・作品の前に

この作品は、AIRとCLANNADのクロスオーバー作品です。
微妙にこの両作品のシナリオネタバレがある他、
作者の偏った考え方を含んでおりますので、
原作イメージを一番とされる方、未プレイゆえにネタバレを避けたい方などは読むことをご遠慮ください。

以上の事に関する苦情などは受け付ける事ができない事をご了承の上、それでもいい、それでも読んでみたいという方のみ、下の方へとお進み下さい。

それでは、どうぞ。
















年の最後に〜A Happy New Year!!〜










「さあ、人形劇の始まりだ」
「ハジマリハジマリ」

それは、とある町のとある商店街。
ちょっとした広場の、目立たないような、かといって隅というわけでもない微妙かつ絶妙な位置にその二人はいた。

国崎往人と遠野美凪。

彼らは旅人。
手を触れずとも動く人形の芸で路銀を稼ぎ、旅を続ける……旅人だった。

なのだが……。

「くそ……今日は何時にも増して受けが悪いな」

少しばかり顔を引きつらせながら、往人は人形を動かす手を止める。
力を失った人形は、パタリと冷たいコンクリートの上に倒れた。

「そうですね……今日は、大晦日ですから」

忙しなく道を行く人々をボンヤリと眺めながら、美凪が呟く。
その唇から零れた白い息の欠片は、欠片よりも小さく散っていった。

そう。
今日は大晦日。

一年の締め括りとなる日だけあって、町を歩く人々は皆忙しげ。
こんな道端の大道芸……しかも目付きの怪しげな男が披露する……を、のんびりと観賞する暇のある人間など中々いない。

おまけに。

「うう、寒っ」
「……往人さんのギャグが?」
「誰がいつそんな事を言った。
 このやたら冷たい風に決まってるだろうが」
「……冗談です」
「ったく」

今日は、この冬一番と言えるほどの冷たい風が吹いていた。
客足……というか人々が急ぎ足なのはそのせいもあるのだろう。

「やれやれ。
 一年の締めの日がコレか。
 ……まあ、今年一年を考えるとソレも当然って気もするが」

今年一年を思い返すと、あまり良い事は無かった。

二人の旅の目的である『翼の少女』を見つける事に関しては手掛かりさえないまま。
その旅そのものにしても、芸が受けない事が多かった為おひねりをもらえず、日々の生活的に苦しい事ばかり。

正直な話……総合的に見れば、あまり良いとは言い辛い一年だった。

「今日は早めに店じまいにして、さっさと予定通りこの町を出るか。
 路銀は十分だしな」
「店ではありませんけど」
「……言葉のあやだ」

二人がいつもどおりの夫婦……最早名実共に……漫才を繰り広げていたそんな時だった。

「……やめるの?」

一体何時から其処にいたのか。
往人の前……というか、倒れたままの人形の前に小さな女の子が座り込んでいた。

「ん。誰も俺達の事なんか見てないし、金にならないからな。
 ここまでにしようと思ってた所だ」

言いながら、女の子と視線を合わせる為にしゃがみ込む往人。
その往人の眼を真っ直ぐ見据えて、女の子は言った。

「お金があればいいの?」
「まあな」
「じゃあ、これ」

女の子はそう言うと、小さなポシェットから百円玉を取り出した。
そして、その小さな手を往人に向けて伸ばす。

「これで見せてくれる?」
「……ま、いいぞ。どうせ暇だしな」

そう答え、往人がとりあえず百円を受け取ろうと、同じく手を伸ばした瞬間。

「ウチの汐になにしてやがるこの野郎っっ!!」
「はぐおぅっ??!!!!」

何処からともなく放たれた、仮面ラ○ダーばりの跳び蹴りが往人を捉え、弾き飛ばした。
あまりにも唐突だった為、まともに一撃を受けた往人は空中を舞った後、面白いほどゴロゴロと地面を転がり停止した。

「お星様みたい。……うっとり」
「う、うっとりなんぞしてないで、俺の身を案じてはくれないのか……?」
「……」
「もしかして、小さい子供から金を取ろうとした事に怒ってるのか?
 あ、あのなぁ、今のはとりあえず受け取ろうとしただけで……」

そうして往人が弁明している横では、少女と男……どうやら少女の父親らしい……が言葉を交わしていた。

「大丈夫か、汐。
 この如何にも怪しげで目付きの悪い犯罪者風味な男に何もされなかったか?」
「……ぱぱ」

自分を心配する父親に、女の子は少し怒りの篭った視線を送り付けた。

「この人、何も悪い事してないのに、どうしてこんな事したの?」
「……へ? お前、お金を盗られそうになってたんじゃ……」
「この人がお人形さんを動かすのを見てたの。
 お金を払ったら、もっと見せてくれるって言うからわたしからお金を出そうとしただけ。
 この人、無理矢理にお金とろうとなんかしてない」

娘にそう言われて、彼は往人の方に顔を向けた。
美凪への弁明を終えた(そもそも美凪は何も言ってなかったが)往人もまた、標的を追って視線を男に向けた。

自然、二人の視線が交錯する。
火花を散らすというには微妙に軽い為、なんとも微妙な沈黙が漂った。

「…………」
「…………」
「……お二人、ラブ?」
『違うっ!』

美凪のボケ発言に二人の否定ツッコミが唱和する。

「それは残念」
「何がだ、美凪」
「―――ふう。買い物も終わったし、帰るか汐」
「って、何をさも何事もなかったかのように立ち去ろうとしてやがるっ!!」
「ち、気付いたか」
「そうはいくか、この野郎っ!!
 慰謝料払え! 慰謝料ぉぉぉぉぉっ!!」

と、そこに。

「あ、あの。どうかされたんですか?」

触覚のような二つの跳ね髪を揺らす、穏やかな顔立ちの女性が息を少し切らしながらも声を掛けてきた。
彼女の手にはおそらく年始用であろう、たくさんの荷物が握られている。

「あ? 無関係の奴は……」
「無関係じゃないんです。
 私、その人の、その……妻なんです。
 そして、その子の母親ですから」
「……マジか?」

その女性の容姿が余りに幼かったがゆえに……少なくとも子持ちには見えない……往人は思わずそう呟く事しか出来なかった。










「ご、ごめんなさいっ!
 パパ……じゃなかった、朋也くんがとんでもないことをっ!!」

それから数分後。
事の次第を二人(主に冷静な美凪)から聞いた女性はペコペコと頭を下げていた。

「あ、いや。
 謝ってもらえれば、な」

そのあまりに真っ直ぐな謝りっぷりに、普段なら金を取るまで粘るであろう往人は思わずそう口にしていた。

「ごめんなさい。ぱぱがひどい事しちゃって。
 ……ぱぱ、ちゃんと謝って」
「――悪かったな」

女性の持っていた荷物を両手に受け取った(そもそも男が持っていたものらしい)男は、不満そうに言った。

「……前言撤回だ。やっぱ慰謝料払え。
 そんな謝り方で納得できるか!」
「ご、ごめんなさいっ!」
「ぐぅ……なんか頭が混乱してきた……」

夫婦のちぐはぐな対応に往人は判断に悩み、コメカミをヒクつかせる。
だが、いつまでもそうしてはいられない……状況的にも、精神衛生上の問題においても。

「美凪、どうすべきだと思う?」

そんな往人の問い掛けに、美凪は少し考えてから口を開いた。

「……往人さんが、改めて芸を見せればいいのではないかと。
 それで慰謝料多少込みなおひねりをいただければ、問題解決?」
「いや、なんで疑問形なんだ。
 ……まあ、良いアイデアではあるか。
 アンタら的にはどうだ?」
「ふん、誰が払……」
「朋也くん」
「ぱぱ」
「う。分かったよ」

不満を言いかけたものの、妻と娘に窘められた男はしぶしぶながら承諾した。
その男の様子に頷いた女性は、改めて往人達に向き直る。

「では、お金を払いますから、見せていただけますか?
 というか、しおちゃんが言うような芸なら私も是非見てみたいです」
「うん、もう一度見たい」
「……そうかそうか」

こんなに熱心に催促されるのは久方ぶり……それこそ美凪に出会った頃以来……なので、往人は悪い気がしなかった。
ので、鷹揚に頷きつつ答える。

「ふ、そこまで言うのなら見せてやろう。
 行くぞ、美凪」
「了解しました」

そうして、往人が繰る人形による舞台の幕が上がった。
彼が持つ「法術」と呼ばれる不思議な力により、手を触れずとも動き回る人形。
その人形の動きをより楽しく、印象的にするのは美凪のサポート。
途中、人形が潜り抜ける輪っかや、彼女が操る相手役の人形(こちらは糸付き)などの小道具を使う事により、往人の芸をより面白く見せる。

「これで、フィニッシュと」

最後に、フィギュアスケートばりの綺麗なポーズで舞台の幕が下りる。
直後、ポフポフ、と手袋の為にいまいち響かない拍手が親子の手から生み出された。

「すごいですっ!
 私、感動しちゃいましたっ!」
「うん、すごかった」
「ふ、そうだろう。
 これで旅をしてるんだから、当然だ。
 ……おい、そこの奴はどうだ?」
「……ち。
 ああ、認めるよ。確かに凄かった。
 あとついでに、さっきは済まなかったな」

謝罪を言うのに丁度良いタイミングだと思ったのか、男はまくし立てるように、それでいて確かな謝罪を口にした。

「ふん。分かれば良いんだよ、分かればな」

先刻には無かった確かな謝罪と、久しぶりに褒めちぎられた事でいい気になった往人はご満悦な表情を浮かべる。
だが。

「……寒っ」
「冷たい……」
「うぅ、そうですね」

一時的に止んでいた風が再び吹き荒れた結果、
往人の満足げな顔は一瞬にして消えてなくなり、一同は身を震わせた。

「ちぃ……人が折角良い気分でいたものを……これだから冬って奴は……」
「あの、何かあたたかいものでも飲みますか?」
「?」
「先ほどのお詫びという事で、何か飲み物を買ってきます。
 勿論、芸のお代とは別です」
「マジかっ!?」

女性の提案に往人の眼がキュピーンと輝く。
その、多少ギャグ系な爛々とした眼の輝きさえ真面目に受け止め、女性はシッカリ頷いて見せた。

「マジです。少し待っていただければ」
「おい、渚。
 何もそこまでしてやらんでも……」
「朋也くん、きっとコレも何かの縁です。大事にしないと」

そう言う女性の隣には、意味が分かっているのかいないのか、うんうん、と首を縦に振る娘の姿。

「……分かったよ。
 でも、ソレ飲んだらすぐに帰るからな」
 
そんな二人に押し切られてか、そもそも二人に弱いからなのか。
男は最後の悪あがきを付け加えつつその案も承諾した。

「ありがとうございます」
「ありがと、ぱぱ」
「俺は別に何もしてないだろうが」

そんな家族の会話を、細い視線で見つめている人間がいた。

「…………」
「どうかなされましたか?」
「いや……なんでもない」

見つめていた人間……往人は美凪の言葉に頭を振る。

「では、私としおちゃんで買ってきますからパパ……朋也くんとお二人はココにいてください」
「私もお供します。
 手袋をしていてもホットの飲み物を複数持つのは難儀でしょうし。
 それに、久しぶりに同性と話がしたいですし……ぽ」
「いや、何故其処で頬を染める。
 でも……まあ、そうだな。
 済まないが、迷惑じゃないならコイツも連れて行ってやってくれ」
「いいえ、迷惑なんかじゃないですよ。
 私もお話したかったですから」
「ありがとうございます。
 ……それでは、行って来ます」
 
そうして、女性三人はその場から歩き出した。
何やら仲良く話をしながら離れていく三人を見て、往人は呟いた。

「……ふん。身分不相応に幸せ者だな、お前」
「身分って、アンタ一体何様だ」
「俺様だ」
「いや、そんなベタな返しはいいから」
「ベタじゃなくて王道と言え。
 まあ、それはさておきだ。
 ……ああいう家族がいて、帰る場所があって、そうして迎える一年の締めくくりは悪いもんじゃないだろ?」
「まあ、な。
 なんだ、羨ましいのか?」

少しからかいを込めた男の言葉。
それに往人は白い溜息を吐きながら答えた。

「ああ……正直言えば、な」
「……」
「昔の俺は、そうは思わなかったんだがな」

そう言いながら往人が考えるのは美凪の事だった。
さっきの家族のやり取りの時から、往人はその事が気に掛かっていた。

自分と共に旅を続ける存在。
生涯の伴侶と言ってもいい、掛け替えの無い存在。

そんな彼女に自分は何もしてやれていない。
本来の帰るべき場所、普通の何不自由ない生活を……『家』をある意味で奪っていながら。

そう言えば、おそらく、いや確実に彼女は否定する。
自分が選んだ事だと言うし、事実その通りなのだろうと往人も納得してはいる。

だが、なればこそ。
共にいる自分が代わりになる何かを与えるべきなのだ。

それは、男として、家族として往人がそうすべきだと思っている事。

その『すべき事』を目の前の男は果たしている。
帰るべき場所を作り、普通の生活を送り、それを家族と分かち合っている。
『家』を自分達で確かに形作っている……少なくとも往人はそう感じていた。

そして、それが……往人には羨ましく思えた。

「羨ましいなら、アンタも同じようにすればいいんじゃないか?」
「……出来れば、な。
 だが、俺には目的がある。
 それを果たすまでは……そうしては、やれない。
 お前みたいにはなれないし、してやれない」

旅を続ける以上、与えられないもの、してやれない事が確かにある。
今年一年の、あまり受けない旅芸人としての自分なら尚更出来ない事だらけだ。

さっきは『これで旅をしている』と自慢げに語りはしたが、実際生活はキツイ。
自分より旅の経験が少ない美凪ならさらにキツイ筈だ。

そんな生活しかさせられない自分を、往人は改めて不甲斐なく思っていた。
目の前にいる、何処にでもいそうな男にも出来る事を出来ない自分を。

「……なら、出来る事だけでもしてやればいいだろ」

そんな往人の方を見るでもなく、ぼんやり曇り空を眺めながら、男はそう言った。

「俺だってさ。
 アンタが言うほど、あいつらに何かしてやれてるわけじゃない。
 正直、俺はあの二人がいてくれるから幸せなんだが……俺が感じてる幸せほど二人を幸せに出来てるかって言うと少し自信ないんだ」
「……」

男の言葉は。
往人自身考えている事と、全く同じだった。

性格上、滅多に口にしないし出来ないが。
往人は美凪の存在に助けられている事が確実に増えている事を感じていた。
彼女がいる事で得ている『幸せ』があるのは紛れも無い事実だと、そう思っていた。

そんな往人の思考を知る由もなく、男は言葉を続けていく。

「だから、俺は出来る事を出来る限りしてる。
 今はそれしか出来ないし、出来ない事を考えて出来る事を疎かにするわけにはいかないからな。
 ま、それで今俺達は幸せなんだから、それで良いんだろうさ。
 俺はそう思う」
「……そういうもんか」

手にした人形を見つめながら、往人は呟く。
今の自分に出来る、数少ない一つを見据えて。

「そういうもんだと思うぞ。
 ……お、帰ってきた」

呟き、男はこちらに向かって駆けて来る妻子に小さく手を振った。

「ただいま戻りました」
「ただいま、ぱぱ」
「おう、お帰り」

往人がそんな三人を眺めている間に、彼の待ち人も二人に少し遅れる形で戻ってきた。

「往人さん、ただいま戻りました」
「……」

その美凪の言葉に、往人は改めて気付かされる。

彼女が、本当に帰るべき場所。
本来の『それ』は何処なのか、往人には分からない。

だが、少なくとも。
今この瞬間の『彼女の帰るべき場所』は、自分なのだ。
今の『自分の立ち位置』が、遠野美凪の側であるように。

彼らのような家は、自分達には無い。
その代わり、二人が共にいる場所が確かに『家』なのだと、改めて気付かされた。

「往人さん?」
「ああ、その……なんだ。お帰り、美凪」

不思議そうに自分の顔を覗きこむ美凪に、往人はそう答えていた。
『お帰り』という言葉は自分らしくはない……そう往人自身思いながら。

だが、それでも。
それは言うべき言葉なのだ。
今も、そして、これからも。

「…」

その意図が伝わるはずは無い。
彼女は聡明ではあるが、心が読めるようなエスパーではないのだから。

……だが。

「ええ。確かに、ただいま、もどりました」

美凪はもう一度その言葉を告げた。
優しく、穏やかな笑顔と共に。










「じゃ、俺達はそろそろ帰る」
「ああ、俺達もそろそろ出発する頃合だ」

それから暫し経って。
ホット系のお茶やコーヒーなどを口にしながら世間話っぽい雑談を交わしていた面々は、飲み物が尽きた事でようやく腰を上げた。

「ったく、まだ掃除が残ってるのに、余計な手間を取らせやがって」
「それはこっちの台詞だ。
 お前みたいな馬鹿に引っ掛からなければまだまだ稼げたってのに」
「掃除、もう殆ど済んでましたよね?」
「もう店じまいと言ってませんでしたか?」
『うっ』

女性陣に突っ込まれて、男二人は顔を引きつらせる。
其処に少女からのトドメの一撃が突き刺さった。

「ぱぱとオジサン、似てる」
『似てないっ!!』
「……ほら、似てる」
「似てますね」
「はい、似てます」
『ぐううっ……』

苦悩する男性陣に対し、女性陣はクスクスと優しげな笑みを浮かべてさえいる。
……その光景は、誰がどう見ても明らかに、かつ見事なまでに尻に敷かれていると言えるものだった。

そんな状況を否定する為か、どうにかこうにか気を取り直し、男は言った。

「……ふん。
 今日は遠野さんとやらに免じて許してやるよ」
「俺もお前の家族に免じて見逃してやる。
 まあ、精々……」

往人は其処で少し悩むような、迷うような隙間を置いた後、こう告げた。

「……家族ともども、いい年をな」
「……ああ。そっちもな」
「遠野さん、国崎さんも良いお年を」
「良いお年を」
「はい。岡崎家の皆様も良いお年を」

そうして。
僅かな言葉を重ね、小さな縁を築きながら……彼らは別れた。










「……ったく、一年の最後の最後で変な奴らに出くわしたな」

『あの家族』と別れて数時間後。
次の街に向かう高速バスの中で、往人は呟いた。
その小さな呟きに対し、人形の解れを直していた手を休めて美凪は言った。

「……出会って良かったと私は思います」

ふと、美凪の方に視線を送る。
其処にあった彼女の微笑みはこう語っているように往人には思えた。
『貴方も、そう思っているでしょう?』と。

「……ふん」

肯定も否定もせず視線を逸らす……その先には、バスに備え付けられたデジタル時計があった。
そして、その時刻はもうすぐ零時を……来年の一月一日の訪れを示そうとしていた。

「美凪」
「なんでしょう?」
「……今年一年、どうだった?」
「……色々あって、大変な一年でした。でも……」

そこで言葉を切った美凪は、静かに往人の方に寄り添ってから言葉を繋いだ。

「一年の最後まで、貴方と共に居る事が出来ました。
 今はそれで十分です」
「……あんまり、いいもの食べてないのにか?」
「はい」
「……服も、随分ボロになってきた」
「縫い物は、得意ですから」
「そうか……」

色々と、言いたい事はあった。
謝罪や感謝、思いつくものは結構あった。
そんな中で……往人は『その言葉』を選んだ。

「……まぁ、なんだ。これからも色々迷惑掛けるとは思うが」

言いながら、美凪の手にある人形に、それを握る美凪の手に手を重ねる。

「俺に出来る事はきっちりやっていくからな。
 来年もぼちぼち頑張るか……一緒に」
「……はい。頑張りましょう。一緒に」









積み重ねた一年がどうであれ。
過ごした場所が何処であれ。

一年のオワリは皆同じ。
そして、一年のハジマリもまた、同じ。

過ぎ行く年にお疲れ様を。
そして迎える年に宜しくを。










「まぁ、とりあえず。
 あけましておめでとう、美凪」
「あけまして、おめでとうございます」

デジタル表示が零時を差した時。
二人はそう言って、軽く頭を下げ合った。











そうして……また。
新たな、一年がはじまる。










……END