世界の破壊者、ディケイド。

 9つの世界を巡り、その瞳は何を見る?















 仮面ライダーディケイド

  &仮面ライダーKEY〜Another RiderS〜前編















 ……だが、この時点でディケイドは知らなかった。

 世界は9つだけではなかったことを。















『……ディケイド。
 破壊者としての力、少し貸してもらいます』

 何処かで誰かが呟く。
 その呟きを発した存在、その言葉の意味をディケイド当人が知るのは、少し先の話である。















『そこ』に一つの写真館があった。
 その写真館……光写真館は一見するとただの……多少古い感じがある、何処にでもある写真館だ。
 だが……実際は『そうではない』。
 というのも、この光写真館は世界を越えて移動しているという『場所』だからだ。
 この場所に要因があるのか、それともそこにいる存在達に要因があるのか、あるいはその両方なのか……それは今の所当人達には分からないのだが。

「やれやれ、あの世界の騒動もこれで終わりか」

 そんな写真館の中でつまらなさそうに呟く男が一人。
 彼の名前は門矢 士(かどや つかさ)。
 彼こそ世界の破壊者、悪魔とも呼ばれる仮面ライダーディケイド、その人である。

「ったく、あの阿呆どもには関わりたくないな。
 どうにもペースを乱される」
「とかなんとか言いながら、なんだかんだで手伝ってやる辺り士はいい奴だよな」

 士の呟きに笑いを零しながら言葉を返す青年の名は、小野寺 ユウスケ……仮面ライダークウガ。
 クウガの世界で士と出会い、共に旅をしている青年である。

「ハッ。冗談言うな。
 お前は連中との付き合いが少ないからそんな事を言ってられるんだよ」
「うーん、確かに憑いたり憑かれたりは大変でしたもんね」

 この写真館の主、光 栄次郎の孫娘である光 夏海は少し前の出来事……自分の身体を好き勝手に操られる……を思い出して渋い表情を浮かべた。

「珍しく気が合うな、夏みかん」

 夏みかん、というのは士が勝手につけている夏海の呼び名である。
 士が夏海と呼ぶ事は基本的になく、殆どが夏みかん呼びだったりする。

「まぁ、そんなわけだしさっさと次の世界にでも……」

 そう士が呟いた時だった。

「っ!」
「きゃあっ!?」
「ととととっ!?」

 唐突に起きた地震で写真館が揺れる。
 だが、それは一瞬の事で、揺れはすぐに収まった。

「び、びっくりしました……」
「夏海ちゃん、大丈夫?」
「はい、ユウスケは……って、えっ!?」
「どうした夏みかん、そんな素っ頓狂な声を上げて」
「士君、見てください! 絵が…」

 士が振り向くと、そこには『絵』があった。
 その『絵』はこれから向かうライダー世界を象徴するようなものが描かれている。
 今は、次に向かう世界として、東京タワーと天を指す右手が描かれていたはずなのだが……。

「絵が変わった……?!」

 いつのまにか『絵』の内容が変化していた。
 その絵に描かれているのは、赤・紫・白の宝石が嵌め込まれた三つの鍵。

「どういうことだ……?!」
「あ、士君!」
「おい、士!」

 驚きを張り付かせたままの表情で、士は外に飛び出した。
 そんな士を追って、二人も外へ出ていく。
 
「あーらあら。皆泡くっちゃってぇ」

 そんな三人を見下ろしながら宙を舞う小さな影が一つ。
 コウモリによく似たその存在は、キバの世界出身のコウモリ型モンスター、キバーラ。
 彼女は士達の動向を観察し、諜報活動をする為に共に世界を渡っている。

「でも、なんか変ねぇ。鳴滝が仕掛けたにしては。
 まぁ利用するものを利用する男だから、この状況でも何かしそうだけど……いつもどおり足止めにはならないでしょうね。
 ま、一応この世界の様子は見させてもらうけどね」

 そう言って彼女もまた外へと飛び出していった。









「……見た感じ、普通の世界ですね」

 夏海の言う通り。
 光写真館の外に広がっていたのは、どこにでもありそうな普通の住宅街だった。

「だな。何の世界なんだ?」
「分からん」

 ユウスケの疑問に、あっさりと士は答えた。

「俺が知ってるのは9つの世界。
 お前がいたクウガの世界、キバ、龍騎、ブレイド、ファイズ、アギト、電王、カブト、響鬼の世界だけだ。
 あと、例外を入れるなら夏みかんの世界くらいか。
 なんにせよ、俺に分かるのは、ここがその何処でもないって事だけだ」
「そう言えば、士君の服も変わってないですしね」

 いつも異なる世界に来た際は変化する士の服だが、今回は特に変化がない。
 
「……どうやらココはイレギュラーな世界らしいな」
「イレギュラーって……どうして」
「知るか。
 だがまあ……大体分かった。
 この世界でやる事をやったら多分いつもどおりに次の世界にいけるだろう」
「どうしてそう言えるんだよ」
「外に出たら、こんなカードが出てきた」

 士は言いながら、二人に持っていたカードを見せた。
 何も描かれていない、数枚のカード。
 
「9つの世界のライダーカードとは別扱いだ。
 カードの数が多いのは気になるが、なんにせよカードが出てきたという事はこの世界にも……」
「ライダーがいるって事だな」
「そして、その手助けをすればいい……そういうことなんでしょうか」
「多分な。
 問題は、この世界のライダーが何処にいてどういう存在なのかって事だが……」

 その時。
 何処からともなくサイレンの音が鳴り響き、同時に大音量で声が流れていった。

『第576地区987位置にパーゼストが現れました。
 これよりライダーと憑依体対策室による駆除を行います。
 付近住民の皆様は速やかに最寄の避難所に避難するか、戦闘場所から可能な限り遠ざかるようにしてください。
 繰り返します』

「……どうやら、要らない手間が省けたらしい」



 







 そこは何処にでもありそうな住宅街。
 普通ならば人々が行きかい、言葉を交わし、歩いて、生きていく、そんな当たり前の光景があるべき場所。
 しかし、今のそこには『日常』はない。
 日常を過ごすべき人間達が避難により姿を消し、代わりに日常からは遠い存在がそこにはいた。

「パーゼスト発見、これより駆除を開始する」

 住宅街には馴染まない、軍服のような……否、殆どそのもの服を来た人間達が十数人そこにいた。

「撃てっ!!」

 おそらく一番立場が上なのだろう男の号令に応じて、彼ら憑依体対策室の戦闘チームは空に向けて射撃を開始した。
 だが。

「ygiiuolphpohpi!!!」

 空を飛び回る人とコウモリを融合したような形をした異形が一声叫んだだけで、弾丸の群れの軌道は悉く異形から逸れていく。
 常識を超える程の『超音波』により、自身への攻撃を逸らしているのだ。

 その異形の名はバットパーゼスト。
 コウモリの因子を持つ憑依体である。

 バットパーゼストは、空中から急降下し対策室チームの大半を薙ぎ倒した後、地面に降り立った。

「くっ……怯む、ぐあっ!!」
「隊長!!」

 チームを指揮していた隊長が羽根の一振りで弾き飛ばされ、最後に残されたのは青年が一人。
 
「ちっ……!」

 青年は意を決して短銃で眼前に迫る存在を射撃しようとする、が。

「iugigooh……」
「速……ぐ、あああああっ!!」

 撃つ間もないほどの恐るべきスピードで距離を詰められ、銃を持つ手を捻り上げられてしまう。
 
「や、野郎……っ!」

 青年の手から銃が零れ落ちる。
 だがバットパーゼストはその力を緩めない。
 圧倒的な力を青年の手に込め続ける。

「ぐああああああああああああああああああっ!!」

 後コンマ一秒で青年の腕は折れ曲がるか、千切り取られる。
 吹き飛ばされ、立ち上がれずにいた隊員達がそう思った瞬間。

「させるかぁぁぁっ!!」
「uvyuvuiiッ!?」

 突然現れた影の飛び蹴りで……蹴りそのものというより不意を突かれた驚きによるものが大きかったのかもしれない……バットパーゼストの力が緩む。
 その瞬間を見逃さず、青年は力を振り絞りパーゼストの手を振り払い、慌てて距離を取った。
 
「ぐっ……」

 しかし痛みはすぐに引くはずもなく、痛みに気を取られ足をもつれさせ転んでしまう。
 そんな青年を庇うように、先程蹴りを繰り出した人影がパーゼストの前に立ち塞がった。

「大丈夫か?!」
「あ、ああ……アンタは、一体……?!」
「俺か? 士風に言えば、俺は通りすがりの仮面ライダー……クウガだ」

 パーゼストの様子を気に払いながら、人影の正体……ユウスケは青年に笑いかけた。
 そして、その一瞬後、一転して厳しい表情を浮かべて叫んだ。
 
「変身っ!!」

 いつのまにか身体の内から『現れていた』ベルトが動き出し、それに合わせユウスケの姿が変わる。
 人としての姿から、赤を基調とした仮面ライダークウガ・マイティフォームへと。

「biihi……?!」
「仮面、ライダー……? だけど……反因子反応が……」
「うおおおおっ!!」

 その場の存在する者達の当惑をよそに、クウガはバットパーゼストへと殴りかかった。
 荒削りながらも力溢れるクウガの攻撃に、バットパーゼストは次第に追い詰められていく。

「はぁっ!」
「JHBIKIK!!」

 トドメとばかりに放たれたクウガの右ストレートが空を裂き、バットパーゼストの顔面に突き刺さる……ように見えた。

「っとぉっ!?」

 パンチが当たるその直前、バットパーゼストは空中に逃れていたのだ。
 
「空か……でもそれで逃げられると思うなよ」

 自身から数十メートル離れた空からこちらを見下ろす敵を睨み付けつつ、クウガは青年に呼び掛けた。

「アンタ、悪いけどその銃を少し貸してくんないか?」
「あ、ああ、分かった」

 未だ座り込んだままの青年は地面に落ちたままだった拳銃を拾い、クウガに投げ渡した。

「サンキュー。……超変身!!」

 次の瞬間、クウガの体の色が赤から緑へと……ペガサスフォームへと変貌を遂げる。
 ソレに伴い、クウガが握っていた青年の拳銃がボウガン……ペガサスボウガンへと変化した。

「これで、倒す!!」

 空中で様子を伺うバットパーゼストへと狙いを定め、『矢』を引き絞っていくクウガ。
 その姿を見ながらも腕につけた時計型の計器の数値を確認していた青年は叫んだ。

「……!? やっぱり反因子反応が出てない!
 アンタ、駄目だ! それじゃ『名残』が……」
「喰ら……」

 意識を敵へと集中していた為か。
 あるいは超感覚を持つペガサスフォームゆえに大き過ぎる『雑音』に紛れてしまったのか。
 クウガは青年の叫びの『意味』を吟味する事無く『矢』を解き放とうとした。
 
 しかし、結果としてそれは叶わなかった。
 
「グァッ!!?」

 いきなり身体に走った衝撃と共に、クウガは地面に転がった。
 如何に超感覚を誇るペガサスフォームと言えども、まさに矢を放たんとしていた瞬間、敵に意識を集中していた瞬間だった為に『何か』の接近に気付けなかったのだ。
 もっとも、その『何か』自体の気配が掴み難かったのも理由ではあったのだが……それは今のクウガの知るところではなかった。
 
「い、一体……?!」

 動揺しながらもすぐさま起き上がったクウガは知った。
 自分に与えられた『衝撃』の正体を。

「ライダー……?!」

 そこには一人の『仮面ライダー』がパンチを放った体勢のまま立っていた。
 身体中に紫色のラインが走っているその『ライダー』は二枚のマフラーをたなびかせながら、クウガに言った。

「混乱している所済まないが……時間が無いから単刀直入に聞こう。
 貴方がディケイドなのか?」

 いきなり攻撃を仕掛けられた存在ではあるが、その声音に敵意が感じられない事からクウガは素直に答えた。

「……いや、違う。士、ディケイドは……」
「ここにいる」

 道の向こうからに響いた声に二人のライダーが振り向く。
 そこにはバイクから降り立ち、一枚のカードをかざす士の姿があった。

「変身」

 宣言するように静かに強く呟き、士はカードを既に装着していたベルト・ディケイドライバーに差し込む。
 直後『KAMEN RIDE DECADE』の電子音声が響き渡り、現れた幾人もの『仮面ライダー』の影を取り込みながら変身が完了する。
 世界を破壊し、ライダーを破壊するライダー……仮面ライダーディケイドへと。

「……俺について知ってるようだが、話は後だ」

 変身した士……ディケイドは『ライダー』に向けて言いながら、一枚のカードを取り出した。
 そのカードに描かれているのは……仮面ライダーブレイド。

「空飛ぶ奴には空飛ぶ奴だ」

『KAMEN RIDE……BLADE』

 現れた光の壁を潜り抜けるとディケイドの姿がブレイドへと変わる。
 
「んで、これだ」

 ついで新しくもう一枚カードを取り出し、それを即座にベルトに差し込む。

『FORM RIDE……BLADE……JACK』の電子音声の後、ブレイドの姿がさらに変化する。
 体の部分部分に金の装飾を纏い、背中に翼を装備した姿……仮面ライダーブレイド・ジャックフォームへと。

「んじゃ、さっさと片付けるか」

 チラリとバットパーゼストを一瞥した次の瞬間、ディケイド・ブレイドは地面を蹴って空へと舞い上がる。
 移り変わる状況の中、撤退かどうかの判断に迷っていたバットパーゼストは、全く予想外の展開に反応らしい反応さえ出来なかった。
 
「悪いが、その羽根腕ごともらうぜ!」
「bbihiuhi??!」

 混乱するバットパーゼストをよそに圧倒的な飛行速度で背後に回りこんだディケイド・ブレイドは自身の武装・ライドブッカーのソードモードを一閃。
 バットパーゼストの羽根が同化している左腕を切り落とした。

 当然、飛行能力を失ったバットパーゼストは落下、地面に叩きつけられた。
 ディケイド・ブレイドはその姿を眺めながら悠然と着地し、その姿をブレイドの姿から本来のディケイドとしての姿へと戻した。

「これでちょこまか逃げられないだろ。
 ……トドメだ」

 さらにライドブッカーをソードモードからブックモードへと戻したディケイドは、ブックモードのライドブッカーから一枚のカードを引き抜いた。

『FINAL ATACK RIDE DEDEDEDECADE!!』

 自身を表す紋章の描かれたカードをディケイドライバーに装填後、跳躍するディケイド。
 それに応じるように、彼と彼の敵であるバットパーゼストの間には道標の様にディケイドのカードを模した、人と同じ位の大きさのカードが現れていく。
 そのカードをくぐりながらエネルギーを蓄え纏っていくディケイド。
 圧倒的な破壊の力を込めたキック……ディメンションキックは、最早逃げる事さえままならなくなったバットパーゼストに無慈悲に突き刺さった。

「ugiopphphnliguogohpujp!!!」

 ディケイドが着地した直後、パーゼストは光の粉を撒き散らしながら爆発、消滅した。
 その様子を見て、青年は思わず声を上げる。

「なっ!? こ、これだと名残が……」
「名残?」
「なんだそれは」

 変身を解除するクウガとディケイド……ユウスケと士は揃って『?』と頭に浮かびそうな表情を浮かべた。

「パーゼストの事を知らない……という事はやはり」
「おい、質問に答えろよ」
「……名残というのは、さっきの存在……僕達がパーゼストと呼ぶ存在を普通に殺した際に発生する言わば『毒』。
 それが残った場所に居る事でさっきの存在と同じものになる可能性があるんだ」
「ああ、なるほどそれでさっきは俺を止めようとしてたんだ、って……とど、どどど、毒っ!? 同じものになるっ!!?
 つつ、士お前……」
「それなら心配ないよ」
「って、え?」
「今、センサーで確認した。ここに名残は残ってない。
 流石、破壊者ディケイド……『名残』さえ破壊してしまうなんて、ね」
「それで?
 どうせ鳴滝からの入れ知恵なんだろうが……『お前の事は聞いているぞ悪魔め』とか言って襲い掛かるのか?」
「あ、ちょっと思い出して胸が痛む」
「……そんな事はしないよ」

 ユウスケの様子を見てなのか、どこか笑いを含んだ声を零す『ライダー』。

「少なくとも、僕は今の君に危険なものを感じない。
 破壊者って能力は事実かもしれないけど、それだけじゃ争う理由にはならないよ。
 見るべきは貴方の能力じゃなくて、貴方の心だと思うから」
「……フン。少しは道理が分かってるみたいだな」
「お、おい士、お前失礼だぞ」
「気にしないで。
 ともかく、こんな所じゃなんだし、お互い話したい事もあるみたいだし場所を移そう。
 ユウイチく……じゃなかった水瀬君。
 悪いけど車の準備を頼むよ。……君も話聞きたいでしょ?」
「……了解」

 水瀬と呼ばれた先程の青年は、何処か眼を逸らし気味に答えると命令とも頼みとも取れる『ライダー』の言葉に応えるべく、その場を後にした。
 周囲で倒れていたチームの人間達も起き上がってそれぞれの仕事を為すべく動き回り始める。

「で? アンタはいつまでその姿で、名前も名乗らないで偉そうに指図してるんだ?」
「ああ、そうだね。失礼した。
 この姿の僕は仮面ライダーエグザイル。
 国家直属対パーゼスト組織の一つ、ファントムに所属してる仮面ライダー」

 言いながら『ライダー』はベルトに刺さっていた宝石……鍵を廻し、変身を解除した。

「そして、僕は藤原シウン。
 はじめまして、異世界の仮面ライダー」
「! お前……」
「女の子、だったの?」

 二人の反応に、仮面ライダーエグザイルこと藤原シウンは苦笑を零した……。










……中編に続く。