こちらオカ研−魔術師端くれ物語−外伝
            〜ただいま出張活動中・真夏の夜の『幻』想〜
















 やっておかねばならない事が多いというのは面倒な事だ。

 だが、嫌々ながらでもそれをこなしていくのも悪い気はしない。

 それもまた人生で、運命なのだから。

 世界に生きている証なのだから。















「ねぇ。ここの所、変な空気じゃない?」

 それは『今』より少し前の夏休み前。
 初めにそう言いだしたのは、艮野カナミだった。

 夏休み中何をするか……。
 そんな話し合いの中でのカナミの言葉に、二人……オカルト研究会会長・古村涼子と会員・新谷篤は首を傾げた。

 この学校のオカルト研究会。
 それは『一般的なオカルト研究会』を装って、『本物』の魔術師としての活動を行う彼ら三人の魔術師、その集まりの事。

 彼らの活動は多岐に渡り、いくら活動してもし足りないほどにやりたい事は多い。
 そんな訳で、彼らは夏休み中でも部活動を行う予定を立てていたのだが。

「いきなり何言ってんだ、コン。暑さで頭がやられたか?」
「全く何を言うかと思ったら……これを感じ取れないなんて、アンタこそ頭やられてんじゃないの、シン?」
「まぁまぁ」

 幼い頃からの呼び名でじゃれ合いという名の軽い喧嘩を展開する二人を宥めつつ、涼子はカナミの言葉の『意味』を確認すべく意識を集中した。

「んー」

 集中して、少し意識と視線の『軸』をずらす。
 そうすると見えてくるのは、マナと呼ばれる生物、土地……『世界』が発するエネルギーの流れ。

「確かに、なんか淀んでる感じがするね。
 この間綺麗になったと思ったのに」

 カナミの発言はこの事か、と改めて納得しつつ、涼子は集中を解いた。
 同じく、遅れてではあるが『見て』いた篤が呟く。

「……最近なんかあったのか?」
「うーん、多分、色んな人が増えたから、かな」
「ああ、そう言えばそうか」
「そう言えばそうかで済ませるシンはどうかしてると思うけど、おそらくはね」

 オカ研メンバーたちは、この所、この学校に現れた……存在を露わにし始めた……ヒトではないヒトと多く遭遇していた。
 なんでもここは、彼らにとって落ち着く場所であるらしく、それゆえにそういうモノ達が集まりやすい、らしい。
 彼らはずっと前からここにいたモノ、最近ここに来たモノなど様々だが、最近少し大きめに活動し始めた事が共通している。
 その影響が少なからず出ているのだろう……少なくとも彼らはそう考えていた。 

「うーん、今は良いけど。
 これ放っておくと今後の活動に差し障るかも」
「うん、そう思うのよ」

 魔法・魔術というものは、マナの影響を受けるモノも少なくない。
 現状の所はそこまで大きなうねりではないものの、放置しておくのはいい事にはならないだろう。
 少なくとも、オカ研メンバーにとっては。

「だからちょっと考えてみたんだけど」
「何を?」
「この流れを通常状態に戻しつつ、浄化気味にする方法。
 丁度この辺りに載ってたから」

 カナミがそう言って魔道書を渡す。
 渡された魔道書を、涼子と篤はマジマジと覗き込んだ。

「えと……陰陽共々のマナエネルギーを活性化して、バランスを整える術?」
「そそ。
 それやったら、魔法実験がしやすくなるんだって。
 土地のマナの流れもよくなって、その地に生きるモノ達も良い影響を少なからず受けるとか受けないとか」
「どっちなんだよ。ったく、相変わらず適当だなお前」
「フン、アンタには負けるけどね」
「……」
「どうかしたの、涼子」
 
 いつからか、自分をジッと見つめていた涼子の視線に気づき、カナミは言った。
 涼子はパタパタと手を振って「なんでもない」と答えた後、今度は二人に向けて口を開いた。

「まぁまぁ二人とも落ち着いて。
 でも、うん、確かにこれやっといた方がいいかも。
 初めての魔法だから勉強にもなるし」
「でしょでしょ?」
「でも、その為にはある一定量のマナエネルギーが必要になるみたいだけど……」
「それをどうするかが問題って訳か」
「……そうだ。肝試し、はどうかな」
「ほぉ」
「へぇ?」

 二人の視線を受けつつ、涼子は続ける。

「人を集めつつ、皆に楽しんでもらいつつ、怖がってもらうには一番いいと思うの。
 時節柄不自然じゃないから、深く考えさせないで集まってもらえそうだし」

 生物がマナエネルギーを生み出す……という訳ではない。
 その為の条件などは色々なモノの噛み合わせ、兼ね合わせもあり、定義付けがし難いものだったりする。
 しかし、生物の活動は決してマナと無関係ではない。
 生物が世界で生きていく……それはマナとの結び付きで行われるからだ。

 魔術師の間では、そんな結び付きの強い発露として『人間の感情』がよく利用されている。
 『強い感情』を形にしやすい人間が集まるだけでもマナの発生条件としては悪くない。
 それは絶対ではないが、ある程度の高い確率での発生条件の一つだった。

 涼子の提案した『肝試し』はその条件を満たし易く、かつ彼らにとっては数少ない無理の度合いも少ないものと言えた。

「おお流石。そこの阿呆とは違う」
「うんうん、流石は涼子。そこの馬鹿とは違うわね」
「はいはい、喧嘩は無しで。
 折角褒めてくれたんだから、一緒に煮詰めましょ?」
「……分かったわよ」
「ああ、了解。
 でも、それはそれとして俺らだけじゃちょっと難しくないか?」
「何よ弱音?」
「うっせ馬鹿。
 どうせやるならキッチリしないとな。
 手抜きは魔術において失敗の元だ」
「……アンタにしては良い意見ね」
「うーん、そうだね。
 なら、芽衣ちゃんに協力してもらおうか」

 涼子が口にしたのは、違う学校のオカルト研究会会長である平良芽衣。

 見えざるものを見る事が出来る眼を持つ彼女は、霊関係の経験が豊富。
 今回手伝ってもらえば鬼に金棒の人材だろう。

「そうね、後は赤子や私達の事を『知って』る人達にも協力してもらいましょう」

 吸血鬼にしてこの学校の生徒でもある夜道赤子を始めとする、オカルト関係の知り合い達。
 このイベントは彼らにとっても悪い事にはならない筈だ。

「あと、他にも可能な限りで色んな人に協力してもらいましょ」
「ま、そうだな。
 人数がいるに越したことはないし、上手い事『嘘』を吐いて手伝ってもらうのもありだな。
 それで、内容については……」

 そうして彼らは『肝試し』の企画を進めていった。

 校舎を使ったタイムアタックで、優勝者には景品を。
 景品で客を寄せて、多くのマナの素を集める。
 ソレをより効果的に行う為に、三分の一は本物も使う(その方がよりマナを生む為の感情を引き出せる公算が高い為)。
 人為的な仕掛け部分については、協力者を募って意見を聞き、可能な限り普通の肝試しらしいものを作る……などなど。

 話し合いや準備は流石に一日で終わる事はなく。
 夏休みの間中、彼らはその準備に費やされる事となった。

 途中、芽衣への協力の見返りとしての夏祭り内の合同オフ会などにも参加しつつ、ついにその日はやってきた。












 肝試し当日。
 よく晴れた青空の下、夜の準備をすべく、オカルト研究会及びその関係者達が早々に集まっていた、のだが。

「えーと」
「夜道や平良はおいておくとして、誰だ、こいつら」

 集まっていた中には、涼子や篤にとっての見知らぬ人間が数人混じっていた。
 学生ですらないらしい初対面の大人達に向けられた疑念の視線に気付き、カナミは口を開いた。

「彼らはね、私の知り合い。
 涼子達の知らない所で色々やってる内に知り合いになったの。
 こういう事に詳しいエキスパートさんなんだって」
「話してた協力者ってこの人達?」
「ええ、そうよ」
「……って、そういう設定か……っって、おおおっ!?」

 その内の一人……夏だというのに白いマフラーを首に巻いた男がいきなり腹を押さえてうずくまった。

「ど、どうかしましたかっ!?」
「ぎぎぎ……い、いや、なんでもない。
 ちょっと腹が痛くなっただけだ。……ババァ、後で覚えてろよ……」
「は、はぁ、そう、ですか」
「フフフ」
「……? カナミ……?」
「あー、ごめんね、驚かせちゃって」

 戸惑う涼子達にやんわりとした穏やかな口調で話しかけたのは、見知らぬ人間のうちの一人。
 その、眼鏡を掛けた長身の優男は口調を変えないままに、言った。

「はじめまして。
 僕の名前は草薙紫雲。そっちが白耶凪。
 まぁなんというか、退魔師とでも言えばいいのかな。
 僕らは魔物とか霊とかそういうものの知識を齧ってる身の上で、それに関係した仕事をしてる。
 魔法についてもそれなりに知識を持ってるつもりだよ」
「白耶……? あれ?」
「そんなアンタらがなんでここに?」
「カナミさんと、ちょっとした縁で知り合いになってね。
 今回肝試し兼土地浄化を行うって聞いて、お手伝いできないかと思って来たんだ」
「この人、凄くお節介なのよ」
「偽善者なだけだろ」

 マフラーの男……凪の言葉に、紫雲は苦笑する。
 
「まぁ、そういう人間だからさ。
 お手伝いさせてもらおうと強引に頼み込んだんだ。
 そんな訳で、もし迷惑じゃなかったらこき使ってほしい。
 お化け役でも何でもやるよ」
「迷惑だなんて、そんな。むしろ、よろしいんですか? そちらの方も」

 名目はあるものの、基本的には肝試しには違いない。
 ある意味では『子供の遊び』でしかないのかもしれない。
 それに付きあわせていいものかどうか……そう、涼子は考え込んだ。

 だが、それはどうやら杞憂でしかなかったらしい。
 男二人は顔を見合わせた後、それぞれ薄く笑みを浮かべて見せた。 

「ああ、全然構わないよ。
 僕にとっては、仕事の一環でもあるわけだし」
「……まぁ、ここまで来たからには俺も手伝ってやるよ。
 こんなのに参加するのは学生時代以来だから、面白そうだしな」
「あ、ありがとうございます。
 じゃあ、よろしくお願いします」
「おう、よろしくな可愛い魔術師さん」
「こちらこそよろしく」
「……おじ様、仕事は大丈夫なんですか?」
「ああ、大丈夫だよ。赤子ちゃん」
「え?」
「夜道と知り合いなのか?」
「ええ。お世話になっているの」
「……ちーす。手伝いに来たわよー……って、紫雲従兄さんっ!? あ、それと兄さんも」
「実の兄をついでみたいに言うなっ!!」
「あ、久しぶり、音穏」
「白耶先生と知り合い……って、苗字が同じ……」
「ああ、こっちは私の実の兄なの。
 で、そちらが私の従兄で正義の味方で素敵な紫雲従兄さん」
「音穏、お前……(涙)」

 そうして自己紹介と会話と交流を進めながら、彼らは準備を進めていった。
 











 そんなこんなで時間が流れて夜。
 無事に準備を済ませる事に成功した涼子達は準備万端に『お客様』を迎えた。

 生徒会の面々、トラブルエディター、クラスメート、他校の生徒達。
 そして、それらに混じった『特殊』な学校の住人達。

 裏事情を知っているモノいないモノ。
 それぞれの思惑を含みつつ、肝試しは始まった。

「準備はよろしいですか?
 ………では、スタート」

 携帯電話を耳に当てながら、次の参加者へと向けて涼子が言う。

『次の参加者は7番の方々です〜
 もう間もなくスタートとなりますので準備をお願いいたしまーす』

 校舎の中に入っていくカップル……確か隣のクラスの人達だ……を確認しつつ、集まった人々にマイクで呼びかける。
 その後、電話の向こう側にいるカナミに改めて話し掛けた。

「カナミ、ちゃんと時間測ってる?」
『ええ、きっちりやってるわ。
 状況を見て、また連絡するわね』
「了解」

 そう答えて電話を切る。
 気疲れからか、フゥ、となんとはなしに息を吐く涼子。
 そんな涼子に、客の様子を見に行っていた篤が戻ってきて、声を掛けた。

「思ったより、スムーズにいってるよな」
「ええ。草薙さん達のお蔭ね」

 紫雲達は手際よく動いてくれているらしく、参加者が通った後の仕掛けや色々な『調整』を即座に直してくれていた。
 それが大きな要因となり、予想していたより遥かにスムーズにイベントは進んでいる。

「……しっかし、アイツ何考えてるんだか」
「カナミのこと?」
「ああ」

 篤は、そこで少し真剣な表情を形作った。
 カナミとは仲が悪いようで仲が良い彼が、彼女の事でそういう表情を見せるのは滅多にない事だった。

「俺らの知らない知り合い作ってたり、呼んだり、どうもな」
「その辺りは説明してくれたじゃない。
 夜道さんも無関係じゃないらしいし」
「にしたってなぁ……どうも、釈然としないというか」

 涼子はカナミの事を信じている。
 仲が悪い篤にしても、なんだかんだで信じている。
 それはそれだけの時間を重ねてきたが故の信頼に他ならない。

 しかし、最近何かを感じるのだ。
 主に、この所カナミがふと見せる感情や表情、その断片に。

 今回の事にしても、よくよく考えてみればカナミの発言がなければ発想すらしていなかったかもしれない。

 正直考え出すと、疑念の種はいくらでもあった。
 実際の所は、種でも何でもない、ただの偶然や気のせいの産物に過ぎないのかもしれないが。

(カナミ……)
 
 二人は、意図せず揃って屋上を見上げた。
 そこにいるであろう、大切な幼馴染を想いながら。
 









「……そろそろ、何かを感じてる頃かしらね」

 屋上に佇むカナミは、そんな事を呟いた。

「むしろ、そろそろ気付いてもらわないと。
 でも、今回は少しヒントをばらまき過ぎたかしら?」

 とは言え、そろそろ薄々とでも違和感を感じてもらわなければ困る。
 いつまでも彼女達といられるわけではないのだから。
 最終的に、自分が彼女達から離れるその前に、彼女達自身の意思と力で気付いてほしい所だが。

「後で微妙に薄めた方がいいのかしら。
 まぁ、今回は二の次三の次ね」

 今回の目的。
 
 陰陽共々マナを活性化させ、浄化する。
 確かに、それも目的である。

 しかし、カナミには他に幾つか目的があった。

 一つ。
 涼子達に微かにでも自分への疑念を抱かせる事。
 涼子達とは違う存在である『艮野カナミ』との決別の前準備の為に。

 一つ。
 この街……正確に言えば、この土地のマナの流れを再確認する事。
 ここ……『特異地点』は今後も様々なものを引き寄せていくだろう。
 そんな土地の流れを再確認する事で、今後起こる事をある程度予測し、対策を立てる為に。

 そしてもう一つ。
 彼女が探し求めている存在を見定める事。

 元々ここにいるのは、過去に交わした涼子との約束の為だが、それと共に重要な案件を抱えてしまった為でもある。

 案件。
 それは今は肉体を持たない、カナミや紫雲、凪の『あるじ』の器を探し出し、見定める事。

 そして、それを行うには『特異地点』であるここが相応しいのだ。

 今回の肝試しの事を『伝える』際に、カナミは涼子や篤、芽衣の言霊に仕込みをいれていた。
 その仕込みは『あるじの器』の条件を持つモノを誘導するというものだった。

 つまり、この肝試しに来る事そのものが、ある程度の選定となっているのだ。 

 そこからさらにある程度絞り込む事。
 それがカナミの、世界を管理する『管理人』にして魔術を究めし魔女、艮野カナミが、今ここにいる目的だった。

「さて」

 彼女の眼が銀色に光る。

 そうして、彼女は再び己の仕事と、本来の自身に戻る。
 オカルト研究会会員ではなく、銀色の管理人としての艮野カナミに。

 そうして彼女は集まった人間達の『選定』を始めた。









「ふむ。流石に運命の眼の持ち主は伊達じゃないわね」

 カナミが見ているのは平良芽衣。
 彼女は『本物』がいる場所いない場所を簡単に見抜いていた。

 それを支えている、芽衣が備えた赤い眼は、人類の方向性をある程度整える『運命の導き手』に与えられた力に他ならない。

「でも、それゆえに、彼女は違うわね」

 導く者ではあるが、その方向はあくまで『人類』の為のもの。
 ゆえに地球の管理人としては、彼女は相応しくはない。

「色々惜しいんだけどねぇ」









  
「……やはり、彼女か」

 次に見ているのは、霧里薫。
 彼女は校内に仕込んでいた『見つけるべきモノ』を確かに見据えている。

 ソレは、普通の人間ならば無意識に避け、
 ある程度の能力者は目を無意識に逸らしてしまう、
 星の呪いの概念を人工的に作り上げたモノ。

 それを見つけ出しただけでも『才能』は十二分。
 そして、以前から気になって調べ上げていた彼女の素性を考慮すれば『資格』も十二分だった。

「どうやら、ほぼ決まりのようね。
 まだもう少し様子を見る必要性はあるでしょうけど、後は時期と、『彼女』と、本人の意思次第か」

 








「そして、そんな彼女にふさわしいわね、彼は」

 最後に目を付けたのは平良陸。

 彼は妹に『特異な運命性』を奪い取られているがゆえに、『普通』から離れる事が出来ない。

 その証明に、彼は悉く物理的なモノしか仕掛けられていない教室だけを選び取っている。
 連れである月穂由里奈もそんな彼に引きずられている様子だった。

「普通の究極たる存在か。
 多分、彼こそが紫雲が本当になりたい存在ね。
 いつか、そうなればいいんだけど」

 








「ふむ。
 候補者は結構いるみたいなんだけど」

 白耶音穏。
 光と闇の狭間に立つモノ。 

 駆柳羽唯。
 人の意思の流れを読み取る可能性を秘めたモノ。

 火午真治。
 王の資質だけで見れば、薫をも凌ぐ可能性を持つモノ。

 その他にも、久能明悟など上手く回れば器としては十分な存在も少なくなかった。
 だが、総合的に見れば霧里薫が頭一つ抜きんでている。

「良くも悪くも運命か。
 まぁ、どの道暫しは様子見ね」

 今回ある程度選定された候補者達の観察は今後も続けなければ。
 そんな思考と今回の結果を空間の狭間から取り出したメモ帳に書き込んだカナミは、ソレを片付けた後、最後に改めてマナの流れと、それに纏わりつく、生半可な存在では知覚する事さえな叶わない運命線を眺めた。

 今この場にいる人々は決して無関係ではありえない。
 それぞれがそれぞれの運命に微妙にかかわり合い、影響し合い、生きていく事になる。

 そんな、運命の縮図とも言うべきものがここにはあった。

「興味深いわね。何年経っても」

 複雑に絡み合い、もつれ合い織り成していく生と死。
 ソレを眺めるだけでも楽しいものだ。
 ソレに自分も絡まっている事を思うと、益々楽しい。
 
 それに多く関わる為の管理人としての為すべき事が時々煩わしくなる事は否定しない。
 時には嫌なモノ、見難いモノも目の当たりにする。

 だが、それも含めての運命であり、人生なのだ。

 それは誰であっても変わらない、それこそが、世界に生きている証なのだから。

「……お疲れ様です」

 そんな思いに対してのものではないのだろうが、いいタイミングでの言葉にカナミは苦笑しつつ振り返る。
 そこには今回の選定に意見と協力を求めて参加してもらった草薙紫雲と白耶凪がいた。
 他にも何人か協力者が紛れ込んでいるのだが、彼らはまだイベントの後始末に追われているようだった。

「あら、そちらこそお疲れ様。
 悪かったわね、面倒を掛けて」
「ま、仕事だし。
 でも、それを抜きにしても楽しかったよ。なぁ?」
「……ああ。
 久しぶりにこういう馬鹿な事をやった気がするな。
 殺伐とした事ばかりだと、こんなのも新鮮に思えるよ」

 実際、楽しかったのだろう。
 基本的に仲の悪いもの同士で、言葉を交わせば喧嘩となる紫雲と凪が珍しく普通に会話を交わしているのがその証明だとカナミは思えた。  

 ……どうやら、良い感じにマナが流れているようだ。

「今からが最後の仕上げなんだろ?」
「ええ」

 皆を帰した後の、オカルト研究会による魔術。
 ソレをもって今日のイベントは本当の意味で終了となる。

「悪いけど、最後まで付き合い頼むわね」
「へいへい。……色々貸しだからな」
「ええ、いずれ返すわ。
 なんなら、この後ちょっと付き合ってみる? な、に、か、で返してあげなくもないわよ」
「……言っとくが浮気はしないぜ」
「あらあら。変な事考え過ぎじゃない?」
「っ!? アンタの言い方が悪いんだろっ!」
「……やれやれ」

 そうして彼らは歩き出す。
 今日の全てを締める事となる、魔術師の卵たちの下へと。

 艮野カナミ。
 彼女は、その卵の一員にして、卵を生み、育てるもの。

 世界最高の魔術師にして、銀色の管理人たる、一人の嘘吐き女。

 そんな彼女がここにいる目的の一つが果たされるのは、もう少し先の話である。










 …………続く?


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