このSSはFate/stay night及びFate/hollow ataraxiaの二次創作小説です。
作者の偏った考え方(設定的なものも含む)も含んでおりますので、原作のイメージが第一と考える方は読む事をご遠慮ください。
またFate/stay nightの方の重大なネタバレを含んでいるので、今からプレイしようとしている方もご遠慮ください。


以上の事に関する苦情などは受け付ける事ができない事をご了承の上、それでもいい、それでも読んでみたいという方のみ、下の方へとお進み下さい。

それでは、どうぞ。
















未来のカタチ










それは『奇妙な四日間』か、あるいは可能性の一つか。

ある昼下がりの事だった。

「なあ、遠坂」
「ん? どうかしたの」

呼び掛けに応えるのは、俺の魔術の師匠であり、戦友でもあり、色々な意味で眩しい女の子だったりする所の遠坂凛。

珍しくと言うべきか、縁側で並んでお茶を飲んでいた遠坂に、俺……衛宮士郎は言った。

「アーチャーは……先の俺、なんだよな」

アーチャ―。

それは、遠坂凛のサーヴァント。
『英霊エミヤ』。
かつては互いの譲れない信念の相違から刃さえ交え、過去を悔い自分殺しを為そうとした……俺の先のカタチ。

「……まあ、一応そういうことらしいわね。
 正確には衛宮士郎における可能性の一つ。
 どうしたの? 改まってそんなこと聞いて」
「いやー……ってことはさ。
 アイツ少しとは言え未来を知ってるんだよなーって思って」

聖杯のシステムによるものとはいえ、セイバーやランサーを初めとするサーヴァントが生前の記憶や人格を持っているのであれば、アイツも持っている筈だ。
俺達にとっての未来の記憶を。

自分の末路はともかくとしても。
純粋に未来について興味がないと言えば……正直、嘘になる。

「あのね、衛宮君。
 未来なんて知っても無意味よ。
 心の贅肉、いえ税金レベルの無駄ね」

指を一本立てるいつものポーズで遠坂は言う。

「かの”巨人の穴蔵”……アトラス院でさえ変えられない未来に苦闘してるのよ。
 大きすぎる『未来』に抗うのは難しいし、小さな可能性にはそも抗う意味合いは少ないというか、知らず抗ってる事もあるだろうし。
 未来なんて知る必要ないと思うけど」
「む。そりゃあまあ、そうなんだが」

実際遠坂の言う通りだし、未来を知るとか言うと、因果律やら歪みやらあまり良くないイメージがあると言うか、実際俺はアイツに殺されかけたり(意味合いは違うけど)したが……

「遠坂は気にならないのか?
 これから先の世界とか、経済とか、物価とか」
「……アンタは気になるでしょうね。 
 この家の経済事情は結構厳しいものがあるでしょうし」
「それだけじゃなくて、魔術の世界で大きな動きがあるとかないとかもさ。
 情報の先取りも悪くないんじゃないか?」
「……先取り、ね。理想主義者の衛宮君にしては珍しい意見じゃない?
   そういうの真っ先にダメとか言いそうじゃない、普段なら」
「資金調達の為に剣以外の投影も上手く出来るようになれとか言う遠坂に言われたらなんだかなー」
「い、いいじゃない。
 色々と先立つものは必要なんだから。
 でも、そうね……確かに衛宮君の言う通りかも」

ブツブツと呟いた遠坂はすっくと立ち上がった。




それから一時間後。




「……そんな事の為に私を呼んだのか、凛」

そこには赤い外套ではなく、私服姿のアーチャー。
どうやって呼んだのかとかはこの際突っ込むまい。

その顔は、不機嫌と言うか呆れ顔だ。

「まあいいじゃないの。酒の肴って事で」
「遠坂、今昼だ。酒も飲んでない」
「言葉のあやよ。
 というわけで上手い事因果を狂わせないような話を聞かせてくれない?
 なんだったら、本当に世間話で私たちには直接関わりのない方面の未来とかでもいいし。
 それぐらいなら、聞いても問題ないでしょ」

なんだかんだ言って、遠坂も興味はあったのだろう。
魔術師は探求の徒であることだし。

「ふむ。それはそうだな。
 報酬は美味い酒でも貰えれば僥倖だが?」
「まあ、いいわ。今度ボトル開けてあげる」
「了解した。
 今日は時間もあるし、暇人達の娯楽に付き合うのも一興だろう。
では、なんなりと聞きたまえ。
 なんなら君が将来やらかす恥ずかしい逸話でも語ろうか?」
「……正直、一番最初はどうやったら性格がそんな黒くなるのか聞きたいわ」

アーチャ―の皮肉に遠坂はピクピクッとこめかみに血管を浮かび上がらせた。
……その気持ちは痛いほど良く分かる。

だが、それを感じながらもアーチャ―はさもつまらなさそうに言った。

「やめておけ。あまり面白くない。
 実際の所、今の私の性格については守護者になってからの『経験』もあるからな。
 君達が望む話には関係ないだろう。
 で、他には?」
「そうねぇ。
 衛宮君、さっきの事は?」
「ああ……そうだな。
 物価とか経済とかってこの先どうなるんだ?
 後、食材の流通とかも。
 この家の台所や財布を握ったりする人間としては気になるんだが」

食べる事を好む騎士王さんや、冬木の虎をはじめ、食にはそれなりのこだわりがある大家族(?)を持つ身の上としては、今後の経済事情に興味を持たざるを得ないと言うか。
まあ、その辺の試行錯誤も楽しかったりしないでもないが、やはり支出は少ない方がいいし。

ともあれ、先の事を知って一工夫を考えるのも悪くないだろう。

「魔術を行使する身の上の癖に庶民派思考だな」
「お前にだけは言われたくないぞ」
「一緒にするな、一緒に。
 まあ、いい。
 ――経済方面は生前明るくなかったが……あまり変化はなかったな。
 食糧事情も然りだ。大なり小なりトラブルもあるのも変わらん」
「そうなのか? 食料はともかく、景気は上向きとか最近良く聞くけど」
「その辺りは水物だ。上がりもすれば下がりもする。
 だが今も昔も金勘定で苦労するのは人間の性。
 多少貨幣価値や経済が変動した所でそれは変わらんよ」

やれやれ、と息を吐くアーチャ―。
しかし言っている事はご尤もなので、なるほどなぁ、と頷く俺。
  
「じゃあ、宝石の価値なんかはどう?
 特に値段が上がったり下がったりしたものは?」

やや眼に力を込めて問う遠坂。
宝石を使用する魔術師として、その危惧は極めて正しい。
正しいのだが……これに関しては遠坂らしいという方が合うような気もする。

「その辺りは……私が語るのは止めておこう。
 事そこに関しては君の経験を奪うのはまずかろう。
 それは君が肌で判じて判断していくべきものだ」
「う。そうね。覚えておくわ。
 じゃあ、そうね。
 今後の私達絡みは……あまり良くなさそうだからやめておくとして」
「ふむ。そうか?
 私としては”私の知る君達の今後”について語るのも構わんと思うがね」
「なんでさ?」

少し意外な言葉に、俺は声を上げた。

「なんて言うか、因果律とかヤバイんじゃないのか?」
「考えてもみろ。仮にそんなシステムが存在するとしてだ。
 存在するのならそれはサーヴァントシステムを運営する聖杯よりも大きな力として作用するだろう。
 世界の強制力は生半可なものではないからな。
 固有結界が長く持たない事からもそれは分かるだろう」
「……そんなもんか」
「そんなものだ。
 であればだ。
 そもそもそういう所から因果が崩れるのなら、私がここに召喚されたりはできない筈だ。
 それが問題なら、守護者の任についている時同様に生前の記憶や人格がないものとされるか、
 『アーチャ―』の座に私以外を立てれば済む話だ。
 にもかかわらず私が記憶を持って此処にいるのは『問題がない』という事だろう。
 尤も因果律が本当に存在するのかなどは、私の預かり知るところではないがね」
「……ふむふむ。まあ何か穴はあるような気もするけど、確かにそんな所よね」
「まあ、それ以前にだ。
 少なくともこの世界においての『先』は私が生きていた頃の『可能性』には繋がるまい」
「なんでさ?」
「簡単な事だ。
 ”この過去”を私は知らないからな」

静かに語るその眼は遠く。
浮かべる笑みは自嘲。

きっと、自分の過去との違いに想いを馳せている……

「そう。
 この衛宮家がよもや何処ぞのラブコメ漫画よろしくな女性の城となっているなどと……フッ」

撤回。
『ハッ、この恥知らずな小僧めが』と言わんばかりの眼は近く。
浮かべる笑みは自嘲と言えば自嘲だが、思いっきり俺に向けられている。

「む」

反論したいが、俺としては否定できない。
それぞれ事情があって……あるいはこの家を好ましく思ってくれて……此処にいるのは確かだが、住人が俺以外全員女性なのもまた確かなので。

だが、それに対し、意外な所から突っ込みが入った。

「へぇ……って事は、アンタの時は今の士郎よりも節操なしじゃなかったんだ」
「……」

アーチャーの顔の表情は変わらない。
何も語らない。

ただ、微妙に目が泳いでいる。
というか、泣いてる?

「……」
「……」

(あーそうだよな。根本は同じだもんな。うん納得した。
 状況や同居人の数はさておいても同じ様な事やる事もあるよな、うん)
(……フン。言っておくがお前は私より苦労するぞ? うん、そりゃーもう)

などとアイコンタクトで頷き合う。
悲しいが、根本が同じである以上伝わるものはあるのだ。

「……何分かり合ってるのよ、珍しい」

置いてけぼりにされたのが不満なのか、むー、とこちらを軽く見据える遠坂。

その彼女を俺達は何気無く見つめる。

「……」
「……」
「……」

そうしていると、この先について思い浮かぶ事が一つあった。

(……ああ、そうだよ。そうなんだよな)
(――ああ、そうさ。その通りだ)

恐らくは、俺の人生においてもっとも大きな関わりを持つであろう赤いあくま。

まあ、当然、その。
良い悪い、幸不幸ひっくるめて、彼女にはお世話になるだろう。大いに。

結末こそ違えど、それだけは俺達共通の今後になりそうな気がする。なんとなく。

「……フッ」
「……はは」
『ハッハッハ』

笑い合う俺達。
互いに目尻には涙が浮かんでいる。
何についての涙かは、まあ、突っ込みなしで。

ああ、今この時……俺達は完全にシンクロ100%……!
アレだけいがみ合ってきた俺達だというのに……!!

そんなちょっとしたシンパシーに少しばかり(だと思う)感動していると。

「……あのね」

あ。
しまった。

振り向くと放置気味の遠坂が、何かを感じ取ったらしく怒りのオーラを……もとい。魔力を放っている――!

「今のアンタたちが何考えてるか知らないけど、なんか凄い失礼な事考えてるでしょ、このウスラトンカチども――!!」

次の瞬間。
吹き荒れたガンドの嵐に俺達は蹂躙された。







事後。

プスプスーと擬音が立ち上りそうな庭の惨状を背に、怒りのオーラを纏いながら去っていく我らがチャンプ遠坂凛。

「ふむ。流石に以前とはレベルが違う。
 容易にからかえなくなってきたな」

ポンポンと埃を叩きながら立ち上がるアーチャ―。
あの嵐を上手い事避ける辺り、流石に英霊である。
俺はと言うと、もの見事に打ちのめされて地面に転がっている有様だった。

「もっともこれからもっと化けるがな。
 ……なんというか、先のアレには手を焼く事になるぞ」
「そうだろうな。遠坂は凄い奴だから」

上半身を起き上がらせながら言ってみる。

「……其処を否定するつもりはないが。
 その『凄い奴』の側に立つ以上、凡俗のお前は更なる努力が必要になる。
 そして、その鍛錬の先には……おそらく『俺に近い俺』がいるぞ。
 私が現れた現状やアレがいる事を踏まえて可能性は低くなったが……消えたわけじゃない。
 歪んだ理想を抱いて溺死しないよう、精々気をつけることだな」
「お前……」
「勘違いはするなよ。
 別に貴様と馴れ合うつもりはない。
 ただ……契約を破棄したとは言え『マスター』の意向なのでな。
 彼女が此処にいる以上”それ”に逆らうのは、いささか居心地が悪い」

そうして肩を竦めると、幾分真剣な表情でヤツは続けた。

「一つ言っておくが。
 未来は、大して変わらん」
「……え?」
「今と同じだ。
 人間は善でもなければ悪でもなく、善でもあり悪でもある。
 ゆえに『正義の味方』など存在し得ない……そんな世界だ。
 おそらく”此処”の先にある未来も。
 本当にお前が聞きたかったのは、その辺りの事だろう?」
「……」

確かに。
俺が未来を気にしたのは、その辺りが大きかったのかもしれない。

指摘された事で、俺は改めてその事実に気付いた。

「フン。
 私の言葉に反感を抱くのであれば、それに見合う『何か』を自身か世界かに形作る事だ。
 どちらにせよ傲慢極まりないと思うがね」
「……」
「それが叶わないと判断した時は……アレの許可を得るまでもない。
 私はお前を容赦なく撃ち殺す」
「上等だ。
 その時は来ないし、来たとしても返り討ちにした上で間違った道を正してやるよ」

その俺の言葉に、皮肉げな笑みで応えながらソイツは消えた。
恐らく霊体化したのだろう。

「……英霊、エミヤか」

俺の歩く道の先には、ヤツの赤い背中が見える。

だが、俺はヤツの背中を追うつもりはない。
例え背中を追う形になったとしても、ヤツと俺の道を重ねるつもりはない。

「俺は……正義の味方になる。
 ただ、それだけだ」

その道の先に、何があっても。

正義の味方である事だけは、譲らない。

「まず……そうだな。
 そのためにも、ひとまず遠坂に謝ろう」

女の子を怒らせてばかり、というのはやはり良くない。

正義の味方としても、男としても。

そう思い、腰を上げた俺は……足早に歩き出した。







……END







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