プロローグ



ある町の、とある喫茶店の前で。

「さあ、人形劇の始まりだ」

男が手をかざす。
すると、そこに倒れていた人形がむくりと起き上がって、動き出した。
そこには種も仕掛けもない。
驚愕すべき、その力。

だが。

「・・・」
「・・・」

客がいなければ無駄無駄無駄。
むしろウリィ!といった感じだ。

「URY!!」
「・・・大丈夫ですか?」
「・・・すまん。よからぬ電波を受信したらしい。しかし、これ以上は無駄みたいだな」
「もう、夜です。仕方ないのでは・・・?」

その男の横に座る女性・・・いや少女がそう言った。
彼女の言葉は的を得ているだろう。
そこは商店街の一角で、商店街というのはある時間帯を過ぎれば人がいなくなるものだ。

「仕方ないか。いくぞ」
「はい・・・今日の夕飯はどうしましょう?」
「・・・聞くな」

二人は旅人。
人形劇で日銭を稼ぎ、地を流離う。
そういう存在。

だから、今日のその日も、彼らにとっては日常だった。
だが、そうではなくなった。

「あ、ちょっと待ってください」

その声に振り向く。
そこには喫茶店から出てきたと思われる眼鏡をかけた女性が・・・

「・・・なにか、不愉快な気配がしますね(ちゃき)」

・・・もとい。少女がいた。

「・・・どうでもいいが、何だ今の刃物は?」
「気のせいです」

迷い無くきっぱりと言った。

「その芸、見せていただけますか?」
「悪いな、もう店じまいだ」
「もちろんただでとは言いません。カレーでもいかがです?」
「いいだろう」
「・・・自分で言っておいてなんですが、返事が早いですね」
「気にするな」

その言葉に男は即座に動いた。
余程空腹だったのだろう。

男の意のままに人形が動く。

「なるほど・・・興味深いですね。魔術の類ではないのに、操作するとは」
「・・・法術だ」
「そうですか」

彼女はしばし考えてから言った。

「どうです?あなたたちさえよければですが、しばらくここの前でその芸を披露しませんか?
お互いの利益のために」
「利益?」
「私はそこの喫茶店をやっている者です。
お互い集客すれば、お互いに儲かるでしょう」
「・・・断わる。前もそうやってとある医療機関の前で芸をやってたんだが、百害あって一利なかったからな」
「報酬として夕飯をご馳走しますよ。寝泊りする場所として、この店も提供しましょう」
「いいだろう(即答)」
「契約成立ですね。
それでは、まず先の約束を果たしましょうか」
「そうさせてもらおうか」
「と、その前に・・・あなたたちのお名前は?」
「国崎往人。旅人だ」
「遠野美凪。旅人その2です」

女性の名前を聞いて瞬間複雑な表情を浮かべたが「よくある苗字なんですかね」と呟いた。

「で、あんたは?」
「シエルといいます。・・・まあ、その」

いろいろ考えてから、彼女は言った。

「喫茶店の、マスターです」



・・・こうして。
この物語は幕を開けた。

いつか何処かにある、そんな場所。

喫茶”華璃唯”。
そこに集まる存在たちの、こんな話。



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