注意
この作品は『仮面ライダー電王』と『CLANNAD』のクロスオーバー作品……と見せ掛けたカオスな物語です。
CLANNADのネタバレを含む他、他にもTo Heart2やKanonなど色々な作品の登場人物が『やや壊れ気味』に登場してます。
作者の偏った考え方も含んでおりますので、原作のイメージが第一と考える方は読む事をご遠慮ください。
洒落が通じる人のみどうぞ。
以上の点に関する苦情については受け付ける事ができない事をご了承の上、それでもいい、それでも読んでみたいという方のみ、下の方へとお進み下さい。
それでは、どうぞ。
世界を越える電車、クラライナー。
その行先は、如何なる並行世界か。
仮面ライダー蔵王 試験的第一話
明らかにこの世のものではない、虹色の空の下。
荒野の中を一本の『電車』が走っていく。
空間に線路を『作り』ながら走って行く『電車』は『光る何か』を追っていた。
ソレを追って、『電車』は縦横無尽・上下左右に駆け巡る。
だがその追跡も空しく、『光る何か』は空間に出来た穴の向こうに消えていった……。
それはとある世界、とある学校の放課後。
「ん?」
空がふと光ったような気がして、少年……春原陽平は顔を上げた。
と、次の瞬間。
「ごっぶうぅぅっ!?」
何処からか飛んできた辞書が陽平の顔面に突き刺さる。
なんというか、普通なら死んでるレベルの一撃だった。
そんな一撃を受けてかろうじてでも生きているのは見事というか悪運が強いというか。
地面に倒れた後、ピクピクと痙攣気味な動きをする陽平の顔面から辞書を引き抜いて、投擲した張本人……藤林杏は言った。
「……いい?
今度やったらこんなもんじゃ済まさないからね」
「了解。そう伝えとく」
陽平の腐れ縁である岡崎朋也が、地面に倒れたままの陽平に代わって杏に答える。
ふんっ、と鼻息荒く杏が帰って行った後、むっくりと陽平は起き上がった。
「くぅ……流石の僕も死ぬかと思ったよ……」
「いや、普通なら死んでるんじゃないか?
しかし、相変わらず不幸というかヘタレというか……でも悪運は強いよな」
「不幸も何も身代わりに使ったのアンタですよねぇっ!?」
「そうは言うが、ボタンを弄った事は同罪だろ」
ボタンというのは杏が飼っている猪の子供……瓜坊の事。
杏とはぐれたらしく一匹で校門付近をうろついていた所を二人して少しからかっていたら投擲→撃墜という流れになったのだ。
げに恐ろしきは長遠距離投擲でもほぼ確実に目標をロックオン・ヒットさせる杏の技能と投擲力だろう。
「だからって僕を咄嗟に盾にする理由にはなりませんよねぇっ!?」
「いや、お前不死身だし。
俺は一般人として致死ダメージは避けたかったんだよ」
「本当に不死身だったらよかったんだけどね……」
「春原さん? 大丈夫ですか?」
響いた声に二人して顔を向けると、杏が去っていった方向に一人の少女が立っていた。
その少女は二人の顔見知りだった。
「なぎ……じゃない、古河」
「渚ちゃん〜」
少女……古河渚は、頭の触覚っぽい髪を揺らしながら二人に駆け寄った。
「ホントに大丈夫ですか?
なんだか、フラフラしてますけど……」
「ははは、この位どうって事ないよ。
でも渚ちゃんが看病してくれたりすると嬉し……あがぺぇぇぇっ!?」
突然の陽平の奇声の理由は、足にあった。
思いっきり朋也が陽平の足を踏んでいたのである……なんというかグリグリギリギリと音が響きそうな具合に。
「おおおおおおおおおおおおっ!?」
「す、春原さん?!」
「大丈夫だ、古河。
コイツにはサッカーやってた時の古傷が疼く時があるんだ」
「それは大変ですっ! 早く保健室に……」
「いやいや、古傷だからな。暫く放置しとけばいいさ。
コイツは良い奴だから周囲に迷惑掛けたくないっていつも言ってるし。
俺達は帰ろうぜ」
「でも……」
渚の声に、痛みで声が出ない陽平は首を全力で横に振った。
まぁ、当然『んなことあるかいっ!!』という意思表示なのだが……。
「ほら、こんなにも先に行けと言ってくれてる訳だし。
これは先に行かないと逆に悪いだろ」
「はぁ……そう、なんですか? 分かりました」
首を振るその方向が校門の方にも向いていたのを利用され、基本的に人が良すぎる渚はものの見事に騙されてしまった。
こういう場合、状況によっては気づいて朋也をたしなめる事もあるのだが、今回は残念ながら気付かなかったようである。
「それでは失礼します。
……その、何か困った事があったらいつでも言ってくださいね」
「〜〜〜〜〜〜〜〜っ!!」(今! 困ってるのは今!! 今なんだってば渚ちゃんっ!!)
「じゃあ、お大事にな」
ようやく踏みしめていた足を離し、ニヤリと『計画通り』なデビルスマイルを残し、朋也は渚と共に去っていった。
陽平の悪ノリも問題なのだが、それを差し引いてもまさに外道。
そんなわけで、陽平は去っていく二人を足を押さえながらの半涙目で見送るしかなかった。
まぁ、そんな感じだったので陽平は気づかなかった。
空から舞い降りてきた光の玉の一つが、自分の中に入り込んだ事に。
その頃、『電車』は荒野の真ん中で停車していた。
そんな『電車』の一車両で二人の女性が向かい合って話していた。
女性と言っても、一人は少女……美少女と言うべきだろう……と呼べる年齢の容貌なのだが。
「……じゃあ、行ってきます」
そんな少女の声に、十人中十人は美人と言うであろう容姿の女性は穏やかな微笑みで頷いた。
「はい、了承。
ただ……くれぐれも時の運行を乱さないようにね、汐ちゃん」
「分かってます、水瀬オーナー」
この『電車』のオーナーである女性……水瀬秋子の言葉に、少女・汐は静かながらもはっきりとした口調で言った。
「汐ちゃん、いってらっしゃーい」
「行ってきます、佳乃さん」
喫茶店のカウンターのような一角から呼び掛ける、ウェイトレスというにも客室乗務員というにも難しい、
SF調の制服を着る少女・佳乃に笑顔で答え、汐はその車両を後にした。
目指すのは”アレ”を落としたと思われる世界と場所。
「簡単に見つかればいいけど……」
呟きながら、汐は『世界』に降り立った。
「ったく……なんで僕はこんなに不幸なんだよ」
ブツブツ呟きながら、陽平は自分の部屋のある寮への道を歩いていた。
「結構不幸仲間っぽい気がしてた岡崎は最近渚ちゃんと仲良いし……
っていうか、渚ちゃん可愛いし、良い子だよなぁ」
渚の事を思い出し、陽平は、ニヘラ、と相好を崩した。
しかし、即座にカクンと肩を落とす。
「でも、渚ちゃん完璧に岡崎に惚れてるよなぁ。
あと渚ちゃんだけじゃなくて、藤林姉妹もそうだろうし、智代もそうっぽいし。
他にも仲の良い女の子いるみたいだし……くうう、羨ましいっス」
たまに思う。
この世界が何かの物語を描いているのなら、
岡崎朋也は紛れも無く主人公クラスの扱いを受けているのだろうと。
「となると、僕は脇役かなぁ……いーや、そんなことはないっ!」
拳を握る陽平……その身体から、何処から湧き出たのか分からない砂が零れ落ちていく。
熱弁を振るう陽平は当然というか気付かないでいた。
「そう……人生という物語においては誰もが主人公の筈っ!」
『ああ、そうだな。俺もそう思うぞ』
その時、陽平から零れ落ちた砂が集まって、地面から姿を現した。
地面から生えた砂の塊は、普通の人間が半端なきぐるみを着て上半身だけな感じだった。
その、顔半分だけ鬼のような仮面を被る、青年と少年の中間にある顔立ちをした『砂鬼』は、
うんうんと頷きながら腕を組んで言った。
『お前の気持ちは良く分かるぜ。
そんなわけでお前の望みを叶えてや……ろおうっ?!』
その言葉は最後まで形にならなかった。
ブツブツと自分の呟きに熱中する陽平の足によっていとも簡単に砕かれたからだ。
「ん? 誰か何か言ったような……って、なんだこれ」
誰かに声を掛けられたような気がして立ち止まった陽平は、その拍子に足先にぶつかった何かに気付いた。
なんとなく拾い上げたそれは……黒く四角いプラスティックケース、のようなものだった。
「何か、カタチは電車のパスケースっぽいけど。
こんなパスケースだと使えないよね。
……でも、これって何処かで見たような……?」
何か記憶に引っ掛かるものがあって首を傾げてみるが、特に何も思い出せなかった。
大方テレビ番組か何かだろう。
「まぁ、いいか。
にしても……うーん、硬いしデカいから邪魔だし、僕電車使わないから使い道無いじゃん。
って、わけで」
言って、陽平は『パスケース』をポイッと後ろに向かって投げ捨てた。
そうして何もなかったかのように歩き出す……が。
「おい、春原」
「?」
呼び止められて、殆ど反射的に振り返る陽平。
その視線の先には、自分と同じ学校の制服を着た数人の男子生徒。
陽平はその面々の顔に見覚えが会った。
同じ寮に住む何かと因縁があるラグビー部の面々だ。
「春原……お前、今狙ってやっただろ」
彼らの中央に立つのは、ラグビー部の中心人物たる部長。
彼の右手にはさっきまで陽平の手にあった『パスケース』。
ちなみに、左手は頭を押さえている。
「……まさか、頭に当たったとか?
んなわけないじゃん、漫画じゃあるまいし」
はははーと笑い飛ばす陽平。
だが。
「ははははは」
『……』
「ははは」
『……』
「は……」
『……』
「えーと、マジなの?」
一斉に頷くラグビー部員達。
「いや、その、狙ったわけないじゃん。
後ろ向いてただろ、僕。
そんなのできるわけない……」
「そうかそうか。
じゃあ、とりあえずコレは返すなっ!」
「いらないよ、そんな……のおおおおおおっ!?」
ラグビー部部長によって全力投球された『パスケース』。
回避が無理と直感で判断した陽平は顔面直撃コースをどうにかキャッチで防いだ。
「あ、危ねー!
というか僕の話聞いてますかっ!?
僕は狙ってないって……」
「……」
自分に投げ掛けられる部員達の……特に部長の視線に気付いて陽平は顔を引き攣らせた。
「あー……もしかして、僕の事全然信じてない?
というか、別に真実とかどうでも良かったりする?」
その問いに対し部員達は……先の朋也の笑顔に近いニュアンスの笑みで首を縦に振った。
「あ、あはははは……さいならっ!!」
「逃がすな、捕まえろっ!!」
「ひぃぃぃぃっ!!?」
ある意味いつもの展開なので、陽平は即座に逃げた。
殺到するラグビー部の面々に振り返る事無く、全速力でその場から走り去っていった。
「ったく、あの野郎」
騒ぎの後。
一人その場に残るのは、皆をけしかけたラグビー部部長。
彼は、陽平の事が気に入らなかった。
それは元々部活推薦組であるにもかかわらず、部活を辞めてフラフラ遊びまわっているから……でもあるが。
実際の所、彼にとって陽平が気に入らない一番の理由は。
「いつも可愛い女の子とばっかり絡みやがって……」
という、至極分かり易い理由だった。
ちなみに、この作品を読んでいる皆様ご承知の通り、事実は若干違うし、陽平本人は微塵もそう思っていない。
というか本人は朋也との付き合い上絡む事が多いだけなのだと思っている。
陽平にしてみれば絡む事で死にそうになっている回数(智代の蹴り、杏辞書投げなど)のほうが多いのだが、
傍から見ればスキンシップを取っている様に……見えるのか、あれ。
「ぐうう、俺達なんか絡む接点すらないってのに……」
どうやら彼的にはそう見えるようである。
ともあれ。
彼の視点から見れば、何のとりえも無いヘタレが女の子とよく絡んでいるように見え、
女の子との接点が少ない彼にしてみればそれを見ているだけで苛つくのだ。
(朋也については、陽平への苛つきの方が大きく目立つ為に余り意識していないらしい)
ちなみに女の子との接点が少ないのは、
ラグビー部という部活のイメージというか、女子からの偏見による所が大きい。
悲しいかな、一部の部活にはその辺りの固定イメージから遠ざけられているものが幾つかあり、それは時代を経ても変わらない部分だったりする。
「はぁ」
そんなわけで、やりきれない溜息を吐くラグビー部部長。
……その時だった。
ラグビー部部長の頭上に陽平の中に入り込んだものと同じ光の玉が現れ、彼の中に侵入したのは。
そして、陽平の時と同様に彼の中から溢れ出た砂が……人の形を取る。
『……お前の悲しみ、俺にはよぉーく分かるぞ』
地面から上半身だけ現れたのは、全体的に蝙蝠の意匠のリアルきぐるみを着たような青年。
顔半分を蝙蝠の仮面で覆い、その頭にはピョコン、と触覚のような髪が揺れていた。
「な、なんだ?」
『まぁまぁ、怯えるなよ。
俺はお前に危害を加えようってつもりは毛頭無い。
むしろ協力者だな』
「きょ、協力、者?」
動揺しながら呟く部長の言葉に、蝙蝠青年……バットドッペルは、うんうんと頷いて見せた。
『お前、女の子との接点が羨ましいんだろ?
というかだ、さしたる理由も無く接点を持ってる奴が許せないんだろ?』
「う……」
『俺には分かる。分かるぞ。
転校したてにもかかわらず、
そのクラスには可愛い従姉妹、従姉妹の親友がいてすぐに仲良くなり、
その親友の妹と偶発的に知り合い、鯛焼き万引き少女との七年越しの再会、
夜の校舎では謎の先輩と神秘的な出会い、更にその先輩の親友と知り合う。
挙句の果てに、謎の記憶喪失少女とその因縁に纏わる後輩と遭遇する……んな事がありえるか!?
いくら過去に因縁があるとか言っても、その全てがいっぺんにやってくるなんてありえるのかっ?!
そのフラグの一個か二個ぐらい、そのクラスの善良な主人公の親友たる青年J・Kに譲るべきなんじゃないのかぁぁぁっ!!?』
一息でその長台詞を言い切り、バットドッペルは、ゼェゼェと息を切らした。
その様子にあっけに取られたラグビー部部長だったが、なんとなく目の前の存在が他人には思えなくなっていた。
『と、まぁ、そんなわけでだ。
お前の望みを言え。
どんな望みでも叶えてやるぞ。
その為にお前が払う代償はたった一つ……』
そう言って、バットドッペル・潤はニヤリと笑ってみせるのだった……。
「……ふぅ、此処まで来ればもう安全だろ」
走り回ってラグビー部の面々を撒いた陽平は、周囲を確認しつつコンビニの影から顔を出した。
「今日はホント厄日だな……
早く寮に帰って、鍵掛けて寝よ。
と、その前に」
折角コンビニにいるわけだから、晩のラーメンでも買って帰ろう。
(……丁度トイレに行きたくなってきたしね)
そう考えて、陽平はコンビニの自動ドアをくぐり、トイレに向かった。
このコンビには日頃から愛用しているので、勝手しったるなんとやらなノリである。
陽平がトイレのドアを開けた時刻は、午後5時55分。
そろそろ空の色が赤が黒に変わる時間帯。
で、あるのだが。
陽平が見ていた空は、明らかにその時間帯を逸脱する、というか常識を逸脱していた。
というか、そもそも自分はトイレに入った筈だ。
であるにもかかわらず、広がっているのは虹色の空に、果てしなく広がる荒野。
そして尤も近くにあるのは便器ではなく……『電車』だった。
「え? え?」
陽平は一歩下がってドアの外に出る。
其処は紛れも無くコンビニトイレの手洗い場だ。
更にその向こう側には立ち読みをする学生や、商品を物色する人々……日常があった。
しかしトイレの中は。
「はいいいいぃぃっ!?」
その空間に改めて入った陽平は、思わず奇声を上げた。
ぶっちゃけ、この状況は陽平の思考回路を遥かに上回っていた。
そんな混乱に更に拍車を掛けるように『電車』のドアが開き、一人の少女が姿を現した。
「あ、お客様だ〜。こんにちはー。
ちょっと待っててね」
「……」
「お待たせ。はい、どうぞ。
佳乃りん特製のコーヒーだよ」
余りの事に呆然とする陽平に、
SF調な何かの制服を着た少女……佳乃はプラスティック製の容器に注がれたコーヒーを手渡した。
「あ、お金は心配しなくていいよぉ。
パスを持ってれば全部OKOK♪」
「……ぁ、ああ、うん……」
「ゆっくり味わって飲んでね。
それじゃ、そろそろ出発するけど、乗る?」
「……出発、ねぇ」
最早頭の許容量をオーバーしていて何がなんだか分からない陽平だったが、
果てしなく続く線路を見て、残っていた正常な判断力が不安を覚えさせた。
「いい。遠慮しとくよ」
「そうなんだぁ。じゃあ、危ないから下がって下がって」
陽平は言われるままに、トイレのドアの外まで下がった。
それを見届けた佳乃は笑顔で告げた。
「では、またのご利用を〜」
その笑顔がドアの向こうに消えた直後。
陽平の視界には、綺麗に掃除されたトイレしか映っていなかった。
「……なんだったんだろ、あれ……」
呟きながら、手元に残ったコーヒーを見る。
どうやら夢や幻ではないらしいが……。
「何かに取り憑かれたのかなぁ……」
ぼんやり呟きながら、なんとなくコーヒーを啜る。
その瞬間。
「はぶんsぢでぃいhdしhでぃぢおおおおおおおっ!!???」
その圧倒的かつ意味不明にして壮絶な味の前に、陽平は悶絶するしか出来なかった。
それとほぼ同時刻。
陽平がラグビー部の面々に絡まれた辺りで、少女……汐が地面を睨み付けていた。
それは明らかに何かを探している様子だった。
「おかしいなぁ……この辺に落ちたはずなんだけど……」
それから暫し周囲を探し回ったり、辺りを通った人間に聞いてみたが、ソレの行方は分からなかった。
「”パス”が無いとなると、これからどうしたら……」
汐は呟いて、うーんと唸る。
だが、唸った所で探し物……”パス”が見つかるわけも無い。
「しょうがない、一旦クラライナーに戻って”パス”の反応を待つしかないかな」
そう判断した汐は、その場を後にした。
向かう先は、今の自分の家である、平行世界を越える電車……クラライナー。
「くっそ、何がどうなってるんだよ」
ブツブツ呟きながら、陽平は寮への道を歩く。
あの後。
余りの不味さにコーヒーを噴出した声が店長の耳に入り、
陽平は自分で汚くした箇所を徹底的に掃除させられた。
「うう、金も少なくなっちまうし……」
おまけに日頃の立ち読みなどのマナーの悪さをねちねち指摘・説教され、
トドメに説教を短くする代わりに買い物も割高になり、もう散々だったのである。
基本的に不幸というか幸運から縁遠い日々ではあるが、此処まで酷い日は滅多に無い。
「とほほ……」
肩を落としながら財布をポケットに入れようとして、気付く。
いつもは其処に入っていない『異物』を。
「……これのせいなのか?」
財布と入れ替えるように取り出したのは、黒いパスケース。
色々なごたごたで存在を忘れていたが、律儀にもというか、迂闊にもしっかり持っていたようだ。
「うーん……捨てちまおう。
なんか、コレが原因な気がするし。
周りには……よし、誰もいないな」
二の舞を踏むまいと周囲の確認をした後、陽平は大きく振りかぶった。
自分の手にも届かず、誰に当たっても投擲主が自分だと分からないほどに遠くに投げる為に。
「春原選手、大○ーグボール103号投げ……」
その瞬間だった。
「……なんだ?」
変な音が周囲に鳴り響いた。
その音で思わず動きが停めた陽平は、改めて周囲を確認した。
「なんだろ、この音……」
その音はどんどんこっちに近付いてくる。
陽平は、なんか嫌な予感を感じながらも音の発信源であると思われる後ろを振り返り……叫んだ。
「なんだあれぇぇぇぇぇぇっ!?」
ぶっちゃけて言えば。
そこには『電車』が走っていた。
然るべき場所で『電車』がただ走っているのであれば、驚くには値しない。
問題なのは、走っているのが然るべき場所でない事にあった。
その『電車』は、線路が無い所に『線路を作って』走っていた。
走る先に線路が出来て行くのだ。
というかむしろ空中を走っていた。
更に言えば、その最後尾部分には先程も見た虹色の空が見える穴が広がっていた。
そして。
「なんかこっちに来るぅぅぅぅぅっ!?」
『電車』は明らかに陽平の方へと疾走していた。
偶然かどうかなど悩んでいる暇などない。
そう言わんばかりに陽平は全力で駆け出した。
しかし、いくら全速力で走ろうとも人と電車では埋めがたい差がある。
当然の如く追い付かれ、併走状態となった。
「って併走?!」
上でも触れたとおり、人と電車では速度に差がある。
ソレが併走している……出来ているというのは不自然だ。
その事に陽平が気づいた時。
『電車』のドアが開き、一人の少女が現れた。
「……?!」
刹那、その少女の容姿に、陽平は既視感を覚えた。
だがそれも刹那の事で、すぐさま思考はこの緊急事態用に切り替わる……というか思考処理が追いついていないだけなのだが。
そうして陽平が一杯一杯な状況の中、少女は叫んだ。
「すみませんっ! その手に持ってるパスを返してくださいっ!!」
「へ? え?!」
「大事なものなんです! だから返して!!」
「って、言われてもぉぉぉぉっ!?」
「ちょ!? 何で逃げるんですかっ!?」
「空飛ぶ電車に追いかけられたら普通逃げると思いますけどねぇっ!!!」
冷静に考えれば、そもそも捨てようとしていたのだから素直に渡せば問題解決。
だが、この状況下で冷静に考える事など、よほどの大人物でもなければ無理なのは明らかだった。
そして春原陽平は残念ながら現在の所大人物と呼べる人間ではない。
ので、逃げる。
まぁ一般人としては当然の選択と言えた。
「ぬおおおおおっ!!」
「あっ! ちょっとぉぉっ!」
真っ直ぐ走り続ける電車を尻目に、陽平は曲がり角を急カーブし、寮の方向へと全速力で走り抜けた。
いくら空中を走る電車と言えども、その大きさ、電車という乗り物の性質上急カーブは出来ない。
陽平自身必死なので全くもって意図していなかったが、結果として陽平の行動は彼を電車から逃げ出させる事に成功させた。
「ま、待ってください……って、え?!」
瞬間。
少女……汐は、陽平の身体から零れ落ちる砂に気付いた。
「あれって、まさか……!?」
その疑問に答える者、確信は今はなく。
電車はただ走り去っていった。
「はぁ、はぁ……ホント、今日は一体なんなんだよ……」
ようやっと謎の怪電車(?)を撒けた陽平は、肩で息をする状態で壁に寄りかかっていた。
「マジになにか取り憑いてんのかな」
『……ああ、取り憑いてるぜ。俺がな』
「っ!!? 誰だよっ! で、ででで、出て来いっ!」
いきなり何処からともなく響いた声に、陽平はすっかりガタガタ状態ながらも声を張り上げた。
だが、それがまずかった。
「いたぞ、こっちだ!!」
「やっぱ寮の近くにいやがったかっ!」
「……へ?
ひいいいいいいぃぃっ!!?」
気付いてみれば。
陽平の周りをラグビー部の面々が取り囲んでいた。
「馬鹿みたいな大声出してくれて助かったぜ。
お陰で部長にいびられずに済むぜ」
「なんかお前をボコんないと気が済まないんだとさ」
「ううう……なんでこんな目に……」
このままでは過去最大クラスにフルボッコされる。
その危機感から、陽平の意識が僅かに遠くなる(現実逃避が七割)。
そんな隙をつく形で。
『ったく、しょうがねーな』
「へ?」
『その意識』が、陽平の意識を押しのけて浮上する。
「何ぶつぶつ言ってんだよ!」
一人でなにやら呟いているような様子に苛ついたのか、一人が陽平に殴り掛かった。
だが、その拳は陽平に届かなかった。
何故なら、殴りにいった部員の拳は……他ならない陽平の手によって掴まれていたからだ。
『なっ!?』
部員達の驚きの声が唱和する。
そんな部員達を見回す陽平の眼は……瞳孔が赤く染まっていた。
それだけではない。
髪の約半分ほども赤く染まっていた。
表情のせいか、その顔付きも通常の五割り増しほどでワイルド風味になっている。
言うなれば、別人のようだった。
まるで何かが取り憑いたかのように。
「俺、参上」
そう言って不敵に笑うソレは、明らかに春原陽平ではなかった。
「な、何を言ってやがる……?」
「……悪いが、コイツは俺の契約者なんでな。
ソレをみすみす怪我させる訳には行かないんだよな」
言って、陽平……否、陽平に取り憑いている『何か』はニヤリと笑い、
まるで紙屑か何かを軽く捨てるかのように陽平に殴りかかった部員を投げ捨てた。
「なんですとおおおおおおおおおっ!?」
投げ飛ばされた部員は十数メートル飛ばされ、
積み重ねられた燃えるごみの山(集荷日は明日)に突き刺さった。
なんというか、某推理小説の映画のように足が生えている感じ。
「こ、この野郎っ!!」
仲間がやられた事で激情したのか、あるいは動揺からか、他の部員の一人が同様に殴りかかる。
が。
「NOOOOOOOO!!」
彼も同じ末路を辿る事となり、ゴミ捨て場に足が四本生える結果となった。
「ひ、ひいっ!?」
「さっきとは立場が逆だな、おい。
……よっと」
軽口を叩きながらゴミ捨て場に歩み寄った『陽平』は、そこに捨ててあった金属バットを拾い上げた。
彼は数度スイングした後、ラグビー部員達に向かってニヤリと笑ってみせた。
「先に言っとくが、俺に前フリはないぜ。
最初から最後までクライマックスだ……!」
言って『陽平』はスイングしたバットを地面にに叩き付けた。
その一撃はコンクリートに容易く皹を入れる。
ソレを見た部員達は、各々悲鳴のような声を上げながら蜘蛛の子を散らすように逃げて行く。
……それでもゴミに埋まった仲間を助けてから逃げるあたり立派なものである。
「ふん、逃がすかっての」
『ちょ、ちょっと待ったぁぁぁっ!!』
バットを握り追い掛けようとした矢先、内側から響く声と意志が『陽平』の動きを封じた。
「なっ!!?」
『アンタ、何好き勝手にやってるんですかっ!
そりゃあ僕としてもあいつらはボッコボコにしてやりたいさ!
でも……!』
其処で言葉を切ると、声の主……本当の陽平は心から叫ぶように言った。
『それを理由に明日からイビられたら僕はどうすればいいんだよっ!!
明日もアンタがいて責任とってくれるんですかねぇっ!?』
「……………………なんつーか、お前、凄いヘタレだな」
その瞬間。
呆れで意志が弱まったのか、意識が再び逆転した。
「……っと。
う……なん、だったんだ、今の?」
『……ソレは、俺が聞きたいぜ』
その言葉と同時に、陽平の身体から砂が吹き上がり、
再び上半身だけ地面から生えた『砂鬼』が形作られた。
「ひ、ひいっ!?」
『お前、なんで俺を抑えられるんだよ。
……まぁ、いいか』
『砂鬼』は肩を竦めて見せた後、自分を親指で指しながら怯える陽平に言った。
『とりあえず自己紹介な。
俺の名前は雄二。
平行世界からお前の望みを叶えに来てやったんだぜ?』
「……悪霊退散、悪霊退散……陰陽師、そう、陰陽師を呼ぼうっ!?」
『お、おい。なんだよ、その扱いは』
「ひぃっ! 寄るなっ! っていうか寄らないでくださいませっ!?」
『ちょ、おまえ、人の話くらい聞けって……』
「ひいいっ!」
近付いては離れ、近付いては離れ。
そんな間抜けな光景が幾度も繰り返された、その時。
「そういう類のものじゃないですよ、ソレは」
そんな涼やかな声と共に、一人の少女が姿を現した。
「一部始終を見せていただきました……
彼らの影響を抑える事が出来る……ソレは特異点に他ならない」
『な、何っ!? コレが特異点??!! マジかよ!?』
「まさか、こんなところで特異点に出会えるなんて……。
しかもそれが……」
『砂鬼』の言葉には答えず、少女……汐は陽平を見据える。
パニクっていた陽平も、事態を理解していそうな少女の登場で冷静になり、少女を見据え返した。
「え……? 渚、ちゃん?」
思わず、陽平は呟いていた。
其処にいる少女の雰囲気は、親友である岡崎朋也に現在一番近い少女である古河渚によく似ていたからだ。
そして、この少女が先程の電車の少女である事、その時に感じた既視感の正体にようやっと合点がいった。
そんな陽平の納得をよそに、少女は陽平の問い掛けのような言葉に首を横に振って、言った。
「……違います。私は汐と言います。
そんな事よりもようへ……じゃなかった、貴方……貴方の力を、私に貸してくれませんか?」
「は? いきなり一体何を……」
「貴方なら、蔵王になれる……!」
「くら、おう?」
彼女の言う言葉の意味を反芻するように陽平が呟いた、その時だった。
『……やれやれ、そりゃあ見過ごせないなぁ』
唐突な第三者の声に、その場の全員が意識を向ける。
そこには、二人……いや三人に向かって歩み寄るラグビー部部長の姿があった。
「に、逃げよ……」
「ちょっと待ってください……様子が……?!」
歩いてくるラグビー部部長の顔は何処か虚ろだった。
そして、その身体からはまるで噴水か何かのように砂が吹き出ている……!
『……お仲間か?!』
『その通り』
『砂鬼』……雄二の叫びに応える形で、吹き上がった砂が形を作る。
そこには砂ではなくなった……完全に実体化したバットドッペルの姿があった。
ラグビー部部長は気を失って地面に倒れる……が、命には別状はなさそうだった。
一応気を遣っているのか、部長の無事を確認した上でバットドッペルは口を開いた。
『契約者の願い……そこのヘタレと女の子との接点を無くそうとしてたら、特異点とはね。
面倒だけど、面倒だからこそ潰しとくかなっ!』
バットドッペルは人としての顔を蝙蝠の仮面で覆い隠し……それでも触角はピコピコ揺れていたが……
陽平に向かって走り出した。
『させるか!!
コレは俺の契約はぷっ!?』
その突進を阻止しようと突進する雄二……だったが、悲しいかな所詮は砂だった。
ただの衝突でいともあっさり砕け散る。
「役に立たないねぇっ!」
「そんな事言ってる場合じゃないですっ!」
「わわっ!」
「きゃっ!?」
『砂鬼』を砕いた上尚も続くバットドッペルの飛行突進。
それを、陽平は汐の体当たりで弾き飛ばされる事でかろうじて回避する。
「さ、サンキューって、大丈夫?!」
「……このぐらい、平気……うっ!」
体当たりの拍子で足を捻ったのか、立ち上がりこそしたものの汐の身体はふら付いていた。
「や、ヤバイ……ど、どうすれば……」
「変身、してください」
「へ?」
「パス、あるんでしょ……!
それで変身してください!!
っていうか早くしなさいっ!!
しなきゃ私も貴方も危ないんですよっ!!」
「ひいっ! 分かりましたっ!」
汐の剣幕に圧され、陽平はパスを取り出した。
すると、当惑する陽平の腰にベルト……中央の大きなバックルに四色のボタンがついている……が出現した。
「な、なんか出てきたけど……変身ってどうやれば……?
ライダー変身とかってポーズを取るの?!」
パスを持ったまま、ワタワタと手を動かす陽平。
そのパスを持った手がベルトの中央部を通った瞬間、ベルトの中心が光り輝き……陽平の姿を変えた。
それは、陽平が知る『ヒーロー』から強そうな部分、例えば角とか、角ばった鎧とか、そういう部分を剥ぎ取ったツルンとした姿だった。
「……うわ、なんかショボイ……っておおおおおおおおおおおおおおっ!」
「陽平さん!!?」
姿が変わった事に動揺している隙を突き、バットドッペルが空を飛んで急襲してきたのである。
当然回避も出来ず、陽平は吹っ飛ばされ壁に叩きつけられた。
「あいたっ!? てんめぇ……!」
変身した事で多少気が大きくなったのか、興奮した陽平はバットドッペルに殴りかかって行く……が。
「痛っ!! 痛い痛い痛いっ!! あうっ! あべしっ! ぶべらっ!?」
「……」
「ひいいいいっ!!」
『……あーなんだ。
なんか、弱いものいじめをしてる気分なんだけど、俺』
ものの見事に返り討ちにされ、先程自分の身体がしたように空を舞い、ゴミ捨て場に突き刺さった。
ここで誤解がないように言っておくが、陽平は喧嘩が弱いわけではない。
まぁ、さりとて滅茶苦茶強いというほどでもないのだが。
要は『怪人』を相手取るにはやや役不足だというだけである。
ともあれ、ゴミ捨て場からどうにか這い出た陽平だが、
誰がどう見ても満身創痍な上、そうじゃなくても勝ち目はゼロっぽかった。
「うう、このまま僕は殺されるのか……まだ彼女も出来てないってのに……」
ゆっくりとこちらに近付いてくるバットドッペルの姿を確認しながら陽平はなんとなく呟いた。
はっきり言って、ソレは嫌だ。
このまま死んだらなんというか、空しい。色んな意味で。
「誰か何とかしてくれませんかっ!?」
『なら、俺に代われ。
俺が何とかしてやるから』
跪いた陽平の側に雄二が、例によって例の如くの上半身砂の状態で現れた。
「そりゃ代われるもんなら代わりますけどねぇっ!
代わり方知ってるのっ!?」
『そりゃお前……俺が知るわけないだろ』
「アンタって人はぁっ!?」
『はは、悪ぃ悪ぃ』
と、其処に足を引きずりながらも歩み寄った汐の声が降りてきた。
「ベルトのボタンを押して、パスをベルトにかざして……普通のパスを使うみたいに通してください!!
多分どれかがそのドッペルに対応してるはずですっ!」
「ボタン……?」
改めてベルトを見ると、確かにベルトのバックルに四色のボタンが一個ずつある。
「じゃ、じゃあ折角だから俺はこの赤いボタンを選ぶぜっ!」
『……折角だからってなんだよ』
叫んだ陽平は、突っ込みには反応せず赤のボタンのボタンを押した。
途端、ベルトから派手な音が鳴り響き、中央部が赤く点滅する。
「んで、パスを通す……?!」
言われたとおりに、ベルトにパスを通した瞬間、
『BLADE FORM』
と、電子音声が喋った。
その直後、空間から幾つかの鎧の部品が現れ、変身した陽平の身体に装着されていく。
全身を赤色主体の鎧が覆っていき、最後に赤い複眼の面が顔面に装着され……『変身』は完了した。
そう。
仮面ライダー蔵王・ブレイドフォームへの変身が。
ソレと同時に、身体の主導権が陽平から雄二へと移る。
「……よっし!」
手を握ったり開いたりして感触を確かめた雄二……蔵王は、
「俺、」
自分自身を親指でさした後、
「再び参上っ!」
両手を広げ、ポーズを決めた。
『!!』
蔵王の姿が変わったのを目の当たりにし、バットドッペルは空を飛び、再び急襲する。
……だが、蔵王はさっきまでの『陽平』ではない。
「はっ!」
蔵王はベルトのサイドに装着されていた三つのパーツを組み合わせ、
剣の形へと変えると、即座にソレを振ってバットドッペルを斬り落とした……!
『おうぐっ!?』
全く予期していなかった反撃を受け、バットドッペルは地面を転がった。
「……なるほどな。
使い方、分かってきたぜ」
『お、お前っ!
俺達の使命を忘れたのか?!』
自分の同類……仲間とも言える存在の攻撃に、
どうにか起き上がったバットドッペルは思わず非難の声を上げた。
『俺達は、不遇な扱いを受ける存在の影にして欠片にして同一存在!
オリジナルの待遇アップの為に平行世界と大本の世界を作り変えるのが俺達の使命じゃないかっ!』
「……まぁな。
だけどな、これも悪くない気がしてきたぜ。
割と暴れるのは嫌いじゃないんでな」
『お、お前、それ本末転倒っ!!
このままだと俺達のオリジナルはイイヒトとかお友達どまりなんだぞっ!?
ソレに耐え切れるのかっ!?』
「そんなもん、耐えられなくなった時にでも考えりゃいいさ。
今はこっちが楽しそうだし、な。
お前ぶっ倒しても本体が死ぬわけでもないし」
『……こ、この馬鹿野郎ぉぉぉぉっ!?』
涙目で再度突っ込むバットドッペル。
ソレに対し、蔵王は余裕を持った動きで剣を構えつつ、パスを再びベルトに通した。
『FULL CHARGE』
その音声と共に赤い光のエネルギーが剣……可変武装クラガッシャーに収束していく。
「はっ。
馬鹿野郎は……真直線に飛んでくるお前だっ!」
『あ。』
蔵王の言葉で冷静さを失った自分に気づくが、既に時遅し。
「喰らえ……俺の必殺技、パート1っ!!」
叫んだ蔵王は大上段に構えた剣を迷いや躊躇い等を感じさせない動きで振り下ろした。
エネルギーを纏った刃は、真正面から突っ込んできたバットドッペルをものの見事に切り裂いていく……!
『のおおおおおおおおおっ!?』
一刀両断……そう形容するに相応しい一撃の直後。
バットドッペルは、一瞬だけ砂の状態に戻り爆発、四散した。
「……決まったぜ」
そう呟いた次の瞬間、変身が解除され、蔵王は陽平へと戻った。
「……な、なにがなにやら……」
体を襲う凄まじい疲労感、この状況の訳の分からなさの混乱から、陽平は地面に座り込んだ。
そんな陽平の目に、白く綺麗な手が映る。
顔を上げると、自分に向けて真っ直ぐに手を差し伸べる汐がいた。
「事情、説明します。
だから、ついてきてください」
「へ? いや、その……」
陽平が戸惑っている間に、何処からともなく『汽笛』が鳴り響く。
空間を裂いて『電車』……クラライナーが現れ、陽平達の近くで停車した。
ドアが開くのを確認し、汐は言った。
「あらゆる平行世界から侵略者が来ています。
世界の運行を守らないと」
伸ばされた手を、汐の顔を、陽平は順番に見据えた。
汐は、ぶっちゃけ美少女だった。
自分の人生において、こんな形でこんなにも綺麗な女の子と接する事が出来たのは初めてだ。
少なくとも、自分に悪い印象を持っている感じはない。
正直、この機会を逃すのは惜しい。
そして。
(……変身、したんだよな……)
あんなヒーローみたいな事は、朋也でさえやった事はないだろう。
そう。
もしかしたら『主役らしい主役』になれる時が、ようやっと自分に巡って来たのかもしれない。
だとしたら。
「……っ」
そうして、陽平は汐の手を握った。
それが長い長い『旅』の始まりになる事も知らずに。
クラライナーが発車していく。
その行先は、如何なる平行世界か。
その果ての話、物語の結末は……何時か、何処かで。
……続く?
●管理人のコメント
ども情野です。
今回電王好きが高じて、こんな物語を書いてしまいました(汗。
扱いが悪いキャラのファンの方、寛大なお心で御見逃しください。
今回試験的に一話だけ書こうという事で、律儀に第一話を書いたんですが、
単なるパロディなら別に第一話じゃなくても、
面白い所を抽出できる話を上手い事選ぶなり作るなりすればよかった事に後から気付きました(涙。
なんというかギャグが中途半端になったのが個人的に痛いです。
あとシリアス分が多少混じってしまいましたし。
うーん、まだまだ修行が足らないです。
今後続きを書く事があれば、ギャグ比重をもっと多めにしたいと個人的には思います〜
あと、ラグビー部部長についてはオリジナルです。
ご了承くださいませ。
ちなみに、続きを書く場合の現時点の各ライダー&ドッペル(イマジン)の配役を下に書いてみました。
ネタバレOKの方はこの下へとどうぞ〜
氷上シュン「君、僕に釣られてみるかい?
えいえんの世界に連れて行ってあげるよ。
……勿論嘘だけどね」
神尾晴子「ウチの強さに、アンタが泣いた。
涙はこれで……って、紙勿体無いわ。
袖で拭っとき」
イリヤスフィール・フォン・アインツベルン「貴方殺すけど、いい?
ふふ、答は聞いてないんだけどね。
やっちゃえ、イカズチ」
伊吹風子「最初に言っときます。
風子、かなり強いです」
天野美汐「風子の友達になってあげてください」
「最初に言っておきます。
最近キツイので早く帰りたいです」
はい、やっちゃってます(笑。
最初ウラタロスっぽい役は橘敬介さんだったんですが、
彼よりも似合うっぽい気がしたのでシュン君となりました。
キンタロスっぽい役はかなり難航しましたが、
方言イメージで考えたらあっさり該当しました(笑。
なんだかんだで情に厚いヒトだと思うので。
女性なのにいいのか、という問題には目を瞑ってください(ォィ。
リュウタロスっぽい役は、無邪気で残酷な子供のイメージではまりました。
あと銃使いであるキリツグさんの娘さんなんで、その繋がりで銃もありなんじゃないかと。
ちなみに、憑依時は肉体変化とか無しですが、
変身の際はソレゾレの肉体に変換してる……というのが蔵王での設定です(笑。
ゼロノスっぽい風子は、CLANNAD本編でのシナリオ展開を踏まえたものです。
設定的にはハマり役だと思うんですが、かなり強くなさそうなのが問題ですね(笑。
デネブっぽい美汐は、風子との組み合わせから考えました。
真琴シナリオでの母性がデネブっぽいと個人的には思うのですよ。
まぁあくまで個人的にですが(汗。
と、そんな感じで考えてますが、もしご意見などあればお気軽に掲示板にでもどうぞ〜