世界の破壊者、ディケイド。
9つの世界を巡り、その瞳は何を見る?
仮面ライダーディケイド
&仮面ライダーKEY〜Another RiderS〜後編
……だが、この時点でディケイドは知らなかった。
世界は9つだけではなかったことを。
ライダーが戦場に集う中、それを影から見ている男がいた。
その男の近くには白いコウモリ型モンスター、キバーラが飛び回りつつ、この世界の情報を話している。
「……ってカンジみたいなんだけど、どうするの?」
そんなキバーラの問い掛けに男……世界を越えてディケイドの存在の危険性を語り回る『預言者』・鳴滝は静かに答えた。
「極めて残念な事だが、この世界での私はこれ以上の干渉は許されないようだ」
「これ以上って……いつもどおり、この世界のライダー達を煽ったぐらいじゃないの?
なんで……」
「この世界の管理人が、私に接触してきてね。
ディケイドは自分が招いた客人で、ゆえにディケイドへのこれ以上の干渉はこの世界に対する敵対行為とみなすと脅されてしまったよ」
「あらら。物好きなモノもいたもんね」
「全くだ。
ゆえに不本意だが、私は先に次の世界……カブトの世界で待たせてもらうよ。
もっとも……」
ちらり、と戦場の様子を眺めて、鳴滝は不敵に笑った。
「状況が上手く転がれば、カブトの世界を待たずにしてディケイドの旅は終わるかもしれんがね」
そうして、彼は時空の揺らぎの中へと消えていった。
「……くっ……」
「なんなんだい、君は」
突然の攻撃に地面に伏した仮面ライダーアームズ・長森コウヘイと仮面ライダーディエンド・海東大樹は、どうにか起き上がり体勢を整える。
その視線の先に立つ存在『カノン』は、無言でただ歩み寄り、手にした紅い光の剣……スカーレットエッジを構えた。
「……いけないっ!」
それに反応したのは、仮面ライダーエグザイル・藤原シウン。
カノンの敵意を眼にした彼女は跳躍、空中で回転した後、キックをカノンへと繰り出した。
「……」
カノンはそのキックを剣を持たない左手のパンチで迎撃する。
一瞬静止した二人だったが、その一瞬後には互いに弾き合い……カノンは立ったまま地面を擦りつつ、エグザイルはキックを繰り出した動きを逆再生させたように……距離を広げた。
「貴方……一体何者か知らないけど、何を考えてるんだ?
人を守るべき『ライダー』の力を……」
「……違うな。
この力は人を越え、パーゼストを越え、あらゆる生物を越える為の力だ」
「……っ。
そんな考えを持つ人にベルトを預けるなんて……上層部は何を考えてるんだ」
アームズ達を庇うように立つエグザイルの言葉に反応し、呟く『カノン』。
その言葉に、シウンは不快感を露にした。
「そのベルト、こちらに渡してくれないか。
君のような考えの存在が『力』を振り回すのは、納得できない」
「…………断る。
むしろ、その鍵をこちらに渡せ。
お前のような子供に、その力は相応しくない」
「……」
「……」
二人の間に一触即発の空気が立ち込める。
「おいおい、ただの仲間割れか?」
その様子をずっと眺めていた仮面ライダーディケイド・門矢士は呆れ気味に言った。
「そういうことなら帰っていいか?」
「おい士……」
同じく状況を見守っていた仮面ライダークウガ・小野寺ユウスケは士の発言に慌てて声を上げる。
そんな二人にシウンは振り返る事無く言った。
「……ごめんなさい二人とも。出来ればこの状況の見届け人になってほしい。
折角手伝いに来てくれたのにこんな内輪揉めに巻き込んで悪いんだけど……。
でも、このままにしておけないんだ」
「……ふむ、そうだな。
今回は種を一つだけ刈り取るつもりだったが……この際だ。
お前の種もいただこう」
「種……?」
「その鍵の事だよ、小娘……!」
その瞬間、カノンが地面を蹴った。
同時にエグザイルも地面を蹴り、よく似た姿を持った二者が激突する。
「ハッ!」
「フッ!!」
カノンが繰り出したパンチをエグザイルは左手で払いのけつつ、その懐に入り込む。
同時に超短距離・極小さなモーションでのボディブローを繰り出す……が。
「っ!? 読まれた?!」
その小さな動きゆえに捉え難く、威力も侮られ易いがゆえに予想以上のダメージを与えるはずだったエグザイルの一撃は、攻撃を繰り出す腕そのものを抑えられ停止した。
「お前の攻撃はシステム化されすぎている。
初見同士、力量に差がある同士ならともかく、身内なら酷く読み易い。
そしてそれを補うにはお前は未だ経験が足りない」
「なに、をっ!!」
抑え込まれた方とは反対の腕から再度パンチを繰り出すエグザイル。
しかし、それはいとも容易くスウェーにより回避され、逆にその腕を取られ、放り投げられてしまう。
「く、うっ!?」
「諦めたらどうだ? 今なら痛い目を見ずに済む。
鍵を渡せ」
「なんの、まだまだ……
貴方こそ、鍵を返してくれないか……?」
立ち上がるエグザイルを見て、カノンは小さく肩を竦めた。
「勝手な事だ。
自分の正義が世界の正義だとでも思っているんだろう。
実に幼いな」
「違う。
いや、例えそうであったとしても、僕のやる事、やるべき事は変わらない。
皆を守る為に、皆が笑顔である為に、僕は戦う。
少なくとも、貴方のように力を誇示する為じゃない!」
「……!」
そのシウンの言葉に、クウガ……ユウスケは息を呑んだ。
皆の笑顔の為に。
それは自分もまた同じだから。
「士。俺ちょっと手伝ってくる」
「……やれやれ、好きにしろよ」
「おおっ」
そう答えるとクウガは跳躍、エグザイルの横に着地して、その横で戦闘態勢を取った。
「小野寺さん?!」
「俺も手伝うよ。
えこひいきかもしれないけど、皆の笑顔の為に……そういうの、俺好きなんだ」
「ありがとう」
「ふん、異世界の戦士か……まぁいい。その程度……っ!?」
その言葉の最中、青い光を纏った弾丸と、白い光弾がカノンへと降り注いだ。
「やれやれ。小野寺君。
そういう恥ずかしい台詞は勘弁してもらえないかな。
聞いてるこっちまで恥ずかしくなるよ」
「海東さん」
「それは同感だな」
「コウヘイ君……二人ともなんのつもり?」
「この状況じゃじっくりお宝を狙えないんでね。
まず明らかに交渉不可っぽい奴から片付けようと思っただけさ。
君達との交渉はコイツを片付けてからだ」
「話を聞かない馬鹿より、話を聞く馬鹿の方がマシだろ。
それに……」
チラリ、とカノンへと視線を送るアームズ。
そこには降り注ぐ銃弾をスカーレットエッジで全て切り払ったカノンが静かに立っていた。
「多勢に無勢は俺もどうかと思うがね……コイツ、案の定というか当然というか、どうにも無駄に強過ぎる。
このままじゃ俺のベルトまで取られそうなんでな」
「……仕方ない、か」
苦々しい声で呟きながらもエグザイルは改めて構えた。
「愚かだな。
多であれば個を圧倒できるというその思考。
なれば、それが愚かだという事を思い知らせてやろう」
そう言った直後。
カノンは自身のベルトの鍵を引き起こし、鍵を刺した状態のまま回転させた。
次の瞬間、圧倒的なまでの紅い光の奔流が辺りに広がっていく。
「くぅっ!?」
「な、なんだってんだ……?! あれは……!」
「カノン、なのか……?!」
光の奔流が途絶えた後、そこに立っていたのは異形のカノンともいうべき存在だった。
全身が赤い色に染まり、頭部の角とも触覚ともとれるアンテナ部が禍々しく歪みながら大きくなっており、全体的にパーゼストに近い姿を形作っていた。
「そう、これもカノン。
仮面ライダーカノン、スザクフォームだ」
「そんな……!」
「お前達に教えてやろう。
進化した種の力を……!!」
そう宣言すると、カノンは持っていたスカーレットエッジ……これも禍々しく変貌していた……を大上段に構える。
するとスカーレットエッジの刀身が数倍以上に伸び、見ただけで威圧感を与えるほどの大剣へと姿を変えた。
「フンッ!!」
「ちっ!?」
「くっ!」
「…!」
「うわあっ!?」
大剣と化したスカーレットエッジの一閃を、四人のライダー達はそれぞれ懸命に回避する。
だが。
「遅いっ!!」
「ぐああっ!!?」
常識では考えられないほどの斬り返しの速い一撃は、上空に跳躍して回避したがゆえに逃げ場を失っていたエグザイルを捉え、叩き落とした。
「ぐ、う」
「……お前のベルトは装着型ではないからな。
ベルトごとは骨が折れる……ゆえに鍵だけいただいていこう。
「させな……! あぅっ!!?」
必死に抵抗しようとするエグザイルだったが、胸を強く踏みつけられ、抵抗らしい抵抗も出来ないままベルトに嵌っていた鍵を引き抜かれてしまう。
その際変身解除も行われ、エグザイルの姿からシウンへと戻っていった。
「藤原さんっ!!」
「邪魔だ」
クウガが即座に飛び掛るものの、それはシウンの二の舞でしかなく、いとも容易く切り落とされてしまう。
「……やれやれ。
確かに多勢に無勢ってわけにはいかなそうだ。
今回は見送らせてもらうよ」
ディエンドはそう呟くと、一枚のカードを装填し、ディエンドライバーの引鉄を引いた。
『ATTACK RIDE INVISIBLE』
響き渡る電子音声と共にディエンドの姿が何処ともなく掻き消えた。
そんな事など全く興味がないのか、カノンは引き抜いた鍵を見せ付けつつ、ベルトのサイドに差し込んで呟いた。
「確かにいただいた。
……今はこのぐらいにしておこう。
もう一人もいつのまにか消えているようだしな」
カノンの言葉通り、仮面ライダーアームズもどさくさに紛れて姿を消していた。
ふん、と呆れのようなモノを零しつつ、戦場に背を向けるカノン。
直後、その背中に火花が上がる。
「ま、待て……」
その原因は……水瀬ユウイチが持つ銃から放たれた対パーゼスト用の弾丸だった。
対パーゼスト用とは言っても普通の人間にとっては通常の銃と変わらない。
だが、ライダーにとっては無意味なものに他ならない……はずなのだが、カノンは何故かその足を停めていた。
「……少し痛かったな。
どういう風の吹き回しだ、水瀬ユウイチ」
「……」
「まぁいい。どうせお前にはこれ以上何もできまい。
そして……何もできないのは、お前も同じだ藤原シウン」
カノンの視線の先には、フラフラながらも立ち上がるシウンがいた。
「そんな事は、ない……!!」
その言葉と共にシウンの全身に灰色のヒビが刻まれていく。
そんなシウンに、カノンは静かな声で告げた。
「やはり、お前も到達していたか。
だが、人でない姿になれるのか? 想いを寄せる存在の前で」
「……っ!!」
カノンの言葉に反応してか、シウンの身体に走りつつあった灰色のヒビの進行がストップする。
「やはり躊躇うか。所詮は女子供だな。
それで『ライダー』を語るとは笑わせる」
「くっ! 貴方は……」
「だが、藤原シウン。
そうしてお前が気に掛ける存在は、それほどの価値がある存在ではない。
その男はベルトを没収されたわけではない。
自らベルトを返却したのだからな」
『……っ?!』
「全く揃いも揃って弱過ぎる。
そんな中にあって……流石は破壊者。この瞬間を窺っていたか」
皆が動揺していた状況の中、ディケイドは自身の武器……ライドブッカーのソードモードで空中から斬りかからんとしていた。
だが、それさえも最初から見切られており、ディケイドもまたスカーレットエッジの刃により弾き落とされてしまう。
「ちぃっ!?」
「……っ。
ふむ。破壊者の強さに免じて、この場は去ってやろう。
もっとも、再び私の前に立てるかは疑問だがね」
そうしてライダー達が倒れ伏す眼前をカノンは悠々と去っていった……。
「……ったく、どういうことなんだ?」
戦いの後。
比較的近い位置だった事もあり、士達は光写真館に移動していた。
「そもそもカノンのベルトは没収されてたんじゃなかったのか?
そして、変身してたアイツは何者だ?」
「……。
アイツは……多分、元アームズのベルトの所持者、折原シュンだ。
今はレクイエムの最高責任者をしてる」
今までただ無言だったユウイチは士の疑問に対し、ポツリポツリと答を返していく。
「その根拠は?」
「……藤原の動きの癖を完璧に掴んで、なおかつ完全に上回れるのは折原ぐらいだ。
アイツはアームズの所持者兼ライダーシステムの初期被験者として藤原と並んでライダーとしての経験が深いしな」
言いながら、ユウイチは奥の部屋にチラリと視線を向けた。
ここから中は見えないが、現在そこでは現在軽い怪我を負ったシウンが夏海により手当てを受けている。
「アイツがどうしてああいう行動に出たのかは分からないのか?」
「……正直、俺が聞きたいぐらいだ。
折原は俺達の先輩みたいなもんで、パーゼスト打倒の為に常に自分を鍛え上げて、常に最前線で戦っていた……勇敢な男だった。
それなのに……」
「まぁ、そんな奴なら行動原理は大体分かるな。
ずばり、強さだ」
「そうなのか、士?」
「間違いないだろ。
当人も散々こいつらを弱い弱いとこき下ろしてたからな。
まぁ、こいつらが弱いのは事実だが」
「……」
「で、どうしてお前はベルト一式を手放したんだ?
アイツ……藤原が一瞬パーゼストになりかけたのと関係があるのか?」
「……。
少し前にも説明したが、この世界の仮面ライダーはパーゼスト因子を利用する。
つまり、変身するたびにライダーは人から逸脱していく。
もっとも、最新型のカノンのベルトはアームズやエグザイルのベルトと違って、その影響が殆どない『完成型』なんだが……」
「なんだが……お前は怖かったわけか」
「ああ、そうだ。
俺は怖かったんだ。
藤原がパーゼスト因子に犯されていくのを陰で見て、自分ももしかしたらそうなるんじゃないかと怖かった。
最新型のベルトを任されてる自分が万が一にでもパーゼストになったらと思うと情けなくて怖かった。
誰かを、皆を守りたくて、俺は仮面ライダーになった。
けど、力を使って、思い知らされたんだ。
仮面ライダーの力は、俺には重過ぎるんだよ……」
「……」
「だから、ベルトを上層部に返却した。
上層部はそれを、仮にも適格者として選んだ人間が臆病風に吹かれたというのは体裁が悪いからって没収って形にした。
俺は……隠すつもりはなかったんだけど……」
「……ま、そんな所だろうな」
「で、でもさ、藤原さんは平気そうだったじゃないか。
きっと水瀬だって……」
「それは、アイツだからだよ」
ユウスケの言葉に、ユウイチは何処か居心地が悪そうな声で答えた。
「アイツは、俺とは違って心も身体も強い『仮面ライダー』だ。
だからパーゼスト因子さえ制御できてるんだ……」
「……いいや、そう強いわけでもないよ」
その言葉と共に部屋のドアが開き、シウンと夏海が姿を現した。
「あ、大丈夫……って、え?」
「藤原、お前……」
「どうしたんだ? その頭」
男性陣三人が驚いた理由は、シウンの髪にあった。
戦闘の前まで肩より少し長いほどに伸ばしていた髪がばっさりとカットされていたのだ。
「ん。さっきの戦闘で思う所があってね。
夏海さんに手伝ってもらって切ったんだ。
まぁ、それはさておき」
言いながら、シウンはユウイチへと視線を移した。
「話、聞かせてもらってたから。
全く……怖いなら怖いって言ってくれればよかったのに」
「え……?」
「そんなに怖いんなら、無理して戦わなくてもいいんだよ。
戦いは、戦える人に任せておいて」
穏やかな笑顔でそう告げると、シウンは士とユウスケの方に向き直った。
「ごめん、さっきは無様な所を見せて」
「全くだ。……で、これからどうするんだ?」
「カノン……ユウイチ君が言ってた通り、折原さんだと思うんで、彼の所に行くよ。
話し合いが通じるなら話し合いで、無理なら……戦って鍵を取り戻す。
多分……ううん、確実に戦いになると思うけど」
「それはアイツが戦いを……それによる自分の強化を求めてるからか?」
「それもあると思うけど……それ以上の理由がある」
そこまで言うとシウンは少し迷うかのような素振りを見せたが、やがて意を決したのか口を開いた。
「彼は……僕と同じくパーゼストの肉体を持ってる。
そして、僕とは違い、自分の意志を肉体に飲み込まれてしまっている……」
「どういうことだ……?」
それは何処かの闇に覆われた空間。
その闇の中で唯一光を放つのは、空中に浮かび上がる先程のライダー同士が戦い合う映像。
それを見つめる男……折原シュンに、長森コウヘイは問い掛けていた。
先程の戦闘で一足先に離脱していたコウヘイは、戦況悪化だけが理由で離脱したわけではなかった。
その動きの癖や口ぶりからカノンの正体が折原シュンである事を見抜き、真意その他を探る為に離脱していたのである。
そこには、仮に『状況が自分の考えていた通り』であれば、あの場でベルトを奪われるのは最悪の事態に繋がりかねない……という判断もある。
この状況判断能力の高さこそがコウヘイがレクイエムにいる理由であり、ライダーである理由だった。
元々開発部門のレクイエムに所属していたコウヘイだが、その役割は開発の為に必要な情報や物資の『超法規的』な回収だった。
その手段は穏便なものから手荒なものまで多岐にわたる。
それらをこなす器用さ、判断の良さ、腕っ節の強さ……コウヘイはそういうものを確かに備えた人間だった。
そして、そんな人間だったからこそ……レクイエムにおいて数少ない、戦闘に通じつつ、因子適正が高い人間だったからこそ……彼は新たな『アームズ』所持者に選ばれたのである。
その選抜に際し、コウヘイは一つの条件を出している。
それはパーゼスト事件に巻き込まれ、植物状態となっている自身の妹の治療と回復を最先端の医療技術で惜しみなく行う事。
その条件をレクイエムが呑んだからこそ、コウヘイは『同じ目的を持っている筈』のファントムから、あるいは元々友人であったシウンやユウイチ達からの疑念の眼差しを受けても尚レクイエムで動いていた……のだが。
「どういうことだ、とは何の事だ」
「一つ。
俺の妹が今日付けで一般病院に転院手続きが取られている事。
二つ。
ここ、レクイエムの研究施設の奥で量産されているパーゼストの事。
三つ。
アンタの腕から流れてる、緑色の血の事……この三点だ」
コウヘイの言葉を受けて、シュンは振り返る。
その右腕からは緑色の液体が伝い落ち続けていた。
「一つ。
お前はベルトを奪って今日消す予定だった。
あのパーゼストは研究材料兼囮役に引き寄せていたわけだが、気付いていたか?」
「何……?」
「そうしてお前を始末した後は、約束を守る必要などない。
ゆえに妹を普通の病院に移す手続きを取った……それだけのこと。
即座に処分しないだけマシだと思え」
「……貴様」
「まぁ、待て。
後二つの疑問が先だろう。
二つは、これから訪れるパーゼストの……強者の世界で私が強者として君臨する為の駒だ。
個の強さは最重要だが、群れを軽視するわけにもいかんのでな。
お前に回収させたパーゼストはその為のものだ。
もっともレクイエムの連中には対パーゼスト用だと偽っているがね。
いや、間違ってはいないか。
いずれ『本来のパーゼスト』も私に敵対するものは駆逐する予定だしな。
ちなみにお前達が上層部と呼ぶ存在の殆どは、既に私が処分している」
「……!!」
「そして三つ……傷の原因は先程の戦闘の最後に破壊者に傷つけられた事による。
そして緑色なのは言うまでもなく……私が完全にパーゼストになった事を意味している」
そう言った次の瞬間、シュンの姿が変わる。
背中に巨大な翼を持つ……フェニックスパーゼストへと。
「僕は開発初期のベルトを体内に取り込んでいる事もあってどうにかこうにか完全なパーゼスト化を免れている。
でもあの人は……多分、僕と違って装着型だった事、彼自身が強さにこだわってしまったがゆえに『ああ』なってしまったんだと思う」
「なるほどな」
「もっと早くにこの事態に気付ける要素はあった。
でも、僕自身……多分コウヘイ君や周辺の人達が認めたがらなかった。
あの人の純粋な『強さ』を知っているから、認めたくなかった。
あるいは敵に廻しても勝てないと思っていたのかもしれない。
だけど……」
グッと拳を握りつつ、シウンは言った。
「こうなってしまった以上、その責任はきっちり取る」
「戦うつもりか? あの鍵がないとライダーにはなれないんだろ?」
「でもパーゼストの力を使う事は出来る。
さっきは……つい、躊躇っちゃったけど、もう大丈夫」
髪を切ったのは、カノン……折原シュンに指摘された事を多少なりとも断ち切る為のものだろう。
そう簡単に整理出来る事ではないだろうが、それでも戦う決意に変わりはない……シウンの表情はそんな強い意志を感じさせた。
「ライダーになれないのに戦うのか?」
「パーゼストにはなれるからね」
「対パーゼスト用に作られたライダーにパーゼストになって立ち向かうのは危険だろ」
「うん、正直……怖いんだけどね。
でもパーゼストだから……ライダーになれないから戦わない、なんて、それはライダーじゃないと思うんだ」
「……っ!」
「だから、戦うよ。
でも正直、僕やファントムの人達だけじゃ心許ない。
本当ならこの世界の事だから、僕達だけでなんとかすべきだって分かってるんだけど……それを承知でお願いさせて欲しい」
そう言うと、シウンは地面に跪き、士達に土下座した。
「せめて、この騒動を収めるまで力を貸してください。
お願い、します」
「……いやいや、そんなんいらないって」
そんなシウンにユウスケはポンポンと肩を叩いて声を掛けた。
それに反応して顔を上げるシウンにユウスケは言った。
「困ってる人を助けるのに、理由なんか要らないよ。
なぁ士?」
「さぁな。
だがまぁ、ここの騒動を解決しない事には次の世界には行けないみたいだしな」
肩を竦めつつ……その眼は真剣……士は言葉を続けた。
「俺は破壊者だ。
俺の旅を邪魔するものは、ただ破壊する……それだけだ。
だから、そのついでにお前たちに協力する事になるんじゃないか?」
「……ありがとう」
そうしてライダー達の協力体勢が整おうとしていた、その時だった。
「大変大変っ!!」
そんな声と共に喫茶店『LastRegrets』のウェイトレス・薫が飛び込んできた。
「って、薫ちゃん?! どうして……」
「ファントムの人から話を聞いて、連絡した方がいいかなって思ったから。
えっと、第555地区913位置だったかな……そこでライダー同士が戦ってるんだって!」
「……そっか、ありがとう。門矢さん、小野寺さんっ!」
「よっし、任せてくれよ」
「行くか」
顔を見合わせた士達は、我先にとばかりに写真館を飛び出していく。
後に残ったのは、夏海と薫、そしてユウイチ。
「……行かないんですか?」
「あの二人と、藤原なら俺が行かなくたって大丈夫だよ。
ライダーじゃない俺は、やっぱり足手纏いだよ。
ライダーだった時でさえ怖がってた俺が、何か出来るわけ……」
「甘えないでくださいっ!!」
弱気を含んだユウイチの言葉を、夏海の怒りの声が覆い隠した。
戸惑い顔を上げるユウイチを睨み付ける様に見据えながら夏海は言った。
「怖がってるのは自分だけだって思ってるんですか?!
シウンさん、さっきも言ってたじゃないですか『怖い』って!」
「それは……」
「黙っててほしいって言われましたけど、言っちゃいます。
手当てしてた時、シウンさん、泣いてたんですよ?!」
「泣いて、た?」
「パーゼストの姿になるのが怖い、化け物になって皆や貴方に嫌われるのが怖いって。
でも、その事以上に、皆を守れないのが、皆の笑顔がなくなるのが、貴方がいなくなるのが怖いから戦うんだって、泣きながら笑ってたんですよ?!
そうして、シウンさんが戦うのに、貴方は何も感じないんですか?!」
「……」
「……ユウイチさん、本当に怖いのはなんだと思う?」
「え?」
そう問い掛けたのは薫だった。
薫は静かな声と眼差しをユウイチに向けて、静かに穏やかに語りかけていく。
「貴方が本当にただ怖いだけなら、とっくの昔にファントムを辞めてるか逃げ出してるはずじゃない?
そうしないでシウンさんの側で戦っていたのは戦う事そのものが怖かったわけじゃないってことだと私思う」
「……」
「私思うんだ。
本当に怖いのは、怖い事を怖いって認めないこと。
それは、心に嘘を吐くって事。
そうしているうちに、嘘を吐いてる事にも気付かなくなってしまうから。
怖い事を怖いって認めるのは、最初の勇気。
ユウイチさんは、その最初の勇気をちゃんと持ってる。
十分強いよ」
「……」
「だから、もう一歩踏み出そうよ。
怖いって分かっていてもやらなきゃならないことを認めて、その為に前に進もうよ。
今怖いからって何もしなかったら、本当に逃げた事になるよ。
一番大切なモノを、無くしちゃうよ?」
「一番、大切なモノ……」
思えば。
最初に変身した時は何を思っていただろうか。
これでたくさんの人を助けられる。
そう思っていたはずだ。
だけど。
自分の手じゃ届かない、助けられないものを目の当たりにして。
強くなっても強くなっても足りない事を思い知らされて。
いつしか、怯えるようになっていた。
力を持っているのに助けられないのは、自分が弱いからじゃないかと。
強い力を、自分が使い切れてないだけじゃないかと。
でも、そうじゃない。
自分はただ、自分の理想に負けていただけだ。
理想に見合う努力もしていなかったのに。
そうして、負けて、負け続けて、本当に大切なものを亡くしてしまうのか?
『ユウイチさんっ』……そう笑いかける薫。
守るべき人達を。
『ユウイチー』……意地悪そうに笑うコウヘイ。
友達を。
『ユウイチ君』……掛け替えのない存在、藤原シウンを。
失っちゃいけないものを、亡くしてしまうのか?
自分の勇気が足りない、ただそれだけで。
「なくして……たまるか……!!」
ユウイチは、呟きながら立ち上がった。
その拳は、徐々に、静かに、だが強く硬く握られていった……。
「ぐあっ!!」
蹴り飛ばされたアームズは壁……レクイエムの研究施設の外壁……を突き破り、地面に転がった。
「所詮お前もこの程度か。
一応それなりの強者であればこちら側に引き込んでやらなくもなかったが……」
それを追う様にフェニックスパーゼストからカノン・スザクフォームへと変身したシュンが姿を現す。
「へっ……強者、ね。
それは何を指して言ってるやら」
「……何を言っている?」
「確かにアンタは強いよ。主に腕力的な意味で。
だが、俺はアンタが強者とは思わん。
ファントムの恋愛系正義馬鹿女ライダーとライダーだった臆病馬鹿の方が強い気がするね」
「……何を根拠に?」
「シウンの奴は、パーゼストになっても自分を見失ってない。
『強さ』を共通目標とした結果取り込まれたらしいアンタとは違う、というか真逆だ。
ユウイチは、あれだ。
『仮面』の重さを理解してビビりながら、生身のまんまでシウンの横で戦ってるのが馬鹿っぽくて強いと思うぜ。
あと、俺にも負けてると思うぞ。
なんでかっていうと……って、話の途中だってのに恋愛系正義馬鹿とお供が来た」
その言葉通り。
施設の正門から三台のバイクが姿を現した。
『変身ッ!!』
「……はああああああああっ!!」
そして、その搭乗者たちはそれぞれ姿を変化させる。
仮面ライダーディケイド、仮面ライダークウガ、そして……シウンのパーゼストととしての姿たるウルフパーゼストへと。
「行くよっ!」
「おうっ!」
「ふん」
三人は同時に急停止したバイクから跳躍、カノンにキックを繰り出した。
さしものカノンも大剣状態のスカーレットエッジを展開していない事もあり、三人同時攻撃を捌く事も耐え切る事も出来ず、宙を舞った。
「コウヘイ君、大丈夫?!」
体勢を立て直すカノンを油断なく見据えながら、アームズに問うウルフパーゼスト。
アームズもどうにか立ち上がり体勢を整えつつ、答えた。
「まぁなんとかな。
……その様子だと状況は分かってるみたいだな」
「うん。……あの人は、もう戻れないんだね?」
「ああ。倒すしかない。
上層部も殺されてアイツに掌握されてる以上、看過は出来ない。
アイツがまだ人間部分を微妙に残してるうちに倒さないと、最悪人類を守る組織が人類を駆逐する組織になっちまう」
「!! …………分かった」
「そうそう、これ渡しとくわ」
そう言ってアームズが取り出したのは……他でもないエグザイルの鍵だった。
「なっ!? 貴様……」
カノンが多少の動揺と共に腰のベルトを見やると……確かに差していた筈の鍵が抜き取られていた。
「言ったろ? 俺にも負けてるって。
過信のし過ぎは足元をすくわれる……いい教訓になったろ」
「……ありがとコウヘイ君。
なんか決意が無駄になった気がしないでもないけど……変身!!」
紫の閃光がウルフパーゼストを包み、仮面ライダーエグザイルへと変貌を遂げる。
「……まぁ、いい。
楽しみが増えた……ただそれだけの事だ」
「いつまでそう言ってられるのかね?
さぁて、行きますか皆の衆」
「お前が仕切るのかよ」
「まぁまぁ、士」
「……はぁっ!!」
エグザイルの叫びを皮切りに、四人の仮面ライダーがカノンへと殺到する。
「ふん、同じ結果になる事が分からないのか?」
「どうかな?」
アームズの白い弾丸がカノンに向かって発射される。
それを簡単に回避するカノン……だったが。
「はぁっ!」
「おりゃぁっ!!」
その隙を狙って、ディケイドとクウガの回し蹴りが空を裂く。
「ちょこまかと……!」
それらさえもバックステップで避けるカノン……その上空からエグザイルの飛び蹴りが突き刺さる。
「ぐっ!?」
思わずたたらを踏むカノン。
さらに。
「ちぃぃぃっ!?」
カノンの体中に火花が散る。
それは……ライダー達から少し離れた位置で、バイク上からライフル型の銃器を構える『彼』によるもの。
「ユウイチ君っ!!?」
「悪い、遅れた。
あと藤原、心配掛けて悪かった。もう大丈夫だ」
「……うんっ!!」
「やれやれ。
ま、何はともあれどうだよ強者様? 当ててやったぜ?」
「おのれ……」
思わぬ苦戦に際し状況を変えようと、ベルトにぶら下がっていたスカーレットエッジを取り出そうとするカノン。
だが。
『させるかっ!!』
離れた場所にいる三人……シウン、コウヘイ、ユウイチの声が重なる。
ユウイチが放つ弾丸が気を散らし、コウヘイの白い弾丸が体勢を崩し、即座に距離を詰めたシウンの蹴りがスカーレットエッジを持つ手を蹴り飛ばした。
結果、スカーレットエッジはカノンの手を離れ、遠くへと消えていった。
「はっ。動きが読めるのはお前だけじゃない。
最初からお前って分かってりゃ俺らだってこのぐらいは出来る」
「どうでもいいけど、なんでさっきからコウヘイ君が自慢げにしてるのかな……」
「……なめるなぁぁぁっ!!」
咆哮の直後、カノンの背中から巨大な異形の翼が生え、そこから発射された翼の弾丸が4人のライダーを吹き飛ばした。
「この程度の攻撃で調子に乗る……だから貴様等は弱いと言っている……!!」
カノンは、地面に倒れ、あるいはしゃがみ込むライダー達に向かって朗々と告げた。
「そして、弱者はお前等だけではない。
人間は種として弱く、脆く、醜過ぎる。
互いに足を引っ張り合い、自分達そのものを危険に晒す。
ファントムとレクイエムもそうだ」
「あれはお前が……」
「私が介入する以前からその傾向はあった。
互いの利権や立場を守ろうと、人を守る為の組織がエゴを剥き出しにしていた。
アームズのベルトの返却の際にそれらを見て、私さえ利用しようとするクズどもを見て、私は愕然とした。
こんなものの為に私は戦ってきたのかと……!!」
「……」
「そうして人に絶望した私はパーゼストとなった。
こうして力を得た以上、私のやるべき事は一つ……力を極め、その力を持って、全てを支配する……!
人も、パーゼストも、何もかも!」
「そんな事は、僕達が……ライダーがいる限りさせない!!」
「ライダー、だと? 笑わせる!
弱い人間の見本のような貴様等がか!?」
「なに……?」
「一人は強い力とその責任に怯えて、その力を放棄した」
「……!」
「一人は自分以外の弱者を血を分けているというだけで庇い、私の正体に薄々勘付いていながらもその肉親の状態悪化を避ける為に事実を受け入れず、現状を招いた」
「否定はしねーよ」
「一人は全てのものの為に戦うと言いながらも特定の人間の視線を恐れ、その力を十二分に発揮しようとしなかった。
やろうと思えば今の私と同じ力を発揮出来ていたであろうにもかかわらずだ」
「……」
「そんな奴等の何が仮面ライダーだ。
お前等はただの弱者でしかない……!!」
「確かに、な」
そんなカノンの言葉を、静かに、だが強い言葉で遮ったのは、ゆっくりと、悠然と、堂々と立ち上がる一人の男。
世界の破壊者、仮面ライダーディケイド。
「人は弱く、こいつらも弱い。
こいつらは仮面ライダーとは言えないかもしれない。
だが、それは今だけだ」
「何……?」
「こいつらの足は常に動いている。
時に後に下がったり、少し足踏みする事もあるだろう。
だが、決して止まってはいない。
そして、こいつらの足を動かすのはいつだって『他の誰か』の為だ」
一人は、世界中の『誰か』の為に。
一人は、妹の為に。
一人は、誰かと、好きになった男の為に。
「こいつらが戦うのは、自分の為じゃない。
なら、こいつらはいつか必ず変わっていく。変身する。
本当の仮面ライダーに。
誰かの為に命をかけて戦う……それが仮面ライダーだからだ」
「門矢……」
「……門矢さん」
「……ふん」
「まぁ、ライダーになったところで半人前。いや三分の一前ってところだろうがな。
俺の足元にも及ばない。
……まぁ、三人でなら俺の足元ぐらいか」
「相変わらず凄い自信だなぁ士は」
『ならば、そこまで自身を強者と豪語するお前は何者だ?』
「俺か? 俺は……」
言いながらライドブッカーからカードを取り出し、すぐさまベルト……ディケイドライバーに装填する。
『ATTACK RIDE SLASH』
「通りすがりの仮面ライダーだ。覚えておけっ!」
剣に変形したライドブッカーを手に斬り掛かるディケイド。
「ふん、遅……ぐっ!?」
言葉を発し掛けたカノンの背中に青い弾丸が降り注いだ。
そのカノンの背中の向こうには……仮面ライダーディエンドがディエンドライバーを構えていた。
「やぁ。これで協力したから、後で分け前を頼むよ士」
「やなこった!!」
叫び答えながら、その隙を突いてライドブッカーを振り回すディケイド。
幾重にも『残像』を展開しながら放たれた刃は、カノンの身体に確実にヒットした。
「ぐうあっ!」
「っと、コイツは返してもらうぜ……っと」
斬撃の衝撃で宙を舞う瞬間、ディケイドはカノンのベルトを掴み、強引に剥ぎ取った。
その際『カノン』は、カノンの姿からフェニックスパーゼストへと姿を変え……否、戻った。
「ほら、受け取れ」
そのベルトを、ディケイドはユウイチへと放り渡す。
「っと」
それを片手でキャッチしたユウイチは、ベルトを……自身が一度は手放した力を見つめた。
「……俺は、もう逃げない。
自分のすべきことから、自分の気持ちから、この力の意味から……!」
決意を言葉に代えながら、ユウイチはベルトを装着し……鍵を廻した。
「変身っ!!」
紅い閃光が通り過ぎた後現れたのは、紅いラインを全身に走らせた反因子の戦士。
仮面ライダーカノン。
「行こう、藤原、コウヘイ」
「へいへい」
「……うんっ!」
並び立つ三人の視線は、フェニックスパーゼストへと向けられていた。
それはもう一つの自分の可能性。
力と、パーゼストプログラムに呑まれてしまった、自身の鏡像。
だからこそ、倒す。倒さねばならない。
それがこの世界の仮面ライダーなのだから。
「うおおおおっ!!」
カノンとエグザイルが併走し、その勢いのままフェニックスパーゼストへとキックを繰り出す。
『フンッ!』
その攻撃をフェニックスパーゼストは両腕で簡単に防ぐ……が。
「簡単に通るとは……」
「思ってない!!」
防いだ腕を足場にし、二人のライダーは再度跳躍した。
その瞬間を狙って、アームズの光弾が次々とフェニックスパーゼストに突き刺さっていく。
『ちぃっ! こんな攻撃が……』
「こいつも持ってっけぇっ!!」
更に両肩に装備された生体爆弾を二つ同時に投げ付けた。
着弾のタイミングの違いで時間差で爆発が起こる。
そして、そこに。
『はああああぁぁぁっ!!』
脚部に紅い光と紫の光を纏わせたカノンとエグザイルのライダーダブルキックが舞い降りる……!!
『ぐうううううああっ!!?』
体勢を崩していたフェニックスパーゼストは防御体勢が取れず、ダブルキックをまともに受け吹き飛ばされる。
しかし、ただ吹き飛ばされはしなかった。
巨大な翼を展開し、空高く上昇して体勢を立て直しつつ、一つ一つがアームズの光弾に匹敵するかそれ以上の羽根の雨を降らせ、追撃しようとするライダー達の動きを封じた。
『弱き者が……調子に、乗って……!! 来い!!!』
上空で吼えるフェニックスパーゼストの呼び掛けに応え、レクイエムの施設から量産されたパーゼストが次から次に現れていく。
「あちゃーなんという悪役……」
「所詮、自分に負けた奴だ。こんなもの……ん?」
クウガ……ユウスケの洩らした言葉にディケイドが反応した時だった。
「っと」
突然ライドブッカーから数枚のカードが飛び出し、ディケイドの手の中に納まった。
カノン・エグザイル・アームズの姿が描かれたカードが三枚。
三人の姿とそれに隣り合い『異形の斧槍』が描かれたカードが一枚。
それに、三つの鍵が紋章のように描かれたカードを含む計五枚。
「あー。……いや、なんというか、いい事なんだけど気の毒だよな」
『今から起こる事』を思い浮かべ、クウガは苦笑しているかのような声を零す。
「他人事みたいに言ってる場合じゃないぞ。
お前もやるんだ」
『FINAL FORM RIDE KUKUKUKUUGA!!』
「ちょ、おま……ってまたかっ!!」
次の瞬間、クウガの姿が『超絶変形』し、クワガタの形をしたクウガゴウラムへと変わった。
「よし、蹴散らして来い」
「命令すんなっ!!」
文句を言いながらもクウガゴウラムに変形したクウガは空を飛び、量産パーゼストを蹴散らしていく。
「え? お、小野寺さんっ!?」
「い、一体何が……」
「さ、次はお前等だ」
『ゑ?!』
動揺するカノン達を尻目に、ディケイドはカードを装填した。
『FINAL FORM RIDE KKKKKEY!!』
「お前ら、ちょっとくすぐったいぞ」
「へ? いや、あの……」
「……なんか凄い嫌な予感が……」
「ま、まさか……アレみたいに……?」
「気にすんな。行くぞ」
言いながらディケイドは三人の背中に手を『突き刺した』。
「ひゃんっ!?」
「ぬおっ!?」
「おおおおっ!?」
それぞれ思わず上げた声と共に三人の姿が変貌していく。
エグザイルの身体は、90度右に回転した上半身が槍(真っ直ぐ伸ばした腕を組み、組んだ両手部分が刃)となり、下半身は大きく広げた足が変形・組み合わさり斧の形状に。
アームズの身体は、腕と足を真っ直ぐに伸ばし、何処からかせり出して来た銃口が足の先端についてライフルの形状に。
最後にカノンの身体はそんな二人を繋ぐ柄としての形状に変化。
その三つが組み合わさり……一つの巨大な武器、斧槍銃・キーハルバードが完成した。
「え? こ、これ、どうなって……え?!
足、こんなに、開い……お、お嫁にいけない……」
「つーか、これなんだ?
ハルバードのケツに銃なんかつけんなよ。俺要らないだろこれ」
「俺なんか柄だぞ?! むしろ要らないのは俺なんじゃ……」
「ごちゃごちゃやかましい」
言いながらディケイドは巨大なハルバードを器用にグルグルと振り回し、群がっていたパーゼスト達を一閃。
斬られたパーゼスト達は、この世界のライダーが撃破した後と同様、光の粉になっていく。
「まだまだ行くぞ」
さらに振り回しついでばかりにハルバードの逆先端に装備された銃で迎撃する。
撃ち出された白い弾丸は無慈悲なまでにパーゼストを光の粉へと変えていった。
『おのれぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!!!』
遂に最後の一体にまで追い込まれたフェニックスパーゼストは、全身を紅い光と炎の風で包み込んでいく。
そこに集まるエネルギーは凄まじく、巨大な溶鉱炉さながらの熱気を撒き散らした。
「……最後の足掻きも、これで仕舞いだ」
『FINAL ATTACK RIDE KKKKKEY!!』
次の瞬間。
ハルバードがディケイドの手を離れ、独りでに宙に浮き上がり、刃の先端を炎風を纏いながら急降下するフェニックスパーゼストへと向ける。
「はっ!!」
ディケイドが先端近くに飛び乗ると、地面に向けられていた銃口から膨大な白いエネルギーが放出され、フェニックスパーゼストへ向けて『発射』された。
『な、にぃっ!!?』
『はああああああああああああああああああッ!!』
紅・白・紫の光が交じり合ったエネルギー光を纏った槍の先端と、その上で立ったまま放たれたディケイドのキックが同時にフェニックスパーゼストに突き刺さる……!!!
『ぐ、が、馬鹿な、人間に、弱い人間に、私を恐れ逃げ惑うような、人間にぃぃぃ!?』
「弱いのはお前だ。
守るべき存在の弱さを受け止められなかった……お前だっ!!」
『ぐ……わあああああああああああああああああああyigohooohppppihphpphpip!!!』
駄目押しと言わんばかりに、最後に一際強い力を込められ、貫かれ。
フェニックスパーゼストは光の粉となって消え果てていった。
「……っと」
降り注ぐ光の粉の周囲を一回りするように飛んだ後、ディケイドは着地した。
その際、変形も解除され、三人のライダーとクウガもその近くに降り立つ。
距離を取って状況を見守っていたディエンドも含め、ライダー達は無言で空を、光の粉を眺めていた。
そこにある何かを見出そうとするかのように……。
戦い終わって日が暮れて。
光写真館の前で、ライダー達は言葉を交わしていた。
「これからどうするんだ?」
ユウスケの疑問に、シウンは穏やかな表情で答えた。
「パーゼストそのものはまだこの世界にわんさかいるからね。
組織を再編した上で皆で力を合わせて、それを駆逐していくよ」
「そっか。出来れば手伝いたいけど……」
「ありがとう小野寺さん。その気持ちだけで十分だよ。ね、ユウイチ君」
「お前等はお前等のやるべき事があるんだし、な。
……悪かったな、寄り道させて」
「別に。寄り道も旅だ」
「士、最後まで偉そうだな」
「で、お宝は?」
「おいおい、そこは空気読め。
……まぁ今はやれないが、いつか暇な時にでもこの世界に来いよ。
言った通り、俺の目的が果たされた後なら、ベルトはくれてやるさ。いいだろシウン?」
「まぁ、平和になればね」
「……やれやれ。出来れば先延ばしは勘弁してもらいたいけどね。
ここは大人になっておこう。
その時までお宝は大事にしておきたまえ」
指鉄砲を撃つポーズを三人に向けた後、仮面ライダーディエンドこと海東大樹は歩き去っていく。
その姿をぼんやり眺めていたシウンに夏海がヒソヒソと耳打ちする。
「あの、シウンさん。頑張ってくださいね……ユウイチさんとのこと」
「えと、その、うん…………頑張る」
「何話してんだ? じゃあ、そろそろ俺達は行くよ」
「ま、そうだな。精々達者でな」
「またいつか会えるといいね」
口々に別れの言葉を告げて、この世界のライダー達はバイクに乗って去っていった。
その姿が見えなくなった頃、ユウスケが口を開いた。
「さぁ、次の世界だな」
「次はどんな世界でしょうね。……士君?」
話しながら写真館の中に入ろうとする二人とは逆方向に歩いていく士に、夏海は疑問の篭った視線を向けた。
そんな夏海に、詰まらなそうな表情で士は告げた。
「お前等は先に帰ってろ。俺は用事がある」
「あ、こんにちは。皆無事だったみたいでなによりです」
喫茶店『LastRegrets』の前を軽く掃いていたウェイトレス薫は、自分に近付いてきた士に笑いかけた。
士はその友好的な笑顔を弱く睨み付ける。
「な、なんですか?」
「幾つか聞いていいか?」
「ええ、どうぞ」
「あの時……さっきの戦いで俺達に状況を教えた時、なんで写真館に来れた?」
「え?」
「場所を知っていたのか?」
「あの、その……ファントムの人が皆が入ってくのを見たって聞いて……」
「そうか。
じゃあ、なんでそのファントムの人とやらが写真館に来なかったんだ?
なんでただのウェイトレスであるお前があんな事を知らせに来る必要がある?」
「……」
「夏みかんの話だと渋るユウイチを説得したしたらしいな。
まぁ、それ自体はただの御人好しで片付けられるが、さっきの事を考えると腑に落ちない。
……お前、一体なんなんだ?」
「………………ここまでのようですね」
その瞬間。
少女の雰囲気が変わった。
いや、変わったのは雰囲気だけではない。
茶色だった少女の髪が、金色へと変わる。
その瞳の色も、灰色から深い青色へと変わっていった。
「はじめまして。
仮面ライダーディケイド・門矢士。
私はオーナ。
この世界を管理する、世界の王……世界王・オーナと申します」
「世界の王とは大きくでたな。
しかし、王様が嘘をつくとは感心しないな」
「嘘、とは?」
「俺とはじめて会った時、俺に用はない、そう言ったろう」
「ああ。
でもあれは嘘ではありませんよ。
薫は言っていたでしょう? 私は何もって」
「?」
「薫は、この肉体と心の持ち主。
彼女自身はごく普通の人間ですから、彼女は貴方に用はなかったんですよ。
だから、嘘は言ってません」
「なるほど、大体分かった。二重人格って奴か」
「微妙に違いますが、その認識で十分です」
「……そういう事なら、アンタは俺に用があるわけだな。
いや、あった、か?」
「ご推察、見事です。
もう用事は済ませていただきました。
事前に了解を得ず利用してしまった事は、心から謝罪させていただきます」
そう言うと『彼女』は深く頭を下げた。
「どうでもいい。終わった事だからな。
で、アンタは俺を何に使ったんだ?」
「電王の世界の時空異変や、世界の融合の影響で、この世界も歪んでいました。
本来ココは『貴方達の世界観』とは遠い世界なのですが、ライダーという共通項ゆえにそうなってしまっていたのです。
その歪みが具現化していたのが折原シュン・フェニックスパーゼスト。
あれは元来オリジナルが存在し得ないパーゼストだったんですが……」
「俺のせいで生まれたと?」
「いえ、あくまで世界の歪みです。
貴方に責任はありませんよ。少なくともこの世界は」
「……そうか」
「その歪みの具現たる存在を貴方に破壊してもらう事で、この世界の歪みを正す……それが私の用事でした。
貴方のお陰で無事に歪みを取り除く事が出来ました。
本当にありがとうございます」
「礼を言うのなら、何か形で示してもらいたいもんだがな」
「そうしたいのは山々なんですが……おそらく何か渡しても無駄になるでしょう」
「何故だ?」
「歪みが解消されたがゆえに、この世界は正しい形に回帰します。
その影響で今の世界のモノを渡しても恐らく消えてしまうでしょう」
「回帰、だと? まさかあいつらも……」
「大丈夫です。彼らそのものが消えたりはしません。
形こそ元に戻りますが、大丈夫です」
「……」
「貴方達のこの世界での記憶も、影響を受けて『あやふや』になると思いますが……消えはしません。
ですから、貴方がこの世界で手に入れたカードもまた消滅はしません。
しいて言えば、そのカードが私達が渡す事が出来る、せめてものお礼になります。
おそらく使う事はないでしょうが、どうぞお納めください」
「……言われるまでもない」
そう言って、士は世界王に背を向けた。
「もう行かれますか?」
「ああ、疑問は解決したからな」
「そうですか。
では、貴方達の旅の無事を祈らせていただきます。
貴方の世界、見つかると良いですね」
「言われるまでもなく見つけるさ」
「こんな事を言うと不謹慎ですが……もし見つからず、旅に疲れ果てた時はこちらにいらっしゃってください。
この世界は、貴方を拒絶するつもりはありませんから」
「………………………………好意には感謝する。
じゃあな」
ディケイドの旅は続く。
それが何処で終わるのか。
それがどのような形で終わるのか。
仮面ライダーディケイド・門矢士自身知る由もなかった……今は、まだ。
…………END