世界の破壊者、ディケイド。
いくつもの世界を巡り、その瞳は何を見る?
仮面ライダーディケイド
&仮面ライダーKEY〜Another RiderS〜中編
「さて」
そこは先程の戦闘場所から割と離れていない場所にある喫茶店『LastRegrets』。
落ち着いて話すのに都合のいい場所として藤原シウンが門矢士達をここへと案内したのである。
「まず何を何処から、というか僕達と君達、どちらから話すべきなのかな」
呟いた後、思案顔でとりあえず出された水を啜るシウン。
そんなシウンに士はくだらなさそうに言った。
「話がしたいと言ったのはそっちだ。
ならそっちから話すのが筋じゃないのか?」
「……お前、何様だよ」
そんな士に不満そうな視線を投げるのは、先程の戦闘で『ライダー』が来るまで最後まで戦っていた戦闘員、水瀬ユウイチ。
「アンタの『力』が凄いのは分かるが、デカい顔して偉ぶるのは折角の強さが台無しだぞ」
「別にどうでもいい。
俺は当たり前の事を言っただけだ」
「士君!」
不遜な態度の士に抗議の声を上げるのは光夏海。
彼女は戦闘の後移動しようとしていたタイミングで士達と合流し、その流れでここにいる。
「なんだ夏みかん」
「……」
夏海は、やれやれ、と言わんばかりの表情をしている士を真っ直ぐな眼で見据えている。
士は付き合いきれないとばかりに夏海から視線を逸らしつつ口を開いた。
「俺は別に間違った事は……」
「笑いのツボ!」
「っこっの……夏……ふ、はははははっはは」
士が視線を逸らした隙を突いて行われた、光家秘伝の『笑いのツボ』。
これを押された者は否応なしに笑わせられてしまうという、基本的に尊大な士でさえ逆らえない、恐るべき技なのだ。
「……すみません、士君、いつも失礼で」
「コイツ悪い奴じゃないんだけど、口悪いから。
俺も、ごめん」
「ふ、ははっははははっは……くそ、なんで……はははははは」
笑い続ける士の代わりに二人に頭を下げる夏海とユウスケ。
そんな二人を見て、シウンとユウイチは顔を見合わせた。
「……やれやれ、これじゃ怒れないな」
「そうだね」
ハァ、と溜息を零すユウイチ。
そんなユウイチの様子を見てなのか、シウンはクスリと微笑みつつ、二人に向き直った。
「気にしないで。門矢さんの言っている事は正しいし。
まずこちらから話すべきだったよ。
じゃあ、この世界の話を……」
「その前に、コーヒーどうぞ〜」
「ありがとう、薫ちゃん……っていうかまだ注文してなかったよね?」
人数分のコーヒーを持ってきた店員……ウェイトレスの少女にシウンは尋ねた。
薫と呼ばれた少女は、ニコニコと人懐っこい笑顔を振りまきつつ答える。
「マスターからのサービスだよ、シウンさん。
命懸けて世界を守ってる人達へのささやかな御礼」
「……そっか。ありがとう」
「次からはちゃんと金取った方がいいぞ。
そんな事してるって知ったら溜まり場にする馬鹿とか出てくるだろうし。
コウヘイとかな」
笑顔で礼を述べるシウンとは対称的に、詰まらなさそうにというか、無感情にユウイチは言った。
そんな言葉に小さく首を傾げつつ、薫は答えた。
「あはは、忠告ありがと、ユウイチさん。
サービスは適度にしておくよう、マスターに伝えておくね。
……それはそれとして、なんか元気なくない?」
「どうしてそう思う?」
「いつものユウイチさんでも同じ事言ってたと思うけど、なんか表情暗いから」
「……」
「んー……やっぱりベルト没収が効いてる?」
「無くは無いな」
「早くライダーに戻れるといいね」
「……ん」
「アンタもライダーなのか?」
薫の言葉に曖昧な反応を返すユウイチに対し、ユウスケは素直に疑問を口にした。
そんなユウスケにユウイチは小さく肩を竦めて見せた。
「だった、だ。
少し前に問題を起こしてな。
変身道具のベルトと鍵を没収された」
「今はそれを早く取り戻す為に僕と一緒にライダーの再研修中って所……だよね?」
「ん……まぁ、な」
「そっか……」
「早く取り戻せると良いですね」
「うんうん、全くもって。
シウンさんに守られっぱなしって締まらないからねぇ」
「……そう、だな。
それはそれとして仕事に戻らなくてもいいのか?」
「はいはい。
じゃあ、私はこれで失礼しまーす。……」
「……なんだ? 俺に何か用か?」
ようやく笑いのツボが収まった士はチラリと自分を見る少女の視線に気付き、視線を返した。
返された少女はパタパタと手を振って否定の意を表示する。
「いえ、私は何も。気に障ったらごめんなさい。
じゃあ失礼します〜」
「……。
俺の顔に何かついてるか?」
去っていく少女の背中を一瞥しつつ疑問を呟く士。
そんな士にシウンは苦笑気味に答えた。
「ついてないよ。
……あの子は色々勘のいい子だから、門矢さん達の雰囲気の『違い』をなんとなく感じ取ったんじゃないかな」
「……ふーん。
まぁ、いい。そろそろ話を聞かせろ」
「そうだね。
簡単な所から説明すると……この世界は憑依体・パーゼストと呼ばれる怪人によって危機に晒されているんだ」
「パーゼスト?」
「憑依するって意味のパゼストから来てる名前なんだ。
この世界の生命体のほぼ全てに組み込まれてる『因子』を何らかの要因で活性化させられる事で、人間から変貌してしまった存在の総称……それがパーゼスト」
「そもそもの奴等の源流は恐竜絶滅時の隕石と共に落ちて来たモノで、その際に奴等の因子が世界中にばら撒かれてる。
んで、最近になって奴等にとっての都合のいい時期が来たのか因子存在の活動が活発になって、世界が危機に陥ってる……簡単に言えばそんな感じだ」
「でも、それって変じゃないですか?
それだったら皆、その、パーゼストとかになってるんじゃ?」
「まぁ、その辺りは個人的な資質や憑依を誘発している存在の数の関係があってね。
少なくとも、現段階において全人類がパーゼストに変貌させられるような事態にはなってないし、ならない」
「だから当座の俺達……ファントムの活動指針としては現れるパーゼストの確実な殲滅と、今一番厄介な高位パーゼスト・フェニックスパーゼストの撃破、アンチパーゼストプログラム・プログラムKEYの完成だな。
それを推進する為に、人を守る為に戦うのが、因子の力を操って戦うこの世界の仮面ライダーなんだ。
とまぁ、こんな所かな異世界の皆さん。
というか、本当に異世界の人間なのか?」
「さっきユウイチ君も見たじゃない。
変身した二人の姿、能力を。
そのどちらも、この世界では異質……存在し得ないものだった。
少なくとも因子対抗の手段がない『ライダー』なんて今は作られてないでしょう?」
「う、そりゃあ、そうだが」
シウンがユウイチへと向ける言葉は、士達に向けるものとは微妙に違う、何処となく女性の柔らかさを感じさせるものだ。
それは戦友としての親しさなのか、もっと別の何かなのか……そこまでを推察する者、口にする者はこの場にはいなかった。
ともあれ、シウンはユウイチに対しての言葉を続けていった。
「でなかったら、こんなに詳しい事情を話したりはしないしね。
比較的僕達の情報はオープンだけど、この辺りは流石に機密扱いだし」
「……あ、うん、そうだよな」
「水瀬さん、今気付いた、みたいな顔でしたよ…」
「嘘が吐けない奴なんだな、うん」
「お前と同じで馬鹿なだけだろ」
『誰が馬鹿だっ!?』
「まぁ馬鹿どもの事はともかく」
自分に向けて非難の声と意思を向ける二人をいともあっさりスルーしつつ、士は言った。
「そっちの事情は大体分かった。
だが、疑問が一つある」
「……何かな?」
「さっきお前は『国家直属対パーゼスト組織の一つ』と言った。
その物言いだとそういう組織が複数あるって事だと思えるんだが?」
士の疑問の提示に、ユウイチは顔を顰め、シウンは苦笑いを零した。
「良い所を……僕達にとっては痛い所を突かれたね」
「って事は?」
「門矢さんの指摘は間違ってないって事だよ、小野寺さん。
この国において対パーゼスト組織は二つ存在してる。
実働部隊たるファントムと、開発部門だったレクイエムの二つが」
「開発部門、だった? どういう事ですか?」
「元々はそれぞれの役割を完全に分けてたんだけど……
実働部隊が所持していた三つのベルトのうちの一つ……アームズのベルトを半年くらい前に調整その他の為に一時返却した頃から何か変になったんだ」
「アームズのベルトの所持者を替えたり、その所持者が向こうの偉い人になったり、こちらと連携を取らずに先回りして独自にパーゼストと戦ったり、捕獲したり……
お陰で互いに不信感がつのってプログラムKEYの開発も中々進まないし……」
「なるほどな。
そうやって互いに足を引っ張り合って敵とまともに戦えてないんだな」
「耳が痛いな。事実、その通りだよ」
「……俺達だってなんとかしようとは思ってるんだよ。
だが向こうが全くリアクションを返さないからなんともしようがない」
「……ふん。
まぁ、いい。
お前等はお前等、俺は俺のやるべき事をやるだけだ」
「ああ、そうだね」
「……そうだな」
そうして話を一段落終えた士達は揃ってコーヒーを啜った。
そこに漂っていた、微かに苦い空気を飲み込むように。
「……なるほど。
どうやら面白い事になってるようだな」
それは何処かの闇に覆われた空間。
その闇の中で唯一光を放つのは、空中に浮かび上がる、先程のディケイドが関わった戦闘の映像だった。
「あの預言者じみた男が語っていた事……あながち嘘ではなかったか」
「みたいだな。それで?
レクイエム現最高責任者として、アンタはこれからどうするんだ?」
そんな闇の中に立つ二人の男が言葉を交し合う。
「どうもしない。
今までどおり研究を続ける。
その為にお前には働いてもらう……それだけだ」
男の一人……比べるのであればより歳を経ている方……は、もう一人の男……青年に呟く。
そんな男に対し、青年は、フン、と不敵な意志を零した。
「つまり、最近のいままでどおり適当にパーゼストを倒して捕獲すりゃいいのな。
了解、努力しましょ」
「そうすることだ、長森コウヘイ。さもなくば……」
「分かった分かった。仕事はこなすさ。
……ただ、一つ言っとく。そうして俺を脅すのは諸刃の剣だぜ」
「そうか。心しておこう」
「ならいいさ。
つーか、元々ライダーとしての経験値が高いアンタが出張った方が早いんじゃないの?」
「誰にもなすべき事と責任がある。
今の私は『責任者』で、今のライダーとしての『責任者』はお前……そうなっただけのこと」
「そういうもんかね。
まぁ、いいか。んじゃ、な」
そんな言葉を最後に、青年……長森コウヘイは何処かへと去って行った。
その姿を見届ける事もなく画面を眺め続ける存在……誰にともなく折原シュンは呟く。
「諸刃の剣、か。
その諸刃で誰が傷つくかは知らんが……それはそれで悪くはない」
「……!!」
穏やかだったシウンの表情が険しいものへと変わる。
それは、この世界の説明を終え、今度はそちらの番だと言うシウン達に士達が自身の状況を話し始めた時だった。
「どうかしたの?」
「パーゼストだ」
ユウスケの問いに、シウンは即答した。
「ライダーの変身の要たるこの反因子結晶体は持ち主にパーゼストの発生を教えてくれるんだ。
というわけで、僕達は行くけど……」
君達はどうする?、と言外に意味を込めた視線に対し、士は挑むような視線を返しつつ告げた。
「行ってやるよ。
どうせ、この世界でのやるべき事はお前達絡みなんだ」
「俺も手伝うよ」
「そっか。手伝ってくれると凄く助かるよ。ありがとう」
「別に礼はいい。何もしないのは俺が困るだけだからな」
「……なんか士照れてないか?」
「……こんなに素直に友好的なライダーさん、あんまりいなかったからじゃないですか?
あと、綺麗な人ですし」
「そこ五月蝿いぞ。
ともかくだ。
夏みかんは写真館に戻ってろ。
ほいほいついてこられたら邪魔になる」
「士君、いちいち口が過ぎます。
そんな事いわれなくても分かってますよ」
そんなやり取りの脇で、ユウイチは携帯を取り出して何処かに連絡を取っていた。
状況から件の『ファントム』である事は、想像に難くない。
「……こちら水瀬。今から藤原と現場に……なんだって?
ああ、分かった。こちらで対処する」
「どうかしたの?」
「今回も”アームズ”が先行してるらしい。
どうなってるんだ?
システムの精度がそんなに差があるもんなのか?」
「……とにかく、今は急ごう。
門矢さん、小野寺さん、お願いします」
「ああ」
「倒せないけど、サポートは任せてくれよ」
「はい」
そうして夏海を除く人間達は、それぞれのバイクに乗って、パーゼストが現れた場所へと向かう。
「……あらあら。これは面白い事になりそうね。
でもまぁ見物は鳴滝に状況を話しといてからにしましょうか」
自分達の頭上でずっと様子を伺っていた白いコウモリ型モンスター、キバーラの存在に気づく事無く。
「iuihihik……」
人気のない裏路地で一体のパーゼストが歩いていた。
そのパーゼスト……蟻の因子と姿を持つアントパーゼストは、何をするでもなくゆったりとした動いている。
そんなパーゼストの進む道を遮る形で一台のサイドカーが現れ、停車した。
『ベルト』を腰に巻きながらそこに降り立つ青年は、長森コウヘイ。
またの名を。
「……変身」
仮面ライダーアームズ。
「ったく、こないだからえらくのったりした奴ばっかだな」
ベルトから解き放たれた白い閃光が収まった後に現れた白と黒に彩られたライダー、アームズは自身の存在にさえ無警戒気味なアントパーゼストに向けて右腕を構えた。
構えた右腕は肘から手首までの部分がガトリングガンのような形状へと『変形』する。
「悪く思うなよ」
そうして変形した腕から撃ち出された白い光の弾丸は、吸い込まれるように的確にパーゼストの頭部、胸部、脚部に突き刺さった。
かくてアントパーゼストはいとも簡単に打倒され、地面に仰向けに倒れていった。
「……気にいらねぇな」
頭蓋を砕かれ、胸を撃ちぬかれ、片足を失ったアントパーゼストの死骸を見下ろし、アームズは呟く。
「こいつらには『闘う事』が最低限プログラミングされてる筈だ。
それが……」
「それが何故こうもあっさり自分に殺されるのか解せない……そう言いたげだね」
唐突に響いた……気配を微塵も感じなかった……何者かの声に、アームズは振り返る。
一体いつの間にそこにいたのか、そこには一人の青年が立っていた。
その手に異形の銃を携えて。
「士ならこういうのかな? 『大体分かった』って。
なんとなくだけど、君の今の状況は利用されているモノだってのは明らかだね」
「お前、なんだ?」
「僕が何者か……そんな事はどうでもいいことだよ。
僕としてはそんな事よりも君の姿、君の力……いや、そのベルトとベルトに嵌ってる鍵に興味があるね。
見た事のない、『存在しない』ライダーの力……大したお宝だ」
「……」
「どうだい? 素直に渡してくれないかな」
「いきなり現れた胡散臭い奴に、商売道具を渡す奴がいるか?
例えば、俺がお前の持ってる銃を今すぐよこせと言って、すぐに渡すか?」
「そうだね、確かに渡さない。
となると実力行使になるかな?」
「まぁ、そうなるな」
ニヤリ、笑い合う青年達。
だがそこに浮かべている笑顔ほどの友好の意志は無い。
むしろ真逆のものがそこには渦巻いていた。
「この世界が平和になって、俺の目的も果たされりゃあ、譲ってやってもいいが……それまで待つ気はないだろ?」
「残念だけど、そんな暇はないね。
他の世界にもまだまだ見知らぬお宝がある。
ソレを手に入れる為にも、こんな場所で足踏みは出来ないな。
そんなわけだから……力付くで行かせてもらうよ」
言いながら青年は何処からともなく取り出したカードを銃に装填し、銃身を引き伸ばす。
次の瞬間、銃……ディエンドライバーから電子音声が響いた。
『KAMEN RIDE』
「変身!」
青年……海東大樹はそう呟いてディエンドライバーの銃口を空に向けて引き金を引いた。
『DIEND!』
すると銃口から放たれたエネルギーが『ディエンド』を表す紋章を空に描き、さらにソレは幾つもの蒼いプレートへと姿を変えた。
それとほぼ同時に現れた幾重にも現れる様々な色の人型……いやライダー型の幻影が大樹に重なり、空から降り注ぐ蒼いプレートがライダーの姿に変わった大樹にさらに重なる事で変身は完了した。
世界を股に駆ける怪盗ライダー……仮面ライダーディエンドへの変身が。
「その姿……さっきこの世界に現れた悪魔だかなんだかの同類か」
「一緒にしないでくれないか……なっ!!」
最後の言葉と共にディエンドライバーの弾丸を打ち出すディエンド。
「お、俺と同じ中・遠距離戦型のライダーか。
なら分はそう悪くなさそうだな」
その攻撃を素早く横っ飛びする事で……攻撃を予測していた……回避したアームズは、変形したままだった右腕から光弾を連射した。
「どうかな?」
アームズの攻撃を同様に読んでいたらしいディエンドは白い弾丸を駆け抜けながら回避。
その動きの中、カードを取り出したディエンドはディエンドライバーに装填し、引鉄を引いた。
『KAMEN RIDE G3』
『KAMEN RIDE G4』
次の瞬間、ディエンドへの変身時と同じ様な幾重にも現れるライダー型の幻影が二つの存在を模った。
すなわち、仮面ライダーG3とG4を。
「何っ!?」
「驚いてもらって何より」
アームズの動揺など何処吹く風、ディエンドは現れた二人のライダーと共に弾幕を張った。
速射性の高い銃撃の雨がアームズに襲い掛かる。
「ちぃっ!!」
アームズは跳躍して回避しようとするも、あまりにも張られた弾幕が広く、弾の数が多すぎた。
跳躍した所を撃ち落され、アームズは地面を転がる。
「このぐらいにしておいた方がいいんじゃない? 痛い思いはしたくないだろ?」
「なんのまだまだっ!」
余裕を見せるディエンドに、アームズは肩に装備された生体爆弾を投げつけた。
それはディエンドに直撃する……事はなく、その直前で地面に炸裂した。
結果それはコンクリートの地面を砕き、煙と僅かな石の雨を撒き散らす。
「はぁっ!!」
「!」
その瞬間の隙を突き。
アームズは自身の肘に装備された超高熱の刃を展開、G3とG4を切り裂く。
二人のライダーはまるで始めから存在しなかったように消えていった。
「次はお前だっ!」
そのままの勢いで薄れゆく土煙を抜け、ディエンドに斬りかかるアームズ。
ディエンドは、それをスウェーやダッキングを使い巧みに避けつつ、ディエンドライバーの通常弾丸でアームズの動きを牽制する。
「中・遠距離戦型じゃなかったのかい?」
「悪いな、実は近距離戦も割と得意なんだよ!」
「おあいにく様。僕も苦手ってほどじゃない。
スマートじゃないけどね」
舌戦を繰り広げながらも一進一退の攻防を展開する二人のライダー。
そこに。
「もうパーゼストは倒されてる……あの人は……」
「……ああ、片方の青いのは知ってる。
世界を渡る、こそ泥ライダーだ。
で、もう片方は……」
「あっちは俺達の知ってるライダー……仮面ライダーアームズだ」
おのおののバイクに乗った士・ユウスケ・シウン・ユウイチが現れた。
「んで動きに癖があるから中身も想像がつく。
……お前、コウヘイだろ!?」
「っっと! お、ユウイチか。
ベルトを没収されたのに最前線に出張ってくるって事になってる噂は本当だったみたいだな……っと!」
「くっ!……士、先に言っておくけど、邪魔はしないでくれないか?」
「知るか、こそ泥野郎。
……おい。まず、この状況を黙らせるぞ」
「了解」
「おうっ!」
言葉を交わしながら並び立った士とユウスケ、シウンはそれぞれベルトを『装着』した。
『変身っ!!』
紫色の閃光を身に纏い仮面ライダーエグザイルが、
体の内側から具現化される赤い鎧を纏い仮面ライダークウガが、
幾つもの仮面ライダーの姿を纏い仮面ライダーディケイドが姿を現す。
「よし、まず……?」
「門矢さん、どうか……あれは!?」
ディエンドとアームズが死闘を繰り広げる先に、その存在はいた。
剣の柄のようなものを右手に握り、戦いを続ける二人へとゆっくりと歩み寄っていく、全身に赤いラインを走らせた一人の仮面ライダー。
「また新しいライダーか?!」
「っ!! アレは……カノン!」
「カノン?」
「ユウイチ君が所持していたベルトにより変身する、現在開発されているライダーシステムの最後の一つだよ。
上層部に没収されてたんだけど……」
そんな会話の間も悠然と歩みを続けていたライダー・カノンは握った『柄』から紅い光の剣を展開させつつ、互いの攻撃手段……ディエンドライバーと光弾を打ち出す右腕……を掴みあらぬ方向へと向け、結果として膠着状態となったディエンドとアームズの一歩手前で歩みを止めた。
「っ……おい、何処の誰だか知らないが、コイツはベルトを盗もうとしてる。
今は互いの部署は忘れて力を貸せよ。
流石にその位の分別は……」
つくだろう。
コウヘイはそう言おうとしていたのだろうと、その場の誰もが思っていた。
だが結果としてその言葉が本当にそうなるはずだったのかは分からなくなった。
何故なら。
その言葉を紡ぐ前に、カノンがディエンドごとアームズを斬り飛ばしたのだから。
『ぐあっ!!?』
「何っ!?」
揃って地面を転がる二人のライダー。
ソレを焦って追撃するでもなく、右腕に剣……スカーレットエッジをぶら下げたままカノンは静かに歩いていく。
ただ静かに。
悠然と、泰然と。
そこに、何かを超越してしまった存在であるかのような圧倒的存在感と理解し難い不気味さを漂わせながら……。
……後編に続く。