第二十六話 中間点を越えて(後編)
「おっはよー陸君っ!」
「うん、おはよう薫さん」
それは平良陸と霧里薫にとって、いつもの、馴染みのやりとり。
半年前までは存在さえしていなかったが、今は存在している事が日常であるやりとりだ。
基本学校に行く際のやりとりだが、二人が行動する際の基本でもあるので、陸は久しぶりとは感じなかった。
……実際、五日程前に学校で肝試しがあった際もこんなやりとりを交わしているから尚の事、なのかもしれない。
陸がそんな事をボンヤリと考えていると、薫が申し訳なさげに言った。
「ごめんね、いつもより待ったでしょ?」
「んー……まぁ、そうかな。体感的には」
「いや、本当はもう少し早く来るつもりだったんだけどね。
急ぎのあまり人とぶつかっちゃって」
「えっ? 大丈夫だった? 薫さんも、その人も」
「ふふ、心配ありがと。大丈夫大丈夫、私もその子も無事無事よ〜」
「その子? って事は女の子だったり?」
「そそ。私らとおんなじガッコの子だったよ。
ソレがまたスンゴイ可愛い子でね。
大和撫子を今風にしたらこんな感じになるんじゃないかって感じの子だったよ」
「……」
「陸君?」
「ん、ああ、いや、なんでもない」
薫の言葉で、陸はある少女の事を頭に思い浮かべた。
もしかしたら、自分の思い浮かべた少女と薫が出会ったという少女は同一人物なのかもしれない。
だが、だとしても。
(……まぁ、ホントに”なんでもない”よな)
それが自分の知る少女だったとしても、特に問題があるわけでもない。
陸としては思う所が多少あるが、彼女との間には何もなかったのだから。
そう思いながらも、陸はその事を口にしなかった。
それは”いずれ相応しい時に話すつもり”だからなのか、それとも平良陸という少年には珍しい少し逃げの入った思考なのか。
いずれにせよ、陸はそこまで深く考える事無く、話の方向を変える事にした。
「そう言えば、薫さん。コミケにも行くんだろ?」
「あったりまえじゃない。というか陸君も連れて行くつもりだけど?」
「……ゑっ?」
そうして二人は会話を交わしながら学校へと向かっていった……。
「おっはよー!」
「おはよー」
元気良く薫が、ごく普通のトーンで陸が挨拶を発しながら教室に入っていく。
それに応える面々の内、特に親しい面子がいるのを発見した二人は荷物を置くのもさておいて、その面々の元に歩み寄っていった。
すなわち、陸達が教室に入る前から会話していたらしい幾田道夫、久能明悟と、
自分の席の近くで行われているその二人の会話をつまらさそうな表情で耳に入れながらも、
時折突っ込みを入れたりする事でしっかり会話に参加している月穂由里奈の三人の下に。
「おーす」
「おはよう霧里さん。……平良君」
「おはよう二人とも」
「うんっ、おはよーみんなっ!」
「おはよう幾田、月穂さん。で、久能君、俺への微妙な間と表情の変化についての説明は?」
「ははは、そんなの必要ないだろう?」
「ふふふ、確かにその通りだな……」
『HAHAHA……!!』
「また二人して笑い合ったりして……仲良いんだねぇ」
『……』
「いつもどおりね、あなた達は」
薫を巡っての敵対関係な陸と明悟のやりとりと、
下手をすれば暴発しそうなソレをいとも簡単に破壊する薫の言葉。
これもまさしく、彼らの日常に他ならない。
「うーん、確かに由里奈の言うとおりかもね。うん」
「……薫。貴方は多分私の言葉をキッチリと理解できてないわ」
「え? そうなの?」
「まぁ別にいいけどね」
そうして女性二人のやりとりの隙を縫ってか、たまたまなのか、
微妙な間の空いたそのタイミングで、道雄が口を開いた。
「しっかし、あれだなぁ。
こうして学校に来るのは久しぶりなのに、久しぶりって気はしないなぁ」
「久しぶり、じゃないでしょう? 肝試しが終わって五日くらいしか経ってないんだし」
「細かい所を突っ込むなよ」
「細かくないと思うけど?」
道雄と由里奈が睨み合う……というには軽過ぎる視線を交わす。
動物同士の軽いじゃれ合い的な空気の中、薫は、うんうんと頷いてから、道雄に同調するような言葉を口にした。
「でも、幾田君の言う事も分かるなぁ。
皆とも夏休みの間中ちょくちょく会ってるから久しぶりって気がしないし」
基本的に夏休みは一人で過ごす事が多かった薫としては、それは新鮮で、楽しい事だった。
そんな薫の心情までは知る由もない道雄は、単純に同意を得られた嬉しさから笑みを浮かべた。
「だろ?
というか、ああ、そっか、そうかもなぁ。
この面子と良く会ってるから学校も久しぶりって気がしないのかもしれん」
「いや、久しぶりって気がしないのには同意するけど、それはそれ、これはこれのような。
というか学校については、月穂さんの言うように五日ぶりくらいだから久しぶりに感じないってだけだろ」
うんうん、と納得するように頷く道雄とは対照的に、何処か納得しかねるような表情の陸。
そんな陸に向けてニヤニヤとした、楽しげな顔で道雄は言った。
「なんだよ、お前も細かい事言うのかよ、お兄ちゃん」
「お兄ちゃん言うな」
「いいじゃないかよお兄ちゃん。
いや、ホントビックリだよ。お前にあんな可愛い妹がいたなんてなぁ」
「……なんか白々しく感じるのはさておき、アレ可愛いか?」
「いやー芽衣ちゃんは可愛いでしょー。常識的に考えて」
「おうさ、常識的に考えてな」
「……うーん、なんか納得出来るような出来ないような」
「いやいやいや陸君。お兄ちゃんたる陸君が芽衣ちゃんの可愛さを理解できてないのは問題ありありよ?
そもそも妹は……」
「いや、ちょい待って薫さん。そもそも俺は妹としては可愛くないとは……」
そうして陸・薫・道雄が熱の篭ったやりとりを続ける横で、小声気味に由里奈が呟く。
「……ふむ。やるわね幾田君。
将を射んとすればまず馬を射よ。
こうして少しずつ距離を詰めるつもりなのね」
「いや、アレは素だよ素。彼にそんな深い意図はないって」
そんな由里奈に同様の小声で突っ込みを入れるのは明悟。
道雄との付き合いはそれなりなので、その辺りはなんとなく察する事ができるが故の言葉である。
「まぁ、そうなのかしらね。
たまにはそういう手段を考えたりもするでしょうし、そういう意図が出来ないわけでもないでしょうけど、今は素って所か」
「そういう事。しかし、あれだね」
「……なに?」
「さっき君は”いつもどおり”って言ってたけど、これもいつもどおりだと思う?」
「……それは」
言いよどむ由里奈に対してか、明悟は肩を竦めて見せた。
「僕としては違うと思うね。
幾田君は平良君の妹さんと何かあったのか、微妙に、少しだけど平良君との接し方その他何かが変化してる」
「それは、分かるけど。
突然変な事言い出したりして、どうかしたのかしら?」
「いや、いつもどおりって言われたのがどうにも引っ掛かって、ついね」
「それはあれ? 自分と薫の仲は進展してる、とでも主張したいの?」
「そこまで言うつもりはないけど、それなりに変化はしてると思うよ。
あと、僕と平良君にしても全く同じって訳じゃないし。
……少なくとも僕は、積極的に関わるようになった頃に比べたら、彼に悪感情は持ってない、つもりだよ。
嫌いな事は変わってないし、思う所は色々あるけど、それこそ”それはそれ、これはこれ”ってヤツさ。
君にしたって……」
「……」
「いや、すみません。余計な事は言いませんから殺気込めて睨まないで下さい」
「別に殺気は込めてないわよ。後の人生に影響が無い程度に社会的に一回死んだらいいのにと思ったけど」
「それは立派な殺気だよねっ!? 影響出ないわけないよねっ?!」
そうして、それぞれが外から見れば”いつもどおり”なやりとりをしている中、チャイムが鳴り始める。
ソレと殆ど同時に教室の戸が開き、このクラスの担任たる白耶音穏が姿を見せた。
「おはよー皆。ほらほら席について」
その言葉に、クラスの面々は「はーい」とか「うぃーっす」などといった言葉を発しながら従った。
それは薫達五人も例外ではない。
「ほら席に戻ろう」
「ほいほい。あ、皆。あの話は放課後にね」
「了解」
「おう」
「OKさ」
陸の呼びかけを切欠に、言葉を交わしながら彼らは自身の席に帰っていった。
彼らが席に着いたのとほぼ同時に、最初から自分の席にいた由里奈の号令が掛かる。
「起立、礼」
そうして、彼らの登校日が確かな形で幕を開けた。
「でも、所詮は登校日だからアッサリ終わるもんなのよねー」
「普段と比べたらそりゃあね」
薫の言葉に、陸が答える。
ホームルーム、全校集会、ロングホームルーム。
その中においての、まだ続く夏休みの中における連絡・注意事項の再確認。
この学校における登校日の内容など基本的にはそんなものだ。
そんな訳であっという間に時間は流れ、放課後。
時計の針がそろそろ正午を指す頃、教室に残っていたのは薫・陸・明悟・道雄・由里奈の五人。
昼食をとりあえずさておいて彼らがココに残っていたのは他でもない。
彼らが少しずつ進めていた、とある計画の進行状況とその確認の為である。
「ってな訳で、夏休み最後の週に決行予定の旅行計画もいよいよ形になってまいりましたっ!」
『おお〜!!』
その計画とは、夏休み最後の週、二泊三日の小旅行の計画である。
参加メンバーは現在七人。
ここにいる五人プラス陸の妹たる平良芽衣、そして『保護者』が一名。
もしかしたら増えるかもしれないし減るのかもしれないが、今の所は七名である。
これまでは電話やメールなどで計画を進めてきたのだが、
計画が大分形になってきた事もあり、一度皆で内容を確認・吟味しようという事になり、今ココに集まっているのである。
本来は何処かのファーストフード店で芽衣も交えて相談する予定だったのだが、
用事があるとの事で芽衣が欠席、それなら無駄遣いを避ける意味でも学校でも良くない?という流れで、ココで話す事になったのだった。
「場所は、ココから少し離れた海水浴場っ!
泊まるのはそのすぐ近くの民宿っ!!
移動は電車を予定していますが、もしかしたら車になるかもしれないっ!!」
『おおっ!!』
「やる事、やれる事はたくさんありますっ!!
海で泳ぎっ! 山を登りっ!! 花火をしてっ!! 星を眺めっ!! 思い出を作るっ!!!」
『おおおおおっ!!』
「……どうでもいいけど、なに、その無駄に高いテンション」
計画概要を高らかに叫ぶ薫とそれに合わせる男性陣に、一人冷静な由里奈が突っ込みを入れる。
そんな由里奈に薫は照れ笑って見せた。
「いや〜、ついつい。だってテンション高くなるでしょ、皆で旅行とか」
「……まぁね。分からなくもないけど」
「でしょでしょっ?!」
「だからってそのテンションのまま旅行まで行くんなら疲れるだけでしょ。
それで旅行が楽しめなかったら本末転倒よ」
「いや〜分かってますって由里奈様っ」
「暑いから絡まないでよ。もう……」
そう言いながらもくっついてくる薫を引き剥がしたりしない辺り、由里奈も心底嫌がっているわけではないのだろう。
そんな二人の様子を、陸はなんとなく微笑ましく感じた。
「平良君、その顔はキモイわ」
「……っ!?」
そんな陸に対し、放たれた由里奈の一言は、陸に一瞬暑さを忘れさせた。
それだけ情け容赦ない言葉だった。
「いやいやいや、由里奈、今陸君凄く優しい顔してたよね?」
「贔屓目ってヤツよ、ソレ」
「そっかなぁ? ああ、ほらほら陸君ドンマイドンマイ」
「うう、キモイとか真顔で言われたのは久しぶりだなぁ……」
「ザマァとか思ったのはさておき、今のは月穂さん自身が照れて恥ずかしがってただけじゃ――すみません、ごめんなさい、睨まないで」
「まぁ多分当たってるであろう明悟の言葉もとりあえずさておき、旅行費用とかの目安は立ったのか?」
「あ、そうそう」
道雄の言葉に頷いた薫は、鞄の中から何枚かの紙を取り出し、昼食時のように寄り合わせていた机の上にそれらを広げた。
それらの内容は、行き先やそこまでの交通手段、費用、その他もろもろ旅行についての様々な事柄が書かれていた。
「えっと、そうね。
電車で行った場合の一人頭の旅行費用は、えと宿泊費込みで……六千円かな」
薫・由里奈共同制作の、言うなれば旅のしおりとも言うべきものの一枚を指でなぞりつつ、薫が呟いた。
「二泊三日分の飯代も込みでか?」
「うん、込み込み」
「にしては安い……よね? 薫さん、これで行けるの?」
「うん、そのはずよ。
まあ、この辺りは色々試行錯誤というか、人の繋がりというか、持ちつ持たれつというか、色々ありまして。
ねぇ由里奈?」
「そうね。宣伝費分大目に見てもらってる、って事になってるものね」
『宣伝費?』
疑問の声を合わせる男性陣。
そんな問いに対し、薫は腕を組んだ後、頭を左右に振って、少し考えるような素振りを見せてから答えた。
「うーんと。
実はねぇ、そこの民宿やってるご夫婦は……まぁ、一応私の親戚でね。正確にはちょっと違うんだけど。
その民宿が最近ちょっと営業的にピンチらしくて」
「だから、私がやってるブログとかで宣伝したりする事で安くしてもらうって建前になってるわ」
「建前?ってどういう事だよ、月穂」
「実際には、親戚である薫への心遣いって事よ」
「……うーん、そうなのかなぁ?
親戚って言っても……ああ、ううん、そういうのダメだよね、うん。
まぁとにかく、そんな訳だから。
みんな、資金的にはそれでも大丈夫?」
「うん、俺はなんとか」
「貯金で余裕よ」
「俺も毎月の小遣い一割ずつ前借り三か月分+その他でなんとか行けそうだ」
「僕は友達と旅行に行くって行ったら、
親が二人とも満面の笑顔でいくらでも出してあげる……って、あれ、なに霧里さん以外の皆、その哀れむような顔」
何故か自慢げに明悟が言うと、
道雄と陸は悲しげな表情で明悟の肩を、ポンポン、と励ますように叩いた。
「そっか、よかったなぁ」
「ああ、よかったよかった。
旅行の間くらいは仲良くしような、久能君」
「そうね、私も気をつけるわ……。良い思い出になるといいわね……」
「えっ? なに、これ? 怪我を洗う為の水が滲み込む様なこの感じ。
ああ、これが、優しさが痛いってやつかぁ……」
「え? ああ、そういうこと?
でも……うぬぅ。久能君、友達いなかった風には見えないんだけどなぁ」
「ぐっはっぁっ!? 霧里さんのダイレクトアタックッ!!?」
とまぁ、そんな感じで。
彼らは彼ららしい空気の中で旅行計画について楽しげに語り合い、確認を進めていった……。
放課後会議開始から約二時間後。
今出来る内容の確認と、新たに盛り込めそうな計画についての意見交換終えた薫達はそれぞれの帰路に着いた。
校門で寄る所があるという明悟、由里奈と別れ、数分前に道雄と別れ、今現在ここにいるのは薫と陸のみである。
「あー、よかった。
皆納得のプランになったみたいでとりあえず一安心だわー」
「お疲れ様。
ごめんね、薫さんと月穂さんに任せっぱなしになっちゃって」
申し訳なさげな表情を浮かべる陸。
薫はそんな陸の肩をバンバンッと元気良く叩き、励ました。
「いいんだってば。
プランの中心が親戚当てになりそうだったんだし、そうなる以上それを私が請け負うのは当然じゃない。
ま、ソレが気になるって言うんなら、その分、陸君には当日の盛り上げに協力してもらうって事で」
「えええー!? そういうの俺向いてないと思うんだけど……」
「そう? でもまぁなんとかなるなる」
「……うう、まぁ、頑張るよ」
「うんうん、応援してるわ。……でも、そうか、うん」
「どうかした?」
「うん、まぁ、そのね」
会話の最中、少し考えるような素振りを見せた薫。
そんな薫への陸の問い掛けに、薫は頬を掻いてから答えた。
「旅行計画を大まかに立て終わったからかな。
夏休み、まだまだ楽しい事はたくさんあるけど、終わりも見えてきたなぁって思って。
一つ一つ楽しい事が終わるたびに、終わりも近づいてくるなぁって。
ちょっと寂しいっていうか悲しいっていうか」
「まぁね。
でも、そうだなぁ。
夏休みはまだ終わりが見える分いいんじゃないかなって俺は思うけど」
「どして?」
「明確な終わりが分かるから、覚悟のしようがあるっていうか、ある程度決められるっていうか。
終わりが分からないって結構恐くないかなーとか、今言いながら思ったよ」
「ああ、そういうのはあるかもね。
終わりが見えないと決められない事って結構あるもんね。
でもさ、陸君。私、話しててこうも思ったよ」
「え?」
薫はニッカリと、得意げに、楽しげに、爽やかに笑ってみせた。
その背に夕日を背負いながら。
「いつ終わるか分からないからこそ、いつだってエンジン全開で楽しまないとって。
うん、そうよね。
終わりを寂しがってる場合じゃないわね、ガンガン行かなきゃ、うん」
薫の笑顔は、眩しかった。
夕日を背負っていなくても、そう思っていただろう。
そう確信出来るほどに、陸は薫の笑顔に見惚れていた。見惚れていたのだが。
「……」
見惚れると同時に、何故か、胸が騒ぐような感覚を覚えていた。
なんというか、何処となく何処からか何かが……不安を感じさせるものが滲み出ているような。
「陸君?」
「ん、ああ、いや」
不思議そうに自身の顔を覗きこんでくる薫の顔を見て、気のせいだろう、陸はそう思った。
あんな薫の笑顔の何処に、不安な要素があるというのだろうか。
(そう、だよな……)
きっと、薫の笑顔が素敵だったから、今が幸せだから、恐くなってしまっただけだろう。余計な事を考え過ぎただけの事なのだろう。
そう考えた陸は、強引に気持ちを切り替えて、薫に笑いかけた。
「ああ、そうだね。
そう出来たらきっと一番いい気がするよ。
俺も薫さんみたいに思えるようになりたいな」
「んん? 私的には陸君はそれ出来てると思うけど」
「俺が?」
「陸君はいつだってなんにだって全力じゃない。
それって、そういうことなんじゃないかって私思うよ」
「いやいや、ソレは買い被り」
「そっかなぁ? そんな事ないと思うけど」
「そうだったらいいんだけどね、ホントに」
「むむむ」
「と、とにかく今は夏休みを楽しもうよ。
終わりももう近いんだし」
考え込む薫を見かねて、陸は再び強引に話題を転換させた。
「むむ、ああ、うん、そだね。
終わりが分かってるものだって、エンジン全開で思いっきり楽しんでやるわよ〜っ!」
「……その為にも、宿題の進行を忘れずにね」
「うう、ソレは忘れていたかったなぁ」
そうして二人は”いつもどおり”に笑い合いながら歩いていく。
夏休みの思い出に、これからに思いを馳せながら。
こうして彼らは越えていった。
高校二年生の夏休みの中間点を。
そして、ココで語られる、彼らの物語の中間点を。
それとは知らず、越えていった。
誰かもがそうであるように、後戻り出来ない、取り戻せない時間だった事を、深く思い知る事になると知らずに。
……続く。
第二十七話はもう少しお待ちください