第六話 旅について、人生について
「それでバスに乗ったっての? 若いねぇ」
休憩中の食堂での世間話、その流れで僕の旅の始まりを話すと、
サラリーマンさん……水早健(みずはやたけし)さんがそう言った。
「……若いというか。網倉さんは思い切りが良すぎな時がありますよね。良い意味でも悪い意味でも」
「まぁ網倉の個性なのかもなぁ。若さが後押ししてるのは間違いないと思うけどな」
僕の隣に座る群雲君が、水早さんを肯定するようなニュアンスの言葉を呟く。
僕は丁度今日の気ままメニューであるハンバーガーセットのバーガーを齧った所だったので、慌てて飲み込んでから意見を……うぐほぉぅっ!?
「ほら、水」
慌てた為、喉に詰まらせた様子を察してか、隣に座る群雲君が彼自身の水を差し出してくれた。
流石にセット付随のコーラはこんな時に飲めやしない。
ので、ありがたく受け取って、ゴクゴク飲んで詰まったものを流していく。
そんな僕を呆れた表情で見ながら、群雲君の隣に座るオトネが言った。
「コータ、もっとおぎょーぎよく食べなよー」
「そ、そうだね」
「いや、ファーストフード食べるのにお行儀良さ求めるのは間違ってるんじゃ……いやすみません、オトネ様」
同席していたソージさんの顔が、オトネの視線を受けて引き攣る。
少し前のあの事件以来、ソージさんは微妙にオトネを怖がっていた。
やはり科学万能の時代からやってきた宇宙育ち的にオカルトは未知の恐怖対象なのだろうか。
さておき。
ようやく喉をスッキリさせた僕は、水早さんに言った。
「若い、んですか、そういうの?」
「若いだろーさ。
旅がしたい、冒険したい、自分探しがしたい。その発想が出てくる時点で若いよ。
俺のお気に入りな昔のアニメでも言ってたもんさ。
大人になっても自分探しなんかやってるのはただの暇人だってな。
事実、大人になるとそんな余裕なんかないない」
「それじゃあオッサンはどーしてバスに乗ったんだよ?」
「オッサンかどうかはともかくだ、大人になると現実うんざりする事ばっかりなんだよ。旅行位したくなる。
そのついでに賞品がいただけるかもってのなら、そりゃあ乗るだろ」
「……さっき旅がしたいってのは若い奴の発想だとか言わなかったか?」
「言ってましたね」
「言ってました」
「言ったねー」
水早さんの言葉に対するソージさんの突っ込みに、僕、群雲君、オトネが同意する。
すると、水早さんは、ハッ、と笑うような声を漏らしてから、こう答えた。
「バッカ、大人の言う旅と子供の旅は意味合いが違うんだよ」
「無茶苦茶言い出したな、このオッサン。
……それはそれとして、ついでに聞くけど、オッサンはこのレースに勝ったら何願うつもりなんだよ」
「ああ? そんなの使いきれないほどの金に決まってんだろ」
「うわダメだこの親父」
水早さんの発言に、微妙に皆表情が呆れ気味になる。僕も、まぁ、少しは。
しかし、水早さんはそんな反応を見越していたのか、特に表情を変える事無く、言った。
「まぁ、お前ら子供はそう思うんだろうな。当然の反応だ。
若い奴は夢や恋とかを金より大事にするからな。
だが、そんなお前らに大人として一つ教えておいてやる」
「夢や恋を大事にするのは間違ってる、と?」
「そうじゃないさ、網倉。むしろ、若い内はそれでいいんじゃねーの?
若い内にそういうものが本当の所はどういうものなのか、よく知る為にも追い求めておくのを俺は推奨するね。
ただ、お金ってのは、お前らが思ってるよりずっと大事なものなんだぜ」
チンチン、と水の入ったグラスを手持ち無沙汰に弾きつつ、言葉を続ける水早さん。
「お金は、あればあるだけ便利だ。少なくとも持ち過ぎて困るって事はない。
まぁ持ち過ぎるとやっかみやら置き場所には困るかもだが、そのぐらいだ。
税金払っとけばいざって時は国家権力その他に頼る事も出来る。……まぁ当てにならないときもあるが。
ま、少なくとも貨幣通貨の概念がある世界では、金で買えないものは殆どない」
「……お金で買えないモノだって、ありますよ」
「殆ど、って言ったろ、群雲? 勿論金で買えないもの、買っちゃいけないものだってあるさ。
だが買えるものだけでも人は十分幸せを……少なくとも一時的な幸せを買うには十分なのさ。
美味い酒、美味い飯、遊び道具に、遊び場所、良い女、良い男……」
「げげっ、オッサンそっちの気が……」
「俺にはねーよ。女の立場も考慮して付け加えただけだっての。
ともかく、そういう一時的な幸せを買う金が一生分あれば、そりゃあ一生幸せって事だ。
……なんだ、皆不服そうな顔してんのな」
「いえ、その……言ってる事はきっと、間違ってないと思うんですけど」
「納得しかねるってか。まぁそれが若いって事だぁな。
なんにせよ、金があるに越した事はないぜ。
金があって、初めて助けられる命もある事だしな。
……まぁ、俺は基本贅沢して暮らしたいだけだがな」
「オッサン、最後の発言と顔で台無しだぞ」
「そろそろ言わせてもらうが、オッサン言うな」
「……んー。話はよく分からなかったんだけど」
「どうかしたか? おチビちゃん」
「えとね。その、今旅をしてるオジサンは、大人なの? 子供なの?」
旅をするのは子供の発想。だけど現実逃避に大人もまた旅をする。
オトネの疑問は、その辺りの矛盾から発生したものなのだろう。
というか、オトネ的にはソレがずっと気にかかっていたのかもしれない。
そんな疑問に対し、水早さんが口を開きかけた、その瞬間だった。
「?!」
「何、この音」
「サイレン……?」
「救急車っぽい?」
唐突に、食堂備え付きの連絡用スピーカーからサイレンらしき音が鳴り響いた。
それが鳴り続ける中、ヴェルさんの声もまた聞こえてくる。
『レース参加者の皆様、至急第一操縦室にお集まりください。
ただいま一つ目の宝玉のある世界に接近中です。繰り返します。レースに参加中の皆様……』
ヴェルさんの言葉が告げる内容に、僕達は思わず顔を見合わせた。
そんな中で今一つ状況が飲み込めていないオトネは、不思議そうに首を傾げるのであった……。
僕達が旅立って、約一ヶ月の時が流れていた。
あの、オトネが風邪を引いた出来事のお陰というべきなのか、
僕達はそれなりに互いの人柄を知り、それなりに親しくなっていた。
幾つかの世界に訪れ、物資の補充をしたり、ちょっとした出来事に巻き込まれてみたりなどしたが、概ねは安全で平和な旅が続いていた。
しかし、旅の目的の一つである宝玉には中々遭遇出来ずにいた。
ヴェルさん曰く。
「このレースのミソは、
100次元空間年走るだけでもダメ、宝玉五つ全て揃えただけでもだめ、ということです。
両方こなさないと意味がない……ゴールした事にならないのです」
その宝玉の数は全部で十五個。十五個が様々な世界の過去・現在・未来にばら撒かれているらしい。
一つのチームが五個集めなければならない事を考えると、一応人数分の数はある。
だが、不測の事態などで失われたりしてしまえば、当然その分を何処かから調達しなけれればならない。
そして、誰かから奪う、という行為をこのレースでは禁じてはいない。
つまり、自分達が探さずとも他チームが手に入れた宝玉を遭遇時に全て奪ってしまえばいいという事でもある。
僕達は、そんなレースの鍵を握っている宝玉の一つ、それがある世界に、はじめて到着しようとしていた……。
「さて、どうしますか?」
そう問い掛けるのは、操縦を自動にした上で全員集合した僕達に向き合うヴェルさん。
第一操縦室に集められた面々を、着ぐるみの首をくるくる回転させながら見渡す……って凄い怖いんですが。
オトネなんか少し泣きそうになってるし。
ソレを察したのかどうなのか、僕が首の回転止めてくださいという前に回転を止めたヴェルさんは、言葉を続けていく。
「戦略としては、宝玉のある世界をあえてスルーする、という手もあります。
その分先へ進んで、他の参加者と遭遇した時に奪う……のもありですね」
「まぁ、それもありっちゃありだな。ってか個人的にはそれがいいと思う」
「右に同じく」
その意見を肯定したのは、水早さんとヘクセさん。
「馬鹿正直に探し回って時間ロスするより、見つけた奴から奪うのが手っ取り早いだろ」
「そうねぇ。
100次元空間年がどのくらいの走行距離や時間でクリアできるのかは分からないけど、
そっちもクリアしとかないといけないんなら、あんまり無駄足は踏めないわよねぇ」
「……でも、他人から奪うのは正直抵抗があります」
「僕も群雲君と同意見です」
「人のもの取ったらだめだと思うー」
「だから、僕的には今回も含めて地道に探すべきだと思います。
奪わなきゃならない時も出てくるかもしれませんが、それは出来れば最終手段で」
「改めて、全く同意見です」
群雲君の言葉に次いで言う。本当に全く同じなので、付け加える事がなかった。
「出たよ、一部の若者特有の犠牲は避けたい発言」
「……いけないんですか?」
薄く、怒気とまでは行かないが、不機嫌さは伝わってくる表情で群雲君。
出会ってから今まで多少なりとも接してきて知った、生真面目で、優しく、正義の味方志向な群雲君らしい発言だ。
「いけないとまでは言わないけどなぁ。
宝玉を失くしたり奪われたしたら、どの道奪わなきゃならないんだぞ?」
「そうねぇ。
そもそも、その世界で宝玉が誰かに拾われてたらとしたら、その誰かからも結局奪わなきゃならない。
遅いか早いかの違いじゃないかしらね?」
「まだそうなると決まったわけじゃないでしょう」
「それに、元々の所有者はこちらなんだし、ちゃんと説明すればいいんじゃないですか?」
「説明や説得が通じる相手ならね。通じなかったらどうするのかしら?」
「それは……」
「ごめんなさい、ちょっと意地悪が過ぎたわね」
クスクスと妖しくも楽しげに笑うヘクセさん。
「私は面倒臭さもあって、現状は距離を稼ぐ事を勧めるけど……
折角宝玉のある世界に初遭遇なんだし、どんな感じなのか経験を積んでおくのも悪くないんじゃない?
それに……今までの世界はちょっと立ち寄った程度だったし、そろそろ本格的に異世界を見て回りたいし。
そうよねぇ、コウタちゃん」
「そう、ですね。ええ」
冒険、とまでは行かなくても未知のものを見たいと思い、バスに乗ったのだ。それを見逃す手はない。
「どっちにするのかは皆の意見次第でいいけど、それには俺も賛成だな」
ソージさんも異世界来訪肯定派のようだ。うんうんと首を縦に振って頷いている。
「男は冒険して何ぼだろ。そうだよなぁ孔汰、紫」
「……ええ、まぁ」
「してみたいですね、はい」
「だろだろ? ……えっと、スオウは、どう思う?」
と、そこで、微妙に緊張した声音になるソージさん。
赤のない世界から来たソージさん的に、全体的赤色なスオウさんは気になる存在らしい。
思えば割合最初から凄い気にしていた。興味津々、というよりは、恋してるみたいだと思っているのだが。
そんな問い掛けにスオウさんは素っ気無く。
「冒険、してなんぼ? って、いうの、よく分からない。
ただ、どちらに行くのか、皆次第、なのは、ワタシ、も同じ」
「ですよねー?! うんうん、スオウさすが……」
「つまり、最終的に勝てれば、いい。そのために、この群れの中での、調和、大事だし」
「へぇ。貴方、思いの外冷静な判断で動いてるのね」
無視されて落ち込むソージを情けないよーと言いつつも励ますオトネ、それを横目で見つつヘクセさんは言った。
「冷静か、どうか、しらない、けど。
必要な事なら、なんだって、するわ。私の願いを、叶えるために」
「ふふふ、その熱さと冷たさを備えた目、私好みよ。
と、これで大体の意見が出揃ったわけだけど……貴方はどう思うの? まだ名前すら名乗っていない殿方」
そう言いながらそれまでとは反対の方に視線を向けるヘクセさん。
皆も自然そっちの方へと視線を動かす。
そこには座席に座ってこちらをぼんやりと眺めている、黒髪・青眼の男性。
僕を除く皆も、まだこの人とは会話をしていないらしく、そのせいもあって皆の視線は一致していた。
しかし、その視線にも何処吹く風、彼は視線を背けるだけであった。
「……解答拒否って事は勝手に決められても文句はないって事ね?」
ヘクセさんの言葉に、男性は首を一度縦に振った。
「あの、本当にそれでいいんですか?」
気になって、僕は思わず問い掛けていた。
率先して人に話しかけるのは気が進まない――それも相手があまり会話に乗り気でないなら尚更だ――が、
以前オトネの時に手助けしてもらった事もあり、このまま意見も聞かずに決めるのは気が引ける。
のだが、男性は、今度は僕の目を見据えた上で、もう一度首を縦に振った。
「二度確認したし、いいでしょ。さて……」
「総括すると、宝玉捜索に積極的なのは三名、概ね賛成一名、皆の意見に任せる派三名、反対一名ですね。
という事は、今回は宝玉を捜索する、という事でよろしいでしょうか?」
ヘクセさんの言葉を引き継ぎ、ヴェルさんが皆の意見を纏める。
「……まぁしゃあないか。これぞ民主主義の暴力よ」
「水早さん……その、すみません」
「冗談だよ。こんなん謝るこっちゃないさ、網倉。
だけど、俺達が言った事は忘れない方がいいと思うぜ」
「……はい」
そうして皆での話し合いが終わった後、僕達は一時解散。
意志力を介さない通常航行で三日後となる到着に向けて、それぞれ自由時間を過ごす事となった。
今までも何をするのかは各自の自由だったが、
意志力を推進力に変える時間はなんとなく交代制で行っていた事もあり、
それもしなくていい完全な自由時間という意味である。
その世界に長期滞在になる可能性もあるので、各々準備や覚悟を済ませておくべきだろう、という事でそうなったのである。
そうして皆が解散した後、僕と群雲君は何とはなしに休憩室で話していた。
なんだかんだで、一番会話時間が長い――親しい、と言っていいのだろうか少し不安である――事もあり、
僕と群雲君、オトネは、自然三人でいる事が多くなっている。
ちなみに、今いないオトネは探検の練習と言って一人で(群雲君と二人でついていこうとしたのだが、一人でやりたいとの事だった)何処かに行ってしまった。
まぁバスの中で危ない事はないだろうし、アンドロイドスタッフさん達もいるのだから大丈夫だろう。
「……難しいね」
「……そうだね」
缶ジュースを飲みながら二人で話すのは、水早さんやヘクセさんが言っていた事。
宝玉を手に入れるためには誰かから奪う可能性も少なくないという事だった。
「やっぱり、そういうの避けられないんだろうね」
「そうだね。
ただ、僕はある程度の競争は仕方ないと思ってるし、いざって時は奪うしかないとも思ってる。
……僕には、叶えたい願いがあるから」
「そっか」
「……こういうの、自分勝手で好きじゃないけど。それでもそれを承知で旅に出るって決めたから」
「だね。僕もそうだし」
「でも、網倉さんは、元々レースだって事知らなかったんじゃ……」
「いや、そう知ってもレース……っていうか、僕的には旅がメインだけど参加しようと思ってるんだから。
知らぬ存ぜぬってわけにはね。
僕も争いごとは好きじゃないし、奪うって行為自体日常的には縁がないから抵抗はあるよ」
「だったら、無理に捜索に参加しなくてもいいんじゃない?
網倉さんがレースの事を知らなかったって事は皆知ってるし、納得してくれるよ。
なんだったら僕が説得を手伝うし」
「ありがとう。でも、旅はするけど、レースには参加しないってのはちょっとね。
それに、皆の願い事、叶うのなら少しは手伝いたいし」
水早さんと、ソージさんと、オトネ以外の皆の願い事がなんであるのかを僕はまだ知らない。
興味は正直あるけど、そういうのは根掘り葉掘り聞くようなことじゃないと思うから。
無遠慮に聞いて嫌われたくないってのもあるけど、
それよりも皆に嫌な思いをさせたくないって事の方が理由としては大きい。
さておき。
皆の願い事がどんなのかは分からないけど、
そんなに人に迷惑を掛けるような無茶苦茶な願いではない、勝手ながら僕はそう思っている。
我ながら自分の事以外は変に楽天的でおかしいとは思うが、皆、オトネを助けてくれた人達なのだ。
だから、僕が何かしら手伝う事で皆の願いに近づけるのなら、
僕はそれを――
さしあたっては、その世界の情報その他についてヴェルさんに聞いてみたり、
ソージさんに色々な道具の製作を頼んでみたいと思っている――したい。
そして、それは『僕もまた紛れもなくレースに参加している』という事実となる。
「そうしてレースに参加しといて『奪うなんて絶対駄目!』なんていうのは違うというか筋が通らないし。
それに少なくとも同じレース参加者相手ならその事は承知の上だろうし。
さっき話してた通り、宝玉は元々こっち側のものなんだし。
だから、まぁ、よっぽど汚い手段で奪ったりしなければ、気にしなくてもいいと思うよ、うん」
「……励まして、くれてるんだよね」
「……まぁ、励まし下手なりにね。群雲君には世話になりっぱなしだし」
この旅の中、群雲君には色々助けられてきた。
知った人間がいなかったこのバスで、年が近く、文化が近く、価値観もそこそこ近い人間がいてくれてる、というのはありがたいことなのだ。
群雲君も僕に対して同じ様に思ってくれているらしく、持ちつ持たれつだから、と言ってくれた事もあった。
そんな群雲君だからこそ、少しでも力になりたいと思っていた。
まぁ、それだけって訳でもなくて……。
「そ、それに、ほら、その……と、友達だし」
そう。正直、もっと親しくなりたいと言うか、そういう気持ちもあるのだが。
最近周囲から浮いている、狭く浅い友達関係ばかり築いてきた僕的には、友達から少し進んだ関係というのは憧れである。
そんな気持ちもあって、しどろもどろ、かつ最後は消え入りそうになっていたが呟いてみる。
不安なので恐る恐る様子を窺うと、群雲君は優しく微笑んでいた。
……うわ、凄い綺麗というか、男としては嫉妬する部分なんだろうが、逆にドキドキな動悸が。
昔学校の先生に初恋してた頃を思い出す……って何考えてんだ僕は。
「ありがとう、網倉さん。……僕が友達でいいのかな?」
「いやいやいや、十分すぎるっていうか、群雲君が不安そうなのか不思議っていうか、こっちの台詞だっていうか」
「ううん。そんな事ないよ。本当にありがとう」
「こ、こちらこそ、ありがとう。
あ、あのさ、えと、話は変わるっていうか戻るっていうかだけど、宝玉って捜すの大変そうだよね」
「そうだね。バスは宝玉がある街に停車するし、捜索用の道具もあるらしいけど」
「んー。それでも街の規模によっちゃ凄い時間掛かりそうだと思うんだけど」
「確かにね。……でも、ヴェルさん言ってたよね。
宝玉は特殊な力を込めてるからすぐ分かる、って。あれ、どういう意味だったんだろう」
「言葉通りなんじゃないの? こう妖しい気配がするとか空気がピリピリとか音が鳴るとか」
「それだと周りの人達が凄い迷惑しそうだね」
「それもそうだね。ならなるべく早く見つけないとね」
僕達は知らなかった。
宝玉という存在がどういうもので、何を周囲にもたらすのかを。
この時は、深く考えもせずに、笑い合っていた……。
……続く。