫌だし」
「……いいだろう。その時は受けて立つ。
構わないな、マスター?」
「ええ。貴方達はきっと強くなります。
ですから、その時を楽しみにしますね」
そんな”三人”を見て……これこそ神姫とそのオーナーのあるべき姿だと菜奈未は感じた。
彼らは戦う。
『リンク』と呼ばれる神姫とオーナーの絆の結びつきをもって。
名誉、強さの証明、そしてただ純粋に勝利の為に。
それが……『武装神姫』なのだから。
自分達が、そうであるように。
しかし、それはそれとして。
「でも、こうして折角お知り合いになったんですし、
まずはお友達と言う事で、どうですか?」
ソレもまた、神姫のカタチ。
戦う為だけに生まれたのであれば、人の心とカタチなど、いらないのだから。
「……まぁ、そりゃあ、構いませんけど」
「お、お願いします。
私達、こっちに引っ越してきたばかりで……」
「色々こちらの事を教えていただけると助かります」
「うん、了解しました。
…………いいよな、お前等も」
「はい、問題ありません」
「オッケーオッケー」
そんなやり取りの少し経ち、
用事があるからと姉妹が立ち去った後に残ったのは、
何気に姉妹のメルアドと携帯番号を手にした邑一達だった。
「……あれ?
これって、意外な展開だったんじゃね?
というか……俺、ラッキ……いたたたたっ!!??」
「なに、鼻の下を伸ばしてるんですか……?」
「今日、というか今さっき負けた事、忘れたわけじゃないよね……?」
「分かってるっ! 分かってるから二人して耳引っ張るなっ!!」
・選んだ理由
「あー疲れた。
って、マスター、ボクのバッテリーそろそろ切れるよ?」
帰宅後すぐにアルデが自身のバッテリー残量の危険領域を訴えた。
「分かった分かった。
今クレイドル出してやるから」
それに応え、邑一はベッド型のクレイドルを取り出した。
機械である神姫は、クレイドルと言う接触型充電器により充電を行う。
そして彼女らはその際に『睡眠』を取る事が多い。
その日のアルデも例外ではなく、
クレイドルを出してもらった彼女は、
スルスルと邑一の身体から降り、あっさりとベットに潜り込んでいった。
「それじゃ、おやすみ、エイル姉」
「おやすみなさい、アルデ」
「おやすみ、マスター」
「おお、おやすみ」
「……続きは、夢の中で、なんてね……」
「何か言ったか?」
「な、なんでもないよ。おやすみー」
何処か照れを感じさせるように、アルデはガバッと布団を被って眠りに落ちた。
その様子に首を傾げつつ、邑一はエイルに尋ねた。
「お前はまだバッテリー大丈夫か?」
「私は昨日アルデより後に充電しましたから。
もう少しもちます」
「そっか」
言いながらエイルを机の上に下ろす。
エイルは其処から邑一を見上げて、少し躊躇いがちに口を開いた。
「あの、マスター」
「ん?」
「前々から聞こうと思ってたんですが、どうして一番最初に私を選んでくれたんですか?」
その質問は次女……二番目であるアルデがいる時は聞き難く、
その為に尋ねる機会を逸していた疑問だった。
だから、エイルはこの機を逃すまいと疑問をぶつけたのである。
「神姫の種類は多種多様……色んな子がいます。
そんな中で天使型を選んだ理由は……なんですか?」
「そりゃ、お前」
「ワクワク」
「お前のセット武装がライトセイバーと、
如何にも巨砲なレーザーライフルだったからに決まってるだろ」
「そ、そんな理由っ!!?」
あんまりと言えばあんまりな理由にエイルは抗議の色濃い声を上げた。
しかし『そんな』という言葉が癇に障ったらしく、逆に邑一も声を上げた。
「そんな理由とはなんだよ、そんな理由って!
ライトセイバーと巨砲は男のロマンだぞっ!?
勿論実剣や拳も捨てがたいがっ!!」
「知りませんよっ!!」
それから暫し。
邑一は武器のロマンについてエイルに熱く語る事になるのだが、
その辺りは非常に長く、かつディープなので割愛する事にしよう。
・選んだ理由……その後
「……まぁ、そんな理由で選んだわけだが。
まぁ、正直今となっちゃどうでもいいな」
ブッスー、と不機嫌顔でそっぽを向くエイル。
その様子に、ちと大人気なかったかと反省した邑一は、素直な気持ちを口にする事にした。
「どういう意味ですか……っ」
頭の上の感触に、エイルは息を呑んだ。
その感触の正体……人差し指で頭を撫でられているという事実に、
驚きと喜びを感じたからだ。
「お前じゃなきゃしっくり来ないからだよ。
今は、武装とか関係なく、お前を一番に選んでよかったってそう思ってる」
「……マスター」
この胸に湧き上がるものが本当の心なのかどうか……それを知る術をエイルは知らない。
マスター……オーナーに抱く感情は、初期段階である程度プログラミングされているものなのかもしれない。
でも。
そうだったとしても構わない……そうエイルは考えて、いや感じていた。
今感じている喜びは、紛れも無い『本当』だと、自分で信じたいと思うから。
「ま、そんなわけだからさ。
今後も長女としてアルデを頼むぞ」
ピキッ。
「今度三人目も来るかもしれないし。
一番上として責任感のあるお前なら……」
「……どうして」
「うん?」
「どうしてマスターはそうなんですかっ!!?」
「いたたたたっ!!?
何故っ!? 一体何が気に入らなかったとっ!!?」
「神姫である、私が、言うのも、なんですが!
もう少し、乙女心というものを、ですね、理解、して、くださいぃぃっ!!」
「ごめんごめんっ!
謝るから指にギリギリと四の字固めかけるのはやめてぇぇぇっ!?」
・一日の終わり
「お、もうこんな時間か」
夕食の後、神姫のデータを見たり、ネットで戦闘のコツについて調べていると、
いつのまにやら時計の長針、短針が同じ位置を指す時刻になりつつあった。
コレ以上起きていると、明日の仕事に支障が出てしまうだろう。
「さて、今日は素直に寝るか」
「そうしてください。
また仕事先で怒られるのを見るのは嫌ですよ、私」
「へいへい。ヘマしないように頼むよ」
神姫は人間のサポートをする事も出来る。
勿論出来る事は限られているが、
少なくとも邑一にとって彼女達は頼りになる仕事仲間でもあった。
「じゃ、クレイドル出すぞ」
「お願いします」
エイルの為のクレイドルを出した邑一が、
自身も眠る為の心地よい場所……ベッドに潜り込み、電気を消そうと電灯の紐に手を伸ばした……その時だった。
「マスター」
「ん?」
「……寝てる間に、いなくなったり、しないですよね?
私を、リセットなんか、しないですよね?」
リセット。
それはマスターに与えられた神姫の停止権限。
ソレを行えば、彼女達の心は死に、同じセッティングで起動した所で『同じ神姫』は決して戻っては来ない。
神姫は、機械。
ゆえに人間の意にそぐわぬ事があれば捨てられ、壊される事もある。
なまじ『心』があるばかりに、彼女達はソレを恐れる。
人が死を恐れる事と、同義に。
人が永遠の別れを恐れる事と、同義に。
彼女達もまた、死を、別れを恐れているのだ。
それを、邑一は分かっていた。
分かっていたからこそ、優しく告げた。
「……大丈夫だ。
もう二度と、お前をリセットしたりもさせたりも、絶対しないし、させない」
「よかったぁ……」
「だから安心して寝ろ。
もう、大丈夫だから」
「……はい」
こうして。
神姫とそのオーナーの一日が終わる。
彼らの関係がいつまで続くのか。
それは神のみぞしる……いや、彼ら自身だけが知っている、のかもしれない。
ともあれ、今は。
「じゃあ、その。
今日も一日、楽しかったです。
おやすみなさい、マスター」
「ああ、おやすみエイル」
そう言って邑一が部屋の明かりを消し、
神姫オーナーの一日は、終わりを告げた。
それは、これからも続いていく『日常』の一ページに過ぎず。
またいつか別のページを語る事もあるかもしれないが、今日の所は、このページまで、という事で。
……続く?