〜Creation〜





 かつて、神々が各々の星を作っていた時代。

 宇宙には、さまざまな「世界」が生まれた。

 戦いを好む民族ばかりが住む「世界」。

 恋に全てを注ぐ民族ばかりが住む「世界」。

 もちろん、色々な民族が住んでいる「世界」も数多くあったという。


 星の大きさもまたそれぞれ。

 「世界」の大きさによって、変わっていた。

 多くの生き物で溢れ、広大な「世界」を持つ、星もあれば。

 さほど大きな「世界」を必要としない星もある。


 神々は、互いの星を見合い、そして論ずる。

 自分の「世界」にはないものを、特に目にすることになるのである。



 ある、大きな「世界」を持つ神がいた。

 スケールの規模が他と比べても、一枚も二枚も上だった。

 幻想的な「世界」が広がり、何か特別な力を持つ民族が住んでいる。


 一方、極めて小さな「世界」を持つ神が隣にはいた。

 大きなものは必要とせず、最低限の規模さえあれば、そこで繁栄していける。

 そんな、まとまりを持つ民族が住んでいたという。


 彼らは互いを羨んだ。

 小さな「世界」には、広げすぎずとも栄えていける力がある。

 大きな「世界」には、多くの可能性を秘めている。

 どちらも、片方にはないものだった。


 そこで彼らは気付く。

 当然だ。

 それぞれが違う考えで「世界」を作っているのだから。

 同じ星などあっても面白くはない。

 違うからこそ、お互いに見合って思い合えるのだと。


 大きくとも、小さくとも、「世界」とは自力で創造するもの。

 それがどんな形であっても、大切なものなのだ。








「……で、それが何なの?」

 放課後、部室で座っていた私、芳賀祐里子は目を瞬かせた。
 ちなみに、今は活動中である。


「つまりね。
 わたしたちも同じようなものだってことだよ」

 正面で熱弁を振るっていたのは、親友の那須みゆきだ。
 いつもは寡黙な女の子なんだけど、このときだけは熱い。
 はっきり言って別人?


「……神様と私たちが、どう同じなのよ?」

 どうも私にはみゆきの言うことが理解できていない。
 話が飛躍しすぎているのだ。

 ……まぁ、さっきの話を聞いてると、彼女は大きな「世界」の神様なのかなとか。
 それくらいは思えるけど。


「ほら、わたしがいつも祐里ちゃんに『きれいにまとまってるよね』って言ってるでしょ?
 それって、祐里ちゃんが小さな『世界』を持ってるからなんだよ」

 ……またみゆきは変なことを言い出す。



 そもそも。
 どうしてこんな会話になったのかというと……だ。

 私とみゆきは同じ部に所属していて、いつもそれに関する話をしていたわけだが。
 その極地がこのテーマなのだ。

 文芸部に所属している私たちにとって、自分たちの世界観は大切なもの。
 そして、私とみゆきはそれが正反対なのだ。

 私は、とことん現実主義で「世界」を広げることをしない。
 でも、みゆきはどうしても幻想主義を外せない。

 ……それは入部当初から分かってはいたことなんだけど。


 で。
 2人の持ってるものって何なのか?
 という話からこうなっちゃったわけ。



 ただ、私自身はその「世界」についてなんてあまり考えてない。
 頭の中にある話はごく単純なもので。
 それを文字にしているに過ぎないのだ。

 一方、みゆきの話は壮大だ。
 いくつもの「世界」があるんだけど、それは全部繋がってて。
 全てを見ることは本当に難しい。
 できるなら、彼女の頭の中をのぞいてみたいくらいだ。



「私は……、何が小さな『世界』なのかはよく分かんないよ。
 みゆきみたいに、天地を創造しているような感じじゃないんだから」


 ……あっ。

 私は自分で言ってて気付いた。


 天地創造。
 それは神のなせる業。

 さっき、みゆきが話したことも……神の話だった。



「ううん、祐里ちゃんは分かってるよ」

 みゆきは笑っていた。



 そうか。
 私が書いているものもまた、自分の持ってる「世界」の一部なんだ。
 その範囲が狭いか広いかは別として。



「……なるほどね。
 やっと分かったわ」

 私も同じように笑った。



 これは私たちだけに限ったことじゃない。

 人は、考える力によって、自分の「世界」が持てる。
 その「世界」だけの神になれる。
 その全てを創造することができるんだ。




「だから。
 祐里ちゃんはそのままでいいんだよ。
 でも、たまにはもっと広げた方がいいよ」

「……ふふっ。
 そういうみゆきは、広げすげて収拾がつかなくならないようにね」

「……う〜、いつかまとめるもん」


 そう言いながら、私たちはペンを進めた。
 自分の「世界」を創り上げながら。

 いつか、誰かの目に止まることを夢見て。


(Fin)





●管理人のコメント

『世界』の創造。
それは神様だけが出来る事じゃなくて、僕達にも可能な事なんですよね。
例え、その規模が神様とは比べ物にならなくても、その「世界」が唯一無二の掛け替えのないものであるのは紛れもない事実。

この物語を読ませていただいて、自分の「世界」を作り上げていく事の楽しさ、意味を改めて認識し、感じる事が出来ました。
tukiさん、素敵な物語をありがとうございました。