第9話 迷う人々(色々な意味で)〜後編〜











 浪之歩二と守臣浩の二人がクラスから離れて暫し経ち。
 局部への刺激を避けるべくおっかなびっくり歩いていた浩が、多少落着きでもしたのか唐突に呟いた。

「悪いな、浪之」
「え?」
「気ぃ遣わせたみたいでさ」
「……ああ、いいよいいよ。
 俺も少し行きたいと思ってたのは事実だし」
「お前ってホント人が良いよなぁ。そういうの疲れないか?」
「疲れるとか疲れないかって、あんまり考えた事ないなぁ。
 なんだか、そうしないと駄目な気がしてるだけで。
 あ。いや、俺は別に自分が人が良いとは思わないけどね」

 歩二が少し困った表情でそう言うと浩は苦笑した。

「そういうのが人が良いって奴だろ。
 少なくとも俺はお前を良い奴だと思ってる。
 まー、なんだ。嫌いじゃないぜ」
「……ありがとう」

 歩二としては、浩に……よりにもよって、と言えなくもない……そう言われる事に正直な所複雑な思いはあった。
 だが、そう言われて決して悪い気はしていない自分もそこにはいた。

 答は至極簡単。
 歩二は決して浩を嫌っているわけではないからだ。
 いや、むしろ人間的には好ましく思い、男としては尊敬してすらいる。

 のだが。

「それとこれとは別というか、そう簡単にはなぁ……」
「なんか言ったか?」
「……あ、いや、なんでもないなんでもない」

 色々な感情や思考から、少し動揺気味の反応を返す歩二。
 そんな歩二の反応を見て、浩は顔を引きつらせた。

「お、おい、さっきの変な意味に取るなよ? 俺そっちの気はないから」
「わ、分かってる分かってる。俺もその気はないよ」
「……。ぷ。はは」
「……。はははははっ」

 微妙な間の後、笑い合う二人。
 そこには妙な共感……のような、何か微妙な、それでいて和む雰囲気が生まれていた。
  
「なんだ、結構話せるじゃないか、お前」
「ははは」

 愛想笑いっぽい表情を零しながら、歩二は思った。

(……守臣君の中の俺、どういうイメージなんだろ)

 と。










 そんなこんながありまして。
 その後、2人は用を済ませ、来た道を戻っていったのだが。

「あれ?」
「おぅ……皆いないな」

 歩いていた道の辺りには、そこには誰もいなかった。
 誰か1人の後姿ぐらいは拝めるだろうと2人とも思っていたのだが。

「まぁ、しょうがないか。
 適当に道なりに行けば合流できるだろ」
「え? それでいいのかな……」
「心配性だな、浪之は。
 最悪遭難したのなら大して大きい山じゃないんだし、下ればいいだろ」
「……ふむ、まぁ、そうかな」
「じゃあ、ちゃきちゃきいくか」

 そうして、進む事数分後。 

「……ちょっと困ったな」
「……ああ、うん。ちょっとね」

 守臣浩と浪之歩二は山の中で顔を微妙に引きつらせていた。
 適当に道なりに進んだ結果、二人は思いっきり迷ってしまったのである。
  
「うーん、トイレに行ってから約十分か……」
「騒ぎになってないならいいんだけど。携帯があればなぁ。
 守臣君、携帯持ってない?」

 腕時計で時刻を確認する浩に、
 こういう時は自分の真面目さが恨めしいと思いつつ尋ねる歩二。
 それに対し浩はお手上げのポーズで自身も持っていない事を伝えた。

「こういう時の為に携帯は持たせておくべきだよなぁ」
「こういう時なんて滅多にないから想定してないんだよ」
「そ、それもそうだな。……スギナっぽいこと言うなぁ」
「ゑ? そ、そんなもんかな。
 ……しかし、どうしたもんかなぁ」

 そんな感じでて二人は木々に囲まれた中で途方に暮れたのだった。

「どうする? もう少し適当に回ってみるか?」
「……いや、それはやめておこう。
 こういう時、下手に歩き回った結果悪い事にしかならないってのはお約束だし」
「お約束で決めるのかよ」
「でも、実際考え無しはまずいと思うよ。
 歩き回って疲れて足を滑らせて結果大怪我、なんてよくある事だろうし」

 そう呟く歩二の脳裏には、なんとなくスギナの事が浮かんでいた。
 彼女がここにいればしたり顔でそういう事を言いそうな気がする。

「う。確かにそれもそうだな。……うーむ」
「あー……まぁ、もうこうなった以上しょうがないか」
「え? 何か方法でもあるのか?」
「いや、方法なんて呼べるものじゃないし、確実でもないけど。
 何もしないよりはマシだと思う」 

 そうして小さく溜息を吐いた歩二は、その溜息分くらいの小さな責任を自分が取る事を心の中で覚悟したのだった。










 浪之歩二と守臣浩が状況把握して途方に暮れる少し前。

「……」

 もう一人の学級委員である貫前紘音。
 彼女は落ち着かない様子で、何度も後ろを振り返っては立ち止まりまた進む、という事を繰り返していた。

 そんな事をしていたからか、
 少し前まではクラスの真ん中付近で友人達と話していた彼女は、いつのまにやらクラスのほぼ最後尾を歩いていた。

「心配?」

 そんな中でいきなり掛けられた声に、
 紘音は、ビックゥゥゥッ!、と擬音が付きそうなほどの驚きの反応を見せた。

 紘音がおっかなびっくりで振り返ると、そこにはスギナがいた。

 歩みを止めて紘音を、ジッ……と見詰めるスギナ。

 紘音にはその機械仕掛けの視線が何かを訴えかけているように、
 強く言えば少し非難しているような視線に思えた。

「べ、別にー。ヒー君の事、あたしは心配なんか……」

 それに対し、思うままを口にする紘音。
 そんな紘音に、スギナはいつもの淡々とした口調で言った。

「ああ、ごめんなさい。
 固有名詞を付けるのを忘れていたわ。
 そうか。浪之クンの事、心配じゃないのね?」
「うっ!? 
 あ、いや、その、ちちち、違うのよ?!
 巻き込まれた浪之クンは心配だけど、その」
「そう。……っ」

 一瞬、耳を押さえて顔を顰めるスギナ。

「? どうかした?」
「いいえ、なにもないわ。唐突な大声がうるさかっただけ。
 ……それはさておき。
 紘音。私は貴女の事は嫌いじゃないけど。
 貴方のそういう部分については好ましくは思えないわね」
「え?」
「いえ、それも時と場合によるのかもね。
 素直に待ちたいけど待てない。だから歩くしかない。
 時と場合によっては微笑ましいもの、なのかも。
 今は難しいけど」
「何を……?」 
「ま、今はいいわ。
 さて、そろそろ二人を合流させますか」
「え?」
「迷子っぽくなってるのよ、あの男ども」
「えええっ!? な、なんで早く……」
「大丈夫。心配は要らないわ。……何か聞こえない?」
「え? ……あ、ホント。何か聞こえる。誰かの声?」

 紘音が耳を澄ませると、何処か遠く……といいうほど遠くではないが誰かの声、というより叫びが聞こえてきた。
 方向のせいか、山の地形のせいなのか、
 微妙な声の状態となってしまい、声の大元の位置は掴みかねるが。

「……面倒を考えなければ、このまま放置がいいのよね。
 正直、命に別状がなくて状況が許すのなら、このまま経過を観察したいんだけど。
 でも、今日は録りが……」
「とり?」
「……いえ、用事があるから。
 この騒動で遅れると嫌味を言われるわ。
 ので、事態収拾しようと思うけど、異論はないかしら」
「それはむしろお願いしたいけど……大丈夫なの?」
「ええ。保険も来てくれた事だし」
「保険?」

 不思議そうに紘音が首を傾げた時。

「スギナさん、貫前さん」

 瞬間、スギナの視線が自分ではなく、自身の背後に向けられる。
 その事に気付いた紘音が振り返ると同時に掛けられたその声の主は。

「あ、草薙くん」

 歩二の友人であり、クラスきっての善人・草薙紫雲だった。
 紫雲は微かに曇らせた表情で二人に話し掛ける。

「波之君と守臣君の二人、姿見掛けないけど……トイレか何か?
 見掛けなくなって少し時間が経ったから心配で。
 あと、さっき浪之君の声が遠くから聞こえたような……」
「うわ、草薙クンやっぱいい人だっ」

 学級委員に任せておけばいいものを、わざわざ確認に来る辺りが実に人が良いなぁと紘音はシミジミ思うのだった。
 
 そんな紫雲に、スギナはこうなるのが分かりきっていたかのようなスラスラとした調子で告げた。

「丁度良かったわ、草薙サン。
 貴方に頼もうと思ってたの。
 ……この山には詳しいでしょう?」
「うん。前も話したっけ?
 よく鍛錬の為に来るし。庭みたいなものかもね」
「それは重畳。
 ここからの位置座標は教えるから、2人の事、お願い出来るかしら。
 嫌だったら私が行くけど」
「嫌だなんてそんな事はないよ。
 分かった。ちょっと行って来る。
 貫前さん、大丈夫だから。任せてくれるかな」
「う、うん」
「……悪いわね」
「気にしない気にしない。
 ……ん、また声が聞こえてきた。この声の方向で間違えないのかな」
「ええ。基本的には」

 紫雲の言葉に耳を澄ませると、先程と同じ『声』が紘音の耳に届いた。
 何かに呼びかけるような声が。

 紘音は場所を掴みかねるのだが、紫雲にしてみれば方向や位置を掴むのは容易いらしい。
 その事に薄い驚きを抱きつつ、紘音はスギナに問い掛けた。 

「ねぇ、この声って……?」
「勿論二人の声よ。浪之クン発案によるね」
 
 そんな問い掛けに、スギナはいつもと変わらない淡々とした声で答えた。 
 
 









『おぉぉぉぉぉぉいーっ!!』

 男2人は叫んでいた。
 繰り返しというには微妙に間隔を置いて。
 それは歩二の考えによるものに他ならなかった。

「ふぅ。なぁ浪之。これって届いてるのかねぇ」
「そんなに離れてないから大丈夫だと思うけど。
 まぁ駄目だったらもっと派手な事をやって気付いてもらうさ」
「……ふむ。しかし、少し驚いたな」
「なにが?」
「怒られてもしょうがないから大声を出して場所を知らせよう、なんてな。
 浪之、そういうの嫌いそうなイメージがあるんだけど」
「そういうのって?」
「面倒事……じゃないな。うーん、なんていうか、人に迷惑を掛ける事か。
 俺ん中じゃ、こういう状況だと人に迷惑掛けるよりは一人で迷ってた方がいいって思ってそうな気がしたよ。
 あ、良い意味でな」

 その場合、良い意味なんてあるのかなぁ、などと思いつつも歩二は浩の言葉に答える。
  
「……間違ってないと思うよ。
 ただ、今は一人じゃないし。
 そっちの方が結果的に迷惑を掛ける場合もあるし。
 あと……そうだな。任された手前ってのもあるしね」

 他ならぬ紘音に、とは言えないが、と心で呟いた瞬間。

『いじらしい事ね』

 この場にいない声が唐突に響いた。
 その声の主が声の主なだけに、歩二は、ビックゥゥゥッ!、と擬音が付きそうなほどの驚きの反応を見せる。

『紘音と同じ反応ね』
「え? それはなんか嬉しいようなって、じゃなくて!!
 す、スギナッ!?……さん」
「スギナか?!」
『さんを付けろよデコすけ野郎……は冗談として。
 高校生にもなっていとも簡単に迷子になったお二人さん、今のお気持ちは面白い? みじめ?』
「ほっといてください。
 っていうか、この声何処から……?」
「浪之、肩についてるソレじゃないか?」
「え? ああ、これか」

 歩二の肩には何かボタンのような形状の何かが貼り付けられており、
 そこからノイズ無しのクリアなスギナの声が出ているようだった。

『見つけたようね。それは発信機兼通信機よ』
「いつの間に付けた……って、クラスから離れた時か」
『貴方にしては察しがいいわね』

 二人してクラスから離れる際、スギナは歩二に声を掛けると共に肩を叩いていた。
 歩二としてはその時以外に考えられない。

 というより、それ以外だと考えたくなかった。
 それ以外の場合で、全く気付いていないのであれば、
 日常何処に仕掛けられていても気付いていないという事でもあり、
 非常に心的健康によろしくない。

『大丈夫よ。浪之クンに対して使ったのはこれが初めてだから』
「……機械使用の有無に関係なく心を読むのは勘弁してほしいなぁ」

 浩がいる事から少し言葉の荒さを抑える歩二。
 そんな歩二に対してなのか、何か息が漏れるような声がマイクの向こう側から届く。

(アイツ、笑ってやがるな……)

 容易に想像が出来る笑み(嘲笑)を思い浮かべつつ、歩二は言った。

「……しかし、こんな機能まであったのか。
 こっちの会話、皆に聞かれたりしてないだろうな」
『昔とった何とやらで、念の為に付けていただけの機能よ。
 安心なさい。二人の会話は私の中にしか響いていないから』
「昔?」
『……。デリカシーがないわね』
「気になるような事言ったのそっちじゃないか」
「スギナにしちゃ珍しいな、口を滑らせるなんて」
『……それはさておき』

 浩の突っ込みをスルーして、スギナは言葉を続ける。

『発信機だけでも大丈夫だったけど、
 貴方達が声を出していたおかげでより分かりやすかったわ。
 その点については評価しておきましょう』
「何の……ああ、俺達の場所か」
『そういうこと。そろそろ迎えがつくころよ』
「ああ、いたいた」

 スギナの言葉が終わるか終わらないか否やのタイミングで、何処からともなく草薙紫雲が姿を現した。

「草薙君っ」
「良かった。二人とも特に何事もなく、無事みたいだね」
「……騒ぎになってる?」
「まだ大丈夫。今から急げば騒動にはならないと思うよ。
 ……まぁでも、今後はもう少し気をつけてね。
 大事になってたかもしれないんだから」

 紫雲にしては珍しい、微かにだが怒りを含む咎めるような口調。
 それは紫雲自身を含む、二人を心配するだろう人達の気持ちの代弁だったのではないかと二人共が感じた。

「そっか、そうだな。悪ぃ」
「ごめん。少し迂闊だった」
「んで、サンキュな草薙」
「ありがとう、助かったよ」
「いや、僕は何も。
 二人が声を出して、スギナさんの指示があったからだから」
「……お前って人間が出来すぎじゃね?」

 そんな浩の言葉に、紫雲は「そんな事はないよ」と笑った。
 何故か、歩二にはその笑顔が少し悲しげに見えた。



 






「いやーなんとかなってよか……ぐふぅっ!?」
「一番迷惑掛けたアンタが真っ先にソレを言うなっ!!」
「おおおおおっ!?」

 どうにかこうにかコッソリとクラスに合流直後、
 頭掻き掻きの浩の発言に対し紘音は怒りを込めて首を絞めつつ彼をシェイクした。

 ソレを見かねて歩二が声を掛ける。
 ……なお、同じく声を掛けそうな紫雲は一時的迷子がバレていないか、担任の様子を見に行っているのでここにはいない。

「ま、まぁまぁ。
 なんというか、いや、その、迷ったのは俺に責任があるからそれぐらいに……」

 そんな歩二の言葉に、紘音はピタリと手を止めて顔だけを歩二に向けた。

「浪之クンは気にしないで。むしろ、ありがとう」
「え?」
「スギナちゃんに聞いたわ。
 大声出すの提案したの、浪之クンなんだよね?
 この馬鹿だけなら、それが思いついていたかどうか。
 一緒くたに怒られるかもしれないってのに……ホントにありがと」
「あ、いや、別に。
 任された事だったからさ。それに全部責任果たせたわけじゃないから……
 心配掛けてたならホントにごめん」
「ううん。そんなことないよ。
 まぁ、ちょっと心配してたのは事実なんだけど。
 でも……うん、無事で良かったわ」

 こちらの身を案じ、その上で安堵してくれたのが伝わる、そんな微笑みを浮かべる紘音。
 それを見て歩二は思わず照れ笑いつつ、ソレを口にしてしまった。

「あー、貫前さんにそう言ってもらえると、なんか嬉しいな」
「え?」
「あ」

 しまったぁぁぁっ!?と、内心で叫ぶものの、吐いた言葉は飲み込めない。
 
 スギナがいた事による癖と一種の油断が招いた事だろう、
 と後からは推測できるものの、今の歩二には出来ない相談だった。

「あ、あー。まぁ、その」
 
 しかし、それでもスギナとの会話の積み重ねの成果なのか、
 歩二はどうにかこうにか精神をまともな会話が出来る程度に落ち着かせる事に成功した。
 
「その、俺も男だからさ。
 女の子にそう言ってもらうと嬉しいかなー、なんて」
「あ、ああ、そうよね。うん。
 浪之クンにしては意外かなーって思わないでもないけど、男の子だもんね」
「あ、ははは……いや、申し訳ないです」
「あー、いや、まぁ、えと! スギナちゃんも心配してたよっ」
「え?」

 釣られてなのか誤魔化し気味な紘音の言葉に、歩二は目を瞬かせた。
 それに気付かず紘音は言葉を続ける。

「用事があるからとか言ってたけど、あたし的には心配してたからだと思うのよ。
 そもそも発信機やらを付けたのも……」
「妄想乙、というところかしら?」
「うっ、スギナちゃん」
「そんな事より紘音。ソレ、大丈夫?」

 スギナが指差したのは、首を絞められたままの浩。
 シェイクは止まっていたものの首は絞まったままだったためか、浩はガックリ項垂れていた。

「あっ!? ちょ、ヒー君っ!? 何勝手に意識失いかけてんのよ!!」
「っぉぉぉおおっ!? 無茶苦茶言うなぁぁぁ!!」

 再びシェイクする紘音に、思わず声を上げる浩。
 相変わらずの光景に歩二はなんとなくの苦笑いを浮かべた。

「……やれやれね」
「……スギナ」
「なに?」
「まぁ、なんだ。礼を言っとく。助かった」
「……別に」
「ところでホントに心配を?」
「さぁね」(ニヤリ)
「あーへいへい。分かりましたよ。分かりすぎるほどに」

 大邪神スマイルを浮かべるスギナを見て、歩二は深い息を吐いた。 

 だからというべきなのか、歩二は気付かなかった。
 息を吐いた瞬間……歩二の意識が逸れた瞬間だけスギナの笑みが消えた事に。
  
「そういや、貫前さんが用事云々言ってたけど大丈夫なのか?」
「……」
「スギナ?」
「聞いてるわ。心配ご無用よ。
 ワザワザ調べに行った草薙サンには悪いけど、どうやら2人の迷子はばれてないみたいだし。
 今からトラブルが起こらない限りは大丈夫」
「うっさい。
 『またトラブル起こすんじゃないの―?』的な目で見るな」
「自意識過剰なんじゃないかしら?」
「……まぁいいや。
 あ、でも今日はいいとして、文化祭、ちゃんと参加出来るんだろうな?
 その日も用事とか勘弁しろよ」
「そっちも大丈夫よ。
 ちゃんと前もってスケジュール調整して、準備してるから」
「ならいいんだけどな。
 俺はいいけど、草薙君に迷惑掛けるなよ」
「今日の貴方にだけは言われたくないわね」
「……う、ご尤も」
「ま、それはともかく。
 さて、もうそろそろ頂上みたいね。
 積もる話はその時にしておく?」
「うう、勘弁してくれよ」
「ふむ。せっかくのイベント日だしね。見逃してあげましょうか。
 でも、そういう日だからこそ、でもあるのかしらね。
 さてどうしましょうか?」
「……」

 結局、その日は終始そんな感じで。
 小さなトラブルを幾つか起こしつつも、
 全体的な意味では遠足は無事に終わり、
 その後歩二がスギナに改めて『報告』させられた以外は、概ね楽しいイベントとして良い思い出となるのだが。

(しかし。
 遠足でこれなら文化祭はどうなるんだろうなー……)

 自分を見てクスクス笑うスギナを呆れ顔で眺めながら、歩二は少し先の未来に思いを馳せるのだった。 

 そんな慶備高校きっての大イベントの一つたる文化祭。
 その開催まで、あと僅かに迫っていた。










 ……続く。










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