注意1.まず、祐一と真琴が実の兄妹の関係となっています。
そして、雪国、祐一と真琴、それから嫁さんと両親以外は出ません。
その他大勢としてひっくるめています。

注意2.祐一の嫁さん役はあまり重要な役ではないので台詞が少ないです。でも、いちお舞ですw。

注意3.この話ははっきり言ってIFものです。Kanonのストーリーはまったく無視しています。

注意4.NCでお願いします。



最後に、他キャラクターのファンの皆様、ごめんなさい。








 今、目の前には白い建物。きょうこれから世間一般でいうところのめでたい式がおこなわれる。
 あたしは家族の一員として、その式の準備をしていた。
 いつからだろうか……。この人に惹かれ、恋焦がれるようになり、意地になってまでこの人の呼び方を変えていたのは。
 一室。
 あたしが今居るここはその白い建物の一室。
 目の前にはあたしの大事な人。幸せそうでいながらどこか落ち着きのないこの人。
 そして、今日、あたしの前から旅立ってしまうこの人。

 ……ユウイチ


「My Departure」


 あたしが兄、相沢祐一を、祐兄ぃを好きだとわかったのはいつからのことだろうか。
 物心着いたとき?
 それとも、祐兄ぃが男の子で、あたしが女の子であると分かってしまったとき?
 いや、きっとこの地に生まれついたときからだと思う。
 だって、誰よりも、もちろんお父さんやお母さんもそうだけど、
 長い時間を祐兄ぃと一緒にすごしてきたんだから……。
 思えば、この人の背中をずっと追いかけて遊びまわっていた。
 近所の子供達と遊んでいるとき、あたしは祐兄ぃに手を引かれて遊びに加わっていた。
 かくれんぼのとき、鬼になって誰も見つからなくて、心細くて泣いてしまったとき、
 いつも、あたしを真っ先に慰めてくれた祐兄ぃ。
 おとうさんとおかあさんが一緒に旅行に出かけていってしまったとき、
 夕ご飯を作ってくれたのも祐兄ぃ。
 あたしの大好きなおいなりさんを作ってくれたっけ。
 うれしくなって、いただきますをいうのもそこそこにかぶりついたら、ゆういちはどこかしてやったりの笑顔。
 いたづらだった。
 祐兄ぃのいたずらだったおいなりさん。
 甘くておいしいおいなりさんの中に入っていたのはほんのすこしだったけど、子供にとっては辛い七味。
 しょうゆで甘辛く煮たおあげと白いご飯の味が絶妙に絡み合う中に、
 一際自己主張するかのように舌の上を駆け巡った七味の旋律。

「これがうまいんだよなぁ……」

 だなんて、今思えば大人のまねをして得意げにしていた祐兄ぃ。
 吐き出してしまうほどの辛さじゃなかったけど、びっくりしてしまったあたしは、涙目で祐兄ぃをにらんだっけ。
 そしたらあわててあたしのご機嫌取りを始めた。
 一緒にお風呂も入ってくれたし、駄々をこねたらおんぶしてベッドまで連れて行ってくれただけでなく、
 おまけに、あたしが眠ってしまうまで、べっどのそばで当時一番大好きだった本を一生懸命読んでくれた。
 あんまり祐兄ぃが登場人物の台詞を熱演してくれるもんだから、あたしはベッドの上で転げまわって、
 気を良くした祐兄ぃは熱を上げて演じていた。
 結局、笑い疲れたあたしとはりきりすぎた祐兄ぃは同じ布団の上で寝てしまった。
 今でも覚えてる祐兄ぃのぬくもり。
 布団を掛け忘れて寒くなったあたしは夢中でぬくもりを求め、そして祐兄ぃに抱きついた。
 まるで、春の陽だまりの中でお昼ねしているかのようなそのぬくもり。
 翌朝、顔を真っ赤にさせながらも祐兄ぃはおはようと声を掛けてきた。

 そのときからだろう。
 あたしの中で何かが変わった気がする。
 何が変わったのかはわからない。
 ただ、あたしの中で「祐兄ぃ」から「ユウイチ」へと呼び方を変えなければいけない。
 ただ、それだけの単純なこと。
 単純で、たったそれだけのことなのに、あたしの中では重要なこと。
 そう感じていたのは事実だった。

 その日から、たぶんあたしはユウイチにとって口うるさい妹になったのかもしれない。
 あたしの中で「強くて頼りがいのある兄」が「思いつきで短絡的な行動する兄」へと変わっていったから。
 毎日の生活の中で、あたしが見ていなかったユウイチを見れるようになったからかもしれない。
 はたから見ていてひやひやする行動を取るユウイチを何度注意したことか。
 川でおぼれそうになっている子猫をみるなり、橋の上からいきなり飛び降りて川の中へダイブ。
 そのときはあがったばかりの梅雨のせいで水かさは増していて、流れも速かった。
 飛び込んだ勢いのままもぐったままのユウイチが浮かんでこなくて、ついつい橋の上で叫んでしまった。
 橋の上でてんぱってるあたしとはうらはらに、何処吹く風と浮かんできたユウイチは、
 そのまま子猫のところにまで泳いでいき、難なく捕まえていた。
 岸に上がりそうなのを見て、あたしは橋の上から降りていって、ユウイチが上がる岸のところに走っていった。
 難なく助けたように見えたユウイチだったけど、急流の中で泳ぎ疲れたのか、
 あたしに引き上げてくれって苦笑していた。
 両手で一生懸命引っ張りあげるも、水に濡れたユウイチはあたしにとってはすごく重かった。
 引っ張りあげたまま、あたしはあおむけにひっくりかえってしまう。
 背中が地面についたと同時に、胸の辺りで感じる重み。
 疲れてしまってどうすることもできないのか、弱弱しい笑みを浮かべながら、あたしの胸の上にいるユウイチ。

「ほら、助かったぞ……」

 ユウイチの状態も知らず、まとわりつく子猫にあたしはそっとつぶやく。

(ばか……あたしの気も知らないで……心配ばっかりかけて……)

 ああ……そうだ。
 はっきりと自覚したのは。
 この兄にはあたしがいないと駄目なんだとはっきり自覚したのは。
 ずっと兄の傍についていようと決めたのは。
 このときからだったんだ。

 その後、中学、高校とユウイチと一緒に通う日々が続く。
 しっかりしなきゃと思う一方、わすれっぽいあたしはお弁当、教科書、さまざまなものを忘れてしまっていた。
 その度、面倒くさいといいつつも、届けてくれるユウイチ。
 毎回の昼休みに一緒に屋上で昼食をとり、いつものようにあたしの弁当からおかずをとっていっては、
 満足げな笑みを浮かべるユウイチ。
 少し、ほんのすこしムカッとしていたけど、あたしはその顔を眺めているのが大好きだった。
 春、長かった冬が終わって、暖かな日差しがよみがえる季節。
 あたしはその季節が好きだった。
 ひなたぼっこをしながら、ユウイチと食べる昼食が好きだった。
 その時間が、なによりも変えがたく、そして、なによりも大好きな時間だった。

「春が終わって、また春がやってくればいいのに……」
 何度そう思っただろうか。
 無論、冬は冬で、ユウイチといっしょに入るコタツはなによりも好きだったけど。
 変化が訪れたのは、ユウイチが大学に合格したときだった。
 家からではなく、アパートを借りて下宿することになったのだ。
 ユウイチのいない家。
 お父さんとお母さんがいても、どこかさびしさを感じる家。

――――ユウイチがいなくなってさびしくない?

 お母さんとお父さんからからかいまじりに言われたこの台詞に
 あたしは猛然と言い切った。
 あたしは大人になったんだからさびしくなんてない。
 ユウイチがいなくったってあたしはだいじょうぶなんだから!
 強がったあたし。
 あまのじゃくだったあたし。
 本当はだれよりもユウイチがいなくて淋しがっていたあたし。
 だめだった。
 強がりをいった翌日、家を出たあたしは学校に向かうのではなく、
 そのまま向かった先はユウイチの下宿先。
 部屋にいなかったどうしよう、そんなことすら考える余裕はあたしにはなかった。
 ただ、部屋に向かって、そしてあたしをだきしめて、頭をなでてもらえれば、
 あたしを安心させてくれればそれでいい、そのことしか頭の中には残っていなかった。
 幸い、ユウイチは部屋にいた。
 その日の授業がなかったことと、夜遅くまでしていたバイトのせいで、
 ユウイチはちょうど起きたところだった。

「なんだよ……まだ1週間もたっていないのに……」

 苦笑しつつも、胸の中に飛び込んだあたしを、頭を撫でながらそっと抱きしめてくれたユウイチ。
 その日から、学校帰りにユウイチの部屋に寄って、一緒に夕ご飯を食べ、そして、バイトに出るユウイチと一緒にあたしが家に帰る。
 そんな生活がスタートした。
 ユウイチの生活はなんというか、普段の雰囲気そのままだらしないものだった。
 インスタント、コンビ二弁当やスーパーの惣菜。
 そんなものばかりを食べていたようだ。
 あたしはやっと覚えた料理をなんとか駆使して、一緒の夕食をとろうとした。
 始めのうちはあまり上手くいかなったけど、何も言わず、普段どおりの笑顔で食べてくれるユウイチの顔はうれしかった。
 このまま、あたしが大学に行ったら、ユウイチと同じ大学に行ったら、また一緒に暮らすことができる。
 そう信じていた。
 そう信じて、嫌いだった勉強も、あまり得意じゃなかった家事も必死で覚えようとした。
 ユウイチの傍にいるために。
 ユウイチの傍に居る理由をつくるために。

 ちょうど夏も終わったころだった。
 学校帰りにスーパーにより、その日の夕食の食材を買って、いつものようにユウイチの部屋に向かって、
 ユウイチの部屋のドアを開いたときだった。

 人がいた
 ユウイチいがいのだれかが
 ユウイチのへやに
 ユウイチのむかいにすわって
 ユウイチに向かって微笑んで
 ユウイチがわたしの知らない笑顔で微笑んでいて
 玄関で聞こえる二人の声は
 静かでいながら心安らぐようでいて
 そこにいるユウイチはあたしのしらないユウイチだった……
 バサリ……
 私がもっていたスーパーの袋が落ちる。

「おお、来たか。こいつは俺の大学の先輩で……いてっ、なにすんだよ……」
「わたしのほうが年上。こいつだなんて失礼……」

 ユウイチがいつもと変わらない様子であたしに話しかけてくる。
 いつもどおりのユウイチのいたずらにつっこむ女性。
 私が見てもうらやむくらい綺麗な女性。
 ユウイチといるのがさも当然で、それで居て自然なその立ち振る舞い。
 いつもであればその場所はあたしの場所。
 その場所になんでその人がいるの?
 あたしよりその人が大事なの?
 なんで……
 なんで……
 なんでぇっ!

「あ、あぅ……うぁ、あ、あ、あああああぁぁぁぁぁっ!」

 走る。
 家に向かって走る。
 何もかもかなぐり捨てて。
 終わった。
 あたしの春は終わった。
 ユウイチと一緒に居られる、おだやかな春の季節は終わった。
 転んだ。
 すりむいた膝の痛みなんて感じない。

――――ただ

――――張り裂けそうな胸の痛みが

――――あたしのすべてを凌駕していて

――――その痛みが

――――あたしが気づかないフリをしていた現実を

――――思い出させた

 わかっていた。
 あたしとユウイチはどこまでいっても兄と妹。
 超えられない壁があるのはうすうすわかっていた。
 それでも、すがりついていたかった。
 春の穏やかな日々。
 自室に一人こもり、布団をかぶって大声をあげて泣く
 明日から始まるあたしの生活。
 ユウイチのいない生活。
 お父さんもお母さんもなにもいってくれない。
 ただ、いつもどおりにほほえんでいるだけ
 そして
 あたしは
 あたらしい一歩を
 踏み出した

 その後、高校を出たあたしはすぐに働きだした。
 ユウイチと顔を合わせるのはつらかったから、うちからすぐに近い場所の保育所を紹介してもらった。
 働くのは……楽しい。
 今まで見たことがなかった世界を垣間見たような気がする毎日。
 あっという間に4年の月日が流れていった。
 その時間の流れの中でいつも忘れられなかったユウイチのこと。
 あの日。
 ユウイチの部屋に行ったのを最後に、ユウイチとは会っていない。
 ついこの間、結婚することを報告しに家に帰って来たときも、
 顔を合わせるのが怖くて、何かしら理由をつけて家を出た。

 そして、今日。
 あたしの目の前にはユウイチ。
 鏡の前で黒いタキシードを身に付け、身だしなみを入念にチェックしている。
 久しぶりに見るユウイチ。
 いつもと違って落ち着きがないのがなんだかおかしい。
 鏡に映ったあたしの姿を見て、ユウイチが振り返る。
 それはまるでスローモーションのようにゆっくりで、そしてあたしの中にゆっくりと認識される。

 ユウイチの顔
 あたしと仲良く暮らしていたときの
 あのときの笑顔のままで

「よぉ……真琴。元気にしてたか?」

 その後、あたしはユウイチと何を話していたのかまったく覚えていない。
 きっととりとめもない話をしていたのだと思う。

――――じゃあ、遅れないようにね。およめさんににげられちゃうわよ。

 最後にあたしがユウイチに掛けた言葉はそれだった。
 あたしの知らない人と一緒になるユウイチ。
 でも、あたしに見せてくれた笑顔はいつものユウイチのまま。
 それがわかっただけで。
 あたしと会うときはいつものユウイチで居てくれるから。
 それでいい。
 ちょっと淋しいけど。
 ちょっと悔しいけど。

 後ろを向いて控え室を出る。
 なんだかこれ以上話していると自分を抑えられなくなりそうだったから。
 本当は泣きついて、いかないでって言いたい。
 だけど、こんな日くらい、ユウイチの晴れ舞台なんだから。
 あたしは、真琴は大人になったんだから、ユウイチを困らせてばっかりいられないんだから。
 あたしの右手が控え室の出口のノブを握る。
 ぐっと力を込めて扉を開け、そして部屋を出る。
 まるで、あたしの望んでいた春の季節に別れを告げるように……。

(さよなら……祐兄ぃ……)

「真琴っ!」

 背中越しに呼び止められたあたし。
 これ以上引き止めないで欲しかった。
 こんな日くらい、4年も会っていなかったんだから、笑顔で送らせてよ。
 振り返るのが怖かった。
 きっとあたしは泣くのをこらえるので精一杯だったから。
 泣き顔見せたくなかったから。
 立ち止まったまま、ユウイチの言葉を待つ。

「俺はお前の兄なんだからな。この世でたった一人の兄なんだからな。
今日、俺は結婚しちまうけど、大切にしたいものが増えちまうけど……」

――――おまえが俺にとって大切な妹であることに変わりはないんだからな……

(……馬鹿)

 やっとの思いで扉を閉める。

(なんで最後の最後まで……)

 後ろを振り返らずに。

(あたしの兄なのよ……)

 歩み始めるあたしの足。

(それでも……)

 向かった先は式場の大広間。

(よかったと思う……)

 そこに着けば、きっとあたしはあたしを振り切ることができるだろう。

――――何言ってるのよ。真琴にとってユウイチが大切な兄であることに変わりはないんだから!

 大広間。
 集っている花婿と花嫁の血縁者たち。
 といっても、本人達の意向で、招待されたのは家族と本当に大切な知人のみという、少人数での式。
 まぁ本人達の都合もあるかもしれない。
 なぜか神父役のところにお父さんとおかあさんが並んでいるし、
 しかもそこにある表情は一度やってみたかったんだよねという、何というか父さんありてユウイチありきというか、
 そんな表情をしていた。
 大広間の中央扉。
 その扉がゆっくりと開かれる。
 入ってきたのはユウイチ。
 会場の中央に引かれた赤い絨毯をゆっくりと、踏みしめるように歩いてくる。
 祭壇をもした階段の前。
 ユウイチは自分の歩いた道を振り返り、立ち止まる。
 ユウイチが立ち止まったと同時に、再び開く扉。
 入ってきたのは、白いウェディングドレスを身にまとった女性。
 顔を赤く染めているその人は、母親であろう付き添いの女性に手を引かれながらユウイチの元へと近づいていく。

 始まる。
 式が始まる。
 ユウイチが他の女性のものになる。
 あたしのものではなくなる。
 あたしにとっても。
 それはユウイチからの旅立ち。
 その前に
 まだ答えていない
 聞いていないことがあるんだから!

 式が始まったのも気にせず、あたしは祭壇に登ったユウイチとその伴侶のもとに走りこむ。
 祭壇上のお父さんとお母さんは、驚きつつもしかたがないという苦笑をしている。
 何の音かと振り返ったユウイチとその女性に指を突きつけながら、
 あたしの、相沢真琴の思いの全てをぶちまける!

「しかたがないから、ユウイチはあなたにゆずってあげる。
でも、でも、でも……祐兄ぃはあたしの、真琴のものだから、たった一人の兄なんだから。
真琴がゆずったんだから、シアワセになりなさいよ! シアワセに……、シアワセにぃっ!」

 とまらない。。
 言いたかったはずの言葉が止められない。
 なんというかカッコ悪いあたし。
 視界が涙でさえぎられてゆがんでいる。
 ユウイチと花婿。
 ふたりはあたしのすぐ傍にまで寄ってきて、あたしを抱きしめた。

「……大丈夫……絶対に、シアワセになるから……」
「当たり前だろ。誰がなんといおうと俺とマイはシアワセになってやるんだからな……」

 たぶん間を計っていたのかもしれない。
 予定された式はあたしの乱入でめちゃくちゃのスケジュール。
 でも、そこはやっぱりユウイチの家族であり、あたしの家族。
 お父さんがその場で厳かに言葉を続ける。

「両名。今この場で、父と母と真琴とこの会場にいる方々の前で、絶対にシアワセになることを誓うか……」

「「今、ここに誓います。終生、終わりが来ても永遠に……」」

 ああ……
 あたしは
 真琴は
 相沢真琴は
 祐兄ぃの妹でいて
 本当によかった……

 今日は旅立ち
 あたしにとっての旅立ち
 ユウイチからの旅立ち
 ユウイチから祐兄ぃへの移り変わり
 それは
 穏やかだった春の日々が終わってしまったけれど
 それはあたしの中で生き続けている
 未来永劫変わらないままで……

――――FIN




おまけ



「My Departure」

 穏やかな春の日差しが澄み切った青空へと変わっていく
 楽しかった日々は遠い日のこと忘れられない私の宝物
 追いかけていたあなたの背中はもう見ることができない
 歩き疲れたあたしをいつも背負ってくれたよね
 その背中のぬくもりをあたしはいまでも覚えているし
 この両手に感じるぬくもりはいつだってあなたのものだった
 あなたの傍にいたかったあなたのとなりをあるいていたかった
 ひとり歩き始めたあなたその傍にはあたしとは別の人がいて
 あたしの前で誓ったかならずしあわせになると

 春が過ぎてまた春がくればいいのに何度願ったことだろう
 終わりがくればまた始まりがやってくる
 だけどあなたはもう戻ってこない
 あなたのそばにいられないあたし
 でもいつもあなたの背中にいるあたし

 あなたの中であたしが生き続けているとわかった今
 あたしの中で止まった時間が時を刻み始める
 一人歩き始めたあたしの時間
 振り返らなくてもいつもあなたはあたしの中にいる

 春が過ぎてまた春がくればいいのに何度願ったことだろう
 終わりがくればまた始まりがやってくる
 あなたはもう戻ってこないけれど
 お互いの中でいき続ける絆
 だから今日あたしはあなたから旅立つ






戻ります