このSSはKey関係作品の二次創作小説です。
作者の偏った考え方(設定的なものも含む)も含んでおりますので、原作のイメージが第一と考える方は読む事をご遠慮ください。
また、ネタバレを多少含んでいるので、今から現在(2010年6月以前)のKey作品をプレイしよう、アニメ化作品を見ようとしている方もご遠慮ください。
以上の事に関する苦情などは受け付ける事ができない事をご了承の上、それでもいい、それでも読んでみたいという方のみ、下の方へとお進み下さい。
それでは、どうぞ。
ゆーとぴあ本舗 創立7周年記念作品
Relation Again〜出会いという名の運命〜
「……って、そんな話らしいぞ」
「へぇ……」
そこは日本の何処かにある、一般的な家の中。
その家……水瀬家のリビングで、二人の少年少女が話していた。
水瀬家の家主、水瀬秋子の娘、水瀬名雪とそのイトコ相沢祐一の二人である。
日曜日の昼食後という、まったりとした時間帯。
二人の話題に上っていたのは、祐一がたまたまインターネットで見つけた一つのニュース。
違う国出身の恋人同士が出会う前、幼い頃の写真に偶然一緒に映っていたというものだ。
「こういうのを運命って言うんだろうな」
「運命、かぁ。ねぇ祐一」
「なんだ?」
「その、えと、私達が出会うのも運命だったのかなぁ」
「うわ恥ずかしいなお前。そういう台詞は中学生を卒業した時点でだな……」
「それ以上の発言はこの世界に存在している色んなものを否定するからやめておいた方がいいと思うよ?」
「……まぁ、今回はお前の言う事が正しいと思わないでもないな。よし前言撤回。
話を元に戻すと、どうだろうな?
運命と言うか、そもそもイトコだしなぁ」
血縁関係的に『出会う』可能性は決して低くは無いだろう。
そう考えての祐一の言葉だったのだが。
「イトコだからと言って、出会いが確定しているわけじゃないんじゃない?」
そんな言葉が横合いから流れ込む。
その言葉の主は、祐一の叔母である水瀬秋子だった。
彼女は二人に食後のコーヒーを渡しつつ言葉を続ける。
「悲しい事だけど、世の中には実の子供とも別れるような人もいるわ。
そういった事を考えると私達がこうしてここにいる事も立派な運命……
だと思ったりするけど、今の状況だと私はただの邪魔者ね」
「え、そ、そんな……」
どう返せばいいのか分からず、おたおたする名雪に秋子は優しく微笑みを送った。
「半分は冗談よ、名雪。
でもこうして二人がいる事は私にとっても素敵な運命なのは間違いないわね。
そんな二人を邪魔するのは悪いから、私は洗濯しに行ってくるわ」
微笑みを崩す事無く、秋子はその場を去っていった。
「も、もうお母さんってば……」
「そ、そうだな」
今一つ会話になっていない気もしたが、黙っている事も気恥ずかしく、二人はなんとなくで言葉を交わす。
「あー、でもまぁ、確かにそうだよな」
「え? な、何が?」
「いや、イトコだからって、確実に出会えるわけじゃないんだよなって事。
そう考えると、まぁなんだ」
「祐一?」
「その、運命って言ってもいいのかもしれないな」
照れながらもあえてそう言うのは、そう言う事で自分が少しでも喜ぶから。
そう思っての事なのだろうと名雪は思った。
自分のイトコであり、恋人である相沢祐一がそういう人間である事を名雪は知っていた。
だからこそ、その気持ちを無駄にするまいと、そしてそれ以上に純粋な嬉しさから微笑みながら言った。
「……うん、そうだといいなって、思う」
「なら、そう思っとけばいいんじゃないか?
俺も多分同じだし」
「……うん」
「あー……しかし、そう思うと、あれだな。
色んな奴が、色んな理由や偶然で出会ってるんだろうな」
「そうだね。
例えば、世界を渡り歩く旅人さんが一人ぼっちの女の子に出会ったりとか」
「いやいやいや。絶対無いとは言い切れないけど、中々無いだろそんなの」
「へっくし」
「くしゅん」
そこは海沿いの小さな町。
堤防に座る二人の男女は揃ってくしゃみをした。
男の方、全体的に黒っぽい服を着た男……国崎往人は旅人だった。
自身の持つ『力』で芸を行い、路銀を稼ぎ、世界を渡り歩いてきた。
彼は、たまたま降り立ったこの町で路銀が尽きた為、路銀を貯める為にここに留まっている。
そんな彼の側に座る少女・神尾観鈴はそんな彼に寝場所と食事を提供している心優しい少女である。
二人はそれぞれのやるべきこと……学校と路銀稼ぎの帰り道でたまたま出会い、なんとはなしに足を止め、堤防に座って話をしていた。
海から来る風が心地良かったのも理由として大きかったのかもしれない。
閑話休題。
そんな会話の最中、唐突に同時にくしゃみをした事について観鈴は口を開いた。
「すごいね往人さん」
「なにがだ」
「こんなに夏真っ盛りなのにくしゃみ出来るなんて」
「いや、寒さでくしゃみしたわけじゃないだろ」
「あ、そうだね。じゃあ風邪でも引いたのかな。
御揃いだね、にはは」
「風邪じゃないと思うが。
それに俺はともかく、お前が風邪引く要素が見当たらないな。お前あほちんだし」
「あれ? 風邪をひかないのは馬鹿じゃないのかな」
「似た様なもんだろ」
「うーん、違う言葉なんだから違うのには意味があると思う」
「お前にしちゃ突っ込むな、おい」
「そうかな?
……うーん、多分、お話をしたいからだと思う」
遠く海を眺めながら観鈴は呟く。
往人もまた、その視線の先を同じ様に、理由なくぼんやりと眺める。
「こうしてお話できる人、お母さん以外にあんまりいなかったから」
「ふーん。そうなのか」
「漫画だったら、運命の出会いってこういうの言うのかも」
「はぁ?」
「だってそうじゃない?
往人さんは旅人で、私は自分の居場所にいるのが精一杯の子供。
そんな二人が出会う可能性なんて、物凄く少ないんじゃないかな。
これって凄い偶然」
「いや、お前なぁ……」
往人は何かを言おうと観鈴の方に顔を向ける。
だが、いつの間にか、自分を見つめて観鈴の顔を、眼を見て、言葉を失った。
自分を見る観鈴の悲しげでもなく楽しげでもない、形容し難い眼に、何故か呑まれてしまっていた。
いや、呑まれたと言うより……引き込まれた、のかもしれない、そう往人は思った。
そして、気付けば思わぬ言葉を口にしていた。
「……まぁ、なんだ。
よくよく考えれば、俺もこういう関係を持つ事自体ないからな。
凄い偶然なのは、そうかもな」
「じゃあやっぱり運命だね、にはは」
「……俺は、そういうのはあんまり好きじゃないけどな」
意に沿わぬ、というわけではないものの。
らしからぬ言葉を発した自分から、通常の自分へと移行すべく往人は自身の考えを口にする。
「そうなの?」
「ああ」
今度は引き込まれないように、と半ば無意識に空を見上げる。
海からの風と潮の匂いを感じながら往人は言葉を紡いでいった。
「運命なんてものが決まってるんだったら、つまらないし、狭いだろ」
「狭い?」
「全てがもし雁字搦めに決まりきってるのなら、それは不自由だ。
息苦しい。狭い。そういう表現しか浮かばない。
そういうのは、旅人として俺はごめんこうむる」
それを聞いた観鈴は、悲しげに顔を俯かせた。
それを見てか、見ていなかったのか。
往人は視線を下ろさないままに、言葉を続ける。
自分らしからぬ事に苛立ちながら、それでいて言葉を続けてしまっている自分に驚きながら。
「だがまぁ、そうかもな」
「え?」
「お前に会った事。
それに関しては運命だって事でも別にいいさ。
決まりきってるかどうかなんてわからないんだしな。
なら、そうかもしれないって言っておく」
「往人さん……」
「その方が昼飯が豪華になりそうだしな」
せめてもの反抗と言うべきなのか、そんな言葉を付け加える往人。
「……」
「お? 怒ったか?」
「ううん。大丈夫」
往人らしい。
観鈴は素直にそう思ってしまっていた。
そして、そう思う事が不快な事ではなく、とても楽しい事だと。
「お昼御飯、少しは豪華にしてみるよ。嬉しかったから」
「……そらよかった。んじゃ帰るか」
「うん」
そうして堤防から降りて、二人は家路を辿る。
そんな中、観鈴がポツリと呟いた。
「……運命かぁ」
「まだ言ってるよ、この子」
「ああ、いや、そうじゃなくて。
私達みたいなのが運命って呼べるものなら、普通に出会う事はどうなんだろ?
それも運命なのかな? そう思ったの」
「お前の言う普通ってどんなんだよ」
「うーん、学校とかで知り合ったり?」
「まぁ、そのあたりなんだろうが、それは人によるんじゃないか?
その出会いで人生観とか人生そのものとか変わったんなら運命だろうけどな」
「なるほど……そうかも。
きっとこの空の下には、そういう出会いで幸せになった人もいるんだろうね」
「へっくし」
「くしゅん」
所変わって、日本の何処かにあるアパートの一室。
そこには三人で暮らす家族の姿があった。
「どうしたの、パパもママも。風邪?」
少し遅めの昼食(チャーハン)の手を止めて、少女・岡崎汐は両親に尋ねた。
それに対し、父親・岡崎朋也と母親・岡崎渚(旧姓・古河)は一瞬だけ視線を合わせた後、それぞれ答えた。
「風邪じゃないと思います」
「何処かで誰かが噂でも、ってのはベタか」
「そうかもしれませんよ。
……皆さん、元気にしてるでしょうか?」
渚の言う、皆さん、というのはかつての同級生達の事だろう。
そう気付いた朋也は少し口元を上げて言った。
「ま、元気だろうさ。
あいつらはそう簡単にどうにかなるような気がしない。
むしろ、俺らの方が心配されてるんじゃないか?」
「あ、それでくしゃみ」
「……いや、くしゃみはあれだ。あくまで迷信だから。
無理に結び付けようとするな渚」
「そうですね。……」
そう呟いて、渚は暫し瞑目した。
そんな妻の様子が、微かに日常から離れている気がして、不安になった朋也は疑問を口にした。
「どうした?」
「あ、いえ。
特にたいした事じゃないんですけど。
皆さんの事を思い出して、思ってたんです。
あの頃の時間は本当に特別なものだったなぁ、と。
そしてそれは、朋也くんに出会えたことからはじまったんだな、と……」
「……」
「朋也くんとの出会いは、私にとっては運命の出会いでした」
「そりゃあ、俺にとってもそうだよ」
「……運命ってなに?」
二人の世界を作りつつあった両親に向けて、それまで黙って話を聞いていた汐が呟く。
そんな汐の疑問に世界を霧散させられた二人は、うーん、と頭を捻る羽目となった。
「運命か。なんて言えばいいんだ?
うーん、俺達じゃ決められない流れと言うか出来事というか……」
「……よく分からない」
「そうですね……
私がパパと結婚出来た事や、しおちゃんが私達の子供として生まれてきた事とか。
そういうものだと思います」
「つまり、いいこと?」
「いや、まぁ、渚の……ママの言ってる事は間違っちゃいないが。
良い事ばかりでもないな」
呟いて思い浮かべるのは、かつての自身の家族・家庭環境や、渚の身体の弱さだった。
今でこそ、全て今に繋がる欠片だと思える事だが、そうならなければ理不尽としか取れなかっただろう出来事や事象。
それは言うなれば、渚に出会えた事とは真逆の『運命』。
そう考えると、朋也としてはそれらを含めた上での『運命』というものを素直に認めたいとは思えなかった。
「……そうだな。
いいこと悪いことひっくるめて、自分に起こる全て、って事か?
色々あったから、単純に運命って言っちまうのはどうかって気もするし、かなり大雑把だが」
「うーん……」
そんな父親の言葉を聞いて、暫し考え込んだ後、汐は言った。
「それは……世界ぜんぶ、ってこと、かな」
『え?』
夫婦揃って声を上げる。
そんな二人を真っ直ぐに見据えつつ、思ったままに言葉を並べていく。
「起こることが運命っていうものなら、生きてる世界ぜんぶが運命なんじゃないかなって。
なんとなく、だけど
うーん、なんだか、やっぱりよくわからない」
「……いえ、間違ってないと思います」
「ああ、そうだな。
なんというか、我が娘ながら結構凄い事を言ってる気がする。
なるほど、世界そのものが運命、か」
それは今この瞬間、ここにある全てが運命だと言えるのかもしれない。
そう考えると、不思議と。
「……運命って言葉も悪くない気がしてくるな」
今のここにある、かけがえのない自身の家族を再認識し、朋也は言った。
心からの言葉で。
「ぱぱ?」
「あ、いやなんでもない。
多分、汐の言う事が正しいと思うぞ。
たいしたもんだ」
「そうですね。
ということは、そこがどんな世界でも世界がある限り誰かに繋がる運命がきっとある、って事なんでしょうか」
「まぁ、ポジティブに考えればそうなるのか」
「どんな世界でも?
……うーんと、天国とか、地獄とか?」
「あーいや、それはママの言葉のあやというか……」
「でも、もしあの世とか違う世界があったら、きっとそこにも運命がある気がします」
「……そういうものかねぇ……」
時々予想も付かない事を言うのは血筋かもなぁ。
そう思いながら、シミジミ呟いて朋也は食事を再開したのだった。
「へっくし」
「くしゅん」
そこは『普通の世界』とは違う世界。
誰かが『死後の世界』と呼ぶ世界。
そんな世界に存在している学園の学食に、その二人はいた。
向かい合って座りながら麻婆豆腐を食べる少年少女。
そのうちの少年……音無が、少女……立華奏に言った。
「風邪か? 天使でも風邪引くのか」
「……前も言ったけど天使じゃないわ。風邪かどうかは分からない」
音無の言葉に対し、奏は抑揚の少ない声で淡々と答えた。
「というか、俺らって風邪とか引くのか?」
「……さぁ」
「知らないのかよ」
会話を交わしつつ、二人は食事を進めていく。
そんな中、黙々と、それでいて味わって麻婆豆腐を食べている奏を見て、音無は口を開いた。
「……なんつーか、不思議だな」
「何が?」
「色々あったお前とこうして飯を食べている事もだけど……」
元々二人は『対立』関係にあった。
正確に言えば、音無がこの世界にやってきて所属した『戦線』という組織が奏と対立していたからだ。
色々な事が起きた現在、音無個人は彼女との対立する理由が無いと認識するに至っていた。
彼女としても、基本的には専守防衛なので、今現在関係としては悪くない……音無はそう思っていた。
そんな思いを込めて、音無は言葉を続けた。
「こうしてこの世界で立華と話している事が、かな。
正直、生きてた頃は死んだ後の世界なんてあんまり考えもしなかったよ。
ここに来れる奴来れない奴がいるなら、俺がここにいるのは所謂”運命”なのかもな」
「……」
「まぁ、そうは言っても、運命なんてものが本当にあるのかどうかは俺は知らない。
あったとしても、それは良い事ばかりじゃなくて、理不尽な事の方が多い気もする。
そして、運命で全部が決まってるのか、決まってないのか、それさえよく分からない。
でも、少なくとも、誰かに出会える運命、ってのは悪くない、そう信じたいな」
「そう」
「少なくとも、俺は立華に出会えてよかった。今はそう思うから」
「……そう」
「たまに思うんだよな。
戦線の奴らや立華と普通に出会えてたら……ってさ。
ここじゃなくて、普通の世界で、理不尽な事なんか無くて……もしもなんだけどさ」
「……」
「確かに理不尽な事を越えて得られるものも大事だとは思うけど。
理不尽な事無く、普通に出会って、普通に幸せになる、ってのもいいよな」
「……そうかもしれない」
そうして二人は食事を続けていく。
目の前の少女が何を考えているのか、明確には分からない。
それでも、流れている時間は悪くない。
少なくとも音無にはそう思えた。
「でも」
「ん?」
「多分、多かれ少なかれ、皆理不尽な事には出会うわ」
「……ああ、そうなんだよな。
それでも生きて、自分の道を歩いていかなくちゃいけないんだよな。
歩けなくなるまで」
それはとても厳しい事なのかもしれない。
それはとても難しい事なのかもしれない。
だが、もしそうでも。
「でもさ。
もし、それでも歩ききれたなら、きっと悪い気分じゃないさ。
理不尽な終わりの先まで行けるのなら、きっと……」
音無の言葉に嘘はない。
それはきっと、辿り着けたのなら素晴らしい、と。
彼は確かにそう思っている。
しかし。
心の何処かで思ってしまう。
辿り着けない可能性を考えてしまう。
誰にも出会えない可能性を考えてしまう。
結局の所、それは……。
「ま、それこそ”運命”次第なのかもしれないけどな」
イトコ同士として出会う事も。
旅人と少女が『偶然』出会う事も。
ごく普通の出会いをする事も。
予想も付かない場所で出会う事も。
そして、出会うか出会わないかも。
それに納得できるか否かなどは、人それぞれなのだろうが。
少なくとも『出会い』そのものは運命なのだろうと、祐一は思い、呟いた。
「そうだね。……ねぇ、祐一」
「なんだ?」
「出会う事が運命なら、いつか何処かで別れるのも運命なのかな」
「……さぁなぁ。
出会うのはいろんな出来事の組み合わせ重ね合わせだが。
別れるのは、一概にそれで……運命で片付けられないと思うな。
人の気持ちやら状況やら色々あるしな。
現在進行形で仲の良い二人でも別れる事はいくらだってあるだろうしな」
「そう、だね」
(……まずったか)
思いつくままに言ってしまったが、今の自分の発言はあまりよろしくなかったと祐一は反省した。
名雪は少し困った表情を浮かべている。
おそらく、祐一と『別れる』可能性を考えてしまったのだろう。
……祐一の不用意な言葉のために。
惚れた弱みでもあるが。
祐一は名雪のそういう顔は見たくない、常にそう思っている。
ゆえに、心のままに口を開いた。
「大丈夫だろ」
「え?」
「出会うまでは運命でも、そこから先はそうとは言い切れない。
まぁ流石に自動発生する出来事に関しては如何ともし難いが……。
それでも、努力次第でなんとか出来る事もあるし、備えも少しは出来る」
実際の所。
それでも覆せないものを『運命』と呼ぶのかもしれない。
その中で、知らず背負わされたものに嘆く事や、
自分の大切な人間が背負ったものを共に背負えない事、
それどころか、理不尽さに屈するしか出来ない事もあるのだろう。
そうして、折角出会ったのに別れざるを得ない事も、そもそも出会えない事も、この世界には確かに存在している。
だが、例えそうなのだとしても。
「そうして、あがけるだけあがくしかないさ。
どっちみち、俺達はいつかは死ぬんだし。
あの世があるにせよないにせよ、別れる瞬間は避けられないさ。
でもさ、こうして今俺達は一緒にいる。
手があるのなら触れられる。
足があるのなら一緒に歩ける。
耳があるのなら声を聞ける。
目があるのなら見つめる事が出来る。
そして、命があるのなら、一緒にいる事が出来る。
そんな気持ちが同じなら、死ぬまでは一緒にいられると俺は信じたい。
それなら、多分それなりに悪くないし、大丈夫だろ。
その、なんだ、俺達なら、特に」
「……祐一……」
心のままのせいか、人によっては若干恥ずかしい言葉を一気にまくし立てた為、祐一は恥ずかしげに顔を背けていた。
名雪はそんな祐一に向けて最高の微笑みを向けながら、言った。
「なんだか、凄い屁理屈だね」
「ほっとけ。
運命なんて理屈で図れないものを語るんだからな。
屁理屈にもなるだろ」
「そうかもね」
「さぁて、与太話はここまでだ。
そろそろ秋子さんの手伝いしないとな」
「うん、そうだね」
そうして二人は笑い合いながら立ち上がる。
今まで色々な事があったけど。
今こうして一緒に笑えることの幸せを噛み締めながら。
運命。
それは等しく全てのものに存在するもの。
その影響を受けながら、人は人生という道を歩いていく。
例え、全てが決まっていたのだとしても人は歩く。
自分の意志で歩いていく。
例え、誰かに出会わずとも。
例え、誰かと別れたとしても。
それこそが、運命。
自分の命を運びきる、命のあり方なのだから。
ただ。
それが、大切な誰かと出会い。
その大切な誰かと共にあり続けるあり方ならば。
「……そう出来たら。
一番素敵な事だと思うわ」
音無の言葉から暫し後に、ポツリと奏が呟く。
しかし、激辛麻婆豆腐を食べるに必死の音無はその呟きを聞き損ねてしまった。
「え? 立華何か言ったか?」
「……独り言よ」
そう言った後、奏は最後の一口分を掬い上げ、口に運んだ後、不意に視線を窓の外……空へと向けた。
その様子を見て、音無はこう思った。
先程の独り言は。
自分ではない、何処かの誰かに向けたものなのかもしれない、と。
なんとなく、思った。
……END