ええと、とりあえず注意事項。
このおハナシは「サモンナイト3」の「クノンエンド」を基調とした
セカンドストーリーです(一応)。
ネタバレまくりなので御注意の程。
トンデモ展開なため「サモンナイト3」の「特別編」とは整合しません。
ご了承下さい。
(ついでにいうと本編とも若干整合してないかも…:ぉ)
それでもよろしければ…。
――――――――――――――――――――――――――――――
「世界の誰よりも〜Cunnon extended story〜」
――――――――――――――――――――――――――――――
「アルディラ様、ただいま戻りました。」
「お疲れ様、…クノン。」
長かったようで短くもあった、帝国領での留学を終え
彼女は故郷である機界の集落−ラトリクスへと帰還した。
「長らくここをお留守にして、申し訳ありません。」
「大丈夫よ。あの事件以来…
復旧作業が大変なだけで、島は平穏そのものよ?」
「それよりどうだった?外の世界は?」
「はい…、いろいろ大変な事もありましたが…
レックス様に助けて頂いたお陰で、とても楽しい留学でした。」
「でしょうね、…顔にそうかいてある。」
「え、そうなのですか?」
「例え話よ。それだけ表情が豊かになったってコト。」
「……はぁ。」
(用意しておいて…正解だったわ)
困惑の表情を見せるクノンに対し、
彼女の主であり、機界の護人でもあるアルディラは
少し考え込むような素振りを見せた。
「いかがなさいました?アルディラ様?」
「いえ、…何でも無い。」
「そうだ…早速で悪いんだけど、マザーコンピュータのデータベースに
貴方のログのバックアップを取りたいの。構わないかしら?」
「はい、…喜んで。」
今度は笑みをたたえるクノン。
が、それを眺める彼女は、少し寂しげな表情を浮かべる。
「どうかなさいましたか?
ご気分がすぐれないように思えますが?」
「うん?…いいえ、少し雑用で疲れただけかな。」
「大丈夫よ。それよりさっさと済ましてしまいましょう。」
「はい。…アルディラ様さえよろしければ。」
クノンは主の様子に、少し違和感を感じたが、
多分外界での長期滞在によるブランクだと
安に其れを否定した。
そして…このときは知る由もなかった。
それが彼女にとって、巣立ちの時期であることを…。
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
クノンのメインパワーがスリープ状態になったことを確認し、
モニターをチェックする。
(…やはりあの時とは、違う)
(…クノンの感情モジュールはとても安定してる)
(…これもあの人のお陰かしら?)
苦笑しながらアルディラは
オプティカルキーボードを操作した。
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
……
…再起動、完了。
…あれ?
からだが少し重い。
自己診断システム
すべて…異常…無し?
…どうして。
「おはよう。…気分はどう?」
「アルディラ様…?何だか…おかしな感じが…」
……!!
頭を巡らすとアルディラの傍らに
もう一人の影
金いろのウエーブのかかった
長めの髪
そしてその容姿は…
「その…かたは?」
あえてそう言う言い方をしたのは
事実を否定したかったから。
「ああ、…紹介するわ。」
彼女は「リノン」。
貴方の後任を勤める事になった
看護医療人形(フラーゼン)よ
「はじめまして。
リノンと申します。」
「………」
「どういう…
こと…
ですか…?」
「見ての通り…
といっても、納得できないでしょうね。」
「いいわ
説明してあげる。」
「あの時…
貴方の感情モジュールが壊れそうになったとき
データログをバックアップできなかった。」
「何故か解る?」
「それは…」
(私が、…とても不安定だったから)
「…そういう事。」
「今でも貴方の感情モジュールは
何時支障を生じるか解ったものじゃないの。」
「だからオーバーホールする事にしたのよ。」
「それで新しいモジュールに必要なデータだけ書き込み、
リノンを組直した…。」
「つまり…」
「貴方はもう用済み…」
「…て事になるかな?」
…!!
私は
呆然とした
というよりも
信じたくなかった。
これは…そう「悪夢」というもの?
自動人形にとっては
夢などという概念は無い。
あくまでデータを反芻し
再確認する事ぐらいだ
それは未来を予測すできても
不測の事態にすべて対応できる訳ではない。
それが
「悪夢」?
「でもね…」
「『用済み』といっても
処分するには忍びなかったから」
「あり合わせの機体を調達して
貴方の方も組みなおしておいてあげたの。」
そ…んな。
それならば…
いっそ処分してもらった方が良かった。
こんな思いをするくらいなら…
《…死んだほうが ましだ…》
「だから…ね?」
「どのみち…此拠に貴方の居場所はもうないの。」
「なんだったら…」
「ヴァルゼルドにでも頼んで
送らせましょうか?」
「いえ…」
「結構…です。」
何が何だか解らない…
これからどうすれば良いのかも…
けれど…
何時の間にか
自然と足がそちらへと向いていた…
私にはもう
「あのひと」しかいない…
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
「アルディラ様…。」
「何?」
「これで、…良かったのでしょうか?」
「私には、クノンの落胆が痛いほど解ります。
…だって、私はもともと彼女から生まれた存在ですから。」
「そう…ね。」
「だったら、私がこんな事をする理由も少し解るでしょう?
データを調整してもなお、消去不可能な『存在』が貴方の中にも
残ってしまっているはずよ?」
「あ…。」
「そういう事なの。」
「それにもし万が一の時には…」
「あなたの助けも必要になるわ。」
「…そうですね。」
「さて…と、私たちも…」
「負けずに頑張らなきゃね?」
「はい。…アルディラ様」
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
青空学校でその人は
スバル様達、生徒達に授業を行なっていた。
「…?」
「クノン… …なのか?」
「どうしたんだ…一体」
「レックス様…」
「何故だか解りません…けれど」
「私…アルディラ様に…」
「嫌われてしまいました。」
その人の姿を確認した途端に
涙が…とめどなく溢れだした。
「何だよー、先生ー」
「旅行中にクノンに何かしたのかー?」
「はややー?そうなんですかー?」
「バカ、そんな事あるわけないだろ!!」
「だけど…その…どうしたんだ?」
「?」
「なんていうかさ。その…カラダ?」
「あ…、あれっ…?」
改めてそれを確かめる。
強化セラミックと特殊ポリマーでコーティングされているはずの
何時ものボディではなかった。
これは…
[ファインシリコン−ナノスキン]
極めて人間の其れに似せて造られた自動修復可能な…人工皮膚。
腕部、脚部…そして。
簡素な患者診察用の衣服をまくし上げて…
「こ、こらっ!!」
レックス様が慌ててそれを制止した。
生徒達は呆然としている。
「と、とにかく、一旦自習!」
「あー!ズルーイ!!」
「先生だけ見る気なんだー!」
「バカいえっ!メイメイさんとこで、服貰ってくるだけだ!!」
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
「まったく…、一体どういう事だ?」
「…俺にも訳が解らないよ。」
「申し訳…ありません。」
「まあ、クノンに落ち度がある訳じゃないだろう?」
「ですが…」
私はレックス様におおよそのいきさつをお話しした。
「ふーむ…。」
「けれど、そんなのじゃ確たる理由にならないな。」
「そうでしょうか?私には一応合理的に思えますが?」
「なら、クノンはどうしてそんなにも悲しいんだ?」
「それは…」
「アルディラはクノンの事を、とても大切に思ってたはずだ。」
「だから『悲しい』んだろ?」
「…はい。」
「何らかの理由があるに違いないよ…少なくとも…俺はそう思う。」
「…………」
「ま、考えてみたところでどうしようも無いな。明日にでも本人の所に行って確かめてくるよ。」
「申し訳…ありません。」
「クノンが謝るような事じゃないさ。」
みちすがら、レックス様は微笑みを絶やさず
話しかけてくれた。
その笑顔を見ていると
何故だか少しずつ悲しみや不安が和らいでいくようだった。
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
「あらー、先生、おひさしぶりー♪」
「元気してたー?」
その店の店主、メイメイさんは相変わらずご陽気だった。
もっとも、今のふたりの事情を知らないのだから仕方がないのかもしれない。
まぁ、案の定何時も通りにお酒が入っている所為かも…。
「うん、長い事留守にしてご無沙汰でした。ご挨拶が遅れてすみません。」
「そんなの気にするコトないわよー。」
「で、今日の御用はご挨拶だけかな?」
「いや、それがちょっと…。」
「あ、…そういえばアルディラから頼まれていた事があったんだ。」
「!?」
「クノンが来てくれたのなら、丁度良かったわ。」
メイメイさんはぽん、と手を叩くと店の奥へ探しものにいってしまった。
ふたりは顔を見合わせていたが、程なく彼女は包みを抱えて
戻ってきた。
「これは?」
「んにゃ?聞いてない?…クノン用に新しい衣装を頼まれてたんだけど」
「…………」
「ま、私の見立てなんでアレかもしれないけど、聖王国製でモノはしっかりしてるわよ。」
「…………」
「ああ、そのカッコじゃ何だから、良かったら着替えていきなさいよ?」
「…………」
さっぱりと事情は飲み込めなかったが、もともとの目的が衣服の調達だった訳なのだから
それを拒む理由も無かった。
クノンを試着室へと促し、暫し待つ。
「あ、そうだ代金は…?」
「んにゃあ?…ホントに何も聞いてないの?…もう頂いてるわよぉ?アルディラから。」
「極上のワインで…ね♪」
「え、…そうなんだ。」
やはり訳が解らない…と
考え込んでるうちにクノンは着替えを済ませてきた。
「…………」
蒼の上衣、フリルのペティコートの付いた同色の短めのスカート、後ろに大きな結び目を作る
純白のエプロンと膝上まで包むソックス、蝶ネクタイの付いたチョーカー、それに…ヘッドドレス?
「にゃはっ♪…うんうん、結構ばっちし似合ってるゥ。」
「ていうか…その」
それは良家のお屋敷で見かけるような侍従の衣装…。
もっともかなりアレンジされてはいるが。
「これ『メイド服』に見えるんだけど?」
「んにゃ?…そのまんまよ。何かクノンは『新しい御主人様』の所に出すって言うから…。」
「!?」
というか、…聞いた話と全然違う。
俺はクノンを見たが彼女も首を横に振った。
やはりちゃんと確かめないと。
「て、…そうだ授業の途中だったっけ。」
「はい、…お手数かけてしまいした。」
「いいって。じゃ、メイメイさん?お邪魔したね。」
「いえいえ、またのお越しをー♪」
青空学校に戻ると、案の定クノンの衣装で話題が持ちきりとなり、
その日はろくに授業もままならなかった。
そして今は、ユクレスの村に皆が建ててくれた住まいで二人きりの夜を
迎えていた。
「レックス様…、これではあまりにも…」
「いいよ。女のコにベッドを使わせない訳にはいかないだろう?」
「ですが、私には基本的に必要ありません。」
「いいから。そういうものだってば。」
「それに…」
「さっきからずっと後ろを向いておられますが。何故ですか?」
(…そんなコト言えないだろっ?「目の遣り場に困る」…なんて)
彼女はこちらを向いてベッドに腰掛けている。
さすがに就寝のときまで、クノンにあの格好をさせている訳にはいかなかったので
ボタン付きのシャツを貸したのだが…。
それが災い(?)…した。
クノンはボタンを一箇所でしか掛けておらず、
月明かりに照らし出された彼女は
以前と違う標準的な膨らみをもつ胸元とすらりとした生足、
それに下着もまる見えである。
昨日今日換装したボディでは恥じらいの概念というものが
ないのも無理からぬ事だが…。
(うう、これじゃ生ごろしだよ…)
「じゃあ…こうしましょう?レックス様。」
「うん?」
「レックス様もベッドを一緒に使うというコトで。」
「…って!」
(そんな…願ってもな…もとい、とんでもないコトを…)
「君は平気…なのか?」
「はい、私はレックス様の事、大好きですから。」
「いや、そうじゃ…なくて」
「レックス様?もしかして私の事…お嫌いですか?」
(うー…、そんな悲しげな声しないっ!)
「いや、そうでもなくて…」
「それとも…私のボディに何処か欠陥があるのですか?」
「いや…むしろ完璧…うくっ」
(しまった…思わず本音が)
「レックス様!」
「は、はいいっ!!」
「どこもおかしくないのなら…」
「ここへ来てぎゅ…ってして下さい。」
「….………」
「なでなでも…して下さい。」
「…クノン」
「でないと…」
「不安で…たまりません。」
「……そっか。…悪かった。」
半端な同情心だけでは、かえって彼女を傷つけてしまうだけだ。
それならば最初から匿うべきではない。
「あっ…」
クノンの痛みが少しでも和らぐのであれば
彼女の望むように…。
それは恥ずべきことでも何でも無い。
至極当たり前のことだ。
「ありがとう…ございます…」
「礼なんか要らない。」
「えっ?」
「俺は自分のしたいようにしてるだけだから…」
「レックス様…。」
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
「なあ、クノン。もし良かったら…」
「はい?…なんでしょうか。」
「ここで、学校の授業の手伝いをする気はないか?」
「え、…よろしいのですか?…私なんかで」
「謙遜しなくていいよ。」
「ナップの奴も卒業までは戻って来れないだろうし」
「帝国への留学で見てきたこと、…学んできたことは」
「…きっと役にたつと思うから。」
「レックス様…」
「もしも、こんな私でも必要ならば…」
「貴方の望むままに…。」
「ま…、まずは全てを解明してからだな。」
「そう…ですね」
「……うん?」
私はレックス様の胸に顔を埋めた。
レックス様は何も言わず、そんな私の頭をなでなでしてくれる。
そして不思議とそうされる事で
心に重くのしかかっていたものが…溶けてゆくのを感じた。
(ありがとうございます…レックス様。)
声に出せばまた咎められるかもしれないので
私は心の中で感謝するコトにした。
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
翌朝…
レックスは青空学校をクノンに任せて、ラトリクスへと足を運んだ。
「あら、お久しぶり。朝早くからご苦労様ね?」
「挨拶はいい。それよりもどういう事なんだ?」
「ああ…クノンの事ね?」
「やっぱり説明しないとダメかしら?」
「…あたり前だ。」
「仕方ないわね…。」
彼は相応の剣幕だったが、あくまで予想されていたことなので
館の主は「やれやれ…」という対応だ。
「リノン、お茶でも用意して来て。」
「かしこまりました。アルディラ様」
レックスがかの新しい看護医療人形を苦々しく眺めていたので、
彼女はそれを配して下がらせた。
「結論から言うわ」
「あのコの感情モジュールは、以前暴走を起こした時にかなりの損傷を生じていて、
本来なら機能停止していてもおかしくない状態なの」
「そんな…」
「でも、モジュールは問題なく稼働している、ううん…、
むしろより人間的にすら覚えるほどスムーズに。
これは科学的な探求心を常に深める融機人にとって、非常に興味深いコトだわ。」
「どうしてだか…解る?」
「…………」
「推測としては極めて非論理的になってしまうのだけど…」
「あのコは多分『生きたい』と願ったからだと思う。」
「ありえないのよ。自動人形が稼働限界を超えて、
自ら稼動し続ける判断を下すなんてコトは。」
「だけど、壊れてしまっていても、その上で『生きいていたい』ってね?
その原因は何だったのかって考えてみた。そして辿りついた結論は…」
「あのコをそう思わせた『存在』が現れたから…。」
「…………」
「それが…貴方だったというワケ。」
「厚かましいお願いなんだけど。」
「…あのコ…クノンの事、貴方に頼めないかしら?」
「それは…」
「正直、あのコを突き放すなんて事は、ちょっとした冒険だったわ。」
「けれど、あのコにはもう貴方がいる。多分巧くいくと考えたから、
全ての計画を実行したの。」
「…………」
「もっとも、貴方がそれを拒否するんだったら…」
「モジュールを摘出分解し、詳細解析したいんだけど…?」
「!、そんな事はっ!!」
「だったら、…お願いしていいワケね?」
「う…」
アルディラは少し小首を傾げ、意地悪そうに微笑んだ。
恐らく「分解する」などというのはフェイクだろう。
まあ彼女にしてみれば大切な娘を嫁に出すような気持ちもあるのだから
ささやかな抵抗だとも受け取れた。
「それは、…けど、本人の意志を確かめてみない事には…」
「貴方を頼って行ったって事は、もう十分な根拠よ。」
「はぁぁ…」
「ま、兎も角、…これを見てくれる?」
アルディラが手元のオプティカルキーボードを操作すると、
グラフィックが大型スクリーンに映し出される。
「これは?」
「クノンの感情モジュールの解析モデルよ。データログをバックアップした時、
ある程度は把握できたんだけど…。」
リノンが淹れたお茶で一息つくと、彼女は話を続けた。
「あのコは、ごく一般的な並列思考処理ユニットを組み合わせた感情モジュールを持っている。」
「見ての通り…赤で表示されてるユニットは破損してるの。そのためにどのパスも完結出来ず、
システムとしては成り立たない…はずなんだけど。」
「ところが、ユニットの正常な部分が互いに補いあって…正常な機能を維持し続けている。
…論理的には不可能なんだけどね?」
「ひとつひとつの機能が損なわれても、何とか他の部分で補完しようとする。
…言ってみれば極めて人間的な行動論理に思えるの。」
「しかし…大丈夫なのか?…それで。」
「さあ?…正直私にも予測不可能だわ。けれど…」
「貴方がいれば、恐らく大丈夫だろうと思う。…っていうか
私もそれを信じて、見ていたいの。」
「ヒトは完全じゃないから、完全たろうと努力し続ける。
…そういう見方をすれば、もうあのコは人形じゃない。
…立派な一人の人間といえる。」
「これも…貴方のお陰よね?」
「それにしたって…あのカラダは一体?」
「ああ、アレね?…お気に召さなかったかしら?
…カスタマイズの適合性があるものを探すの、結構苦労したんだけど。」
「いや、まぁ…それはその…」
「融機人だってヒトの子よ?…当然そういった要求はあるわ。」
「ましてや機械大戦で私達の個体数は激減してしまった…。
出会える機会を失った者達には、無理からぬ『対策品』ね?」
「基本的なスペックはさほど変わらないわ。…ただ、看護医療人形として特化された
機能は備わっていない。…そのかわり」
「あのコは、別の方面の目的で『特化』されている…というワケ。
まあ、貴方が素直に喜ぶとは思わないけど…」
「服も合わせて、私からのささやかな贈り物よ。」
「だから…お願い…ね?」
「はぁぁ…けど、どう説明すればいいんだよ?」
「それはお任せするわ。」
「全く…気楽に言ってくれる…。」
「ひょっとして、あのコの事嫌いなの?」
「そんなはず無いだろっ!」
「だったら…何も心配することないんじゃない?…頑張って…ね?
…新しい御主人様。」
「…って…言われても…」
「私も…」
「?」
「もう一度『このコ』と、やり直してみるつもり。」
「…………」
アルディラは新しいパートナーを顧み、
リノンもそれに応え会釈する。
彼女はクノンの「分身」であり、「彼女自身」でもある。
ほんの短い間のやりとりで、レックスもそれを察した。
「だから…」
「お互い、頑張りましょ?」
「…ああ」
最後は承諾する他なかった。
どこか予感めいたものはあったが、
彼女は彼女なりの「決断」を迫られていたのだと。
もしも仮に事を穏便に運ぼうとすれば、どうなっただろう?
アルディラを主とするクノンは目覚めてしまった自我と主従の制約の狭間で
ジレンマに悩み苦しんだかもしれない。
それこそアルディラの望む事ではないだろう。
それ故に…わざと突き放すような真似を…。
「御主人様…か…。」
それは件に関わってしまった者の「責務」を表す
言葉かもしれない。
けれど…
悪い気はしなかった。
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
アルディラとの話を終えて戻ってくると
子供達と楽しく語らう彼女の姿があった。
「あ、…先生、おかえりー」
「お帰りなさい、レックス様」
「お待たせー、みんな悪いな。」
「いえいえー、お人形さんの見てきた外の世界のおハナシ、とってもおもしろかったですー。」
「でも、何だか半分以上は先生の話だったよ?」
「おいら知ってるぜ。そーゆーの『惚気』っていうんだ。」
「え…、えっ?」
「レックス様、あの…私、…そんなつもりでは…」
みるみる顔を赤らめるクノン
その愛らしさに思わず苦笑する。
「はいはい…わかってるって。…スバルは居残りな?」
「うわ、ひでーよ。いぢめだー!」
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
そして、授業が終わり…
二人だけが残った放課後の青空学校で
結局全てを打明ける事にした。
アルディラが、彼女のためを思ってした事。
そして、彼女はここにいて良いのだという事…。
「そう…だったんですね。そんな事が…。」
「もし問題があるようならば、ラトリクスに戻っても構わないらしい…けど?」
「いえ、…折角そうまでして頂いたのですから。」
「私、ここでがんばってみます。」
「そうか、…そうだな。」
今…、
初めて解った。
私はやっぱり壊れているんだ。
本来主従にある関係に従わず…
それ以上の存在を認めてしまうなんて。
それが「間違っている」とも「悪いこと」だとも
思えないでいる自分は…。
ごめんなさい…アルディラ様。
それでも…
自分は…やっぱり…
《…この人と共に生きて行きたい…》
「ひとつだけ…お願いがあるんです。レックス様。」
「ん?…何?」
「レックス様の事、『マスター』って、お呼びしても良いですか?」
「えっ」
「アルディラ様が…その、ハイネル様の事を、ずっとそうお呼びしておられましたから。」
「そのときのアルディラ様は、本当にうれしそうだったから。」
「私も、今とてもうれしいです。…だからその気持ちを忘れぬように。」
「ダメ…ですか?」
「…………」
「いいよ。」
「!」
「これからは…ずっと一緒だもんな。」
「あ……」
改めてその肢体を抱き締めてみる。
柔らかでそれでいて暖かくて…
これではとても…
想いを抑えきれない…。
「最初に会った時から…」
「えっ?」
「クノンが人形だとは、…どうしても思えなかった」
「だから…俺もうれしい…ずっと…一緒にいられる事が。」
「レックス様…」
「…?…違うだろ?」
「あ…はい…そうですよね…。」
私も両腕をその人の肩にまわし
互いに頬を重ね合いながら
ひとである者が使うコトバを紡ぐ…。
「…愛してます…『マスター』…」
…そう…
「…世界の誰よりも…。」
(END)
――――――――――――――――――――――――――――――